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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術40巻9号

2012年09月発行

雑誌目次

病気のはなし

川崎病

著者: 鮎沢衛

ページ範囲:P.772 - P.777

サマリー

川崎病は,1967年に川崎富作博士が「指趾の特異的落屑を伴う小児の急性熱性皮膚粘膜淋巴腺症候群」として提唱した,原因不明の発熱・発疹性疾患である.主に4歳までの乳幼児に発症する全身性の血管炎と,それによる皮膚粘膜症状や冠動脈瘤による虚血性心疾患などの心血管合併症が特徴である.継続的に全国調査が行われており,患者数は徐々に増加し,現在年間約12,000人の発症が報告される.小児の発熱性疾患としては感染症以外で最も多いもので,わが国では以前のリウマチ熱に代わって小児の後天性心疾患の原因として最も多いものである.

技術講座 生理 シリーズ 骨と関節の超音波検査・3

下肢の超音波検査

著者: 髙橋周

ページ範囲:P.778 - P.784

新しい知見

運動器の画像診断には,単純X線,CT,MRIが用いられてきたが,近年の著しい技術開発により超音波診断装置がデジタル化され,高周波プローブが出現したことによって,CT,MRIを上回る高分解能画像が容易に得られるようになった.これによりリアルタイムに運動器の損傷状態,動態,血流,などを評価することができるようになり,運動器の超音波検査が注目されている.超音波診断装置は移動性に優れ,診察室や検査室内だけでなく病室や往診先での検査,手術室での神経ブロック時の使用,スポーツ現場での活用1~3)などさまざまな分野・場面で使用できる.また,エラストグラフィという新しい技術を用いると,組織弾性も評価することが可能となった.

フローボリューム曲線―【前編】基礎理論と臨床的意義

著者: 鈴木範孝

ページ範囲:P.792 - P.797

新しい知見

フローボリューム曲線(以下,V-V曲線)の測定と研究は以前から試みられていた.1950年代初頭にDaymanの初期の研究を先駆けに,FryとHyattがより臨床に直結した研究へと発展させた.しかし,この検査法が末梢気道病変の早期検出に利用できる可能性を示唆したのは,1967年にMeadらの提唱した等圧点理論が最初である1).1977年にはDawsonとElliotによりwave speed flow理論が発表され現在に至っている.最近の新しい技術では,これらの理論の応用として自転車エルゴメーターを使用して運動時のflow-volume loopを測定し,1回換気ループの呼気終末肺気量位(end-expiratory lung volume,EELV)の変位から吸気量(inspiratory capacity,IC)を計測し,気流制限による呼吸困難を伴う慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease,COPD)の動的肺過膨張と慢性心不全などでみられる運動耐容能評価がリハビリテーション医学や呼吸器臨床で試みられている.

微生物

質量分析法による微生物同定

著者: 草場耕二 ,   福富由美子 ,   宇木望 ,   永沢善三

ページ範囲:P.785 - P.791

新しい知見

質量分析法には,1940年代からガスクロマトグラフィ法や高速液体クロマトグラフィ法などがあり,低分子の質量の測定は可能であったが,高分子である蛋白質などの質量は測定不能であった.しかし,2002年にノーベル賞を受賞した田中耕一氏らにより1985年にマトリックス支援レーザー脱離イオン化法の原理である「ソフトレーザー脱離法」が開発され1),高分子である蛋白質などの化合物でも分解することなくイオン化することができるようになり,高分子化合物の質量分析が可能となった.この方法を用いて,細菌および真菌のリボソーム蛋白を解析することにより菌種の同定を行う技術が進み,装置および解析ソフトの開発がなされている.

疾患と検査値の推移

非アルコール性脂肪性肝炎

著者: 小松通治 ,   木村岳史 ,   田中直樹 ,   田中榮司

ページ範囲:P.798 - P.803

疾患概念

 従来,脂肪肝の成因の半数はアルコールによるものであったため,禁酒すれば改善する良性疾患と考えられ,臨床の場でそれほど重要視されてこなかった歴史がある.しかし,1980年にMayo Clinicの病理学者であるLudwigら1)が,アルコール摂取歴がない症例でもアルコール性肝障害に類似する肝組織病理像を呈するものを非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis,NASH)と名付け報告した.

 以前から糖尿病を有する患者の一部に脂肪肝を呈し肝硬変に進展する症例が存在することが知られており,肥満人口の増加に伴い非アルコール性脂肪肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease,NAFLD)やNASHが注目されるようになった.NASHはメタボリック症候群の肝臓での表現型といわれるように,その発症に肥満・インスリン抵抗性などのメタボリック因子が深くかかわっている.しかし,いまだその自然史は不明な点が多く,NASHの発症の説明にはDayらが提唱するtwo hits theoryが幅広く用いられる2).すなわち,メタボリック症候群などによる脂肪肝を第一段階として,その後酸化ストレス・過剰な鉄沈着などによる炎症が第二段階として加わることで,脂肪性肝炎に進行するというものである.また,臨床的にはアルコール摂取の有無で,アルコール性脂肪肝とNAFLDに分け,そのなかでもメタボリック症候群を背景とするものを狭義のNAFLD/NASHとする考え方が広く受け入れられている.

ラボクイズ

細胞診

著者: 松浦幸浩 ,   三浦弘資

ページ範囲:P.804 - P.804

8月号の解答と解説

著者: 榎奥健一郎

ページ範囲:P.805 - P.805

ワンポイントアドバイス

細胞診でP. jiroveciiをみつけるコツ

著者: 塩竈和也 ,   堤寬

ページ範囲:P.806 - P.807

はじめに

 Pneumocystis jirovecii(ニューモシスチス・イロヴェチ)は,ニューモシスチス肺炎(日和見感染症)の病原体である.最近の分子生物学的解析によって,原虫ではなく,真菌の一種に属することが明らかになり1),「国際植物命名規約」2)に基づいて学名が旧名のP. cariniiからP. jiroveciiへと修正された.Jiroveciiの名称は,チェコ人寄生虫学者のJirovec(イロヴェツ)にちなんでいる.これにより,長年親しまれてきた「カリニ肺炎」の病名が,「ニューモシスチス肺炎」に変更された.従来使われてきたPCP(Pneumocystis carinii pneumonia)の略称は,Pneumocystis pneumoniaとして引き続き用いられている.

 P. jiroveciiは通常不顕性だが,AIDS(acquired immune deficiency syndrome)をはじめとする細胞性免疫不全患者に急性びまん性間質性肺炎をもたらす.感染肺組織の肺胞内で,囊子中に8個の栄養体が形成され,放出された栄養体が二分裂あるいは有性生殖により増殖するとされる3).治療薬であるST合剤(sulfamethoxazoleとtrimethoprimの合剤)により,治癒率が飛躍的に高まり,AIDS(acquired immune deficiency syndrome)患者の本症による死亡は近年激減した.

オピニオン

平成24年度診療報酬改定について

著者: 米山彰子

ページ範囲:P.808 - P.808

 今回の診療報酬改定は全体でプラス0.004%とほとんど据え置きであった.改定の基本方針では重点課題として,「急性期医療の適切な提供に向けた病院勤務医等の負担の大きな医療従事者の負担軽減」,「医療と介護の役割分担の明確化と地域における連携体制の強化の推進及び地域生活を支える在宅医療等の充実」の二つが挙げられた.また,四つの視点として,「I 充実が求められる分野を適切に評価していく視点」,「II 患者等から見て分かりやすく納得でき,安心・安全で,生活の質にも配慮した医療を実現する視点」,「III 医療機能の分化と連携を通じて,質が高く効率的な医療を実現する視点」,「IV 効率化余地があると思われる領域を適正化する視点」が挙げられた.

 検査については,「IV 効率化余地があると思われる領域を適正化する視点」で「検体検査については,その実施料について衛生検査所検査料調査による実勢価格に基づき見直しを実施するとともに,臨床的な観点に基づき区分や名称の変更を行う」とされた.

Laboratory Practice 〈遺伝子〉

診療における遺伝学的検査の体制構築

著者: 大久保久美子 ,   松永彰

ページ範囲:P.809 - P.813

はじめに

 遺伝子解析技術の飛躍的進歩とデータの集積によって,ここ数年急速に遺伝子関連検査の結果が日常診療に応用されるようになってきた.臨床研究や先進医療で実施されていた項目の保険適用への移行も比較的短い期間で行われている.このような情勢においてさまざまなガイドラインが提示されているが,急速な遺伝医療の広まりから個々の判断は各病院に委ねられているという側面も生じてきた.適正な遺伝医療の実践のための遺伝学的検査の体制の構築について考察してみたい.

〈微生物〉

肺炎球菌の迅速抗原検査

著者: 佐藤智明

ページ範囲:P.814 - P.817

はじめに

 肺炎は,悪性新生物,心疾患,脳血管疾患に次いで日本人の死因順位第4位の重要な疾患であり,肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)は市中肺炎の原因菌分離頻度の約25~30%を占める最も検出頻度の高い肺炎の原因菌である1,2)

 肺炎球菌性肺炎は重症化しやすく,治療には適切な抗菌薬療法の早期開始と全身管理が必要であり,医師はグラム染色や抗原検査が陽性であれば積極的に特異的な治療を開始する3).そのために原因菌を迅速に報告することが臨床検査室に求められる.従来から感染症の原因菌推定の迅速検査としてグラム染色が用いられ,呼吸器感染症の原因菌推定に喀痰のグラム染色は優れた検査法として評価されている(図1).しかし,グラム染色は感度がやや低いことや原因菌の推定には熟練を要するという欠点がある.

 近年,イムノクロマト法を用いた簡便,迅速な検査法が多くの検査室で実施されるようになった.本稿では,肺炎球菌尿中抗原検査法であるBinax NOW®肺炎球菌(アリーアメディカル)および,喀痰または上咽頭ぬぐい液からの肺炎球菌抗原検出検査法のラピラン®肺炎球菌(大塚製薬)を中心に解説する.

最近のインフルエンザウイルス抗原検出キットについて

著者: 吉田彩香 ,   松田淳一 ,   栁原克紀

ページ範囲:P.826 - P.829

はじめに

 インフルエンザウイルスは,オルトミクソウイルス科に属するRNAウイルスで,ウイルス粒子表面上に存在する抗原性の違いにより主にA型・B型・C型の3種類に区別される.ヒトインフルエンザの原因ウイルスとしてA型・B型が知られており,ウイルス粒子表面には赤血球凝集素(hemagglutinin,HA)とノイラミニダーゼ(neuraminidase,NA)という糖蛋白が存在する.特に,A型インフルエンザウイルスはHAとNAの変異が多いが,B型インフルエンザウイルスは変異が少ない.

 インフルエンザウイルスに感染すると,短い潜伏期間を経て突然の高熱,頭痛,腰痛,全身倦怠などの全身症状に始まり,鼻汁,咽頭痛,咳などの呼吸器症状が主であるが,高齢者や小児の場合,稀に急性脳症や二次感染により重症化することもあるとされている.

 インフルエンザ感染症の診断は,培養法,遺伝子検査,抗原検出法があるが,培養法は時間を要するうえ施行可能な施設が限られている,遺伝子検査は,特殊技術を要するため日常検査としては不適である.一方,抗原検出法は迅速性に優れており,日常検査に応用されるようになり,さまざまな診断用キットが開発されている.本稿では,日常検査に使用されている抗原検出法を中心に述べる.

〈輸血〉

安全な輸血実施のために―日赤血液センターの体制④―輸血後感染症副作用およびその検査

著者: 内田茂治

ページ範囲:P.818 - P.821

はじめに

 わが国の輸血用血液は1960年代半ばまで,そのほとんどが売血血液により賄われていた.その売血時代には輸血を受けた患者の約半数が輸血後肝炎を発症していたと報告されており1),その後の献血制度への切り替えや新たな検査の導入により,輸血後肝炎の発生頻度は徐々に低下してきた.現在ではさらに,献血受付時の本人確認,問診の強化,最新の血清学検査機器の導入,B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus,HBV),C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus,HCV)およびヒト免疫不全ウイルス〔human immunodeficiency virus(HIV)-1/2〕を対象とした核酸増幅検査(nucleic acid amplification,NAT)の実施や新鮮凍結血漿の貯留保管(6か月間)などにより,安全性は飛躍的に高められている(図)2).1999年10月のNAT導入当初は検体500本をプールして検査していたが,翌2000年2月から50本プールに,さらに2004年8月からは現在の20本プールへとプールサイズを縮小し,ウイルスの検出感度を向上させた.しかしながら,輸血による感染事例がいまだに年間10例ほど発生しており,さらなる安全対策が求められている.本稿では遡及調査の概要を含めた輸血感染事例の現状とその検査の手法を解説する.

〈移植医療〉

血液疾患における移植医療の現状―骨髄移植,末梢血幹細胞移植,臍帯血移植

著者: 奧山美樹

ページ範囲:P.822 - P.825

はじめに

 白血病や悪性リンパ腫,再生不良性貧血など血液疾患に対する造血幹細胞移植は現在広く行われるようになり,多くの患者に恩恵をもたらしている.近年では移植に用いられる細胞や移植の方法も多様化し,移植総数も増加傾向を続けている.特に2010年度から骨髄移植推進財団(骨髄バンク)を介した非血縁者間の末梢血幹細胞移植も開始され,今後さらに増加していくことと思われる.

 本稿では,このような造血幹細胞移植の現状について,移植細胞による特徴も含めて解説する.

今月の表紙

管状癌

著者: 森谷卓也 ,   中島一毅

ページ範囲:P.830 - P.830

【症例の概要】

 50歳代,女性.6年前に乳癌検診で異常を指摘されたが,確定的診断に至らず経過検察を行っていた.腫瘤は増大する傾向にあり,穿刺吸引細胞診を行い悪性の疑い(図1),引き続き針生検で悪性(浸潤癌)の診断に至った.超音波では境界不整,粗造なやや低エコーの腫瘤として描出され(図2),周囲にspiculationを伴い,後方エコーは減弱,ハローも伴い,DW比(depth width ratio)も高かった.エラストグラフィでも硬い腫瘤として描出された(図3).乳房円状部分切除術では,11mm長径の境界不明瞭な不整形腫瘤を認めており(図4),内部は膠原線維の増生とともに,小型均質な細胞が二相性を欠く管状腺管を形成し浸潤していた(図5).管状癌,グレード1,ER(estrogen receptor)陽性,PgR(progesterone receptor)陽性,HER2陰性,と診断された.リンパ節転移はみられなかった.

検査値を読むトレーニング 信州大学R-CPC・9

腰痛にて入院となった30代男性

著者: 本田孝行 ,   菅野光俊

ページ範囲:P.831 - P.838

信州大学のreversed clinicopathological conference(R-CPC)では,なるべく多くの検査を行った症例を選び,経時的検査値で解析している.しかし,決して多くの検査を行うことを推奨しているわけではない.陰性データも陽性データと同じように重要と考え,できる限り多くのルーチン検査を行った症例を選択してR-CPCで検討している.ある病態において,検査値が陰性になることを知って初めて必要のない検査と認識できる.その結果,必要な検査を最小限に行える医療従事者になれると考えている.また,検査値は基準値内でも動くことに大きな意味があり,動いている検査値を読むことによってより詳細な病態が解明できる.時系列検査結果を読むことができれば,異常値の出るメカニズムを理解できたことになり,入院時のみのワンポイントの検査値であっても容易に理解できるようになる.

SOPのつくりかた・第2回

一般検査のSOP

著者: 雨澤貴子 ,   関顯

ページ範囲:P.840 - P.844

 以下に一般検査の測定標準作業手順書(standard operating procedure,SOP)の例とポイント,注意事項を示す.

臨床医からの質問に答える

なぜ,non-HDLコレステロールが注目されるようになってきたのですか?

著者: 戸塚実

ページ範囲:P.847 - P.851

 日本動脈硬化学会では,動脈硬化性疾患のリスク別に脂質異常患者の管理目標を設定し,生活習慣の改善やスタチンなどの薬物による治療方針を定めている(表1)1).そこで管理目標に掲げられている項目の一つに低比重リポ蛋白コレステロール(low-density lipoprotein cholesterol,LDL-C)がある.世界的にもLDL-Cを管理目標としたスタチンなどを用いた治療によって,動脈硬化性疾患発症の減少に一定の効果が得られている.しかし,急性心筋梗塞で亡くなる人の数をみるならば,およそ3分の2に低下したに過ぎない2,3).これは脂質異常患者の管理の徹底だけでは十分とはいえず,さらなる危険因子,いわゆる“residual risk”の存在を示唆するものである.もちろん,動脈硬化症には慢性炎症性疾患および酸化ストレス性疾患としての側面があり,脂質異常症のみで語ることはできないが,脂質異常が大きくかかわっていることは明らかである.すなわち,脂質関連項目において“residual risk”を予知可能な検査項目の開発が期待されるのは当然の成り行きである.

 近年,多くの疫学的研究によって非高比重リポ蛋白コレステロール(non-high-density lipoprotein cholesterol,non-HDL-C)はLDL-Cよりも心血管疾患発症の予見において優っていることが明らかにされた4~6).現在,脂質異常症のマーカーとして汎用される脂質検査には総コレステロール(total cholesterol,TC),HDL-C,LDL-C,トリグリセリド(triglyceride,TG)があるが,non-HDL-CはTCからHDL-Cを差し引く(TC-HDL-C)だけで容易に求めることができ,特別な検査を実施する必要がなく経済的にも今以上の負担がない点が汎用される要因になっている.現在,米国のNational Cholesterol Education Program Adult Treatment Panel III(NCEP ATP III)のガイドラインでは,治療によってLDL-Cの目標値に到達した後に,TG値200mg/dl以上の患者の治療における2次的な目標値としてnon-HDL-Cを位置づけている7).ちなみに,non-HDL-Cの管理目標値はLDL-Cのそれに30mg/dlプラスした値としている(表2).これはTGの基準上限である150mg/dlから,いわゆる正常な超低比重リポ蛋白コレステロール(very low-density lipoprotein cholesterol, VLDL-C)の上限を30mg/dlと設定した結果である8).病態生理学的には,LDLの動脈硬化作用は代表的なものであるが,そのほかカイロミクロン-レムナント,VLDL,中間比重リポ蛋白(intermediate-density lipoprotein,IDL),リポ蛋白(a)〔lipoprotein(a),Lp(a)〕などの関与も無視できないことは明らかである.すなわち,non-HDL-Cは動脈硬化惹起因子と考えられるこれらのアポリポ蛋白B(apolipoprotein B,apoB)を含むすべてのリポ蛋白を包含している点で,LDL-Cよりも優れたマーカーであると考えられる(図1).

臨床検査のピットフォール

血清用採血管の凝固促進剤に注意

著者: 大西宏明

ページ範囲:P.852 - P.853

はじめに

 血液生化学検査の多くは,血清を用いて測定が行われる.その際に,フィブリンの析出による検査値の変動や測定機器のトラブルを避けるためには,十分に凝固した検体を用いて遠心分離する必要がある.通常,無添加の血液で十分な凝固を得るためには30分間程度の静置が必要とされる.しかしながら,近年は外来迅速検体検査加算の保険収載などに伴い,従来以上に迅速な検査結果の報告が求められるため,30分間程度の静置時間でさえも確保が難しい状況もしばしばみられる.また,脳・心血管系疾患のために抗凝固薬を服用している患者も多く,30分間程度では十分な凝固が得られない検体に遭遇することも稀ではない.そのため,最近は多くの施設で,血液凝固までの時間を短縮する目的で凝固促進剤入りの採血管を用いている.本稿では,血清用採血管の凝固促進剤に関する注意点について述べる.

トピックス

尿沈渣検査に用いるSternheimer染色陽性細菌について

著者: 星雅人 ,   井上里奈 ,   宮崎崇

ページ範囲:P.854 - P.855

はじめに

 尿沈渣検査に用いられるSternheimer染色液(S染色)は,アルシアンブルーおよびピロニンBが含まれており超生体染色として知られている.したがって,尿沈渣成分を鮮やかに染色することができるうえ,例えば白血球の生死判別により白血球が感染性かコンタミネーションによるものかを判定可能であり,有用かつ多様の情報を提供することができる染色法である1).最近筆者らは,白血球だけでなく細菌においてもS染色でアルシアンブルー陽性の細菌あるいは陰性の細菌がいることを見いだした2)

 尿沈渣検査における白血球および細菌の検出は尿路感染症のスクリーニング検査として有用であり,近年フローサイトメトリー法を応用した自動分析装置が開発され威力を発揮している.尿路感染症は最も頻度の高い感染症の一つであり,男性で10~20%,女性で40~50%の人が尿路感染症の既往を有するとされている.また,尿路感染症の診断において,専門医(泌尿器科医など)を受診した場合は,頻尿,排尿痛などの症状の有無により診断・治療が行われており,尿検査は補助診断として用いられているが,小児あるいは高齢者など自覚症状を訴えにくい場合や,専門医以外の受診については尿検査の果たす役割は極めて大きいと考えられる.特に検査室の役割として,尿検査において細菌尿を認めた場合,細菌検査でグラム染色,細菌の培養,同定・感受性検査などが実施されるが,これらの検査には時間を必要とするため,尿沈渣所見あるいはグラム染色など鏡検レベルである程度の菌の種類を迅速に推定できることは臨床的に有用であり,細菌検査室との連携にも極めて重要な意味をもつと考えられる.本稿において,尿沈渣中に認められる細菌にはS染色によるアルシアンブルーで陽性となる細菌が観察されること,またS染色陽性細菌に対する新規染色法と意義について解説する.

静脈採血における超音波プローブの活用

著者: 勝田逸郎

ページ範囲:P.855 - P.857

はじめに

 静脈採血は検体検査では最大の検体収集行為である.近年,多くの医療・検診機関において静脈採血を臨床検査技師が担当することが増えている.日常採血では血管走行が不明瞭で目視・触指できない患者としばしば遭遇する.このような場合に,肘を温めるなどして静脈走行を見やすくする処置がとられるが,時には解剖学的検知から血管走行を予想して「探り」と呼ばれる穿刺が行われてきた.これは危険な行為で,細血管切断による血腫の発生や,時に神経損傷を引き起こす原因の一つともなる.

 今日では血管の性状を直ちに識別できる超音波検査装置(ultrasonography,US)がわれわれの手元に存在している.USを用いれば採血に適した血管の走行・血管サイズ・皮膚表面からの深さのほか,血管に近接した神経束までが可視化でき,より安全性に配慮した確実な採血が可能となる.

コーヒーブレイク

病院の情報システム室②

著者: 青木洋一

ページ範囲:P.839 - P.839

 前回に続いて,病院の情報システム室のお話しをしましょう.

 病院だけでなく,どこの情報システム室でも最も重要な業務の一つが,稼働しているシステムの安定運用です.特に病院の電子カルテは24時間365日の連続運転が求められ,中枢のサーバーが止まってしまうと診療業務自体が成り立たなくなります(一応,障害時対応などのマニュアルは作るものの,その通りには動けないものです).

はじめてみようツボ刺激④

著者: 永江学

ページ範囲:P.846 - P.846

 今回は,腰痛,膝の痛みに効果のあるツボについて説明します.ただし,痛みが強いときにはその付近を刺激しないでください.さらに悪化する場合がありますので.

 腰痛には大腸兪(だいちょうゆ)穴,委中(いちゅう)穴,陽陵泉(ようりょうせん)穴,中封(ちゅうほう)穴,崑崙(こんろん)穴と腰腿点を刺激します.

けんさ外国語会話・21

呼吸機能検査②〈韓国語編〉

著者: 医療通訳研究会 ,   金静愛

ページ範囲:P.858 - P.858

VC(肺活量)
⑨ 普通の呼吸を数回してください.
⑩ 次にゆっくり息を吐き出し,最後まで吐ききります.
⑪ 続いて息を最大まで吸って,もう一度ゆっくり吐き出し,最後まで吐ききります.

FVC(努力性肺活量)
⑫ 普通の呼吸を数回してください.
⑬ 次に大きく,最大まで吸った息を一気に鋭く吐き出して,最後まで吐ききります.
⑭ ローソクの火を一気に吹き消すイメージで「フーッ」と強く吹くようにします.
⑮ これで呼吸機能検査は終わりました.
⑯ お疲れさまでした.お大事にどうぞ.

INFORMATION

千里ライフサイエンスセミナーD5「脂質メディエーターと疾患」

ページ範囲:P.807 - P.807

日 時:2012年11月15日(木) 10:00~17:00

場 所:千里ライフサイエンスセンタービル 5階ライフホール(大阪,豊中市)

CCT2012 Co-medical

ページ範囲:P.817 - P.817

会 期:2012年11月2日(金)~11月4日(日)

会 場:神戸国際展示場

第36回(平成24年度)東京電機大学ME講座―先端技術がひらく医療と福祉の未来

ページ範囲:P.859 - P.859

1.開講期間 平成24年9月25日(火)~11月27日(火)

毎週火曜日,全10回

2.時 間 1時限目 18:30~19:45

    2時限目 19:55~21:10

3.場 所 東京千住キャンパス1号館2階1204セミナー室(10204室)

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『臨床検査』9月号のお知らせ

ページ範囲:P.803 - P.803

あとがき・次号予告・ラボクイズ正解者

著者: 手島伸一

ページ範囲:P.862 - P.862

 世間では,ただいまロンドンオリンピックの真っ只中です.私も長年関係する社会人チームの柔道選手の応援に一昨日までオリンピック会場にいました.礼節を尊び,技を重んじるわが国の“柔道”と,あくまで勝負にこだわりパワーを重視する世界の“Judo”との狭間で,国民からは当然のように勝つことを期待されている選手諸氏の活躍にエールを送ってきました.

 9月号をお届けいたします.“病気のはなし”は“川崎病”を取り上げました.1967年に川崎富作博士の提唱された小児の原因不明の熱性,発疹性疾患で,今日では“Kawasaki disease”は“Judo”と同様に世界に広く認められています.病理学的には系統的血管炎,特に冠動脈が冒されますが,私も数年前に若い男性の川崎病の病理解剖を行いました.原因不明の異状死でしたが,解剖の結果,死因は川崎病の後遺症としての冠動脈瘤の血栓による急性心筋梗塞でした.生前に川崎病の既往がなかったので疑問に思い,最終診断を専門家に仰いだところ,「今から30年前(患者の幼少時期に一致)は川崎病と診断された幼児は怖い感染症として周囲からのけ者にされるので,親により“患者隠し”が行われていたため」,とのことです.図1(774ページ)に改めて注目しますと本疾患のピーク時にはそのような家族や患者の苦痛が大きかったろうと思い起こされます.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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