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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術38巻9号

2010年09月発行

雑誌目次

病気のはなし

CADASIL

著者: 植田光晴 ,   安東由喜雄

ページ範囲:P.672 - P.676

サマリー

 cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy(CADASIL)は,Notch3の遺伝子変異による常染色体優性遺伝性疾患であり,遺伝性の脳卒中では最も高頻度で遭遇する疾患で,最近日本各地で報告されている注目の疾患の一つである.病理学的に血管壁の異常沈着物であるgranular osmiophilic material(GOM)が電子顕微鏡で観察されるという所見も認め,脳血管障害の病態に深く関与していると想定されている.本症は,若年発症,白質脳症,片頭痛,認知機能低下などの症候に加えて,特徴的な頭部MRI所見を呈する.これらの所見は診断に重要な意義をもつ.最終的な本症の診断確定には遺伝子検査でNotch3の変異を確認する必要がある.

技術講座 生化学

―ホルモンの測定シリーズ・18 その他:3―オステオカルシン,尿中・血中NTx

著者: 佐藤幹二

ページ範囲:P.677 - P.680

新しい知見

 オステオカルシン(osterocalcin,OC)は3個のグルタミン基を有している骨基質蛋白である.このグルタミン残基のγ位がすべてカルボキシル化されると活性のあるOCとなり,hydroxyapatiteと結合して骨形成に寄与している(図1).しかしビタミンKが不足していると,カルボキシラーゼ活性が低下してGla化されないオステオカルシン(undercarboxylated osteocalcin,UcOC)として血中に漏出してくる.血中UcOCが高値だと骨は脆弱となり骨折率が増加する.しかし,ビタミンKを摂取するとUcOCが減少して,骨折率が減少することが確認されている1~3).最近,OCには膵のβ細胞に作用して,インスリンとアディポネクチンの分泌を促進することが明らかとなった4).つまり,OCは脂質代謝にも影響を与えるホルモンであり,骨は脂肪組織と同様に内分泌臓器でもあることが解明されつつある.I型コラーゲン架橋N-テロペプチド(type I collagen cross-linked N-telopeptide,NTx)は骨吸収を最もよく反映する骨代謝マーカーとして既に確立されており,目新しい新知見は見当たらない.

real-time PCR法によるキメラmRNAの定量

著者: 南木融

ページ範囲:P.681 - P.685

新しい知見

 キメラ遺伝子(融合遺伝子)の定量検査は,白血病病型の確定診断や治療法の決定,化学療法や造血幹細胞移植(stem cell transplantation,SCT)後の治療効果判定および再発の早期発見に有用であり日常検査として行われている.これまでキメラ遺伝子検査は白血病やリンパ腫に対して行われてきたが,最近では前立腺癌や非小細胞肺癌においても融合遺伝子が認められており,今後は白血病やリンパ腫以外の疾患に対するキメラ遺伝子検査にも期待がもたれる.

疾患と検査値の推移

市中肺炎

著者: 小司久志 ,   詫間隆博 ,   吉田耕一郎 ,   二木芳人

ページ範囲:P.688 - P.693

はじめに

 市中肺炎は臨床医であれば誰もが遭遇するcommon diseaseである.臨床経過は年齢や基礎疾患の有無などの宿主側要因と耐性菌などの病原体側要因が密接に関係し,軽症から重症までさまざまである.病初期に適正な診断,治療がなされなければ死に至ることも少なくない1).わが国では2005年に日本呼吸器学会から「成人市中肺炎診療ガイドライン」が発表されており,エビデンスに基づいた検査や治療の実践を推奨している.本稿では市中肺炎の基本的な病態や肺炎診療における臨床検査値の変動,推移およびその解釈方法について述べる.

オピニオン

災害時における臨床検査技師の役割

著者: 福田篤久 ,   久保田芽里 ,   石田浩美 ,   伊東宏美

ページ範囲:P.687 - P.687

 「災害は忘れた頃にやってくる」は,自然災害の多発・人為災害の脅威・新しい災害モードの登場など,その様相が大きく変化したため今では死語となりつつある.そして,現在では「災害は忘れる前にやってくる」に変わってきている.いうまでもなく,多数の患者が短時間に搬入される災害時に,迅速かつ正確な検査データを提供するためには,まずマニュアルの作成と何よりも訓練が重要である.したがって,本稿では“忘れる前にやってくる災害”に対して,臨床検査技師として考えねばならないことをできる限りわかりやすく解説する.

 まず個々の災害について,病院機能が維持されている場合と部分的に維持されている場合,あるいは全く消失する場合もある.仮に病院機能が部分的に維持されていたとしても,次に人員確保の問題が浮上する.このように,“災害時の臨床検査”を考えるとき,無数に存在する場面を想定し対策を立てるべきであるが,それも不可能に近いと言わざるをえない.しかし,不可能に近いからと放置しておける問題でもなく,想定不可能な災害に対してわれわれは災害経験者の講演や話・論文などから経験不足を補わなければならない.これに関してこんな報告がある.それは災害を,①見たことも聞いたこともない,②話に聞いたことがある,③似たようなことを経験した,④以前に経験した,⑤何回も経験した,というように①~⑤の順に経験の度合いが増すにつれて個々の災害対応能力が二次関数的に上昇すると言うのである.このことは,われわれは災害において絶対的な経験不足ではあるが,数多くの情報を得ることによりこの経験不足を補うことができることを示している.

今月の表紙

肝内胆管癌

著者: 内藤善哉 ,   許田典男 ,   山初和也

ページ範囲:P.703 - P.703

【症例の概要】

 50歳代,女性.人間ドックで,癌胎児性抗原(carcinoembryonic antigen,CEA)297.4ng/ml(基準値5ng/ml以下)や糖鎖抗原19-9(carbohydrate antigen,CA19-9)12,000U/ml(基準値37U/ml以下)などの腫瘍マーカーが異常高値を示したため,精査目的で紹介入院となった.入院後,画像検査で肝S4に腫瘤を指摘され,肝左葉切除術およびリンパ節郭清術が施行された.腫瘍は肉眼的には3.5cm大の結節型胆管細胞癌で,組織学的には粘液癌成分を含む中分化型腺癌であった.

ラボクイズ

超音波検査

著者: 高田裕之 ,   山崎家春

ページ範囲:P.696 - P.696

8月号の解答と解説

著者: 荒井祐司

ページ範囲:P.697 - P.697

役に立つ免疫組織化学●免疫組織化学で注目すべき抗体

軟部肉腫のKi-67発現

著者: 井藤久雄 ,   野坂加苗 ,   濱本佑樹

ページ範囲:P.699 - P.701

はじめに

 軟部肉腫はその発生母細胞や組織像が多種多様であり,発生頻度も低いため病理診断自体が容易ではない.免疫組織化学的検討が必須である.生物学的悪性度を推定することは治療を選択するうえで欠かせない.予後因子としては組織学的悪性度,腫瘍サイズ,転移の有無,発生深度,腫瘍進展範囲(コンパートメント)が重要視されている.このうち,組織学的悪性度に関してはTrojaniらの分類を基にしたFNCLCC(Fédération Nationale des Centres de Lutte Contre le Cancer)基準がWHO(World Health Organization)分類に採用されている1,2).それは腫瘍分化度,核分裂数,壊死,組織学的亜型から構成されている.核分裂数は0~9,10~19,20以上/10HPF(high power field)の3段階に分類されているが,観察者によってバラツキが大きい.これとは別に各種マーカーを用いて免疫組織化学的に腫瘍細胞の増殖活性を判定する試みが盛んである.判定が容易で,核分裂数とよく相関しているからである.

ワンポイントアドバイス

特殊検体(便,膿,関節液,気管支洗浄液など)中の生化学成分測定と検体の前処理法

著者: 金原清子

ページ範囲:P.695 - P.695

 生化学検査の対象となる検体は,主に血清,血漿,尿などであり,測定試薬や分析機はそれらを対象として開発されたものである.実際にはさまざまな特殊検体が検査室に提出される.表に通常,検査部に提出される検体種を示したが,漏出性の体腔液のように血清に近い性状のものから,その性状が大きく異なる検体までさまざまである.検査に当たっては,測定だけでなく目的成分を適切に抽出する前処理操作にも十分な注意が必要である.

臨床医からの質問に答える

血小板機能検査を依頼する際に注意すべきこと

著者: 佐藤金夫

ページ範囲:P.719 - P.721

はじめに

 血小板減少を認めない一時止血の異常では血小板機能異常症を疑い,血小板機能検査を行う.血小板の機能には粘着能,放出能,凝集能があり,それぞれの評価に対応した検査法が知られている1).そのなかでも血小板凝集能検査が機能検査の中心的位置を占めている.

 血小板凝集能検査は出血性疾患の原因検索・診断に不可欠な検査法であり,また,最近では動脈血栓症の二次予防やステント血栓症の予防に処方される抗血小板薬の薬効評価や,血栓性疾患の評価に利用されている2).血小板凝集能検査には測定試料の違いにより二種類があり,遠心操作により血液から血小板を分離して多血小板血漿(platelet-rich plasma,PRP)を使用するPRP法と,全血をそのまま使用する全血法とがある.

 前者には光透過性を利用した透過光法(吸光度法)や散乱光を利用した粒子計測法があり,後者には吸引圧の変化を利用したSFP(screen filtration pressure)法を原理とした装置がある.多くの検査室では透過光法を原理とする装置で血小板凝集能検査を実施していると思われるので,本稿ではこちらの原理を使った方法を中心に,検査依頼の際の注意点を述べたい.粘着能や放出能などの機能検査法については同様のタイトルで以前に紹介されているのでそちらを参照いただきたい3)

Laboratory Practice 〈免疫〉

HLA適合血小板供給のための検査

著者: 荒木延夫

ページ範囲:P.704 - P.710

はじめに

 血小板膜表面にはHLA抗原(human leukocyte antigen),血小板特異抗原(human platelet antigen,HPA)などの同種抗原が存在する.そのため,頻回の血小板輸血などにより抗HLA抗体や抗HPA抗体が産生された患者に血小板を輸血すると,血小板上のHLA抗原やHPA抗原とそれらの抗体がただちに免疫破壊反応を起こし,血小板輸血不応(platelet transfusion refractoriness,PTR)に陥る.このような患者にHLA抗原あるいはHPA抗原の適合した血小板を輸血すると,良好な臨床効果の成績が得られる.そこで,赤十字血液センターでは,HLA適合血小板として濃厚血小板HLA-LR「日赤」(platelet concentrate HLA-leukocytes reduced,PC-HLA-LR)を供給している.本稿では,HLA適合血小板供給のための検査などについて述べる.

〈微生物〉

ESBLsの分類

著者: 石井良和

ページ範囲:P.712 - P.717

はじめに

 βラクタマーゼはβラクタム環のペプチド結合を加水分解する酵素である.これまでに900以上のβラクタマーゼが報告されているが,臨床上問題となるのは,βラクタマーゼに分解されにくい第二世代や第三世代,第四世代セフェム系薬,モノバクタム系薬,カルバペネム系薬などに耐性を付与するβラクタマーゼである.これらのうち,第三世代,第四世代セフェム系薬あるいはモノバクタム系薬を分解する能力を獲得したクラスAあるいはクラスDに属する酵素を基質特異性拡張型βラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamases,ESBLs)と呼んでいる.

復習のページ

ディスク拡散法の測定原理

著者: 相原雅典

ページ範囲:P.723 - P.726

はじめに

 筆者がディスク法の測定原理に触れた最初の資料がCooperの文献1)であった.その後,Bauerらの一濃度法2)を基盤としたCLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute)によるディスク法の標準化やディスク作成および判定基準設定法を記したドキュメント3)を入手し理解を深めた次第であった.今日,自動機器の普及に伴い微量液体希釈法への転換が急激に進み,ディスク法は全感受性検査の20%未満まで減少した.しかし,米国の例をみてもディスク法の需要は根強いものがあり,執筆する意義があると考えた.

けんさ質問箱

ASC-US,ASC-HとLEEP・円錐切除後フォローアップ

著者: 中山裕樹

ページ範囲:P.728 - P.731

Q.QASC-US,ASC-HとLEEP・円錐切除後フォローアップ

ASC-US,ASC-Hについて,LEEPや円錐切除をした後のフォローアップの患者さんのとき,どのようにしたらよいのか教えてください.(岐阜市 O.A.生)


A.中山裕樹

はじめに

 子宮頸癌の罹患者は急速に若年化しており,未産婦あるいは未婚者の罹患が増えている.そのため,初期癌では妊孕性温存治療を行うことが多くなり,それら治療後のフォローアップ細胞診をみる機会も増えている.本稿では,妊孕性温存治療後に細胞診異常,特にASC-US(atypical squamous cells of undetermined significance)・ASC-H(atypical squamous cells cannot exclude HSIL)が疑われた場合の取り扱いにつき概説する.

トピックス

腎障害とメガリン

著者: 斎藤亮彦

ページ範囲:P.733 - P.734

 わが国において慢性腎臓病(chronic kidney disease,CKD)患者は約1,300万人存在し,末期腎不全への進展および心血管病発症の高リスク群として,その病態把握が重要とされている.末期腎不全に至るCKDの原因疾患としては糖尿病性腎症が第一位を占めており,従来高かった慢性腎炎患者の透析導入比率は減少傾向にある.一方,糖尿病のほかにも高血圧,メタボリックシンドロームなどの生活習慣病に起因するCKDが増加している.

 このようにCKDの原因疾患はさまざまであるが,最終的に末期腎不全に進展する機序として,尿細管・間質障害がその共通経路として注目されている.ゆえにそのような尿細管・間質障害の発症と進行を把握するための適切なバイオマーカーの開発が望まれている.特に尿検体の採取は容易であるため,尿中バイオマーカーに期待が集まっている.さらに尿細管の部位特異的に産生され,傷害に伴って尿中に逸脱するマーカーが,その機序を明らかにするうえでは望ましいと考えられる.

ApoE-rich HDLと動脈硬化

著者: 三井田孝 ,   平山哲

ページ範囲:P.735 - P.737

はじめに

 高比重リポ蛋白(high density lipoprotein,HDL)は,比重が最も重く,直径が最も小さいリポ蛋白である.ほかのリポ蛋白に先駆けて,HDLはウマの血清中から1929年にMacheboeufによって発見された1).リポ蛋白様の脂質と蛋白の複合体は昆虫にも認められ,ヒトのHDLに似た特徴をもつHDL粒子は,既に硬骨魚に存在するという(軟骨魚には極めて少ないが).霊長類を除く哺乳類では,HDLが主要なリポ蛋白である.ヒトの場合も,臍帯血中のコレステロールの約50~60%はHDLに存在する2).培養細胞を用いた実験系では,HDLを添加することによりマクロファージの泡沫化が抑制され,泡沫細胞の脱泡沫化が促進される.このほかに,HDLには抗炎症作用,抗血栓作用,抗酸化作用などがあると報告されており,動脈硬化を抑制するリポ蛋白であると考えられる.

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あとがき

著者: 菅野治重

ページ範囲:P.738 - P.738

 厳しい暑さが続きますが,読者の皆様はお変わりなくお過ごしでしょうか.昨年は新型インフルエンザが8月から本格的に流行し始め,昨年の今頃は多くの医療機関が新型インフルエンザの患者の対応に苦労されていたかと思います.現在のところ新型インフルエンザは限局的な小規模な発生報告はみられますが,幸い大規模な流行は報告されていません.しかし,2次・3次の流行は必ずくると思いますので,新型インフルエンザの動向には今後も十分注意して下さい.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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