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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術37巻11号

2009年10月発行

雑誌目次

病気のはなし

EBウイルス関連の悪性リンパ腫

著者: 島津浩 ,   大田泰徳

ページ範囲:P.1268 - P.1273

サマリー

 エプスタイン・バーウイルス(Epstein-Barr virus,EBV)は,わが国において成人のほぼ100%に感染しているウイルスである.通常はB細胞に潜伏感染しているが,活性化してくるとB細胞を不死化して増殖し,悪性リンパ腫を引き起こす.さまざまなリンパ腫が発症するが,大きく分けて免疫抑制状態に関与するものとしないものがあり,医療の高度化や高齢化に伴って前者の重要性が増している.EBVのリンパ腫への関与についての直接的な証明は病理切片上におけるEBER(EBV encoded RNA)の施行が一般的である.臨床的には進行の早いものも多く,迅速な診断・治療が望まれる疾患である.

技術講座 病理

―シリーズ:穿刺細胞診の手技と読み方―1.総論

著者: 川本雅司 ,   原田大 ,   土屋眞一

ページ範囲:P.1275 - P.1279

新しい知見

 細胞診材料を用いた遺伝子検索:細胞診は形態観察だけでなく,免疫細胞化学手法による抗原発現検索,フローサイトメトリー,さらにはFISH(fluorescence in situ hybridization)などに応用可能である.また,分子標的治療薬の選択などのために,遺伝子変異の有無を通して抗癌剤の感受性を検査することも可能である.このような際に穿刺吸引細胞診材料は,腫瘍細胞を生きたまま的確,低侵襲に採取できる点で優れている.

肺における大細胞神経内分泌癌(LCNEC)の細胞診

著者: 森谷純 ,   松野吉宏

ページ範囲:P.1285 - P.1289

新しい知見

 1999年に世界保健機関(World Health Organization,WHO)の肺癌組織分類が改訂され,肺神経内分泌腫瘍は4組織型(定型カルチノイド,非定型カルチノイド,大細胞神経内分泌癌,小細胞癌)に分類された.従来の肺原発生神経内分泌腫瘍は,三つのカテゴリー(定型カルチノイド,非定型カルチノイド,小細胞癌)に分類されていたが,大細胞神経内分泌癌が加わったことにより,特徴ある大細胞神経内分泌癌の認知,適切な細胞診断の確立が求められるようになった.

生化学

―ホルモンの測定シリーズ・7 甲状腺・副甲状腺系:5―カルチトニン(CT),副甲状腺ホルモン(PTH)

著者: 福本誠二

ページ範囲:P.1281 - P.1284

新しい知見

 副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone,PTH)は,84個のアミノ酸からなるペプチドである.生物活性をもつホルモンは,この全長PTHであると考えられている.一方,従来頻用されてきたintact PTHアッセイは,全長PTHに加え,PTHのN端数個のアミノ酸を欠く不活性なペプチドも測り込むことが明らかにされた.このため,全長PTHのみを測定するアッセイが開発された.PTHの絶対値は測定法により異なるため,その評価に当たっては測定法の確認が必要である.

疾患と検査値の推移

脂質異常症における薬物の選択と検査値の推移

著者: 山下静也

ページ範囲:P.1290 - P.1301

はじめに

 近年,粥状動脈硬化を基盤とする心血管疾患は世界的規模で死因のトップを占めるようになっており,粥状動脈硬化の予防と治療は重要な課題である.欧米に比し冠動脈疾患が少ないわが国においても,食生活やライフスタイルの変化により,脂質異常症(高脂血症),糖尿病などの患者が増加しており,その結果生じる冠動脈疾患も問題となっている.

 脂質異常症のなかでも特に高低比重リポ蛋白コレステロール(low density lipoprotein cholesterol,LDL-C)血症は,多くの疫学調査の結果から,冠動脈疾患の強い危険因子であることが確立している.高LDL-C血症に対して,ヒドロキシメチルグルタリルCoA(hydroxymethylglutaryl-CoA,HMG-CoA)還元酵素阻害薬(スタチン)を中心とした薬物治療が広く行われ,LDL-C低下によって冠動脈硬化の発症や進展が抑制されたという一次予防・二次予防の大規模試験の成績が国内外で数多く得られてきた.一方,高トリグリセリド(triglyceride,TG)血症に関しては,1,000mg/dl以上の著しい高TG血症では膵炎のリスクが増加するが,最近では高TG血症も冠動脈疾患のリスクになることが明らかになり,高TG血症に対するフィブラート系薬剤の投与によって,心血管イベントの発症が抑制されたという成績も得られてきている.

 しかし,脂質異常症の治療に際しては,動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」の脂質管理目標値になかなか到達できない場合も多く,スタチン,フィブラート系薬剤以外の薬剤の使用も必要となる.脂質異常症治療薬にはそれぞれ特長があり,作用機序も異なっている.本稿では各種の脂質異常症治療薬について,作用機序・使い方・検査値の変動などを紹介する.

オピニオン

震災と深部静脈血栓症

著者: 大場教子

ページ範囲:P.1274 - P.1274

 2004年10月に発生した新潟中越地震では,肺塞栓血栓症で3人が死亡しており,新潟大学医学部呼吸循環外科の榛沢和彦先生らは車中泊避難者の約30%に下腿静脈血栓を認めたことを報告した.その後の活動に,金沢大学附属病院検査部も参加した.

 2007年3月25日,午前9時42分に能登半島で地震が発生した.

目指せ!一般検査の精度向上

―尿沈渣検査の精度向上:6―尿沈渣成分の鑑別―円柱類

著者: 田中佳

ページ範囲:P.1304 - P.1308

はじめに

 円柱は尿沈渣検査に特有の成分であり腎疾患に対する臨床的意義が高い.近年,尿中有形成分分析装置の性能が向上してきているが,円柱の鑑別能力に関してはいまだ限界がある.現段階では,顕微鏡による技術者の目が唯一の最終鑑別手段である.

 表に日本臨床検査標準協議会(Japanese Committee for Clinical Laboratory Standards,JCCLS)の尿沈渣検査の円柱分類基準(JCCLS GP1-3)1)を示す.尿沈渣においても検査の標準化は重要であり,各施設が統一化された基準に従って分類する必要がある.そのうえでさらなる精度向上を目指すためには,鑑別技術の習得だけでなく,円柱の成因と臨床的意義を理解して鏡検することが有用である.

今月の表紙

乳腺線維腺腫

著者: 森谷卓也 ,   中島一毅

ページ範囲:P.1280 - P.1280

【症例の概要】

 30歳代前半女性.5年前,右乳房外側(9時方向)にしこりを自覚し来院.触診では比較的硬く可動性良好な腫瘤を認めた.超音波では境界明瞭で分葉状を呈する低エコー域があり,ガイド下で穿刺吸引細胞診が施行された.良性の判断のもと経過観察となったが,しこりの増大も退縮もなく気になるために,摘出を希望し再来院して,腫瘤摘出術が行われた.腫瘍は長径3cm・充実性で,病理組織診断は線維腺腫(管内型)であった.

ラボクイズ

寄生虫

著者: 升秀夫

ページ範囲:P.1302 - P.1302

9月号の解答と解説

著者: 永沢善三

ページ範囲:P.1303 - P.1303

Laboratory Practice 〈血液〉

多発性骨髄腫に対するサリドマイド療法

著者: 寺田秀夫

ページ範囲:P.1309 - P.1315

多発性骨髄腫(MM)とは?

 多発性骨髄腫(multiple myeloma,MM)はBリンパ球系の最終分化細胞である形質細胞が腫瘍性に増殖した疾患で,好発年齢は65~70歳であり,40歳以下は2%以下といわれる.

 骨髄腫細胞は形態学的にも,また表面抗原発現の点からも種々の細胞集団であり,また産生されるM蛋白ならびに骨髄腫細胞と骨髄間質細胞の相互作用により生ずる種々のサイトカイン・ケモカインにより腫瘍病変以外に多くの病態が含まれ,多彩な臨床症状を呈する点が他の悪性腫瘍と非常に異なる事実であり,治療には慎重な選択を要する.

〈診療支援〉

―臨床検査にITを活用する・3―ホームページによる輸血業務の推進

著者: 疋田宏美 ,   曽根伸治 ,   津野寛和 ,   髙橋孝喜

ページ範囲:P.1316 - P.1321

はじめに

 2007年末時点で過去1年間にインターネットを利用したことのある人は推計で8,811万人,人口普及率は69.0%に達している.企業においては約6割が2人に1台以上の情報網に接続した端末を配備している1).このようにIT化が進むなかで,医療の現場においても施設内ネットワーク(イントラネット)やインターネット接続の整備は一般的になり,職員にとっても患者にとっても利便性や医療安全の向上に役立っている.

 本稿ではネットワーク環境を利用したホームページによる輸血情報の提供と業務推進について紹介する.なお本来“ホームページ”という単語はウェブブラウザを起動したとき最初に表示されるページを意味するが,ここでは一般的に普及している意(=ウェブサイト)で用いている.

〈生理〉

生理機能検査におけるピットフォール

著者: 石崎一穂

ページ範囲:P.1322 - P.1324

はじめに

 生理機能検査においても,さまざまなピットフォールが存在する.われわれ検者がピットフォールに落ちると,大怪我をするのは被検者であることを自覚しなければならない.今回,ピットフォールの原因とその回避方法について事例を提示し解説する.

〈生化学〉

糖尿病の病態に応じた血糖コントロールマーカーの選択―血清グリコアルブミン測定が有用な病態について

著者: 古賀正史

ページ範囲:P.1325 - P.1329

はじめに

 主な血糖コントロールマーカーとしてグリコヘモグロビン(HbA1C)および血清グリコアルブミン(GA)がある.HbA1Cは過去1~2か月間の血糖状態を反映するが,急速な血糖変化する病態や貧血・異常ヘモグロビンなどの疾患では必ずしも実際の血糖コントロール状態を反映しない.一方,血清GAは急激な血糖変動を反映し,ヘモグロビン(Hb)の代謝異常の影響を受けないが,アルブミン代謝異常の際は異常値を示す.今回,病態に応じた血糖コントロール指標の使い分けについて,血清GA測定が有用な疾患・病態を中心に概説したい.

MDA-LDLの測定法

著者: 伊藤雅子 ,   駒形美穂 ,   草野達郎 ,   鈴木由紀子 ,   小谷一夫

ページ範囲:P.1330 - P.1332

はじめに

 平成19年度国民健康・栄養調査では,糖尿病が強く疑われる人と糖尿病の可能性が否定できない人の合計は推定2,210万人と報告されている.糖尿病にはさまざまな合併症があるが,その原因となる動脈硬化は比較的早期に起こり,直接命にかかわる脳梗塞や心筋梗塞のリスクを高める.

 動脈硬化性疾患の原因の一つとして,酸化された低密度リポ蛋白質(low-density lipoprotein,LDL)が中心的な役割を果たすことが明らかになった.酸化LDLは,不飽和脂肪酸が酸化を受けて生じる多彩な物質の総称であり,代表的な脂質過酸化産物であるマロンジアルデヒド(malondialdehyde,MDA)によりアポBが修飾されたLDL(MDA-LDL)は,動脈硬化の形成と進展に深いかかわりを持つことが報告されている1).このMDA-LDLは,冠動脈疾患既往歴のある糖尿病患者における冠動脈疾患の予後予測マーカーとして有用であり,2008年6月に保険適用された.

 本稿では血清中MDA-LDLの測定キット,酸化LDLエライザ「第一」(積水メディカル)の基礎性能検討について報告する.

臨床医からの質問に答える

「癌治療におけるpharmacogenetics」の具体例を教えて下さい

著者: 日野田裕治

ページ範囲:P.1336 - P.1338

はじめに

 2008年の臨床検査医学会で「癌治療におけるpharmacogenetics」という教育講演をさせていただいたのですが,このときに“癌”という字を使ったのは上皮性悪性腫瘍に絞った内容を意図したのが理由です.悪性腫瘍には上皮性と非上皮性(肉腫,白血病)があり,癌というと前者を意味します.広い意味で“がん”とかな表記されてきましたが,漢字とひらがなで意味が異なるというのもわかりにくいので,全体を意味するときには悪性腫瘍と呼ぶほうが適切と思われます.最近ではがんの治療薬も抗がん剤ではなく“抗悪性腫瘍薬”と呼ばれるようになっています.

 一方,“pharmacogenetics”というのは薬理遺伝学のことで,薬物代謝や薬物に対する生体反応における遺伝的素因の役割を研究する学問です.よく目・耳にする“pharmacogenomics”というのは近年のゲノムワイド研究のニュアンスが加わった新しい用語です.これらの定義については次のURLを参照してください(http://www.pmda.go.jp/ich/e/e15 08 01 09.pdf).

臨床検査関連学会・研究会の紹介

日本臨床薬理学会―日本臨床薬理学会と治験コーディネーター

著者: 乙部恵美子 ,   渡邉裕司

ページ範囲:P.1333 - P.1335

はじめに

 多様化する医療現場において,医療にかかわる形態も多岐にわたってきている.臨床検査技師も検査室での検査・測定業務にとどまらず,近年では,多くの臨床検査業務以外の分野に進出している.さらにその分野の認定資格を取得し,スペシャリストを目指す人が増加しつつある.そうしたスペシャリストのひとつに「治験コーディネーター〔臨床研究コーディネーター,clinical research coordinator(CRC)〕」がある.筆者の一人は,日本臨床薬理学会に所属する臨床検査技師であり,現在は大学病院の臨床研究管理センターにCRCとして勤務している.本稿では,臨床検査技師の立場から,CRCの役割や日本臨床薬理学会の活動について紹介したい.

トピックス

イムノカード®マイコプラズマ抗体

著者: 青柳佳樹

ページ範囲:P.1339 - P.1340

はじめに

 マイコプラズマ肺炎はMycoplasma pneumoniaeが引き起こす気道感染症であり,市中肺炎の原因菌として有名である.重症化することは稀であるが,小児も含めて若年者に発症が多く,発熱や頑固な咳嗽といわれる強い咳嗽が長期に続くことがある.

白血病とNotch

著者: 東田修二

ページ範囲:P.1340 - P.1342

はじめに

 近年,白血病細胞の増殖にNotchシグナルの活性化が関与していることがわかってきた.NOTCH1の遺伝子異常は,今後,臨床検査として取り入れられる可能性がある.また,Notch阻害剤は白血病に対する新たな分子標的療法薬として期待されている.臨床検査,特に血液検査や遺伝子検査にかかわる者は,白血病とNotchの関連について知っておくことは有用であると思われるので,最近の知見を概説する.

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あとがき

著者: 伊瀬恵子

ページ範囲:P.1346 - P.1346

 わが国においても,新型インフルエンザが大流行して死者も出てしまいました.9月が流行のピークといわれていますが,本誌がお手元に届くころには少し収束しているでしょうか? われわれの病院でも職員はマスクに手洗いを徹底しています.「医療関係者や子ども,高齢者には優先的に新型インフルエンザのワクチン接種を」といわれていますが政権が代わりどうなることでしょうか? 季節性インフルエンザの流行時期に重なったら大変です.読者の皆様どうぞご自愛ください.

 今月号の“技術講座”は,ホルモンの測定シリーズの第7回として「カルチトニン,副甲状腺ホルモン」を取り上げております.また,新シリーズ“穿刺細胞診の手技と読み方”が始まりました.尿沈渣検査における細胞は,非侵襲性に取れますが,通常ははく離細胞であるために変性がつきものです.一方,穿刺吸引された細胞は腫瘍細胞を生きたまま的確に採取できるため診断意義が高いと言えます.今後の内容が楽しみです.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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