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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術39巻10号

2011年09月発行

雑誌目次

増刊号 緊急報告すべき検査結果のすべて―すぐに使えるパニック値事典

著者: 菅野治重

ページ範囲:P.723 - P.723

 医師に緊急に検査結果を報告すべき異常値(パニック値)を理解することは,臨床検査技師にとって重要な課題です.パニック値は患者が極度に重篤化した状態に置かれていることを示しており,患者を救命するためには迅速に適切な治療が必要です.

 パニック値を緊急に医師に報告すべき項目としては,生化学検査ではカリウム,血糖値,クレアチニンなどが,血液検査ではヘモグロビン,血小板,FDPなどが代表的です.本書ではこれに加えて,輸血検査,微生物検査,生理検査,一般検査,病理・細胞診の検査,薬物検査などについても迅速な報告が必要なパニック値を取り上げました.微生物検査では,病気の進行が早く治療が遅れれば致命的になる疾患として,細菌性髄膜炎,敗血症,劇症溶連菌感染症などを取り上げました.また,ノロウイルス胃腸炎など患者が発見された場合に早急に院内感染防止策をとる必要がある疾患を取り上げました.生理検査では心電図,脳波,各種超音波検査において生命にかかわるパニック値を紹介しました.一般検査では患者の重篤な病態を示しパニック値と考えるべき尿検査所見と髄液検査所見を紹介しました.病理・細胞診検査でもパニック値と考えるべき事象について解説しました.薬物検査では迅速な処置が必要なパニック値について解説しました.

総論

著者: 松尾収二

ページ範囲:P.726 - P.728

はじめに

 1975年,Lundbergは即治療を要する危険な病態を示唆する異常値をpanic valueあるいはcritical valueと定義し,これを速報するという画期的な検査報告システムを提唱した1).このパニック値は主治医に緊急報告(速報)することによって初めて生きてくる.特にパニック値を予期していない場合,治療方針の決定に大きな影響を及ぼす.多忙な医師にとって警鐘を鳴らしてくれることはありがたいことである.しかし,至極当然なこの行為も,きちんとした態勢をとるにはそれなりの苦労が伴う.そこで,総論としてパニック値速報の運用とその留意点について言及する.

Ⅰ 生化学

血中アンモニア〔NH3

著者: 青嶋弓恵 ,   秋澤忠男

ページ範囲:P.730 - P.732

検査の概要

 窒素代謝産物(蛋白分解産物)であるアンモニアは,①消化管で食物由来のアミノ酸が腸内細菌により脱アミノ化される,②尿素が細菌や腸管粘膜に存在するウレアーゼの作用により分解される,③グルタミンが肝臓や腎臓で脱アミノ化される,以上により生成される.

 アンモニアは尿素サイクルにより主に肝臓で尿素に合成され,肝臓や筋肉,脳などでのグルタミン酸からグルタミンへの変換過程で利用され,また腎臓でアンモニウム塩として尿中に排泄されることで代謝される.

 血中アンモニア値の変動はこの生成代謝過程のいずれかに異常をきたすことにより生じるが,肝臓は大きな処理予備能をもつことから,多量の筋肉崩壊をきたした場合などを除き,生成の亢進のみで高アンモニア血症をきたすことは稀である.高アンモニア血症の大半は劇症肝炎などの重度の肝障害や尿素サイクルの先天的酵素欠損症などによる処理能力の低下,ないしはアンモニアを多く含む門脈血が肝循環を経ずに直接体循環に流入する病態などにより発症する.

グルコース《血糖,ブドウ糖》

著者: 目黒周 ,   渡部直美 ,   武井泉

ページ範囲:P.733 - P.736

検査の概要

 現在の測定法別使用率はヘキソキナーゼ(hexokinase,HK)法が約60%,ブドウ糖酸化酵素(glucose oxidase,GOD)電極法が約30%である.HK法は特異性が高く,日本臨床化学会の勧告法として提唱されており,アメリカ臨床化学会のレファレンス法でもある.日常測定法では汎用自動分析装置用試薬として多く用いられている.GOD電極法は反応過程において消費される酸素を測定するもので,日常測定法では専用測定装置として,また自己血糖測定(self-monitoring of blood glucose,SMBG)装置でも用いられている.

アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ〔AST〕《GOT》

著者: 前川真人

ページ範囲:P.737 - P.739

検査の概要

 アラニンアミノトランスフェラーゼ(alanine aminotransferase,ALT)とともに,アミノ基転移酵素である.一つのアミノ酸からアミノ基を奪い,そのアミノ基を他のα-ケト酸に移して別のアミノ酸を生成する酵素であり,補酵素としてピリドキサルリン酸(pyridoxal 5′-phosphate,PALP)を必要とする.細胞の可溶性分画に存在するため,細胞の傷害時に直接もしくはリンパを通って間接的に血管内に流入する,いわゆる逸脱酵素(releasing enzyme)である.また,ASTにはミトコンドリアに局在するアイソザイムが知られており,重度の細胞傷害や細胞の虚血で血中に出現する.心臓,肝臓,骨格筋,腎臓,赤血球などに幅広く含まれ,臓器(細胞)特異的とはいえないため,血清AST値上昇からどこに傷害があるかどうかは判定できないが,どこかで傷害が発生していることがわかる.赤血球中にも血漿の40倍多く含まれるため,溶血の影響を受ける.

アラニンアミノトランスフェラーゼ〔ALT〕《GPT》

著者: 前川真人

ページ範囲:P.740 - P.742

検査の概要

 アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(asparate aminotransferase,AST)とともにアミノ基転移酵素である.一つのアミノ酸からアミノ基を奪い,そのアミノ基を他のα-ケト酸に移して別のアミノ酸を生成する酵素で,補酵素としてピリドキサルリン酸(pyridoxal 5′-phosphate,PALP)を必要とする.LD,AST,CKなどと同様に,細胞の可溶性分画に存在する酵素であるため,細胞の傷害時に直接もしくはリンパを通って間接的に血管内に流入する,いわゆる逸脱酵素(releasing enzyme)である.肝臓に多く含まれ,骨格筋などにも含まれるが,比較的肝臓特異的といえる.したがって,ALT高値の場合,まず肝細胞傷害を考えるのが妥当である.

乳酸脱水素酵素〔LD〕《LDH》

著者: 前川真人

ページ範囲:P.743 - P.744

検査の概要

 乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase,LD)は解糖系最終段階の酵素で,ほとんどすべての細胞に存在する.H(B)とM(A)の2種のサブユニットからなる四量体であり,5種のアイソザイムを形成する.これらアイソザイムの割合は各細胞・組織で特異的なパターンを示す.細胞の可溶性分画に存在するため,細胞の傷害時に直接もしくはリンパを通って間接的に血管内に流入する,いわゆる逸脱酵素(releasing enzyme)である.したがって,大多数の細胞傷害で血清LD活性が上昇するため,非常に感度のよい,体内での異常の発信シグナルである.特に数,大きさ,含量の多い細胞,組織の傷害の異常を優先的に反映する.

アミラーゼ

著者: 小川善資

ページ範囲:P.745 - P.747

検査の概要

 アミラーゼは唾液腺・膵臓で生成され,消化管に分泌される消化酵素の一つである.アミラーゼは血液中に出現しても,短時間に尿中へ排泄される.血清中の活性が高いときには数時間遅れて尿中の活性も上昇する.このため,血清中の活性と尿中活性測定の依頼が同時に出されることが多い.膵臓疾患では血中アミラーゼ活性が高くなると思い込んでおられる方が多いが,高アミラーゼ血症中10%に満たない程度である.腹部に強い痛みがある方は膵臓に疾患がなくとも高アミラーゼ血症になっていることが多い.膵臓由来アイソエンザイムの測定や数時間後に再度測定をしたり,尿中アミラーゼを測定し,総合的に測定値を判断したり,腹部超音波検査,MRI検査,X線検査と組み合わせる必要がある.また,アミラーゼの動きは速く,大きいため,ごく簡単に測定できる簡易検査で測定することがよいと思われる.

総ビリルビン

著者: 大澤進

ページ範囲:P.748 - P.751

検査の概要

 ビリルビンは血色素の主要構成物質であるポルフィリンの最終代謝産物として胆汁中に排泄される生体色素である.その構造は四つのピロール環が開いた直鎖状の構造をもち,赤色胆汁色素である.光線にあたると退色して構造変化をきたし水溶性が高くなることから,新生児黄疸の治療法として利用されている.

 血清総ビリルビンには図のように非抱合ビリルビン,グルクロン酸が抱合された抱合ビリルビン,そして抱合ビリルビンとアルブミンが共有結合したアルブミン結合ビリルビン(δ-ビリルビン)が存在する.抱合ビリルビンはジアゾ試薬と直接反応できることから直接ビリルビン,非抱合ビリルビンは脂溶性であるためジアゾ試薬とはアルコールなどの溶媒添加により初めてジアゾ反応が生じることから間接ビリルビンと呼ばれる.アルブミンと結合したδ-ビリルビンは水溶性であることから直接ビリルビンとして分類されるが,アルブミンと結合しているためその代謝は遅延する.測定法は化学的な方法としてジアゾ法と化学酸化法,そして酵素法には従来のジアゾ法と同様な反応性を示す方法と抱合ビリルビンのみを特異的に測定する方法がある.

ナトリウム〔Na〕

著者: 猪田猛久 ,   松尾収二

ページ範囲:P.752 - P.754

検査の概要

 生体のナトリウム(Na)量の変化は体液量の変化をもたらすので,臨床上きわめて重要である.これはNaが細胞外液の主要な陽イオンであるためである.したがって,Na代謝異常時には体液量の異常(浮腫,脱水)を伴う場合が多い.血清Na値の異常という観点からみると,血清Na値は水とのバランスによって決まる.必ずしも絶対的なNaの過不足を表しているとは限らないところに解釈の難しさがある.

 測定は多くの施設ではイオン選択電極が用いられている.イオン選択電極による測定では試料を希釈して測定する希釈法と,血液ガスなどとともに全血で直接測定する方法がある.希釈法は高イオン緩衝液を使用するため測定条件が一定となり,血清だけでなく尿など幅広い試料の測定が可能である.一方,希釈をしない直接測定法は血液など試料が限定的である.

カリウム〔K〕

著者: 猪田猛久 ,   松尾収二

ページ範囲:P.755 - P.757

検査の概要

 カリウム(K)は細胞内の主要イオンであり,その代謝と変動は他の電解質の動きや体液の移動などに密接な関係をもつ.Kは特に心筋,酸塩基平衡,栄養代謝などには重要な役割を占め,Kの働きを知ることは臨床状態の把握と治療に必要である.

 測定は多くの施設ではイオン選択電極が用いられている.Kの測定値は施設間差が少なく,多施設サーベイでの平均SDが0.05mmol/l程度であり,非常に収束されている項目である.一方,細胞内の主要イオンであるため溶血の影響を大きく受ける.その他,全血の放置による影響などサンプリングの影響も受けやすい項目でもある.

カルシウム〔Ca〕

著者: 山内一由

ページ範囲:P.758 - P.760

検査の概要

 血中カルシウム(Ca)レベルは厳密な調節機構により,極めて狭い範囲にコントロールされているが,病的破綻に伴って,ひとたび極端な増減が起こると,生体に致死的なダメージを与えることになる.したがって,臨床検査室からのパニック値報告は緊急処置を促す意味で極めて重要である.

 カルシウムは生体内に最も多量(成人の総量は約1kg)に存在する無機物であり,そのほとんどはヒドロキシアパタイトの結晶をつくって骨や歯などに含有されている.一方,体内を循環している血中のカルシウムは,総量の1/3,000足らずで(約300mg),アルブミンを主体とした蛋白結合型とイオン型がそれぞれ45~50%,酸結合型が数%の割合で存在している.このうち,生体内で生理活性を発揮し,生命維持にかかわる重要な役割を果たしているのはイオン型カルシウムであり,その病的変動を捉えることが臨床的に重要であるが,実際には汎用自動分析装置で測定が容易な血清総カルシウムから,間接的にイオン型カルシウムの変動を捉えているのが一般的である.血清総カルシウムの測定法には,o-クレゾールフタレインコンプレクソン(o-cresolphthalein complexon,o-CPC)などを用いたキレート比色法やα-アミラーゼなどを用いた酵素法などさまざまあり,それぞれの方法の特性を熟知し,検査値の精確性の維持に努めることが,パニック値報告を実質的に機能させるための前提条件といえる.加えて,血清アルブミン値など血清総カルシウム値を変動させる因子を考慮して結果を判読する能力も求められる.

尿素窒素〔BUN〕

著者: 久野芳裕 ,   秋澤忠男

ページ範囲:P.761 - P.763

検査の概要

 尿素窒素(blood urea nitrogen,BUN)は生体内で蛋白質が分解された際に産生される窒素化合物の1つで,同じ窒素代謝産物のアンモニアから肝細胞内のオルニチン回路を経て尿素窒素へ変換・産生される.生じた尿素窒素は腎臓の糸球体で濾過され,その80~90%は尿中から体外へ排泄されるが,一部は尿細管から再吸収される.このため,一般に腎機能障害の指標として用いられるが,以下に示すような他の病態でも値は変化するため,患者の病態と合わせて的確に評価することが重要となる.

総蛋白・アルブミン

著者: 村本良三

ページ範囲:P.764 - P.767

検査の概要

 総蛋白・アルブミンの定量は全身状態をとらえる指標として有用であるものの,疾患特異性には乏しい.したがって,異常値を示した原因を精査したうえで対応する必要がある.血清中には100種類以上の蛋白が存在するが,その約6割はアルブミン,約2割は免疫グロブリンが占め,総蛋白の増減は主に両者の変動に左右される.アルブミンは栄養源,血漿膠質浸透圧の維持および水分保持,酸-塩基平衡の維持,各種物質の結合および運搬などの機能があり,肝臓で合成される.脱水以外に増加することは稀であり,ほとんどの病態に伴って減少し,低アルブミン血症になる.一方,免疫グロブリンはγ-グロブリンとも呼ばれ,抗体の本体としてβ細胞由来の形質細胞から産生される.低下する疾患として低あるいは無γ-グロブリン血症,増加する疾患として単クローン性高γ-グロブリン血症が代表的であるが,総蛋白・アルブミン定量のみでは確定できない.蛋白分画や免疫電気泳動法のデータを参照することが必要である.

 日常検査法に関しては,総蛋白試薬はほぼ全施設でBiuret法が使われており,問題点は少ない.一方,血清アルブミンは測定法による測定値の違いが問題となる.現在使われている日常検査法はブロムクレゾールグリーン(bromcresol green,BCG)法,ブロムクレゾールパープル(bromcresol purple,BCP)法,改良BCP法の3法であるが,反応性は個々に異なる.すなわち,BCG法はアルブミンのみならずグロブリン分画,特に急性相反応蛋白とも反応する.BCP法はグロブリン分画とはほとんど反応しないものの,還元型アルブミンに比べて酸化型アルブミンとの反応性が高い点や,δ-ビリルビンや透析患者血清における負誤差が指摘されている.改良BCP法はBCP法における還元型と酸化型アルブミンとの反応差を解消した測定法であり,現在最も正確度が高い測定法とされている.このように,血清アルブミンは測定法による測定値の違いがあり,臨床上特に問題となる低アルブミン域において乖離が生じる.

 本稿では一般的な指標について述べるが,BCG法と改良BCP法の関係については7,000例以上の患者試料について相関検討した文献1)があるので,それを参考にしていただきたい.なお,次に示したパニック値は,臨床医への緊急報告値に関するアンケート調査結果2)の最頻値である.病院の特色などによって臨床医の要望は異なるため,施設ごとに検討されることが望ましい.

尿酸〔UA〕

著者: 西岡久寿樹 ,   友利新

ページ範囲:P.768 - P.770

検査の概要

 尿酸は2,6,8-trioxypurionと称される分子量168の環式ウレイドの一種で,ヒトでは核酸を構成する成分の一つであるプリンヌクレオチドの最終代謝産物である.生体における尿酸の生理的な役割については十分に解明されていない点も多いが,過剰な状態になると尿酸ナトリウム結晶を形成し,関節滑膜や腎の尿細管などに沈着し,炎症反応を中心とした病変を引き起こし高尿酸血症に伴う特異的な臨床症状である痛風関節炎や痛風腎を引き起こす.低尿酸血症は特異な疾患では認められるが,臨床症状では特に問題とならないことが多い.

クレアチニン〔Cr〕

著者: 布田典子 ,   秋澤忠男

ページ範囲:P.771 - P.773

検査の概要

 クレアチニン(creatinine,Cr)は筋細胞内でほぼ一定の割合で産生されるクレアチンの代謝産物であり,筋細胞から血中へ出て,糸球体で濾過され,尿細管でほぼ再吸収も分泌もされずに尿中に排泄される1).したがって,血清クレアチニン濃度は,筋細胞での産生量と尿中への排泄量に左右される2).筋肉量が一定の場合にはクレアチニンの産生量は一定と考えられることから,血清クレアチニン値は腎臓からの排泄量を反映し,糸球体濾過値の指標となる1).糸球体濾過値と血清クレアチニン値はほぼ反比例することはよく知られており,血清クレアチニン値は腎障害の程度を把握する最も簡便かつ有用な検査である3)

 血清クレアチニンの測定法は酵素法とJaffe法に大別され,Jaffe法では酵素法より0.1~0.2mg/dl高値を示すが,最近の測定はほぼ酵素法に統一されている.

クレアチンキナーゼ〔CK〕《クレアチンホスホキナーゼ〔CPK〕》

著者: 高木康

ページ範囲:P.774 - P.775

検査の概要

 クレアチンキナーゼ(creatine kinase,CK)は,クレアチンリン酸とアデノシン二リン酸(adenosine diphosphate,ADP)からクレアチンとアデノシン三リン酸(adenosine triphosphate, ATP)を生成する酵素反応に関与し,特に筋肉中でのエネルギー代謝上極めて重要な役割を果たしている.M(muscle)とB(brain)の二つのサブユニットからなる2量体であり,分子量は82kDaである.細胞可溶性分画に存在するアイソザイム(MM,MB,BB)とミトコンドリア分画に存在するCKとがある.MMは骨格筋に,MBは心筋に,そしてBBは脳や平滑筋に多く存在する.このため,これら臓器が傷害されると血中に逸脱して高値となる.

アルカリホスファターゼ〔ALP〕

著者: 高木康

ページ範囲:P.776 - P.777

検査の概要

 アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase,ALP)はリン酸モノエステルを加水分解する酵素のうち,アルカリ側に活性を有し,亜鉛(zinc,Zn)を活性中心に有する酵素である.物質やエネルギー輸送,無機リンの供給,骨の石灰化に関与している.細胞内では膜分画と結合して存在し,血中の上昇は産生の増加または産生細胞の増加を反映していると考えられている.また,肝臓の細胆管の閉塞による内圧の上昇によりALP産生が亢進する酵素誘導によっても血中に上昇する.

 骨芽細胞,肝細胞,胆管上皮細胞,小腸,胎盤などに存在し,血中に逸脱・分泌されるため,電気泳動では5~6のアイソザイムに分画される.

コリンエステラーゼ〔ChE〕

著者: 高木康

ページ範囲:P.778 - P.779

検査の概要

 コリンエステラーゼはコリンエステルをコリンと有機酸とに加水分解する酵素で,神経,筋肉,赤血球に存在してアセチルコリンを特異的に分解する真性コリンエステラーゼと,血清に存在して種々のコリンエステルを分解する偽性コリンエステラーゼとがある.

 コリンエステラーゼは肝臓で合成され,血中に分泌されるため,肝臓での蛋白合成能・実質機能を反映する指標として検査されている.肝障害の重症度や予後判定に用いられる.

乳酸

著者: 嶋田昌司 ,   松尾収二

ページ範囲:P.780 - P.782

検査の概要

 乳酸はブドウ糖代謝(エネルギー生成)によって生成される副産物である.通常,好気的(酸素がある)な場合,1分子のブドウ糖は解糖系で2分子のピルビン酸,2分子のH2O,2分子のアデノシン三リン酸(adenosine triphosphate,ATP)へと代謝され,その後TCA(tricarboxylic acid)サイクルを経て最終的には6分子の二酸化炭素(CO2),6分子のH2O,38分子のATPへと代謝される.しかし,嫌気的な(十分な酸素が組織に供給されない)場合は解糖系での代謝産物であるピルビン酸はTCAサイクルへと進むことができず,2分子の乳酸と2分子のATPに代謝される.

 つまり,乳酸の増加は生体内において最も基本的なエネルギー代謝において必要十分な酸素が供給されていない,組織灌流不足があることを意味する.また,赤血球はミトコンドリアがなく,好気的条件であっても乳酸を生成し,細胞外へ放出している.

 他にも高乳酸血症の原因としては,一時的な高酸素消費状態(痙攣,過剰な運動など)やアルコール摂取,癌,ある種の薬物使用や毒素など,組織灌流が正常であっても発生することはあるが,一般的には組織灌流不足による細胞レベルでの酸素不足が原因である場合が多い.

血液ガス

著者: 嶋田昌司 ,   松尾収二

ページ範囲:P.783 - P.788

検査の概要

 血液ガス分析の主な目的は,大きく呼吸(ガス交換)の状態および酸塩基平衡を評価することである.しかし,血液ガスデータを読むことを苦手とする人は非常に多い.これは血液ガスデータに関連する特異的な臓器が複雑に絡みあっているため,単一の評価のみでは正しい生体状況を反映したことにはならないからである.また,実測する項目はpH,PaCO2,PaO2およびHb(Ht)のわずか4項目にしか過ぎないが,病態をより的確に評価するために計算により算出される項目が多いこともその一因であろう.

 そこで,まず血液ガスデータの基礎をしっかりと身につけてもらうために血液ガスパラメータのもつ意味を概説する.

ヘモグロビンA1c〔HbA1c〕

著者: 目黒周 ,   渡部直美 ,   武井泉

ページ範囲:P.789 - P.791

検査の概要

 赤血球中のヘモグロビンは流血中を循環している約120日間の間に血液中の糖類やそれらの代謝産物と結合する.この結合をヘモグロビンの糖化(glycation)という.糖化ヘモグロビンはもとのヘモグロビンとは電気的性質が異なるため,イオン交換カラムクロマトグラフィという方法で分離することができる.その主な成分がHbA1cであり,その蓄積の程度は赤血球が流血中にある期間の平均血糖値を反映する.値は総ヘモグロビン(Hb)量に対するHbA1cの割合(%)で表す.現在,糖尿病の管理における約1~2か月間の血糖コントロールの指標として頻用されており,大規模臨床研究の結果から血糖コントロールの目標値としてのHbA1cの値が糖尿病学会より示されている.また,2010年より糖尿病の診断基準の一部としても使用されることになった.糖尿病学会の標準測定法では安定型HbA1cを測定するよう定められているが,現実的には不安定型も含めて測定する機器もある.また,HbA1cの標準法は高速液体クロマトグラフィ(high performance liquid chromatography,HPLC)法であるが,その他にも免疫学的な測定法やアフィニティ法が使用されている.これらの測定法間や分析する機器のメーカーによる測定値の差が認められる.HPLC法,免疫学的測定法については,日本糖尿病学会のHbA1c標準品に合わせて測定値を正しく補正してあれば,異なる医療機関での測定値でも互換性がある.

浸透圧(血清)

著者: 倉村英二 ,   松尾収二

ページ範囲:P.792 - P.794

検査の概要

 浸透圧は単位体積当たりの溶媒に含まれる溶質の分子の総数に比例する.同じ重量の溶質が何種類か存在する場合,低分子量の溶質ほど浸透圧に及ぼす影響が大きいことになる.血清中の主要な浸透圧物質は電解質〔ナトリウム(Na),クロール(Cl)〕,グルコース,尿素窒素である.体液浸透圧は生体の体液恒常性を保つために非常に狭い範囲で厳密に調整されている.その調節機構には浸透圧調節系と体液容量調節系があり,血清浸透圧を測定することにより体液の濃縮,希釈の傾向を知ることができる.

 浸透圧の測定には氷点降下法が用いられる.浸透圧とその水溶液の氷点降下度は比例関係にあるため,氷点の温度を知ることにより浸透圧を求めることができる(実測値).またNa,グルコース,尿素窒素により下記の式にて浸透圧の予測値(計算値)を求めることができる.血清浸透圧の実測値と計算値の差をosmolality gap(OG)といい,通常は10mOsm/kgH2O以下である.OGはエタノール,メタノールなどの血清中の実測不可能な溶質量を表す.

 浸透圧計算値(mOsm/kgH2O)

  =2×Na(mmol/l)+グルコース(mg/dl)/18

  +尿素窒素(mg/dl)/2.8

C反応性蛋白〔CRP〕

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.795 - P.797

検査の概要

 C反応性蛋白(C-reactive protein,CRP)は分子量2.1万のサブユニットの五量体であり,この五量体が二つ向かい合って結合した状態で血中に存在する.CRPはカルシウムイオンの存在下,肺炎球菌のC多糖体と沈降することから命名されたが,後に炎症患者の血漿中で濃度の急増する蛋白であることが見いだされ,広く臨床検査に使われるようになった.測定方法は抗体を感作したラテックス粒子が試料中のCRPと反応して凝集する程度をネフェロマトリーまたは比濁法で定量するもので,自動化機種により数分以内に結果が得られる.機種,試薬によって異なるが,現在では0.2mg/dl以上は精度よく測定され,値の標準化も達成されている.なお,0.05mg/dl程度の健常者中央値付近を精度よく測定する試薬は,高感度CRPと別に呼ばれ,虚血性心疾患などのlow grade inflammationを検出する意義が注目されているが,本稿では高値域を示す明らかな炎症について述べる.

 CRPは急性期蛋白(acute phase protein,APP)としての性質を示す.すなわち,病原体の侵入や組織壊死により活性化されたマクロファージから産生される腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor,TNF),インターロイキン(interleukin,IL)-1,IL-6などの炎症性サイトカインの作用で主に肝臓で産生される.CRPの産生は生理的状態ではごくわずかで,炎症刺激を受けて急激に産生され(血中濃度の上昇が確認されるのは半日程度),炎症の規模に応じて血中濃度は10~1,000倍にまで達する.同じような動きをするAPPに血清アミロイドA(serum amyloid protein A,SAA)がある.一方,APPには他にα1-アンチトリプシン,ハプトグロビン,フィブリノゲンなどがあるが,これらは生理的状態でもある程度の濃度が産生されており,濃度の上昇程度も数倍にとどまり,上昇時期もCRPに遅れる.また,溶血性疾患でハプトグロビンが低下するなど炎症以外の因子の影響を受ける場合があるが,CRPは炎症によってのみ影響(上昇)される.以上より,炎症を評価する単独マーカーとしてはCRPが最も優れているといえる.

Ⅱ 血液

白血球数〔WBC〕

著者: 辻岡貴之 ,   通山薫

ページ範囲:P.800 - P.802

検査の概要

 白血球数(white blood cell count,WBC)は,EDTA(ethylenediaminetetraacetic acid)-Naで採取し,自動血球計算器で測定する.感染症,膠原病,血液疾患が疑われるときや全身のスクリーニング検査として行われることが多い.

ヘモグロビン〔Hb〕《血色素》

著者: 辻岡貴之 ,   通山薫

ページ範囲:P.803 - P.805

検査の概要

 ヘモグロビン(hemoglobin,Hb)は赤血球内容のおよそ1/3を占めている.酸素運搬能の本体である.したがって,ヘモグロビン濃度の高低が貧血や多血を決定づける主因であるといってよい.世界保健機関(World Health Organization,WHO)による貧血の基準は血中ヘモグロビン濃度によって定義されている.

 ヘモグロビン濃度測定には,1966年国際標準法として推奨されたシアンメトヘモグロビン法が普及している.本法はシアンメトヘモグロビンの分子吸光係数から精密な分光光度計を用いて濃度を測定する.しかし,シアン法は廃液処理上問題があるため,現在,自動測定法はノンシアン法へと変換しつつあり,酸化ヘモグロビン法,ラウリル硫酸ナトリウムを用いる方法が考案されている.ヘモグロビン濃度測定には通常自動血球分析装置が用いられ,全血球計算(complete blood cell count,CBC)の1項目として表示される1)

血小板数〔Plt〕

著者: 矢冨裕

ページ範囲:P.806 - P.808

検査の概要

 血小板減少症は,それが高度の場合,危険な出血が発生し,正確かつ迅速な診断が望まれる.この診断の基礎になる本検査は極めて重要である.出血性疾患への緊急対応を考えると,血小板数はパニック値項目の代表といってよい.

 血小板数は,EDTA(ethylenediaminetetraacetic acid)加血液を検体として,自動血球計数器により測定するが,場合により,鏡検・視算が必要となる.また,採血後,可能な限り速やかに測定すること,保存する場合は冷蔵することに注意が必要である.血小板は赤血球や白血球と比べて容積が非常に小さく,その正確な算定が可能になったのは比較的最近である.現在でも偽高値・偽低値の可能性を考慮して検査結果を慎重に判読する必要がある(「ピットフォール」の項を参照).

血液像

著者: 矢冨裕

ページ範囲:P.809 - P.813

検査の概要

 血液の細胞成分として,白血球,赤血球,血小板があり,それぞれ適正な数が血液中を循環して,生体の機能を保つうえで重要な役割を果たしている.したがって,白血球数,赤血球数(実際にはこれに含まれているヘモグロビン),血小板数の極端な異常は生体にとって重大な危険を意味し,それぞれ前述のようにパニック値が設定されていることが多い.

 本稿で記載する血液像検査は,血球の数ではなく,主に形態学的な異常を検出するものである.具体的には白血球分画の異常と異常血球の出現が重要である.

 通常,血球数算定と同じEDTA(ethylenediaminetetraacetic acid)加血液を用い,塗抹標本を普通染色後,鏡検する.最近の自動血球計数器では,種々のパラメータを駆使して,白血球の5分類を行うことが可能であり,スクリーニングが可能である.しかし,何らかの警告が示された検体,血球数に異常がある検体は,目視分析をするのが基本である.

 なお,本項目に関しては,一般的な生化学検査,血液検査とは性格が大きく異なることから,記述形式が異なる.また,緊急報告の基準の取り扱いも施設によって異なると思われる.

プロトロンビン時間〔PT〕

著者: 渡邉眞一郎

ページ範囲:P.814 - P.816

検査の概要

 プロトロンビン時間(prothrombin time,PT)は,外因系と共通系凝固機序に異常がないかどうかを検索する基本的な検査である.PTの延長が高度な場合,出血の危険性が高く,その原因を迅速,正確に把握し,早期治療へ結びつけることが極めて重要である.そのため,PTは出血性疾患診断において,血小板数とともにパニック値が設定されている代表的な検査項目である.通常,病態をより正確に把握するため活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time,APTT),フィブリノゲン,FDP(fibrin/fibrinogen degradation product,フィブリン/フィブリノゲン分解産物)を同時に検査する.

 PTを検査するためには,採血時に抗凝固剤として3.13~3.2%(105~109mmol/l)クエン酸ナトリウム液を血液に対して1/10容添加してよく混和する.この割合は多過ぎても少な過ぎてもいけない.採血時にはできる限り組織液の混入を避けることも重要である.検体は室温で遠心し,得た血漿は自動分析装置を用いて凝固時間を測定する.血漿は測定までは室温で扱い,速やかに測定し(APTTを同時に測定する場合は4時間以内),保存は-20℃以下で凍結することに注意する.PT試薬は主成分である組織トロンボプラスチンの種類がさまざまで標準化されていないが,感度指数(international sensitivity index,ISI)が1.0に近いヒト型試薬を使用すべきである.測定結果の表記法も大切である.凝固時間実測値(秒),活性%,プロトロンビン比(prothrombin ratio,PR)は試薬間差や施設間差が大きく,国際標準比(international normalized ratio,INR)はISI≒1.0の試薬を用いれば最も施設間差が少ない.

フィブリノゲン

著者: 渡邉眞一郎

ページ範囲:P.817 - P.819

検査の概要

 フィブリノゲン(凝固第I因子)は血液凝固機構の最終段階でトロンビンの作用を受けてフィブリンに転換され,重合して血栓の基本構造となる.したがって,高フィブリノゲン血症では易血栓性,低フィブリノゲン血症では易出血性が出現する.フィブリノゲンは肝実質細胞で産生されるが,炎症刺激で増加し(急性相反応物質),凝固亢進で減少(消費)する.

 フィブリノゲン量は一般的に凝固学的方法(トロンビン時間法)を用いて自動分析装置で測定される.検体には3.13~3.2%(105~109mmol/l)クエン酸ナトリウム加血漿を用いる.一定量のトロンビンを希釈血漿に加えてフィブリン塊が析出する時間を測定し,既知量のフィブリノゲンより求めた検量線から検体中のフィブリノゲン量を求める.使用試薬・測定機器の組み合わせで測定値の施設間差が認められるが,6~9%程度とされる.

フィブリン/フィブリノゲン分解産物〔FDP〕

著者: 渡邉眞一郎

ページ範囲:P.820 - P.822

検査の概要

 フィブリノゲンは,N末端のある中心部分をE領域,二つのC末端部をD領域と呼び,D-E-Dと表せる.凝固が活性化した結果産生されたトロンビンがフィブリノゲンに作用するとフィブリンモノマーとなり,それらが重合してフィブリンポリマーがつくられる.これに第XIII因子が作用してフィブリン分子間架橋(D=D)が形成され,安定化フィブリンとなって止血血栓が完成する.線維素溶解(線溶)は止血機能を果たした血栓を除去して血液の循環を維持する機能である.線溶を起こすプラスミンはフィブリノゲンやフィブリンのD-E間を切断する.フィブリノゲンが分解される一次線溶ではX分画,Y分画,D分画,E分画が産生され,安定化フィブリンが分解される二次線溶ではD=D分画(Dダイマー)とE分画を最小単位としてさまざまな大きさの架橋化フィブリンの分解産物(cross-linked fibrin degradation products,XDP.主にD=D/E複合体1~6個の大きさの分解産物)が産生される.したがって,基礎疾患の違いや症例ごとにFDPの組成は異なる.一般的には血管内で安定化フィブリンが分解されたものが主成分である.

 FDP(fibrin/fibrinogen degradation products)はこれらのフィブリン/フィブリノゲン分解産物の総体を免疫学的に測定したものである.わが国ではラテックス免疫比濁法が多く用いられている.FDPは播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation,DIC)の診断マーカーとして,血小板数やプロトロンビン時間(prothrombin time,PT)とともに必須の検査項目である.しかし,標準物質がなく,測定試薬ごとに使用される抗体の特性も異なるため,方法間差がある.また,FDP測定法には血清FDP測定法と血漿FDP測定法の2種類があり,最近は後者を使用する施設が多い.血清FDPの測定には,抗プラスミン薬および血液凝固促進薬入りのFDP専用採血管を用い,血液凝固塊の上清(血清)を使用する.血漿FDPの測定には3.13~3.2%クエン酸ナトリウム入り凝固検査用採血管を用いて得た血漿を使用する.

Ⅲ 輸血検査

血液型

著者: 曽根伸治

ページ範囲:P.824 - P.829

検査の概要

 ABO血液型検査は,抗A,抗B血清を用いるオモテ検査とA,B血球を用いるウラ検査を試験管法やカラム凝集法で行うのが一般的である.オモテ検査は赤血球膜上のA抗原,B抗原の発現を検査する.ウラ検査は血清中の抗A,抗B抗体を検出するものであり,両者の結果が一致した場合のみABO型が確定できる.しかし,血球上のA,B抗原の発現量が少なく反応が陰性となる場合や,血清蛋白の異常などでオモテ検査とウラ検査が一致しないことがある.

 また,Rho(D)血液型検査は,抗D血清およびRh-hrコントロールを用いて試験管法やカラム凝集法で検査を行う.患者のABO型と不適合な輸血は,患者死亡などの重大なインシデントを引き起こすことがあるので,血液型検査は輸血を行う場合に非常に重要な検査である.通常,輸血には,患者のABO型とRho(D)型が同じ血液が使用される.時に交差適合試験の主試験が陰性,副試験陽性の異型適合血の輸血が行われることもある.例えば,ABO型を判定する時間的余裕がない場合はO型濃厚赤血球の輸血が実施される.

不規則抗体および抗血小板抗体・抗HLA抗体

著者: 曽根伸治

ページ範囲:P.830 - P.834

検査の概要

 不規則抗体とは,輸血や妊娠で赤血球上の血液型抗原に感作されて産生される抗体である.不規則抗体の検査法は,間接抗グロブリン(Coombs)法や酵素法がある.従来は試験管法で凝集を目視判定していたが,最近はゲルやガラスビーズを充塡したマイクロチューブ(カラム)法やマイクロプレート法の利用が増えている.しかし,これらは必ずしも生体内で起きる副作用反応とは同じではないので,溶血性輸血副作用や新生児溶血性疾患を引き起こす37℃で反応する間接抗グロブリン試験でIgG型免疫抗体を検出するのが望ましい.そこで陽性となれば臨床的意義をもつことになる.

 血小板上の血小板特異抗原(human platelet antigen,HPA)の感作で産生される抗体は抗血小板抗体,また,ヒト白血球抗原(human leukocyte antigen,HLA)やヒト好中球抗原(human neutrophil antigen,HNA)に感作されて抗白血球抗体(抗HLA抗体,抗HNA抗体など)が産生される.これらの抗体は,血小板輸血不応症や新生児血小板減少性紫斑病を引き起こすことがある.抗血小板抗体や抗HLA抗体の検出は,わが国では混合受身赤血球凝集法(mixed passive hemagglutination,MPHA)が,欧米ではMIPA(monoclonal antibody-specific immobilization of platelet antigens)法が広く利用されている.

 不規則抗体検査をあらかじめ実施することは,手術などで適合血を準備する時間が確保でき,妊婦では新生児溶血性疾患の予知や治療方針の決定に役立つ.頻回に赤血球輸血する患者には不規則抗体検査を週1回程度,血小板輸血する患者には血小板抗体・HLA抗体検査を月1回程度行うことが望まれる.

Ⅳ 微生物

微生物が検出された場合に医師に緊急に報告すべき検体―髄液

著者: 石和田稔彦

ページ範囲:P.836 - P.838

検査の概要

 髄液微生物検査は,一般的には腰椎穿刺により採取された髄液を用い,グラム染色塗抹鏡検および細菌培養検査が行われる.また,髄膜炎の起炎菌として頻度の高い細菌であるHaemophilus influenzae type b(Hib),Streptococcus pneumoniae(肺炎球菌),Streptococcus agalactiae(GBS),Neiserria meningitidis(髄膜炎菌),B群髄膜炎菌と交差抗原性を有するK1抗原保有Escherichia coli(大腸菌)に対するラテックス凝集反応を利用した迅速抗原検査法がある1)

微生物が検出された場合に医師に緊急に報告すべき検体―血液 特に危険な細菌・真菌

著者: 舟田久

ページ範囲:P.839 - P.842

はじめに

 本来無菌の血液からの菌の分離は,その菌が感染症の原因菌であることの意味づけとなるだけでなく,敗血症などの重篤な病態の指標にもなる1).そのため,菌の種類を問わず,血液培養の陽性結果はそれ自体が医師への緊急報告の必須事項である.本稿では,日常診療で特に緊急性の高い,急速致死的な経過をたどることの多い細菌や真菌を取り上げる.培養結果の報告の緊急性は患者の年齢や基礎疾患,治療法,さらに感染病型によっても左右される.

検出された場合に医師に緊急に報告すべき微生物―Streptococcus pyogenes(劇症溶血性レンサ球菌感染症)

著者: 渡邉栄三 ,   織田成人

ページ範囲:P.843 - P.847

はじめに

 市中感染症のなかには,抗菌薬感受性が良好であるにもかかわらず,その病原菌のもつ毒性が極めて強く激烈な経過をとるものがある.代表的なものにA群β溶血性レンサ球菌(group A Streptococcus,GAS)による劇症型溶血性レンサ球菌感染症(劇症溶レン菌感染症)があり,経過が激烈なことから「人喰いバクテリア(flesh-eating bacterium)感染症」と呼ばれている1)

検出された場合に医師に緊急に報告すべき微生物―Legionella spp.

著者: 草野展周

ページ範囲:P.848 - P.850

検査の概要

 Legionella spp.の検査には,他の微生物検査と同様に,塗抹鏡検,抗原検査,特異抗体検査,培養検査,遺伝子検査などがある.塗抹鏡検はヒメネス染色などで実施する.抗原検査には検体に喀痰などの呼吸器材料を用いる直接蛍光抗体法(direct immunofluorescent antibody test,DFA)と検体に尿を用い,イムノクロマトグラフィ(immunochromatography,IC)や酵素免疫測定法(enzyme immunoassay,EIA)を使用する尿中特異抗原検査がある.特異抗体検査は間接蛍光抗体法(indirect immunofluorescent antibody test,IFA)またはマイクロプレート凝集反応で測定する.遺伝子検査ではPCR(polymerase chain reaction)法やLAMP(loop mediated isothermal amplification)法などを用いる.

検出された場合に医師に緊急に報告すべき微生物―腸管出血性大腸菌

著者: 大西健児

ページ範囲:P.851 - P.853

腸管出血性大腸菌とは

 腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli,EHEC)は下痢原性大腸菌の一つで,細胞傷害性の毒素を産生する.この毒素はベロ毒素あるいは志賀毒素などといわれることから,EHECはベロ毒素産生性大腸菌(verotoxin-producing Escherichia coli,VTEC)あるいは志賀毒素産生性大腸菌(Shiga toxin-producing Escherichia coli,STEC)ともいわれている.ベロ毒素(志賀毒素)はベロ毒素1(verotoxin1,VT1)とベロ毒素2(verotoxin2,VT2)の二つに大別され,VT1は志賀毒素1(Shiga toxin1,Stx1),VT2は志賀毒素2(Shiga toxin2,Stx2)とも呼ばれている.VT1はA亜群に属する赤痢菌の一部が分泌する毒素でもあり,VT2はVT1と約55%の相同性を示すとされている.

 EHECは菌の表面にあるO抗原(細胞壁由来)とH抗原(鞭毛由来)によって多くの血清型に分類されている.感染者数が多いものは腸管出血性大腸菌O157(EHEC O157)であるが,O18,O26,O111,O128などO157以外のO抗原を保有する大腸菌のなかにもベロ毒素を産生するものがあり,EHECに含まれる.なお,O157とはO抗原として157番目に発見された抗原を有する菌ということである.さらにEHEC O157のうちベロ毒素を産生して重篤な状態を引き起こすことがあるのは,H抗原がH7(O157:H7)とH-(O157:H-)の二つの血清型に属する菌である.

 EHECの感染経路は経口感染で,菌が付着した飲食物を介して感染する.特にEHEC O157は少量の菌量で感染が成立する.

検出された場合に医師に緊急に報告すべき微生物―Clostridium perfringens,Clostridium septicumなどのガス壊疽菌群

著者: 渡邉邦友 ,   田中香お里

ページ範囲:P.854 - P.858

検査の概要

 ガス壊疽菌群は菌体外毒素を産生する嫌気性菌で,外傷性または非外傷性(内因性,特発性)に体内に侵入し,骨格筋,腸管,胆囊,子宮などの壊疽を生じさせ,ショック状態を引き起こす.患者からはClostridium perfringensが,次いでClos-tridium septicumが高頻度に分離される.C.per-fringens septicaemiaの場合,しばしば血管内溶血(massive intravascular haemolysis)を伴い,この場合,致死率が急激に高まる.また,急性腹症や大腸菌O-157による溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome,HUS)の患児にC.septicumガス壊疽がしばしばみられるという報告にも注目すべきである.

 迅速診断と迅速かつ適切な対応(病巣部の外科的切除と抗菌薬療法)により救命が可能となる.リスクが考えられる患者の診察では,まず疑うことが肝要である.特発性のものが臨床ではより重要で,致死率も高くなる傾向がある.C.perfringensの場合は8時間程度,C.septicumの場合は12~24時間程度がデッドラインである.

 細菌検査では下記の検体の塗抹標本の観察結果から可能な限り情報を得て,「ガス壊疽菌群疑いのグラム陽性桿菌確認」とできるだけ早く主治医に一報することが必要である.培養検査結果の出る翌日では治療に全く役立たない場合が多いからである.ガス壊疽菌群は発育が極めて早く,ガス産生菌が多いので,継時的なカルチャーボトルの混濁・ガス産生の有無の観察を数時間後から開始し,陽性所見に対する早期の対応が重要である.
①血液(塗抹・血液培養)
②筋壊死(ガス壊疽)またはその疑い由来の材料など
③胆汁(術中採取,経皮経肝胆道ドレナージ時採取)
④産科由来検体など

 一般血液検査末梢血スメア標本,血液・生化学検査(ヘモグロビン値など)結果の情報を得ることも重要である.

感染防止対策上,検出された場合に医師に緊急に報告すべき微生物―インフルエンザウイルス

著者: 猪狩英俊

ページ範囲:P.859 - P.861

検査の概要

 インフルエンザの診断には,イムノクロマト法による簡易診断キットが普及している.2009年の新型インフルエンザの流行時にはポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction,PCR)法も用いられたが,主に国立感染症研究所や地方衛生研究所などで実施されたものである.他にはMDCK(Madin-Darby canine kidney)細胞などによるウイルス分離やペア血清を用いた診断方法もある.一般診療で用いられるものはインフルエンザのA抗原とB抗原が検出可能なイムノクロマト法で,主に鼻腔拭い液を検体として扱う.キット化されているため,検体処理も簡便で,テストプレートに試料を滴下後15分以内に結果判定ができる.ただし,A型の亜型別(H5/H3/H1など)の診断はできない.

 本稿ではイムノクロマト法による簡易診断キットに特化して述べる.

感染防止対策上,検出された場合に医師に緊急に報告すべき微生物―ノロウイルス・ロタウイルス

著者: 水谷哲 ,   寺地つね子

ページ範囲:P.862 - P.865

はじめに

 ノロウイルスとロタウイルスによる胃腸炎は,感染力が極めて強く,迅速で適切な初期対応が感染拡大防止に重要である.

 本稿では,検査技師として必要な知識と対応を紹介する.

感染防止対策上,検出された場合に医師に緊急に報告すべき微生物―抗菌薬耐性菌

著者: 川上小夜子 ,   斧康雄

ページ範囲:P.866 - P.873

検査の概要

 近年,抗菌薬耐性菌が多様化し,薬剤感受性パターンから耐性機構を分類することが困難な株が増加している.また,耐性菌の判定基準も複雑化し,基準が毎年改定されている状況にある.本稿では,2011年6月時点で感染防止対策上,一般的に問題となる薬剤耐性菌を挙げ,その検査法について概要を述べる(表1).

保健所に届出が必要な感染症とその具体的な届出方法―感染症発生動向調査の対象疾患を中心に

著者: 熊坂一成

ページ範囲:P.874 - P.878

はじめに

 感染症は正確な診断と迅速なマネジメントが必要な疾患である.個々の患者の診療に加えて,医療関連感染(病院感染・院内感染)対策上あるいは公衆衛生上も適切な対応を要することが多い.

 ここでは,感染症発生動向調査の対象疾患と医師が感染症患者を診断したときに必要な保健所長への具体的な届出の手順を中心に述べる.

Ⅴ 生理

心電図

著者: 富原健

ページ範囲:P.880 - P.886

はじめに

 心電図は,心臓の筋肉で発生した電気現象を体表面から記録した波形図である.その電気現象を記録する心電図は,簡便で,非侵襲的であり,どこの施設でもすぐに行うことができる.しかも多くの情報が得られるため,スクリーニングや術前検査として,また循環器疾患の診断に最初に行われる欠かすことのできない基本の検査である.

 心電図検査におけるパニック値とは,直ちに治療を必要とする危険な状態を示唆する心電図所見であるが,生理検査の特性である「患者と相対し,種々の検査機器を用い生体現象を捉える」ことから患者の状態が加味され,また検査時の患者急変も含まれる.パニック値が認められたならば,直ちに医師に報告しなければならない.

 本稿では当検査部でのパニック基準とパニック例を中心に述べる.

脳波

著者: 吉本紅子

ページ範囲:P.887 - P.893

はじめに(検査の概要)

 脳波とは,大脳皮質の神経細胞の電気的活動を導出し,脳波波形として記録する検査である.対象となるのは,てんかん,脳腫瘍,脳梗塞や脳出血などの脳血管障害,頭部外傷,脳炎などの感染症,睡眠障害,精神疾患などがあり,これらの疾患の脳波診断を行うとともに経過観察や治療効果,予後の判定,意識障害の確認から脳死の判定など,多彩な目的で臨床応用されている.

 脳波検査におけるパニック値とは,①てんかんなどの臨床発作が起きた場合,あるいは起こしうる突発性律動波が確認された場合,②急変の可能性を示唆する波形が確認された場合,③検査目的と異なる異常波形が確認された場合などが該当する.また,経過観察中の症例でも,いつもと異なる異常波形が確認された場合は,医師に報告する必要がある.

心エコー

著者: 種村正

ページ範囲:P.894 - P.901

はじめに

 心エコー図検査(以下,心エコー)は心疾患の診断,重症度評価,心機能評価,治療方針の決定,治療効果の判定などに欠かせない非侵襲的検査法である.心エコーのパニック値といえるのは,①ポンプ機能低下が急激に起こっている,あるいは起こりうる状態,②心腔内塞栓源の存在,③大動脈解離にかかわる所見,④検査中に偶然みられる重要所見などである.これらのパニック値が認められたならば,直ちに医師に報告しなければならない.

血管エコー

著者: 小谷敦志

ページ範囲:P.902 - P.913

はじめに

 血管エコーでのパニック値として想定されるものは,動脈の破綻や解離,血栓,可動性プラークなどである.これらの病変は,超音波検査の検者が第一発見者となることが多く,的確で迅速な対応が必要となる.本項では血管エコーの際に知っておくべき「パニック値」について解説する.

腹部エコー

著者: 米山昌司

ページ範囲:P.914 - P.918

はじめに

 腹部超音波検査(腹部エコー)は,臓器の形態,腫瘍や結石などの異常構造物の検出,貯留液の有無,血流の評価がベッドサイドでも可能な非侵襲的検査である.腹部エコーのパニック値は検体検査に比べて周知に馴染まないが,生命にかかわる重篤な疾患,容態を左右する疾患,早期に処置が必要と判断される疾患,当日の処置や他の検査を行ったほうがよいと判断される所見である.きわめて重篤な場合は,救急外来などから直ちに手術や処置が行われ,技師が検査を行わないことも多い.

 今回は検査室で遭遇することが想定され,速やかに報告する必要がある超音波所見(パニック値)について述べる.

消化管エコー

著者: 関根智紀

ページ範囲:P.919 - P.922

はじめに

 超音波検査は消化管の異常な変化を描出して情報提供することが可能である.異常な変化は,消化管の径の拡張,消化管の壁の肥厚,消化管の形状,から読み取ることが可能である.これらの変化からパニック値として生命に直結するような所見が認められたら,直ちに医師に報告しなければならない.

泌尿器科エコー

著者: 白石周一

ページ範囲:P.923 - P.926

はじめに

 泌尿器領域の超音波検査では,腎・尿管・膀胱・前立腺・精囊腺・精巣・精巣上体などが検査対象となる.悪性腫瘍,尿路閉塞,炎症,臓器損傷などを示唆する超音波所見が得られた場合には,緊急報告が必要である.

 痛みを伴っている場合には,有痛部を中心とした検索を行うが,周囲の器官や組織などの変化にも注意する.また,消化管や婦人科領域(子宮・卵巣)などの他領域疾患との鑑別を要する.

 超音波所見だけでなく,患者状態や既往歴,検体検査などの他検査データなども考慮しながら検査を進めていくことが肝要である.

婦人科エコー

著者: 湊川靖之

ページ範囲:P.927 - P.930

はじめに

 婦人科エコーとは,女性の付属臓器からなるさまざまな疾患を診る検査である.

 一般的には子宮筋腫,卵巣囊腫などがあるが,子宮外妊娠,卵巣囊腫茎捻転,チョコレート囊腫破裂など緊急を要する疾患など多くが存在する.

 婦人科エコーは経腟エコーで診ることが多いため,医師以外の職種には馴染みがないかもしれないが,学生諸氏・超音波を始める諸氏には婦人科領域の急性腹症をマスターしていただき,経腹超音波でも判断できるように訓練し,次のステップとしていただきたい.

Ⅵ 一般

尿定性検査

著者: 堀田真希

ページ範囲:P.932 - P.935

検査の概要

 尿検査は検体の採取が容易であり,検査も特別な装置を必要とせず簡便で迅速に実施できるものが多いため,代表的な無侵襲検査としてニーズが多い.なかでも尿定性・半定量試験紙法(以下,尿試験紙法)は,検体の採取が容易であること,操作が簡便であること,さらに安価で多項目を同時測定できることから,患者の病態を推測するためのスクリーニング検査として今では必要不可欠な検査の一つとなっている.

 現在では,生化学検査などの診断学的要素の高い血液検査が半時間程度で結果を報告することが可能なため,病院における尿検査の重要性は薄れてきた.しかし,医院やクリニックなど血液検査を即座に実施できない施設では,病態を推測する重要な検査の一つであることに変わりない.

尿沈さ

著者: 宿谷賢一 ,   田中雅美 ,   下澤達雄

ページ範囲:P.936 - P.938

検査の概要

 近年の尿沈渣検査法は,従来の顕微鏡検査と自動分析装置による検査に大別される.自動分析装置は,赤血球・白血球・細菌の鑑別には優れているが,緊急報告に該当する重要な尿沈渣成分については顕微鏡検査に委ねられている.

髄液検査〔CSF検査〕

著者: 澤井摂

ページ範囲:P.939 - P.942

検査の概要

 髄液は脳や脊髄を覆い,衝撃からの保護,脳への栄養供給,代謝産物の運搬をする.血液と髄液の間には血液-脳関門があり,物質移行に制限があるが,神経疾患では血液-脳関門の破綻や髄液腔内への細胞浸潤などが起こり,髄液検査の異常値となる.

 髄液検査は特に中枢神経感染症(髄膜炎,脳炎など)の診断に有用である.検査結果を組み合わせて起因する病原体を推測する(表).

 2010年に当院で756例の髄液一般検査が施行されたが,細胞数の分布(図1)で正常例が全体の71.7%と目立つ.これは,検査が中枢神経感染症の診断以外に多く用いられたことを意味する.中枢神経感染症以外の髄液検査の適応は,多発性硬化症,Guillain-Barré症候群,CNS(central nervous system)ループス,神経Behçet病,神経サルコイドーシスなどの炎症性疾患〔細胞蛋白解離,オリゴクローナルバンド,IgG index,IL(interleukin)-6,アンジオテンシン変換酵素(angiotensin-converting enzyme,ACE)など〕,中枢神経悪性腫瘍,転移性腫瘍など(腫瘍マーカー,髄液細胞診),くも膜下出血を疑う臨床経過であるが,頭部CTで異常がはっきりしない場合(血性髄液)がある.また,プリオン病(14-3-3蛋白)やミトコンドリア病(乳酸,ピルビン酸)の診断にも用いる.最近ではAlzheimer病の診断(βアミロイド1-42,リン酸化タウ)にも有用とされる.

Ⅶ 病理・細胞診

病理・細胞診の“パニック値”

著者: 和仁洋治

ページ範囲:P.944 - P.948

検査の概要

 病理検査は組織診断,細胞診断を主とし,その判断において主観が多く介在し,生化学分析にみられるように客観的な数値としての異常値は存在せず,いわゆるパニック値と表現されるものは通常存在しない.しかも,術中迅速診断や昨今取り入れている施設も出てきているone day pathology1)を除けば,検体採取から診断に至るプロセスが数時間以内になされることはほとんどなく,時間的緊急性も少ないのが実情である.

 しかしながら,病理検査においては組織,細胞形態を認知し,所見をとり,それに医学的意義づけ,解釈するという高度な判断がなされ,その病理診断に基づいて多くの場合治療が行われているのが実情である.つまり“最後の診断”という性格がある以上,その診断そのものの正当性が揺らぐ場合に,臨床現場に与えるインパクトは大きく,しばしば“過去”の診断が時間を越えて“現在”の切実な問題となってくるのである.その影響度,深刻度が高い状態が,まさに“パニック”に相当する事象といっても過言ではない.

 そこで,本稿では臨床医の想定外の臨床的影響度の高い病理検査所見が得られた場合を含めて,病理検査における“パニック”的事象と定義して,これらの問題を扱ってみたい.民間の急性期大規模病院に勤務する筆者の,決して学問的ではないが,失敗を含めた経験や日々痛感する問題を中心に述べ,病理診断や病理検査に対する読者のより深い理解や共感が得られれば幸いに思う.

Ⅷ 薬物検査

抗てんかん薬

著者: 岡島由佳

ページ範囲:P.950 - P.952

検査の概要

 抗てんかん薬はてんかんの発作を抑制する目的で投与されるほか,感情障害の治療における気分調整薬として,また片頭痛などにも投与される.

 抗てんかん薬の血中濃度と,てんかんの発作抑制効果および副作用は関連があり,血中濃度測定はその予測に役立つ.

抗菌薬

著者: 詫間隆博 ,   小司久志 ,   吉田耕一郎 ,   二木芳人

ページ範囲:P.953 - P.955

検査の概要

 一般に抗菌薬は安全域の広い薬剤が多いこともあり,血中濃度測定が行われることは少ないが,アミノグリコシド系薬,およびグリコペプチド系薬については安全域が狭く,血中濃度モニタリングが行われる.通常の薬剤は人体に作用するため,薬物の濃度推移〔薬物動態(pharmacokinetics,PK)〕で個体差をみるのと同様に,薬物の作用(効力,副作用)〔薬力学(pharmacodynamics,PD)〕も個体差のみを考えていればよいが,抗菌薬は菌に作用するため,効力に関しては感染症の原因菌ごとに異なり,感染局所の薬物濃度に関連する.一方で副作用については患者に依存するため,血中濃度に関連する.このように,薬物動態と薬力学を合わせたPK-PDを考える場合,抗菌薬の場合は効力面と副作用面とを分けて考える必要がある.

 アミノグリコシド系薬とグリコペプチド系薬は組織移行性が不良のものが多く,考え方としては副作用が起こらないぎりぎりの濃度まで血中濃度を上げて,効果が出るのに期待するというのが基本的な考え方になる.しかし,血中濃度や尿中濃度は高くなるため,感染性心内膜炎では分割投与が考慮され,尿路感染では減量も許容範囲である場合もある.

免疫抑制薬

著者: 高木康

ページ範囲:P.956 - P.958

検査の概要

 免疫抑制薬であるシクロスポリン(cyclosporine A)とタクロリムス(tacrolimus)は,臓器移植後の拒絶反応(拒否反応)を予防する目的で使用される.これら薬物は,カルシニューリン阻害を介してTリンパ球からのサイトカイン(インターロイキン2やインターフェロンγなど)産生を抑え,免疫抑制効果を示す.このため,臓器移植における拒絶反応の抑制に広く使用されている.臓器移植では免疫抑制薬の有効血中濃度の適切なコントロールが必須であり,臓器移植の成否の重要な因子の一つである.そのためには血中濃度モニタリングが必須である.

強心薬

著者: 山本武人 ,   鈴木洋史

ページ範囲:P.959 - P.961

検査の概要

 強心薬であるジゴキシン(digoxin,DIG)は,主にうっ血性心不全(congestive heart failure,CHF)や心房細動(artrial fibrillation,Af)などの上室性頻脈性不整脈に対して用いられる薬剤である.DIGが心筋細胞のNa+/K+-ATPase(ナトリウムポンプ)を阻害することにより,心筋細胞内のNa+濃度が上昇する結果,心筋細胞のNa+/Ca2+交換機構を介して細胞内にCa2+が流入し,細胞内Ca2+濃度が上昇することで心収縮力が増強する.一方で,DIGは房室結節の有効不応期を延長し,房室間の刺激伝達を抑制することで,Afにおいて心拍数を低下させる作用も示す.DIGの血清中濃度と,心臓の臨床症状および副作用には相関関係があることが知られているが1),後述するようにDIGの治療濃度域は非常に狭いため,DIG服用患者においては臨床症状のモニターに加えて慎重な血中濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring,TDM)が重要である.

 なお,強心薬としてはジギトキシン(digitoxin,DTX)も長く用いられており,TDMも実施されていたが,DTXは2008年10月に製造中止となり,2010年3月には薬価基準から削除されたことから,本稿では解説を割愛させていただく.

アルコール

著者: 高木康

ページ範囲:P.962 - P.963

検査の概要

 東京消防庁によると,2007年の急性アルコール中毒による搬送人員は男性8,026人,女性4,506人の計12,532人である.年齢別分布では20歳代が5,885人で最多であり,次いで30歳代の2,454人,60歳以上の1,337人と続く.法律上はアルコール禁止であるはずの20歳未満が738人であり,飲酒の未成年化の社会問題とも一致している.

 血中アルコール(エタノール)測定は,このような明らかな急性アルコール中毒が推測できる場合で測定されることはそれほど多くはなく,救急外来の外傷症例でアルコールの関与が疑われる場合に測定されることが多い.外傷のために救命救急センターを受診した2,461例中,血中アルコール濃度を測定したのは346例(14.1%)であり,238例はアルコールの関与が認められたとの報告1)(日本医科大学,1980~1989年)がある.このように,急性アルコール中毒の程度を知るためと外傷などの受傷原因の解明のために血中アルコール濃度が測定される.

付録

基準値・パニック値 一覧

ページ範囲:P.966 - P.967

※基準値・パニック値は本書各項目より抜粋.施設間差あり.

索引

ページ範囲:P.968 - P.974

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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