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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術37巻13号

2009年12月発行

雑誌目次

病気のはなし

アルコール依存症

著者: 樋口進

ページ範囲:P.1430 - P.1436

サマリー

 アルコール依存症(以下,ア症)は,強い飲酒欲求,飲酒のコントロール障害,離脱症状などの特徴をもった精神疾患である.治療の必要なア症患者はわが国に80万人,またア症の疑いは440万人程度存在すると推定されている.ア症は,肝障害,うつ病など60以上もの健康問題を引き起こしているだけでなく,飲酒運転,経済的損失などの社会問題の原因となっている.診断にはICD-10の診断ガイドラインが使用される.診断の補助として,γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-glutamyl transpeptidase,GGT)などの生化学マーカーや質問紙スクリーニングテストなどが使用されることがある.ア症は一度断酒していても,再飲酒により速やかにコントロールを逸した元の状態に戻ってしまう.そのため,治療の目標は断酒の達成と継続である.治療は専門医療機関が推奨される.

技術講座 病理

―シリーズ:穿刺細胞診の手技と読み方―3.腺腫様甲状腺腫と濾胞性腫瘍の鑑別への取り組みと液状化細胞診の検討

著者: 佐々木栄司 ,   髙橋真帆 ,   田村恵

ページ範囲:P.1437 - P.1445

新しい知見

 2004年頃から,超音波の新技術の一つとして腫瘤の硬さを画像化するエラストグラフィーが臨床現場でも応用されはじめた.この技術の開発当初からかかわっていた乳腺領域においてはその有用性についての報告が多くなされており1),現在では他領域にも応用され検討が進んでいる.乳腺は部位的に周囲に硬い組織がなく,腫瘤と周囲を含めた組織弾性測定が容易だが,甲状腺は皮膚,前頸筋群の下に甲状腺実質があることから周囲にも硬い部分が多く,エラストグラフィーでの腫瘤の性状評価は乳腺よりも難しいとされている.しかし,甲状腺結節病変に対するエラストグラフィーの臨床応用で腫瘍内部の評価をした場合,濾胞癌の典型像では腫瘍中心部よりも腫瘍内部の外縁が硬いことを示すデータが報告されている(図1)2).このことは,周囲を圧排しながら腫大増殖していく濾胞癌は,中心部よりも外縁部にいくほど細胞密度が高く硬いことを示す.細胞診で濾胞癌を診断するためには,採取された細胞集塊に濾胞構造をとる重積が著明な像を有しているほど濾胞性腫瘍を推定しやすい.また,濾胞癌の病理組織像では腫瘍内部が均一な細胞密度を有しているものばかりではなく,不均一なものも少なくない(図2).このようなことから組織のどの部分から細胞採取するかは判定を大きく左右するファクターとなる.腫瘍中心部を“ただ穿刺する”のではなく,腫瘍内部外縁付近の細胞増殖や浸潤傾向が強く,細胞密度の高い部分からの検体採取が望ましい.また,穿刺部位選定にエラストグラフィーを用いることは,細胞診の濾胞癌診断率の向上に大きく寄与するものと考える.

乳癌リンパ節転移診断への分子生物学的手法の適用―One Step Nucleic acid Amplification(OSNA)法

著者: 吉本倫子 ,   杉山透

ページ範囲:P.1453 - P.1457

新しい知見

 リンパ節への癌細胞転移の有無を調べるには病理学的手法が主流であるが,術中では時間的制約からリンパ節の一部分しか観察できない.一方,分子生物学的手法ではリンパ節全体を検索できる利点があるが,迅速性,特異性などの面から術中迅速組織診断への適応は困難と考えられてきた.そこでこれらの病理学,分子生物学的手法の問題点を克服し,術中に高い精度で転移を検出できる検査法としてOSNA(one-step nucleic acid amplification)法が開発された.2008年11月には術前検査でリンパ節転移陽性が明らかでない乳癌患者に対して,「摘出された乳癌所属リンパ節中のサイトケラチン(cytokeratin,CK)19mRNAの検出によるリンパ節転移診断の補助」を目的として保険収載が認められた.

生化学

―ホルモンの測定シリーズ・9 副腎系:2―DHEA,DHEA-S,アルドステロン

著者: 明比祐子 ,   蘆田健二 ,   柳瀬敏彦

ページ範囲:P.1447 - P.1451

新しい知見

 デヒドロエピアンドロステロン(dehydroepiandrosterone,DHEA)およびDHEA-sulfate(DHEA-S)は思春期以降の加齢に伴う漸減変動から老化指標となりうるが,同時に近年,その血中濃度と生存率の関係を検討した前向き疫学研究から,少なくとも男性においては長生き指標(高いほど長生き)としても有用であることが明らかとなった.レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(renin-angiotensin-aldosterone,RAA)系は体液,電解質調節を介した昇圧系としての意義のみならず,近年,アンジオテンシンIIならびにアルドステロンそのものによる心血管系,腎への直接的臓器障害が明らかにされている.降圧剤として,アンジオテンシン受容体拮抗薬(angiotensin receptor blocker,ARB)のみならず,選択的抗アルドステロン薬も開発され,その顕著な臓器保護効果が明らかとなってきている.また,二次性高血圧の成因として原発性アルドステロン症が,比較的高頻度であることが明らかにされ,高血圧患者のスクリーニング検査としてのアルドステロン測定の重要性が増している.

疾患と検査値の推移

花粉症

著者: 岡本美孝

ページ範囲:P.1458 - P.1462

花粉症の現状

 アレルギー性鼻炎は好発時期から通年性(perennial allergic rhinitis)と季節性(花粉症:seasonal allergic rhinitis)に大別される.最近の全国疫学調査からは,アレルギー性鼻炎の全国民の羅患率は40%近くに達している1).わが国におけるアレルギー性鼻炎の特徴はスギ花粉症の占める割合が高く,かつ患者数の増加が目立つことである2).前述の報告ではスギの植生がほとんどみられない北海道や沖縄の調査を含めても全国民の罹患率は26%を超え,10年前と比較して10%以上の増加がみられるとされている1,3)

オピニオン

メタボ対策―栄養と運動の組合せ

著者: 岡村浩嗣

ページ範囲:P.1446 - P.1446

 メタボは食べ過ぎか運動不足,あるいはその両方でエネルギー収支が正の状態が続いて太ったことが主な原因である,日本人の平均エネルギー摂取量は,1970年代前半の約2,200kcal/日をピークとして現在は1,900kcal/日ほどである.このため,太った人が増えているのは,体を動かすことが減ったためだろうと考えられている.

 “Energy density”は“エネルギー密度”と訳せるが,わが国ではほとんど耳にしない.食べ物の重量当たりのエネルギー量のことである.果物はエネルギー密度が低くケーキは高い.食品成分表によると,ミカンとショートケーキはどちらも重量は90gだが,エネルギーは前者が31kcalなのに後者は310kcal.水分量が違うからである.果物は重量の80~90%は水分なので甘くてもエネルギーは少ない.肉や魚も70%ほど,飯は65%,野菜は90%ほどが水分である.食べ物は見かけの大きさや重さが同じでも成分によってエネルギーはかなり違う.満腹に食べてもエネルギーの摂り過ぎにならない食べ物もあれば,そうでないものもある.筆者は「健康意識の高い人はエネルギー密度の低いものを食べている」といったキャンペーンをしてはどうだろうと思っている.

目指せ!一般検査の精度向上

―尿沈渣検査の精度向上:8―尿沈渣成分の鑑別―血球類,微生物,寄生虫類,その他成分

著者: 斎藤トモ子

ページ範囲:P.1464 - P.1468

はじめに

 尿沈渣検査において血球成分は強拡大(high power field,HPF:×400)で個数表現をする.数字の変化として表れるので正確にカウントできることが重要であり,標準法に準拠して行うことを推奨する1).その他の成分においては出現(+)だけでも検査情報としての診断価値が高い成分もあるので注意深い観察が求められる.

今月の表紙

甲状腺髄様癌

著者: 廣川満良 ,   前川観世子 ,   太田寿

ページ範囲:P.1463 - P.1463

【症例の概要】

 70歳代,男性.検診の超音波検査にて,甲状腺右葉に結節を指摘され,来院した.当院の超音波検査・穿刺吸引細胞診にて髄様癌が疑われた.血清カルシトニン55.0pg/ml,CEA1.8ng/mlと高値を示さなかったが,再度行った穿刺吸引細胞診の穿刺針洗浄液のカルシトニン値は32×104pg/mlであった.Ca負荷試験の5分値は650.0pg/mlと有意な上昇を認めた.右葉峡部切除が行われ,病理学的に髄様癌と診断された.RET遺伝子変異は認められなかった.術後2年間再発・転移の徴候はない.

ラボクイズ

風邪症状半日後に救急外来に来院した36歳の男性

著者: 小宮山豊

ページ範囲:P.1470 - P.1470

11月号の解答と解説

著者: 内藤勝人

ページ範囲:P.1471 - P.1471

ワンポイントアドバイス

高感度梅毒TP抗体測定の評価ならびに新しい梅毒検査の進め方

著者: 柴田宏 ,   森山英彦 ,   谷口由紀 ,   松田親史 ,   長井篤

ページ範囲:P.1472 - P.1474

はじめに

 梅毒は代表的な全身性の性感染症であり,病原性スピロヘータの一種であるTreponema Pallidum(TP)の感染によって発症する.検査法としては血清を用いた免疫血清学的検査法が一般的に用いられており,TP菌体成分を抗原に用いるTP抗体測定法と,リン脂質のカルジオリピンを抗原とするSTS(serological test for syphilis)法がある.

 近年,検査法の進歩により,梅毒TP抗体検査が自動化され,高感度化,迅速化,省力化が進んでいる.今回,リコンビナントTP抗原を用いた全自動免疫測定装置HISCL-2000i〔化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay,CLEIA)〕によるTP抗体測定の基礎的検討の結果と,高感度測定が可能になったことによる梅毒検査の進め方について報告する.

Laboratory Practice 〈微生物〉

CLSIのMRSA判定基準の変更とその影響

著者: 花木秀明

ページ範囲:P.1476 - P.1479

はじめに

 米国の臨床検査標準協会(Clinical and Laboratory Standard Institute,CLSI)のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus,MRSA)に対する耐性基準が変更され続けている.多くのβ-ラクタム薬に感性を示す市中関連型MRSA〔community associated-MRSA(CA-MRSA)〕やブレークポイント近辺の最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration,MIC)値を有するMRSA(borderline-MRSA)など,院内感染で蔓延している高度耐性MRSAとは異なったMRSAが出現してきている.これらのMRSAを高い精度で検出するために基準薬自体の変更から判定基準(MIC値)の変更まで行われている.

 さらに,バンコマイシン(VCM)の耐性基準も変更されている.この基準変更はMRSA判定基準の変更以上に大きな問題を含んでいると考えられ,それらの問題について提示したい.

〈診療支援〉

採血室における患者への安全対策

著者: 米久保功 ,   堀田正敏

ページ範囲:P.1480 - P.1483

はじめに

 採血は医師の監督下で臨床検査技師に許された業務ですが,当初緊急検査において採血から検査,結果出しという一貫した流れのなかでの付帯業務として始まりました.しかし最近では多くの施設で検査技師がルーチンの採血業務に取り組んでおり,病院全体業務のなかでその役割を果たしています.

 採血は患者への侵襲を伴う業務であることから,針の穿刺による神経の損傷,失神・転倒による受傷,また院内感染などが発生する可能性があり,後遺症も含めて患者に不利益をもたらす場合があります.時には医療事故として高額な賠償訴訟に進展する事例もあり,リスク管理が不可欠です.

 事故が起こる頻度はそれほど高くはありませんが,日ごろから事故を起こさない対応を心がけ,また発生した場合には即座にどのように対処するかを念頭に置いて業務に当たることが必要です.その心構えなしに事故を起こせば,業務上の過失を問われても仕方がないと考えます.

〈血液〉

ループスアンチコアグラント測定のための血漿検体作製と検査の現状

著者: 菅野信子 ,   鈴木明子 ,   金子誠

ページ範囲:P.1484 - P.1490

はじめに

 抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome,APS)は,抗リン脂質抗体(antiphospholipid antibody,aPL)により,血栓症・妊娠合併症などの臨床症状を呈する自己免疫疾患の一つである.APSの診断は2006年抗リン脂質抗体症候群診断基準(案)1)に従い,臨床症状に加えて表1に示した検査項目のいずれかが,12週以上の間隔を空けて2回以上証明されることにより判定される.しかし,APSが疑われた症例において,これら検出されうる抗体の種類や検出感度は検査方法により多種多様であり,その判定を困難なものとしている.抗カルジオリピン抗体(anticardiolipin antibodies,aCL),カルジオリピンなどの陰性荷電リン脂質と結合する血漿リポ蛋白β2GPIに対する抗β2GPI抗体(antiβ2glyco-protein I antibodies,aβ2GPI)が血清を用いたELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)法の定量的な測定方法であるのに対して,ループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant,LA)は血漿を用いて数種類の凝固時間法を組み合わせることにより行う定性的な検査である.特にLAでは,実施する検査法,検査試薬の違いで反応性が異なることに加え,測定される血漿検体の採血方法,血漿処理方法の煩雑さが,LA検査の標準化を障害しており複雑化させている.本稿ではLA測定やその血漿検体の作製についての注意点,これらの検査に関する現状について概説する.

臨床医からの質問に答える

遺伝カウンセリングとは

著者: 宇津野恵美 ,   野村文夫

ページ範囲:P.1492 - P.1494

はじめに

 “カウンセリング”と銘打たれたものは美容,転職,法律,結婚,その他さまざまな分野で行われている.広辞苑(第5版)によると,「カウンセリングとは個人のもつ悩みや問題を解決するため,精神医学・心理学等の立場から協力し助言を与えること」とあるが,実際にこれらのカウンセリングがこの定義に基づいた内容で行われているかを判断するのは難しい.では,本稿のテーマである遺伝カウンセリングはどう定義されているかというと,長年多くの専門家に支持されてきたのは,四半世紀前に米国人類遺伝学会より提案されたものであり1),そこには「遺伝カウンセリングとは,ある家系の遺伝性疾患の発症や発症のリスクに関連した人間の問題を扱うコミュニケーションの過程である」と記載されている.

 しかし,その概念は分子生物学や遺伝医学の発達,そして医療環境の変化を受けて移り変わってきた.2006年,米国遺伝カウンセラー学会は,時代に即した新しい定義として「遺伝カウンセリングとは,遺伝病の当事者や関係者が,遺伝病の持つ医学的,心理的,家族的影響を理解し,それに適応できるように援助するプロセスである」と公表している1,2).つまり,一般のカウンセリングと遺伝カウンセリングの大きな違いは,悩んでいるのは確かに相談者個人かもしれないが,悩みの中心である遺伝問題は家族や血縁者,さらには今後生まれてくるであろう子孫の問題でもある事実を無視できないことにある.そこで,この遺伝カウンセリングは誰がどのように,何を目的に行っているかについて筆者らの経験も含めて紹介したい.

けんさ質問箱

cyst(嚢胞)の発生機序は?

著者: 柳川啓一 ,   田島康夫

ページ範囲:P.1496 - P.1499

Q.cyst(嚢胞)の発生機序は?

 エコー検査でcystの所見がよくみられ,被検者に「どうして水袋ができるのか」と質問されることもよくあります.cystの発生する機序とその種類を教えてください.(東京都 M.A.生)

 

A.柳川啓一・田島康夫

はじめに

 袋状の病変をcyst(シスト,嚢胞)といいます.組織学的には,内腔を上皮が覆う真性嚢胞と上皮を欠く仮性(または偽性)嚢胞に大別されます.大きさは数mm程度から10cmを超える大きなものまでさまざまです.嚢胞の内容は液体や泥状物を容れているものがほとんどですが,空気を入れた気腫もあります.

 発生機序のお尋ねですので,大まかに分類すると表1のように分けられます.

 代表的な嚢胞について説明します.

トピックス

コリンエステラーゼ作動性症状を有する中毒患者への緊急検査

著者: 池田弘典 ,   川崎誠司

ページ範囲:P.1500 - P.1502

はじめに

 コリンエステラーゼ(cholinesterase,ChE)作動性症状を引き起こす中毒物質には,①有機リン系農薬,②カーバメート系農薬,③化学兵器の神経剤(サリン,ソマンなど)といった化学物質以外にも,④ジャガイモの芽(ソラニン)などがある1).このような毒物の生体に対する作用機序の特徴は,ChE活性阻害作用である.

 ChEは,コリンエステルをコリンと有機酸に分解する酵素であり,生体にはacetylcholinesterase[EC3.1.1.7](AChE)とcholinesterase[EC3.1.1.8]の2種類が存在する.AChEは,自律神経節や交換,副交感神経節に存在し,神経伝達物質であるアセチルコリンを分解する役割を担っている.通常AChEは,酵素活性部位でアセチル基と結合するが,上記物質による中毒時はリン酸基と結合する.その結果,リン酸化されたAChEは酵素活性を失うため,分解されずに神経節に過剰に蓄積されたアセチルコリンによって典型的な神経刺激作用を引き起こす1~3)

μTAS技術を利用した新規全自動免疫測定装置

著者: 渡辺光雄 ,   荒井由美

ページ範囲:P.1503 - P.1505

はじめに

 微細加工技術の進歩に伴い,ガラスやプラスチック基板上に抗体や抗原を極微量スポットしてプロテインアレイチップを作製し,抗原抗体反応を行う方法や,基板上に高精度の流路を形成し,混合反応や分離分析などの工程を集積化して行うマイクロトータルアナリシスシステム(micro total analysis system,μTAS)技術開発が進んでいる1,2).これらの分析技術により,測定の多重化,試薬・試料量の低減,測定精度の向上,測定の迅速化などが期待されており,臨床検査分野への応用が注目されている.

 今回,μTASの技術を応用した全自動免疫測定装置“ミュータスワコー(R)i30”を開発した(図1).本稿では本測定装置の原理とその臨床応用について概説する.

学会印象記 第58回日本医学検査学会

医学検査の社会貢献とは

著者: 鶴岡尚志

ページ範囲:P.1506 - P.1506

 開港150年のさまざまなイベントでにぎわう横浜の一画,パシフィコ横浜を会場に第58回日本医学検査学会が開催された.本学会は春に開催されるのが恒例だが,今回は夏の開催として第3回アジア医学検査学会(Asia Association of Medical Laboratory Scientists,AAMLS)と同時開催され,横浜開港と相挨って国際色が強調されていた.

 本大会のテーマは『健康社会創造に医学検査はどんな貢献ができるのか?』である.開会式典で大会長の米坂氏は社会への貢献をキーワードに“私たち検査技師が自らを問う”とし,そのテーマの意図を説明した.通常は学術的な集会という色の濃い“学会”において,職能団体としてのスタンスを明確に打ちだしている点で今までにない斬新なテーマであり,期待を抱かせるオープニングであった.

第3回AAMLS・第58回日本医学検査学会に参加して

著者: 大沢智彦

ページ範囲:P.1507 - P.1507

 第58回日本医学検査学会が7月31日・8月1日にパシフィコ横浜で開催された.例年,医学検査学会は5月中旬に開催されるが,今回は横浜開港150年記念に合わせて,また前日の7月30日から第3回アジア医学検査学会(Asia Association of Medical Laboratory Scientists,AAMLS)と平行して開催された.

 国際学会への参加は,2002年の京都での第18回国際臨床化学会議(International Congress of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine,ICCC)以来で,英語に弱い筆者ではあるが,多少期待して臨んだ.参加国は日本以外に,韓国をはじめアジアから11か国,参加者は日本から会員約80名と学生,諸外国からは約140名の参加があった.記念式典の後の特別講演は,イヤホンをとおして同時通訳が行われた.レベルの高い内容であったが,難しさのなかにも笑いを誘う場面も多く,日本人にも外国人にも好評であった.抄録集はというと国際学会ならではの英文のみで,プログラムに目を通すにとどまった.

コーヒーブレイク

サフラニンのサフランちゃん

著者:

ページ範囲:P.1475 - P.1475

 こんにちは.私はサフラニン液のサフラン.主にグラム染色の後染色として働いています.

 細菌検査で日常的に行われているグラム染色は,デンマークの細菌学者,ハンス・グラムによって発明された染色法.グラム染色で活躍しているのは同僚のクリスタル紫液のクリス君や,ルゴール液のヨウ子さんだけど,私だって,後染色として,脱色されたグラム陰性菌たちをやわらかな赤~ピンク色に染めて役に立ってるのよ.だからグラム陰性菌くんたちとは大の仲良し.

網赤血球の網男さん

著者:

ページ範囲:P.1491 - P.1491

 「お久しぶりです.覚えていらっしゃいますか? 2005年7月号に登場した血球計数機の数男です.今日は僕の中で測定している血球の一つ,網赤血球の網男さんに紹介を兼ねてインタビューしてみたいと思います.網男さん,こんにちは」

 「アチョー,我は網赤血球の網男なり.アチョー」

 ブルース・リーのごとく怪鳥音を発する網男に数男はたじろぐ.

腸内細菌確認レンジャー

著者:

ページ範囲:P.1495 - P.1495

 草木も眠る丑三つ時,微生物検査室の一角でTSI培地がある提案をした.

 「今日みんなに集まってもらったのは他でもない,俺たち確認培地でユニットを形成しようと思うんだ」

 「ユニット? TSIアニキどういうユニットです?」

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あとがき

著者: 山内一由

ページ範囲:P.1508 - P.1508

 良しにしろ悪しきにしろ,十大事件を挙げたら枚挙に暇がない,何に始まって何で終わろうとしているのか明言できない,そんな激動の1年が終わろうとしています.もしかしたら,実はそんなことは全くなくて,仮に各出来事をスコア化して詳細に解析することができたら,例年通りの1年であったという結果がはじき出されてくるかもしれません.しかし,私のアナログ的感覚では間違いなく激動の1年でした.

 私事で恐縮ですが,私自身が臨床検査の現場から臨床検査技師を教育する場に異動になった年でもあるので,さらにバイアスがかかってそのように感じられるのかもしれません.教育者となり,臨床検査の現場で私なりに培ってきたものが活かされている部分もありますが,現場と教育の場では最終的な目標は同じでありながらも,発想の転換が求められることが多々あり,正直苦労しています.お世辞にも成長したとは言えませんが,物の見方,捉え方が変わってきたことを実感しています.当然,今まで気にも留めなかった出来事に敏感になった面もあれば,その反面鈍感になってしまったところもあります.しかしながら,本質だけは見失わないように日々自分を見つめ直すよう努めています.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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