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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術41巻8号

2013年08月発行

雑誌目次

病気のはなし

甲状腺髄様癌

著者: 近藤哲夫 ,   中澤匡男 ,   加藤良平

ページ範囲:P.640 - P.645

サマリー

甲状腺髄様癌(medullary carcinoma)はカルシトニンを産生するC細胞(傍濾胞細胞)を由来とする悪性腫瘍であり,わが国では甲状腺癌全体の約1~2%を占める比較的まれな腫瘍である.髄様癌細胞はカルシトニンや癌胎児性抗原(carcinoembryonic antigen, CEA)を分泌し,しばしば腫瘍内にアミロイドが沈着すること,多彩な病型からなる遺伝性髄様癌が存在することなど,濾胞上皮由来の甲状腺腫瘍とは異なる病態病理,臨床所見を呈する.診断には触診,超音波検査に加えて,穿刺吸引細胞診,血中のカルシトニンやCEAの測定が行われる.治療は手術療法が第1選択であるが,術前の治療方針の決定にはRET遺伝子検査が重要となっている.

技術講座 病理

軟部腫瘍の病理診断へのCISH法の応用

著者: 加藤生真 ,   元井亨

ページ範囲:P.646 - P.653

新しい知見

軟部腫瘍の病理診断に際しては,染色体相互転座,融合遺伝子,遺伝子増幅などを検出する細胞遺伝学的検査が補助診断法として威力を発揮する.なかでもCISH(chromogenic in situ hybridization)法は組織細胞形態と細胞遺伝学的異常を同時に可視化可能な技術であり,蛍光顕微鏡や暗室などの設備を必要とせず,一般的病理検査室に導入可能な細胞遺伝学的検査法として有望である.また,腫瘍内での細胞の形態的・細胞遺伝学的多様性に対して統合的解析が可能となるため,研究面でも有望な手法である.

生理

体表エコー検査

著者: 尾本きよか

ページ範囲:P.654 - P.660

新しい知見

2012年8月10日に超音波造影剤のソナゾイド®(第一三共)が乳房腫瘤性病変に対して保険適用となり,新たな知見が報告されるようになってきた1).ソナゾイド®はわが国で開発されたが,これを用いた乳癌のセンチネルリンパ節同定法は,すでに多くの有用な臨床報告がなされてきている2~7)

東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故による放射線の影響から,現在,福島県在住の未成年者を対象に甲状腺超音波検査が連日のように行われている.本稿では,話題となっている甲状腺検診の現状と,スクリーニング検査における精査基準や甲状腺結節の良悪性判定方法について述べる.

負荷ABIの有用性

著者: 中島里枝子

ページ範囲:P.662 - P.666

末梢動脈疾患(peripheral arterial disease,PAD)における標準運動負荷試験は5分間のトレッドミル歩行負荷であるが1,2),PADは虚血性心疾患や慢性腎疾患,高齢者などの運動耐容能の低下した患者に発症しやすいため,標準運動負荷試験を取り入れることが難しい施設も多い.しかし,標準法に替わる負荷方法として爪先立ち運動3),足関節背屈運動4),6分間歩行5),トレッドミルを用いる方法でも負担の少ない1分間歩行6)などの代替法が報告されている.PAD患者における負荷試験の有用性を理解し,それぞれの施設において施行が可能な負荷方法を日常臨床に取り入れてほしい.

オピニオン

ISO 15189:2012の発行と新展開

著者: 久保野勝男

ページ範囲:P.667 - P.667

はじめに

 ISO 15189(臨床検査室─品質と能力に関する特定要求事項)は2012年11月に第3版(ISO 15189:2012)が発行された.各国認定機関は国際試験所認定協力機構(International Laboratory Accreditation Cooperation,ILAC)の決定に従って,2016年3月までに,認定を受けている全ての臨床検査室をISO 15189:2012の要求に従って運営されていることを審査を経て確認し,移行の完了をすることになる.

 本稿では,ISO 15189:2012の概要と今後の展開について述べる.

ラボクイズ

微生物検査

著者: 大楠清文

ページ範囲:P.668 - P.668

7月号の解答と解説

著者: 船田信顕 ,   立石陽子

ページ範囲:P.669 - P.669

臨床医からの質問に答える

T-スポット®.TBが結核感染症に対して保険適用となりましたが,それについて説明してください

著者: 原田登之

ページ範囲:P.670 - P.673

はじめに

 2012年10月に体外診断用医薬品として承認され,さらに同年11月に保険適用されたT-スポット.TB(オックスフォード・イムノテック社:以下,T-スポット)はELISPOT(enzyme-linked immunospot)法を用いた新たな結核感染診断法であり,従来のツベルクリン反応よりも特異度・感度に優れたIGRA(interferon-gamma release assays)の1つである.

 本稿ではT-スポット検査について解説する.

ワンポイントアドバイス

簡易型睡眠時無呼吸検査における解析のコツ

著者: 長山医

ページ範囲:P.674 - P.675

はじめに

 睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome,SAS)の検査において,簡易型睡眠時無呼吸検査機器は有効な検査の1つである.わが国での簡易検査機器は,気流・胸と腹の呼吸運動・酸素飽和度(SpO2)を同時に測定する検査,もしくはSpO2のみを測定する検査の2種類が一般的である.前者は呼吸運動を測定することによってSASの分類は可能であるが,後者においては分類の評価は困難である.

 本稿では,特徴的なSpO2の変化によってSAS分類のポイントを示すとともに,無呼吸低呼吸指数(apnea and hypopnea index,AHI)の信頼性を述べる.

けんさ質問箱

検体の保存条件(常温,冷蔵,冷凍)ごとの温度設定について教えてください.

著者: 古田耕 ,   前川真人

ページ範囲:P.676 - P.676

Q 検体の保存条件(常温,冷蔵,冷凍)ごとの温度設定について教えてください.


A 検体の保存条件(常温,冷蔵,冷凍)ごとの温度設定に関する標準化はされていません.それぞれが保管可能な温度を設定して管理するしかないと考えます1)

 冷蔵は冷蔵庫の温度(実質的には4~8℃と考えます),冷凍は-10~-20℃,またはディープフリーズとして-70℃前後です.冷凍保存の場合に問題なのは,霜取り機能のために温度が変動するタイプであり,これは周期的に温度が変動するため好ましくありません.凍結した検体は融解しないと測定できませんので,融解方法としては,室温でゆっくり,または37℃の恒温槽(water bath)で融解し,分析前にはしっかりと混合すべきです2)

検査値を読むトレーニング 信州大学R-CPC・20

ショック状態にて1病日に搬送された70代男性

著者: 本田孝行 ,   菅野光俊

ページ範囲:P.678 - P.685

信州大学のreversed clinicopathological conference(R-CPC)では,なるべく多くの検査を行った症例を選び,経時的検査値で解析している.しかし,決して多くの検査を行うことを推奨しているわけではない.陰性データも陽性データと同じように重要と考え,できる限り多くのルーチン検査を行った症例を選択してR-CPCで検討している.ある病態において,検査値が陰性になることを知って初めて必要のない検査と認識できる.その結果,必要な検査を最小限に行える医療従事者になれると考えている.また,検査値は基準値内でも動くことに大きな意味があり,動いている検査値を読むことによってより詳細な病態が解明できる.時系列検査結果を読むことができれば,異常値の出るメカニズムを理解できたことになり,入院時のみのワンポイントの検査値であっても容易に理解できるようになる.

学会印象記 第62回日本医学検査学会

うどん県と予防医学

著者: 山本良

ページ範囲:P.686 - P.686

 「うどん県」こと香川県で2013年5月18・19日に開催された「第62回日本医学検査学会」に,シンポジウムの司会を仰せつかって参加した.料理名を県名にいただく大胆な観光PR手法は,サッカー日本代表の香川真司選手を一部ネットユーザーが「うどん」と呼ぶことをみても大成功していることは間違いない.

 これが「ラーメン」なら他県が黙っていまい.「われこそがラーメン県だ」と,ご当地ラーメンの有名県同士,スープでスープを洗う豚骨くさい抗争が勃発しているはずである.

今月の表紙

腺腫様結節

著者: 廣川満良 ,   鈴木彩菜 ,   美濃寛子

ページ範囲:P.687 - P.687

【症例の概要】

 40歳代,男性.2年前に職場健診で甲状腺結節を指摘され,細胞診で良性とされたため,経過観察中であった.今回の健診で甲状腺の結節が大きくなっており,来院した.甲状腺機能検査では,FT4 1.14ng/dL(0.7~1.6ng/dL),FT3 3.30pg/mL(1.7~3.7pg/mL),TSH 1.347μIU/mL(0.3~5.0μIU/mL),サイログロブリン32.4ng/mL(0~35ng/mL)であった.

 超音波検査では,甲状腺の右葉をほぼ占める57×25×41mmの結節がみられた.内部の上極側には無エコー域が,下極側には等エコー域(充実部)がみられた.ドプラ法では,結節辺縁部とその周囲に血流シグナルがわずかに観察された.

 細胞診にて粘稠な血性コロイド約51mLを排液し,良性囊胞と診断された.囊胞が大きく,気管圧排があることから,右葉切除が行われた.

Laboratory Practice 〈微生物〉

流行性ウイルス疾患―ワクチンの効果と抗体保有率

著者: 新庄正宜

ページ範囲:P.688 - P.691

はじめに

 本稿では,麻疹,風疹,水痘,流行性耳下腺炎について説明する.前二者では,小児期のワクチンが普及して小児例が減少した.これらの疾患を自分で診断し,治療したことがない若手の小児科医も珍しくなくなっている.

〈病理〉

骨髄組織標本での鉄染色の工夫と見方

著者: 神谷優美子 ,   介川雅之 ,   小保方和彦 ,   田野崎栄 ,   手島伸一

ページ範囲:P.692 - P.696

はじめに

 骨髄は赤血球,白血球,巨核球の造血3系統の細胞の他,マクロファージ,細網細胞,脂肪細胞,血管から形成されている.骨髄検査は種々の血液疾患の診断や治療効果など造血動態を知る最も有用な検査で,血液学検索と病理組織学検索が行われる.血液学的検索である塗抹標本は血液造血器細胞の成熟過程や異常細胞出現の有無など細胞形態の詳細を把握するのに非常に優れている.一方,病理組織学的検索の骨髄組織標本(骨髄穿刺吸引のペレット標本)では造血細胞の配列,静脈洞を含む血管系・間質細胞の配列増減,炎症,線維症などの間質の病態の解析に有用である.結核などの肉芽腫の有無や造血器腫瘍以外の悪性腫瘍細胞の骨髄への転移の有無なども把握することができる.

 骨髄の鉄染色において,塗抹標本ではベルリン青染色が広く用いられているが,組織標本では同染色をあまり重視してはいない施設も多い.ベルリン青反応によって組織学的に証明される鉄はヘモジデリンとしてであり,同反応でマクロファージ内蔵鉄の程度や鉄芽球(sideroblast)の有無などを調べることは鉄代謝異常の鑑別診断の決め手となる.

 本稿では,骨髄組織標本での染色法と見方を解説する.

病理標本の伸展および乾燥条件が染色性に与える影響

著者: 山口大 ,   塩竈和也 ,   竹内沙弥花 ,   水谷泰嘉 ,   尾之内高慶 ,   稲田健一 ,   堤寬

ページ範囲:P.698 - P.702

はじめに

 酵素抗体法(通称:免疫染色)は,今や医学研究や病理診断に欠かせない検索手段である.自動免疫染色装置や染色キットの普及によって,免疫染色は身近で簡単な染色として認識されがちである.しかし,実際にはさまざまな落とし穴が存在し,固定条件をはじめとする種々の要因が染色性に悪影響を及ぼすことがある1).そのなかでも,今まであまり重要視されなかった薄切切片の伸展・乾燥条件が,注意を要する要因の1つに挙げられる.orotate phosphoribosyltransferaseおよびglutathione S-transferaseの免疫染色では,切片を高温伸展することによって陽性シグナルが消失することが報告されている2).さらに,HER2(human epidermal growth factor receptor type2)免疫染色では,切片の高温・長時間乾燥によって染色強度が減弱することが報告されている3)

 本稿では,薄切後のパラフィン切片の伸展・乾燥条件に焦点を絞って,病理標本作製が染色性に及ぼす影響について検討する.

トピックス

ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8)と悪性リンパ腫

著者: 小島勝

ページ範囲:P.704 - P.706

はじめに

 ヒトヘルペスウイルス8型(human herpesvirus 8, HHV-8)は地域によって感染率が異なり,アフリカ(30~50%),地中海地域(10%)程度に比べ,わが国では健常者の1%程度と低い1).さらに,後天性免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus, HIV)感染症の頻度が低いこともあり,HHV-8関連悪性リンパ腫の頻度はごく低いと考えられる.

 本稿では,HHV-8関連Castleman病に発生する大細胞型B細胞リンパ腫〔large B-cell lymphoma arising in HHV-8-associated MCD(multicentric Castleman disease)〕2,3)と原発性滲出液リンパ腫(primary effusion lymphoma, PEL)について述べる2,4,5)

“隠れ糖尿病”を発見するための新しい検査技術

著者: 江川重信 ,   佐藤利幸

ページ範囲:P.706 - P.709

はじめに

 糖尿病は早期に発見し,治療に結びつけることが重要であるが,健康診断において糖尿病のスクリーニング指標として利用される空腹時血糖とHbA1c(hemoglobin A1c)では,初期の耐糖能異常(隠れ糖尿病)が見逃されることが多い.

 筆者らは,採血を行わずに,微侵襲的に血糖上昇レベルをモニタリングするシステムを研究している.本稿では,そのシステムに関する詳細と,健診における隠れ糖尿病検出への適用可能性について,評価結果も含めて解説する.

書評

―《標準臨床検査学》―免疫検査学

著者: 石井規子

ページ範囲:P.703 - P.703

 免疫はおもしろい.

 ジェンナーの種痘の話やパスツールによる病原微生物の発見などはノンフィクション小説のようである.免疫反応理論を読むと生命の神秘を感じずにはいられない.例えばアミノ酸1個の置換で血液型が異なることもあり,一方で多少の遺伝子の変異や欠損があっても生命は維持できる.HLA型の頻度からは人類の起源と祖先の地球規模の大移動も見えてくる.また生体防御機構はウイルスや細菌と人類との攻防そのものである.

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『臨床検査』8月号のお知らせ

ページ範囲:P.709 - P.709

あとがき・次号予告・ラボクイズ正解者

著者: 伊瀬恵子

ページ範囲:P.714 - P.714

あとがき

 今年5月に東京の精神科病院で患者と職員計62人が結核に集団感染し,患者10人が発病したと報道されました.2011年の日本の結核新登録者は22,681人,罹患率は17.7で,米国の罹患率4.1の4.3倍,カナダの罹患率4.7の3.8倍と,他国と比べて結核が多い国といえます.結核の検査には喀痰塗末検査やPCR検査,培養検査がありますが,時間やコストがかかります.2012年10月にELISPOT法を用いた結核感染診断薬T-スポット検査(インターフェロン-γ遊離試験キット)が保険適用になりましたので,『臨床医からの質問に答える』で取り上げました.ご一読ください.

 『Laboratory Practice』では,流行性ウイルス疾患へのワクチンの効果と抗体保有率についてお書きいただきました.私の勤務する病院でも全職員を対象にHBs,麻疹,風疹,ムンプス,水痘帯状ヘルペスの抗体検査を行い,抗体価の低い職員は自費(HBsワクチンは施設負担)でワクチン接種を行っています.いずれも感染性が強く合併症を併発するため,医療従事者として自らが感染源とならないようにすることが重要です.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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