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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術38巻8号

2010年08月発行

雑誌目次

病気のはなし

糖原病Ⅱ型(ポンペ病,ライソゾーム病)

著者: 衞藤義勝

ページ範囲:P.588 - P.594

サマリー

 ポンペ病(Pompe disease)は1932年ポンペにより報告された1)ライソゾーム病の一つであり,酸性α-グルコシダーゼ(acid alpha glucosidase,GAA)の遺伝的酵素欠損により発症する.臨床的には乳児型と小児・成人型(遅発型)に分類される.乳児型は乳児期早期に心拡大,心不全で2歳までに死亡する.遅発型では筋力低下,歩行障害,呼吸障害を呈し,最後は呼吸不全で死亡する重篤な疾患である.遺伝形式は常染色体劣性遺伝形式をとる.酵素補充療法が開発され,早期治療により症状の悪化を予防できる.ただし,酵素に対する抗体産生は治療効果を減弱することから,抗体に対する治療も試みられている2)

技術講座 生理

―ステップアップのための画像診断入門・6―乳腺画像診断(マンモグラフィ)

著者: 村上隆介 ,   汲田伸一郎 ,   岩野茉梨絵 ,   小林宏之 ,   松原美幸 ,   土屋眞一

ページ範囲:P.595 - P.602

新しい知見

 マンモトーム(Mammotome®)は画像ガイド下に,従来の針生検より確実に十分な検体が採取できる乳房専用吸引吸引式組織生検システム(vacuum-assisted biopsy system)で1),経皮的な針生検装置の一種である.主に11Gの針が使用されること,外筒・内筒それぞれに吸引圧をかけること,針の外筒を留置したまま内筒を抜き差しできること,外筒の側溝を回転させて針の周囲360°から採取できることにより,1回の穿刺で十分な量の検体を何本でも採取することが可能となった.マンモトームは通常,マンモグラフィまたは超音波の画像ガイド下に使用され,特に非触知病変の組織診断に威力を発揮している.マンモグラフィのステレオ撮影ガイド下に行われるマンモトームの適応は原則としてマンモグラフィのみで描出される病変である.悪性を疑う石灰化がよい適応である.

生化学

―ホルモンの測定シリーズ・17 その他:2―アディポネクチン

著者: 船橋徹 ,   小村徳幸

ページ範囲:P.603 - P.611

新しい知見

 動脈硬化疾患予防医学の流れは,これまでLDL(low density lipoprotein)cholesterol対策が中心であった.近年,過栄養,運動不足がもととなって内臓脂肪が蓄積し,血圧,脂質,血糖の異常などマルチプルリスクファクターを合併するメタボリックシンドロームが動脈硬化疾患の基盤として重要になってきた.メタボリックシンドロームでは脂肪細胞の機能異常が起こっており,そのなかでも脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンの血中濃度低下,すなわち低アディポネクチン血症が注目されている.

病理

免疫グロブリンκ,λ鎖を免疫染色で上手に染めるコツ

著者: 後藤義也 ,   安田政実

ページ範囲:P.613 - P.620

はじめに

 免疫組織化学(immunohistochemistry,IHC)による免疫グロブリン(immunoglobulin,Ig)を構成するL鎖(κ鎖,λ鎖)の検出は,病理診断のどのような場面で必要とされているのだろうか.検査の現場では,自動免疫染色装置の普及により薄切標本をセットすれば,誰が施行しても“スイッチオン”で機械的にIHC標本ができ上がる状況になりつつある.そのため,臨床検査技師は,抗体(試薬)の管理や機械メンテナンスのほか,染色後の標本確認が主なIHC関連業務となっている.標本確認では,単に陽性,陰性のみで標本の適否を評価するのではなく,病理診断上に必要な専門的知識をもとに病理診断に最適な結果を提供できる標本であるか否かを評価する力が求められている.

 本稿では,「免疫グロブリンκ鎖,λ鎖を免疫染色で上手に染めるコツ」を理解するうえで知っておきたい“基本的事項”,“免疫組織化学の実際”,“ISHによるmRNAの検出”について,これまでの経験と新たな試みを加え概説する.

疾患と検査値の推移

ウイルス性肺炎

著者: 川島辰男 ,   松澤康雄 ,   蛭田啓之

ページ範囲:P.621 - P.626

はじめに

 肺炎の起因菌としては主に細菌,真菌,原虫そしてウイルスなどがある.市中肺炎のうち18~28%はウイルス性肺炎であり,起因菌としてはインフルエンザウイルス,パラインフルエンザウイルス,アデノウイルス,RSウイルス,サイトメガロウイルス,麻疹ウイルス,水痘ウイルス,帯状疱疹ウイルスなどがあり,一般に乳幼児~小児,高齢者,免疫不全疾患,薬物などによる免疫抑制状態の患者などに生ずることが多いが,健常者にも発症し市中肺炎をきたす1,2).市中肺炎の病因ウイルスとして新生児ではサイトメガロウイルス,ヘルペスウイルス,乳幼児~小児ではRSウイルス,パラインフルエンザウイルス,ヒトメタニューモウイルス,インフルエンザウイルス,アデノウイルス,ライノウイルスなどが多く3),成人ではインフルエンザ,RSウイルス,アデノウイルスが多い4)(表).

オピニオン

包括医療 その後

著者: 金光房江

ページ範囲:P.612 - P.612

 診断群分類(diagnosis procedure combination,DPC)包括評価による入院医療費の定額支払制度,いわゆる包括医療制度は2003年4月から特定機能病院等を対象に開始されました.翌2004年からはDPC調査協力病院として対象が拡大されたため,当院も参加し2005年からDPC対象病院となりました.その後5,6年が経過し,包括医療化に伴う傾向がみえてきたので,クリニカルインディケータとの関連で検査部門の動向を考えてみます.

 当院では包括医療の対象となる一般病床は,協力参加の2004年では1,106床でした.その後,許可病床数が増えたため,現在では1,125床が対象病床として稼動しています.平均在院日数は,2004年は15.2日でしたが,2007年からは12日台です.在院日数が短縮するに従い病床回転数は上がり,1か月の新入院患者数は6年間で25%増加しました.一方,1日平均外来患者数は6年前も現在も2,800人台で大きな変化はありません.これは地域医療連携体制が機能しているためで,6年間で紹介率,逆紹介率ともに20ポイント程度上昇しました.また,救急センターを受診した救急患者は6年間で22%増加しました.

今月の表紙

粘液癌

著者: 森谷卓也 ,   中島一毅

ページ範囲:P.627 - P.627

【症例の概要】

 40歳代,女性.右乳房に腫瘤を自覚し来院.マンモグラフィでは乳腺濃度領域から突出するような,高濃度な多角形腫瘤があり,辺縁は微細分葉状でカテゴリー4と判断された.超音波検査では均質な内部エコーレベルを有し(図1),ドプラおよびエラストグラフィ(図2)を合わせて粘液癌が疑われた.造影MRIでも早期から濃染がみられた.穿刺吸引細胞診で悪性・粘液癌推定と判定,手術が施行された.病理学的には純型の粘液癌(図4,5)で,核異型は中等,エストロゲン受容体陽性,HER2陰性であった.

ラボクイズ

細胞診

著者: 荒井祐司

ページ範囲:P.632 - P.632

7月号の解答と解説

著者: 吉田弘之 ,   木下承皓

ページ範囲:P.633 - P.633

役に立つ免疫組織化学●免疫組織化学で注目すべき抗体

悪性中皮腫に有用な抗体

著者: 酒井康裕 ,   大林千穂

ページ範囲:P.628 - P.631

はじめに

 悪性中皮腫は胸膜,腹膜,心膜,精巣鞘膜といった中皮細胞に覆われた“腔”に発生する,難治性で予後不良の悪性腫瘍である.発生頻度として,胸膜が7割前後を占め,心膜,精巣漿膜は稀である.一般にびまん性増殖の形態を示すが,限局性も存在する.病理組織学的には上皮型,二相型,肉腫型,線維形成型,特殊型と多彩な組織像を呈する.

 特に胸膜悪性中皮腫発生の高危険因子として石綿(アスベスト)への曝露が指摘されているが,石綿に関連した労働者や工場の近隣住民などには労災保険法,石綿による健康被害の救済に関する法律で,補償対象となることから,医療上だけでなく社会的にもその的確な診断は重要である.

 本稿では悪性中皮腫の診断に当たり,パラフィン切片を利用した免疫組織化学で有用な抗体に的を絞り紹介する.

ワンポイントアドバイス

ピロリ菌検査の使い分け

著者: 吉田俊太郎 ,   藤城光弘 ,   渡部宏嗣 ,   小池和彦

ページ範囲:P.652 - P.653

はじめに

 Helicobacter pylori(以下,H. pylori)は,WarrenとMarshallにより胃粘膜から分離同定されたグラム染色陰性の微好気性桿菌であり1),胃粘膜上皮の慢性的な炎症を惹起する.H. pyloriはさまざまな疾患との関連が知られており(表1),特に胃癌との関連から,1995年に世界保健機構(World Health Organization,WHO)は,H. pyloriをclass1carcinogen(癌との関連が強く考えられる)に認定した.H. pyloriの除菌は,これらの疾患に対する治療となることが報告されており,その診断は極めて重要である.

Laboratory Practice 〈診療支援〉

外来迅速検体検査加算

著者: 米山彰子

ページ範囲:P.635 - P.637

はじめに

 平成22年度診療報酬改定では,臨床検査にマイナス改定があるのではないかとの危惧に反して,外来迅速検体検査加算の引き上げ,一部の実施料の増点,検体検査管理加算(IV)の新設,採血料の増点など臨床検査について診療報酬上,一定の評価を得ることができたといえよう.なかでも外来迅速検体検査加算は,日本臨床検査医学会の提案により平成18年度の改定時に1項目1点,最大5項目計5点で新設されたものが,平成20年度の改定で最大5項目で25点に,そして今回は5項目で50点へと増点された.これは新設に向けて臨床検査医学会から申請した際に要望した点数であり,新設後に臨床検査医学会の評議員を対象に行ったアンケートで希望する点数を訊ねた際も最も多い点数であった.今回の改定に向けて,1項目10点への増点を要望していたので,いわば満額回答である.外来診療における迅速検査の重要性を評価された意義は大きく,病院の収益にも貢献できる.本稿では,外来迅速検体検査加算の概要と意義,その趣旨を生かす方向性について紹介する.

〈微生物〉

Clostridium difficile 国内外の優勢株・流行株について

著者: 加藤はる

ページ範囲:P.638 - P.641

Clostridium difficile感染症とタイピング法について

 C. difficile感染症(C. difficile infections,CDI)は,医療関連感染の一つとしてよく知られているが,最近は,市中感染としても注目されている.さらに,ウシやブタにおけるC. difficile感染1)や,食品における汚染などにも大きな関心が寄せられている2).CDIは医療関連感染として重要であるため,感染源や感染経路の調査目的にさまざまなタイピング法が開発・応用されてきた.タイピング解析を,医療施設内での菌株間の比較だけでなく,施設や地域を超えて分離された菌株の比較検討に応用すると,特定の菌株が複数の医療施設において流行株や優勢株となっていたり,菌株間で病原性の差異が認められていたりすることが,明らかになってきた.

 C. difficileのタイピング法としては,さまざまな方法が開発・評価されており,表現型別では血清型別3),遺伝子型別ではrestriction endonuclease analysis(REA),pulsed field gel electrophoresis(PFGE)解析,PCR ribotyping,multilocus sequence typing(MLST),multilocus va-riable-number tandem-repeat analysis(MLVA),amplified fragment length polymorphism(AFLP)解析,およびsurface layer protein A gene sequence typing(slpA sequence typing)などがある4).多くの研究室で採用されているタイピング法は,PCR ribotypingとPFGE解析で,Stubbsらにより確立されたPCR ribotyping5)による解析は英国を中心としたヨーロッパで,PFGEによる解析は主に米国やカナダで行われている.一方,C. difficileの産生する毒素には,toxin A,toxin B,およびbinary toxinがある.toxin A遺伝子とtoxin B遺伝子が位置しているpathogenicity locus(PaLoc)に認められる多様性はtoxinotypeとして分類される6)

〈生理・診療支援〉

生理検査システムと電子カルテ

著者: 今西孝充

ページ範囲:P.643 - P.647

はじめに

 生理検査システムは基幹システムである病院情報システム(hospital information system,HIS)からみると下位の一部門システムに位置する.しかし同じプラットフォーム上に構築され,種々の医療情報は相互利用されているため,生理検査単独でのシステム構築は意味をもたない.

 このことを踏まえ,電子カルテと連携するためにはどのような考えで生理検査システムを構築すべきか,当院の事例を交えて紹介する.

けんさ質問箱

HOMA-Rの計算式と基準値

著者: 滝澤壮一 ,   小林哲郎

ページ範囲:P.648 - P.650

Q.HOMA-Rの計算式と基準値

HOMA-Rについて,計算式や基準値が統一されていませんが,どうしてでしょうか?(岐阜市 K.N.生)


A.滝澤壮一・小林哲郎

はじめに

 近年,2型糖尿病患者数は国内でも急増している.2型糖尿病の病態ではインスリン分泌能低下とインスリン抵抗性が関与しているが,特にインスリン抵抗性は2型糖尿病発症の主要な危険因子であり,生活習慣と密接な関連性を示す.また,インスリン抵抗性は糖尿病の発症のみならず,動脈硬化性疾患の発症・進展にも関与する.末梢のインスリン抵抗性が存在すると,その結果,高インスリン血症となり,耐糖能障害を起こし,高血圧や脂質代謝異常を起こしてくる.糖尿病が増悪進展するとインスリン抵抗性はさらに増悪し,危険因子が集積されて心筋梗塞や脳梗塞などの糖尿病性大血管障害,特に心血管障害を起こす.今日,インスリン抵抗性を正しく評価することは病態の把握のみでなく,患者の予後を左右する治療の選択にも非常に重要となっている.

 本稿では,これらの病態に関与するインスリン抵抗性の評価方法として臨床的に広く用いられているHOMA-Rを中心に概説したい.

臨床医からの質問に答える

CEAカットオフ値付近の変動をどのように解釈するか?

著者: 熊谷俊子 ,   栁奈緒美 ,   菅野光俊 ,   伊藤研一

ページ範囲:P.654 - P.656

はじめに

 癌胎児性抗原(carcinoembryonic antigen,CEA)は,1965年GoldとFreedmanによってヒトの大腸癌より抽出された糖蛋白で,大腸癌を中心とした各種の癌で増量する汎腫瘍マーカーの一つとして広く用いられている1).早期癌における陽性率は高くないため早期診断の有用性は低いが,種々の癌で上昇するため手術後や化学療法などの経過観察に有用である.しかし,今回のテーマに示されたように,経過観察中にカットオフ値付近で変動した場合,その解釈が困難な場合がある.筆者らの経験した例を紹介しながらその原因や対策について考察してみたい.

トピックス

立会い規制に関する検査室の対応―看護師の立場から

著者: 平野有美

ページ範囲:P.658 - P.661

はじめに

 近年,食生活の欧米化により動脈硬化疾患が年々増加し,高齢者に多かった脳卒中・冠動脈疾患も若年者が罹患することも稀ではない.動脈硬化性疾患は喫煙・高血圧・糖尿病・脂質異常症をはじめとする多くの危険因子が複数関与し発症するが,その原因は体質に加え生活習慣の歪みである.食事の欧米化と伴に総コレステロール値は上昇を続け1990年には米国と同等となった.このような背景から血管内治療の頻度は増え,病変部の多発性や複雑性から治療技術も発展し使用されるデバイスも多種多様化してきており,かかわるコメディカルの知識・技術の向上やチーム力が問われるようになってきた.さらに,2008年4月より「医療機関における医療機器の立合いに関する基準」が実施され,医療機関は大きな影響を受けた.医療機器に対する事業者立会いは主に手術室・カテーテル室・外来・在宅などの場で行われていることが多いが,本稿ではカテーテル室での経験を提示する.みなさまの知識や現場で起こっている問題の解決策となれば幸いである.

尿蛋白測定法―ピロガロールレッドMo法の問題点と改良試薬の評価

著者: 外園栄作

ページ範囲:P.662 - P.664

はじめに

 現在,尿中総蛋白測定試薬として検査室で用いられている試薬は,主にピロガロールレッドMo錯体法(PR-Mo法)を原理とする方法が主流であり,この方法を原理とする試薬を採用している施設は,実に全国の検査室の86%を占め,その普及率の高さがうかがえる1).しかし,PR-Mo法は,これまで,グロブリンへの反応性が低いことや低値直線性に問題があった.そこで本稿では,その問題点が改善されたとする改良試薬について,基礎的定量特性ならびにグロブリンへの反応特性について,従来試薬との比較データを踏まえながら改良試薬の評価を記す.

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あとがき

著者: 山内一由

ページ範囲:P.666 - P.666

 熱戦を繰り広げていたサッカーワールドカップ南アフリカ大会は,スペインの初優勝で幕を閉じました.念願のベスト4進出こそ叶いませんでしたが,夢と希望,そして勇気を与えてくれた岡田ジャパンに感謝です.

 一方,ワールドカップ閉幕直後に行われた参議院議員選挙の結果には少々がっかりさせられました.政治家に対してだけでなく,われわれ有権者に対しても,です.期待を寄せて民主党を選んでおきながら,舌の根も乾かぬうちに批判をする,私たち国民の無責任さについては,2010年12月号の「あとがき」にも記させていただきました.私は民主党擁護派でもなければ,特別な政治思想を持っているわけでもありませんが,もう少し長い目で民主党主体の国政を見守っていてもよかったのではないかと感じます.確かに問題はありますが,よくよく考えてみれば,問題の多くは自民党政権時代の負の遺産であるように思います.ねじれた政権では,国政の立て直しはさらに難しいのではないでしょうか.「サッカーと政治を一緒にするな!」とお叱りを受けてしまうかもしれませんが,岡田監督不要論を強く支持していた私も,今回のワールドカップで,「成果を形として表す」には相当の時間を要するということを,改めて痛感させられました.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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