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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術4巻10号

1976年10月発行

雑誌目次

病気のはなし

粘液水腫

著者: 紫芝良昌

ページ範囲:P.720 - P.725

粘液水腫の病像
 粘液水腫(myxedema)という病気は,1784年,Gullによって初めて詳しく記載されたと言われている.
 まぶたが腫れ,顔もいわゆるしもぶくれになり色が蒼白く,手首や足首のあたりが腫れてはいるが,普通の浮腫とは違って指で強く押しても跡がちっともつかない.患者の話は声が低く,話の速度は極めてのろい.話が遅いのは決して目がまわらないわけではなく,話す内容が頭の中でまとまるのが遅いことから,精神活動は不活発なのだと分かる.きげんは決して悪いほうではなく,冗談が好きで一人でニヤニヤしている.非常に寒がりであり,夏でも厚い下着を着込んでいてちっとも汗もかかない,手や脚の力は非常に弱くなって,トイレでしゃがむと立てないなどのことがある.

技術講座 生化学

ビリルビン

著者: 片山善章

ページ範囲:P.743 - P.747

 血清中のビリルビン定量法は酸化法,直接比色法,ジアゾ法に分類することができ,それらについては多くの変法及び改良法が報告されている.現在一般的に広く利用されている方法は直接比色法とジアゾ法である.

血清

沈降反応

著者: 米屋乃夫子

ページ範囲:P.748 - P.752

 沈降反応とは反応にあずかる抗原(沈降素原,precipitinogen)と抗体(沈降素,precitipitin)が反応することによって沈殿(沈降物,precipitate)を生ずる抗原抗体の総称で,1897年Krausによってこの現象が認められて以来数多くの事実が発見され,現在,血清学,微生物学のみならず法医学,公衆衛生学の領域まで応用領域が認められている.今回は応用領域のうちで私たちの検査室で日常多く用いられている重層法,混合法,ゲル内拡散法などについて述べる.

細菌

ナイセリアの分離と同定

著者: 安達房代

ページ範囲:P.753 - P.757

 好気性のグラム陰性双球菌でナイセリア属に含まれる代表的な病原菌は髄膜炎菌,淋菌で,Welchselbaum(1887)によって患者から分離された.これは相向き合った双球菌状を呈する一群の球菌である.その他主として上気道に常在し,ほとんど病原性を有しない菌もナイセリア属に含まれる.本稿では髄膜炎菌,淋菌を臨床材料から分離同定をするために必要な細菌学的基礎と,臨床検査法について大別して述べる.

一般

尿検査・5—ウロビリノゲン

著者: 長岡文

ページ範囲:P.758 - P.760

 肝臓より分泌された直接ビリルビンは胆汁により腸に入り,腸内細菌により還元されてウロビリノゲンとなる.それは腸管より吸収されその大部分は門脈を経て肝臓に至りビリルビンとなり,再び胆汁中に排泄されて腸に送られる(腸肝循環).しかし腸管より吸収されたウロビリノゲンの一部分はそのまま腎に至り尿中へ排泄される.これが尿中のウロビリノゲンである.ウロビリノゲンは容易に酸化されウロビリンとなる.この2つを合わせてウロビリン体と言う.
 正常者の尿中にはこのようにわずかのウロビリノゲンが含まれている.それはウロビリン体として1日に0.5〜2mgであるがその排泄は日内変動が大きく,午後2〜4時が最も排泄量が多い.また季節では夏が多いと言われている.

測定法の基礎理論 なぜこうなるの?

Porter-Silber反応とその周辺

著者: 仁科甫啓

ページ範囲:P.727 - P.730

 Porter-Silber(P-S)反応とは尿中17-ハイドロキシコルチコイド(17-OHCS)の測定に用いられる発色反応をいう.ここではまず,17-OHCSを含む副腎皮質ホルモンの反応性について簡単に述べ,次いで,P-S反応の発色機構,特異性及び測定上の諸問題について解説を試みる.

白血球の核

著者: 大北威

ページ範囲:P.731 - P.734

1.細胞核の構造と働き
 細胞には核をはじめいろいろな基本的構造や小器官があって,これらの構成要素はそれぞれに役目を分担している.細胞核には,細胞の遺伝的な特異性を決定し,かつ細胞の代謝活動を支配する遺伝情報物質DNAが含まれている.従って核は,細胞の生合成反応の司令中枢と考えられている.
 細胞核の重要性は19世紀の終わりには既に指摘されていて,例えば原虫細胞を切断した場合,核が残っていれば細胞は完全に再生されるが,核がないと死滅することが明らかにされている.

ガラス板法の注目すべき点

著者: 松橋直

ページ範囲:P.735 - P.738

 梅毒が大流行し,カルジオライピン・レシチン(cardiolipin-lecithin)を用いた血清学的診断法の研究が盛んであったころ,筆者も簡易法,しかも全血法で使える方法の開発を緒方富雄先生から厳命され,この開発に専念していた.昭和25年(1950)ごろである.米軍からVDRL法の抗原を入手した.また,米国のVenereal Disease Research Laboratoryの月報のようなもので,VDRL法の存在を知った.簡易法であるから,筆者がその方法ならびに抗原に興味を持ったことは言うまでもない.
 当時の筆者が工夫した方法も抗原のカルジオライピン(CL),レシチン(L)の比率はVDRL抗原と大同小異であったが,方法の術式が非常によく吟味されていたのには驚かされた.しかし,筆者が工夫した炭素粒子を用いる方法,プラスチック粒子を用いる方法との間で,全体としての成績はそれほどの開きはなかった.なぜならカルジオライピン・レシチンを用いると,抗原そのものが精製されているので,どんな方法でやっても,ゆくところまではゆき,梅毒患者血清の95%以上の陽性率を示し,いろいろな方法の優劣は,ほんの数%の違いで決められるからであった.

読んでみませんか英文論文

LEラテックステストと抗核因子検出のための免疫螢光法との比較

著者: 河合式子 ,   河合忠 ,  

ページ範囲:P.739 - P.740

 市販されている2つのLEラテックステストを抗体価既知の抗核抗体陽性血清について比較した.ハイランドLEテストキットに比して,レダリーSLEラテックステストキットがより特異的で,特に高いANF抗体価について相対的により鋭敏であった.ラテックステストは迅速,簡単な方法であって,陽性の時は全身性エリテマトーデスか他の膠原病を疑うことができる.しかし,現在のところこの検査はANFを検出する免疫螢光法と置き換えることはできない.臨床的にSLEまたはそれに類縁の病態の疑いある場合には,すべての陰性成績は免疫螢光法によって検査されなければならない.

知っておきたい検査機器

指尖容積脈波計

著者: 司茂幸英

ページ範囲:P.741 - P.742

 指尖容積の微小変化は,心拍動に伴う動脈系の圧変動による.この容積変化は機械的,光電的あるいはインピーダンスの変化として検出することが可能で,それらの増幅,記録されたものが指尖容積脈波(finger tip plethysmogram)と呼ばれるものである.
 ここでは,簡便さと正確な波形が得られることから広く普及している光電式容積脈波計(2段校正方式)について紹介する.

最近の検査技術

二波長測光法

著者: 内藤茂昭 ,   高畑藤也

ページ範囲:P.761 - P.766

 吸光光度法はBeerの法則に従う試料を対象とするもので,必然的に試料に濁りがないことが前提となり,更に共存物質の影響をいかにして化学的にマスキングするかを命題として組み立てられている.臨床化学検査においても,それぞれの分析法の特徴は,血清という多成分系の中からいかにして目的物質のみを選択発色させ,共存物質の影響を除去するかにあるといっても過言ではない.
 1951年にペンシルバニア大学のBritton Chanceにより二波長測光法が開発され,特に生化学分野でよく取り扱われる生体試料の濁りによる光散乱の影響を装置的にマスキングする糸口をつかんだ.その後の種々の研究により,二波長測光法が臨床化学検査で大きな効果のあることが数多く報告され,最近では臨床検査用光度計や自動分析装置,レイトアッセイ分析装置などに本方式が多く採用されるに至っている.

医療・保健・検査

国立多摩研究所とらい菌

著者: 川津邦雄

ページ範囲:P.767 - P.770

 著者の勤務する国立多摩研究所は,癩(らい)を専門に研究する国立の試験研究機関で世界でも数少ない研究所であるが,世間にあまり知られてない.一方現在日本でのらいの発生率は低く,罹患者の多くは全国13園の国立らい療養所に入所しているため,一般病院などの臨床検査業務でらい菌を染色する機会はあまり多くない,むしろまれであろう.しかしらいの診断あるいは病勢の判断には,菌染色によるその染色性,菌の形態,菌数及びその所在などの鑑別が大きなウエートを占めている.そこで最初に国立多摩研究所と病理研究室(著者の所属)の概要を紹介し,次いでらい菌の染色に関して,著者の経験と基礎的実験や文献などを基に,現在当研究室で組織学的検索に利用している二三の方法とその問題点を述べてみたい.

マスターしよう基本操作

細菌の塗抹検査

著者: 小栗豊子

ページ範囲:P.771 - P.774

 細菌の塗抹検査は検査成績が早く得られる点で培養検査に優れている.特に髄液,血液,胸水などのグラム染色標本で細菌が検出された場合には,これらの所見は直ちに化学療法剤の選択に役立てられる.一方,材料の塗抹標本の鏡検で細菌の検出が可能な場合は,一般細菌では105/ml以上,結核菌などの抗酸菌では2〜5万/ml以上の菌数が必要であるとされている.漿液性の材料では遠心して沈渣を用いることにより,更に検出率を上昇させることができる.細菌検査の材料は同一検体で塗抹検査と培養検査を行う場合が多く,綿棒,綿球,ガーゼ片などに付着させた材料では培養の際の雑菌汚染を避けるため,まずすべての培地に接種した後,塗抹標本を作成しなければならない.載せガラスは脱脂した清潔なものを用いる.
 図1〜10は検査材料の塗抹標本の作り方を,図11〜14には集落からの塗抹標本の作り方を示した.いずれも塗抹の後,自然乾燥させ,火炎固定を行い,染色の操作に移る.

実習日誌

自主的に病理実習を体験して

著者: 大谷内健二

ページ範囲:P.777 - P.777

 この病理センターを選んだ理由として,2年の時の病理学の授業がたいへん興味深く,かつあらゆる角度からの教えが後の病理学実習に興味を抱かせたことが挙げられます.実際,この病理学実習も教授の都合で時間に制約があったため,私自身その時間及び他の実習時間も充実するように心がけたことで,それらが一つ一つ自分のものになってきたように思います.講義の内容で理解に苦しんだところでも,実際実習に携わることによって時間の制約の中でも,少しずつ理解が深まってきているのが分かります.実習レポートの作成時にこの点を痛感しています.
 病理学というものに私自身特に興味を引く理由として,A教授の話されたこのような話が挙げられます."いろんな要素があるけれど,究極的には解剖組織学に始まるんだ"またB教授はこんなことを話されました."病理をやる人は職人でなくてはいけない"これらのことについては,いろいろ意見もありますし私自身の性格にもよりますが,これらの言葉に共感を抱いたのが始まりです.

ひとこと

病院実習

著者: 山口司 ,   和田浩 ,   蛭田恵子 ,   北村元仕

ページ範囲:P.778 - P.779

 ■最近,病院実習について論議が交わされている.実習受け入れ病院では,多忙な日常検査業務の中での教育に負担を感じ,担当技師自身,卒後教育さえ満足に行われていないという不満,また第一線の病院では,中検の機械設備,消耗品などは日常検査業務を行うためのものであり,教育のための経済的配慮がなされていないなどのようなことで,大病院でさえはっきりと病院実習を断っている例もあると聞く.
 病院実習は極めて重要であり,生理学的検査,採血など,直接患者に接しなければ習得できない部門はもちろん,検体検査であっても患者を忘れた検査であってはならない.患者の病状を刻々と追っている主治医にとっては,すべての検査は緊急を要し,メディカルスタッフとしての臨床検査技師も,それに対応できることを要求されつつある.従って検査も患者の傍らで,少なくとも病棟検査室でということになる.

検査の昔ばなし

東大中検発足時の思い出

著者: 樫田良精

ページ範囲:P.780 - P.781

戦前の大学病院の検査
 検尿コップ十数個,検便のシャーレか小型のマッチ箱数個,検痰用シャーレ,血算用メランジュールなどが18m2ほどの薄暗い小さな検査室の一隅に並べられていた.内科外来からの検査依頼の伝票の束を見ながら,今日の検査は何時ごろに終わるかと考え込んだ.これは昭和も1けたに近い,大学病院内科のある日の検査の思い出である.このころ,臨床検査を担当する技術者といえば,梅毒血清反応をルーチンにやる人が大学病院に1人いただけで,すべての検査は医師が自らやらねばならなかった.
 入院患者の検査は原則としてその受持医が行うことになっていたが,しばしば若い医師が先輩の代行をさせられた.外来患者の検体検査の大部分は医学部卒業後半年ぐらいたったばかりの新人が治療室勤務の一環として当番制でやらされた.治療室というのは外来患者の注射,採血などを診察した医師の指示どおり行うところであった.入院患者を一人前受け持ち,教室の諸行事に追い回されながらやるのであるから,依頼された一般検査に取り組むのはどうしても夕方近くになった.従って検体の多い日には後始末をして帰るのが夜10時過ぎになった.

文豪と死

国木田 独歩

著者: 長谷川泉

ページ範囲:P.782 - P.782

 国木田独歩(1871〜1908)は,自然主義に影響を与えた作家である.麻布に竜土軒というフランス料理店があったが,そこでのつどいにちなんで竜土会という,一種の文学サロンを作ったのも独歩であった.そこに集まったのは柳田国男や,田山花袋,島崎藤村,及び岡田三郎助,和田英作らの画家であった.竜土会の発足は明治37年(1904)であった.自然主義が本格的に文壇に認められるようになったのは藤村の「破戒」が出された明治39年(1906)からである.
 独歩は最初は詩人として文学的出発をした.「抒情詩」に収められた「独歩吟」に「山林に自由存す」という詩がある.その冒頭に,独歩はうたった.

おかしな検査データ

まぼろしの陽性反応—リジン脱炭酸試験

著者: 笠原和恵 ,   森安惟一郎 ,   堀雅子

ページ範囲:P.790 - P.791

 もう10年前のことになるのかもしれない.いささか旧聞に属し恐縮ではあるが…….
 私たちは,日常検査において腸内細菌同定に用いるリジン脱炭酸試験の再現性に疑問を持った.バラツキの原因は,培地のロットがもたらすものと考え,市内各病院で当時使用していた異なったロットNOの培地紛末の提供を受けたが,反応は培地のロットと無関係であった.

7月号出題の答

著者: 池田清子

ページ範囲:P.791 - P.791

 GPTと同様にA,B,C,3社間のキットでGOTを比べると,3社ともほぼ同じ値が得られた.その原因は,表から明らかなごとく,GOTの基質であるLアスパラギン酸の濃度に3社間で差がないためであった.しかしGSCCのLアスパラギン酸濃度に関するデータ上からは,これら3社の濃度は低すぎ,最高活性を示す濃度(200m mol/l)より,約30%低く測定されていることが分かる.
 解答は文献の2),3)を見ていただければ,分かったことですが,解答のあった1例は,調整した試薬濃度の列記で反応最終濃度についての記入がありません.

あなたとわたしの検査室

ズルホサリチル酸法におけるアルカリ尿

著者: 林康之 ,   F子

ページ範囲:P.793 - P.793

 質問 尿タンパクをズルホサリチル酸法で測定する場合,尿がアルカリ性の時酢酸を加えますが,"臨床検査法提要"では尿5mlに3%酢酸1〜2滴,"臨床検査技師講座"では尿3mlに2%酢酸2〜3滴,本誌4巻7号では尿3mlに5%酢酸1〜2滴となっています.どれが適量なのでしょうか.

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略語シリーズ

著者:

ページ範囲:P.738 - P.738

LBWI low-birth-weight infant;低出生体重児.在胎期間のいかんにかかわらず生下時体重が2,500g以下の新生児をいう.未熟児と混同するな.
Lc lues congenita;ラテン語.先天梅毒.

医学用語集

著者: 山中學

ページ範囲:P.775 - P.776

341)紅斑;erytheme
 真皮上層の血管の拡張,充血で,ガラスや指で圧迫すると退色し,圧を取ると再び出現する.健康皮膚に初めて現れる発疹を原発疹と言うが,紅斑もその1つである.米粒大のものをバラ疹(roseola)と言う.

国家試験問題 解答と解説

ページ範囲:P.783 - P.787

二級試験見聞録

著者: 編集室

ページ範囲:P.788 - P.789

 長かった梅雨も明け,青空が広がり真夏の太陽がかがやく7月24,25日,今年度の二級試験が行われた.筆者は松村副試験委員長,金子実行委員長とともに25日,女子医大(血液,病理),慈恵医大(心電図,脳波),帝京大(細菌)を回り実技試験の実状を見学する機会を得た.
 まず9時半から始まっている血液の試験場へ.8人1グループで血算,耳朶血による塗抹標本作製,凝固検査(プロトロンビン時間),特殊染色鏡検の4題に取り組む.耳朶血は受験者同士が採血し合う.白衣の背中と左腕には受験番号のゼッケンが.受験者数が他科目に比べて群を抜いて多いため(血液関係の先生方にはフェミニストが多いので,女性の受験者が殺到するのだという説もあります),計算してみるとこの4題を1時間で消化することになる(大変デスネ).手がふるえて塗抹がうまくできない人(学校での実習と思ってリラックスしたら?相手は同じ仲間なのだし,少々痛くとも我慢しますヨ),ニュートンリングが思うようにできずあせる人(ただ力まかせに押してもだめなのデス),凝固検査で自分の番が回ってくるのを待ちながら不安そうに前の人の手元を見つめる人……廊下で待機する人々の間をぬって第2試験場の病理へ.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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