役に立つ免疫組織化学●免疫組織化学で注目すべき抗体
GIST病理診断標準化のための免疫染色
著者:
長谷川匡
,
荻野次郎
,
浅沼広子
,
櫻井信司
ページ範囲:P.426 - P.428
はじめに
消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor,GIST)は消化管の粘膜下腫瘍であり,発症頻度は年間10万人に約2人と見積もられている.胃に最も多く(60%),次いで小腸(30%)であるが,消化管のどの部位にも発生する(大腸<5%,食道<1%).
GISTでは85~90%の症例にKITチロシンキナーゼの活性型,すなわち腫瘍発生の原因と考えられるc-kit遺伝子の突然変異がみられる.突然変異のうち最も多いのは傍細胞膜領域をコードしているエクソン11のさまざまな点突然変異や欠失・重複であり,全GISTの約70%にみられる.細胞外領域(エクソン9)の重複が約15%に,チロシンキナーゼ領域I(エクソン13)とチロシンキナーゼ領域II(エクソン17)の点突然変異がそれぞれ5%未満に認められる.約5%のGISTにc-kit遺伝子と相同性をもつチロシンキナーゼPDGFRα遺伝子の突然変異が認められる.突然変異は傍細胞膜領域(エクソン12),チロシンキナーゼ領域I(エクソン14)およびチロシンキナーゼ領域II(エクソン18)にみられ,いずれも機能獲得性突然変異であり,そのGISTの発生原因となっている.残りの5~10%のGISTには,c-kit遺伝子にもPDGFRα遺伝子にも変異が認められない.
GISTの95%以上では免疫組織化学的にKITの発現が認められる.ほとんどの症例では細胞質がびまん性に強陽性となる.ドット状(Golgiパターン)や細胞膜パターンの陽性所見も認められることがある.KIT陰性のGISTの大部分はPDGFRα遺伝子変異をもつが,c-kit遺伝子変異を認めることもある.それゆえ,免疫組織化学的にKIT陰性であるからといってGISTの診断を除外するものではない.GISTと他の紡錘形細胞腫瘍との鑑別には,臨床所見,肉眼・組織形態所見,適切な免疫染色パネル(表),時には遺伝子変異解析を総合して判断することが重要である1).また,この免疫染色パネルを用いることで複数の専門病理医によるGISTの病理診断とKIT免疫染色評価は一致率が高い2).最近,GISTのPDGFRα遺伝子変異例で市販のPDGFRα抗体による免疫染色の陽性所見との関連性が指摘されている3).そこで,GIST病理診断標準化のために,PDGFRα免疫染色を加えた免疫染色パネルを用いて地域の一般病理医におけるGISTの病理診断と免疫染色の一致率を検討した.