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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術38巻2号

2010年02月発行

雑誌目次

病気のはなし

狂犬病

著者: 倉井華子

ページ範囲:P.82 - P.85

サマリー

 狂犬病は狂犬病ウイルス(rabies virus)を保有する動物に咬まれたり,引っ掻かれたりして発症する.治療法はなく,発症すればほぼ100%死に至る.予防接種により予防可能な疾患である.

技術講座 病理

―シリーズ:穿刺細胞診の手技と読み方―5.肺の穿刺細胞診

著者: 川本雅司 ,   中澤賢 ,   田島廣之 ,   小泉潔

ページ範囲:P.87 - P.91

新しい知見

 気管支腔内超音波断層法(endobronchial ultrasonography,EBUS)とは,超音波プローブが装着された気管支鏡による気道壁内外のリアルタイム画像検査である.経気管・気管支穿刺細胞診では,今までは気管支鏡による粘膜側内腔のみの観察と解剖学的位置をたよりに,気管・気管支外にある病変を推定して盲目的に穿刺していたが(例えば,気管分岐部リンパ節への転移の有無の検査),EBUSにより,病変を描出し穿刺できるようになった.このようなEBUS下穿刺をEBUS-TBNA(EBUS guided transbronchial needle aspiration)と呼ぶ.

耳下腺腫瘍の細胞診

著者: 小山芳徳 ,   長尾俊孝 ,   山崎一人 ,   石田康生

ページ範囲:P.99 - P.105

新しい知見

 細胞診の報告は,従来よりパパニコロウ分類やクラス分類が用いられてきた.しかし,これらの分類には問題点が多く,近年,乳腺,甲状腺,肺,唾液腺などの穿刺吸引細胞診においては,新しい報告様式が提案され,それが広く採用されつつある1).耳下腺腫瘍の穿刺吸引細胞診における新報告様式の骨子は大まかに,①標本作製,②検体の評価,③診断のカテゴリー,④報告,⑤精度管理,の5項目からなる.それらの要点を述べると,①標本作製では,湿潤固定によるパパニコロウ染色に加え,乾燥固定標本でのギムザ染色の併用が推奨されている.②検体の評価としては,標本の適正・不適正を明記し,それが不適正の場合,診断を行うべきではなく,不適正とした理由,解決方法を記載する.検体の評価は,診断者の経験にも影響されるが,⑤精度管理項目において,不適正検体の頻度を10%以下に設定することで,安易な不適正検体の抑止効果が期待される.③診断のカテゴリーとしては,良性,良・悪性鑑別困難,悪性の疑い,悪性の四つに分類することが示され,推定される組織型や鑑別診断を付記することとしている.これらの主旨は,細胞診断を簡潔で理解しやすく,臨床に役立つ報告とすることにある.

生化学

―ホルモンの測定シリーズ・11 副腎系:4―尿中ホモバニリン酸,バニリルマンデル酸,5-ヒドロキシインドール酢酸

著者: 西條清史

ページ範囲:P.93 - P.98

新しい知見

 内分泌腺腫瘍のなかでも,尿中ホモバニリン酸(3-methoxy-4-hydroxyphenylacetic acid;homovanyllic acid,HVA)・バニリルマンデル酸(4-hydroxy-3-methoxy-mandelic acid;vanillyl manderic acid,VMA)は特に褐色細胞腫・神経芽細胞腫の,5-ヒドロキシインドール酢酸(5-hydroxyindole-acetic acid,5HIAA)はカロチノイドの鑑別・予後判定に大きな役割を担ってきた.特に神経芽細胞腫は小児に好発する腹部悪性腫瘍で80%以上に尿中VMAの排泄増加が認められることから,わが国では1984年から6か月乳児にマススクリーニングを行ってきたが,スクリーニングが予後の改善に結びつかないことから2003年に中止された.しかしながら,個々の症例における測定の意義はあり,特にカテコラミン(catecholamine,CA)・セロトニン/5-ヒドロキシトリプタミン〔serotonin/5-hydroxytriptamine(5HT)〕そのものや,他の代謝物測定との併用が有効である.1980年前後の高速液体クロマトグラフィ(high performance liquid chromatography,HPLC)による測定が一般化した後も,今日に至るまで測定法の改善が続けられている所以である.また,近年の分子生物学的方法による疾患概念の見直しで値の評価は複雑化してきている.

疾患と検査値の推移

百日咳

著者: 岡田賢司

ページ範囲:P.106 - P.111

百日咳患者の報告数および年齢の変化

 百日咳は,感染症法5類感染症・定点把握疾患に分類され,全国約3,000の小児科定点から報告されている.百日咳ワクチンを含むDTaP(Diphtheria-Tetanus-acellular Pertussis,旧称:DTP)三種混合ワクチン開始後の感染症発生動向調査での定点当たりの百日咳患者報告数を示す(図1)1).1982年から4~5年ごとに小さな増減を繰り返しながら報告数は着実に減少してきたが,2005年から増加してきた.2007年には大学や高校での集団発生が報告され,2008年は過去10年にないほどの多数の報告があった.

 近年の特徴に患者年齢の変化がある.2000年,乳児は46.7%,1歳18.1%,2~3歳13.5%と3歳までが約80%で20歳以上は2.2%であった.その後,次第に10~14歳以上,特に20歳以上が増加してきた.20歳以上の割合は2002年4.0%,2004年9.5%,2006年24.3%,2008年36.7%,2009年13週時点で38.2%となっている(図2)1).この報告は,小児科の定点医療機関に受診した患者報告である点に注意が必要である.成人は内科を受診しているため,成人症例を含めた全体像を把握するためには,内科を含めた報告システムが必要となっている.

オピニオン

ヘルスケアにおける統計学の活用

著者: 細萱茂実

ページ範囲:P.86 - P.86

 わが国は世界一の長寿国となり,健康維持や予防医学が重要なテーマとなっている.情報技術やコミュニケーション技術が発達し普及した今日,健康診断情報はじめさまざまな医療関連情報がデジタルデータとして保存され,巨大なデータベースの構築が現実となってきた.政府が検討を進めている日本版EHR(Electronic Health Record)は,地域の医療関連連携ネットワークを利用し,個人の医療・健康情報の共有化を図る取り組みであり,個人の生涯にわたる保健医療サービスの情報基盤となることが期待されている.医療情報データベースを有効に活用することの重要性は,疾病の診断や治療を目的とした場合に限った話ではなく,健康管理や疾病予防においてもまったく同じである.

 そこで扱われる医療情報は,信頼性が高く科学的根拠のある情報(エビデンス)である必要がある.エビデンスに基づく医療(evidence-based medicine,EBM)の考え方は,あらゆる分野に広がっている.“evidence-based nursing”,“evidence-based nutrition”,“evidence-based laboratory medicine”,また“evidence-based health care”などの言葉が用いられている.

今月の表紙

甲状腺MALTリンパ腫

著者: 廣川満良 ,   前川観世子 ,   太田寿

ページ範囲:P.92 - P.92

【症例の概要】

 70歳代,女性.7年前から橋本病にて甲状腺ホルモン補充療法を受けていたが,甲状腺右葉に結節性病変が出現したため当院に紹介された.来院時,甲状腺はやや硬く,びまん性に腫大し,右葉は腫瘤状であった.FT40.7ng/dl,FT32.8pg/ml,TSH6.6μIU/mlとやや潜在性甲状腺機能低下で,抗サイログロブリン抗体(TgAb)4,000IU/ml以上,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)51.6IU/mlと抗甲状腺自己抗体陽性にて橋本病を確認した.超音波検査,細胞診にて悪性リンパ腫の合併が疑われ,甲状腺全摘術が行われた.右葉結節のリンパ球はCD45ゲーティングにてL鎖の偏り,Gバンド分染法にて染色体異常(47,XX+7),サザンブロット法にてJH遺伝子再構成が認められた.

ラボクイズ

微生物

著者: 永沢善三

ページ範囲:P.112 - P.112

1月号の解答と解説

著者: 升秀夫

ページ範囲:P.113 - P.113

ワンポイントアドバイス

微生物検査外注時の検体の取り扱い方

著者: 加藤貴代子 ,   小松方

ページ範囲:P.114 - P.116

はじめに

 2001年に行われた医療法改正により,病院施設のうち臨床検査施設の必置規制を緩和する法令が施行された.これにより,特に中小規模の病院施設では微生物検査が先駆けて外注化が行われた.一方で,微生物検査は検体の採取時期や,採取方法および外注先の検査室に検体が搬送されるまでの保存方法によって検査データに大きな変動をきたす.したがって,微生物検査を外注化する際は,検体の取り扱いに関する検査前工程の管理を病院側と外注先とでよく相談しておく必要がある.本稿では微生物検査の検査前工程管理(表)について解説する.

Laboratory Practice 〈生理〉

―症例から学ぶ呼吸機能検査②―換気機能障害―OSAS―睡眠中の閉塞性障害

著者: 伊志嶺朝彦 ,   藤田次郎

ページ範囲:P.117 - P.120

はじめに

 閉塞型睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome,OSAS)は睡眠中に呼吸努力があるにもかかわらず,上気道の閉塞または狭小化により換気が停止または低下する病態をもち,睡眠時無呼吸症候群の大部分を占める疾患である.スパイロメトリーは通常正常パターンのことが多く,狭義の閉塞性換気障害ではないが,広い意味で気道の閉塞により換気が障害される疾患として,本稿で述べたい(中枢型の無呼吸症候群やOSASの亜型である混合型無呼吸症候群についてはここでは述べない).

 わが国でのOSASは,2003年の山陽新幹線の運転手による居眠り運転事故でマスコミに取り上げられたことによりその疾患概念が一般に広がった.わが国での頻度は男性で3.3%,女性で0.5%であり全体では200万人が罹患していると考えられている1)

 OSASは近年閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸症候群(obstructive sleep apnea hypopnea syndrome,OSAHS)とも言われている.呼吸運動または換気の50%が低下し,酸素飽和度が3~4%低下する病態を呈するものを低呼吸と定義し,睡眠1時間当たりに起きる10秒以上の無呼吸とこの低呼吸を合わせて無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index,AHI)と呼んでいる.ガイドライン上の定義は「日中の過度な眠気もしくは閉塞型無呼吸に起因するさまざまな症候のいくつかを伴い,かつAHIが5以上」としている2)

 本稿では,OSASの診断および重症度判定,さらには治療効果判定に用いられるポリソムノグラフィ(polysomnography,PSG)の評価に関して,実際の症例を通して解説する.

〈微生物〉

深在性真菌症の血清診断

著者: 亀井克彦

ページ範囲:P.121 - P.124

はじめに

 深在性真菌症では起因菌検出による確定診断が容易でないうえ,細菌感染症にみられるような強力な抗菌薬を用いて診断的治療を行うことが困難なため,補助診断法,特に血清診断法の存在意義は大きく,このため多くの方法が開発されてきた(表1).大部分は真菌細胞壁あるいは細胞膜の物質を抗原抗体反応により,あるいは直接的に検出しようというものである.共通点として,感度や特異度に問題がある検査が多いので,1回限りの結果で判断するのでなく繰り返して測定し,再現性,動きなどを重視すること,偽陽性,偽陰性をきたす病態をよく理解しておくことが必要である.たとえば,同じアスペルギルス症であっても病型・病態によりその性能や意義は大きく異なってしまう.また,同じ検査名でありながら,使用している抗原が異なっていたり測定原理が違っているなど,実質的には別な検査が存在する例が大部分である.測定者がこれらをきちんと意識して測定し,その結果を判断する必要がある.

臨床医からの質問に答える

ウイルス抗体価の検査目的と測定法の選び方

著者: 佐伯秀久

ページ範囲:P.125 - P.127

はじめに

 皮膚科の日常診療ではウイルス性発疹症と診断して,診断確定の目的でウイルス抗体価を測定する機会が多い.しかし,測定法の違いにより項目が複数あり,どれを選べばよいのか迷うことがある.本稿では,各測定法の特徴と疾患ごとに選ぶべきウイルス抗体価の項目,およびその評価について概説する.

トピックス

脱メタボ―“体重8%減”を目標に

著者: 中田由夫

ページ範囲:P.128 - P.129

はじめに

 メタボリックシンドローム(metabolic syndrome,MetS)は,内臓脂肪の過剰蓄積に加え,血圧高値や脂質代謝異常,高血糖を複数合併する循環器系疾患易発症状態と定義される1).2007年の国民健康栄養調査2)によると,わが国におけるMetSの該当者数は約1,070万人と推定され,MetSが疑われる予備軍者数は約940万人,合わせると約2,010万人にのぼる.最近の報告3)では,MetSは循環器系疾患の死亡リスクに対する独立した予測因子であるとされており,その予防改善策を講じることが急務となっている.MetSは,食事の過剰摂取と身体不活動が主因であることから,その改善には食事制限や運動実践が有効であると考えられる.本稿では,筆者らが行っている減量プログラムについて概説するとともに,MetSからの確かな脱出を達成するために必要な減量目標値について解説する.

尿中肝臓型脂肪酸結合蛋白

著者: 池森敦子 ,   菅谷健 ,   木村健二郎

ページ範囲:P.129 - P.131

はじめに

 慢性腎疾患(chronic kidney disease,CKD)は,進行すると末期腎不全となり,透析療法が必要となる.現在,透析患者は,27万人を超え,さらに年間約1万人の割合で増加しており,今後も増え続けていくことが予想される.また透析医療費は,年間1兆円を超えており,透析療法は,患者個人の肉体的・精神的負担のみならず医療支出の増大など,社会的・経済的問題となっている.しかしながら,CKDは,進行が緩慢で,経過が長期間にわたることから,臨床治験の実施が困難であり,新薬開発が極めて難しい分野である.そのため,末期腎不全患者を減少させるためには,CKDが進行する危険の高い患者を早期に見つけ,迅速に生活指導,栄養指導,薬物療法といった多方面からの治療を集学的に行うこと(集学的治療)が重要である.

 CKDの進行が予想される患者を判別しうる有用なバイオマーカーは,現在のところない.筆者らは,そのようなバイオマーカーを探索し,その結果,尿中肝臓型脂肪酸結合蛋白(liver type fatty acid binding protein,L-FABP)が従来のマーカーと異なり,CKDの進行を予測する優れた臨床マーカーであることを明らかにした.さらに,最近になり,その有用性は,海外でも注目されるようになっている.

あとがき

著者: 高木康

ページ範囲:P.172 - P.172

 「節分」です.節分は2月3日と考えていましたが,広辞苑によると,①季節の移り変わる時,すなわち立春・立夏・立秋・立冬の前日の称.であり,②特に立春の前日の称.この日の夕暮,柊の枝に鰯の頭を刺したものを戸口に立て,鬼打豆(オニウチマメ)と称して炒った大豆を撒く習慣がある.とありました.また,撒かれた豆を自分の年齢,もしくは1つ多く食べると体が丈夫になり,風邪をひかないという習わしがあるところもあります.これは豆が「魔滅」に通じるため,豆を撒くことで邪気を追い払い,1年間の無病息災を願う意味合いのためとのことです.

 最近では豆の代わりに恵方巻を食べるのが全国的なブームになっています.恵方とはその年の福徳を司る歳徳神のいる方向であり,今年は「西南西」とのことです.恵方を向いて目を閉じて一言も喋らず,願い事を思い浮かべながら恵方巻を丸かじりするのが習わしなのは,“縁を切らないように包丁を入れずに丸ごと一本”とのことです.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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