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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術37巻8号

2009年08月発行

雑誌目次

病気のはなし

家族性高コレステロール血症

著者: 野原淳 ,   馬渕宏

ページ範囲:P.690 - P.696

サマリー

 家族性高コレステロール血症は比較的頻度の高い遺伝性高脂血症である.ヘテロ接合体では,強力なスタチン製剤をエゼチミブやレジンと併用することで低比重リポ蛋白コレステロール(low density lipoprotein cholesterol,LDL-C)の50%前後の低下が可能となっており,無症状のうちからの早期診断・早期治療により心血管死のリスクを十分に低下できるようになってきた.しかし,現実には診断がついていない見逃し症例も多く,また未治療の家族がいる場合が多いことから積極的な診断が望まれる.薬物療法で効果不十分な冠疾患二次予防ヘテロ接合体,およびホモ接合体では,LDLアフェレーシスが最も確実に効果の期待できる治療法である.また,アンチセンス医薬品が実用段階に入りつつあり期待されている.

技術講座 生理

―臨床生理検査シリーズ・11―超音波検査―臨床編(上腹部)

著者: 西田睦

ページ範囲:P.697 - P.707

新しい知見

 造影超音波検査(contrast enhanced ultrasound,CEUS)とは,造影剤を用いた超音波検査である.わが国で保険適用となっている造影剤はレボビスト(R),ソナゾイド(R)の2種類ある.両剤とも血管相(vascular phase)で血流診断を行い,後血管相(post vascular phase)でクッパー細胞(Kupffer cell)の存在・機能診断を行う.現在臨床で汎用されているのはソナゾイド(R)で,保険適用となっているのは肝腫瘤性病変のみである(2009年6月現在).ソナゾイド(R)は世界に先駆け,わが国のみで認可されている.

生化学

―ホルモンの測定シリーズ・5 甲状腺・副甲状腺系:3―甲状腺刺激ホルモンレセプター抗体

著者: 村上正巳

ページ範囲:P.709 - P.713

新しい知見

 甲状腺刺激ホルモン(thyroid-stimulating hormone,TSH)レセプター抗体(TSH receptor antibody,TRAb)の測定法は,可溶化TSHレセプターに対する標識TSHと血清中の自己抗体の競合反応を測定原理とする1ステップの液相法(第一世代)にはじまり,固相化したTSHレセプターに対する標識TSHと,血清中の自己抗体の競合反応による2ステップの固相法(第二世代)では干渉物質の影響が回避されて測定感度が向上した.近年,抗TSHレセプターヒトモノクローナル抗体(M22)が作製され,標識TSHの代わりにM22を用いた第三世代のTRAb測定法が開発され,測定感度がさらに向上した.第二世代までのTRAb測定法では,必要な感度を得るためには数時間の測定時間を必要とし測定の自動化は困難であったが,第三世代のTRAb測定法では,測定時間が短縮されて自動化が可能となった.

病理

神経内分泌腫瘍の細胞診

著者: 畠山重春 ,   和泉智子 ,   浅川一枝 ,   濱川真治

ページ範囲:P.719 - P.726

新しい知見

 神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor,NET)は全身に分布する神経内分泌細胞から発生することが知られるようになり,稀な腫瘍ではなくなっている.例えば乳腺から発生するNETの頻度は5~9.4%である.なお,従来良性腫瘍と考えられてきたカルチノイド(carcinoid)も現在では悪性腫瘍に分類されている.NETの確定診断には免疫組織化学的染色が必須であり,クロモグラニンA,シナプトフィジン,CD56,神経特異エノラーゼ(neuron specific enolase,NSE)がその代表的マーカーである.

疾患と検査値の推移

造血幹細胞移植後TMA

著者: 大島久美 ,   神田善伸

ページ範囲:P.714 - P.718

はじめに

 造血幹細胞移植後の血栓性微小血管障害(thrombotic microangiopathy,TMA)は,造血幹細胞移植後に種々の原因で血管内皮が傷害され,検査値異常や臓器障害をきたす症候群である.その症状は,造血幹細胞移植以外の患者における溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome,HUS)や血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytepenic purpura,TTP)などの血栓性微小血管障害と類似しているが,後述するように治療への反応性や発症機序も異なるものと考えられるようになり,現在は造血幹細胞移植後TMA(transplant-associated TMA,TA-TMA)と呼ばれている.

 もともとは血管内皮細胞障害により血栓を形成する病態と考えられていたが,血小板血栓形成ではなく血管内皮障害が病態の本質と考えられるようになっている.そのため,TA-TMAの代わりに移植関連微小血管障害(transplant-associated microangiopathy,TAM)という用語が用いられることもある.

 発症頻度はさまざまに報告されており,0.5~76%と幅広い1~3).これは,診断基準が一定でなかったことが原因と考えられる.

オピニオン

臨床検査技師の大学院教育―現状と展望

著者: 野島順三

ページ範囲:P.708 - P.708

 近年,臨床検査診断学の進歩発展は目覚ましい.単に病名の診断にとどまらず,病態像の把握・有効な治療法の選択・治療効果の判定と予後の推定など,臨床検査診断学は臨床医学の主軸をなすものとなってきた.なかでも,診断・治療の根拠となる臨床検査データの収集を担当する臨床検査技師には,高い技術と柔軟性に富んだ卓越した専門知識が求められている.

 21世紀の医療現場が必要とする臨床検査技師は,以前のような単なる分析装置のオペレーターではない.チーム医療の一員として主体性と積極性をもち,“医師と対等に論議できる臨床検査技師”,“医師に対して診療支援のみならず研究支援ができる臨床検査技師”,“研修医や看護師を対象に臨床検査に関する教育支援ができる臨床検査技師”,“若い臨床検査技師の教育・育成ができる臨床検査技師”が求められている.さらに,大学病院や国公私立の基幹病院で働く臨床検査技師には,日常の検査業務以外にも自分たちの学問領域である臨床検査学をいっそう発展させるための研究・検討を行うことも要求される.

ワンポイントアドバイス

結石を繰り返す患者における尿沈渣(DHA結晶)

著者: 木村由 ,   原章規 ,   堀田宏 ,   和田隆志

ページ範囲:P.728 - P.729

はじめに

 再発率の高い尿路結石症の診断において,尿沈渣中の結晶は重要である.結石の主な構成成分は,日本臨床検査標準協議会(Japanese committee for clinical laboratory standards,JCCLS)尿沈渣法で通常結晶とされるシュウ酸カルシウム,リン酸アンモニウムマグネシウム,尿酸などであるが,先天性疾患の代謝異常で生じる異常結晶は,結石を生じる危険性が高いため特に注意しなければならない.しかし,異常結晶には通常結晶との鑑別が難しい結晶がある.このうち,尿酸塩は異常結晶の2,8-ジヒドロキシアデニン(2,8-dihydroxyadenine,DHA)結晶とよく似た形態を呈するため注意を要する.

 DHA結晶は,先天性疾患であるアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(adenine phosphoribosyltransferase,APRT)欠損症の尿沈渣中に認められる.DHA結晶は難溶性で腎毒性が強く,尿路結石症をきたし,腎不全に至る場合がある.

目指せ!一般検査の精度向上

―尿沈渣検査の精度向上:4―尿沈渣成分の鑑別―上皮細胞(異型細胞)―膀胱癌の臨床診療に迫る,異型細胞検索との関連性を求めて

著者: 藤利夫 ,   竹下律子 ,   小材和浩

ページ範囲:P.732 - P.736

はじめに

 尿路系腫瘍における尿中形態検査(尿沈渣,尿細胞診)は,内視鏡や画像診断での発見が困難な尿路上皮内癌や非乳頭状広基性で微小浸潤癌の発見に優れている.悪性細胞の検出だけでなく,組織型と細胞学的な異型度の推定も行い,治療効果の判定や再発監視など大きく鏡検技術の視点拡大が望まれている.特に,検尿から得られる尿沈渣は,被検者に苦痛を与えず繰り返し行うことができ,病態を疑う成分(円柱,結晶,細菌,真菌,原虫,虫卵など)および直接的な疾患に関連するような細胞成分(血球形態異常,異型上皮細胞)の検索にも有用である.

 本稿では,膀胱癌の診断と治療法からみた臨床病理学的背景を基盤とする尿中異型細胞検索の関連性について概要を記する.

今月の表紙

硝子化索状腫瘍

著者: 廣川満良 ,   前川観世子 ,   太田寿

ページ範囲:P.727 - P.727

【症例の概要】

 50歳代,女性.3~5年前から甲状腺腫大を自覚していた.最近,嚥下時の頸部違和感があり来院した.超音波検査にて右葉に5cm大の結節がみられ,穿刺吸引細胞診にて硝子化索状腫瘍と診断され,甲状腺亜全摘が行われた.

ラボクイズ

細胞診

著者: 高平雅和 ,   手島伸一

ページ範囲:P.730 - P.730

7月号の解答と解説

著者: 白井秀明

ページ範囲:P.731 - P.731

Laboratory Practice 〈生理〉

腎動脈エコーのコツ

著者: 久保田義則

ページ範囲:P.737 - P.742

はじめに

 腎動脈エコーの検査依頼は,その重要性が認識されてきたことに伴い大幅に増加している.超音波検査によりスクリーニングが可能であることが一般的に認識されてきたことも大きな要因である.本稿では,超音波検査による腎動脈エコーの検査技術に関して解説する.

〈診療支援〉

―臨床検査にITを活用する・1―病理でのインターネットの活用

著者: 宇於崎宏

ページ範囲:P.743 - P.749

インターネットの実際

 インターネットはメールやホームページの利用が一般的であるが,1989年のHTML(Hyper Text Markup Language)の発明(いわゆる“ホームページ”の作成が可能となった)とともに,文字と画像の発信が容易になった.病理診断では観察(画像)を元に診断(文字情報)を決定しており,インターネットを活用しやすい分野である.

 仕事での利用と,個人的な利用では,必要とする情報やサービスが違うが,次の二つが中心となる.①知識データベースとしての活用,②情報共有,情報発信としての活用.本稿では具体的な場面を挙げて,病理での活用の実際について,紹介したい.

〈微生物〉

CLSIが示した肺炎球菌に対するペニシリンの薬剤感受性判定基準の改訂について

著者: 村田正太 ,   渡邊正治 ,   野村文夫

ページ範囲:P.750 - P.752

はじめに

 臨床微生物検査における薬剤感受性試験の判定〔感性:Susceptible(S),中間:Intermediate(I),耐性:Resistant(R)〕は,多くの施設において米国臨床検査標準化委員会(Clinical and Labolatory Standards Institute:CLSI)に従った判定基準を用いている.2008年のCLSIドキュメント1)では,肺炎球菌に対するペニシリン(PCG)の判定基準が感染症別,抗菌薬投与方法別に設けられた.また,判定の報告方法やペニシリンの投与量も記載された.この内容は2009年にも引き継がれたことから,自施設での判定基準の変更をどうするか悩んでいる施設も多いと思われる.本稿では改訂内容について述べる.

緑膿菌

著者: 野竹重幸 ,   菊池賢

ページ範囲:P.753 - P.757

はじめに

 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は偏性好気性のブドウ糖非発酵性グラム陰性桿菌(glucose non-fermentative Gram-negative rod)で,代表的な日和見感染菌である.もともと,多くの抗菌薬に自然耐性を示し,獲得耐性も少なくない.近年の医療現場ではIVHカテーテルをはじめ医療器具装着患者などの易感染患者が増加傾向にあり,P. aeruginosaによる日和見感染症や院内感染の増加が危惧されている.

 本稿では,P. aeruginosaの菌種同定・薬剤感受性をはじめ,薬剤耐性緑膿菌(multidrug-resistant P. aeruginosa,MDRP)やクオラムセンシング機構(quorum-sensing system)など最近のトピックスについても触れる.

復習のページ

悪性中皮腫と卵巣癌との腹水細胞診における鑑別

著者: 濱川真治 ,   柏崎好美 ,   森一磨 ,   清水誠一郎

ページ範囲:P.758 - P.760

はじめに

 中皮腫は胸腔や腹腔,心囊,精巣鞘膜の体腔内面を広く覆う獎膜に発生する予後不良な悪性腫瘍であり,腹腔中皮腫は全中皮腫の約20%程度と言われている.中皮腫の診断は,アスベスト曝露の既往問診から始まり,鑑別抗体パネルによる免疫組織化学染色を加えた病理組織診断まで,総合的に判断される.そのなかで体腔液貯留のみの初期病変の状態で中皮腫を発見することが肝要であり,体腔液細胞診は重要な役割を担っている.

 一方で卵巣癌は婦人科癌のうちで最も死亡率が高い.その原因は早期発見が難しく,60~70%は進行癌で発見されることにある.しかし,中皮腫に比べ卵巣癌は化学療法に感受性を有し,手術療法や放射線療法などを併用し治療することで完全寛解を得て,長期生存も期待できる.したがって,腹膜中皮腫と卵巣癌の細胞学的鑑別は,治療および予後の観点からも重要であることに異論はない.

 体腔液に出現する悪性細胞の80%以上は腺癌細胞であるが,中皮腫細胞の異型が強い場合,胸水では肺癌や乳癌など,腹水では卵巣癌(特に漿液性腺癌)や消化器癌との形態学的鑑別に苦慮することもある.また,細胞異型が弱い中皮腫の場合,“反応性中皮細胞”との鑑別が難しいこともある.これら中皮腫細胞鑑別が困難なことの背景には,中皮腫細胞の多彩な出現パターンあるいは多様な細胞像が存在すると考えられる.

 そこで本稿では,体腔液細胞診における中皮腫と卵巣漿液性腺癌の細胞学的鑑別,および鑑別抗体パネルによる免疫組織化学染色の有用性とピットフォールについて症例を呈示して解説する.

臨床医からの質問に答える

唾液中コルチゾール測定はクッシング症候群の診断に有用か?

著者: 櫛引美穂子 ,   崎原哲 ,   保嶋実

ページ範囲:P.766 - P.768

はじめに

 クッシング症候群(Cushing's syndrome,CS)はコルチゾール(compound F)の慢性的な過剰状態により,高血圧,高血糖,脂質代謝異常,骨代謝異常,免疫能低下などさまざまな障害が引き起こされる症候群である.本症候群は,高コルチゾール血症の原因により,副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone,ACTH)依存性CSと非依存性CSに大別される.ACTH依存性CSには,下垂体のACTH産生腺腫が原因のクッシング病(Cushing's disease,CD)と異所性ACTH産生腫瘍が含まれ,ACTH非依存性CSは,大部分がコルチゾール産生副腎腺腫で,副腎性CS(adrenal Cushing's syndrome,AdCS)と呼ばれる.

 CSは,無治療では予後不良の疾患である.1950年代の報告には,治療されていないCDの多くが重篤な血管障害(心筋梗塞,脳梗塞など)や感染症を併発し,平均余命5年未満,5生率50%だったと記されている1)

 最近は,外科的・内科的治療介入によりCSの予後は著しく改善しているが,ACTH依存性CSの場合は,依然上記のような合併症が致命的な状態まで進行している症例が存在する.CDも異所性ACTH産生腫瘍も外科的に腫瘍の完全摘出が困難な場合が多く,有効な内科的治療法も確立されていない現状では,腫瘍が残存した場合は,コルチゾールのコントロールができなくなることが原因の一つである.また,診断に必要な検査が煩雑なため,患者側からも医療者側からも精査が敬遠され,診断と治療の開始が遅れることも一因になっている可能性がある.

けんさ質問箱

新鮮凍結血漿(FFP-LR)の単位と容量の関係は?

著者: 竹ノ内康司

ページ範囲:P.761 - P.763

Q.新鮮凍結血漿(FFP-LR)の単位と容量の関係は?

 新鮮凍結血漿(FFP-LR)の単位と容量の関係について教えてください.(東京都 S.S.生)

 

A.竹ノ内康司

 日本赤十字社では,輸血用血液製剤に対する安全対策強化の一環として保存前白血球除去を順次実施し,2007年1月16日採血分からは,全血採血(200,400mL)についても白血球除去を行っており,輸血用血液製剤となるすべての原料血液について保存前白血球除去がなされています.

 全血採血由来保存前白血球除去製剤である新鮮凍結血漿-LR「日赤」(FFP-LR:fresh frozen plasma-leukocytes reduced)の容量については,従前の新鮮凍結血漿「日赤」(略号:FFP-1,FFP-2)のそれぞれ1.5倍量となっています.新鮮凍結血漿は,赤血球濃厚液,濃厚血小板の調製方法と密接に関係していたことから,その調製方法の大きな変更について説明します..

臨床検査関連学会・研究会の紹介

日本病理学会―日本病理学会への誘い

著者: 村田哲也

ページ範囲:P.764 - P.765

日本病理学会の歴史と事業

 1) 日本病理学会の歴史

 日本病理学会(以下,病理学会)は明治44年(1911年)に創設された,わが国でも有数の歴史のある学会の一つです.病理学は「病気になる仕組み,病気の分類」を解明する学問領域であり,医学の基本として,医学教育にも臨床医学にも重要な位置を占めています.病理学会は日本医学会の一分野でもあり,学会員の多くは医師ですが,病理学研究や研究開発に携わる医師以外の人たちも多く参加しています.現在,約4,000名の会員を有し,学会員のおおよそ8割が日本の医師ですが,それ以外にも歯科医師や日本国外の資格を有する医師,そして臨床検査技師など,病理学に関係する医療関係者の人たちが病理学会の会員として活動しています.

 わが国では病理学は基礎医学の一部門として導入された歴史があり,長らくわが国では病理学に携わる医師は「病理学者」あるいは「病理学研究者」と位置づけられてきました.伝統的に実験病理学に重きが置かれ,世界で最初に動物での発癌実験に成功した東大病理の山極教授のグループをはじめとして,現在まで世界の先端を走る業績をあげたわが国の病理学者はたくさんいます.第二次世界大戦後にわが国にも米国流の医学教育が導入されてからは病理診断学の重要性にも注目が集まってきました.

 現在では実験病理学・病理診断学ともに病理学会の重要な活動領域となっています.1999年から病理学会は社団法人化されました.「病理学に関する学理およびその応用についての研究の振興とその普及を図り,もって学術の発展と人類の福祉に寄与する」ことが病理学会設立の趣意となっています.

トピックス

使い捨て手袋が生化学項目の測定に及ぼす影響

著者: 鷹取明美 ,   北舘克憲 ,   矢澤直行 ,   木村聡

ページ範囲:P.769 - P.771

はじめに

 院内感染を防御するため,医療施設では感染対策を実施している.検査室は感染者の検体を扱うため,とりわけ感染リスクが高い.感染防御を目的に,手袋の着用が必須とされるが1),手袋にはラテックスなど粉末をまぶしてある商品が少なくない.一方,装着した手袋と試料が接触する機会は,稀ながら経験するところである.

 筆者らは日常の精度管理で,管理血清のCaが管理域を超える高値となり,経時的に上昇し続ける現象を経験した.不思議なことに,この現象は管理血清だけで起こっており,原因を調べたところ,管理血清にCaが混入したことが推測された.混入源を精査すると,検査に使用していたラテックス製の粉付き使い捨て手袋が強く疑われた.そこで使い捨て手袋に付着する粉末が,生化学検査に及ぼす影響について検討したところ,興味あるデータ2)を得たので紹介する.

カーボンナノチューブ電極

著者: 後藤正男

ページ範囲:P.771 - P.773

■カーボンナノチューブを取り巻く全体像

 近年,カーボンナノチューブが電子,電気,材料,エネルギー分野などで新しい素材として注目されている1).しかし,電極素材としては,その可能性が十分に明らかにされているとは言えない.白金やグラッシーカーボンなどの従来の電極と比較して,どのような特徴をもつ素材なのか,不明の状態と言える.

 カーボンナノチューブはカーボンでできた直径が“ナノ”メートルの“チューブ”状の物質である.グラファイト層を丸めてつなぎ合わせたような構造を有し,グラファイトと同じπ電子を有している.このため,カーボンナノチューブの電気的な特性が発現する.カーボンナノチューブは,多様な構造をもっており.グラファイト層が1枚だけのもの(単層ナノチューブ)と複数枚を同心円状に重ねたもの(多層ナノチューブ)が存在する.多層ナノチューブは,一般的には内部に中空構造を有している中空型(図1)と,竹のように途中に節のある竹型のカーボンナノチューブがある(図2).竹型構造のものは構造内にクラック(C-C結合が切断している部分)を有し,電子が移動しやすいと言われている.

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あとがき

著者: 矢冨裕

ページ範囲:P.774 - P.774

 現在,鬱陶しい梅雨の季節ですが,本号が皆様のお手元に届きます頃は,きっと夏の真っ盛りと思います.世の中のほうは,長らく続いております世界金融危機に発した経済不況により,閉塞感が漂ってきておりますが,今朝のニュースでは,景気を示す指標が回復傾向にあるとのことです.また,破綻したアメリカの某大自動車メーカーが,その破綻からわずか1か月で再建に向けて順調に推移しているとも報道されています.これまた,やはり,本8月号がお手元に届く頃には,さらに,良くなっていることを願うものです.これが回り回って,医療の世界,さらには,臨床検査の世界にも良い影響が出てくることを期待するものです.

 本号では,いつもにもまして本格的な論文が満載されています.「病気のはなし」では,「家族性高コレステロール血症」が取り上げられています.この病気の最新の診断・治療を理解することは,遺伝性疾患としては頻度が高い本症の理解のみならず,メタボリック症候群や生活習慣病とは切り離せない脂質異常症の理解に大きな助けになると思います.「技術講座」では,Basedow病をはじめとする甲状腺疾患の診断に重要な甲状腺刺激ホルモンレセプター抗体,細胞診検査にとってもその理解が必須となりつつある神経内分泌腫瘍,さらには,造影超音波検査が注目されている腹部超音波検査が取り上げられています.生化学検査,病理検査,生理検査,それぞれの最新の知識をアップデートしていただけるものと考えております.ほかにも,読み応えがありかつ,役立つ記事が満載されています.

 経済をはじめ,世の中の動向には浮き沈みがありますが,学問は発展する一方であり,絶え間ない勉学が必要です.ぜひ,本号をご熟読くださり,真夏のステップアップにお役立ていただけますことを念願しております.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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