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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術39巻13号

2011年12月発行

雑誌目次

病気のはなし

解離性大動脈瘤

著者: 松村誠

ページ範囲:P.1130 - P.1136

サマリー

大動脈解離は突然の胸背部激痛で始まり,発症後早期に死亡する危険性が高く,一刻も早く正確な診断の下に治療を開始することが要求される救急疾患である.高血圧を有する高齢者やマルファン症候群の患者に多く,しばしば,大動脈破裂,出血,心タンポナーゼ,大動脈弁閉鎖不全,心筋梗塞,腎不全,脳梗塞などの重篤な合併症が発生する.診断には心エコーや造影CTなどの画像検査が有用である.解離が下行大動脈に限られるStanford分類B型では内科治療,上行大動脈にあるA型では予後不良のため,早期の外科治療が必要となる.

技術講座 血液

トロンビン生成試験

著者: 松本智子 ,   嶋緑倫

ページ範囲:P.1138 - P.1144

新しい知見

プロトロンビン時間(prothrombin time,PT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time,aPTT)などの凝固検査はCaCl2添加後,フィブリノゲンが不溶性フィブリンに変換され,凝固するまでの時間を測定する.一方,トロンビン生成測定試験(thrombin generation test,TGT)はフィブリン形成の前段階で産生されるトロンビンを測定する試験で,測定系自体は古くから確立されていた古典的な測定法である1).近年,蛍光基質法を用いた自動化システムの導入でリアルタイムの測定が可能になり,TGTは凝固機能を反映する検査として再評価されている.本測定法は,出血傾向のみならず,血栓傾向の評価,さらにさまざまな疾患における凝固および抗凝固療法のモニタリングとしても有用である.

病理

コイロサイトーシスの概念・病態と細胞像・組織像

著者: 加藤智美 ,   安田政実

ページ範囲:P.1145 - P.1150

新しい知見

コイロサイトーシスの機序・病的意義・転帰などが詳細に解明され,すなわち,子宮頸部病変のヒトパピローマウイルス(human papilloma virus,HPV)感染病因論がより明らかにされてきたことに強くかかわって,わが国でも細胞診の現場ではベセスダシステムが急速に普及し,ほぼ完全に定着した.この流れのなかでも,扁平上皮癌の前駆/前癌病変の概念・gradingに本質的な変化は生じていないが,「前面に置かれる名称」には新たな動きが生まれてきている.これまで日常的には多くの場合,異形成,CINの順で推定病変名(細胞診)および確定診断名(組織診)が用いられてきた.しかしながら,WHO2003分類がCINを前面に置いてからは,CINがやや優勢に転じてきたと思われる.そして,細胞診は言うに及ばず,SILがこの2者に取って代わられる傾向が組織診でも見え始めている(既に新刊の成書はSILを代表項目に挙げている).扁平上皮内病変がHPVの病因性をベースに2階層化したことで,今後は組織診においても,HSIL(CIN3/severe dysplasia)といった診断名がより一般化してくることもありうる.

疾患と検査値の推移

慢性閉塞性肺疾患における呼吸機能と血液ガスデータの変動

著者: 東條尚子

ページ範囲:P.1152 - P.1157

はじめに

 慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease,COPD)は,タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じる肺の炎症性疾患である1).WHOの推計によると,2020年には死亡の原因疾患(死因別死亡率)の第3位を占めるとする予測が公表されており2),国際的に,その予防,診断,治療の推進が課題となっている.本稿では,COPDの疫学と病態について解説し,次に実際の症例でみられた臨床検査値の変動およびその解釈について述べる.

オピニオン

技師として,教育者として

著者: 今井宣子

ページ範囲:P.1151 - P.1151

 阪大病院時代に「臨床検査技師も大学人であるからには臨床・教育・研究が三原則」という姿勢を叩き込まれて育ってきたせいか,臨床検査技師は誰でも臨床検査技師であると同時に教育者でもあると思っている.その証拠に誰かに教えたことのない技師は恐らく一人もいないのではないか.私も,これまで卒前・卒後を問わず,講義や講演をしてきたし,相談や悩みも聞いてきた.教育の専門家でもないのにこのようなタイトルで書くことにいささかの抵抗があったが,私見としてご容赦願いたい.

■心に火をつける

 私が思う教育とは,ウィリアム・アーサー・ワードが言うところの“inspire”である.つまり心に火をつけ,やる気を起こさせることだ.“馬を水飲み場まで連れて行くことはできるが,水を飲ませることはできない”ということわざもあるように,やる気のない人にやる気を起こさせることは難しい.意欲が感じられない学生や,与えられた仕事をこなすだけの無気力サラリーマン技師を見るたびに,どのようにしてその気にさせようかといつも思う.なんとか心に火をつけてやりたい,どうにかして動機付けをさせてやりたい,といつも考えている.

今月の表紙

いわゆる“虚血性心筋症”

著者: 田中道雄 ,   常深あきさ ,   梅田茂明 ,   北條林太郎 ,   石川妙 ,   手島保

ページ範囲:P.1160 - P.1160

【症例の概要】

 76歳,男性.高脂血症,糖尿病性腎症の既往.2年前に心不全あり,他院で拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy,DCM)として治療.当院でカテーテル検査を施行し,3枝狭窄(100%狭窄)が認められ,いわゆる“虚血性心筋症”と診断.慢性心房細動・心室頻拍あり,ペースメーカーを植え込む.死亡2か月前に心胸比65%.心エコーで心内腔拡大,駆出率(ejection fraction,EF)30%.MRSA肺炎・敗血症を合併し,心不全悪化・急性腎不全をきたし,三尖弁の感染性心内膜炎を併発し死亡.剖検で左室主体の房室拡張と冠動脈硬化症(3枝とも95%以上狭窄)を確認.左室全周性に心内膜下小型瘢痕が多発し,後壁中部や前壁下部にほぼ貫壁性の小型陳旧性梗塞を認めた.

ラボクイズ

細胞診

著者: 丸川活司

ページ範囲:P.1158 - P.1158

11月号の解答と解説

著者: 伊瀬恵子

ページ範囲:P.1159 - P.1159

ワンポイントアドバイス

免疫染色における抗体管理の一工夫

著者: 齋藤広樹 ,   田島秀昭 ,   荒川文子 ,   石井幸雄 ,   當銘良也 ,   石田剛

ページ範囲:P.1184 - P.1185

はじめに

 免疫染色は,病理診断における補助的手段として用いられてきたが,今日では標的分子療法における適応の判定法としても応用されており,その重要性がますます高くなっている.しかし,使用する抗体は高価で,そのランニングコストも決して安くはない.コストを抑えるためには適切な抗体管理を行い,可能な限り抗体の期限切れを起こさない管理システムを構築することが必要であり,各施設でさまざまな取り組みがなされている1)

 当院の平成22年(2010年)度の組織検査件数は1,840件で,病理検査室としては比較的小規模であるが,そのうち免疫染色を施行したのは511件であり,染色枚数はおよそ1,000枚程度である.小規模施設における免疫染色の特徴は,抗体の種類を一定以上揃えておくことが要求されるにもかかわらず,染色枚数はそれほど多くはないということである.そのため使用頻度の高くない抗体は,使用期限切れを起こす可能性があるということがコストの面からは大きな問題である.本稿ではこれを防ぐための工夫を含めて,小規模施設である当院で行っている抗体管理法を紹介する.

臨床検査のピットフォール

不規則抗体検査のピットフォール―不規則抗体検査が陰性でも,不規則抗体は陰性ではない

著者: 曽根伸治

ページ範囲:P.1181 - P.1183

はじめに

 不規則抗体検査は,輸血を行う患者や妊婦で赤血球上のABO血液型抗原以外の血液型抗原に対する抗体を確認する検査である.不規則抗体は,輸血した赤血球抗原と反応して遅延性輸血副作用を起こす可能性がある.また,妊婦にIgG型不規則抗体が存在する場合は,抗体が胎盤を通過して胎児に移行し,新生児溶血性疾患(hemolytic disease of the fetus and newborn,HDN)を起こす.これらを予防するために不規則抗体検査が実施されている.

Laboratory Practice 〈一般〉

尿沈渣検査:上皮細胞の鑑別①細胞の大きさ・形

著者: 猪浦一人

ページ範囲:P.1162 - P.1166

はじめに

 尿沈渣検査において上皮細胞の鑑別は,病変部位の推定,病変の程度,悪性腫瘍発見につながる.

 上皮細胞の由来推定は,細胞質の辺縁構造・表面構造など細胞質に特徴が表れ,細胞の良性・悪性所見は核に特徴が表れるとされている.その他にも沈渣の背景所見,細胞の大きさ・形などさまざまな所見を加味し,細胞判定が行われている.

 今回は細胞鑑別のポイントを「大きさ・形」,「細胞質の特徴」,「良性細胞と癌細胞の鑑別」をテーマに,3回シリーズで解説する.

〈血液〉

進化する採血

著者: 大西宏明

ページ範囲:P.1167 - P.1170

はじめに

 採血は臨床検査に際して最も広く行われる基本的医療行為である.採血は一般的には安全であるが,ごく稀には重大な合併症を生じうるので,これをできる限り低減させることが必要となる.また,いわゆるpreanalytical errorを防ぎ正確な検査値を得るために,できるかぎり標準的な採血法を施行することが重要となる.採血法については,長年蓄積された経験と,いくつかの実験的なエビデンスにより,一定の手技が確立されてきた.しかしながら,最近までわが国には標準採血法についての指針がなく,多くの場合個人の経験もしくは個々の医療機関の指針などに基づいてこれらの問題が処理されてきたこともあり,採血法についてもいわゆる「ガラパゴス化」的な状況が一部では生じていたことも否定できない.例えば,2003年の臨床検査医学会で指摘された,採血管の未滅菌の問題はその一例であろう.このような状況を踏まえ,2004年7月,日本臨床検査標準協議会(Japanese Committee for Clinical Laboratory Standards,JCCLS)はいわゆる試案の形でわが国初の「標準採血法ガイドライン」を発行した1).その後一定の期間,各界の意見を募り,これらを検討・総合したものが,2006年11月に発行された「標準採血法ガイドライン」成案(GP4-A1)である2).本ガイドラインは,採血という極めて多人数・多職種の関与する手技に関するガイドラインであるため,医療現場への浸透については困難を伴うことも予想された.しかしながら,その後関連団体の地道な努力により,徐々にではあるが広く医療現場に浸透しつつある.

 このように,わが国における採血法の標準化に一定の役割を果たしてきた標準採血法ガイドラインであるが,採血に関する新たなエビデンスが蓄積されたことや,米国の標準採血法ガイドラインも改訂されたことを受け,再度の改訂が必要となってきた.標準採血法検討委員会は,特にGP4-A1において議論が多かったいくつかの部分を中心として,改訂版の策定に向けた検討を行い,2011年1月に新たな改訂ガイドライン(GP4-A2)を発行した3)

 本稿では,新しいガイドラインの主な内容と改訂点を中心に解説する.なお,本稿はあくまで改訂点の要旨の抜粋であり,正確な内容については必ずガイドライン本文をご参照いただきたい.

〈救急〉

急変時の対応(救急蘇生のABC)

著者: 武井康悦

ページ範囲:P.1171 - P.1174

はじめに

 病院内,外にかかわらず,目の前で急変した患者に対し,医療従事者は適切な対応が求められる.病院内での事例においても検査室内での急変が少なくなく,臨床検査技師であっても積極的にかつ適切に救急蘇生術を試みなくてはならない.本稿では,医療従事者としての基本である一次救命措置(basic life support,BLS)を中心に,必要な知識のまとめ,最新の2010年のガイドラインを簡潔に述べたいと思う.

〈移植医療〉

―移植医療と検査④―腎移植におけるflow cytometry crossmatch(FCXM)の重要性

著者: 杉谷篤

ページ範囲:P.1175 - P.1179

はじめに

 近年,さまざまな領域でflow cytometryを用いた検査方法が汎用されている.腎移植を行う場合には,試験管やトレーの中で行われていたクロスマッチテストがflow cytometryで行われるようになってきた.しかし,その理論や実践が十分に移植医療に浸透している状況ではない.腎移植の領域におけるクロスマッチ陽性症例の診断と治療は重要で,従来法と比較してflow cytometry crossmatch(FCXM)およびflow cytometry panel reactive antibody(flow PRA)の原理,特徴,重要性について概説する.

トピックス

一般検査におけるバーチャルソフトウェア「サイトロン」の活用法

著者: 奈良豊 ,   扇田智彦 ,   岩田敏弘 ,   岡田茂治 ,   河野哲也 ,   猪浦一人

ページ範囲:P.1187 - P.1191

はじめに

 臨床検査における分析検査の分野では,試料を用いるコントロールサーベイの手法により標準化,施設間差の是正が進められており,有用な結果が得られている.一方,顕微鏡を用いる形態検査分野では鏡検技術の標準化,施設間差の是正方法として写真によるサーベイが実施されているが,その成分の形態や色調だけではなく,立体構造や背景情報など,できるだけ多くの情報が得られることが理想である.今まで実施されていた平面的な写真のサーベイでは情報量が少なく1),十分な解析と誤差要因の検証を行うことができなかった.これらの問題点を改善するためには,顕微鏡学的検査に近い方法で日常的技術を評価しなければならない.筆者らは,ケーアイテクノロジー社が開発したバーチャルソフトウェア「サイトロン」を利用して,一般検査領域の尿沈渣成分や髄液細胞について評価した結果,コントロールサーベイ資料として活用可能であることが検証された.

 本稿では,サイトロンの画像作成と操作法および一般検査における活用法について述べる.

けんさ外国語会話・12

心臓エコー検査〈中国語編〉

著者: 医療通訳研究会

ページ範囲:P.1193 - P.1193

日本語

心臓エコー検査
①○○さん,(お部屋に)お入りください.
②これから心臓エコー検査を行います.シャツを脱いで上半身を出して

 このベッドに仰向けに寝てください.
③検査のために,ゼリーを胸につけます.楽にしてください.
④息を吸って,はい,止めてください.
⑤息を吐いて,はい,止めてください.
⑥次は横向きに寝て,胸をこちらに向けてください.
⑦このタオルでゼリーを拭き取ってください.
⑧ゆっくり起き上がり,洋服を着てください.

INFORMATION

第18回琵琶湖セミナー(自動呼吸機能検査研修会)

ページ範囲:P.1186 - P.1186

会 期:2011年12月3日(土)12:30~4日(日)13:00

会 場:「ホテルラフォーレ琵琶湖」

 滋賀県守山市今浜町十軒家2876(TEL:077-585-3811)

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バックナンバーの取り扱い

ページ範囲:P.1144 - P.1144

『臨床検査』12月号のお知らせ

ページ範囲:P.1166 - P.1166

投稿論文募集のお知らせ

ページ範囲:P.1170 - P.1170

医学書院ウェブサイトをご利用ください

ページ範囲:P.1185 - P.1185

あとがき・次号予告・ラボクイズ正解者

著者: 山内一由

ページ範囲:P.1194 - P.1194

あとがき

 本号の“疾患と検査値の推移”では慢性閉塞性肺疾患(COPD)について取り上げました.COPDの主な原因は喫煙です.言うまでもなく喫煙は,COPDや肺癌をはじめとする呼吸器系疾患のみならず,さまざまな疾患の危険因子となります.以前,たばこに含まれるニコチンがドパミン神経系に作用することによってアルツハイマー病の発症リスクを低下させるという説がまことしやかに流布しましたが,今ではしっかり否定されています.喫煙はアルツハイマー病の発症リスクを低下させるどころか有意に高めるということが,大規模なコホート研究によって明らかにされています.ご存知のように,たばこ産業から資金供与を受けた研究団体のでっち上げだったことも暴露されています.

 最近,CDCは米国における肺癌罹患率が低下したことを報告しました.禁煙政策が実った結果であると実に誇らしげです.ところが,米国での紙巻きたばこの生産量は総生産量の約10%を占めています.米国国内では,禁煙政策を強力に推し進めながら,たばこは何処へ流れたのでしょうか? 日本が恰好の‘かも’になったことは言わずと知れたことです.米国がたばこのリスクを科学的に認知し,強力に禁煙を推し進めるなか,日本では1987年に米国産たばこへの関税が撤廃されました.その結果,米国からのたばこの輸入本数はそれを境に10倍近くまで増加し,米国のたばこ輸出の60%以上を占めるまでになりました.しかし,たばこのリスクが常識化してくると否応なしに禁煙は進みます.実際,日本におけるたばこの消費量は1990~2010年の20年間で約35%も減少しています.恰好の‘かも’も禁煙を進めた結果,たばこはダブつきました.そして現在では,貧しい国の空腹に喘いでいる子供たちの健康を蝕むようになっています.栄養失調に典型的な病的に膨らんだお腹をむき出しにした裸足の男児が,たばこを燻らせている衝撃的な写真を目にしたことがあります.医療費抑制あるいは震災復興財源確保のために,たばこ税を引き上げようという議論があります.確かに効果的であると思いますが,そんな写真を目の当たりにしてしまうと賛成の挙手を躊躇ってしまいます.凡庸な筆者が今自信をもって断言できるのは「喫煙は百害あって一利なし」だけです.

「検査と技術」第39巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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