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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術38巻5号

2010年05月発行

雑誌目次

病気のはなし

口腔咽頭梅毒

著者: 余田敬子

ページ範囲:P.318 - P.323

サマリー

 梅毒は,口腔咽頭に変化が現れる代表的な性感染症である.口腔咽頭の梅毒は第1期または第2期の顕症梅毒として生じ,梅毒特有の病変を形成する.第1期では無痛性の初期硬結または硬性下疳として下口唇,扁桃,舌尖に生じる.第2期では口角炎や粘膜斑(乳白斑)が生じ,痛みや違和感を訴えることがある.診断には,梅毒トレポネーマを鏡検する直接法と梅毒血清反応があり,この双方の結果から総合的に診断する.治療はペニシリンが効果的で予後はよい.口腔咽頭梅毒は,性交渉を介して相手に感染させる可能性が高い病変であるため,早期の適切な診断治療が大切である.

技術講座 生理

―ステップアップのための画像診断入門・3―腹部領域のCT診断

著者: 磯田裕義 ,   有園茂樹 ,   嶋田功太郎 ,   柴田登志也 ,   富樫かおり

ページ範囲:P.325 - P.328

新しい知見

 マルチスライスCTとは,X線管球の対角にある検出器を体軸方向に複数並べたCTである.最近では256列以上の検出器列を有するマルチスライスCTも登場している.検出器が一つであるシングルスライスCTと比較して,単位時間当たりに撮像できる範囲が拡大できること,同一範囲を撮像する際には撮像時間が短縮できること,体軸方向の空間分解能が向上すること,従来と同等の画像を得る場合では被曝線量が低減できることが利点である.マルチスライスCTでは,3次元再構成画像の画質向上が著しく,臨床的有用性が高い.

生化学

―ホルモンの測定シリーズ・14 性腺系:1―エストラジオール(E2),プロゲステロン,ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)

著者: 竹岡啓子 ,   日高洋

ページ範囲:P.329 - P.336

新しい知見

 エストロゲン,プロゲステロンなどの性腺ステロイドホルモンは性周期や生殖機能において重要な作用を示し,これらのホルモン測定は関連疾患の病態把握や生殖補助医療には不可欠な検査である.ホルモンの遊離型は細胞内の核内受容体と結合したのち活性化され,さらにその複合体は標的遺伝子に結合してmRNAに転写され,蛋白合成がなされた結果,ホルモン作用を示す.内分泌ホルモン関連疾患(乳癌・卵巣癌など)の発症リスクと遺伝子多型(ホルモン受容体遺伝子や代謝酵素遺伝子)との関連については数多く研究がなされているが,いまだ明らかな結論は得られていない1,2).癌の発症には環境因子を含む多因子の関与が考えられている.

病理

免疫組織化学による二重染色法

著者: 林幸子 ,   小川真澄 ,   小岩井英三

ページ範囲:P.337 - P.342

新しい知見

 免疫組織化学による二重染色では,1巡目の抗原染色に用いた抗体や酵素が2巡目の抗原染色に影響を与えないことが必須であるが従来では簡便な方法がなかった.1995年に短時間の熱処理で酵素や抗体の失活ができることがわかり,二重染色が容易に行えるようになった.最近,酵素や抗体の変性試薬Denaturing Solution(Biocare Medical)が発売され,さらに迅速,簡便な二重染色が可能になった.酵素染色の発色剤もさまざまな色を呈するキットが数多く発売されており二重染色を容易に行える一助になっている.

疾患と検査値の推移

全身性アミロイドーシス

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.343 - P.347

アミロイド・アミロイドーシスとは1)

 アミロイドーシスとは,アミロイドと呼ばれる線維性の沈着物が細胞外間質に認められる一連の疾患群のことである.アミロイド線維は,蛋白・ペプチドが特異な構造変化(逆平行βシート構造)をきたして凝集したもので,光学顕微鏡ではエオジン好性に染色される無構造な沈着塊として,電子顕微鏡では10nm幅の線維の集合として観察される.

 多くの蛋白質がアミロイド線維化することが知られているが,本稿では血漿蛋白がその前駆体となる全身性アミロイドーシスについて述べる.全身性アミロイドーシスの各型は臨床的観点で分類されてきたが,現在ではアミロイドを構成する主蛋白の略称を使うことが国際的に決められている(表).

オピニオン

細胞検査士の将来像―臨床医に期待される細胞検査士

著者: 竹中明美

ページ範囲:P.324 - P.324

 私が細胞の織りなす“色の世界”に魅せられ細胞診を職業と選んだ当時(30年以上前)は,臨床検査技師のなかでも細胞検査に携わる人は少なく,資格を取得するには数少ない専門書で個人的に勉強している人がほとんどでした.そのころの細胞診の検体は婦人科(綿棒擦過),喀痰,胃洗浄液など,いわゆる剥離細胞が主でした.その後,気管支鏡擦過細胞診など,新鮮な細胞が採取されるようになりましたが,はじめは判定基準がわからず変性(剥離)した細胞のほうが判定しやすいと思っていました.呼吸器では喀痰から透視下肺穿刺・気管支擦過に,胃洗浄液から胃生検捺印(胃カメラの発達のため)にというように新鮮細胞の採取が盛んに行われるようになり,細胞所見も明確になってきました.

 近年,画像診断の発達に伴い微小病変が発見されるようになり,また新しい細胞判定基準が必要になってきました.微小病変は早期癌,境界病変が多く,異型の乏しい癌や前癌状態の細胞が採取されてきます.昔(?),癌細胞は大きく,核異型やクロマチン増量といった著明な判定基準が存在したのに,今では小型で核異型も少ない癌の判定をしなくてはなりません.また,病変が小さく,組織の採取が難しい症例や細胞診のみで判定する臓器や病変も増えてきました.

今月の表紙

肝細胞癌

著者: 内藤善哉

ページ範囲:P.349 - P.349

【症例の概要】

 70歳代,女性.慢性C型肝炎にて内科通院中に肝右葉(S6)に肝細胞癌を指摘され,肝S6亜区域切除術が施行されたところ44×33mmの中分化肝細胞癌であった.

ラボクイズ

細胞診

著者: 高平雅和 ,   手島伸一

ページ範囲:P.350 - P.350

4月号の解答と解説

著者: 内藤勝人

ページ範囲:P.351 - P.351

ワンポイントアドバイス

脱脂について

著者: 濱川真治

ページ範囲:P.348 - P.348

■脱脂処理の必要性

 病理組織染色に用いるパラフィン切片は,(1)ホルマリンによる固定,(2)アルコールによる脱水,(3)中間剤による脱アルコール,(4)パラフィン浸透の各工程が完了していることにより良好な標本作製が可能となる.通常,アルコールによる脱水工程やクロロホルムなどの中間剤処理,パラフィン浸透工程において,組織中の大まかな脂肪は溶出する.しかし,脂肪成分の多い組織は,パラフィンの浸透が妨げられ薄切が困難となる場合が多く,前処理として“脱脂”という操作が必要となる.

Laboratory Practice 〈生化学〉

尿中微量アルブミンの測定法

著者: 外園栄作

ページ範囲:P.353 - P.356

はじめに

 糖尿病性腎症は,糖尿病の3大合併症の一つであり,わが国における透析導入の原疾患の第一位に挙げられている.この腎症は,尿中に微量アルブミンが出現し始め,徐々にその量が増加,10~15年後には,通常の尿試験紙法でも検出される量の蛋白を呈する顕性腎症期を経て,その5~6年後には末期腎不全に陥る場合が多い.そのため顕性腎症期になる前の微量な蛋白(アルブミン)が尿中に出現し始める時期(早期腎症期)をいかに的確に捉え,厳格な血糖のコントロールを開始し,早期治療・経過観察を行うかが,腎症の進行を抑えるうえで重要である.このような観点から,現在,臨床における糖尿病性腎症の早期発見・診断マーカーとして尿中微量アルブミンの測定が行われている(表1).

関節炎マーカー(抗CCP抗体とMMP-3)の検査と使い方

著者: 小柴賢洋

ページ範囲:P.357 - P.360

はじめに

 関節リウマチ(rheumatoid arthritis,RA)は世界的に人口の約1%,わが国では70万人以上が罹患している.RAは原因不明の全身性疾患で,自己免疫機序により関節滑膜に炎症が起こり,種々の炎症性サイトカインや軟骨成分分解酵素などが多量に産生・分泌され,関節の破壊・変形をきたす.

 近年,RAの関節破壊は早期に進行することが明らかとなり,米国リウマチ学会(American College of Rheumatology,ACR)の治療ガイドライン1)では“window of opportunity”を逃さず積極的治療を行い,“寛解”に導くことを治療目標としている.

〈生理〉

小児脳死判定における脳波検査の注意点

著者: 唐澤秀治 ,   内藤博道 ,   畑山和己 ,   根本文夫 ,   山本邦厚 ,   畠山郁夫 ,   安藤智子 ,   大場崇

ページ範囲:P.361 - P.364

はじめに

 改正臓器の移植に関する法律は,2010年7月17日に施行される.小児の取り扱いに関して,改正前の法律では「15歳以上の者の意思表示を有効とする(ガイドライン)」となっていたが,改正法では「15歳未満の者でも遺族の承諾があれば脳死判定・臓器摘出は可能」ということになった.

 本稿の目的は,小児脳死判定における脳波検査の注意点について実践的な解説を行うことである.

〈免疫血清〉

感染症簡易迅速検査キットの現状

著者: 佐野和三

ページ範囲:P.365 - P.370

はじめに

 昨年4月,メキシコでブタを感染源として発生した新型インフルエンザ〔パンデミック(H1N1)2009〕は,またたく間に世界中に感染地域が拡大,患者は急増し,パンデミックとなった.当初,死亡率が高いような予想報道が海外からあったため,強毒性の鳥インフルエンザ発生を危惧していた日本行政当局は,対応に苦慮し,一般の人たちは感染症の怖さに震撼させられた.空港では水際作戦として発熱した入国者をサーモグラフィでチェックし感染患者の入国を阻止しようとした.しかし予想されたことではあるが,発症前の潜伏期間中の入国者の発見には効果がなく,日本中に蔓延していった.各医療関係機関は「発熱外来」を設けて,ほかの患者との接触を避け,感染拡大を防止するための対応に奔走した.幸い弱毒株で,致死率も季節型インフルエンザに比較しても低かったため,感染拡大の収束とともに冷静な対応がとられるようになった.

 幸いなことにこの新型インフルエンザは,遺伝子型別では季節性インフルエンザH1N1 A型と同じ型で,治療として抗インフルエンザ薬のタミフル(R)やリレンザ(R)が有効であった.また,例年流行する季節性インフルエンザA型と同型で,迅速検査キットであるインフルエンザ簡易検査キットでウイルスの検出が可能であり,診療の現場で迅速に結果の判定ができた.そのために直ちに適切な治療が実施できたのが,重症化しなかった大きな原因の一つであろう.感染症に対する迅速検査の有用性が示された事例といってよい.

 感染症を診断する立場から,感染症簡易迅速検査キットを使用すべき条件は,(1)伝染性の強い感染症か否かを判断しなければいけないとき,(2)その感染症がすぐに治療開始すべき疾患であること.そして(3)対象とする感染症に対する治療方法が確立されていること,と考えられる.一方,感染症簡易迅速検査キットの面からは,汎用される条件として,(1)操作性がよいこと,(2)感度がよいこと,(3)安価であること,が挙げられる.そして(4)遅くとも検体提出後30分以内で結果が得られるキットであることが重要と考える.

 本稿では,抗原検出方法を採用している感染症簡易迅速検査キットを中心に,(1)現在市販されている感染症簡易迅速検査キットの紹介,(2)測定原理,方法の説明,(3)検体採取のタイミングと方法,(4)使用に際しての注意点,(5)今後の課題を述べる.

〈輸血〉

輸血副作用報告の標準化

著者: 紀野修一 ,   浜口功

ページ範囲:P.371 - P.375

はじめに

 輸血用血液は他人の血液を原料とするため,副作用を完全に回避することはできない.輸血副作用は感染性副作用と非感染性副作用に大別され,後者は前者の100~1,000倍以上の発生頻度とされる1).非感染性副作用は免疫学的副作用と非免疫学的副作用に分けられる(表1)2).また,最近になって輸血副作用として認識され今後の検討が必要なものもある.これらの輸血副作用の発生頻度や重症度などを施設間や地域間などで比較検討したり,血液製剤の安全性向上のために実施されてきた数々の方策を評価するには,輸血副作用の発見方法,報告内容と様式,診断基準などを標準化することが必要である.

臨床医からの質問に答える

血中重炭酸濃度を測定したいのですが

著者: 神保りか ,   下澤達雄

ページ範囲:P.376 - P.379

はじめに

 酸塩基平衡異常は臨床上しばしば遭遇する問題であり,系統的なアプローチにより病態の解析と治療法の判断をすることができる.重炭酸イオン(HCO3)は体内のpH調整に重要な役割を果たしており,その測定は酸塩基平衡を理解するのに不可欠である.

 本稿ではHCO3測定に必要な基礎知識,測定上の注意,測定値の評価法などについて概説する.

トピックス

糸球体濾過値と尿中アルブミンによる末期腎不全の予測

著者: 永井恵 ,   山縣邦弘

ページ範囲:P.380 - P.381

はじめに

 透析や移植を必要とする末期慢性腎不全(end-stage kidney disease,ESKD)患者数は世界中で顕著に増加しており,1990~2010年の20年間でわが国の透析患者数は10.3万人から30万人,世界では43万人から210万人と,実に5倍に増えると予想されている.ESKD患者では心血管病の合併が多いことが古くから事実として知られていたが,糸球体濾過値(glomerular filtration rate,GFR)の軽度低下や尿蛋白を認める,いわゆる慢性腎臓病(chronic kidney disease, CKD)が心血管イベントのリスクでもある事実が広く知れわたってきた.本稿では,ESKDの予測因子としてGFRと尿蛋白あるいは尿中アルブミンの重要性について概説する.

深在性トリコスポロン感染症

著者: 佐藤奈穂 ,   木本真美 ,   時松一成

ページ範囲:P.382 - P.383

はじめに

 トリコスポロン属は,生物学的にはクリプトコックス属と同じ担子菌系真菌に分類される.形態からはカンジダ属と同じ酵母様真菌である.現在までに40種以上の菌種が発見されている.ヒトに感染症を引き起こす菌種は,かつてTrichosporon cutaneumあるいはT. beigeliiと呼ばれていたが,トリコスポロン菌属の再考の結果,そのほとんどはT. asahiiという菌種であることがわかった1).そのため,本稿で単にトリコスポロンという場合にはT. asahiiのこととする.

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第56回臨床検査技師国家試験―解答速報

ページ範囲:P.385 - P.385

あとがき

著者: 永江学

ページ範囲:P.386 - P.386

 国家試験に合格され,一生の仕事として臨床検査技師になられた新人の皆様,職場はいかがですか.これから約40年間楽しく勉強していってください.編集委員も皆様が楽しく勉強できるように,頑張ってまいります.

 臨床を続けていくと,毎日が決まった検査を行うだけかと思います.しかし,そのなかに一生に一度しか会わない症例の検査が常にあるということを頭の隅に置いておけば,患者さんのために常に勉強します.また,そのような症例を見つけたときの喜びは医療職としての最大の喜びでもあります.学生時代と違いこの喜びが勉強の評価です.決して留年はありませんので,自分が選んだ職業を楽しみながら勉強してください.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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