icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

検査と技術38巻3号

2010年03月発行

雑誌目次

病気のはなし

新型インフルエンザ(A/H1N1)

著者: 田村大輔 ,   菅谷憲夫

ページ範囲:P.178 - P.182

サマリー

 世界保健機関のパンデミック宣言から半年以上が経過した.新型インフルエンザ患者の急増と錯綜する情報で,医療現場は大混乱に陥った.現在,第一波を経験し,ようやくpandemic H1N1の全景が現れつつあるものの,ウイルスの病原性解析,抗インフルエンザ薬やワクチン接種の有効性解析など,解決しなければならない課題は山積する.ウイルスの病原性は当初の予想より弱いが,一部の患者において重症化への危険性もある.

技術講座 生理

―ステップアップのための画像診断入門・1―胸部画像診断(胸部単純X線撮影)①

著者: 野間恵之

ページ範囲:P.183 - P.187

新しい知見

 胸部単純X線写真にはレントゲンによるX線の発見以来100年以上の歴史があるが,CTから始まるデジタル化の波に乗って胸部写真もデジタル化が進んでいる.これに伴って従来のフィルムはなくなり,モニターでの診断が一般的になってきた.そのため画像の拡大,縮小や濃度の変更,白黒反転などが自在となり,重なりからくる虚像や骨,腹部などのコントラストの悪い部位の観察などに力を発揮する.データ容量が大きいためその管理に費用がかかるがフィルムを運ぶ手間が省けるため過去画像を参照するのが容易となっている.

生化学

―ホルモンの測定シリーズ・12 膵臓・消化管系:1―グルカゴン,ガストリン

著者: 泉谷昌志

ページ範囲:P.189 - P.193

新しい知見

 グルカゴンは膵臓ランゲルハンス島α細胞から分泌されるペプチドホルモンであるが,これを認識する抗体と反応する,より大きい分子量の蛋白が腸管で発現していることが以前から知られており,“腸管グルカゴン”などと呼ばれていた.その後の研究により,同一遺伝子(ヒト第2染色体長腕上のGCG遺伝子)からプレプログルカゴンと呼ばれる180アミノ酸長の前駆体蛋白が産生された後,それが異なる部位で酵素的に切断されることにより,グルカゴンをはじめとした複数のポリペプチドになることがわかった(図1).この切断は組織特異的であり,腸管のL細胞ではグルカゴン以外のグリセンチン,オキシントモジュリン,GLP(glucagon-like peptide)-1,GLP-2が産生されるが,これらの生理機能や,糖尿病などの病態との関連性についても探索が続けられている.

遺伝子

各種遺伝子検査法の特徴―核酸増幅法を中心に

著者: 増川敦子 ,   松下弘道 ,   宮地勇人

ページ範囲:P.195 - P.202

新しい知見

 遺伝子検査の新しいステージが展開されている.検出可能範囲や目的によって検出系を使い分けることなく,エキソン単位~染色体まで広領域を解析できるMLPA(multiplex ligation-dependent probe amplification)法が開発された.MLPA法はポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction,PCR)増幅のための特異的プローブにユニーバサルプライマー(共通配列)を結合させている.特異的プローブ設定で欠失,挿入の解析ができ,またプローブの3′/5′部位をSNP(single nucleotide polymorphism)部位やメチル化部位に設定することでSNPタイピングやメチル化を解析することができる.検査の簡素化としてQP(quenching probe)法を利用した分析機器(i-densyTM)が開発された.QP法は標的SNP領域をPCR増幅し,相補的配列のQProbe(蛍光標識したシトシン塩基を末端にもち解離すると発光)と結合しQProbeの解離温度の異なりで検出する.検体は,前処理・増幅・検出が一体化した試薬キットに分注後,専用機器にセットするだけと簡素化されている.主に投薬前診断を目的とした薬物代謝酵素SNPs検出用試薬が市販されている.

疾患と検査値の推移

劇症肝炎

著者: 与芝真彰 ,   井上和明

ページ範囲:P.203 - P.208

疾患概念

 肝は再生力と予備力に富む臓器であるが,その再生力を上回る速度で,予備力を上回る範囲に至るまで細胞が破壊され,または変性し,その機能を失うと種々の肝不全症状を呈することになる.これを急性肝不全(acute liver failure,ALF),または劇症肝不全(fulminant hepatic failure,FHF)と呼んでいる.その原因は多彩であり,ほとんどの疾患が原因となる(表1).

 原因I(病理学的に肝細胞変性壊死のほか,単核球の浸潤など炎症反応が見られる病態,通常ウイルス性,自己免疫性,アレルギー反応による薬剤性などの肝障害の際に認められる)によって発生する肝炎を劇症肝炎と呼ぶ.原因がIIのその他の場合は,大半は原因自体が肝細胞を破壊していると考える.最も有名なものは,英国で多い自殺目的のアセトアミノフェンの過剰服用である.アセトアミノフェンは肝細胞内のグルタチオンを枯渇させる作用があり,15g以上のアセトアミノフェンを服用すると誰でも劇症肝不全を起こす.これをアレルギー性の薬剤性肝炎と区別して中毒性肝障害と呼んでいる.この区別は重要で,IIに属する疾患であれば原因の除去により肝細胞破壊は終息するが,Iに属する疾患の場合,肝炎では宿主側の免疫応答が肝細胞破壊に寄与していると考えられるので,その対策が重要となる.

オピニオン

臨床検査技師がNSTに参画することの有用性

著者: 三浦芳典

ページ範囲:P.188 - P.188

 2006年5月より北里大学病院において院内全科型栄養サポートチーム(nutrition support team,NST)が稼動し,臨床検査部も活動の一端を担うことになった.現在は部内から選出された臨床検査技師5名(2009年10月から1名増員)がNST活動を行っている.

 これまで,筆者は内分泌代謝内科において日本糖尿病療養指導士(certified diabetes educator of Japan,CDEJ)という立場で,外来・病棟の糖尿病患者さんを対象に,診療部,看護部,栄養部,薬剤部,リハビリテーション部のスタッフとともに療養指導に携わってきたが,院内全科を対象とした活動への参画は,よりいっそうに職責の重大さを感じている.当院臨床検査部の検体検査部門は,直接,患者さんに接する機会が少なく,各検査室に提出された患者検体を検査し,結果を報告するという実際に患者さんの病態が見えにくい環境である.NST活動を通じて病棟カンファレンスなどに参画することにより,臨床検査技師として高品質の検査結果を迅速に報告する使命はもとより,何故その結果になるかを改めて認識することができた.

今月の表紙

僧帽弁逸脱症

著者: 田中道雄 ,   常深あきさ ,   井下尚子 ,   川口悟 ,   中原秀樹 ,   手島保

ページ範囲:P.194 - P.194

【症例の概要】

 63歳男性.高血圧の既往.6年前の胸部X線で心拡大あり,心エコーで僧帽弁逸脱症と診断.2年前より呼吸困難感が増悪.1年前の心エコーで,左室拡張期径/収縮期径(LVDd/Ds)66.2mm/39.6mm,駆出率(EF)70%,僧帽弁閉鎖不全(MR)中等度.今回労作時息切れが増悪し(NYHAIII度),手術のため入院.心エコーでは,僧帽弁後尖の中央に逸脱を認め,中等度以上の逆流を認めた.僧帽弁後尖のmiddle scallop(中央の弁葉:後尖は三つの弁葉に分かれている)を菱形切除し,さらに僧帽弁形成術(弁輪縫縮術)を施行.切除弁は浮腫性線維性に肥厚(2.8mm)し,軟らかく,粘液腫様変性(myxomatous degeneration)の所見を呈していた.

ラボクイズ

健康診断で血小板減少を指摘され来院した42歳の女性

著者: 小宮山豊

ページ範囲:P.212 - P.212

2月号の解答と解説

著者: 永沢善三

ページ範囲:P.213 - P.213

ワンポイントアドバイス

不確かさ評価の必要性

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.210 - P.211

■不確かさとは

 “不確かさ(uncertainty)”という用語は,測定(measurement.物理量の測定では“計測”という)の信頼性(reliability)を表す言葉としてよく使われるようになっている.さらに,不確かさの考え方は,測定を行うすべての領域で使われるようになり,国際的にも一般化している.このうち臨床検査における具体的内容は,日本臨床検査自動化学会によるマニュアルが有効である1)

臨床医からの質問に答える

クロピドグレル抵抗性とは何か?

著者: 大森司

ページ範囲:P.232 - P.235

はじめに

 血小板は無核の小さな血球細胞であり,正常の止血反応(一次止血)だけでなく,心筋梗塞や脳梗塞などの病的血栓の形成にも関与する.そのため血小板機能を抑制しうる抗血小板薬がさまざまな動脈血栓症の治療・予防に広く利用されている.臨床の場で抗血小板薬として最も利用されているのがアスピリンであり,これにクロピドグレルやチクロピジンなどのチエノピリジン系薬剤が続く.抗血小板薬はワルファリンと異なり,薬剤効果のモニタリングをすることなく,一定量を患者に投与することが一般的である.そのため特定の患者群においては,実際の用量では薬剤の作用が十分でない可能性は容易に予測できる.クロピドグレルにかかわらず,このような抗血小板薬の効果が臨床検査上減弱している患者群を抗血小板薬抵抗性(レジスタンス)として臨床検査の分野だけでなく臨床予後の面からも注目されている1)

Laboratory Practice 〈免疫血清〉

関節リウマチ診断における抗CCP抗体測定検査について―新しい全自動測定法を含めて

著者: 阿部正樹 ,   海渡健

ページ範囲:P.214 - P.223

はじめに

 関節リウマチ(rheumatoid arthritis,RA)は,関節滑膜の炎症により骨軟骨が破壊される慢性多発性関節炎を特長とする炎症性疾患である.その発症には遺伝的因子と環境因子が複雑にかかわっており,男女比は1:4と女性に多く,わが国での患者数は約70万人と推察される全身性の自己免疫性疾患のうち最も患者数の多い疾患である.近年,メトトレキサート(methotrexate,MTX)などの疾患修飾性抗リウマチ薬(disease modifying antirheumatic drugs,DMARDs)に加え,抗腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor,TNF)-α薬などの生物学的製剤の開発に伴い,早期治療介入によりRAの進行を抑制することが可能となってきた.RAの関節破壊は発症初期から進行し始めるとされるが,いかに早期にRAを診断し適切な治療を開始できるかが患者の予後を左右するといわれており,いわゆるwindow of opportunityを逃さないことの重要性が提起されている.

 RAの診断は,1987年に改定されたアメリカリウマチ学会(American College of Rheumatology,ACR)の診断基準1)に沿って行われる.そのなかの唯一の血清学的指標であるリウマトイド因子(rheumatoid factor,RF)はRA患者の約70%に検出されるが,疾患的特異性が低く他の自己免疫性疾患患者でもしばしば陽性となり,さらに変形性関節炎や各種慢性炎症性疾患患者でも陽性となることから,RA診断に際しての特異性は高いとはいえないのが現状である2)

 本稿ではRAに対して高い臨床的特異性をもち,RAの早期診断に有用とされる抗環状シトルリン化ペプチド抗体(anti-cyclic citrullinated peptide antibody:抗CCP抗体)の特徴とともに,今回新たに開発された全自動測定試薬の概要をあわせて紹介する.

〈生理〉

―症例から学ぶ呼吸機能評価③―拘束性換気機能障害―間質性肺炎

著者: 玉寄真紀 ,   藤田次郎

ページ範囲:P.224 - P.227

はじめに

 間質性肺炎は,肺胞隔壁に炎症や線維化病変をきたす疾患の総称である.薬剤・吸入粉塵・膠原病関連肺疾患・放射線といった原因が明らかなものと,原因が特定できない特発性(idiopathic interstitial pneumonias,IIPs)がある.

 間質性肺炎は,病理組織パターンにより,①特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis,IPF)〔UIP(usual interstitial pneumonia)パターン〕,②非特異性間質性肺炎(nonspecific interstitial pneumonia,NSIP)(NSIPパターン),③特発性器質化肺炎(cryptogenic organizing pneumonia,COP)〔OP(organizing pneumonia)パターン〕,④急性間質性肺炎(acute interstitial pneumonia,AIP),⑤はく離性間質性肺炎(desquamative interstitial pneumonia,DIP),⑥呼吸器細気管支炎を伴う間質性肺疾患(respiratory bronchiolitis-associated interstitial lung disease,RB-ILD),⑦リンパ球性間質性肺炎(lynphocytic interstitial pneumonia,LIP)に分類される.

 本稿では,間質性肺炎のなかでも特にIPFやUIPパターンにおける呼吸機能検査を中心に解説する.

―症例から学ぶ呼吸機能評価④―拘束性換気機能障害―間質性肺炎以外の疾患

著者: 屋良さとみ ,   藤田次郎

ページ範囲:P.228 - P.231

はじめに

 換気・呼吸機能障害は拘束性と閉塞性とに分類される.拘束性換気機能障害とは,肺容量(lung volume)の減少を特徴とする一連の疾患の総称で,呼吸生理学的には気流閉塞や気道抵抗上昇を伴わない全肺気量(total lung capacity,TLC)・肺活量(vital capacity,VC)・残気量(residual volume,RV)などの低下で特徴づけられる1).スパイログラムでは肺活量が減少(%VC<80%)かつ1秒率が正常〔FEV1(forced expiratory volume in one second)/FVC(forced vital capacity)%>70%〕である一群を指す.拘束性障害の最も一般的で主たる疾患は間質性肺炎である.間質性肺炎に関しては,本シリーズ③「拘束性換気機能障害―間質性肺炎」(224頁)にて詳細に述べられている.本稿では間質性肺炎以外の拘束性換気機能障害を示す疾患に関して症例を提示しながら概説する.

トピックス

UDP-グルクロン酸転移酵素遺伝子(UGT1A1)多型検査

著者: 吉田晴彦

ページ範囲:P.237 - P.239

はじめに

 UDP-グルクロン酸転移酵素〔uridine 5′-diphospho(UDP)-glucuronosyltransferase,UGT〕は種々の物質のグルクロン酸抱合を司る酵素であるが,最近,その遺伝子多型が抗癌剤イリノテカンの血中濃度に大きな影響を与えることが注目されている.本稿ではその背景を概説する.

抗原性保持に有用な薄切標本保存法

著者: 河本陽子 ,   川原清子 ,   石渡俊行 ,   内藤善哉

ページ範囲:P.239 - P.241

はじめに

 パラフィンブロックを薄切後,室温に保存した未染標本を用いて酵素抗体法を行うと,抗原性が減弱することが近年,明らかとなり注目されている.これは,酵素抗体法の精度管理上,大きな問題となるとともに1,2),診断に影響を及ぼす可能性もある3,4).しかし,多くの施設では日常的にこのような保存方法が行われていると考えられる.本稿では,薄切した未染標本の抗原性保持に有用な保存方法を紹介する.

--------------------

あとがき

著者: 矢冨裕

ページ範囲:P.242 - P.242

 ついこの間,2010年の到来と感じておりましたが,もう新しい年度のことを考えなくてはいけない時期になりました.「一月は行く,二月は逃げる,三月は去る」と言いますが,これを実感しております.時間が過ぎるのが早いだけでなく,世の中激動を感じさせる出来事が続くことで,ますます追われるような感覚に拍車がかかるのでしょう.最近では,トヨタ自動車の米議会公聴会での説明・謝罪関連のニュースが連日報道されていますが,1年前にこの事態を予想された方はいらっしゃるでしょうか.つい,ニュースに釘付けになる時間が増えますが,現在はそれに加えカナダのバンクーバーで冬季オリンピックの熱戦が繰り広げられており,ますますもって寝不足になりがちです.

 さて,臨床検査の世界に目を移しますと最近の最も大きなニュースは,やはり次年度の診療報酬改定に関するものでしょうか.検体検査管理加算IVの新設,外来迅速検体検査管理加算の増点など,充実した検査体制が実際の点数として評価されていることは大変嬉しく感じます.これを一つの追い風として,臨床検査に携わるもの自身も,より検査を高める努力を続けなくてはいけないと再確認しております.本書がそのためのツールの一つになることを願っております.今月号の“病気のはなし”は“新型インフルエンザ(A/H1N1)”です.先程,世の中激動と書かせていただきましたが,この新型インフルエンザこそが,まさにこの1年,医療現場を激動化させた主役でした.今,振り返って,WHOが新型インフルエンザでパンデミック宣言した頃の医療現場の大混乱は何だったのかと思いますが,予想される第2波に備えて,この落ち着いた時期にしっかりと勉強しなくてはと思いますし,本号の“病気のはなし”は,そのための格好のツールです.以下,詳細は略させていただきますが,ホルモン測定,遺伝子検査,胸部画像診断とバランスよく検査全体を網羅している“技術講座”,劇症肝炎を扱った“疾患と検査値の推移”をはじめとして,第一線の先生方のご執筆により,いつも同様,大変充実した内容になっています.今年度の総括,きたる次年度に向けての準備などでお忙しいことと思いますが,是非ご熟読下さい.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?