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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術37巻7号

2009年07月発行

雑誌目次

病気のはなし

全身性IgG4関連疾患

著者: 山本元久 ,   鈴木知佐子 ,   高橋裕樹 ,   篠村恭久

ページ範囲:P.610 - P.616

サマリー

 全身性IgG4関連疾患(systemic IgG4-related plasmacytic syndrome,SIPS)は,高IgG4血症と病変腺組織中の著明なIgG4陽性形質細胞浸潤を特徴とする全身性の慢性疾患である(図1).涙腺,唾液腺,甲状腺,肺,膵臓,腎臓,前立腺などが炎症の標的とされうる.硬化性病変・腫瘤形成性病変による機能障害を呈することがあり,多くはステロイド剤が奏効する.従来のミクリッツ病(Mikulicz's disease),キュットナー腫瘍(Kuttner's tumor),自己免疫性膵炎,間質性腎炎の一部などがこれに包括されると考えられ,各領域において疾患の定義およびカテゴリーの見直しが始まっている.

技術講座 生理

―臨床生理検査シリーズ・10―超音波検査―臨床編(循環器)

著者: 加賀早苗 ,   野塚久夫

ページ範囲:P.619 - P.626

新しい知見

 壁運動評価は客観的定量化の方向へと進んでいる.近年開発されたスペックルトラッキング(speckle tracking)法は,心エコー画像の輝度パターンを時間的に近接するフレーム間で比較し,組織の動きを自動的に追跡するものである.心筋内の多数の部位で,その動きを追跡することにより,心筋の伸び縮みの程度を表すストレイン,心筋の伸び縮みの速度を表すストレインレートなどを,従来のドプラ法の欠点であった角度依存性の問題なしに計測することができ,その有用性が示されてきている.最近では,3次元スペックルトラッキング機能を搭載した超音波診断装置も登場し,心臓全体としての機能や局所心筋機能についての新たな知見が得られるものと期待される.

生化学

―ホルモンの測定シリーズ・4 甲状腺・副甲状腺系:2―サイロキシン(T4),トリヨードサイロニン(T3),サイロキシン結合グロブリン(TBG)

著者: 内村英正

ページ範囲:P.627 - P.632

新しい知見

 甲状腺ホルモンの生成材料としてヨードは必須である.外界から食物として体内に取り入れられたヨードは,血中に入り甲状腺に取り込まれる(iodine uptake).このとき,ヨードは血中から甲状腺の濾胞細胞に電気化学的抵抗に抗して能動的(active transport)に取り込まれる.この機構の詳細は長らく不明であったが,この数年で明らかとなってきた.そこにはsodium-iodide sympoter(NIS)と呼ばれるナトリウム依存性の蛋白が関係しており,その分子構造や遺伝子解析も行われた.一方,濾胞細胞から濾胞へのヨードの移動にはペンドリン(pendrin)という蛋白が重要な働きをしていることも明らかになっている.

一般

尿路変更患者の尿所見

著者: 五十嵐辰男

ページ範囲:P.633 - P.636

新しい知見

 最近では尿路変更に腸管を用いることが多い.このような場合,膿尿や細菌尿を伴う例が多くみられる.腸管を用いた代用膀胱の尿中の炎症性サイトカインは増加しており1),尿路となった腸管上皮は恒常的な炎症反応を起こしている.しかし,ほとんどは無症候であり,尿路上皮と腸管上皮では細菌に対する反応が異なることが推測されるので,このような症例では無症候性膿尿と尿路感染とは区別する必要があると思われる2)

疾患と検査値の推移

緑内障

著者: 阿部春樹 ,   白柏基宏

ページ範囲:P.638 - P.643

はじめに

 最近,わが国で実施された大規模な緑内障疫学調査(多治見スタディ)により,40歳以上の緑内障全体の有病率は5%であること,緑内障の78%が原発開放隅角緑内障(広義)であることが明らかとなった1,2).緑内障は,わが国における中途失明原因の常に上位を占め,社会的にも重要な疾患である.わが国に多い原発開放隅角緑内障(広義)の視神経障害および視野障害は,基本的に進行性で,かつ非可逆的であり,本症の早期診断,早期管理は重要課題となっている.

緊急企画

[インタビュー]新型インフルエンザ

著者: 菅野治重

ページ範囲:P.606 - P.609

今年メキシコで発生した新型インフルエンザ(H1N1型)は感染拡大の一途をたどり,6月1日現在の感染者数はわが国で370人,世界で17,410人(うち死者115人)にのぼっている.わが国初の患者となった大阪府立高校の教員・生徒のうち1人の治療に当たった高根病院副院長・菅野治重氏にお話をうかがった.

オピニオン

診療に貢献する検査室の再構築

著者: 實原正明

ページ範囲:P.618 - P.618

はじめに

 昨今の厳しい医療情勢のなか,組織の一員としての役割が重要視されるとともに,それを踏まえた業務改善,意識改革などの取り組みが求められている.当科においてもそれは例外でなく,患者本位の医療の推進,必要とされる検査科を目指し業務改善に取り組んできた.今回,それらが病院首脳部により理解を得られ,中央検査室全域におよぶ再構築が可能となった.これを機に現状の問題を抽出しテーマを掲げ取り組んだ.本稿ではこれまでの経過と構築後の成果について報告する.

ワンポイントアドバイス

血液ガス:サンプリングと測定の注意点

著者: 松尾収二

ページ範囲:P.644 - P.644

■サンプリング時の注意点

 1. 抗凝固剤として治療用ヘパリン溶液を用いた場合の誤差

 抗凝固剤として治療用ヘパリン溶液をシリンジに吸って用いる場合,シリンジ先端の死腔分の希釈誤差が生じる.死腔は2ml用シリンジで0.13ml(6.5%),5ml用で0.18ml(3.6%)であり採血量が少ないほど希釈誤差は大きくなる.なお,治療用ヘパリンはNaおよびClの含量が多いもの(Na190mmol/l,Cl160mol/l)と少ないもの(Na90mmol/l,Cl70mmol/l)がある.ほかの成分は含まない.

目指せ!一般検査の精度向上

―尿沈渣検査の精度向上:3―尿沈渣成分の鑑別―上皮細胞(扁平上皮細胞,移行上皮細胞,尿細管上皮細胞)

著者: 猪浦一人

ページ範囲:P.648 - P.652

はじめに

 ヒトの表皮・粘膜を覆う上皮細胞には,扁平上皮細胞,移行上皮細胞,立方上皮細胞,円柱上皮細胞の4種類が存在する.臨床検体でこの4種類すべてがみられる検体は尿検体のみである.

 上皮細胞のうち,扁平上皮細胞,移行上皮細胞は尿路組織で層を成しており,表層部と深層部の細胞では形態が異なる.尿細管上皮細胞は単層だが,近位尿細管,遠位尿細管など部位によって形態が異なる.これら上皮細胞は,炎症,結石,管腔の閉塞・拡張など,さまざまな条件で形態に変化を示すことがあり鑑別に苦慮することも多々ある.本稿では尿沈渣検査で遭遇する機会の多い,扁平上皮細胞,移行上皮細胞,尿細管上皮細胞の正常細胞の特徴,鑑別点,出現パターンについて解説する.

今月の表紙

浸潤性乳管癌,充実腺管癌

著者: 森谷卓也 ,   中島一毅

ページ範囲:P.637 - P.637

【症例の概要】

 60代,女性.右乳房にしこりを触れ来院.超音波検査で悪性が示唆され,右腋窩リンパ節にも腫大を認めた.乳腺腫瘍に対し穿刺吸引細胞診を施行したところ悪性(乳管癌)と判定され,乳房部分切除術+腋窩リンパ節隔清が施行された.腫瘍径(浸潤径)は25mm,浸潤性乳管癌(充実腺管癌),核グレード(乳癌取扱い規約)3,組織学的悪性度〔ノッティンガム(Nottingham)〕3,リンパ管侵襲なし,静脈侵襲あり,エストロゲン受容体陽性,プロゲステロン受容体陰性,HER2陰性,切除断端陰性,腋窩リンパ節転移陰性(1/13),TNM分類はpT2,pN1a,pM0,pStageIIBであった.

ラボクイズ

超音波:乳腺

著者: 白井秀明

ページ範囲:P.646 - P.646

6月号の解答と解説

著者: 升秀夫

ページ範囲:P.647 - P.647

Laboratory Practice 〈生化学〉

低カルボキシル化オステオカルシン(ucOC)測定法

著者: 加藤典子 ,   田中郁子 ,   石井潤一

ページ範囲:P.653 - P.657

はじめに

 2000年に開かれた米国国立衛生研究所(National Institute of Health,NIH)のコンセンサス会議では,骨粗鬆症とは「骨強度の低下を特徴とし,骨折のリスクが増加した骨疾患」と定義された.

 骨粗鬆症有病率は加齢とともに上昇し,女性は男性の約3倍の頻度である1).高齢化率上昇とともにわが国の骨粗鬆症患者は増加すると考えられる.

 骨粗鬆症の病態を正しく診断し,治療を行うことは,今後のわが国の医療上さらに重要性を増すであろう.

 本稿では,骨粗鬆症の診断・治療方針決定に有用であり,近年保険収載された低カルボキシル化オステオカルシン(undercarboxylated osteocalcin,ucOC)について,その測定方法・意義を述べる.

〈一般〉

髄液検査の実際―後編

著者: 三村邦裕

ページ範囲:P.658 - P.661

細胞数の算定と細胞の分類

 1 . 細胞数の算定法

 髄液中の細胞は採取後に沈殿しやすく,また融解しやすいので,なるべく速やかに(3時間以内)に検査する.

 マイクロピペットを用いて被検髄液180μlとサムソン(Samson)液〔またはパッペンハイム(Pappenheim)液〕20μl(9:1)を混和する.フックス・ローゼンタール(Fuchs-Rosenthal)計算板を用い,顕微鏡の倍率200倍(対物レンズ×接眼レンズ=20×10)でその全区画内(16区画)の有核細胞数を数え,これをxとすると,1μl中の細胞数=x/3.2×10/9≒x/3〔3.2=計算室の容積(μl)=縦4mm×横4mm×深さ0.2mm〕となる.

 普通計算室内の細胞数xを数えたら,そのままx/3と分数で表現すればよい.これによってフックス・ローゼンタール計算板使用であることもわかる.最近ではフックス・ローゼンタール計算板の代わりにディスポーザブルタイプ(C-Chip:inCYTO社)の計算板が使用されるようになった.使い捨てのため感染対策に有用である.

〈診療支援〉

ファルマコゲノミクスへの検査室の関与―研究室から検査室へ

著者: 中谷中 ,   林海美子 ,   陣田さやか ,   登勉

ページ範囲:P.662 - P.665

はじめに

 ヒトゲノムプロジェクトが完遂し,21世紀のキーワードはゲノム・サイエンスと言われている.人類が手にした膨大なゲノム情報の活用法として期待されているのが,オーダーメイド医療である.

 オーダーメイド医療とは,ゲノム上に存在する遺伝子多型に着目して,人の個人差を見いだし,個人個人に最適の医療を提供するものである.さまざまなオーダーメイド医療が試みられているが,最も注目され期待されているのが,遺伝情報を活用して投与薬剤の効果や副作用の個人差を予測し,個人に最良の薬物療法を提供する,いわゆるファルマコゲノミクス(pharmacogenomics,PGx)の推進である.

 日米EU医薬品規制調和国際会議によってゲノム用語の統一がなされ,ファルマコゲノミクスは「薬物応答と関連するDNA及びRNAの特性の変異に関する研究」と定義されている1).このなかで,「ファルマコジェネティクス(pharmacogenetics,PGt)はファルマコゲノミクスの一部であり,薬物応答と関連するDNA配列の変異に関する研究」と定義されている.

 ファルマコゲノミクスを臨床応用するに当たって,遺伝子特性の解析のなかでは一塩基多型解析が導入しやすいため,薬剤代謝酵素遺伝子多型に基づくファルマコジェネティクスがもっぱら実践されているのが現状である.

 本稿では,当院での取り組みを例にしながら,ファルマコゲノミクスを検査室で実践するための課題について解説したい.

〈病理〉

アストラブルー染色

著者: 細沼佑介 ,   後藤義也 ,   安田政実

ページ範囲:P.666 - P.670

はじめに

 特殊染色を用いたムコ物質の組織化学的鑑別は,免疫組織化学が盛んな今もなお病理診断および細胞診の分野において日常的に行われる手法である.

 アストラブルー染色は,Muller(1950年代)により弾性線維ならびにシスチン(-S-S-),システイン(-SH)基の証明法として報告され,Piochにより酸性ムコ物質の鑑別に用いられた1).わが国ではアルシアンブルー染色が広く用いられているためにアストラブルー染色の利用頻度は低いが,欧州では酸性ムコ物質の検出に日常的に用いられている.本稿では,主としてアルシアンブルーとの比較から本染色の実践を紹介する(表1)2)

臨床医からの質問に答える

プロトロンビン時間(PT)の表記

著者: 香川和彦

ページ範囲:P.671 - P.674

■背 景

 プロトロンビン時間(prothrombin time,PT)は,クエン酸加血漿検体に組織トロンボプラスチン試薬(リン脂質を含む組織因子で,通常はカルシウムも含む,いわゆるPT試薬)を添加し,フィブリンが析出するまでの時間(秒)を測定する検査である.単純な測定原理ゆえに,血液凝固系の機能を反映する検査として汎用されている.フィブリンの析出を検出する方法は,原法である目視による用手法のほか,自動測定機器に採用されている散乱光の変化を利用した光学的方法,および粘性の変化を利用した力学的方法に大別される.PT試薬には,含有する組織因子の動物種により,ヒト,ウサギ,ウシの区別があり,これらの臓器由来試薬のほかに,細胞培養による試薬や遺伝子組換え試薬が開発されている.国内で使用されている主なPT試薬を表1に示す.

 PT検査の特性と問題点を表2にまとめた.「複数の凝固因子活性を,時間の単位で総合的に評価する」という命題の解決のために,多様な試薬や測定方法の開発に発展したが,やがて検査結果の互換性の問題が明白となり,それが必然的に複数の表記法を生み出した経緯がある1)

復習のページ

脂質異常症の診療ガイドライン

著者: 木下誠

ページ範囲:P.675 - P.677

はじめに

 筆者が医師になった頃(1980年頃)は,高脂血症が虚血性心疾患を起こすと言っても,循環器専門の先生からは全く信用してもらえなかった.ある御高名な先生からは,「コレステロールが高い患者で心筋梗塞を起こした患者なんかみたことがない」とさえ言われたことがある.現在,コレステロールが心筋梗塞の最も強い危険因子であることが広く認識されていることを考えると,隔世の感がある.

 十数年前から高脂血症〔高コレステロール血症,高トリグリセライド(trigriceride,TG)血症,低HDLコレステロール(high density lipoprotein cholesterol,HDL-C)血症〕が動脈硬化症の危険因子であることが広く認められるようになってきた.この病態を把握し,最終的に動脈硬化症を予防することを目的とした“動脈硬化性疾患予防ガイドライン”が2007年に発表された1)

トピックス

脂質・糖質検査(午後健診における朝食摂取の影響)

著者: 菊池春人

ページ範囲:P.678 - P.679

 本稿においては,2008年度より始まった特定健康診査(特定健診,いわゆるメタボ健診)で現在示されている条件およびそれと関連した検討を中心として午後健診の考え方,朝食摂取の影響について述べることとする.

液状検体を使った口腔がん検診の新しい試み

著者: 才藤純一 ,   田中陽一 ,   宜保一夫 ,   福田雅美 ,   佐藤一道 ,   山根源之

ページ範囲:P.679 - P.682

■口腔癌と検診

 口腔領域の細胞診は比較的古くから行われていたが,病変部位が可視的であるため普及の度合いは他領域と比べると低かった.しかし近年,液状細胞診など新技術の開発に伴い,歯科医師会や地域の病院が行っている口腔がん検診に,細胞診を応用する試みがなされている.

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あとがき

著者: 手島伸一

ページ範囲:P.684 - P.684

 5月8日に新型インフルエンザのわが国初の患者さんがみつかってから,本日で20日が経ちました.市中のコンビニエンスストアからマスクが消え,インターネットではタミフル(R)やマスクが高値で売買されているようです.当院(市中の一般病院)でも,新型インフルエンザ対応マニュアルを作成しました.発熱のある来院者は受付に申し出て,マスクを準備していただくことで対応していますが,マスクをしているのは病院職員ばかりで,患者さんにはマスクが手に入りません.職員の安全確保が優先されるべきとはいえ,こんなにあからさまでよいのでしょうか.

 しかし,マスクは本当に感染防御に有効なのでしょうか.迅速検査は検査科が担当していますが,A型陽性者に遺伝子検査をすすめるべきでしょうか,院内感染予防対策委員会からのお達しも朝令暮改の毎日です.わが国の感染確認数はこの数日は減少傾向にあり,休校していた学校も授業を再開しはじめましたが,油断は禁物です.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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