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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術37巻9号

2009年09月発行

雑誌目次

病気のはなし

メニエール病

著者: 渡辺行雄

ページ範囲:P.780 - P.784

サマリー

 メニエール病は,消長する聴覚症状を伴っためまい発作を反復する最も典型的な末梢性めまい疾患であり,その病態は内リンパ水腫である.誘因なく発生するめまい発作を高頻度に反復するために社会生活への影響が大きく,また,病期進行に従って難聴が増悪し不可逆化する難病性の高い疾患である.本稿では,メニエール病の病態,症状,検査,治療,疫学的特徴について概説する.

技術講座 生理

―臨床生理検査シリーズ・12―超音波検査―臨床編(体表臓器)

著者: 尾羽根範員

ページ範囲:P.785 - P.791

新しい知見

 乳腺,甲状腺をはじめとする体表臓器領域は,体表面に近いため超音波の減衰が少なく詳細な観察が可能で,以前から超音波検査のよい対象とされている.こと乳腺に関しては,乳癌検診への超音波検査導入に関するトライアルが行われていることもあって特に注目を集めている.装置に関しては,近年のフルデジタル超音波診断装置の開発により,体表臓器領域で用いられる高周波探触子の分解能が格段に向上したことが挙げられる.さらにコンパウンド処理など画像処理の多様化や,基本となるBモード画像に加えて組織の硬さを可視化して表示するエラストグラフィなど,各種の新しい機能がリリースされている.

生化学

―ホルモンの測定シリーズ・6 甲状腺・副甲状腺系:4―サイログロブリン(Tg),抗サイログロブリン抗体(TgAb),抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)

著者: 池田斉

ページ範囲:P.793 - P.797

新しい知見

 サイログロブリン(thyroglobulin,Tg)は,甲状腺濾胞細胞で作られる甲状腺特異的な糖蛋白である.血中のTg測定により,甲状腺癌の手術後の経過フォロー,術後再発や転移の診断に役立つ.一方,Tg低値の疾患(現在の測定では感度が十分でないため,健常人との鑑別はできないが)として先天性Tg合成障害が注目されている.Tg合成障害は,先天性甲状腺機能低下症の原因となり甲状腺腫を有することが多く,主にTgの遺伝子異常によって起こる.発症頻度は,67,000人に1人で常染色体劣性遺伝である.わが国では39種以上のTg遺伝子異常が報告されている.甲状腺自己抗体として,抗Tg抗体,抗TPO抗体があるが,自己免疫性甲状腺疾患であるバセドウ病(Basedow's disease),橋本病(慢性甲状腺炎)の診断に必須である.両者とも,以前は凝集法による半定量法(サイロイドテスト,マイクロゾームテスト)で行われていたが,現在では,Tgや甲状腺ペルオキシダーゼ(thyroid peroxidase,TPO)を標識抗原としたラジオイムノアッセイ(radioimmunoassay,RIA),酵素免疫測定法(enzyme immunoassay,EIA)などの定量法で測定されている.これらは従来法より感度,特異性ともに格段に向上しており,特に橋本病の診断に寄与している.

血液

トロンボエラストグラム

著者: 竹田知広 ,   櫻井嘉彦

ページ範囲:P.799 - P.804

新しい知見

 外傷患者における線溶亢進の診断にROTEM(R)が有用であるという報告がLevratら1)によってなされた.外傷患者23名にROTEM(R)解析(組織因子を用いるEXTEMモード)とユーグロブリン溶解時間を行い,ROC(receiver operating characteristic)解析によりROTEM(R)パラメーター(最大凝固塊堅性および凝固塊溶解指標)における線溶亢進基準値を決定した.この基準値を用いて,外傷患者87名を検討したところ5名に線溶亢進を認めた.ROTEM(R)で線溶亢進を呈する患者は外傷重傷度スコア,死亡率ともに有意に高く(p<0.05),ROTEM(R)が重症外傷患者の線溶亢進を早期に正確に検出しうる.

疾患と検査値の推移

造血器腫瘍とWT1遺伝子発現量の推移

著者: 今井順子 ,   大蔵照子 ,   日紫喜芳美 ,   森下芳孝

ページ範囲:P.805 - P.810

はじめに

 WT1遺伝子(Wilms tumor gene 1)は,小児の腎腫瘍であるウィルムス腫瘍の原因遺伝子として単離され1,2),その働きはジンクフィンガー型の転写因子である.WT1遺伝子の欠失や突然変異によりウィルムス腫瘍が発生すると考えられ,癌抑制遺伝子として位置づけられていたが,近年WT1メッセンジャーRNA(messenger RNA,mRNA)が造血器腫瘍において白血病細胞株および急性白血病検体に発現していることが報告された3,4)

 現在では,WT1 mRNA測定はキメラ遺伝子などのマーカーとなるものが見つからない造血器腫瘍の治療経過観察モニターとして用いられている.WT1 mRNAを高感度リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction,PCR)定量法で測定することにより微小残存病変(minimal residual disease,MRD)の把握が可能となってきた.表1にMRD検査の有用性,図1に造血器腫瘍の治療と診断の流れを示す.

 本稿では,当院で測定している造血器腫瘍キメラ遺伝子(PML/PARα,AML1/MTG8,major BCR/ABL,minor BCR/ABL)に対してWT1 mRNAの発現量の推移を観察した.また,表2に代表的な病型特異的染色体転座と融合遺伝子を示す.

オピニオン

日本のために強いリーダーシップを

著者: 堀場厚

ページ範囲:P.792 - P.792

 私は子どもの頃から模型や乗り物に興味をもち,ごく自然に祖父や父の選んだ専門と同じ理学部の物理に進み,仕事も父の創業した堀場製作所の米国子会社に就職した.父の会社であると言うことだけではなく,自分の最も興味のあった分野である“分析”にかかわる仕事ができるという魅力が入社の大きな動機となった.米国では,仕事上で必要性を強く感じた電気工学の知識を得るために,カリフォルニア大学の工学部に編入したが,優れた教授や素晴らしい教育システムに出会い,多くのことを学ぶことができ,多くの素晴らしい友人を得た.今に至るまで継続する親交のなかで“科学と技術”という共通の興味が重要な役割を果たしていることに大きな幸せを感じている.

 私は現在,社団法人日本分析機器工業会の会長を務めているが,社会に出てから一貫して“分析”を生業としてきて日頃感じていることを述べてみたいと思う.

ワンポイントアドバイス

救命救急医療の現状と緊急輸血体制―危機的出血への対応ガイドライン

著者: 齋藤伸行

ページ範囲:P.812 - P.813

■危機的出血という考え方

 日本麻酔科学会ならびに日本輸血・細胞治療学会によって作成された「危機的出血への対応ガイドライン」(以下,ガイドライン)では“危機的出血”という表現を採用している.これは出血が危機的であるか否かは出血と輸血の量・速度のバランス,さらには患者の臓器予備能,出血発生前後の薬剤の使用という複数の因子によって影響されること,さらに出血に起因する心停止の予後が極めて不良であることが考慮されたためである.

 つまり,“危機的出血”とは,以下のような状態を指す.
①大量出血
②急速出血
③輸液・輸血が遅れる事態のいずれかが発生し,患者状態に応じた酸素供給量を維持できない状態,あるいは維持できなくなることが予想される状態

目指せ!一般検査の精度向上

―尿沈渣検査の精度向上:5―尿沈渣成分の鑑別―上皮細胞類(卵円形脂肪体,円柱上皮細胞,封入体細胞,大食細胞)

著者: 友田美穂子 ,   八木靖二 ,   上東野誉司美 ,   佐藤恵美

ページ範囲:P.816 - P.819

はじめに

 本稿のテーマに挙げられたこれらの細胞は,尿沈渣を鏡検している臨床検査技師にとって比較的苦手意識の強い細胞ではないかと思われる.その理由として,頻繁に出現しない,ほかの細胞と類似した形態を示すことが多い,などが挙げられるであろう.これらの細胞を鑑別するためには,いかにそのポイントを確実に捉えておくかが重要となる.本稿では細胞の特徴的な所見や出現時の背景,疾患などについて,最近の考え方,私見を交えて述べる.

今月の表紙

アミロイドーシス

著者: 田中道雄 ,   常深あきさ ,   高野誠 ,   江里口貴久 ,   辰本明子 ,   手島保

ページ範囲:P.798 - P.798

【症例の概要】

 69歳,女性.呼吸苦を主訴に来院し,急性心不全の診断で救急入院.胸部X線では両肺野の高度うっ血,著明な心拡大を認め,心電図では異常Q波(V1~4),心室性期外収縮の多発,肢誘導の低電位を認めた.心エコーでは,心室壁厚の増加,心室中隔を主体とする輝度の亢進,拘束性のパターンが認められた.冠動脈造影は正常,左室圧および右室圧は拡張期にdip and plateauを示した.右室心内膜心筋生検でアミロイドの沈着を比較的多量に認めた.免疫電気泳動でκ型軽鎖増加,血中γグロブリンは増加なく,Bence-Jones蛋白陰性.胃十二指腸生検でもアミロイド沈着がみられ,全身性ALアミロイドーシスと診断した.化学療法を施行するも,心不全の悪化を主体に,約9か月の経過で死亡.

ラボクイズ

微生物

著者: 永沢善三

ページ範囲:P.814 - P.814

8月号の解答と解説

著者: 高平雅和 ,   手島伸一

ページ範囲:P.815 - P.815

Laboratory Practice 〈生理〉

頸動脈エコー検査のコツ

著者: 濱口浩敏 ,   今西孝充

ページ範囲:P.820 - P.825

はじめに

 頸動脈エコー検査は,頸動脈硬化の判定,全身動脈硬化の推定,脳血管障害の原因および危険因子の推定などに汎用されている.頸動脈エコー検査は非侵襲的であり,ベッドサイドで繰り返し施行できるため,非常に有用な検査法である1).本稿では,頸動脈エコー検査の手法と評価方法について紹介する.

〈診療支援〉

―臨床検査にITを活用する・2―検査部におけるホームページの活用

著者: 盛田和治 ,   横田浩充 ,   矢冨裕 ,   和田麻沙

ページ範囲:P.826 - P.829

はじめに

 いまやインターネットを通じて,世界中のありとあらゆるWWW(World Wide Web)サイト(ホームページ:以下,HP)を閲覧でき,必要な情報を簡単に入手することができるようになった.そしてわが国の医療機関に関して言えば,2002年4月1日に施行された医療機関の広告規制の緩和によって1),医療機関が広告できる事項の一つとしてHPアドレスが追加された.その結果,現在インターネット上に多くの医療機関のHPが開設され,情報が提供されている.

 ひと口にHPと言っても,その対象や目的によってどのような情報を公開するかは異なる.例えば,インターネットを通じて一般(全世界)にHPを公開する場合とLAN(Local Area Network)によって施設内でのみHPを公開する場合とでは,後者のほうがより専門的な情報が多く含まれることになるだろう.

 本稿では,LANによって施設内でのみHPを公開する場合を取り上げ,検査部の臨床検査におけるHP活用の実際を紹介する.

〈病理〉

乳癌治療後の子宮内膜細胞診にみられる異型細胞

著者: 鈴木博 ,   岩崎秀昭 ,   堀内文男

ページ範囲:P.830 - P.833

はじめに

 近年,乳癌術後の補助化学療法として抗エストロゲン製剤のタモキシフェンが一般的に用いられ長期投与可能な薬剤としてその有用性が認められている.その一方でタモキシフェンの長期服用者に子宮内膜癌を含む増殖症病変が発生しやすいことが報告されている1,2).タモキシフェンは本来乳癌に対して抗エストロゲン作用を示すが,長期間投与することで子宮内膜に対して弱いエストロゲン様作用を示すといわれる3).しかしタモキシフェン投与後の内膜細胞診の報告はいずれも症例数が少なく,その細胞像は明らかになっていないのが現状である.今回タモキシフェン投与後の,子宮頸部,内膜の細胞の出現様式について検討した.

〈生化学〉

糸球体濾過量の評価

著者: 小西文晴 ,   要伸也

ページ範囲:P.834 - P.837

はじめに

 最近,慢性腎臓病(chronic kidney disease,CKD)の概念が普及し,すべての腎疾患において糸球体濾過量と尿蛋白量を評価することが求められている.本稿では,このうち糸球体濾過量の測定の仕方や評価の際の注意点について述べる.

〈一般〉

自動血球分析装置を用いた髄液細胞の解析

著者: 奈良豊

ページ範囲:P.838 - P.843

はじめに

 髄液一般検査はMRIやCTなどの画像診断が目覚ましく発展を遂げた現在でも欠くことのできない検査であり,特に細胞検査は急速な治療を要する中枢神経疾患の診断や治療経過観察のため重要である.現在の細胞検査法はマイクロピペットを用いてサムソン液で希釈し,フックス・ローゼンタール(Fuchs-Rosenthal)計算盤による目視法で行うことが推奨されている1).だが,計算盤上での細胞はフクシン色素の単染色であり,また,ボール状の形状で計算盤に沈んでいる状態にある.これを顕微鏡で観察すると細胞の観察方向によっては多核球の核の形状が単核球に見えることがあり,精度の高い技術が必要となる.さらに中枢神経感染症の早期診断に必要不可欠な検査であるため,緊急性が非常に高く,当直を行う専門外の技師にとっては大きな負担であり,また,施設によって測定方法が統一されていないなどの理由から自動化が望まれていた2,3).これらの背景を受けて各社より髄液および体液の細胞測定が可能な自動血球分析装置が開発されている.

 本稿ではシーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス社の自動血球計数装置ADVIA(R)120のオプション機能として開発された髄液細胞自動測定法4)の性能と目視法との評価について述べてみたい(後継機種として同測定を標準装備したADVIA(R)2120も発売されている).

〈微生物〉

Propionibacterium acnesとサルコイドーシス

著者: 江石義信

ページ範囲:P.844 - P.848

サルコイドーシスとは

 サルコイドーシスは肉芽腫性疾患のなかで最も遭遇する機会の多い病気である.肺,リンパ節,皮膚,眼,肝,脾,心,骨格筋,腎,脳神経など全身諸臓器に乾酪壊死のない類上皮細胞肉芽腫が形成され多彩な臨床症状を呈する.なかでも両側肺門リンパ節腫脹(bilateral hilar lymphadenopathy,BHL)や肺野病変は患者の9割以上に認められる.本症患者のなかには無症状の人もおり,検診でBHLを指摘され内科に紹介される患者も多い.最近ではぶどう膜炎による眼症状を主訴に眼科初診となる患者が増加している.眼,心,脳神経など臨床症状が出やすい臓器障害の場合はステロイド治療の対象となるが,生活に支障となる症状がなければ無治療で経過観察されることも多い.本症に自然治癒例が存在することも事実である.本症は概して良性の経過をたどるが,約3割の患者では慢性化や再発を繰り返し難治化する.難治性患者に対する長期ステロイド投与は副作用も多く,その治療成績に関しても多くの問題を抱えている.原因に対する根本的治療法が切望されている所以である.

臨床医からの質問に答える

CK-MBの値が総CK値よりも大きいことがあるのはなぜか?

著者: 金光房江

ページ範囲:P.849 - P.853

はじめに

 当院では免疫阻害法でクレアチンキナーゼ(creatine kinase,CK.EC2.7.3.2)-MBを測定しているが,しばしばCK-MBが総CK活性の25%以上になる偽高値例に遭遇する.近年では,CK-MBが総CK活性以上に上昇している逆転例が珍しくない.このような傾向は当院のみとは思われず,逆転の原因と具体例からみた意義について述べる.

臨床検査フロンティア 検査技術を生かせる新しい職種

第1種ME技術実力検定試験

著者: 小野哲章

ページ範囲:P.854 - P.856

はじめに

 日本生体医学学会(旧日本エム・イー学会)は,1977年にME技術教育委員会を設置してME技術に関する教育・啓蒙のあり方を検討し,1979年にME機器の安全・適正な使用と管理に関する知識・技術を習得させるためのME技術講習会と,これらに関する能力を検定するME技術実力検定試験制度をスタートさせた.まず,ME機器を扱うすべての人がもつべき基礎知識と安全技術に関する検定試験である第2種ME実力検定試験を1979年に開始し,次いで,これらの人々の指導者たる資質を検定する第1種ME実力検定試験を1995年に開始した.2008年までに,第2種ME実力検定試験は述べ59,017人が受験し19,550人が合格,第1種ME実力検定試験は延べ5,079人が受験し1,222人が合格している.本稿では,上位検定である第1種ME実力検定試験制度の概要を紹介する.

けんさ質問箱

病理検体(臓器や標本など)の保存期間はどのくらいか?

著者: 井藤久雄

ページ範囲:P.860 - P.863

Q.病理検体(臓器や標本など)の保存期間はどのくらいか?

 細胞診パパニコロウ(Papanicolaou)標本(陰性,陽性),組織HE標本,組織ブロック,手術材料や解剖材料は,どのくらいの期間保存しなければならないのでしょうか.(和歌山県日高郡 S.K.生)

 

A.井藤久雄

 病理部門には細胞診断,生検あるいは手術や病理解剖から得られた検体や試料が大量に保管されている.病理診断終了後に保管されている病理検体の取り扱いに関しては,医療現場を担当するすべての医療者は現状を把握して,適切な認識を共有する必要がある.他方,病理検体の保存期間を定めた規則やガイドラインはなく,そもそも所有権さえ曖昧なのである.

 そこで,本稿では日本病理学会倫理委員会で検討した内容を紹介し,現時点における最大公約数的な考え方を私見として述べる.なお,病理検体を「病理臓器」と「病理標本」に区分する.病理臓器とは,未固定および固定された細胞,組織,臓器であり,病理部門でさらなる加工が加えられていない.病理標本は病理部門で加工されたすべての検体であり,これにはパラフィンブロック,プレパラート,肉眼・顕微鏡写真などが含まれる.病理標本は病理のラボでいったん加工が加えられており,帰属に関する法的根拠はより曖昧である.

臨床検査関連学会・研究会の紹介

日本臨床化学会―基礎と臨床,研究と実践を融合する学会

著者: 後藤順一

ページ範囲:P.857 - P.859

はじめに

 日本臨床化学会は,“臨床”という実践に立脚した臨床化学,およびこれに関連する分野の進歩発展を図ることを目的として組織されました.臨床化学を構成する多様な専門領域の研究を十分に踏まえつつ,相互間の交流を図り,さらに全体として有機的に統合して,医療に貢献することを大きな目的としています.

トピックス

ヘモビジランス(血液安全監視体制)とは

著者: 浜口功

ページ範囲:P.864 - P.866

はじめに

 ヘモビジランス(haemovigilance:血液安全監視体制)はもともとファーマコビジランス(pharmacovigilance)という薬剤の副作用のモニタリングから出てきた言葉であり,血液製剤も薬剤と同様にその副作用をモニタリングするべきという考え方に基づいている.ヘモビジランスで取り扱う血液製剤は原料がヒトの血液であり,ウイルスの安全性の観点からも,特段の注意を払う必要がある.また輸血を受ける側だけでなく,血液を提供する供血者側の安全性,特に採血の際の問題まで含めた監視体制が必要になる.さらには輸血用バッグなど,血液本体以外の品質保持にかかわる問題もモニターするような動きも含まれるようになってきている.

 このように,採血から輸血までの一連の過程を監視することでより安全な輸血医療に貢献することが可能となる.すなわちヘモビジランス(血液安全監視体制)は“献血者の選択から患者の追跡調査に至るまでの輸血の全過程を前向きに監視することによって,有害および未知の事象を検出し,その原因を分析・評価し,必要な対応策を示しあるいは事前に警告を発するなどによって有害事象の再発および被害の拡大を防ぐこと”と定義できる.

髄液中のアポリポ蛋白Eの臨床的意義

著者: 山内一由

ページ範囲:P.866 - P.868

■髄液中に存在する中枢神経組織由来のアポリポ蛋白E

 1 . アポリポ蛋白Eとは

 アポリポ蛋白(アポ)Eは299個のアミノ酸からなる分子量約34kDaの糖蛋白であり,低比重リポ蛋白(low density lipoprotein,LDL)リセプターあるいはLDLリセプター関連蛋白(LDL receptor related protein)のリガンド蛋白として脂質の輸送および細胞内への取り込みといった機能を担っている1).一般的に,アポEには独立した対立遺伝子(ε2,ε3,ε4)によってコードされるアポE2(Cys112,Cys158),アポE3(Cys112,Arg158),アポE4(Arg112,Arg158)の3種類のアイソフォームが存在し,それらの組み合わせによって,ホモ接合体3種類(アポE2/E2,E3/E3,E4/E4),ヘテロ接合体3種類(アポE2/E3,E2/E4,E3/E4),計6種類の表現型(フェノタイプ)が存在する.

 アポEの主要な産生臓器は肝臓であるが,アストロサイトやグリア細胞をはじめとする脳神経組織でも豊富に産生され,髄液中の主要アポ蛋白として存在する2).脳神経組織由来の髄液中のアポEは体循環系のアポE,すなわち,肝臓由来のアポEと完全に独立しており脳血液関門(blood-brain barrier)を通過しない.このことは,肝臓移植後の患者で血中のアポEフェノタイプはドナー型に変わったのに対し,髄液中のアポEのフェノタイプは移植前と変化していなかったというLintonら3)の知見が裏付けている.

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あとがき

著者: 曽根伸治

ページ範囲:P.870 - P.870

 夏は,いかがお過ごしになられましたでしょうか.

 今年は梅雨でも全国的に雨が少なく,夏の水不足が心配されましたが,7月末から一転して各地で大雨が降り多くの被害が出てしまいました.われわれには自然の力をどうすることもできませんが,異常気象を起こさないように環境に配慮することは可能で,臨床検査も無駄なく効率性が重要です.秋は検査関連の学会や講演会が多く開催されます.ぜひ多くの研修会に参加され,本誌も十分活用して臨床検査の知識や技術向上を図っていただきたいと思います.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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