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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術37巻4号

2009年04月発行

雑誌目次

病気のはなし

高血圧症

著者: 下澤達雄

ページ範囲:P.314 - P.320

サマリー

 高血圧症は現在心血管イベントのリスクファクターのうちで最も罹患率が高いが,そのほとんどは原因不明の本態性高血圧と呼ばれるものである.血圧の規定因子は体液量と血管抵抗であり,それぞれを制御するメカニズムの検討が進んでいるが,患者ごとに規定因子の関与がどの程度であるかを診断することはいまだできていない.一方,大規模臨床試験から近年の治療法の進歩によって,生活習慣の改善,あるいは降圧薬で血圧を下げることが心血管イベントを抑制しうることが明らかとなり,2009年の高血圧治療ガイドラインでも治療法が詳しく述べられている.今後は高血圧症の診断方法の改良と病態の分類が進み,エビデンスに基づいたよりよい治療ができるようになることが期待される.

技術講座 生理

―臨床生理シリーズ・7―脳波検査―臨床編(成人)

著者: 高嶋浩一 ,   湯舟憲雄 ,   稲葉信夫 ,   尾本きよか ,   河野幹彦

ページ範囲:P.321 - P.330

新しい知見

 昨今,救急医療のあり方について話題になっている.この10年間で救急車による搬送患者は約50%も増加しているという.これは高齢社会の進行が一つの原因である.特に65歳以上の患者が救急搬送の多くを占め,それらの高齢患者は意識障害を伴った例も少なくない.意識障害は主に脳神経系の異常に起因するが,全身状態が悪い場合でも引き起こされる.「神経救急1)」という用語があるように,意識障害の病態を把握するうえで画像診断をはじめとする各種の緊急検査が不可欠になっており,迅速な脳波検査の対応も求められている.

生化学

―ホルモンの測定シリーズ・1 下垂体系:1―成長ホルモン(GH),プロラクチン(PRL)

著者: 家入蒼生夫 ,   堀内裕次

ページ範囲:P.331 - P.337

新しい知見

 成長ホルモン(growth hormone,GH)異常症の診断および経過観察にはGHの測定値,特に負荷試験での抑制値や頂値が必要であることが診療ガイドラインに記載されている.これは検査室においてはGH測定の正確さ・精密さが要求されていることを意味する.GH測定は,2005年4月以降,リコンビナントGHあるいはリコンビナントGH校正標品(WHO98/574)に準拠した標準品がGH測定試薬に使用されるようになり,試薬キット間差は大幅に改善された.プロラクチン(prolactin,PRL)異常症は,臨床的には過剰分泌が問題で,PRL産生腫瘍による過剰分泌や不妊症との関連が重要である.一方,PRL高値は,PRLが血中に単独のほか糖鎖および自己抗体などと重合体を形成する場合生じることがあり(マクロPRL),無症候性で治療を必要としないが現行試薬では測定され,臨床症状と一致しない.最近,このマクロPRLに対する反応性を改良した測定試薬の開発がなされた.

輸血

輸血用血小板保存液の進歩

著者: 平山順一 ,   東寛 ,   藤原満博 ,   加藤俊明 ,   池田久實

ページ範囲:P.339 - P.344

新しい知見

 血小板輸血において,血漿に起因する輸血副作用を抑制するため,血漿ではなく血小板保存液に浮遊させた血小板を輸血する場合がある.わが国で従来使用されてきた血小板保存液中では長期に血小板機能を維持することは困難であったが,今回われわれは市販輸液のみを用いて血小板機能を長期間維持できる血小板保存液(M-sol)を開発した.M-solで洗浄した血小板を輸血すると輸血効果を維持したまま輸血副作用を十分に抑制できた.除菌フィルター付き血液バッグを用いることによってクリーンベンチ外でM-solの無菌的な調製が可能であり,凍結させるかガス透過性が極めて低い袋を使用することによってM-sol自体の長期保存も可能である.

疾患と検査値の推移

気管支喘息

著者: 大林浩幸 ,   足立満

ページ範囲:P.346 - P.351

喘息の病態

 気管支喘息は,好酸球がその炎症の中心的な役割を担う,気道の慢性炎症性疾患である.「アレルギー疾患 診断・治療ガイドライン2007」によれば,「成人喘息は気道の慢性炎症と気道狭窄,気道過敏性の亢進,臨床的には繰り返し起きる咳,喘鳴,呼吸困難で特徴づけられる.気道狭窄は自然に,あるいは治療により可逆性を示す.気道炎症には,好酸球,T細胞,マスト細胞などの炎症性細胞,気道上皮細胞,線維芽細胞などの気道構成細胞,種々の液性因子が関与する.持続する気道炎症は気道傷害とそれに引き続く気道構造の変化(リモデリング)を惹起し,非可逆性の気流制限をもたらして気道過敏性を亢進させる」と定義されている1).気道過敏性とは気管支平滑筋の易収縮性を意味し,喘息病態が存在する前提となる.

 喘息において好酸球性炎症が持続すると,気道粘膜の線維化,平滑筋肥厚,粘膜下腺過形成が起こり,ほぼ永続的な気道壁の肥厚を生じる.この気道リモデリングの進展によって不可逆的な気流制限を生じ,気道過敏性亢進の程度も強まり,より喘息発作が生じやすく,かつ重症化する.気道リモデリングは線維芽細胞の出現時から始まっていると考えられ,吸入ステロイド薬の早期導入は,気道リモデリングの進行抑制が主な目的の一つであり喘息治療の核となる.

オピニオン

細胞診とHPVテストの併用を

著者: 上坊敏子

ページ範囲:P.338 - P.338

 細胞診が子宮頸癌(以下,頸癌)検診において果たしてきた役割は非常に大きい.わが国では,1970年代半ばには全国的に細胞診による頸癌検診が普及し,1983年度からは国の施策として検診が行われるようになった.その結果,早期癌や前癌病変である異形成の段階での発見が増加し,結果的に頸癌の死亡率は大きく減少した.最近,この細胞診にヒトパピローマウイルス(human papillomavirus,HPV)を検出する検査を併用することが注目されている.

 ほぼすべての頸癌の原因はHPVであり,100以上ある型のうち,16型,18型に代表される15種類程度が“高リスク”であることが明らかにされている.このHPVを証明するHPVテストの代表がハイブリッドキャプチャー法である.保険適用はないものの,最近わが国でも急速に普及してきている.検体は細胞診検体採取と同時に採取し,16,18,31,33,35,39,45,51,52,56,58,59,68の13型の有無を判定することが可能である.

ワンポイントアドバイス

微生物検査における中間報告の利用法

著者: 福田砂織

ページ範囲:P.352 - P.353

はじめに

 微生物検査は検体採取に始まり,同定検査および薬剤感受性試験などを行った後最終報告となる.今日ではさまざまな検査試薬,機器の開発によって同定検査は簡便化,迅速化が進んでいるが,通常は検体採取から最終報告までに3日間が必要である.さらに特殊な菌(嫌気性菌,真菌,抗酸菌)を目的とする場合はより多くの日数を要する.

 微生物検査を的確かつ迅速に行って報告することは,抗菌薬投与期間の短縮と予後に大きく影響する.そこで,顕微鏡検査報告(中間報告)から薬剤感受性試験報告(最終報告)までの各段階で,何回か中間報告を行うことが望ましい.

 当院では顕微鏡検査,分離培養検査などの各検査段階で,臨床サイドのニーズに沿った中間報告,迅速対応を取り入れており,本稿ではこれらを紹介する.

目指せ!一般検査の精度向上

―検出を高める寄生虫検査のポイント:4―日常検査で遭遇する虫体

著者: 福富裕之

ページ範囲:P.356 - P.360

はじめに

 昨今,国内の医療現場では寄生虫に出会う機会が非常に少なくなっている.このため,実習以外で寄生虫を全く見たことがない若い医師や臨床検査技師も珍しくはない.しかし,世界的視野で見れば,寄生虫症はいまだに人類の疾病の主流である.流通や交通機関が発達した現在では,思わぬ寄生虫症に出くわす可能性があるが,臨床検査技師が寄生虫を目の当たりにしたときに,それが何なのかわからなければ治療方針も決まらないし,もし寄生虫と認識できなければ重大な事態にもなりかねない.

 寄生虫とは寄生生活を行う生物全般を指すために,その同定のためには広域な生物の形態を知る必要があり,異種寄生,異所寄生,偶発寄生,人獣共通寄生虫などの複雑な要因も絡んでいることから,興味はあるが難しいと感じる臨床検査技師もいると思われる.本稿では,日常検査で遭遇する可能性が高い,原虫を除く虫体について検査の注意点や手技などを簡単に述べる.

今月の表紙

浸潤性乳管癌,硬癌

著者: 森谷卓也 ,   中島一毅

ページ範囲:P.345 - P.345

【症例の概要】

 50代,女性.マンモグラフィ検診で“構築の乱れ”で要精査となり来院.来院時,乳頭陥凹を伴う腫瘤を認めた.エコーガイド下の針生検で浸潤性乳管癌の診断が得られたため,乳房切除術が実施された.

 腫瘍径(浸潤径)は25×12mm,浸潤性乳管癌(硬癌),核グレード(乳癌取扱い規約)1,組織学的悪性度〔ノッティンガム(Nottingham)〕1,リンパ管侵襲陽性,静脈侵襲なし,エストロゲン受容体陽性,プロゲステロン受容体陰性,HER2陰性,センチネルリンパ節転移陰性(0/4),TNM分類はpT2,pN0,pM0,pStageIIAであった.

ラボクイズ

超音波検査:腹部

著者: 斎藤菜々子 ,   鶴岡尚志

ページ範囲:P.354 - P.354

3月号の解答と解説

著者: 保科ひづる

ページ範囲:P.355 - P.355

Laboratory Practice 〈微生物〉

救命救急におけるプロカルシトニン測定

著者: 柴田泰史 ,   久志本成樹

ページ範囲:P.363 - P.366

はじめに

 敗血症は体温,脈拍数,呼吸数,末梢血白血球数で定義される全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome,SIRS)に感染を有する状態を指し,重症化すると多臓器不全,ショックなどからその死亡率は30%を超え,治療成績は決して良好とは言えない.敗血症は集中治療を要する症例における最大の死亡原因であり,迅速な診断は救命率の改善のポイントとなる.

 近年,全身の炎症を伴う細菌感染症の患者では血中のプロカルシトニン(procalcitonin,PCT)濃度が上昇することが広く知られるようになり,細菌性感染症の鑑別診断および,重症度判定の新しいマーカーとしてPCTが注目されている1).本稿では,PCTの生物学的意義,測定方法,さらに救命救急領域での臨床的有用性について述べる.

〈生化学〉

血中遊離メタネフリン測定

著者: 竹越一博 ,   磯部和正 ,   川上康

ページ範囲:P.367 - P.371

はじめに

 最近,血中遊離メタネフリン(metanephrine,M)測定が可能となり,褐色細胞腫診断において従来法に比較して特に優れていることが報告されている.本稿では同測定について解説したい.

〈遺伝子〉

LAMP法

著者: 保坂憲光 ,   納富継宣

ページ範囲:P.372 - P.376

はじめに

 LAMP(loop-mediated isothermal amplification)法1)は遺伝子増幅法の一つである.LAMP法は遺伝子増幅時に6領域を認識するプライマーを用いているため特異性が非常に高いこと,鎖置換型DNAポリメラーゼを用いた増幅反応が等温で連続して進むこと,その増幅産物量が多いため増幅の有無を容易に確認することが可能である点が大きな特徴である.また,RNAの増幅はDNA増幅試薬に逆転写酵素を添加しておけば,ワンステップで行うことも可能である2)

 本稿では,LAMP法を実験に用いるうえで問題になる“反応を行う際の注意点”を,DNA増幅試薬キットとプライマーセットを例として示す.続いて各自が目的とする標的遺伝子を検出するために必要な,“プライマーの設計”,“増幅反応条件の決め方”,“検出結果の判定”について述べる.

TaqMan®システムによるHCV-RNAの測定

著者: 松尾百華 ,   野間桂 ,   西岡淳二 ,   登勉

ページ範囲:P.377 - P.379

はじめに

 現在まで,HCV-RNA量を測定する方法として,ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction,PCR)法を測定原理としたC型肝炎ウイルス遺伝子検査(hepatitis C virus RNA,HCV-RNA)定性法(以下,定性法)およびHCV-RNA定量法(以下,ハイレンジ法)1)が用いられてきた.しかし,両測定法の検出感度の間には大きな差があった.以前から検査の現場では,単一の測定法でHCV-RNA量の経過観察を継続的に行うことのできる,高検出感度で広い測定範囲のHCV-RNA定量測定法の開発が望まれていた.

〈輸血〉

キャプチャー法

著者: 小野昌樹 ,   佐々木正照 ,   稲田信彦

ページ範囲:P.380 - P.382

はじめに

 輸血前検査では,不適合輸血を防ぐために,患者のABO血液型,Rh(D)抗原,不規則抗体スクリーニングの各検査が行われる.

 不規則抗体スクリーニングは患者血清中に不規則抗体が存在するか否かを確認するために行われるが,37°Cで反応する臨床的意義のある抗体を検出するために,間接抗グロブリン試験を含む方法で検査する必要がある.間接抗グロブリン試験の検査方法には,試験管法,カラム法,キャプチャー法などがある.

 キャプチャー法は,1956年のクームス(Coombs)らの報告にその起源があり,その後,Plappら1)やJujiら2)が発展させた技術である.1988年から米国イムコア社によってキャプチャー法を利用した抗体スクリーニング,同定用試薬が発売されている.今日,キャプチャー法は,全自動の輸血検査装置にも応用されるようになった.

臨床検査フロンティア 検査技術を生かせる新しい職種

超音波検査士

著者: 南里和秀

ページ範囲:P.383 - P.384

はじめに

 超音波検査士とは正式名称を社団法人日本超音波医学会認定超音波検査士(英文名:JSUM Registered Medical Sonographer,RMS)という,社団法人日本超音波医学会(以下,日超医)が認定する資格である.

 資格取得を目指す動機は自信をつけることやプライドのためという理由が多い.普段勉強することのない,画像が作られるメカニズムなどの超音波の基礎や原理の習得や,これまでの断片的な知識や技術を整理することができ,系統立てた考え方が実践でき応用範囲が広がる.また,疾患の特徴を瞬時に捉えることができ根拠のある画像や所見を残すことができる.一定のレベルに達したという信頼感が部内ばかりではなく医師からも得られる.患者からの質問に対しても的確な答えを返せるようになるなどメリットは多いが,資格を取得しても給与に反映されるようなことは少ないため,患者と自己研鑽のために必要な資格取得と考えたい.

復習のページ

―免疫染色のアーティファクト・2―染色時のアーティファクト

著者: 鴨志田伸吾

ページ範囲:P.385 - P.387

はじめに

 現代の免疫染色技術は,加熱処理を中心とした抗原性賦活化法や新しい高感度検出法の開発・進歩とともに発展してきた.パラフィン切片上で証明できる抗原物質が飛躍的に増えたことは確固たる事実であるが,最適なプロトコールで実施していれば検出できたであろう抗原物質が数多く眠っていることも否定しえない.

 本稿では,免疫染色施行時に遭遇する代表的な落とし穴を紹介し,その原因および問題解決策について解説する.

けんさ質問箱

心電図検査での電極の位置と波形の変化

著者: 佐瀬一洋

ページ範囲:P.388 - P.389

Q.心電図検査での電極の位置と波形の変化

 心電図検査で電極の位置を各々1肋間上,また1肋間下につけた場合,波形はどの程度変化するのか教えてください.(岩手 A.K.生)

 

A.佐瀬一洋

 心電図検査で電極の位置を1肋間上につけた場合,一般的にはV4からV6でR波が減高するとともに移行帯は時計方向に回転する.逆に,1肋間下につけた場合,V4からV6でR波は増高し,移行帯は反時計方向に回転する.

 医療安全の観点からは,経過観察中に違う肋間からの記録が混在することによって,ST上昇や異常Q波など心筋虚血の判断を誤る可能性があるため注意が必要である.

トピックス

尿細胞診に出現する反応性尿細管上皮細胞の細胞学的特徴

著者: 大﨑博之 ,   羽場礼次 ,   平川栄一郎

ページ範囲:P.391 - P.393

はじめに

 糸球体腎炎や急性尿細管壊死などでは,変性・脱落した尿細管上皮細胞を補うべく新規の尿細管上皮細胞が再生される(反応性尿細管上皮細胞).これら反応性尿細管上皮細胞は,他の臓器の再生性・反応性良性異型細胞と同様に異型を呈するため,尿細胞診に出現した場合には良悪の鑑別を要する.しかし,現時点において細胞診領域では反応性尿細管上皮細胞の細胞学的特徴についての研究報告に乏しく,十分な知見が得られていない.

 そこで,われわれは腎生検によって病理組織学的診断の確定した糸球体腎炎40症例を対象に,同一患者の尿細胞診と腎生検組織標本を形態学的・免疫組織化学的に対比させ,尿中に出現する反応性尿細管上皮細胞の形態学的・免疫細胞化学的特徴について検討を行った1)

ISO15189の臨床検査情報システムへの要求事項とその対策

著者: 早坂光司 ,   澁谷斉

ページ範囲:P.393 - P.395

はじめに

 最近の医療を取り巻く環境の激変によって,病院経営は厳しさを増している.医療機関では,コスト削減など経営効率を高める努力がなされている一方で,医療の質については維持,向上させていくことが求められている.近年,病院機能評価やISO9001など医療の質について第三者機関による評価を受ける動きが加速してきている.臨床検査室においても同様で,コスト削減に加え,臨床側,患者側へのよりよいサービスにつながる検査の質の向上,付加価値が求められている.

コーヒーブレイク

「輸血テクニカルセミナー・アドバンスド」を開催して

著者: 川畑絹代

ページ範囲:P.361 - P.361

 2008年7月5,6日,日本輸血・細胞治療学会主催の研修会「輸血テクニカルセミナー・アドバンスド」に実務委員として参加した.

 本研修は「臨床的意義のある同種抗体の鑑別」をテーマに,①複数抗体保有症例や,自己抗体+同種抗体保有症例など臨床的意義の高い抗体と低い抗体が混在するような難しい検体に直面しても,自施設で適切に同種抗体を鑑別同定し,適合血が輸血できる技術と知識の習得,②37°C反応性の同種抗体の臨床的意義を評価するための,フローサイトメトリーによるIgGサブクラス同定や単球貪食試験の習得が目的であった.

恋のさざなみ

著者: 加奈子

ページ範囲:P.390 - P.390

 別れは突然やってきた.「今日で終わりにしよう.僕,結婚することにしたから」の一言で.去っていく後姿に私は必死に私の余韻を求めていた.それから数日たったある日,小さな小包が送られてきた.一緒に行ったレストランや喫茶店の名前が印刷されたマッチの外側の紙で作った箱であった.当時はどこの店にもマッチが置いてあり,それがネットの普及していない時代の宣伝手段であった.ちょうど3年間付き合っていたのを思い出させる3段重ねの小箱.マッチ箱の外側をはがして,ずっととっていたなんて.あーなんてすばらしいことを.思い出のたくさん詰まった贈り物は私を和ませてくれた.

 時折,何かの会で会うと,「元気だった?」,「元気だよ」と目と目の合図でお互いの健在を確認しあう行為は,なぜか胸が締め付けられる思いであった.

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あとがき

著者: 伊瀬恵子

ページ範囲:P.396 - P.396

 フレッシュマンが入る4月,新たな年度がスタートします.色とりどりの花々が咲き春一色です(原稿を書いている今はまだ寒いですが! そろそろスギ花粉が飛散してスギ花粉症の私には憂鬱な季節が来ます).

 今月号の“技術講座”は,新しいシリーズとして「ホルモンの測定」が始まります.従来,ホルモンは内分泌腺で作られ,ある臓器に特異的に作用する物質とされてきましたが,現在はもっと広い概念で捉えられています.1回目は下垂体で産生される成長ホルモンとプロラクチンで,検査に対する注意事項や臨床的意義,標準化の現状が記されています.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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