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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術4巻6号

1976年06月発行

雑誌目次

病気のはなし

糖尿病

著者: 内村功 ,   前沢秀憲

ページ範囲:P.406 - P.412

 近年,成人病としての糖尿病に対する関心が非常に高まっている.職場における定期検診,人間ドックの普及によって,まだ自覚症状の出るに至らない軽症患者を発見できる機会が増えている.しかし糖尿病そのものについての認識は低く,糖尿病とは尿に糖が出る病気であり,尿に糖が出なくなればよいと考えている医療従事者も多い.実際に医師の中には尿糖陽性というだけで糖尿病と診断し,無用に経口糖尿病薬を投与し,低血糖を惹起している場合がある.これは低血糖が新聞,週刊紙の紙面をにぎわした一つの原因にもなっていると考えられる.しかし,今日においても糖尿病を正確に定義することは困難であり,糖尿病に対する考え方は少しずつ変化している状態である.以下に現時点での糖尿病に対する考え方をまとめてみたので,参考になれば幸いである.
 激しい口渇と多尿があり,やせ衰えてついには死に至る病気は,すでに紀元前1500年ごろのパピルスに書かれていた.紀元2世紀にはAretaeusによって,今日いうような症状がまとめられ"diabetes"と名づけられた.その後,尿に糖が出ていることが証明され,それが高血糖によることが明らかにされた."diabetes mellitus"を日本語訳する際"糖尿病"としたため,尿に糖の出る病気として広く理解され,最近まで診断・治療の面で糖代謝異常のみに関心が集まりすぎるきらいがある.MeringとMinkowski(1889年)により,膵を摘出することにより糖尿病状態が作られることが分かり,BantingとBestのインスリンの発見(1921年)及びその優秀な治療効果が示されて以来,今日では糖尿病は"インスリン作用の絶対的または相対的不足に基づく代謝異常状態"と考えられるに至っている.

技術講座 生化学

トリグリセライド

著者: 久城英人 ,   細田昌子

ページ範囲:P.429 - P.435

 中性脂肪はグリセリンに脂肪酸が3分子(トリグリセライド),2分子(ジグリセライド),1分子(モノグリセライド)結合しているものの総称である.血清中ではその90〜95%がトリグリセライド(以下,TGと略す〉であるので,中性脂肪とTGは同義語として使われている.
 血清中のTGはリポタンパクとしてカイロミクロン及び超低比重リポタンパク(Pre-βリポタンパク)の形で存在する.前者は食餌に由来する外因性TG,後者は主として肝臓で合成される内因性TGである.従って,血清TGの測定に際しては食餌に主来する外因性TGの影響を考慮して,空腹時の血清を試料に用いることが大前提である.

血清

赤血球凝集反応・2—間接法

著者: 瀬戸幸子

ページ範囲:P.436 - P.438

 間接法としては赤血球に抗原物質を吸着させ,これと対応する抗体と反応させて凝集を起こさせる場合と,逆に抗体を赤血球に吸着させ,これを対応する抗原に反応させて同じく凝集反応を起こさせる場合とがある.これらを応用したものはいろいろあるが,日常の検査に使われているものは,間接クームス試験,Rose反応,Middlebrook-Dubos反応やタンニン酸処理赤血球凝集反応などである.

細菌

百日咳菌の分離と同定

著者: 山田光男

ページ範囲:P.439 - P.442

 呼吸器感染症の中で小児の病気として恐れられた百日咳(pertussis)は,1906年初めてフランス人のBordet & GengouによってBacillas pertussisの培養諸性状が詳細に報告され,次いで1933年にMacDonald & MacDonaldが人体感染実験に成功し病原的意義が確立した.
 最新のBergey's Manual第8版のBordetella(ボルデテラ*)属は,Bordetella pertussis(百日咳菌),B. parapertussis(パラ百日咳菌),B. bronchiseptica(気管支敗血症菌)に分類されている.中でもB. pertussisは,他のグラム陰性杆菌の生物学的性状とははなはだ異なる.その特徴はこの菌の特異性を示すが,十分な生化学的試験法はいまだ確立されていないため,今後の研究を待たねばならないが,ここでは今までに知りえた分離鑑別性状と同定について述べる.

一般

尿検査・1—外観,反応(pH),比重

著者: 佐藤春枝

ページ範囲:P.443 - P.444

外観
 尿の一般検査の第一段階として大切なものに外観がある.外観とは尿そのものの色調,清濁,臭気などを観察するもので,物理的,化学的検査をする前に検するものである.この段階で異常を見つけることもまた,医師の診断上非常に役立つことになる.昔の人は自分の尿の色が変わったことにより体内の異常を知ったと言われているが,主治医が全部の患者の尿を観ていられない現在,検査担当者が十分注意をはらうべきである.正常健康人尿は淡黄色から黄褐色で,清澄,芳香性の臭いがある.1日尿量は健康成人で1,000〜1,500mlである.

測定法の基礎理論 なぜこうなるの?

血液の凝固と線溶

著者: 藤巻道男 ,   加藤正俊

ページ範囲:P.413 - P.416

 血液は生体内においては循環し,その流動性は保っているが,血管損傷あるいは採血などによっていったん血管外に出ると生理的な動的平衡がくずれて,血液は一定時間内に凝固して流動性を失う.しかし凝固過程に異常が存在する場合には凝固が起こらなかったり,凝固に要する時間が遅延して出血性素因の一因となる.また血管の病変などによって血管内に血栓が形成されると,凝固因子は消費されて低凝固性となり,また生体の防衛反応として血栓を溶解しようとするフィブリン溶解(二次線溶)や,何らかの機転によってフィブリノゲン溶解(一次線溶)などの線溶が亢進したりすると,生理約な動的平衡がくずれて出血傾向が誘発される.

抗生物質の作用メカニズム

著者: 田中信男

ページ範囲:P.417 - P.420

 βラクタム系,アミノグリコンド系,マクロライド系,テトラサイクリン系,クロマイ系などの抗生物質やスルフォンアミド剤,ナリジキシ酸,PAS,INHなどの合成抗菌剤は病原菌の発育を阻止するが,宿主であるヒトの細胞に与える障害は少ないので,感染症の化学療法に用いられている.細菌でもヒトの細胞でも,その生命を維持するための基本的機構は同じでも,両者の間には微妙な相違があり,その相違に作用し,選択的な作用を示す.これを選択毒性と称し,化学療法の基礎をなしている.選択毒性は薬剤が細菌内において最初に作用する場,すなわち一次作用点が細菌と動物細胞とで異なることに由来ずる場合が多い,
 細菌でも動物でも,その基本的機溝は同じである.例えば,DNAのヌクレオチド配列によって遺伝情報は決定され,DNAの二重らせん構造は半保存的に複製される.DNAの遺伝情報の解読機構は,RNAポリメラーゼによってDNAを鋳型として,これと相補的なヌクレオチド配列を持つmRNAが合成され,このmRNAを鋳型としてリボゾームでタンパクが合成される.この基本的機構(DNA→RNA→タンパク)はいろいろな生物に共通だが,その細部機構は細菌と動物とでは異なる.この相違点に抗菌剤は作用し,選択毒性を示す.また,細菌に特有な構造である細胞壁ペプチドグリカン合成系に作用し,優れた選択毒性を示すβラクタム系抗生物質などもある(図1).

心電図記録の軌跡・3—電極について

著者: 本橋均

ページ範囲:P.421 - P.424

 いま我々は,無意識的に心電計付属の電極にペーストを塗り,これを被検者の手首,足首あるいは胸部に接着して,心電図を記録する.そして立派な記録を得ている.電極接着の生理学的理論については,恐らくだれも考えてみはしないであろう.しかし今日の状態に至るまでには,およそ100年あるいはそれ以上の長い年間がかかり,しかもその一部はいまだによく解明されていないと知ったら,多くの人々は記録波形について,その"真実性"について強い不安を持つに違いない.
 Du Bois-ReymondがUntersuchung der thierischen Elektrizitatの第2巻第2部を著したのは1884年であるが,その末尾120ページをさいて,分極性及び不分極電極について詳細に論じている.今日生理学で生体電気の研究を行う場合には,彼の名を冠した不分極電極及びその改良型を用いるところから分かるとおり,この部分の研究は古くて新しい多くの課題をもっている.

読んでみませんか英文論文

急性感染症及び敗血症における血液学的所見

著者: 河合式子 ,   河合忠 ,  

ページ範囲:P.425 - P.426

 本稿は,末梢血液塗抹標本で変性形態像を臨床検査技師が観察して診断しえた敗血症12例についての報告である.これによって,ある活発な緊急室において,細菌学的に確認する前に微生物を発見することができた.加えて髄膜炎菌,肺炎球菌,大腸菌及びウェルシュ菌を同定しえた4症例の報告をしている.

知っておきたい検査機器

顕微鏡

著者: 塩育

ページ範囲:P.427 - P.428

 顕微鏡は16世紀の終わりに発明されて以来今日まで,生物学,医学などの研究はもとより,臨床検査にとっても不可欠の機器である.その使用目的に応じて,位相差,暗視野,螢光顕微鏡などが使用されているが,今回は基礎となる明視野透過検鏡に絞って,顕微鏡の原理と構造,使用上の注意点,保守などについて述べる.

最近の検査技術

ガスクロマトグラフィー

著者: 住野公昭

ページ範囲:P.445 - P.451

 どこの臨床検査室にもある記録計の緑インクを濾紙の上に1滴落とし,その上から水を数滴落としてみよう.数分後に同心円状に広がったインクをみると見事に青,黄,緑の色分けができているのが観察できる.この濾紙クロマトグラフィーの発見で,Martinはノーベル賞を受賞した.
 1952年,彼とJamesが分配ガスクロマトグラフィーを発表し,以後の発展は目覚ましいものがある.現在濾紙クロマト,ガスクロマトのほかに,イオン交換クロマト,薄層クロマト,ゲル濾過クロマト,種々の吸着クロマトが物質の分離,精製,構造の研究なで多方面に利用されている.

医療・保健・検査

保健所

著者: 青山好作 ,   冨川栄一

ページ範囲:P.453 - P.456

 地域住民の環境保全と健康生活への要望は強く,この健康保全は医療機関を中心とした医療サービスと,保健所を中心とした保健サービスがその根幹をなすといえる.保健所は地域における保健衛生の総合的中心機関である.公衆衛生行政の大部分は保健所を通して行われており,この公衆衛生と臨床医学は,住民の健康を守るという理念では全く共通の目標を持っている.最近の社会環境,人口及び疾病構造などの変化により,両者は機能を分担しながらも有機的連係により総合的に推進されることが一層望まれる.
 保健所サービスは科学的サービスとも呼ばれ,多くの場合,検査(臨床・衛生検査)を基盤に地域即応性,自主性,総合性を目標に推進されている.

二級試験合格のコツ

臨床化学

著者: 保崎清人

ページ範囲:P.457 - P.460

 臨床化学の二級臨床病理技術士資格言忍定試験は筆記試験と実地試験とからなり,筆記試験の合格者のみが実地試験を受けられる制度になっている.そこでまず合格するにはよく整理された基礎的及び実際的な知識を身につけることが肝要である.次に実地試験では与えられた課題を規定時間内に手際よく完了させることが必要である.この間に測容技術,計器の取り扱い方及び実験結果などを通じ,技術レベルが判定される.また種々の関連事項や正常値に関する知識などについても質問される.これらいずれの面でも大きな欠点がなく,総合力で合格レベルに達している者が合格とされる.そこでいくら技術が良くても測定原理などを理解していない人,知識が豊富でも経験が欠如している人,また一見手慣れていても手技に悪い癖のある人などは決して合格できない.要は日ごろから正しい知識とそれに基づいた正確な手技を身につけておくことが大切である.
 以下実地試験で50年度に見られた極めて基本的な欠点につき解説する.

実習日誌

病院実習で学んだこと

著者: 塚本隆

ページ範囲:P.463 - P.463

 私たちの病院実習は,昨年の9月11日から11月29日までのわずか2か月半の期間であった.しかし,我が杏林短大としては,開学以来初めての学外実習である.私は病院実習を行うに当たって失敗を恐れないことにしよう,学生らしく謙虚な気持ちでぶつかっていこうという一つの心構えを立てた.こうして不安だらけの病院実習が始まったのである,期間が短いために全部の検査室を回れなかったのは,今だに残念でならない.しかし,この短い期間ではあったが,学校では味わうことのできない事柄について経験し,考えさせられたことは大きな成果であった.
 まず病院実習で感じたことは,検査室の空気の"きびしさ"であった.これは扱うことの一つ一つが,実際の患者の生死に直接ひびいてくるからなのであろう.今までの学内における実習では,失敗しても何回もやり直しができたし,また検査の原理や試薬などを覚えることに精一杯で,患者のことまで考えることはほとんどなかったというのが実状である.そのために病院のそういった雰囲気に慣れるまでは,身も心も疲れ切ってしまって,重い足を引きずるようにして帰途につく毎日であった.それぞれの検査室で学んだことを述べてみたいと思う.

ひとこと

時間外勤務

著者: 屋形稔 ,   稲生富三 ,   芹田馨 ,   中本潤子

ページ範囲:P.464 - P.465

 検査室で時間外勤務が必要になるのは,主として臨床科で時間外に救急の診断や処置が必要となって,緊急検査が要求される場合である.時間内の検査が過剰で時間外にわたるものも含まれるが,この場合は検査室の自動化やデータ処理の機械化など運営の合理化を図ることで,時間内勤務またはこれに準じた時間で検体を処理し終わることもできる.今回はこれの通じない時間外の緊急検査のたあの勤務に限って問題点を探ってみたい.
 我が国の167の国公私立病院における緊急検査体制を集約(1969年)したところでは,実施していても大部分が本務の延長という形で超勤する程度で,宿直はわずか8,自宅待機(呼び出し)の形が109である.すなわち欧米ではほぼ定着しつつある検査技師の日当直が,我が国ではほとんど行われていない実情である.ただ一般病院は大学病院よりも実施の傾向が高く,その必要性も多いことが示されている.大学病院対象の調査(河野,1963年)では,51施設中完全実施が7校のみであるが,その57%は必要であることを認めながら実施不能としており,壁の厚さがうかがわれる.また体制を実施できない理由としては,人員不足62.5,法規上の問題12.5,設備不備20,技師の意識5%などとなっている.

検査の昔ばなし

その"こころ"は変わらず

著者: 操坦道

ページ範囲:P.466 - P.468

 私は大正7年(1918)の暮に九大医学部を卒えて,すぐに生理学教室の石原誠教授のもとで助手として鯉,鮒,金魚などの遺伝について,お互いのかけ合わせや血清反応で追及することに没頭したが,大正15年の夏に第一内科の金子廉次郎教授のもとにお世話になった.約8年間の空白の後に臨床に移ったので,学生時代に教わった診断学の基礎さえもすっかり忘れ去っており,クレンペレルのコンペンディウムでやり直しにかかり,7〜8歳も若い方たちに教えを請いながらヨチヨチ歩きを始めたのである.
 まず糞尿の検査室に入りびたりで,初歩の化学的検査,顕微鏡的検査に熱中した.

あなたとわたしの検査室

中性脂肪の標準液

著者: 松宮和人 ,   T子

ページ範囲:P.475 - P.475

 質問 私の勤めている検査室ではアセチルァセトン法の混合溶媒抽出法(ノナンとイソプロパノール)を行っています.それで市販のトリオレイン標準液を用いずに自家製の標準液を作製したところ,トリステアリン,トリパルミチンのいずれもが一度は抽出液に溶解しても,翌日になると析出してしまい困っています.
 原因として溶媒に対する溶質の量が多過ぎたためか(200mg/dl),あるいは室温の低下による温度差のためなのかなど考えてみましたが,例えば後者の原因ならば温度に関係なく安定な標準液はどうしたら作れるのでしょうか.トリパルミチン,トリステアリンを用いて安定な標準液を作る方法をお教えください.

国内文献紹介

白血球の血液型

著者: 𠮷野二男

ページ範囲:P.468 - P.468

 人間の血液型にはA,B,O,AB型があるのはよく知られているとおりであるが,この型やRhなどが合ったものを輸血した場合でも,しばしば熱を出したり,寒けを訴えたりすることがある.
 ABO式の血液型などは,赤血球の型を表しているものであり,これが合っていても白血球,ことにリンパ球にも型があり,これが合わないと副作用を生ずるということが分かってきた.ヒト白血球抗原(Human Leucocyte Antigen)と言い,HLAと略す.その基本型と組み合わせなどから,検査方法,研究の発展などを解説している.

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略語シリーズ

著者:

ページ範囲:P.412 - P.412

ICU intensive care unit;インテンシブケアユニット,集中濃厚治療部.手術後とか意識障害,呼吸障害,循環障害などの重症者を,1か所に集めて能率よく集中的に監視し治療する部門.

医学用語集

著者: 山中學

ページ範囲:P.461 - P.462

261)鶏眼→83)うおのめ

国家試験問題 解答と解説

ページ範囲:P.469 - P.473

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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