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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術39巻3号

2011年03月発行

雑誌目次

病気のはなし

ベーチェット病

著者: 南家由紀 ,   小竹茂

ページ範囲:P.150 - P.154

サマリー

ベーチェット病(Behçet's disease,BD)は,主に口腔粘膜,皮膚,眼,外陰部に急性炎症性病変を反復し,多臓器を侵す難治性の慢性炎症性疾患である.1937年にトルコの皮膚科医Hulusi Behçetによって一つの疾患であると報告された.シルクロード沿いから地中海沿岸諸国に多く,患者数はわが国が最多である.HLA-B51は疾患感受性遺伝子である.血管炎と好中球の機能亢進が病態の中心である.主症状の一つである難治性ぶどう膜炎にTNF-α(tumor necrosis factor-α)製剤が保険適用になった.

技術講座 生理

卵円孔開存の診断法

著者: 神野雅史

ページ範囲:P.155 - P.159

新しい知見

卵円孔開存(patent foramen ovale,PFO)はほとんどの場合出生とともに閉鎖するが,なかには器質的な閉鎖をきたさずにそのまま残る例も存在する.卵円孔が開存していると,一次的な右房圧の上昇により右左シャントを起こし,静脈系で形成された血栓が,右左シャントを介して動脈系へと流入することが考えられる.動脈系へ流入した血栓は脳,冠動脈,腎臓といった主要臓器への塞栓を生じ重篤な症状をきたすことがある.この機序により生じた脳梗塞を奇異性脳塞栓症(paradoxical brain embolism)と呼ぶ.この診断のためにはPFOと右左シャントの証明が必要であり,本稿ではPFOの診断法について概説する.

生化学

血清蛋白分画とデータの判読

著者: 藤田清貴

ページ範囲:P.161 - P.167

新しい知見

自己免疫性膵炎(硬化性膵炎)では,fast-γ位に移動度をもつIgG4が増加するため,血清蛋白分画でβ-γブリッジングが認められるので診断に有用である.IgGには,IgG1からIgG4まで四つのサブクラスが存在するが,IgG4は量的に最も少なく,健常者では総IgGの数%にすぎない.本疾患では,90%以上の例で血清IgG4の上昇を認め,その平均値は600~700mg/dl(基準値:135mg/dl以下)であるという.しかも,膵癌,慢性膵炎,原発性硬化性胆管炎など関連疾患ではほとんど上昇を認めないことから,本疾患に特異的であると考えられている.

疾患と検査値の推移

鉄過剰症に対するデフェラシロクス治療

著者: 大場理恵 ,   張替秀郎

ページ範囲:P.168 - P.174

はじめに

 鉄は生体維持に必須の金属元素で,赤血球のヘモグロビン合成,酸素運搬だけでなく,薬物代謝,各種細胞内の酸化還元反応,細胞の増殖などに関与する.その一方で,鉄は生体内で過剰になると毒性の強いラジカルを産生して細胞傷害活性の原因になる極めて毒性の高い元素であり,鉄過剰症は肝臓,心臓をはじめとしたさまざまな臓器障害を引き起こす.

 骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome,MDS)や再生不良性貧血といった骨髄不全症において,繰り返される輸血によって容易に鉄過剰状態になるのは,生体は過剰な鉄を排除する機構をほとんど有していないためである.これまで,鉄キレート療法は重要と考えられていたものの,注射製剤の鉄キレート剤であるデフェロキサミン(deferoxamine,DFO)は連日の持続投与が必要であるため,外来での投与が困難であることから,一般的には鉄過剰症に対して積極的な治療は行われてこなかった.ところが,2008年に経口鉄キレート剤であるデフェラシロクス(deferasirox,DFX)が認可され,鉄キレート療法が容易に行えるようになったことにより,二次性ヘモクロマトーシスに対する予防効果や,臓器機能の改善効果が改めて注目されるようになった.本稿では,鉄過剰症における鉄キレート療法について概説する.

オピニオン

ラテックスアレルギーの恐怖

著者: 下村登規夫

ページ範囲:P.160 - P.160

 ラテックスと聞くと特別の素材のように思われがちだが,実は医療材料でよく使われる天然ゴムのことである.シリコン製品も増えているが,手術用の手袋などはラテックスを素材としたものが多い.

 手袋を使う頻度が高くなるなど,ラテックス素材に触れている機会が多いとアレルギー反応を起こしやすくなることが知られている.手術などの際に,開腹して,手袋をした手で臓器に触れた瞬間にショックになってしまったということがあるのは,よく知られたことである.そこで最近では,全例ではないにせよ,このアレルギー検査(特異抗体検査)を行ってから,手術を行うこともあるようである.

今月の表紙

過形成性結節を伴う橋本病

著者: 廣川満良 ,   樋口観世子 ,   太田寿

ページ範囲:P.179 - P.179

【症例の概要】

 20歳代,女性.1年前,会社検診にて甲状腺腫大を指摘されるも放置していた.感冒を機会に来院し,左葉に2cm大の結節を触知した.生化学検査では,FT41.04(0.7-1.6)ng/dl,FT32.86(1.7-3.7)pg/ml,TSH3.318(0.3-5.0)μIU/ml,サイログロブリン27.0(0-35)ng/ml,TgAb2,825.0(0-39.9)IU/ml,TPOAb322.0(0-27.9)IU/mlであった.超音波検査にて,右葉に12mm大,左葉に25mm大の結節がみられ,穿刺吸引細胞診にて,右葉結節が乳頭癌,左葉結節が良性と診断され,甲状腺全摘術+頸部リンパ節郭清術が行われた.組織学的には,橋本病を背景に,右葉結節が乳頭癌,左葉結節が過形成性結節であった.

ラボクイズ

生化学検査

著者: 草場恵子 ,   栢森裕三

ページ範囲:P.180 - P.180

2月号の解答と解説

著者: 濱川真治

ページ範囲:P.181 - P.181

ワンポイントアドバイス

膵腺房細胞癌の細胞診

著者: 小川高史 ,   三宅真司 ,   片桐仁子 ,   長尾俊孝

ページ範囲:P.175 - P.178

はじめに

 膵病変における細胞診断は,日常の細胞診業務のなかでは婦人科や泌尿器科領域のものに比べて一般的とは言えない.しかし,胆汁や膵液などの液状細胞診や腫瘍部からの穿刺あるいは擦過細胞診など,その種類や方法はさまざまで,そこから発生する腫瘍も多様であり,診断に苦慮する場合が少なくない.

 代表的な膵腫瘍は浸潤性膵管癌であり,本稿で取り上げる膵腺房細胞癌は発生頻度が低く,実際にその細胞診断を経験する機会は少ない.しかし,この癌の細胞像は特徴的であるため,それを把握しておけば正確な細胞診断に到達することは決して難しいことではない.そこで,本稿では膵腺房細胞癌を細胞診断するうえでのポイントや,この腫瘍の臨床病理学的特徴および鑑別診断について解説する.

Laboratory Practice 〈生理〉

心臓ペースメーカー

著者: 杉山裕章

ページ範囲:P.183 - P.189

はじめに

 植込み式の心臓ペースメーカー(以下,ペースメーカー)が臨床応用され始めた1960年代以降,莫大な数の徐脈性不整脈患者に福音がもたらされ,ペースメーカーは今もなお最も進んだ人工臓器の一つであることは間違いない.

 現在,わが国では毎年5万件ほどのペースメーカー植込み術が施行され,全国に25~30万人の装着者がいるとされる.本稿では具体的な症例を挙げながらペースメーカーに関連した一連の診療業務を解説したい.

〈微生物〉

マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法による細菌の分類と同定

著者: 石田康行

ページ範囲:P.190 - P.194

はじめに

 医療の現場では,感染症の原因究明やその治療法決定などを目的として,病原体を含む一連の細菌の分類および同定が日常的に行われている.従来,細菌種の分類・同定は,形態的特徴,生理・生化学的性状や化学分類学的性状の違いに基づいて行われてきた.しかしながら,これらの手法では,微生物に対する専門的知識が必要であることや,分類にしばしば長時間を要することが問題点として指摘されている.さらに,近年では,分子生物学や遺伝学的分析手法の進展により,DNAや蛋白質をコードする遺伝子の塩基配列を解析し,分類する方法が上記の短所を補う方法として利用されている.この方法では,形態学的手法と比較して解析時間の大幅な短縮が実現されたが,依然として煩雑な前処理操作を要するといった問題があり,多数の検体を一度に解析することは容易ではない.

 こうしたなかで最近,マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(matrix assisted laser desorption/ionization-mass spectrometry,MALDI-MS)が,煩雑な試料前処理を行うことなく,細菌種によってはその属や種を迅速に分類・同定できる方法として注目されている.この手法では,μgオーダーの極微量の細菌試料を用いて,細菌細胞中に含まれる蛋白質などの成分を高感度に検出し,さらに,質量スペクトル上の当該成分のピークパターンから細菌類の種類を迅速かつ簡便に分類・同定することができる.本稿では,まずMALDI-MSの原理と細菌試料の測定における試料調製法を簡単に説明し,次に本法による細菌種の分類および同定例を概説する.

〈生化学〉

Biacoreを用いた蛋白質相互作用解析

著者: 川崎健治 ,   菅野光俊 ,   山内一由 ,   本田孝行

ページ範囲:P.195 - P.201

はじめに

 Biacoreは,表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance,SPR)現象を利用した分子間相互作用解析装置である.Pharmacia Biosensor(現GEヘルスケアバイオサイエンス:GE)社は,高感度なバイオセンサーになりうる原理としてSPRに着目し,その感度に見合ったプロテインチップやマイクロタス(micro total analysis system,μ-TAS)を使った微量測定系を築き,また使いやすい相互作用解析ソフトの開発を行って1989年にSPR法による分子間相互作用解析装置BIAcoreの発売を開始した.近年では,他社からもSPRを原理に用いた分子間相互解析装置が発売され,より一般的になってきている.SPR法が他のさまざまな相互作用解析法と異なる点は,非標識かつリアルタイムに生体内分子間の親和性(アフィニティー)だけでなく速度論的解析(カイネティクス)を行うことができることである.例えば,酵素免疫測定法(enzyme-linked immunosorbent assay,ELISA)による相互作用解析では濃度から解離定数(KD)を求める.この方法から得られる情報は,分子間の「結合の有無」と他の標的蛋白と比較することによる「親和性の強さ」である.一方,SPR法は結合・解離の過程をリアルタイムに追跡する.そして結合速度定数(Ka)と解離速度定数(Kd)を求めてKDを算出する.Biacoreでは,KaとKdを求めることによって「結合の有無」や「親和性の強さ」がわかるだけでなく,その結合と解離が早いか遅いかの解析ができる.さらに駆使すると濃度測定や熱力学的解析も行うことができる.

 SPR法は,プロテインチップに固定化できること,液体として流路を流すことができることをクリアすれば多くの物質がサンプルとして利用可能である.蛋白質だけでなく,核酸,糖質,脂質,細胞,ウイルス,細菌,血漿,低分子化合物などが対象になりうる.本稿では,SPRを使った蛋白質相互作用解析法として最も普及しているBiacoreを採り上げ,その基礎知識を解説し,実例として筆者らの蛋白質相互作用解析実験を紹介する.

〈診療支援〉

臨床検査自動分析装置の性能表示規格について

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.202 - P.206

はじめに

 日本臨床検査標準協議会(Japanese Committee for Clinical Laboratory Standards,JCCLS)は,平成19年度(2007年度)から3年間の事業として(財)機械システム振興協会より受託した「臨床検査用分析装置における自動校正システムの開発に関するフィージビリティスタディ」(桑 克彦委員長)を実施した.これらの成果の要旨は,JCCLSのホームページに掲載されている1).このうち臨床検査用分析装置の性能表示規格案については,本スタディの3年目の事業として,本スタディの協力機関である(社)分析機器工業会において,臨床検査用分析装置基礎性能および測定性能を検討するための手順書を作成し,併せて測定試料などを作製後,これに基づいて参加企業が所定の作業を実施し,統一的な分析装置の性能表示規格(案)のあり方について検討を行った.

 本稿では,臨床化学分析における自動化の変遷と国際標準化への対応,および臨床検査自動分析装置の性能表示規格として,国内規格および国際規格として提示すべく進めている日本分析機器工業会規格0011-2011(Japan Analytical Instruments Manufacturers' Association Standard,JAIMAS0011-2011)「臨床用自動分析装置の性能表示方法」2)の概要について示す.

トピックス

薬剤結晶による乳び尿様の白色混濁尿

著者: 駒沢今日子 ,   手島伸一

ページ範囲:P.209 - P.211

はじめに

 通常,健常人の尿の色調は,水分摂取量により黄色調は変化するが,腎において産生されるウロクロムにより淡黄色を呈し透明である.黄色以外の異常な色調や混濁を示す場合には,ビリルビン尿,血尿,乳び尿,薬剤などによる着色尿などがある.そのなかでも乳白~白色の混濁尿を示す原因には乳び尿の他,膿尿,細菌尿,塩類尿などがあるが,今回,薬剤結晶により乳び尿様を呈した症例を経験した.本稿では,白色混濁尿と尿沈渣中の結晶に触れ,本症例での白色混濁尿がニューキノロン系抗菌薬であるメシル酸パズフロキサシン(pazufloxacin mesilate,PZFX)の結晶に由来することが判明した経緯と,多量に結晶が析出された成因について考察したので報告する.

心機能指標―左室の捻れ

著者: 村田和也

ページ範囲:P.211 - P.213

はじめに

 左室からの血液の駆出には,左室長軸方向,重心方向,円周方向の収縮・拡張の繰り返しだけではなく,心尖部と心基部が相対する方向に回転することによる捻れも関与しており,この左室の捻れ運動は,心筋線維の走行,筋層の配置配列に基づくことが知られている1).すなわち,心筋線維は心内膜側と心外膜側では逆方向に斜走,中層では円周方向に走行し,心筋細胞は収縮期に心筋線維に沿った方向に収縮するため,この線維走行の違いにより左室を絞り込むような捻れ運動を生じている.

けんさ外国語会話・3

採血〈韓国語編〉

著者: 医療通訳研究会

ページ範囲:P.214 - P.214

日本語

採血
①○○さん,どうぞ(△番の方,どうぞ).
②このイスに座って,楽にしてお待ちください.
③検査のために○ml採血を行いますので,お名前を確認させてください.
④採血を行いますので,腕を出していただけますか.
⑤上腕を縛ります.
⑥アルコールで消毒しますが,アレルギーなどはありませんか.
⑦はりを刺しますので,少し痛みを感じます.
⑧採血は終了しました.このバンドエイドを数分間押さえていただけますか.
⑨バンドエイドは数時間したら剝がして結構です.
⑩うまく採血できなかったので,もう一度採血させていただけますか.

コーヒーブレイク

ブランチラボから自主運営回帰―第5回 再起編

著者: 木村浩則

ページ範囲:P.182 - P.182

 この病院の技師長に就任して2年目の春がきた.そしてそのときはやってきた.

 この病院のブランチラボの契約期間は3年である.通常5年だが,経営部門は心底ブランチにしたかったわけではないようだ.何もしようとしない検査室が自らの墓穴を掘ったのである.契約更新の時期にきて事務長に呼ばれた.「これからの検査室をどうしたい?」迷わず答えた.「強い検査室をつくりたいです.自分の夢は,検査技師が病院のいたるところで働いている,そんな検査室をつくりたいのです」事務長は,ただ笑っている.…いやな予感.

音源を求めて

著者: 吉子健一

ページ範囲:P.194 - P.194

 東海道・山陽新幹線(以下,新幹線)にオーディオサービスがあることはほとんど知られていません.このサービスは,新幹線二世代目の車両である100系電車が登場した1985年からスタートしました.普通車ではFM放送帯域の微弱電波によって提供されており,携帯FMラジオがあれば車内でプログラムを楽しむことができます.内容は新幹線電車の編成で異なり,JR東海ではShinkansen Music Channel(SMC),JR西日本ではAUDIO SERVICEと呼ばれ,それぞれ独自のプログラムが提供されています.今回は,SMCに関する私の思い出を紹介しましょう.

 私は,約10年前関西の大学院に社会人入学しましたが,仕事と学業の両立は予想していた以上に難しく,精神的に追いつめられた状態になったことが何度かありました.通学には新幹線を利用していましたが,当時SMCに耳を傾け車窓を眺めることが楽しみの一つになっていました.小旅行のような非日常的な体験が心身のリフレッシュに一役かっていたようです.2005年の4月頃だったでしょうか,いつものようにSMSに耳を傾けていたところ,すてきな2つの楽曲に出会いました.SMCのプログラムが新幹線の車内紙に掲載されていることを知りさっそく車内紙を入手,番組制作部へ問い合わせをしたところ運良く音源の提供元が判明しました.その後,提供元の好意により2つの音源をわけてもらえたのです.

月の石

著者: 安東由喜雄

ページ範囲:P.207 - P.207

 日本人の宇宙での活躍が目覚ましい.今をさかのぼること約40年前,アポロ11号が月に軟着陸し,アームストロング船長とオルドリン飛行士が初めて月面歩行をしたとき,それをテレビで見た世界の多くの人は,「信じられない」と思ったに違いない.月は遥かな世界であり,まさか人間が到達できる範囲のところとは誰も予測だにしなかった.実際,アリゾナの砂漠あたりでロケーションをし,宇宙飛行士に演技させたに違いない,と思った人々もいた.これをそのまま映画にしてしまったのがアメリカ映画,「カプリコーン1」である.出発直前の故障のため,宇宙に飛び立てなかったカプリコーン1の乗組員たちは,国家の威信をかけた一大プロジェクトが中止とは言えなくなり,辻褄合わせのために,砂漠で宇宙遊泳の演技をさせられ,宇宙からNASAへの交信の真似事をさせられる.しかし,この交信電波がアメリカ国内から発信されていることに気づいたアマチュア無線家の通報により,事態は一変する,というのが物語のあらすじである.何年か前,アメリカのテレビの特集番組で,アポロ宇宙船が月に軟着陸したのは間違いである,という企画が放送され,話題になった.根拠は,①月は真空状態なのに,「静かの海」に立てられたアメリカの国旗がはためいていた.②画面に星が全く見えなかった.③月面に映し出されたアームストロング船長の陰が太陽光線の方向と同じ方角に見えた,などといったものである.これに対し,NASAは珍しく躍起になって反論した,という話まで飛び出すと,「やっぱり」という気になるのが人情というものであろうか.人を信じさせるにはエビデンスがいる.NASAはこのエビデンスに地球の何処にもその成分を含んでいない月の石の存在を挙げた.しかしよく考えると,これは宇宙のかなたから飛来した隕石でも可能ではある.物事は疑い出すときりがない,という話である.研究をするということは,「月の石」を見つける作業に他ならない.「コーカサス地方には百歳を超える老人が多い」→「コーカサス地方の住民はヨーグルトをよく食べる」→「ヨーグルトを食べると長寿になる」.一見筋の通った三段論法に貫かれているかに見えるこの論法も,その他の環境因子に関する調査が欠けており,単に一つ物事の相関を明らかにしたに過ぎない.事実を真実に昇華させるためには「月の石」が必要なのだ.臨床研究は,倫理の縛りや疾患モデルの欠如などで,因果を実証することが困難で,ひとつひとつの症例の積み重ねや過去の報告,統計処理などをうまく組み合わせ,重厚な研究となっているものは枚挙に暇がないが,分子生物学的な研究手法の進歩により,「月の石の採取」は手が届く範囲のものとなりつつある.突き止めた病因蛋白質をsiRNAなどで,ノックダウンしてみる,遺伝子操作の手法で,過剰発現させてみるといった,loss of function,gain of functionの研究により,実証する,といった作業がぐっと身近なものになった.着々と科学は進化している.

INFORMATION

第17回第1種ME技術実力検定試験および講習会

ページ範囲:P.208 - P.208

 第1種ME技術実力検定試験はME機器・システムおよび関連機器の保守・安全管理を中心に総合的に管理する専門知識・技術を有し,かつ他の医療従事者に対し,ME機器・システムおよび関連機器に関する教育・指導ができる資質を検定することを趣旨とし,第2種ME技術実力検定試験合格者および臨床工学技士免許所有者を受験対象者としております.

 講習会では,受験制度の説明および関係する医療機器,介護・福祉機器およびそれらのシステムの知識,技術についての解説を行います.

 詳細はME技術教育委員会ホームページでもご覧いただけます.URL:http://megijutu.jp

■講習会実施要領

 東京会場:2011年4月10日(日) 9:00~18:00

  定員200名

  帝京平成大学池袋キャンパス(東京都豊島区東池袋2-51-4)(予定)

 大阪会場:2011年4月17日(日) 9:00~18:00

  定員150名

  新梅田研修センター(大阪市福島区福島6-22-20)(予定)

平成23年(2011年)第98回二級臨床検査士資格認定試験/平成23年(2011年)第33回緊急臨床検査士資格認定試験/平成23年(2011年)第5回遺伝子分析科学認定士認定試験

ページ範囲:P.255 - P.255

*平成23年(2011年)より受験申込方法が変更になっています.詳細は同学院ホームページでご確認をお願いいたします.

 日本臨床検査医学会,日本臨床検査同学院共催のもとに日本臨床検査医学会制定の認定試験制度により,平成23年(2011年)第98回資格認定試験を東日本・西日本において,下記のごとく実施する.受験者は希望科目を一つ選び申し込むこと.1年に1科目の受験.

試験期日:2011年7月初旬~随時日 正確な期日はホームページに掲載.

試験会場:東京・神奈川近郊・大阪近郊 詳細はホームページ掲載.

解答

ページ範囲:P.254 - P.254

バックナンバーの取り扱い

ページ範囲:P.154 - P.154

『臨床検査』3月号のお知らせ

ページ範囲:P.174 - P.174

投稿論文募集のお知らせ

ページ範囲:P.206 - P.206

あとがき・次号予告・ラボクイズ正解者

著者: 山内一由

ページ範囲:P.256 - P.256

 本号が読者の皆様のお手元に届く頃には,厳しい寒さも和らぎ,春の気配を実感されていることと思います.

 今年の冬は例年にない厳しい寒さが続きました.聞くところによると,この厳冬は昨年の猛暑をもたらしたラニーニャ現象の余波とのことです.釈迦に説法かもしれませんが,ラニーニャ現象とは東太平洋赤道海域の海面温度が平年より低い状態が半年から一年ぐらい続くことです.これとは逆に,海面温度の上昇が長期間続くエルニーニョ現象が発生すると,日本では冷夏,暖冬となる傾向があります.よく,猛暑や厳冬は経済効果をもたらすのに対し,冷夏と暖冬は景気を悪化させると言われていますが,これはあくまでも市場原理主義的観点に基づいた評価に過ぎません.どちらの現象も「地球が病んでいる」徴候に他なりません.地球を生活の場としている人間が,経済指標で気候の良し悪しを比較すること自体,的外れも甚だしいことです.私たちにとって最も望ましいのは「地球が健康である」ことではないでしょうか.誕生して約46億年の地球と比べたら,生まれて間もない赤ん坊くらいでしかない非力な人間が,打算的になればなるほど地球の健康は害われ,ひいては,私たちの健康がしょくまれていくように思えます.地球が健康であり続けるために何をすべきか考えていくことは,私たち自身の健康維持にもつながるといえます.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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