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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術38巻1号

2010年01月発行

雑誌目次

病気のはなし

マクログロブリン血症

著者: 河野道生

ページ範囲:P.6 - P.10

サマリー

 マクログロブリン血症は,IgMを産生するBリンパ球が単クローン性(腫瘍性)に増殖している疾患である.主に骨髄とリンパ節を増殖の場としており,その増殖による骨髄抑制,特に貧血と血小板減少,加えるに腫瘍細胞が産生するIgMの著明な増加による過粘稠度症候群が起こる.診断には,増加しているリンパ球の同定,特にリンパ球表面抗原解析が必須である.病気の進行は緩徐であるが,現在行われている化学療法には抵抗性であり予後は不良である.

技術講座 病理

―シリーズ:穿刺細胞診の手技と読み方―4.悪性軟部腫瘍の細胞診

著者: 加藤拓

ページ範囲:P.11 - P.16

新しい知見

 軟部腫瘍における新たな分類として新WHO分類が2002年に提唱された.この組織分類の基準は組織起源に基づくのではなく,細胞の分化を追及するものとなっている.これによると最も注目されるポイントとして悪性線維性組織球腫(malignant fibrous histiocytoma,MFH)の分類が挙げられる.悪性軟部腫瘍で最も発生頻度が高いとされるMFHで粘液型の一部は粘液線維肉腫へ,類血管腫型は分化不明腫瘍に分類された.また,MFHの同義語として未分化多形性肉腫が挙げられた.将来的に除外診断によって残されたものが未分化多形性肉腫と命名され,最終的に成人軟部腫瘍の5%程度になると予想されている.いずれMFHの名称はなくなることとなる.

生化学

―ホルモンの測定シリーズ・10 副腎系:3―血中・尿中カテコールアミン,尿中メタネフリン,ノルメタネフリン

著者: 磯部和正

ページ範囲:P.17 - P.21

新しい知見

 カテコールアミン測定に関する新しい知見としては,数年前よりイムノアッセイ系が開発され,さらにキット化され普及してきたことが挙げられる.カテコールアミンは低分子であり良好な抗体を得にくかったが,アシル化メタネフリン抗体と化学反応を組み合わせて測定系を作り上げている.微量サンプルの測定に適している.また,高額な分析機器が不要であり,同時測定が可能な利点がある.血中遊離メタネフリン測定の褐色細胞腫診断における有用性が認識され欧米において普及してきたことも特筆すべきことである.これは遊離メタネフリンが腫瘍組織において産生され持続的に放出されるためその診断感度が高いことによる.残念ながらわが国においてその測定は普及しておらず,現状では測定キットを海外より輸入して自前で測定する以外にない.カテコールアミンをメンタルヘルスのマーカーと捉え,高感度簡便に測定する“メンタルヘルスチップ”の研究開発が産業技術研究所の福田伸子先生らのグループにより行われている.

生理

心エコー図を用いた左室拡張機能評価

著者: 小林裕美子 ,   竹田泰治 ,   山本一博

ページ範囲:P.23 - P.28

新しい知見

 わが国の死因統計によれば第2位が心疾患であり,その大半を心不全が占めている.従来心不全患者の心機能評価を行う際には,左室収縮機能に重点が置かれてきたが,30~40%の患者は収縮機能障害を伴わず,拡張機能障害が主病態であることが明らかとなった.また,収縮機能障害を有する患者においても,拡張機能は独立した重症度規定因子である.心エコー図は心不全の基礎疾患の診断のみならず,拡張機能を含む病態の把握において重要な情報を提供してくれる検査である.

疾患と検査値の推移

真性赤血球増加症

著者: 桐戸敬太 ,   小松則夫

ページ範囲:P.30 - P.36

はじめに

 真性赤血球増加症(polycythemia vera,PV)は,造血幹細胞レベルで生じた異常により過剰な骨髄系細胞の増殖をきたす骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms,MPN)の一病型であり,特に赤血球系造血の亢進を特徴とする.MPNにはこのほかにもいくつかの疾患が分類されているが,造血幹細胞レベルにおいて,チロシンキナーゼの恒常的な活性化をきたす変異が生じることが共通の病因と想定されている.

 例えば,慢性骨髄性白血病(chronic myelogeous leukemia,CML)では相互転座によって形成されたフィラデルフィア染色体上のBCR-ABL融合遺伝子の産物が強いチロシンキナーゼ活性を示すことはよく知られている.PVについても,2005年に細胞質内チロシンキナーゼ分子の一つであるJanus kinase 2(JAK2)の遺伝子変異が高率(90%以上)にみられること,またこの変異によりJAK2の恒常的活性化が起こることが明らかになった.

 その後の基礎および臨床研究の展開は急激であり,2008年に発表されたWHO分類の第4版では,JAK2変異の有無はPV診断における二つのメジャー・クライテリアのうちの一つの地位を占めるに至っている.さらに,JAK2変異の存在の有無を定性的に調べるだけでなく,その遺伝子座(allele)の定量化,すなわち“allele burden”は,血栓症のリスク予想や,ハイドロキシウレアあるいは現在開発が進められているJAK2阻害剤などの治療効果のモニタリングにも精力的に用いられている.わが国では,まだJAK2変異解析は個別に研究室レベルで行われているに過ぎないが,本稿では今後のPV診療に不可欠なこのJAK2変異解析の現状について述べる.

座談会 21世紀の臨床検査

特定健康診査における検査の実際と課題

著者: 山門實 ,   中川徹 ,   加藤隆則 ,   桑克彦

ページ範囲:P.52 - P.61

わが国の平均寿命は世界でも高い水準にある.しかし,高齢化の急速な進展に伴い疾病構造も変化し,疾病全体に占める虚血性心疾患,脳血管疾患,糖尿病などの生活習慣病の割合は増加している.このような背景のもと,2005年に取りまとめられた「医療制度改革大綱」に基づき法案化された「健康保険法等の一部を改正する法律」によって,2008年4月から医療保険者に,40~74歳の被保険者および被扶養者を対象とした健康診査(特定健康診査)と保健指導(特定保健指導)の実施が義務づけられた.本座談会では,スタートから2年あまりが経過した特定健康診査における臨床検査の実際と課題,および今後期待される新しい検査項目について語っていただく.

オピニオン

県立病院の独立法人化に向けた取り組み―「制度設計」は患者のために,そして私たちの未来につなぐ道標

著者: 宮島喜文

ページ範囲:P.22 - P.22

 検査技師学校を卒業し,臨床検査技師として郷里の長野県に奉職して30数年,就職時には今日のような自治体病院の存続危機や,公務員の職を離れることになるとは予想もつかなかった.本稿では,筆者の立場で病院の経営形態の見直しによる地方独立行政法人化(以下,独法化)への背景と経緯を振り返り,私見を述べる.

 戦後の医療供給体制は日本経済の高度成長のなかで,科学が進歩し,さまざまな医療技術が革新的に高度・専門化した.また,同時に国民にとっては皆保険制度のなかで手厚く医療を享受できる社会が実現したものと言える.しかし,経済は低成長期に入り,かつ急速に進む少子・高齢化時代を迎え,あらゆる社会システムにおいて需要と供給の均衡のとれた“最適化”を目指す見直しが進んでいる.民主党へ政権が移り,小泉内閣の構造改革路線の行き過ぎた面の修正が図られたとしても,“最適化”を求める大きな潮流が変わることはないであろう.ただ,その手法はどこに重点を置くのかなどをめぐって,政治・社会・経済により左右される可能性が大である.独法化という経営形態の見直しの根拠となっている「公立病院改革プラン:平成19年12月」は,厳しい財政下で持続可能な病院経営を目指したもので,経営の効率化,統合・再編,経営形態の見直しなどにより“最適化”を進めているものと解することができる.

今月の表紙

乳腺放射状硬化性病変

著者: 森谷卓也 ,   中島一毅

ページ範囲:P.29 - P.29

【症例の概要】

 70歳代前半女性.乳癌検診で異常を指摘されたため,精査目的で来院した.マンモグラフィでは左乳房C領域に腫瘤状変化を伴う構築の乱れがありカテゴリー4と判断,乳房超音波検査でも類似の病巣が指摘され,硬癌の可能性が疑われた.また,dynamic MRIでは早期造影され,wash outされる腫瘤像であった.針生検では乳頭状病変と間質の硬化性変化を伴う良性病変と診断されたが,臨床的に悪性を完全に否定できないため,病巣部のprobe lumpectomyが実施され,最終的に放射状硬化性病変(良性)の診断が得られた.

ラボクイズ

寄生虫

著者: 升秀夫

ページ範囲:P.40 - P.40

2009年12月号の解答と解説

著者: 小宮山豊

ページ範囲:P.41 - P.41

ワンポイントアドバイス

唾液腺細胞診断の留意点

著者: 樋口佳代子

ページ範囲:P.38 - P.39

■ギムザ染色の有用性

 唾液腺腫瘍は大きく二種類に分けられ,腫瘍成分として筋上皮・基底細胞を含み腫瘍間質にギムザ染色で異染性を示す粘液や基底膜成分を伴うものとそうでないものがある.前者には最も頻度の高い多形腺腫のほか,基底細胞腺腫・腺癌,筋上皮腫・悪性筋上皮腫,上皮筋上皮癌,腺様嚢胞癌などが含まれる.唾液腺腫瘍の細胞診断は実際には多形腺腫か否かを判断することからはじまるといっても過言ではない(図1).そのためにはギムザ染色が大変有用である.

Laboratory Practice 〈病理〉

前立腺癌に有用な免疫組織化学染色

著者: 小塚祐司 ,   鹿股直樹 ,   森谷卓也

ページ範囲:P.42 - P.45

はじめに

 他臓器と比較して前立腺腫瘍の特殊型は少数で頻度も低い.そのため前立腺病変の病理診断は,通常型腺癌を見落とさないこと,あるいは癌を疑う病変に対する良悪性の鑑別が課題であり,免疫染色は多くの場合,そのために用いられる.

〈生理〉

―症例から学ぶ呼吸機能検査①―換気機能障害―COPD

著者: 原永修作 ,   藤田次郎

ページ範囲:P.46 - P.48

はじめに

 慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease,COPD)は,主に喫煙や大気汚染の有害粒子の吸入によって生じた炎症反応に基づく肺胞の破壊や気道の障害のため閉塞性換気障害を生じる疾患である.COPDの診断におけるゴールドスタンダードはスパイロメトリーであり,その結果に基づいて得られた重症度に合わせた治療が必要となる.

 本稿ではCOPDの診断および,重症度判定に用いられる呼吸機能検査の評価に関して実際の症例を通して解説する.

〈微生物〉

新しい食中毒菌としてのプロビデンシア・アルカリファシエンス

著者: 本田武司

ページ範囲:P.49 - P.51

はじめに

 厚生労働省の報告をみると,届出のあった食中毒患者数はここ10年程減少傾向がみられるものの年平均30,000~40,000人を数えている.報告漏れの症例もかなりあると考えられており,実際の食中毒患者はこの5~10倍はあるのではないかと想像されている.これらを減らすには,原因微生物を特定し,発症に至る要点を理解し,適切な予防対策をとる必要がある.このことを考えると,食中毒の原因となる微生物の性質を正しく知ることが重要なのはいうまでもない1).しかし集団発生など食中毒を思わせる所見がありながら,その原因が特定(検出)できない事例は現在でも案外多く,年によっては全食中毒患者の1/4にも及ぶ(表1).おそらくこれらの多くは,既知の食中毒原因を何らかの理由で特定できなかったと考えられるが,未知の病原体が食中毒を起こしている可能性も考えられる.

 2000年夏,福井県衛生研究所から筆者の研究室に持ち込まれた食中毒事例をさまざまな角度から検討したところ,これまで食中毒菌として注目されていなかったプロビデンシア・アルカリファシエンス(Providencia alcalifaciens,以下PA菌)が原因菌と考えられる食中毒を見いだした2).そこで,PA菌食中毒の発見の経緯について解説する.

臨床医からの質問に答える

アミノ酸測定用検体の取り扱い方

著者: 安東敏彦

ページ範囲:P.63 - P.65

はじめに

 アミノ酸自動分析計がスタイン(Stein)とムーア(Moore)によって開発されてから50年になる.その間,分析計は格段に進歩したが,イオン交換カラムでアミノ酸を分離しニンヒドリン発色させて定量するという原理は開発当初から変わっておらず,分析時間が長く,分析コストが高いという問題点をいまも抱えている.近年,液体クロマトグラフ質量分析(liquid chromatograph/mass spectrometer,LC/MS)を用いた新しい分析法が開発されており,分析時間の短縮や低コスト化が期待されている1)

 臨床検査においてアミノ酸分析が行われるのは先天的アミノ酸代謝疾患や肝硬変の病態をモニタリングする場面に限られており,その頻度は高くないのが現状である.しかしながら,多くの疾患で血中のアミノ酸濃度が変化することはよく知られていることであり2),今後,臨床の場でアミノ酸測定の必要性が高まると考えられる.また,基本栄養素の一つであるアミノ酸を測定することは栄養学的にも重要であるといえる.

 血中アミノ酸の測定には血清もしくは血漿が用いられるが,以下で述べるとおりアミノ酸濃度は血球の影響を大きく受けるので,室温で血球とともに長時間放置される血清ではなく血漿のほうがアミノ酸測定用検体としては適している.したがって,本稿においては血漿の取り扱いについて述べることにする.

 アミノ酸分析に用いる血液検体の処理は,採血,血漿分離,除蛋白の三つのステップからなる.以下,各ステップにおける検体の取り扱いについてその留意点を述べる.

けんさ質問箱

乳腺穿刺吸引細胞診における「検体不適正」の見きわめ方は?

著者: 松原美幸 ,   土屋眞一

ページ範囲:P.67 - P.70

Q.乳腺穿刺吸引細胞診における「検体不適正」の見きわめ方は?

 乳腺の穿刺吸引細胞診における検体不良の見きわめ方を教えてください.(東京都 S.T.生)

 

A.松原美幸・土屋眞一


はじめに

 近年,乳癌罹患者数は急増しており,それに呼応するように乳腺穿刺吸引細胞診症例も増加の一途を辿っている.このような状況下で,臨床側から提出される細胞診標本に対する“適否”が常に問題となってきた.これに関して一応の収束を与えたのが,乳癌取扱い規約第15版(2004年6月刊行)の『細胞診の報告様式』で,その判定区分の一つとして「検体不適正」の項目が設けられたことである.2008年に発刊された第16版の乳癌取扱い規約1)にも引き続きこの報告様式が継承されていることから,現在では細胞診従事者間のコンセンサスがある程度得られてきたものと解される.

 今回の質問は検体不良の見きわめ方であるが,ここでは乳癌取扱い規約の『細胞診の報告様式』による「検体不適正」の見きわめ方として,まず「検体不適正」の定義と現時点での問題点を整理し,筆者らの行っている対策などを概説したい.

トピックス

自動血球分析装置を用いた脳脊髄液や体腔液の検査

著者: 久野豊 ,   竹村浩之

ページ範囲:P.71 - P.73

はじめに

 脳脊髄液(以下,髄液)や体腔液の細胞数算定は,従来から計算盤を用いた目視法で行われてきた.しかし,操作手技が煩雑なため迅速性に欠け,宿日直時においては臨床検査技師の経験や習熟度によって測定値に差を生じることがある.また,施設間で細胞数の単位や分類方法が異なっていることも指摘されてきた.そこで近年,これらの問題点を解決するために自動血球分析装置を用いた測定が行われている1,2).本稿では,細胞数算定が可能な多項目自動血球分析装置XE-5000(シスメックス社,以下:XE-5000)と全自動血液学検査装置アドヴィア2120i(シーメンス社,以下:ADVIA2120i)を紹介し,当院検査部で検討したXE-5000の性能評価について述べる.

リウマチ性多発筋痛症

著者: 鳥飼圭人 ,   稲村祥代 ,   柳田洋平 ,   石井修 ,   松田隆秀

ページ範囲:P.73 - P.74

はじめに

 リウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica,PMR)は高齢者にみられ,発熱などの全身症状,筋痛,関節痛をきたす疾患である.ここでのリウマチとは筋骨格系の症状を意味する.本疾患は“リウマチ性”と名がついているが,関節リウマチによる筋痛を示すのではない.

コーヒーブレイク

モスクワの回転寿司

著者: 千葉仁志

ページ範囲:P.37 - P.37

 トナカイ遊牧民族のネネツ族に関するウイルス学的調査の帰路,モスクワに立ち寄ったときに回転寿司屋を見つけた.トナカイ肉とシロマスの煮物が日替わりで交互に出される生活からやっと解放されたばかりだったので迷わず入った.石油好景気が始まっていて,店内には意外に若い客が多かった.札幌の回転寿司屋よりも洗練された作りの店内で食べた寿司は,私の目と舌を十分に満足させた.特にサケは美味しかった.値段は日本並であったように思う.

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あとがき

著者: 菅野治重

ページ範囲:P.76 - P.76

 新しい年を迎え,読者の皆様も新しい目標を立てておられることと思います.昨年は自民党から民主党への政権交代をはじめとして,日本に大きな変化がみられた年でした.また,新型インフルエンザの世界的な大流行は新しいウイルス感染症の脅威を改めて認識させられました.本誌もウイルス感染症の検査法を積極的に取り上げていきたいと思います.

 本号では“病気のはなし”として“マクログロブリン血症”を取り上げました.高IgM血症を呈し骨髄腫や慢性リンパ性白血病との鑑別が重要な疾患で,以前より知られていた疾患ですが免疫学的検査法の進歩により病態が解明されてきました.“技術講座”ではシリーズで掲載している“悪性軟部腫瘍の細胞診”と“副腎系ホルモン3”に加えて“心エコー図を用いた左室拡張機能検査”を取り上げました.この分野の知識の整理に役立てていただきたいと思います.Laboratory Practiceでは“新しい食中毒菌としてのProvidencia alcalifaciens”を取り上げました.従来は日和見感染菌として扱われてきたP. alcalifaciensが食中毒の原因菌になることを解説していただきました.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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