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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術40巻10号

2012年09月発行

雑誌目次

増刊号 この検査データを読めますか?―検査値から病態を探る

著者: 高木康

ページ範囲:P.869 - P.869

 R-CPC(reverse clinico-pathological conference)が河合忠博士(元自治医科大学教授,元臨床病理学会会長)によりわが国に導入されたのは1970年代です.臨床検査データからさかのぼって病態を判読するこの手法は瞬く間に臨床検査医学(当時は臨床病理学)の卒前教育に取り入れられ,極めて有効な教育技法として全国に広がり,現在では多くの医学部ばかりでなく,臨床検査技師教育にも利用されています.R-CPCでは個々の検査データのもつ意味を解釈して,多くの検査データを総合的に判断して最終的な病態を推測しますが,多くは1回の検査データから病態を判読することが行われています.しかし,検査データは病態・病期により刻々と変動するため,症例での検査データの変動・推移は検査データを解釈するうえで極めて重要になります.

 本特集号は,本誌『検査と技術』通常号の「疾患と検査値の推移」欄にこれまで掲載された論文が主な土台となっており,これを〈症例の提示〉〈初診時の検査データ〉〈病態の解説〉〈臨床検査データの変動〉の順で改変したものです.

Ⅰ 肝・胆・膵疾患

1 AST,ALTおよび総ビリルビンの異常高値をきたした32歳の男性《急性肝炎》

著者: 高木康

ページ範囲:P.872 - P.877

Ⅰ.症例

 30歳代の男性.全身倦怠感,褐色尿および黄疸を主訴に来院した.

 現病歴:5日前から全身倦怠感が出現し,尿の色調が濃くなり,家人から目が黄色いことを指摘された.腹痛はない.

2 職場健診でALT高値を指摘された42歳の男性《C型慢性肝炎》

著者: 伊藤敬義 ,   宮下みゆき

ページ範囲:P.878 - P.883

Ⅰ.症例

 42歳の男性.ある会社の嘱託産業医から定期健康診断で軽度の肝障害を指摘され,紹介された.15年前より現在の職場に勤務している.過去にも肝障害を指摘されたことがあり,脂肪肝として説明されていた.

 家族歴に特記すべき事項なし.飲酒歴はビール350mL,毎日.喫煙歴なし.

3 アンモニアの異常高値と直接ビリルビン/総ビリルビン比の著明な低下をきたした56歳の男性《劇症肝炎》

著者: 井上和明 ,   五味邦代 ,   与芝真彰

ページ範囲:P.884 - P.890

Ⅰ.症例

 56歳の男性.熱発と全身倦怠感を主訴に近医を受診したところ,風邪との診断で解熱剤の処方を受けた.その2日後に全身倦怠が増強し,さらに妻から目が黄色いことを指摘され,地元の基幹病院を受診した.血液検査の結果,AST2,045U/L,ALT1,895U/Lと著明な高値とアンモニアが635μg/dLと著明な高値であったため,劇症化の危険が高いと判断して当院へ転院となった.

 入院時現症:意識状態は一見清明であるが,number connection test80秒,身長170cm,体重69kg,体温37.4℃,血圧128/76mmHg,脈拍78/分,眼瞼結膜に貧血なし.眼球結膜に黄染あり.胸部所見に異常なし.腹部所見では肝臓を右季肋下2横指触知しやや硬.その他異常なし.四肢に浮腫なし.

4 血小板数低下,血液凝固異常および高γグロブリン血症をきたした50歳代の男性《肝硬変》

著者: 山﨑正晴 ,   福井博

ページ範囲:P.891 - P.897

Ⅰ.症例

 50歳代の男性.吐血を主訴に来院した.

 現病歴:飲酒歴が日本酒平均3合/日,30年以上の常習飲酒家であったが3か月前に少量吐血し,それ以後禁酒している.2週間前にも少量吐血した.腹痛はない.

5 AST,ALTおよびAFPの異常高値を認めた64歳の男性《肝細胞癌》

著者: 古瀬純司

ページ範囲:P.898 - P.901

Ⅰ.症例

 64歳の男性.主訴は倦怠感.

 現病歴:1か月前より時に倦怠感を認め,検査を希望して来院した.

6 検診で肝機能異常を指摘された52歳の男性《非アルコール性脂肪性肝障害》

著者: 飯島尋子

ページ範囲:P.902 - P.906

Ⅰ.症例

 52歳の男性.最近全身倦怠感があるが仕事のストレスと判断していた.会社検診で肝機能異常を指摘され受診した.

 既往歴:なし

7 抗結核薬を内服開始後AST,ALTの異常高値を呈した59歳の女性《薬剤性肝障害》

著者: 富澤稔

ページ範囲:P.907 - P.912

Ⅰ.症例

 59歳の女性.主訴はなし.

 現病歴:関節リウマチにて通院中.以前よりメチルプレドニゾロンを内服中であったが,治療効果を高める目的でアダリムマブの投与を開始した.結核の発症を予防するためにイソニアジドの内服を開始した.自覚症状はなかったが,イソニアジド内服開始107日後の定期受診の際に肝機能障害を認め,精査目的で入院となった.飲酒はない.

8 右季肋部痛およびCRP高値をきたした74歳の男性《胆石症・急性胆囊炎》

著者: 溝岡雅文 ,   田妻進

ページ範囲:P.913 - P.918

Ⅰ.症例

 70歳代の男性.右季肋部痛と嘔吐を訴えて受診した.

 現病歴:4日前に腹痛と咽頭痛が出現し,お腹は張る程度だった.3日前に咽頭痛は軽快したが,右季肋部の痛みは持続し,発熱や嘔吐が出現するようになり,食事も摂れなくなったので受診した.

9 血中アミラーゼの異常高値を示した50歳代の女性《急性膵炎》

著者: 廣田衛久 ,   下瀬川徹

ページ範囲:P.919 - P.925

Ⅰ.症例

 50歳代の女性.重症急性膵炎の診断で当科へ搬送された.

 現病歴:当院入院前日(土曜日)昼に突然上腹部痛を自覚.次第に増強し,嘔気嘔吐も認めたため同日午後に前医を受診.急性膵炎の診断で夕方緊急入院となった.当初は軽症急性膵炎であったが,翌日(日曜日)に重症化し,当院へ搬送された.

10 出生後より徐々に間接ビリルビン優位に総ビリルビンが上昇した新生児《新生児生理的黄疸》

著者: 佐々木寛

ページ範囲:P.926 - P.928

Ⅰ.症例

 日齢3の新生児.出生後より徐々に黄疸が出現した.

 現病歴:在胎39週3日,出生体重3,250g,アプガースコア8点(1分値)9点(5分値)で自然経腟分娩で出生した.妊娠経過中は特に異常は指摘されていなかった.

Ⅱ 循環器疾患

1 CK,CK-MBおよびトロポニンT上昇がみられた76歳の女性《急性心筋梗塞》

著者: 説田浩一 ,   清野精彦

ページ範囲:P.930 - P.934

Ⅰ.症例

 76歳の女性.左胸痛を主訴として来院した.

 現病歴:入院当日,朝9時頃左胸痛が突然出現,30分ほど様子をみていたが軽快せず,当院救急外来受診.受診時,心電図上V5でSTのやや低下(upsloaping type)がみられたものの,特に急性心筋梗塞(acute myocardial infarction,AMI)を疑わせる所見はなく,CKなど心筋マーカーの上昇もみられず,TnTおよびH-FABP迅速判定試験も陰性であった.しかし,胸痛が持続し,白血球数が11,700/μLと増加していることもあり,経過観察で入院となった.→①受診時検査データ

2 リウマチ因子陽性,血清鉄減少と炎症所見を呈した38歳の女性《感染性心内膜炎》

著者: 菊池賢

ページ範囲:P.935 - P.939

Ⅰ.症例

 38歳の女性.1か月間持続する最高40℃の発熱,労作時呼吸困難,全身倦怠,筋肉痛,関節痛,気道症状(咳,痰)を訴え,来院した.

 現病歴:生下時から心雑音を指摘され,幼少時より労作時呼吸困難を自覚しており,運動は控えていた.33歳頃から風邪を引きやすく,かつ治りにくくなり,近医で心エコー検査を受け,心室中隔欠損(ventricular septal defect,VSD)を指摘されたが,放置していた.1か月前より40℃の発熱,全身倦怠,筋肉痛,関節痛,気道症状を訴えるようになり,近医へ入院した.ここで,アンピシリンの経口投与を受け,解熱したが,労作時呼吸困難,気道症状などが増悪したため,前医より紹介された.

Ⅲ 内分泌代謝疾患

1 FT3,FT4高値を認めた28歳の妊婦《バセドウ病》

著者: 吉村弘

ページ範囲:P.942 - P.947

Ⅰ.症例

 28歳の女性.妊娠9週で動悸,倦怠感を主訴として来院.

 現病歴:22歳時にバセドウ(Basedow)病と診断され,チアマゾール(メルカゾール®)にて2年間加療されて寛解に入った.妊娠8週目に産科受診.頻脈と小さな甲状腺腫を認めたためにバセドウ病の再発を疑われ,検査を勧められて当院受診.つわりは軽い.

2 甲状腺ホルモンおよびCRP高値をきたした41歳の女性《亜急性甲状腺炎》

著者: 高野徹

ページ範囲:P.948 - P.954

Ⅰ.症例

 41歳の女性.持続するのどの痛みと熱発,動悸を主訴に来院した.

 現病歴:のどの痛み,37℃程度の微熱,全身倦怠感が出現したため近医を受診した.風邪と診断され,風邪薬を処方されて内服したが,2週間たっても一向に症状が経過せず,のどの痛みが強くなり,熱が一時38℃まで上がり,動悸や手の震えを自覚するようになったため来院した.

3 ブロッキング抗体TSBAbによる甲状腺機能低下症から刺激抗体TSAbによるバセドウ病甲状腺機能亢進症になった44歳の女性《橋本病》

著者: 髙須信行

ページ範囲:P.955 - P.962

Ⅰ.症例

 44歳の女性.全身倦怠感,皮膚乾燥,声が嗄れる,徐脈を主訴に来院した.

 現病歴:1年前から全身倦怠感.2~3か月前から皮膚乾燥,脱毛,記憶力低下,集中力低下,脈が遅いことがあり,「声が嗄れている」,「話がゆっくりしている」と指摘された.体重増加があり,寒さに弱くなった.

4 高カルシウム血症を指摘された52歳の女性骨粗鬆症患者《原発性副甲状腺機能亢進症》

著者: 竹内靖博

ページ範囲:P.963 - P.968

Ⅰ.症例

1.【症例1】 副甲状腺手術を受けた典型例

 52歳の女性.骨粗鬆症と診断されているが,薬物治療は受けていない.人間ドックで高カルシウム(Ca)血症を指摘.自覚症状としては夜間の頻尿を認めていた.尿路結石なし.【症例1】 受診時検査データに示したような検査所見であり,原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism,PHPT)と診断された.血清Ca>11.1mg/dLかつ骨粗鬆症を認めるため手術適応ありと判断された.超音波検査と99mTc-MIBI副甲状腺シンチグラフィ検査から左上副甲状腺に腫大を認めたため同部位の副甲状腺腺腫摘除術を行い,PHPTの治癒を得た.関連検査値の推移を表1に示す.

 PTHの血中半減期は10分未満であり,術直後には正常化もしくは基準値以下に低下する.施設によっては術中PTH迅速測定を行い,副甲状腺摘除前の1/2以下に低下すれば責任病巣が切除されたと判定している.血清Ca値もPTHの低下に伴って速やかに低下し,手術翌朝には正Caもしくは低Ca血症となる.術前の罹病期間が長期であったり,血中PTH濃度や骨代謝マーカーが著しく高値であった場合には,術後の低Ca血症が遷延することがある.このような例ではCa製剤および活性型ビタミンD3の投与を積極的に行い,血清Ca値を正常に維持するよう努める.術後に低Ca血症が遷延する場合には飢餓骨(hungry bone)症候群と呼ばれる病態が疑われる.この病態は,術前の骨病変が著しい症例において,術後骨病変の改善に時間を要するために生じると考えられている.

5 コルチゾール高値を示した2症例《クッシング症候群》

著者: 小田桐恵美

ページ範囲:P.969 - P.974

Ⅰ.症例

1.【症例1】 58歳の女性

 生来健康であった.2002年,健康診断で血圧測定したところ,高血圧220/110mmHgを指摘され,降圧治療を開始されたが,その後の詳細は不明であった.2005年,転居に伴い近医受診したところ,高血圧(170/90mmHg)に加え糖尿病(HbA1c10.9%),高脂血症を指摘され,内服治療を行ったがコントロールは不良であった.2003年頃から出現していた筋力低下,背部痛が徐々に悪化したため,2005年8月,他院を受診したところ満月様顔貌,中心性肥満,水牛様脂肪沈着を指摘された.

6 高血圧・低カリウム血症を呈した症例《原発性アルドステロン症》

著者: 藤田恵

ページ範囲:P.975 - P.980

Ⅰ.症例

 30歳の女性.

 主訴:下腿浮腫,易疲労感.

 現病歴:元来低血圧であったが,数か月前から上記訴えが出現したため,近医を受診したところ血圧140/100mmHgと上昇していた.血清カリウム(K)低値(2.5mEq/L),血漿アルドステロン濃度(PAC)高値(445pg/mL),血漿レニン活性(PRA)低値(0.15ng/mL/時),CT上,右副腎に16mm大の腺種を指摘された.原発性アルドステロン症が疑われ,確定診断および局在診断を目的に入院した.

7 ACTHの異常高値を示した68歳の女性《アジソン病》

著者: 合田公志

ページ範囲:P.981 - P.987

Ⅰ.症例

 68歳の女性.主訴は全身皮膚の色素沈着.

 既往歴:19歳時,脊椎カリエスに羅患.

8 罹病期間12年で,血糖コントロールが悪化した糖尿病の1例《糖尿病》

著者: 清野弘明

ページ範囲:P.988 - P.993

Ⅰ.症例

 60歳の男性.血糖コントロール目的に初診した.

 既往歴:特にない.

9 妊娠時の血糖コントロールが対照的であった2例《妊娠と糖尿病》

著者: 安日一郎

ページ範囲:P.994 - P.1001

Ⅰ.症例

1.症例1

 28歳.1回経妊,1回経産.身長167cm,非妊時(妊娠前)体重67kg,非妊時(妊娠前)BMI(body mass index)24.7.

 既往妊娠歴:初回の妊娠は妊娠性糖尿病(gestational diabetes mellitus,GDM)の診断で26週からインスリン療法を施行し,妊娠40週で正常経腟分娩,児の体重は2,704gであった.産褥期もインスリン治療の継続が必要で,2型糖尿病と診断されて内科治療を継続していた.

10 痛風関節炎の沈静化後,血清尿酸値が上昇した34歳の男性《痛風関節炎・高尿酸血症》

著者: 浦野和子

ページ範囲:P.1002 - P.1008

Ⅰ.症例

 34歳の男性.22歳の就職時(当時体重72kg)の健診で血清尿酸値8.2mg/dLを指摘されるも放置していた.最近,職場は多忙であり,帰宅は22時過ぎになることが多く,帰宅後,夕食時にビール500mLを飲酒する.先週末,ゴルフの後宴席あり.翌日から右第1足趾MTP(metatarsophalangeal,中足趾節)関節の疼痛を自覚して歩行困難となり,さらに昨日から左膝関節の疼痛も併発したため来院した.

 現症:身長173cm,体重86kg,BMI(body mass index)28.7,血圧152/92mmHg,耳介に結節は認めない.胸・腹部の診察で異常を認めない.上肢の関節に異常所見は認めないが,右第1足趾MTP関節および左膝関節は発赤・熱感を伴う圧痛,腫脹を認める.当日は採血および採尿検査を施行し,急性関節炎に対して非ステロイド抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs, NSAIDs)を処方した.関節炎が沈静化しNSAIDs内服が不要となった時点で,蓄尿3日前から高プリン食・飲酒を控えるよう指示,自宅での24時間蓄尿,翌日蓄尿を持参し再診,採血を施行した.

11 LDLコレステロールの異常高値をきたした43歳の男性《脂質異常症》

著者: 山下静也

ページ範囲:P.1009 - P.1016

Ⅰ.症例

 症例は43歳男性で,30歳頃から健診で高コレステロール血症を指摘されていたが,放置していた.3か月程前から階段の昇降時や早足での歩行時に前胸部の締めつけられるような感じが出現し,安静にすると改善していた.しかし,1週間前から軽度の労作でも同様の症状が出現し,左肩から左上腕への痺れ感も出てきたため,当院循環器内科を受診した.

 既往歴は特になく,家族歴として父親は52歳で突然死している.6人兄弟のうち,妹が高LDLコレステロール(LDL-C)血症で内服加療中.

Ⅳ 腎・泌尿器疾患

1 血清クレアチニン値の上昇,尿異常,低補体血症を示した12歳男児《急性糸球体腎炎》

著者: 小松康宏

ページ範囲:P.1018 - P.1022

Ⅰ.症例

 12歳の小学生男児.全身倦怠感,顔面浮腫,褐色尿を主訴に来院した.

 現病歴:8日前に発熱と咽頭痛があり近医受診.抗菌薬を処方された.当日朝から褐色尿,倦怠感が強く,眼瞼周囲の浮腫もみられたため当院受診となった.

2 多量の蛋白尿と低アルブミン血症,高フィブリノゲン血症,低AT-Ⅲ血症,脂質異常症を認めた15歳の男性《ネフローゼ症候群》

著者: 藤本圭司 ,   横山仁

ページ範囲:P.1023 - P.1030

Ⅰ.症例

 症例:15歳,男性.

 主訴:顔面,両下肢浮腫.

3 血清クレアチニンと血清ナトリウムの異常高値を示した88歳の女性《急性腎不全》

著者: 水入苑生

ページ範囲:P.1031 - P.1036

Ⅰ.症例

 症例は88歳の女性.

 主訴:意識障害,乏尿,発熱.

4 尿蛋白陽性,腎機能障害をきたした51歳の男性《糖尿病性腎症》

著者: 村上太一 ,   土井俊夫

ページ範囲:P.1037 - P.1043

Ⅰ.症例

 51歳の男性.半年前より持続性する蛋白尿,血清クレアチニン上昇のため近医より紹介となった.

 現病歴:41歳時に糖尿病と診断され,49歳で糖尿病性網膜症に対し光凝固術を施行されている.特記自覚症状はなし.

5 ALPおよびPSAの異常高値をきたした64歳の男性《進行性前立腺癌》

著者: 鈴木和浩

ページ範囲:P.1044 - P.1050

Ⅰ.症例

 64歳の男性.1か月前から出現した左股関節部から左大腿部の痛みのため,近隣の整形外科を受診.ALPおよびPSAが高値であったため,当科を紹介受診した.軽度の排尿障害と下肢のだるさを半年前から自覚していた.

 現症:身長168cm,体重62kg,体温36.3℃, 血圧121/78mmHg,脈拍75/分.胸・腹部に異常所見なく,表在性リンパ節を触れず.四肢に浮腫は認めなかった.直腸診で前立腺は腫大し石様硬に触れた.

Ⅴ アレルギー・膠原病疾患

1 多関節痛にて発症し,炎症反応高値を示した70歳の女性《関節リウマチ》

著者: 高木賢治

ページ範囲:P.1052 - P.1057

Ⅰ.症例

 70歳の女性.

 主訴:多関節痛.

2 血球減少,低アルブミン血症,および尿所見異常を認めた22歳の女性《全身性エリテマトーデス》

著者: 池田啓

ページ範囲:P.1058 - P.1064

Ⅰ.症例

 22歳の女性.10代の頃から直射日光に当たると皮膚の著明な発赤を認め,火傷のような水ぶくれができることがあった.半年前より倦怠感を自覚していたが,1か月前から顔面の紅斑が出現,毛髪が抜けやすくなったのを自覚し,37℃前後の微熱が出るようになった.2週間前から体重が増加傾向となり,下腿の浮腫が出現,増悪傾向となった.近医を受診したところ尿蛋白3+を認め,当院に紹介され受診,精査・加療目的で入院となった.

 血圧122/60mmHg,酸素飽和度99%,体温37.2℃,身長156.2cm,体重52kg(4kgの体重増加).身体所見上,顔面の蝶形紅斑,口腔潰瘍(無痛性)および下腿の浮腫を認めた.

3 発熱に伴う四肢体幹の紅斑を生じ,フェリチンが異常高値を示した25歳の女性《成人スティル病》

著者: 山口正雄 ,   川畑仁人

ページ範囲:P.1065 - P.1070

Ⅰ.症例

 25歳の女性.39~40℃の発熱,四肢体幹の紅斑,咽頭痛,関節痛を主訴に来院した.

 現病歴:以前から発熱と関節痛がときどき生じて当院に通院していた.入院の2週間前から,特に誘因なく咽頭痛と39~40℃の発熱が出現した.発熱は1日のなかでも変化があり,日中に高熱が出るものの夜には自然と解熱し,体力の消耗はそれほど強くなかった.発熱時には多関節痛だけでなく,今までにはみられなかった四肢体幹の紅斑を伴うようになった.感染症を疑われて抗菌薬投与を受けたが症状の改善はみられず,成人スティル(Still)病が疑われ,入院の1週間前からプレドニゾロン(prednisolone,PSL)30mgを開始された.しかし,発熱は軽減せず,来院当日に当科入院となった.

4 若年性関節リウマチの経過中,蛋白尿,下痢を呈した28歳の女性《全身性アミロイドーシス》

著者: 山田俊幸 ,   奥田恭章

ページ範囲:P.1071 - P.1075

Ⅰ.症例1)

 28歳の女性.14歳で若年性関節リウマチ(juvenile rheumatoid arthritis,JRA)を発症.以後,増悪,沈静化を繰り返している.最近,下痢が出現し,対症療法で改善しないため精査目的で入院した.

 現症:身長155cm,体重47kg,体温36.0℃, 血圧110/72mmHg,脈拍72/分,眼瞼結膜やや貧血様.胸・腹部診察上異常を認めない.四肢に浮腫を認めない.軽度の手指関節痛はあるものの,関節腫脹はこの時点では明確ではない.今回,下痢が出現したため上部消化管内視鏡生検を施行され,AAアミロイド沈着が認められた.アミロイドーシスに関連した所見として,蛋白尿が0.7g/日,軽度のクレアチニンクリアランスの低下がみられた.別に行われた腎生検においても糸球体および間質血管周囲にアミロイドが沈着していた.

Ⅵ 血液・造血器疾患

1 動悸,息切れを主訴にヘモグロビン低値をきたした32歳の女性《鉄欠乏性貧血》

著者: 塩崎宏子 ,   泉二登志子

ページ範囲:P.1078 - P.1082

Ⅰ.症例

 32歳の女性.動悸と息切れを主訴に来院した.

 現病歴:およそ1か月前から動悸,立ちくらみ,階段を上がるときに息切れを自覚するようになった.

2 大球性貧血,黄疸,LDHの異常高値をきたした55歳の男性《悪性貧血》

著者: 細野奈穂子 ,   上田孝典

ページ範囲:P.1083 - P.1088

Ⅰ.症例

 55歳の男性.全身倦怠感,貧血および黄疸を主訴に紹介され受診となった.

 現病歴:糖尿病・肝機能障害にて近医に通院中であった.3月頃から全身倦怠感を自覚していた.同年5月上旬には疲労が著しく,趣味のゴルフもホール途中で中止するようになった.5月下旬には連日37.8℃前後の発熱を繰り返し,家人より皮膚の黄染を指摘されるようになった.

3 健診で白血球増多を指摘された60歳代の男性《急性白血病》

著者: 宮﨑浩二

ページ範囲:P.1089 - P.1094

Ⅰ.症例

 60歳代の男性.

 現病歴:健診で白血球数43,700/μLを指摘され,精査を勧められて来院した.特に自覚症状はないが,若干倦怠感があるという.

4 紫斑,点状出血をきたし,著明な血小板減少をきたした70歳代の男性《特発性血小板減少性紫斑病》

著者: 高蓋寿朗

ページ範囲:P.1095 - P.1101

Ⅰ.症例

 70歳代の男性.紫斑を主訴に来院した.

 既往歴:数年前より高血圧,狭心症として内服治療中.

5 高蛋白血症,貧血,尿蛋白陽性を認めた61歳の女性《多発性骨髄腫》

著者: 坂本佳奈

ページ範囲:P.1102 - P.1108

Ⅰ.症例

 61歳の女性.自覚症状としては腰痛を認めている.

 現病歴:1か月前に咳嗽,発熱が出現し,肺炎の診断で前医入院となった.また,同時期より腰痛が出現し,腰椎圧迫骨折の診断を受けた.入院後の血液検査で高蛋白血症を指摘され,精査目的に当院紹介となった.

6 血液凝固異常と肝機能障害をきたした30歳代の妊婦《妊娠合併症に伴うDIC》

著者: 小林隆夫

ページ範囲:P.1109 - P.1116

Ⅰ.症例

 30歳代の妊婦.強度の腹痛と上腹部痛,および胎動の減少を主訴に来院した.

 現病歴:妊娠36週で,数日前から軽度の頭痛を感じていたが,本日,朝方,突然強度の腹痛と上腹部痛を自覚し,さらに胎動の減少も感じられた.1週間前の定期健診時に血圧の軽度上昇を指摘されていた.

7 汎血球減少と肝機能障害をきたした13歳の男児《血球貪食症候群》

著者: 石井榮一

ページ範囲:P.1117 - P.1122

Ⅰ.症例

 13歳の男児.発熱,汎血球減少および肝機能障害を主訴に来院した.

 現病歴:7日前より発熱が出現し,5日前に近医で汎血球減少と肝機能障害を指摘され,入院にて抗菌薬の投与を受けた.しかし,治療開始後も発熱が持続し,汎血球減少と肝機能障害が進行したため当科を紹介された.

8 BNP高値を示した46歳の女性《急性肺血栓塞栓症》

著者: 山本剛

ページ範囲:P.1123 - P.1128

Ⅰ.症例

 46歳の女性.呼吸困難を主訴に来院した.

 現病歴:2日前から呼吸困難が出現,徐々に増悪し,動悸も自覚するようになり救急車を要請した.

9 未熟な血液分画が治療効果の早期判定に有用であった2症例《再生不良性貧血》

著者: 石山謙 ,   望月果奈子 ,   中尾眞二

ページ範囲:P.1129 - P.1136

Ⅰ.症例

1.症例1:71歳の女性

 現病歴:2006年,健康診断で血小板数7.8×104/μLと血小板減少を指摘され,10月にN病院を受診.白血球数2,900/μL,ヘモグロビン10.3g/dL,血小板数11.2×104/μLと汎血球減少が認められた.抗血小板抗体陰性,Helicobacter pylori菌陽性であったため,H. Pylori菌の除菌療法が行われたが無効であった.同年12月には血小板数6.7×104/μLに低下したため骨髄穿刺が施行された.骨髄は低形成で染色体異常はなく,形態異常も明らかではなかったため再生不良性貧血(aplastic anemia,AA)と診断された.2007年1月より蛋白同化ステロイドを投与されたが血小板数は3.7×104/μLまで低下,白血球数減少,貧血の進行もみられたため2007年2月に当科入院となった.1月に当科で施行した発作性夜間血色素尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria,PNH)形質をもつ血球(PNH型血球)検査は陽性であった.

 入院時現症:身長148cm,体重56kg,体温36.3℃,血圧109/67mmHg,眼球結膜貧血あり.眼瞼結膜黄疸なし.頸部にリンパ節腫脹はない.胸部は呼吸音清,心雑音なし.右季肋部に軽度圧痛がある.腹部は平坦,軟で,圧痛はない.肝臓・脾臓は触知せず,下腿浮腫あり.神経学的に明らかな異常所見はない.

10 白血球の異常高値を認めた57歳の女性《慢性骨髄性白血病》

著者: 南谷泰仁

ページ範囲:P.1137 - P.1142

Ⅰ.症例

 57歳の女性.悪心,嘔吐,右季肋部痛を主訴に来院した.

 現病歴:1週間前から悪心,嘔吐,季肋部痛が続き,近医で白血球増加(WBC20,000/μL)を指摘され,当院を紹介され受診した.

Ⅶ 感染症

1 髄液細胞数増多と糖低下を認めた1歳の女児《細菌性髄膜炎》

著者: 石和田稔彦

ページ範囲:P.1144 - P.1149

Ⅰ.症例

 1歳1か月の女児.

 主訴:発熱,痙攣.

2 多核球優位の髄液細胞増加を示すウイルス性髄膜炎,髄液細胞数増加のないウイルス性髄膜炎《ウイルス性髄膜炎》

著者: 細矢光亮

ページ範囲:P.1150 - P.1155

Ⅰ.症例

 症例:6歳の男児.

 主訴:発熱,頭痛.

3 発熱と耳下腺腫脹をきたした幼児2例《流行性耳下腺炎》

著者: 内田正志

ページ範囲:P.1156 - P.1161

Ⅰ.症例

1.症例1

 2歳9か月の女児が発熱と右耳下腺腫脹を主訴に受診した.

 現病歴:受診前日の朝から38.5℃の発熱と右耳下腺の腫脹が出現した.その後も高熱が持続するため受診した.5歳の兄が2週間前に流行性耳下腺炎の診断を受けている.

4 嘔吐で受診した20歳代の4人《細菌性食中毒》

著者: 大西健児

ページ範囲:P.1162 - P.1166

Ⅰ.症例

 前日の16時頃に家人Aがつくった〈おにぎり〉を家族と友人の計4人(B,C,D,E.この4人は全員20歳代前半)が当日の朝に摂取した.摂取した時間はB,C,Dの3人が当日の8時頃,Eが当日の10時頃であった.8時頃に摂取した3人中の2人(B,C)に9時頃から悪心,嘔吐,腹痛が出現し,残りの1人(D)にも10時頃から同症状が出現した.10時頃に摂取した1人(E)には11時頃に悪心,嘔吐,腹痛が出現し,さらに下痢もみられるようになった.しばらく自宅で経過を観察していたが,症状が改善しないため4人ともに外来を受診した.なお,〈おにぎり〉をつくったAは無症状であった.受診した4人を食中毒患者と判断し,直ちに保健所に届け出た.また,それと並行して下痢のあるEの便細菌培養検査を行った.4人ともに軽度の脱水状態と思われたが,経口的な水分摂取を勧め帰宅とした.その後,患者は4人ともに回復した.

 自宅に残っていた〈おにぎり〉の中身(サケ,タラコ,カツオブシ)を保健所経由で東京都健康安全研究センターで検査したところ,すべてからエンテロトキシン産生性の黄色ブドウ球菌(コアグラーゼ3型,エンテロトキシンA型)が検出され,タラコからは2.5μg/gのエンテロトキシンも検出された.さらに同研究センターで〈おにぎり〉をつくったAおよび患者Eの便細菌検査,患者Dの吐物細菌検査,〈おにぎり〉をつくったAの手指ふきとりの細菌検査を行ったところ,すべての検体からエンテロトキシン産生性黄色ブドウ球菌(コアグラーゼ3型,エンテロトキシンA型)が検出された.便と吐物からノロウイルスは検出されなかった.これらのことから,保健所は本事例を黄色ブドウ球菌食中毒と断定した.なお,当院で行った患者Eの便細菌培養検査で病原細菌は検出されなかった.

5 典型的な症状と検査値を示した1か月の男児とその家族の症状と検査値《百日咳》

著者: 岡田賢司

ページ範囲:P.1167 - P.1174

Ⅰ.症例とその家族

 生後1か月の男児.当初軽い咳のみであったが,次第にひどくなり,無呼吸やチアノーゼが認められたため,かかりつけの小児科で百日咳を疑われ,紹介され入院となった.入院時,「発作性の連続性の咳き込み」や「咳き込んでの嘔吐」はあったが,「吸気性笛声」はなかった.白血球数17,500/μL,リンパ球78%,CRP<0.30mg/dLであった.入院時の培養で百日咳菌が分離でき,典型的な百日咳と診断した.

 乳児の両親,同胞の症状と検査値を示す.

6 長期の咳嗽,食欲不振が続く炎症所見に乏しい72歳の男性《肺結核》

著者: 桑原克弘

ページ範囲:P.1175 - P.1179

Ⅰ.症例

 72歳の男性.主訴は2か月以上続く咳嗽と食欲不振.

 既往歴:20歳頃に胸水貯留がみられたが自然軽快した.

Ⅷ 呼吸器疾患

1 高熱,湿性咳嗽,呼吸困難感を訴えて来院した58歳の女性―CRPの特性を知る《市中肺炎》

著者: 小司久志 ,   詫間隆博 ,   二木芳人

ページ範囲:P.1182 - P.1188

Ⅰ.症例

 58歳の女性.1週間前から微熱,鼻汁,咽頭痛を認め市販総合感冒薬を内服していた.昨日の起床時から高熱,膿性痰を伴う湿性咳嗽,呼吸困難感を自覚したため当院外来を受診した.

 来院時診察所見は意識清明,血圧142/88mmHg, 体温38.2℃,SpO293%(room air),両側下肺に水泡音を聴取した.

2 ステロイド・免疫抑制剤併用による間質性肺炎治療中,間質性肺炎の悪化と血中サイトメガロウイルスアンチゲネミア・β-Dグルカンの上昇を認めた48歳の女性《サイトメガロウイルス肺炎とニューモシスティス肺炎の合併》

著者: 川島辰男 ,   芦沢美砂子 ,   丸山幸造 ,   松澤康雄 ,   蛭田啓之

ページ範囲:P.1189 - P.1195

Ⅰ.症例

 48歳の女性.約6か月前より皮疹が出現.次第に悪化し,多発性皮膚潰瘍を形成していたが診断に至らず,当院皮膚科を受診し皮膚筋炎の診断となった.胸部X線・CTで両側下肺に線状・網状影および軽度すりガラス様陰影を認め(図1),間質性肺炎合併の皮膚筋炎と診断.第5病日よりプレドニゾロン(prednisolone)40mg,シクロスポリン(cyclosporine)150mg内服による治療開始となった.治療開始後,皮膚所見は改善していたが,第35病日頃より乾性咳嗽が出現.第42病日,胸部X線撮影・CTで間質性肺炎の悪化を認めた(図2).

 第42病日現症:血圧118/88mmHg,体温37.0℃,SpO296%(室内気).頸部にリンパ節・甲状腺腫大なし.胸部は心音純で不整はない.両側背下部にてfine crackle聴取.腹部は肝・脾腫なし.皮疹は両側眼瞼にヘリオトロープ疹,両側手指背にゴットロン(Gottron)徴候,四肢に紅斑を伴う浮腫を認めるが,第1病日と比較し改善あり.

3 炎症反応に乏しく,経過の長い肺炎を呈した6歳の小児例《マイコプラズマ肺炎》

著者: 稲見由紀子

ページ範囲:P.1196 - P.1201

Ⅰ.症例

 6歳の女児.

 主訴:発熱,湿性咳嗽.

4 KL-6値上昇および肺活量低下,肺拡散能低下をきたした62歳の女性《間質性肺炎,とくに慢性過敏性肺炎》

著者: 澤幡美千瑠 ,   小倉高志 ,   杉山幸比古

ページ範囲:P.1202 - P.1207

Ⅰ.症例

 62歳の女性.湿性咳嗽,労作時息切れ,発熱を主訴に来院した.

 現病歴:3年前に健診の胸部X線写真で異常陰影を指摘されたが,放置していた.9日前から湿性咳嗽,労作時呼吸困難とともに夕方の発熱を認め4月初旬に当院を受診した.胸部X線写真にて右側下肺野優位の浸潤影とすりガラス状陰影を認め,胸部CTにて両側下肺背側優位に牽引性気管支拡張を伴う網状影があり,容積減少を伴っていた.また,気管支血管束周囲に分布する浸潤影,小葉中心性粒状影を認めた(図1).

Ⅸ その他

1 動脈血液ガス分析で呼吸性アルカローシスを呈した22歳の女性《過換気症候群》

著者: 山中学 ,   貝谷久宣

ページ範囲:P.1210 - P.1214

Ⅰ.症例

 20歳代の女性.呼吸困難感,動悸,四肢のしびれ・硬直を主訴に救急外来を受診した.

 現病歴:呼吸困難感(空気がうまく吸えない感じ),動悸などが出現.引き続いて,四肢のしびれ・硬直なども強くなり,救急車を要請して,救急外来を受診.意識消失はない.症状の出現前に家族と口論をしていたという.以前にも同様のエピソードが数回あった.

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ページ範囲:P.1214 - P.1214

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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