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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術37巻12号

2009年11月発行

雑誌目次

病気のはなし

レストレスレッグス症候群

著者: 平田幸一 ,   岩波正興 ,   鈴木圭輔 ,   宮本智之

ページ範囲:P.1352 - P.1356

サマリー

 レストレスレッグス症候群(restless legs syndrome,RLS)は,下肢をどうしても動かしたい(ムズムズする,虫がはう)といった不快な感覚症状があり,じっとしていると症状が悪化するため,それを消そうとして足を動かす,歩き回るといった症状を呈する疾患である.症状には日内変動があり,夕方から夜に増悪する特徴をもつ.特発性のもののほか2次性のものがある.鉄やフェリチンの測定や,検査による2次性のものとの鑑別が重要である.RLSの診断基準については,そのよりよいあり方を求めて多くの検討がなされてきているが,2005年に国際睡眠学会分類第2版(ICSD-2)が発表され,小児を含めた診断基準の確立が行われた.

技術講座 病理

―シリーズ:穿刺細胞診の手技と読み方―2.乳腺細胞診断自動スコアリングシステム

著者: 北村隆司 ,   土屋眞一

ページ範囲:P.1357 - P.1364

新しい知見

 乳腺穿刺細胞診は手技の簡便さ,迅速性,低価格などの理由から,腫瘤形成性病変の病理学的検査法の一つとして汎用されている.その診断は細胞異型や構造異型,背景などを総合して判定されるが,これらの評価基準は個々の診断者で異なる.このため,結果に個人差や施設・地域間格差が生じてくることは否定できない.また,形態学的診断は経験に左右されやすく,より多くの乳癌症例を経験できる施設では,異型に乏しい乳癌を正確に診断することは比較的容易である.しかし,年間を通じてあまり症例を経験できない施設では,良・悪性診断に困難を覚えることがあり,ひいては“鑑別困難”の判定区分が多くなってくる.さらに,多数の症例を経験できる施設にあっても,検体の急激な増加に伴って,常に一定の基準で判定できるかの問題が提起されている.この改善のためには,診断上での必要な所見を限りなく網羅し,その標準的スコア化の設定が急務と考える.われわれは乳腺穿刺細胞診の診断基準から,おおよそ40項目をピックアップし,所見の“有無”および“程度”などに応じてあらかじめ設定したスコア値(悪性:加点,良性:減点方式)を付け,アプリケーションソフトを用いて総合的に集積し判定を行う“乳腺細胞診断自動スコアリングシステム”を考案した.本システムは検者を取り巻く環境に左右されることなく,不変的かつ再現性ある診断が構築でき,加えて細胞診の教育・啓蒙の普及や地域・施設間格差を減少させる利点がある.近年,乳腺細胞診にかかわる医療係争が急増している.“正確な診断は的確な治療の第1歩である”という医療側の願い,さらには患者側の利益に少しでも貢献できれば幸甚である.

生化学

―ホルモンの測定シリーズ・8 副腎系:1―副腎皮質刺激ホルモン(ACTH),迅速ACTH試験,コルチゾール,尿中遊離コルチゾール,デキサメサゾン抑制試験

著者: 小田桐恵美

ページ範囲:P.1365 - P.1370

新しい知見

 多くのホルモンは免疫化学的測定法(immunoassay;イムノアッセイ)により測定されている.約50年前,IRI(immunoreactive insulin)のラジオイムノアッセイ(radioimmunoassay,RIA)によりホルモンのイムノアッセイはスタートした.現在ほぼ90%がnon-RIにより測定され迅速,大量検体処理が可能となっている.しかしながら,ホルモンは使用しているキットにより測定値が異なり値の共有化ができないことが長年指摘されてきた.サブクリニカルクッシング症候群の診断基準にコルチゾール値の判定が必須であるが,コルチゾールのキット間差が診断不能の症例を多く生み出し問題となっている.ここ数年,産業技術研究所と日本臨床検査標準協議会(Japan Committee for Clinical Laboratory Standards,JCCLS)との産学共同で多くのホルモン測定の標準化が検討されてきた.コルチゾール測定の標準化も実資料系で検討が進められており,ほぼ最終段階に入っている.今後,標準化されたコルチゾールキットの供給が待たれる.

遺伝子

染色体検査―fluorescence in situ hybridization(FISH)法の有用性

著者: 松田和之 ,   日高恵以子 ,   本田孝行

ページ範囲:P.1371 - P.1377

新しい知見

 染色体検査は血液疾患の診断や再発時に必須の検査である.診断時は,染色体の形態観察を行う分染法を用い,再発時は,主に特異的染色体異常を標的とした蛍光in situハイブリダイゼーション(fluorescence in situ hybridization,FISH)法を用いて解析を行う.FISH法は,分裂期細胞のみでなく間期核細胞での観察が可能な高感度かつ定量的な解析方法であり,血液塗抹標本を用いた細胞形態と併せた染色体異常の解析や異性間移植後の生着に使用されている.また,パラフィン標本を用いたHER2-FISH法によるHER2シグナルの増幅は,分子標的薬の適用の基準の一つになっている.

疾患と検査値の推移

バセドウ病におけるTSHレセプター抗体

著者: 日高洋

ページ範囲:P.1378 - P.1383

はじめに

 甲状腺ホルモンが上昇し,頻脈,体重減少,手指振戦,発汗増加などの症状を示す甲状腺中毒症には,甲状腺ホルモンが過剰に産生されて起こる場合(甲状腺機能亢進症)と,甲状腺の炎症により甲状腺内に蓄えられていた甲状腺ホルモンが一時的に血中に流れ出す場合(破壊性甲状腺中毒症)がある.甲状腺中毒症で最も頻度が高いバセドウ病(約80%)は甲状腺機能亢進症であり,次いで多い無痛性甲状腺炎(約10%)は破壊性甲状腺中毒症である.ともに甲状腺部に痛みを伴わないなど臨床症状は似ているが治療が異なるので,両疾患を鑑別することが重要である.

 バセドウ病は甲状腺刺激ホルモン(thyroid-stimulating hormone,TSH)レセプター(受容体)に対する自己抗体(TSHレセプター抗体:TSH receptor antibody,TRAb)によって甲状腺が過剰刺激され,甲状腺中毒症が発生する疾患である.したがって,鑑別診断のために最初に行うべき検査は,TSHレセプター抗体である.

オピニオン

これからの臨床検査技師のあるべき姿

著者: 斉藤邦明

ページ範囲:P.1389 - P.1389

はじめに

 私は今までの教育,研究,留学および検査部マネージメント経験からみた将来の臨床検査技師のあるべき姿について京都大学大学院医学研究科人間健康科学系医療検査展開学講座の研究室を最近オープンさせたばかりではあるが,本稿で率直に述べさせていただく.

目指せ!一般検査の精度向上

―尿沈渣検査の精度向上:7―尿沈渣成分の鑑別―結晶・塩類

著者: 太田惣

ページ範囲:P.1384 - P.1388

はじめに

 尿中にみられる結晶・塩類は,摂取した飲食物や塩類代謝の影響により健常人でもみられる通常結晶と病的状態を反映している異常結晶および服用・投与された薬物に由来する薬物結晶がある.

 尿は身体の恒常性を保つために生成されている代謝産物であり,結晶・塩類の多くは腎臓で濾過された成分(代謝産物)が尿路系や排尿後に採尿容器内で析出したものである.結晶・塩類の析出には尿中成分の溶解度・含有濃度,pH,温度,各種共存物質など種々の因子が関与している.これら一連の作用により形成された結晶・塩類は,尿pHにより出現する種類もおおよそ限られ,それぞれ特有の形態的特徴を示すことから尿沈渣検査では鑑別することが可能な場合が多い.しかしながら類似成分においては,酸やアルカリ溶液などによる溶解性を確認するなどの化学的性状を把握することも必要である.

今月の表紙

脂肪化が目立つ肝細胞癌

著者: 鈴木由美 ,   高平雅和 ,   手島伸一

ページ範囲:P.1394 - P.1394

【症例の概要】

 50歳代男性.高血圧,糖尿病で通院中に右季肋部痛を自覚し,腹部超音波でS5に肝細胞癌を指摘される.S5亜区域切除を行ったところ,8×7×5cmの高分化肝細胞癌であった.

ラボクイズ

感染・免疫

著者: 内藤勝人

ページ範囲:P.1390 - P.1390

10月号の解答と解説

著者: 升秀夫

ページ範囲:P.1391 - P.1391

ワンポイントアドバイス

αサラセミアの1例―鉄欠乏のない,小球性低色素性貧血に遭遇したら

著者: 手塚俊介 ,   阪野佐知子 ,   佐藤紀之 ,   柳澤賢司 ,   吉田和浩 ,   原田正一 ,   竹迫直樹

ページ範囲:P.1392 - P.1393

はじめに

 サラセミアは,ヘモグロビン(hemoglobin,Hb)を構成するグロビン鎖の合成が減少あるいは欠損することにより小球性低色素性貧血を呈する疾患である.Hbの合成には,4種のグロビン遺伝子対が関与し,α鎖,β鎖,γ鎖およびδ鎖グロビンを合成する.それぞれのグロビン鎖は二量体を形成し,他のグロビン二量体と会合して四量体となり,特異なHb分子を形成する.成人の血液中のHb組成は,HbA(α2β2)が全Hbの約97%を占め,HbA2(α2δ2)が約2%を,HbF(α2γ2)が約1%である.これらグロビン鎖の一つが合成抑制を起こすとサラセミアとなる.合成抑制を受けたグロビン鎖(α,β,γ,あるいはδ鎖)によってサラセミアは分類される.

臨床医からの質問に答える

予防接種の副反応

著者: 伊藤浩明

ページ範囲:P.1395 - P.1398

■予防接種の種類と位置づけ

 予防接種は,感染症から個人を守るばかりでなく,地域,国,あるいは全世界規模の感染症流行予防・撲滅戦略を担っている.そのため予防接種は国の政策として,予防接種法に基づいて実施される.接種者は居住地の地方自治体(市町村)で,保健所や保健センターで集団接種される場合と,委託を受けた医療機関が個別接種する場合がある(図1).

 一方,個人が感染症を予防するための任意予防接種もある.インフルエンザ予防接種は,65歳以上の老人に対しては予防接種法に基づく定期接種,小児を含むそれ以下の年齢では任意接種である.

 予防接種による健康被害は,定期接種では予防接種法に定められた“副反応”,任意接種では薬事法に基づき“副作用”と呼ばれ,重篤な場合にはそれぞれの法に従った救済制度が用意されている.

Laboratory Practice 〈病理〉

病理標本でのギムザ染色のコツ

著者: 中村厚志

ページ範囲:P.1400 - P.1405

はじめに

 血液検査で“普通染色”と称されているギムザ(Giemsa)染色は,末梢血液や骨髄液標本での血液細胞の観察・鑑別のための染色として従来から広く用いられている.また,細胞診検査では体腔液や尿などの液状検体,穿刺吸引細胞診材料の塗抹標本観察でのギムザ染色の有用性は誰もが認めるところである.

 病理組織標本でも骨髄やリンパ節などの造血組織での細胞形態観察にギムザ染色が重宝されている.しかし,均一な薄切標本作製技術,染色標本のコントラスト,核内構造および細胞質の色合い,赤血球の色調,細胞質内顆粒の染色性などに注意が必要で安定した染色性が得られないことがある(図1).

 そこで病理標本でのギムザ染色の留意点を述べ,安定性のある染色標本作製に迫る.また,当院で行っている骨髄液標本作製の紹介をする.

免疫染色コントロールサーベイ

著者: 迫欣二 ,   滝野寿

ページ範囲:P.1416 - P.1417

はじめに

 病理組織検査における免疫学染色の果たす役割は,これまでのヘマトキシリン・エオジン(hema-toxylin-eosin,HE)診断の補助的役割から,疾病の質的診断や治療法の選択,さらには分子標的治療薬の適否の決定などその重要性を増しており,免疫染色の精度管理および標準化が急務となっている.しかし,わが国唯一全国規模で実施される日本臨床衛生検査技師会(日臨技)の精度管理調査では免疫染色の調査は実施されておらず,実情それらの精度管理は,都道府県の技師会レベルでの調査あるいは個々の施設による内部精度管理に任されており,十分な精度管理が行われているとは言い難い.また免疫染色検査実施施設を対象としたアンケート調査では,各施設で検査手法が独自に改良されているケースが目立ち,このことが施設間差を生む大きな一因とも考えられている.他の臨床検査とは異なり,免疫染色検査では標準物質による精度管理が困難で,現行の精度管理方法では,この施設間差を抑えることは容易ではない状況にある.一方で,フルオートの自動免疫染色装置が開発されたり,反応性の高いポリマー系の発色キットの開発,感度の高い一次抗体の発展等々,免疫染色の標準化に向けた環境はほぼ整っており,早急な精度管理方法の確立が望まれる.

〈診療支援〉

出現実績ゾーン法による異常値チェック

著者: 千葉正志

ページ範囲:P.1406 - P.1411

はじめに

 日常検査で偶発的に発生する検査過誤の検出には個別結果検証が多く利用される.その方法は1974年にNosanchukら1)が提唱したデルタ・チェックに始まり,異常値管理,項目間相関管理,前回値管理1~5)など多くの方法が報告されている.出現実績ゾーン法6~16)もこの一方法であり,大量の母集団から管理基準を設定し,熟練者の判断に近づけた個別結果検証法である.

〈生化学〉

子宮頸癌とHPVジェノタイピング

著者: 水沼眞紀子 ,   渡邊佳代子 ,   三宅一義

ページ範囲:P.1412 - P.1415

はじめに

 子宮頸癌は定期的な検診(子宮頸部細胞診)の実施でほぼ100%予防可能な“がん”であることがわかってきているが,近年の日本では検診受診率の低迷により若年層における子宮頸癌罹患率の増加傾向がみられ,社会的な問題となっている.

 子宮頸癌は,ヒトパピローマウイルス(human papilloma virus,HPV)感染によって起こることがHarald zur Hausen(ハラルド・ツア・ハウゼン)博士らによって解明された.1980年以降の分子生物学の急速な発展によって,HPVジェノタイピングの解析が可能となり,子宮頸癌とHPVの関連性についてより明確な知見が得られ,1990年代にはHPVワクチンの開発へと進展した.ハウゼン博士はHPV検査やHPVワクチンの開発への多大なる貢献が認められ,2008年ノーベル生理医学賞受賞に至った.

 本稿ではロシュ・モレキュラー・ダイアグノスティックス社が開発したアンプリコアリニアアレイHPVジェノタイピングキットを中心にHPVジェノタイピングの検出方法について解説する.

臨床検査関連学会・研究会の紹介

日本臨床微生物学会

著者: 奥住捷子

ページ範囲:P.1418 - P.1420

はじめに――もう20年・否まだ20年の歩み

 日本臨床微生物学会1)は,2009年1月30日に仙台で創立20周年記念の会を開催した.大変若い学会であると同時に,設立当初の評議員構成数は医師と臨床検査技師が同数であったことが特筆できる.また医師会員は,検査部の教官だけでなく感染症専門医や基礎の微生物学講座の教官が占め,評議員のなかには企業関係者もおり,検査診断薬や製薬企業の研究開発担当の方など多士済々であった.20周年記念事業の一つである記念誌が生方公子,山中喜代治の両氏によって編纂出版され会員に配布されている.この記念誌2)は,日本臨床微生物学会の変遷の資料集として興味深い.

トピックス

病態と尿沈渣所見の因果解析

著者: 山西八郎

ページ範囲:P.1421 - P.1423

はじめに

 Aという原因が基となってBという結果が生じるとき,「AとBの間には因果関係がある」と表現することができる.例えば,年齢と最高血圧の間には,加齢による生理的な動脈硬化が原因となって最高血圧が上昇するという因果関係がある(図1).また,日本人男性サラリーマンを対象とすると,年齢と年収の間にも因果関係が存在している.現在ではこの関係は弱くはなってきているが,基本的にわが国は年功序列社会であるために,年齢が増せば給料も上がるという賃金体系に起因している.

 ここで因果関係を考えるときに大切なことは,何を原因とし何を結果とするのか,つまり因果の方向に妥当性がなければならないということである.先の例で血圧が上がるから年齢も増すと考えることになんら妥当性がないことは言うまでもない.一方,同様に日本人男性サラリーマンを対象とすると,血圧が高いほど年収が多いという正の相関が存在している.しかし,これは年齢を交絡因子とした疑似相関であり,両者の相関性には実質的な意味はない.また,血圧を原因と考えること自体にもなんら妥当性はない.しかし見かけの相関性であっても“血圧”と“年収”の間には“年齢”を介した因果関係があるのは事実である.

 本稿のテーマである因果解析では疑似相関も含めた変数間の相関関係を一つの因果モデルとして仮定し,因果の方向とその強さを定量的に解釈することを目的としている.因果解析は主として社会科学の分野で活用されている多変量解析法であるが,新しい試みとしてこれを検査診断学の分野に応用することにより1,2),病態と尿沈渣所見,特に円柱の検出を説明できる因果モデルを構築した.

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あとがき

著者: 永江学

ページ範囲:P.1424 - P.1424

 本誌が皆様のお手元に届く頃には師匠が走り始め出す準備をしていることと思います.急に走り出すとアキレス腱を切ってしまうかもしれませんので.

 今月の「病気のはなし」では“レストレスレッグス症候群”が取り上げられております.昔からあった病気だそうです.20世紀中頃になってから疾患概念が確立した病気で,それまでは未病であったのでしょうか?(日本では10数年前から話題にはなっていたようですが) 検査法の開発や発達と患者さんの症状集積により未病(?)の疾患概念がこれからも見つかるかもしれません.多くの病気を知っておくことも検査にとって大事なことだと思いますので,ぜひ一読してください.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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