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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術38巻12号

2010年11月発行

雑誌目次

病気のはなし

子宮の肉腫

著者: 萩原聖子 ,   加来恒壽

ページ範囲:P.1126 - P.1130

サマリー

 子宮肉腫は子宮悪性腫瘍の約4~9%と非常に稀な腫瘍で,予後は極めて不良である.病理組織学的には平滑筋肉腫,癌肉腫,内膜間質肉腫の三つに分類される.組織発生学的に複雑で,その機序は十分に解明されていない.主として閉経後に発症し,不正性器出血を訴えることが多く,時に子宮が急速に増大して見つかる場合もある.特異的な腫瘍マーカーはなく,画像診断を駆使しても術前診断は困難で,特に子宮筋腫との鑑別が問題となることが多い.直接周囲の臓器に波及し,リンパ行性あるいは血行性に転移する.治療は手術療法を優先するが,標準術式や術後追加治療(放射線療法や化学療法)などの治療方針についても,いまだ確立されていない.

技術講座 生理

胎児心臓の一次スクリーニング

著者: 芳野奈美 ,   竹村秀雄

ページ範囲:P.1131 - P.1137

新しい知見

 先天性心疾患は全出生児の1%と,他の先天異常のなかでも最も高率である.しかしその出生前診断率は四腔像に異常をきたす重症心疾患を中心に10~15%が発見される程度であり,他の疾患に比し著しく低率であった.生後早期にductal shockをきたす動脈管由来の心疾患は,出生前診断の有無が児の予後を大きく左右することから生前の早期発見が求められ,小児循環器専門医などによる働きかけも始まった.2004年に胎児心臓病研究会による胎児心エコー検査ガイドラインが作成され,レベル1では,専門医による精査だけでなくすべてのローリスク妊婦を対象とした一次スクリーニングの内容が示された.現在では地域ぐるみで一般産婦人科施設での胎児心臓スクリーニングが広がりつつあり,多忙な産婦人科医師に代わり超音波検査士による一次スクリーニングへの期待が高まってきている.

免疫血清

キャピラリー電気泳動と検査への応用

著者: 山本佐知雄 ,   鈴木茂生

ページ範囲:P.1138 - P.1145

新しい知見

 臨床分析や医薬品分析などの分離分析法としては,従来液体クロマトグラフィ(liquid chromatography,LC)やガスクロマトグラフィが用いられてきた.しかし,キャピラリー電気泳動(capillary electrophoresis,CE)がヒト遺伝子解析に大きく貢献したことや,近年のバイオ製剤,特に糖蛋白質性製剤の品質管理では欠くことができないうえ,ネスプ(R)などのエリスロポエチン製剤がオリンピックのドーピング検査の対象となったことから,次第にCEの重要性が認知されるようになった.CEとクロマトグラフィはいずれも試料成分の出現時間とピーク面積から同定と定量を行うことから非常に類似した分析法と捉えられがちであるが,データの信頼性を高めるためにはプレコンディショニングやピーク形状と泳動液成分の関係など,CEの個性に基づく考え方が必要である.さらに最近ではキャピラリー電気泳動/質量分析(capillary electrophoresis/mass spectrometry,CE/MS)がバイオマーカーの探索に利用されるようになり,CEを応用したマイクロチップCEを使った分析法が,臨床診断に利用されようとしている.患者が自らの健康状態を管理するオンサイト分析への応用は,今後ますます加速することが予想される.

疾患と検査値の推移

癌化学療法中のB型肝炎ウイルスキャリアにおけるウイルス再活性化

著者: 楠本茂 ,   田中靖人

ページ範囲:P.1147 - P.1152

はじめに

 B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus,HBV)の再活性化は,癌化学療法・免疫抑制療法を行う患者において注意すべき問題であり,一部の症例においては劇症肝炎に至り,致死的な経過をたどることが報告されている.従来,hepatitis B surface antigen(HBs抗原)陽性例において多数報告されてきたが,最近,リツキシマブをはじめとする新規分子標的治療薬の導入によってHBs抗原陰性例からの再活性化が報告されるようになり,リスク分類を見直す必要性が出てきている.

 本稿では,癌化学療法中のHBV再活性化リスク分類および再活性化対策のポイントを概説し,その際に測定しておくべき重要な検査項目を提示する.

座談会 21世紀の臨床検査

先輩から学ぶ生理機能検査―過去から未来

著者: 仲広志 ,   三浦純子 ,   石郷景子 ,   棟方伸一 ,   信岡祐彦 ,   永江学

ページ範囲:P.1176 - P.1185

生理機能検査は,技師の知識と技量により診断が左右される領域の多い分野です.今回,臨床系を含めた勉強のしかた,認定資格の活用や自己投資,接遇などについて,先輩技師の経験を中心に座談会を行いました.読者の皆さん,ぜひご活用ください.

オピニオン

日本心エコー図学会認定専門技師制度

著者: 吉川純一

ページ範囲:P.1146 - P.1146

 筆者が心エコー図を始めた頃(昭和40年代)は,わが国に心エコー図検査技師は存在しませんでした.当時は心音図・心機図の記録も盛んに行われていましたが,医師が記録・診断を担当し,心エコー図や心音図の現像を臨床検査技師の皆さんが担当していました.初期の心エコー図はMモードで,心音図や心機図もすべて撮影・現像式でした.すなわち,当時心エコー図・心音図の便利屋として臨床検査技師の皆さんが使われていました.しかし,わが国のすべての病院でそうであったので,誰も疑問に思う人はありませんでした.

 1974年,神戸市立中央市民病院から面白半分に米国の二つの学会に演題を応募しました.一つの学会はあの有名な米国循環器学会(American Heart Association,AHA)で,こんな学会に応募しても当然無理であろうと思っておりました.演題は「ultrasonic diagnosis of ventricular aneurysm」で,当時心拍同期の手動操作型の断層装置を使って記録したものです.現在,心尖部アプローチと簡単に言いますが,当時は心尖部から超音波を投入するというアイデアは存在しませんでした.当時の普通のウィンドウであった左第3~4肋間からアプローチしても心室瘤が全く描出できないのに,心室瘤例でよく触知される異常拍動(多くは心尖部)からアプローチすると心室瘤が画像として現れてきました.新鮮な驚きでしたが,それがAHA審査委員にも届いたのか“採用”の知らせが届きました.最初の学会はシアトルでの米国超音波医学会(AHAはダラス)でしたので二つの学会の間の3か月の間米国の病院で研修することになりました.米国の学会の盛況ぶりや質の高さ,展示場の立派さには驚きの連続でした.大きな感動を受けました.

今月の表紙

巨大Chiari network

著者: 田中道雄 ,   常深あきさ ,   八丸剛 ,   中原秀樹 ,   手島保

ページ範囲:P.1153 - P.1153

【症例の概要】

 72歳,女性.15~20年前に息苦しさ,2年前に不整脈があった.今回,大腸癌術後小腸狭窄の術前検査で,心電図上右脚ブロック,心エコーで右房内腫瘍を指摘された.腫瘍は可動性に富み,大きさは3cm前後,非常に低エコーで,一部が高輝度の線状に描出され,中隔に付着していた.下大静脈に腫瘍は認められず,EF(ejection fraction)74%と壁運動障害なし.胸部CTで冠動脈に異常はなかった.術中所見では,冠状静脈洞周囲の右房壁に付着する網状膜状物(広げると4~5cm大)を認め,これを付着部から切除した.疣贅や血栓なし.切除物は,32×30×9mm大で,組織所見では,弾性線維を主体として,心筋細胞の小集簇・小血管が混在しており,Chiari networkと診断した.

ラボクイズ

細胞診

著者: 荒井祐司

ページ範囲:P.1154 - P.1154

10月号の解答と解説

著者: 田上稔

ページ範囲:P.1155 - P.1155

役に立つ免疫組織化学●免疫組織化学で注目すべき抗体

胃癌診断に役に立つ免疫染色

著者: 米澤傑 ,   田村幸大 ,   後藤正道

ページ範囲:P.1156 - P.1161

はじめに

 本稿では胃癌の免疫染色を,胃癌細胞自体の免疫染色と胃癌細胞を取り囲む要素の免疫染色の双方から解説する.

Laboratory Practice 〈管理運営〉

新しい検査部の運営―つくば臨床検査教育・研究センター(TMER)の取り組み

著者: 鈴木悦 ,   舘下孝光 ,   南木融

ページ範囲:P.1162 - P.1163

はじめに

 筑波大学附属病院では,茨城県の地域医療支援体制を構築する計画を進行中であり,同時に当院の再整備計画は病院建設と運用をPFI(private finance initiative)方式で行っていくことが決定し事業が開始されています.一方,臨床検査分野においては新病院に隣接する「つくば臨床検査教育・研究センター(Tsukuba Medical laboratory of Education and Reserch,TMER.以下,当センター)」を独自の形態にて,民間事業者を誘致することにより実現することが決定しました.また,建屋も完成し2011年(平成23年)1月からの稼働に向けて機器の設置,基本性能の検討などの最終調整に入っています.

 本稿では新しい検査部の運営のあり方の一例として,当センターの試みをご紹介します.

新たな臨床検査室の方向性―「お手軽検査」について

著者: 大石博晃 ,   原嘉秀 ,   三家登喜夫

ページ範囲:P.1172 - P.1174

はじめに

 臨床検査技師の仕事は,病名や治療の方向性の決定あるいは治療の経過観察に役立てるため,正確な検査データをより早く臨床医に提供することであり,それに伴うランニングコストにも目を配り利潤を追求していく仕事であることはいまさら言うまでもない.臨床検査技師が提供する検査データは治療を進めていくうえで重要であるにもかかわらず,悲しいかな検査室は何をしているかわからない部署と思われていたり,世間的にも「臨床検査技師って何をする人?」と思われていたりする.なんとか知名度を上げられないものか,また地域住民に臨床検査を身近なものとして考えてもらえないかと考えた.そこで筆者らは,地域住民向けに「血液と尿の検査から何がわかるか」というテーマで,参加者が自分の検査データを知ることで,自分自身の健康に関心をもってもらいながら臨床検査や臨床検査技師の存在をアピールできる公開講座を開催した.その公開講座の参加者の意見から受診なしで手軽に検査のみができるシステムを考え,名前を「お手軽検査」と名づけて実施することになった.その経緯と内容について述べる.

〈遺伝子〉

迅速SNP検出技術「SmartAmp法」

著者: 林﨑良英

ページ範囲:P.1164 - P.1167

遺伝子検出による個別化医療

 ヒトゲノムの解読や疾病に関する分子的理解の進歩に伴い,疾病や体質などと遺伝子型の関連が明らかになり,数多くの疾患マーカーや,遺伝子型による罹患のリスク,薬の作用・副作用の現れ方の違いなどが理解されてきている.近年の次世代DNA(deoxyribonucleic acid)シーケンサーの飛躍的なシーケンス能力の向上(図1)は,解析速度の向上と解析コストの低減化を実現し,遺伝子解析技術を驚異的に発展させた.特に遺伝情報の1文字の違いであるSNP(single nucleotide polymorphism)を網羅的に収録したデータベースは急速に充実してきている.2008年1月には,イギリス・アメリカ・中国を中心とする研究グループが,「1,000人ゲノム計画」を開始した.この計画は,世界中の複数母集団から選んだ約1,000人を対象に,ヒトゲノムのシーケンシングを実施して,詳細な遺伝子マップを作り,疾患に関連する遺伝子変異を迅速に突き止めることを目指している.

 ゲノムをすべて解読した結果から作成されるデータベースは,現在主流の遺伝子型解析技術であるタイピング(特定部位の遺伝子型のみを解析すること)によるデータベースとは比較にならないほどの高解像度の情報が得られる.ゲノムワイドな遺伝子解析の流れは,現在よく使われているマイクロアレイのような,DNAチップを用いるタイピング技術から,今後はシーケンスに基づく技術に移行し,疾病マーカーの発見や,遺伝子型と体質の関連についての発見はますます加速していくであろう.これらの情報は,個別化医療,すなわち,患者の体質に合った医療を提供するための基本となるものである.例えば,ゲノム上の特定の部位が病気に関連していることがわかったときに,データベースを検索することで,その領域に起こりうる変異型がわかる.これは,多数ある変異のなかで,どれが直接その疾病の原因になっているかを同定するために役立つ.

〈生化学〉

検量線の信頼性評価

著者: 北村弘文 ,   亀子光明

ページ範囲:P.1168 - P.1171

はじめに

 臨床化学分析における日常検査値の信頼性に関係する要因には,試料の採取条件,保存性,分析の正確度,精密度にかかわる測定原理,校正条件,干渉物質の影響などが挙げられる.したがって,適正な条件で試料を採取し,分析に至るまで安定な条件を保ち,干渉物質の影響のない精確な分析法を選択し,適切な校正条件にて測定することにより,信頼性の高い検査値を得ることができる.

 これらの要因の評価指標として,各測定項目の個体間・個体内生理的変動幅,測定方法の日内・日間精密度,さらに校正にかかわる不確かさや検量用標準物質の不確かさなどが用いられる.そこで,表題に関する用語,検量の種類,校正による不確かさの推定について述べる.

けんさ質問箱

HCV抗体第二世代と第三世代における偽陽性の頻度

著者: 吉川真太郎 ,   野村文夫 ,   横須賀收

ページ範囲:P.1186 - P.1189

Q.HCV抗体第二世代と第三世代における偽陽性の頻度

HCV抗体二世代が(+)で,三世代が(-)の患者.二世代の結果が偽陽性という判定でしたが,よく起こることなのでしょうか? 三世代が偽陽性になることと,どちらが多いのでしょうか?(岐阜市 K.N.生)

 

A.吉川真太郎*1・野村文夫*2・横須賀收*1

はじめに

 C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus,HCV)感染のスクリーニングにはHCV抗体の測定が有用であり,現在第一世代から第三世代まで開発されている.第三世代の販売当初は第二世代よりも感度が高いとした報告が相次いだが,第二世代でも検出感度は十分であるとする報告もあり,世代間の感度が問題となっていた.また,検出原理も酵素免疫法や粒子凝集法に加え,近年イムノクロマト法や蛍光・化学発光を利用した新しい測定法が開発されており,30種類以上のさまざまな試薬が市販されている.試薬の検出感度は徐々に向上しており,HCV感染症におけるHCV抗体検出率も上昇しているが,各試薬の反応性も多様化してしまったため試薬間での判定不一致が増加している.これに関して一応の収束を与えたのが,国立感染症研究所の検査薬の検討1)をもとに厚生労働省が2002年3月に発表した「医薬品・医療用具等安全情報No.175」における「C型肝炎ウイルス抗体の検出を目的とする体外診断用医薬品の適正使用について」である2)

 今回の質問は第二世代と第三世代の偽陽性の頻度であるが,検査薬の世代間によりウイルス内の対応抗原が異なってくるため,まずはHCVの構造を理解することが重要である.また,HCV抗体はスクリーニングには適しているが,あくまで間接的にHCV感染を証明する方法でありHCV感染診断の確定はPCR(polymerase chain reaction)によるHCV-RNAの検出であることを忘れてはならない.本稿では厚生労働省の「医薬品・医療用具等安全情報175号」を踏まえ質問に回答するとともに,HCV感染のスクリーニングの概要につき解説したい.

トピックス

OXA型カルバペネマーゼ産生性多剤耐性Acinetobacter baumanniiの解析

著者: 長野則之 ,   長野由紀子 ,   外山雅美 ,   諏訪直生 ,   松井真理 ,   荒川宜親

ページ範囲:P.1190 - P.1192

はじめに

 アシネトバクター属菌は,通常土壌や水などの自然環境中に生息し,またしばしば健常人の皮膚からも見いだされる好気性のブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌で比較的乾燥環境に強い.現在,少なくとも17の種名と15のgenomic speciesが確認されているが,なかでも臨床の現場ではAcinetobacter baumannii(A. baumannii)が日和見感染症の起因菌として高率に分離される.A. baumanniiは本質的にセファロスポリン耐性であるが,菌体外に存在するDNA断片を取り込んで自己の染色体DNAなどに組み込む機構をもつため容易に抗菌薬に耐性化しうる.特に,2000年以降近隣諸国を含め海外ではカルバペネム系薬を含めたより広範囲の抗菌薬に耐性を獲得した多剤耐性菌の出現,蔓延化が認められるようになった.これらの多剤耐性A. baumanniiが感染患者の治療を困難にしており,さらには病院環境中で長期間生存可能なことから人工呼吸器関連肺炎など重篤な院内感染症にかかわり臨床上問題となってきている.

 一方,多剤耐性A. baumanniiは国内ではいまだ稀な耐性菌であり,2009年2月の福岡での院内感染事例の報告1)を機に徐々に認知されつつあった.しかしながら,特に2010年9月からは複数の大学病院や医療機関の院内感染事例が報告されるようになってきており,本菌の早期認知と迅速な院内感染対策実施の重要性が認識された.当センターでは2009年7月に米国からの輸入事例と考えられる創部感染症より多剤耐性A. baumanniiの分離が確認され,直ちに院内感染対策の徹底化を図り感染の拡大には至らなかった.本稿では,このような新型の多剤耐性菌についてより理解を深める目的で主要な薬剤耐性機構を含め分子学的特性を解析した知見を報告する.

がん浸潤・転移の分子機構

著者: 上田善道 ,   島崎都 ,   佐藤勝明 ,   勝田省吾

ページ範囲:P.1192 - P.1193

はじめに

 わが国をはじめ先進国では3~4人に1人はがんで死ぬ.2008年,がんによる死亡者は約34.3万人に達し,死亡者数全体の30.0%を占める.がんは制御機構の破綻による自律的な細胞増殖を特徴とするが,がん患者を苦しめる症状や死は,主に浸潤・転移により引き起こされる.

腹部救急における造影超音波の有用性

著者: 畠二郎

ページ範囲:P.1193 - P.1195

はじめに

 現在,わが国で使用可能な超音波造影剤は2種類存在するが,主に用いられている超音波造影剤はソナゾイド(R)(第一三共株式会社)である.この造影剤は水素添加卵黄ホスファチジルセリンナトリウムをシェル(外殻)とするペルフルブタンガスのマイクロバブル(小気泡)であり,バブルを壊さない程度の音圧で超音波を照射することによりバブルの非線形反射を画像化するものである.したがって,造影超音波検査には造影剤とともに,非線形成分(いわゆるハーモニック成分)の画像化が可能な超音波機器が必要であるが,幸いに最近では多くの機種に造影対応の機能が搭載されている.難解な記述で大変恐縮であるが,要は静注することで組織の微細循環が評価できるという優れた手法である.現時点ではわが国におけるソナゾイド(R)の保険適用は肝腫瘍に限られているが,当然のことながら微細循環の評価が診断に役立つすべての疾患で有用である.本稿では腹部救急における造影超音波の有用性について述べる.

コーヒーブレイク

ブランチラボから自主運営回帰―第1回 立志編

著者: 木村浩則

ページ範囲:P.1137 - P.1137

 医療氷河期,一寸先さえ見えない医療の世界,私たちはそんな真っただ中にいる.経済不況の悪化もあり,病院の閉鎖や民間への譲渡が相次ぎ,病院経営は最悪の事態である.こんな激動の時代に,検査室が良質な医療の提供と健全な経営基盤の確立を目的として立ち上がり,ブランチラボから自主運営奪回に至るまでのお話をしたいと思う.

 私は25年前,大学卒業と同時に千葉県にある公立病院に就職をした.1985年当時は,バブルの前であり,病院が倒産することなど到底想像しがたい時代に,地方公務員として平穏な日々を送っていた.その公立病院は一般病床630床,外来が1,600人ほどの県内でも有数の地域基幹病院だった.検査技師が40数名を数え,終身雇用,年功序列至上主義のもと,あと何年で昇進だ,管理職だと指折り数えている上司たちがワンサカいた.公務員という地位に異常なプライドをもち,上下関係には厳しかった.その頃の主任たちは部下を4~5名抱え,お山の大将と言うべく部下には強く,上司にはペコペコしていた記憶が今も鮮明に残っている.毎年のように新人技師が数名ほど入職し,高額機械が買える良い時代でもあった.

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あとがき

著者: 手島伸一

ページ範囲:P.1196 - P.1196

 先日,某学会の一般演題(症例報告)の発表の準備をしていたところ,手伝ってくれていた中堅の技師がまじめな顔つきで「先生のお知り合いが学会長を主催されておられ,また御友人達が特別講演などをされておられるのに,先生はそんなにまでして対抗して目立ちたいのですか?」と突然質問してきました.質問の真意がつかめなかったので尋ねると,「先生の立場(検査科の長)では一般演題や症例報告をだすのはおかしい,そのような演題は若い未熟な者が出すものだ」,と考えているようです.私は苦笑してしまいました.「自分の一番尊敬する先生は80歳を超えても一般演題をだしていたよ.もっとも周囲には大きな迷惑をかけていたけれどもね.自分もできればそうなりたいものだ.皆もどんどん演題を出そう」と答えたところ,相手は「あきれた!」という顔をしていました.学会発表に限らず,一般に臨床検査技師のほうが医師よりも,若い年齢のうちから,日常業務のみに埋没してしまう傾向が強いように思われます.どのような職種や立場であっても,私たちは医療人であるかぎり,生涯勉強し,機会があれば,学会ほかで自分の考えを述べて,向上して行きたいものです.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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