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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術42巻10号

2014年09月発行

雑誌目次

増刊号 超音波×病理 対比アトラス

はじめに

著者: 手島伸一

ページ範囲:P.918 - P.918

はじめに

 今回の企画は,2009年1月号(37巻1号)から続いている本誌の表紙シリーズ「超音波と病理の対比像」をもとに増刊号として再編集したものです.現在,超音波検査には多くの成書があり,基礎から最新の知見まで自由に選んで学ぶことができます.しかし,超音波検査時にCTやMRIなどの画像検査を参考にすることはあっても,実際に手術で摘出された肉眼像や病理像をみて超音波像の裏付けをとるという機会が乏しいと思っていました.そこでこの表紙シリーズでは,超音波と病理の共同のもと,毎号ごとに乳腺,甲状腺,心,腹部臓器などの手術症例をもとに,超音波像と同一症例の手術肉眼像,病理組織像および細胞像を掲載し,症例の解説を加えてきました.この表紙シリーズは思いのほか読者からの支持が得られ,当初は1年間の連載の予定でしたが,2度,3度と延長され,現在に至るまで6年にわたって続いています.

 今回は,表紙での長年の経験をもとに,各症例の超音波・肉眼・病理・細胞像のさらなる充実を図り,さらに疾患の総論,癌取扱い規約を含めた診断や治療など関連の解説を加えましたが,各症例では写真に語ってもらうことを最も心がけました.症例は日常のありふれたものから稀なものまで79症例そろえました.そして同一症例での「超音波×病理 対比アトラス」というほとんど他書に類のない増刊号が完成しました.これにより,各症例を多面的に観察でき,同じ症例でも見方を変えてみると得られる情報が大きく増えることがわかります.

 本増刊号で,超音波に携わるものと病理に携わるものの距離が縮まるのみでなく,お互いの連携や臨床各科とのカンファランスに役立つことを期待します.また臨床検査に携わるすべての皆様に本誌を気軽な読みものとして利用し,超音波診断学と病理形態学によりいっそう慣れ親しんでいただくことを希望いたします.

1章 総論

超音波像と病理組織像の関連

著者: 谷口信行 ,   大澤正明

ページ範囲:P.920 - P.926

はじめに

 超音波検査は,簡便なだけでなく高分解能の画像が得られるため,広く臨床で用いられている.特に,乳腺疾患,甲状腺疾患,リンパ節などの体表領域をはじめ,心疾患,腹部疾患,腎泌尿器疾患など,領域を問わず,病変の描出に不可欠のものとなっている.

 本書の各論では,これらの臓器の疾患について,はじめに超音波像が提示され,次にそれらに対応する病理組織像,その後症例について説明されている.ここでは,次章から始まる症例の超音波像を解釈する手助けとするために,超音波の性質と画像に与える影響について,超音波画像を参考にしながら概説したい.

2章 乳腺

1 浸潤性乳管癌(硬癌)―50歳代女性

著者: 森谷卓也 ,   中島一毅

ページ範囲:P.928 - P.930

症例の概要

 50歳代,女性.マンモグラフィ検診で“構築の乱れ”を指摘され,要精査となった.来院時,乳頭陥凹を伴う腫瘤を認めた.乳房超音波検査では乳管,周囲組織を引き込むような構築の乱れを伴う低エコー腫瘤で,内部には壊死型石灰化が疑われる微細点状エコーも認められ,硬癌が最も疑われた→図1,2.エコーガイド下の細胞診では異型乳管上皮が出現しており陽性(乳管癌)→図3,針生検で浸潤性乳管癌の診断が得られた.超音波画像から,乳頭乳輪への進展が強く疑われる乳癌と判断し,乳房切除術が実施された.

 摘出標本では,既存の乳腺実質と比べると透明感を伴う境界不明瞭・不整形の腫瘍で,脂肪組織を巻き込むように増殖を示していた→図4.組織学的には,間質の膠原線維の増生を伴う不整形の腫瘤で→図5,索状の癌胞巣が浸潤増殖を示した→図6.肉眼像における腫瘍中心部の白色調組織は,膠原線維の増多を反映している可能性が推測された.診断は浸潤性乳管癌・硬癌,腫瘍径(浸潤径)25×12mm,核グレード(乳癌取扱い規約)1,組織学的悪性度〔ノッティンガム(Nottingham)〕1,リンパ管侵襲陽性,静脈侵襲なし,エストロゲン受容体陽性,プロゲステロン受容体陰性,HER2陰性,センチネルリンパ節転移陰性(0/4),TNM分類はpT2,pN0,pM0,臨床病期ⅡAであった.

2 浸潤性乳管癌(充実腺管癌)―60歳代女性

著者: 森谷卓也 ,   中島一毅

ページ範囲:P.931 - P.933

症例の概要

 60歳代,女性.右乳房にしこりを触れ来院.超音波検査では後方エコーの増強を伴う境界明瞭な低エコー腫瘤を認め,ドプラでは血流増加が示唆され,悪性が疑われた→図1~3.また,右腋窩リンパ節にも腫大を認めた.穿刺吸引細胞診を施行したところ悪性(乳管癌)と判定され→図4,乳房部分切除術+腋窩リンパ節隔清が施行された.腫瘍は境界明瞭な充実性腫瘤で→図5,病理組織学的には浸潤径25mm,充実性の浸潤癌巣が髄様に増殖する充実腺管癌であった→図6,7.核グレード(乳癌取扱い規約)3,組織学的悪性度〔ノッティンガム(Nottingham)〕3,リンパ管侵襲なし,静脈侵襲あり,エストロゲン受容体陽性,プロゲステロン受容体陰性,HER2陰性,切除断端陰性,腋窩リンパ節転移陽性(1/13),TNM分類はpT2,pN1a,pM0,臨床病期ⅡBであった.

3 乳腺線維腺腫―30歳代女性

著者: 森谷卓也 ,   中島一毅

ページ範囲:P.934 - P.936

症例の概要

 30歳代前半,女性.5年前,右乳房外側にしこりを自覚し来院.触診では比較的硬く可動性良好な腫瘤を認めた.乳房超音波検査では,9時方向に境界明瞭な腫瘤がみられた→図1.この腫瘤は,縦横比の低い楕円形腫瘍として描出され,内部エコーはやや低~等で,比較的均質であった.また,一部には隔壁様のスペックルもみられた.後方エコーは増強しており,内部組成の減衰が低いことが推定された.穿刺吸引細胞診では,結合性良好で二相性を伴う分岐状の乳管成分と,周囲に双極裸核成分が混在しており,線維腺腫(管内型)が最も示唆された→図2.良性の判断のもとに経過観察となったが,5年後,しこりの増大・退縮いずれもなく気になるために,希望により腫瘤摘出術が行われた.腫瘍は長径3cm・充実性→図3で,病理組織診断は線維腺腫(管内型)であった→図4,5.

4 放射状硬化性病変―70歳代女性

著者: 森谷卓也 ,   中島一毅

ページ範囲:P.937 - P.939

症例の概要

 70歳代前半,女性.乳がん検診で異状を指摘されたため,精査目的で来院した.マンモグラフィでは左乳房上外側領域に腫瘤状変化を伴う構築の乱れがあり,カテゴリー4と判断された→図1.乳房超音波検査では,左乳房の1.5時方向に7mm大の腫瘤像を認めた→図2.辺縁は粗ぞうで,周囲に構築の乱れを伴い,前方境界線はなめらかだが,断裂が疑われた.また,内部エコーは低く,後方エコーは減弱していた.一部にはつり上げ現象もみられ,内部の線維成分が多いことが示唆された.エラストグラフィでも明らかに硬い腫瘤として描出された→図3.カテゴリー診断は4で,硬癌の可能性が疑われた.ダイナミックMRIでは早期造影され,wash outされる腫瘤像を呈していた→図4.穿刺吸引細胞診ではアポクリン化生を混じる良性乳管上皮が採取され→図5,針生検では乳頭状病変と間質の硬化性変化を伴う良性病変が疑われた.しかし,臨床的に悪性を完全に否定できないため,病巣部のprobe lumpectomyが実施された.肉眼的には7×5mmの不整形で境界が不明瞭な充実性腫瘤で,脂肪組織を巻き込むとともに,白色調を帯びた既存の乳腺実質を分断,かつそれらを引き込むように増殖していた→図6.しかし,最終的な病理組織学的検索によって放射状硬化性病変(良性)の確定診断が得られた→図7~9.

5 浸潤性微小乳頭癌―50歳代女性

著者: 森谷卓也 ,   中島一毅

ページ範囲:P.940 - P.942

症例の概要

 50歳代,女性.検診マンモグラフィで左乳房A領域にスピキュラを伴う明瞭な腫瘤像を認めた.乳房超音波検査では,左乳房11方向にカテゴリー5の腫瘤像であった.腫瘤像周辺には構築の乱れを有し,ハローは明瞭ではないが,前方境界線の断裂がみられた→図1.内部エコーは充実性で脂肪よりも低く,一部点状高エコーを複数認めた.後方エコーは減弱しており,腫瘍後方組織がつり上がったようなアーチファクトが認められることから,腫瘍内部の音速がかなり早いことが推測された→図2.エラストグラフィでは硬く描出され,内部の線維成分の多さが示唆された.乳管内進展が疑われる所見もあることから,乳頭腺管癌成分を含む広義の硬癌が最も疑われた.MRIではスピキュラを伴う腫瘤で,早期に急速造影され,後期に内部不均一にwash outされた→図3.いずれの画像検査でも癌が疑われ,穿刺吸引細胞診で癌細胞が確認されたため→図4,乳房部分切除術および腋窩リンパ節郭清が施行された.肉眼的には,腫瘍は萎縮乳腺の脂肪組織内に存在する透明感を有する充実性腫瘍で,腫瘍辺縁の境界は不明瞭で,特に胸壁側では白色索状の構造を伴っていた.また,腫瘍中心に白色調の目立つ部が存在していた→図5.この構造は病理組織像にも反映されており,ルーペ像では中心部に硝子様線維化巣が認められた→図6.最終病理診断は浸潤性微小乳頭癌で,核異型は中等度→図7,リンパ管侵襲を中等度認め,腋窩リンパ節にも転移巣がみられた.

6 粘液癌―40歳代女性

著者: 森谷卓也 ,   中島一毅

ページ範囲:P.943 - P.945

症例の概要

 40歳代,女性.右乳房に腫瘤を自覚し来院.マンモグラフィでは乳腺濃度領域から突出するような,高濃度な多角形腫瘤があり,辺縁は微細分葉状でカテゴリー4と判断された.乳房超音波検査は,Bモードでは内部エコーが比較的均質で脂肪組織と区別が難しいが,よくみると多角形の腫瘤で,後方エコーはかなり増強していた→図1.ドプラ法では,多くはないが腫瘍内部に直線的なFlowをはっきりと認めた→図2.また,エラストグラフィでは周囲に比べかなり硬く,かつ均質な硬さをもった腫瘍と思われた→図3.造影MRIでは,早期から濃染され,漸像していく境界明瞭な腫瘤像であった.以上から乳癌疑いの診断で穿刺吸引細胞診を行い,粘液塊内に癌巣が浮遊する粘液癌の像を認めた→図4.手術標本の割面では,脂肪に囲まれるように境界が明瞭で分葉状の充実性腫瘍があり,その内部はゼラチン状を呈していた→図5.病理組織学的には純型の粘液癌で,粘液湖内に癌胞巣が浮遊していた→図6.核異型は中等,エストロゲン受容体陽性,HER2陰性であった.

7 腺筋上皮腫―50歳代女性

著者: 森谷卓也 ,   平川久 ,   中島一毅

ページ範囲:P.946 - P.948

症例の概要

 50歳代,女性.4年前に乳房のしこりを摘出され,乳管内乳頭腫と診断されていたが,最近腫瘤の再発を認めた.再度摘出が行われて,同様の診断であったが腫瘍の残存が疑われて再検査のため紹介受診となった.マンモグラフィでは左乳房に境界が明瞭な高濃度腫瘤がみられ,癌が疑われた→図1.超音波検査では,比較的境界平滑な分葉形の腫瘤像で,内部エコーは低エコーの部分が主であるが,等~高~無エコーの部が混在し,後方エコーは不変もしくはやや増強していた.前方境界線の断裂も疑われ,悪性を否定しえない像であった→図2,3.穿刺吸引細胞診では,一部に上皮のほつれがあり良悪性鑑別困難と判定され→図4,診断確定目的で摘出生検が施行された.病変は充実性の多結節性腫瘤→図5,6で,組織学的には腺上皮と筋上皮の2種類の細胞増生からなり,最終的に再発性の腺筋上皮腫(adenomyoepithelioma)→図7と診断された.

8 顆粒細胞腫―60歳代男性

著者: 森谷卓也 ,   中島一毅

ページ範囲:P.949 - P.951

症例の概要

 60歳代,男性.数年前から左乳房のしこりに気付いていた.4年前に穿刺吸引細胞診→図1と針生検で顆粒細胞腫(granular cell tumor)と診断された.悪性所見がないため経過をみていたが,今回摘出を希望され,手術が行われた.超音波検査Bモードでは,1時方向に12mm長径で多角形の腫瘤像を認め,周囲に構築の乱れを伴っていた.また,腫瘍周囲脂肪組織内にhalo様の像が存在し,悪性腫瘍が強く疑われた→図2.エラストグラフィでは,周囲より比較的硬い領域が認められるが,硬癌や浸潤性小葉癌に比べると比較的軟らかい印象であった→図3.また,ドプラ像ではこのサイズの悪性腫瘍にしてはほとんど血流が認められなかった→図4.病歴と合わせ,良性腫瘍や乳房内の器質化反応の可能性もあるが,画像上は癌を否定できない像であった.

 摘出標本では,脂肪組織と混在し境界が不明瞭な,12mmの白色充実性腫瘍であった→図5.組織学的には好酸性で顆粒状の豊富な胞体を有する腫瘍細胞が小胞巣を形成し増殖していた→図6.核は小型で異型に乏しく,異型はみられなかった.腫瘍細胞は免疫染色でS-100蛋白が陽性を示した→図7.

9 乳頭腺管癌―30歳代女性

著者: 森谷卓也 ,   鹿股直樹 ,   中島一毅

ページ範囲:P.952 - P.954

症例の概要

 30歳代,女性.検診で乳腺腫瘤を指摘されて精査が行われた.C領域に5mmの腫瘤を触れ,超音波検査では後方エコーの増強を伴う低エコー腫瘤があり,前方境界線の断裂も伴っておりカテゴリー4と判定された→図1,2.MRIでは,造影早期相より造影されwash outされる腫瘤で,内部の染色性がまだら状であり,硬癌が疑われた→図3.穿刺吸引細胞診→図4でも悪性の可能性が最も考えられたため,確定診断を兼ねて乳房部分切除術が行われた.肉眼的には灰黄白色・充実性の境界不明瞭な腫瘤→図5で,脂肪組織に浸潤を伴う浸潤性の癌であった→図6.腺管を形成する浸潤癌成分が主体で→図7,乳頭腺管癌(浸潤径6mm),グレード1,エストロゲン受容体陽性,HER2陰性と診断された.

10 非浸潤性乳管癌―40歳代女性

著者: 森谷卓也 ,   中川美名子 ,   中島一毅

ページ範囲:P.955 - P.957

症例の概要

 40歳代,女性.検診目的で乳房超音波検査を施行したところ,内部が一部粗ぞうな低~等エコー腫瘤を指摘された→図1,2.穿刺吸引細胞診を施行したところ,悪性(乳管癌,核異型高度)と判定された→図3.引き続き行われた針生検でも悪性(非浸潤性乳管癌)と診断された.MRIでも乳房内に広範な進展を示す癌の存在が疑われたため,乳房摘出術が施行された.摘出標本の肉眼像では明瞭な腫瘤ではなく,点状病巣の存在が疑われた→図4.組織像は篩型~コメド型の非浸潤性乳管癌で→図5,核異型中等度→図6,一部にコメド壊死を含むvan Nuys分類のGroup 2の癌であった→図6.浸潤癌成分やリンパ節転移はみられなかった.この癌はエストロゲン受容体,プロゲステロン受容体はともに陽性であった.

11 乳管内乳頭腫―70歳代女性

著者: 森谷卓也 ,   中島一毅

ページ範囲:P.958 - P.960

症例の概要

 70歳代,女性.乳がん検診で左乳房C領域に異常を指摘された.マンモグラフィでは同部に構築の乱れがありカテゴリー4,超音波検査では10時方向に構築の乱れを伴う不整形腫瘤ともみられる低エコー域が描出された→図1.エラストグラフィを施行したところ,周囲よりも明らかに硬く描出される腫瘤であることが確認できた→図2.穿刺吸引細胞診では良性の結果が得られた→図3が,画像上悪性(硬癌などの浸潤癌)を否定しえないため,病巣部の摘出生検が施行された.摘出腫瘍は長径10mm程度の白色充実性腫瘤→図4で,一部に間質の硬化を伴う乳管内乳頭状腫瘍であった→図5.上皮には二相性があり,一部にアポクリン化生細胞を混じていた→図6.乳管内乳頭腫(intraductal papilloma)と診断され,悪性の像は得られなかった.

12 管状癌―50歳代女性

著者: 森谷卓也 ,   中島一毅

ページ範囲:P.961 - P.962

症例の概要

 50歳代,女性.6年前に乳癌検診で異常を指摘されたが,確定的診断に至らず経過検察を行っていた.腫瘤増大する傾向にあり,穿刺吸引細胞診を行い悪性の疑い→図1,引き続き針生検で悪性(浸潤癌)の診断に至った.乳房超音波検査では境界不整,粗造なやや低エコーの腫瘤として描出され→図2,周囲にスピキュラを伴い,後方エコーは減弱,ハローも伴い,D/W比も高かった.エラストグラフィでも硬い腫瘤として描出された→図3.乳房円状部分切除術では,11mm長径の境界不明瞭な不整形腫瘤を認めており→図4,内部は膠原線維の増生とともに,小型均質な細胞が二相性を欠く管状腺管を形成し浸潤していた→図5.管状癌,グレード1,エストロゲン受容体陽性,プロゲステロン受容体陽性,HER2陰性,と診断された.リンパ節転移はみられなかった.

13 乳腺葉状腫瘍―50歳代女性

著者: 森谷卓也 ,   中島一毅

ページ範囲:P.963 - P.965

症例の概要

 50歳代,女性.右乳房にしこりを自覚した.超音波検査Bモードでは,境界明瞭で一部分葉状の腫瘤像があり,内部にスリット状の構造と後方エコーの増強を認めた→図1.エラストグラフィでは中心部に向かってやや硬くなっており→図2,葉状腫瘍が疑われた.カラードプラでは内部に豊富な血流を認めた→図3.穿刺吸引細胞診→図4でも結合組織性および上皮性混合腫瘍を疑う像であった.腫瘍の増大傾向があり,摘出手術が施行された.摘出腫瘍は長径5cmで,充実部のなかにスリット状~囊胞状の空隙を認めていた→図5.組織学的には,乳管成分と線維成分が混在して増殖する腫瘍で,葉状構造も散見された→図6.乳管上皮に異型はないが,間質の増生傾向が強く,間質細胞の増多,核分裂像(最大5/10HPF)の存在から境界悪性葉状腫瘍と診断された→図7.

14 乳腺悪性リンパ腫―50歳代女性

著者: 森谷卓也 ,   山本裕 ,   中島一毅

ページ範囲:P.966 - P.967

症例の概要

 50歳代,女性.右乳房の腫瘤に気づき来院.超音波検査では左5時方向に境界不明瞭で内部エコーが低下したカテゴリー4の充実性腫瘤を認めた→図1.穿刺吸引細胞診では多数の孤立性異型細胞が出現しており→図2,悪性の診断が下され乳房切除術が施行された.病巣は肉眼的に3cmの髄様・充実性軟の腫瘍があり→図3,組織学的には大型異型上皮のびまん性増生からなっていた→図4.細胞相互の接着性が低く,核・細胞質比の増大と核クロマチン増量,核小体の肥大を認め,免疫組織学的にはCD20陽性→図5,CD3陰性で,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断された.

15 浸潤性小葉癌―50歳代女性

著者: 森谷卓也 ,   山本裕 ,   中島一毅

ページ範囲:P.968 - P.970

症例の概要

 50歳代,女性.乳房腫瘤を自覚し来院.超音波検査では左乳房に充実性の低エコー腫瘤を認めた→図1.縦横比が大きく,境界部は不明瞭で,前方境界線は断裂しており,haloを伴っていた.後方エコーは減弱し,カテゴリー5とされた.エラストグラフィでは低エコー域全体に青色調が目立ち,歪みはみられなかった→図2.また,ドプラでは腫瘍周囲に豊富な血流を認め,浅部から腫瘍に入り込む血管を認めた→図3.針生検で浸潤性小葉癌と診断され,乳房摘出術が施行された.肉眼的には乳腺実質~脂肪織内に境界が不明瞭な充実性の,やや透明感を有する腫瘤がみられた→図4.組織学的には,脂肪組織を巻き込むように浸潤する,58mm以下の多発癌で→図5,豊富な間質内に均質な癌細胞が細い索状胞巣を形成していた→図6.癌細胞相互の結合性はやや緩く,ときに細胞質内に粘液産生もみられた.癌細胞はエストロゲン受容体・プロゲステロン受容体がともに陽性で,HER2は陰性であった.

16 乳腺線維症―70歳代女性

著者: 森谷卓也 ,   山本裕 ,   中島一毅

ページ範囲:P.971 - P.972

症例の概要

 70歳代,女性.左乳房A領域に腫瘤を指摘されて来院.超音波検査では左乳腺11時方向に境界不明瞭な低エコー腫瘤を認めた→図1.後方エコーは減弱し,前方境界線は保たれており,内部に点状高エコーはみられず,カテゴリー3とされた.画像上,癌が否定できないために針生検を施行したが,萎縮乳腺が採取されるのみであった.本人の希望もあり,probe lumpectomyが施行された.肉眼的には,長径約20mm,灰白色で硬い充実性の腫瘤であった→図2.病理組織学的には,硝子様の厚い膠原線維とともに,萎縮乳腺とごく少量の脂肪組織混在が認められた→図3.上皮に異型はみられず,乳管や小葉の周囲に炎症反応は目立たなかった.以上より乳腺線維症と診断された.さらに,強拡大像では,核が腫大した間質細胞が散在しており→図4,検査データを確認したところ血糖値およびHbA1cが高く,diabetic mastopathyの可能性が示唆された.

3章 甲状腺・副甲状腺

1 びまん性硬化型乳頭癌―20歳代女性

著者: 廣川満良 ,   樋口観世子 ,   太田寿

ページ範囲:P.974 - P.976

症例の概要

 20歳代,女性.前頸部腫瘤を主訴に来院した.超音波検査にて,甲状腺全体に微細多発性高エコーがみられた→図1.両側の外側区域リンパ節は多発性に腫大し,転移と考えられた.特に,左側では数珠状に腫大していた.胸部CTにて両側肺野に2~3mm大の転移巣がみられた.甲状腺の穿刺吸引細胞診で乳頭癌と診断され→図2,甲状腺全摘術+両側頸部リンパ節郭清術が行われた.組織学的には,びまん性硬化型乳頭癌→図5で,両側の広範な頸部リンパ節転移を伴っていた.術後,肺転移に対して,131I内用療法(100mCi)を行ったが,シンチグラフィにて取り込みはみられず,甲状腺刺激ホルモン(TSH)抑制療法で経過をみることになった.

2 硝子化索状腫瘍―50歳代女性

著者: 廣川満良 ,   樋口観世子 ,   太田寿

ページ範囲:P.977 - P.979

症例の概要

 50歳代,女性.3~5年前から甲状腺腫大を自覚していたが,他に症状がなかったため放置していた.最近,嚥下時の頸部違和感があり,来院した.超音波検査にて右葉に53×26×33mm大の結節がみられ,穿刺吸引細胞診にて硝子化索状腫瘍と診断され,甲状腺亜全摘が行われた.

3 髄様癌―70歳代男性

著者: 廣川満良 ,   樋口観世子 ,   太田寿

ページ範囲:P.980 - P.982

症例の概要

 70歳代,男性.検診の超音波検査にて,甲状腺右葉に結節を指摘され,来院した.当院の超音波検査・穿刺吸引細胞診にて髄様癌が疑われた.血清カルシトニン55.0pg/mL,CEA 1.8ng/mLと高値を示さなかったが,再度行った穿刺吸引細胞診の穿刺針洗浄液のカルシトニン値は32×104pg/mLであった.カルシウム負荷試験の5分値は650.0pg/mLと有意な上昇を認めた.右葉峡部切除が行われ,病理学的に髄様癌と診断された.RET遺伝子変異は認められなかった.術後2年間再発・転移の徴候はない.

4 MALTリンパ腫―70歳代女性

著者: 廣川満良 ,   樋口観世子 ,   太田寿

ページ範囲:P.983 - P.985

症例の概要

 70歳代,女性.7年前から橋本病にて甲状腺ホルモン補充療法を受けていたが,甲状腺右葉に結節性病変が出現したため当院に紹介された.来院時,甲状腺はやや硬く,びまん性に腫大し,右葉は腫瘤状であった.遊離サイロキシン(FT4):0.7(0.7~1.6)ng/dL,遊離トリヨードサイロニン(FT3):2.8(1.7~3.7)pg/mL,甲状腺刺激ホルモン(TSH):6.6(0.3~5.0)μIU/mLとやや潜在性甲状腺機能低下で,抗サイログロブリン抗体(TgAb):4,000以上(0~39.9)IU/mL,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb):51.6(0~27.9)IU/mLと抗甲状腺自己抗体陽性にて橋本病を確認した.超音波検査,細胞診にて悪性リンパ腫の合併が疑われ,甲状腺全摘術が行われた.右葉結節のリンパ球はCD45ゲーティングにてL鎖の偏り,Gバンド分染法にて染色体異常(47,XX+7),サザンブロット法にてJH遺伝子再構成が認められた.

5 広汎浸潤型濾胞癌―60歳代男性

著者: 廣川満良 ,   樋口観世子 ,   太田寿

ページ範囲:P.986 - P.989

症例の概要

 60歳代,男性.検診にて多発性肺結節と甲状腺腫瘤を指摘され来院した.超音波検査にて甲状腺左葉に36mm大の結節がみられ,同部位の穿刺吸引細胞診から濾胞性腫瘍が疑われた.遊離サイロキシン(FT4):1.2(0.7~1.6)ng/dL,甲状腺刺激ホルモン(TSH):0.8(0.3~5.0)μIU/mL,サイログロブリン:244.0(0~35)ng/mLであった.胸部CTにて両側肺野に多発性結節陰影が認められたため,濾胞癌の肺転移が疑われ甲状腺全摘術が施行された.

6 過形成性結節を伴う橋本病―20歳代女性

著者: 廣川満良 ,   樋口観世子 ,   太田寿

ページ範囲:P.990 - P.992

症例の概要

 20歳代,女性.1年前,会社検診にて甲状腺腫大を指摘されるも放置していた.感冒を機会に来院し,触診にて,左葉に20mm大の結節を触知した.生化学検査では,遊離サイロキシン(FT4):1.04(0.7~1.6)ng/dL,遊離トリヨードサイロニン(FT3):2.86(1.7~3.7)pg/mL,甲状腺刺激ホルモン(TSH):3.318(0.3~5.0)μIU/mL,サイログロブリン:27.0(0~35)ng/mL,抗サイログロブリン抗体(TgAb):2825.0(0~39.9)IU/mL,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb):322.0(0~27.9)IU/mLであった.超音波検査にて,右葉に12mm大,左葉に25mm大の結節がみられ,穿刺吸引細胞診にて,右葉結節が乳頭癌,左葉結節が良性と診断され,甲状腺全摘術+頸部リンパ節郭清術が行われた.組織学的には,橋本病を背景に,右葉結節が乳頭癌,左葉結節が過形成性結節であった.

7 甲状腺内副甲状腺腺腫―50歳代女性

著者: 廣川満良 ,   樋口観世子 ,   太田寿

ページ範囲:P.993 - P.995

症例の概要

 50歳代,女性.アルカリホスファターゼと副甲状腺ホルモン(PTH)が高値のため,精査加療目的で来院した.血液生化学検査では,甲状腺機能に異常はなく,intact PTH:172pg/mL(15~70pg/mL),アルカリホスファターゼ:444IU/L(105~340IU/L),カルシウム:11.3mg/dL(8.2~10.2mg/dL)であった.超音波検査にて,甲状腺の背側や尾側に腫大した副甲状腺はみられず,甲状腺右葉下極内に12×3×5mm大の結節がみられた.甲状腺右葉結節の穿刺吸引細胞診にて,PTH陽性の上皮性細胞がみられ,穿刺針洗浄液のintact PTHが5,000pg/mLと高値であったことから,甲状腺内副甲状腺腺腫と診断され,甲状腺右葉部分切除が行われた.術後,血清カルシウムおよびintact PTH値は改善を示した.

8 サイログロブリン遺伝子異常症―30歳代女性

著者: 廣川満良 ,   樋口観世子 ,   太田寿

ページ範囲:P.996 - P.998

症例の概要

 30歳代,女性.生下時から甲状腺腫大が認められた.約10年前に甲状腺腫大が目立つようになり,当院を受診した.dyshormonogenetic goiter(後述)が疑われ,経過観察されていた.甲状腺機能検査では,遊離サイロキシン(FT4):0.53(0.7~1.6)ng/dL,遊離トリヨードサイロニン(FT3):2.71(1.7~3.7)pg/mL,甲状腺刺激ホルモン(TSH):4.059(0.3~5.0)μIU/mL,サイログロブリン:4.8ng/mL(0~35)ng/mL,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb):≦0.3(0~27.9)IU/mLであった.放射性ヨード摂取率は2時間値で50.8%,パークロレート放出試験は放出率1.7%と陰性であった.超音波検査では,甲状腺は著明に腫大し,推定重量は185gであった.甲状腺内には多発性の結節性病変がみられた.それらの結節は形状整で,等からやや低エコーを示し,均質な内部構造を示す充実部が多く,一部は囊胞化と思われる無エコー部が混在するものもみられた.甲状腺実質はやや不均質で,ドプラ法では,血流シグナルが著明に増加していた.結節部および非結節部の穿刺吸引細胞診が行われ,いずれも良性と判断された.多結節性病変を含む著明な甲状腺腫大の原因として,遺伝子検査にてホモのミスセンス変異(Cys 1264 Arg)を認めたため,甲状腺全摘術が行われた.

9 篩型乳頭癌―20歳代女性

著者: 廣川満良 ,   樋口観世子 ,   太田寿

ページ範囲:P.999 - P.1001

症例の概要

 20歳代,女性.会社の検診で甲状腺腫を指摘された.近医にて左甲状腺腫瘍と診断され,当院に紹介された.甲状腺機能検査では,遊離サイロキシン(FT4):0.79(0.7~1.6)ng/dL,甲状腺刺激ホルモン(TSH):0.312(0.3~5.0)μIU/mL,サイログロブリン:11.7(0~35)ng/mL,抗サイログロブリン抗体(TgAb):≦0.3(0~39.9)IU/mLであった.超音波検査では,甲状腺左葉に多発性結節が認められた.上極の結節は29×19×20mm大,充実性,形状は不整で,境界は一部が粗雑であった.内部のエコーレベルは低でやや不均質,微細高エコー像は観察されなかった.また,後方エコーの増強がみられた.ドプラ法では,結節内部および周辺の血流シグナルは乏しかった.下極の結節は14×12×14mm大で,形状整,辺縁平滑であった.内部のエコーレベルはやや低で不均質であった.超音波診断は上極の結節は濾胞癌の疑い,下極の結節は腺腫様甲状腺腫であった.左葉上極結節の穿刺吸引細胞診が行われ,篩型乳頭癌と診断され,甲状腺全摘術と中央リンパ節郭清が行われたが,リンパ節転移は認められなかった.また,遺伝子検査にてAPC遺伝子異常が認められ,大腸には最大径20mm大までのポリープが多発していた.

10 高細胞型乳頭癌の穿刺経路再発―60歳代女性

著者: 廣川満良 ,   樋口観世子 ,   久保田真理子

ページ範囲:P.1002 - P.1004

症例の概要

 60歳代,女性.約半年前,右頸部腫瘤を自覚し,他院にて甲状腺乳頭癌と診断後,当院にて甲状腺全摘術と右頸部リンパ節郭清が行われた.乳頭癌は高細胞型で,胸鎖乳突筋および輪状甲状筋に浸潤していた.2年後,右頸部皮下に結節性病変が出現したため再診した.血液生化学検査では,遊離サイロキシン(FT4):1.23(0.7~1.6)ng/dL,甲状腺刺激ホルモン(TSH):0.996(0.3~5.0)μIU/mL,サイログロブリン:<0.5(0~35)ng/mL,抗サイログロブリン抗体(TgAb):376.4(0~39.9)IU/mLであった.超音波検査では,右頸部皮下に5×4×4mm大の,形状やや不整で,内部均質な充実性結節が観察された.ドプラ法では,結節内に血流シグナルは観察されなかった.皮下結節の穿刺吸引細胞診が行われ,乳頭癌と診断された.塗抹後の穿刺針を0.5mLの生理食塩水で洗浄した検体のサイログロブリン値は31.2ng/mLであった.穿刺経路再発の診断にて皮下結節の摘出術が施行された.

11 大濾胞型乳頭癌―40歳代男性

著者: 廣川満良 ,   樋口観世子 ,   久保田真理子

ページ範囲:P.1005 - P.1007

症例の概要

 40歳代,男性.検診にて甲状腺左葉に結節を触知された.甲状腺機能検査では,遊離サイロキシン(FT4):1.06(0.7~1.6)ng/dL,遊離トリヨードサイロニン(FT3):2.93(1.7~3.7)pg/mL,甲状腺刺激ホルモン(TSH):1.431(0.3~5.0)μIU/mL,サイログロブリン:23.6(0~35)ng/mLであった.超音波検査では,甲状腺左葉に34×23×32mm大の形状整,境界明瞭平滑な結節性病変が認められた.結節内は均質等エコーで,囊胞を思わせる無エコー部が混在していた.乳頭癌にしばしばみられる微細高エコーは観察されなかった.ドプラ法では,結節内部および辺縁の血流シグナルは存在するものの著明な増加はなかった.超音波検査では腺腫様結節あるいは濾胞性腫瘍が疑われたが,穿刺吸引細胞診にて乳頭癌と診断され,甲状腺全摘術が行われた.

12 甲状腺微小癌―60歳代女性

著者: 廣川満良 ,   延岡由梨 ,   大下真紀

ページ範囲:P.1008 - P.1011

症例の概要

 60歳代,女性.検診の超音波検査にて,両側甲状腺腫瘤を指摘され,来院した.末梢血検査では遊離サイロキシン(FT4):0.92(0.7~1.6)ng/dL,甲状腺刺激ホルモン(TSH):1.721(0.3~5.0)μIU/mL,サイログロブリン:49.9(0~35)ng/mL,抗サイログロブリン抗体(TgAb):≦28.0(0~39.9)IU/mLであった.超音波検査では,甲状腺両葉に多発性の結節がみられた.左葉中央にみられる結節は,5×3×4mm大で,形状はやや不整,境界は不明瞭粗雑,内部は低エコー・均質で,微小癌が疑われた.穿刺吸引細胞診にて乳頭癌と診断され,微小癌のため経過観察が推奨されるも,本人の希望で左葉峡部切除術および中央区域リンパ節郭清が行われた.

13 腺腫様結節―40歳代男性

著者: 廣川満良 ,   鈴木彩菜 ,   美濃寛子

ページ範囲:P.1012 - P.1015

症例の概要

 40歳代,男性.2年前職場健診にて甲状腺結節を指摘され,細胞診で良性と言われたため,経過観察中であった.今回の健診で甲状腺の結節が大きくなっており,胸部X線写真で気管偏位を指摘されたことに加え,咽頭部違和感があったため来院した.初診時,右葉に65mmの結節を触知した.甲状腺機能検査では,遊離サイロキシン(FT4):1.14(0.7~1.6)ng/dL,遊離トリヨードサイロニン(FT3):3.30(1.7~3.7)pg/mL,甲状腺刺激ホルモン(TSH):1.347(0.3~5.0)μIU/mL,サイログロブリン:32.4(0~35)ng/mLであった.

 超音波検査では,甲状腺の右葉をほぼ占める57×25×41mm大の結節がみられた.結節の形状は整で,境界は明瞭・平滑であった.結節内部の上極側2/3には後方エコーの増強を伴う無エコー域が,下極側1/3には均質な等エコー域(充実部)がみられた.ドプラ法では,結節辺縁部とその周囲に血流シグナルがわずかに観察された.

 細胞診にて粘稠な血性コロイド約51mLを排液し,良性囊胞と診断された.囊胞が大きく,気管圧排があることから,右葉切除が行われた.

14 バセドウ病―20歳代女性

著者: 廣川満良 ,   鈴木彩菜 ,   武内麻衣

ページ範囲:P.1016 - P.1018

症例の概要

 20歳代,女性.10年前にバセドウ病と診断され,抗甲状腺薬(チアマゾール)による治療を受けていた.超音波検査では,甲状腺はびまん性に腫大し,峡部厚は18mmで,推定重量は100.6cm3であった.内部の性状はやや粗雑で,エコーレベルはやや低かった.ドプラ法では甲状腺実質の血流シグナルが豊富に認められた.甲状腺血流定量測定では17.2%であった.生化学検査では,遊離サイロキシン(FT4):4.48(0.7~1.6)ng/dL,遊離トリヨードサイロニン(FT3):≧30.00(1.7~3.7)pg/mL,甲状腺刺激ホルモン(TSH):<0.003(0.3~5.0)μIU/mL,抗甲状腺刺激ホルモン受容体抗体(TRAb):32.5(0.0~1.9)IU/L,抗サイログロブリン抗体(TgAb):≦28.0(0~39.9)IU/mL,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb):≧600.0(0~27.9)IU/mLであった.今回,甲状腺腫が大きいため,甲状腺全摘術が行われた.

15 腎癌の転移―60歳代男性

著者: 廣川満良 ,   鈴木彩菜 ,   村田直

ページ範囲:P.1019 - P.1021

症例の概要

 60歳代,男性.3カ月前から咽頭の違和感があった.他院にて甲状腺右葉に腫瘤を指摘され,当院を紹介された.1年前,肺転移を伴う腎癌と診断され,腎摘出術の既往がある.触診にて,甲状腺右葉に結節性病変を触知した.移動性はよく,気管との癒着はなかった.超音波検査にて,甲状腺右葉に融合傾向を示す多結節性病変がみられた.結節は全体で62×33×36mm大で,内部エコーはやや低く,不均質であった.ドプラ法にて結節内の血流は結節により様々であった.細胞診にて,腎癌の転移と診断され,甲状腺右葉峡部切除および右頸部リンパ節郭清が行われた.

16 甲状舌管囊胞―5歳男児

著者: 廣川満良 ,   高田奈美 ,   太田寿

ページ範囲:P.1022 - P.1024

症例の概要

 5歳,男児.左前頸部の腫張疼痛を繰り返すため,当院を受診した.生化学検査にて,甲状腺機能には異常はなかった.超音波にて,甲状腺上部やや左よりに扁平な囊胞性病変(12×4mm)がみられた.穿刺吸引細胞診で扁平上皮細胞がみられた.穿刺針洗浄液のCEA値は185ng/L,アミラーゼは69IU/Lであった.奇形腫,梨状窩瘻,甲状舌管囊胞などが疑われ,囊胞摘出術が施行された.

17 副甲状腺囊胞―60歳代女性

著者: 廣川満良 ,   高田奈美 ,   藤本智子

ページ範囲:P.1025 - P.1027

症例の概要

 60歳代,女性.前頸部腫張を自覚し,来院した.生化学検査にて甲状腺機能に異常はなかった.超音波検査にて,甲状腺右葉に石灰化を伴う20mm大の充実性結節が,左葉下極側に63×30×58mm大の囊胞性病変がみられた.穿刺吸引細胞診にて,右葉の結節は乳頭癌と診断された.左葉の囊胞液は淡褐色調で,HS-PTHは31,629pg/mLであった.乳頭癌および副甲状腺囊胞の診断にて,甲状腺全摘術,副甲状腺囊胞摘出術が行われた.

18 副甲状腺癌―50歳代女性

著者: 廣川満良 ,   山尾直輝 ,   鳥本多恵子

ページ範囲:P.1028 - P.1030

症例の概要

 50歳代,女性.健診で甲状腺腫瘍を指摘され,当院を紹介された.触診にて,甲状腺右葉下極に硬い結節性病変を触知した.超音波検査にて,甲状腺右葉下極に34×22×15mm大,形状は不整で辺縁が分葉状,内部エコーレベルの低い結節性病変がみられた.穿刺吸引細胞診では,副甲状腺由来の腫瘍が考えられた.生化学検査では,遊離サイロキシン(FT4):1.24(0.7~1.6)ng/dL,甲状腺刺激ホルモン(TSH):0.876(0.3~5.0)μIU/mL,サイログロブリン:8.0(0~35)ng/mL,抗サイログロブリン抗体(TgAb):≦28.0(0~39.9)IU/mL,i-PTH:117pg/mL(15~70pg/mL),カルシウム:11.5mg/dL(8.2~10.2mg/dL)であった.副甲状腺癌の診断にて,甲状腺右葉切除術が行われた.

4章 リンパ節・唾液腺ほか

1 ワルチン腫瘍―70歳代男性

著者: 樋口佳代子

ページ範囲:P.1032 - P.1033

症例の概要

 74歳,男性.ブリンクマン指数(喫煙):10(本)×54(年)=540

 2年前より左顎角部後方に10mm大の腫瘤を認めていたが増大したため受診.左顔面神経麻痺は認めず.超音波では左耳下腺に接して径48.3×19.4×15.7mm,不整形の低エコーの腫瘤を認めた.境界明瞭,辺縁平滑,後方エコー増強,内部エコーは不均一で充実性の部分と囊胞状部分がみられた→図1A.ドプラエコーでは充実部分に血流を認めた→図1B.吸引細胞診にてワルチン腫瘍と診断され→図2,腫瘍および浅葉部分切除が施行された.

2 多形腺腫―50歳代女性

著者: 森永正二郎 ,   中嶋純子 ,   林規隆 ,   茂木章子

ページ範囲:P.1034 - P.1036

症例の概要

 50歳代,女性.9年前より左耳下部に腫瘤を自覚するようになり,少しずつ大きさが増大してきたため当院を受診した.超音波検査でワルチン腫瘍が疑われ,穿刺吸引細胞診では扁平上皮化生を伴う多形腺腫が疑われた.左耳下腺浅葉切除術が施行され,最終的に多形腺腫と診断された.

3 唾液腺導管癌―60歳代男性

著者: 森永正二郎 ,   中嶋純子 ,   林規隆 ,   茂木章子

ページ範囲:P.1037 - P.1039

症例の概要

 60歳代,男性.咳を主訴として来院した.血清CEAが13.2ng/mLと上昇しており,CTでは肺にスリガラス状陰影(ground glass opacity,GGO)が認められた.ところがPETを施行したところ,肺のGGOには有意な所見はなく,右耳下腺にFDG集積を示す腫瘤が見いだされた.超音波検査で悪性腫瘍が疑われ,穿刺吸引細胞診で悪性と判定されたため,左耳下腺全摘術が施行された.切除組織は唾液腺導管癌と診断された.多形腺腫の成分は認められず,de novo癌と判断された.なお,肺のGGO病変に関しては,後に手術が行われ,耳下腺腫瘍とは無関係な原発性肺腺癌と診断された.

4 後腹膜に発生したパラガングリオーマ―70歳代男性

著者: 柴﨑洋子 ,   秋田英貴 ,   鄭子文

ページ範囲:P.1040 - P.1042

症例の概要

 70歳代,男性.肝機能障害(γ-GTP高値)のため近医で経過観察中に,腹部腫瘤を指摘され,精査目的で当院を受診した.高血圧および糖尿病の既往はない.頭痛や多汗などの自覚症状はなく,入院時検査で高血圧(153/96mmHg),高血糖(175mg/dL),血中カテコールアミンの上昇(アドレナリン0.64ng/mL,ノルアドレナリン1.30ng/mL,ドーパミン0.03ng/mL),尿中メタネフリン高値(1.80mg/day)および尿中ノルメタネフリン高値(0.91mg/day)を指摘された.超音波検査→図1,2,腹部CTなどで,腹部大動脈右方に境界明瞭な充実性腫瘍を認めた.以上から,右後腹膜腫瘍の診断で腫瘍摘出術が施行された.病変は4.0×3.0×2.7cm大,全周性に線維性被膜を有し境界明瞭な黄白色軟の腫瘤で,一部暗赤色調を呈していた.囊胞変性はみられなかった→図3.組織診では,好酸性ないし淡明な細胞質を有し,核の大小不同や目立つ核小体を伴う腫瘍細胞が,充実性あるいは胞巣状に増殖するZellballen配列を呈していた.核分裂像は目立たなかった.間質成分は乏しく出血を伴っていた→図4,5.被膜浸潤はなく,脈管侵襲や転移は認められなかった.免疫組織化学的検索で,神経内分泌マーカーであるchromogranin A,synaptophysin,CD56,neuron specific enolase(NSE)が腫瘍細胞の胞体に陽性であった.捺印細胞診では,類円形の腫瘍細胞が散在性から一部小集塊で認められ,核に大小不同や大型核がみられ,クロマチンは顆粒状であった→図6.以上の所見より,パラガングリオーマと診断した.現在,当院外来にて経過観察中で,再発を認めない.

5 悪性リンパ腫(濾胞性リンパ腫)―70歳代男性

著者: 介川雅之 ,   鈴木由美 ,   手島伸一 ,   田野崎栄

ページ範囲:P.1043 - P.1045

症例の概要

 70歳代,男性.右腋窩腫瘤に気づき他院を受診,同部の多発性腫瘤と可溶性IL-2レセプター1,310U/mLと高値のため悪性リンパ腫疑いで当院紹介となった.超音波検査では61×40mmや35mm大の内部が低エコーの腫瘤が数個集簇してみられた.超音波ガイド下穿刺吸引細胞診が施行され,中型や大型の異型リンパ球を多数認め,悪性リンパ腫を強く疑った.35mm大のリンパ節が摘出され,濾胞性リンパ腫grade 3aと診断された.

6 悪性リンパ腫(末梢性T細胞リンパ腫,非特定型)―60歳代男性

著者: 介川雅之 ,   鈴木由美 ,   手島伸一 ,   田野崎栄

ページ範囲:P.1046 - P.1048

症例の概要

 60歳代,男性.頸部腫脹を認め当院受診.超音波検査で頸部リンパ節に32×17mm大までの血流豊富な低エコーを示す腫瘤を認め,悪性が疑われた.穿刺吸引細胞診では,小型から中型の異型リンパ球とともに組織球様の細胞や類上皮細胞様細胞を認めた.悪性リンパ腫が疑われ,結核やサルコイドーシスが鑑別診断として挙がった.頸部リンパ節摘出術が施行され,末梢性T細胞リンパ腫,非特定型(not otherwise specified,NOS)と診断された.

7 甲状腺乳頭癌のリンパ節転移―40歳代女性

著者: 廣川満良 ,   樋口観世子 ,   鳥本多恵子

ページ範囲:P.1049 - P.1051

症例の概要

 40歳代,女性.5年半前,甲状腺乳頭癌にて甲状腺全摘術・頸部リンパ節郭清を受けた既往がある.超音波検査にて,右鎖骨上窩のⅥリンパ節が23×13×21mm大に腫大していた.リンパ節の形状は整で,内部には無エコー領域が多発性に存在し,ドプラ法にて血流シグナルがみられないことから,多発性囊胞と考えられた.囊胞間の充実部には血流シグナルがわずかに観察された.細胞診では,褐色調の液状検体が採取され,甲状腺乳頭癌の転移と診断された.穿刺針洗浄液のサイログロブリン値は1,000ng/mL以上であった.一方,血清サイログロブリン値は3.6ng/mLであった.

8 リンパ節の反応性病変―20歳代男性

著者: 浅井さとみ ,   中村直哉 ,   大上研二 ,   小川吉明 ,   宮地勇人

ページ範囲:P.1052 - P.1054

症例の概要

 20歳代,男性.主訴は頸部リンパ節腫脹.2週間持続する左頸部リンパ節腫脹のため当院受診.CT検査で両側頸部,両側鎖骨上窩,腋窩,鼠径部に複数のリンパ節腫脹を認め,臨床的に悪性リンパ腫が疑われた.表在超音波検査でも,上記部位に腫脹したリンパ節を複数認めた.受診後4週間後も軽快しないため,左頸部リンパ節(最大サイズ)生検組織検査が施行された.

5章 心臓

1 心臓粘液腫―50歳代男性

著者: 常深あきさ ,   手島保 ,   中原秀樹 ,   田中道雄

ページ範囲:P.1056 - P.1058

症例の概要

 50歳代,男性.呼吸困難・咳嗽を主訴に来院した.胸部X線では肺門中心に両肺の肺うっ血を認め,心電図は洞調律で左房負荷を認めた.心エコーでは,左房内に径42×31mmの腫瘤を認めた.腫瘤は内部に無エコー部を有し,拡張期に僧帽弁に陥入するような動きがみられ,左房粘液腫が疑われた.心房中隔に茎を有する左房内腫瘍を手術的に切除した.手術材料では,腫瘍は40×40×25mmで,14×6×2mmの茎を有していた.組織学的には心臓粘液腫であり,粘液基質中に粘液腫細胞が増生していた.

2 アミロイドーシス―60歳代女性

著者: 田中道雄 ,   常深あきさ ,   高野誠 ,   江里口貴久 ,   辰本明子 ,   手島保

ページ範囲:P.1059 - P.1061

症例の概要

 60歳代,女性.呼吸苦を主訴に来院し,急性心不全の診断で救急入院.胸部X線では両肺野の高度うっ血,著明な心拡大を認め,心電図では異常Q波(V1~4),心室性期外収縮の多発,肢誘導の低電位を認めた.心エコーでは,心室壁厚の増加,心室中隔を主体とする輝度の亢進,拘束性のパターンが認められた.冠動脈造影は正常,左室圧および右室圧は拡張期にdip and plateauを示した.右室心内膜心筋生検でアミロイドの沈着を比較的多量に認めた.免疫電気泳動でλ型軽鎖増加,血中γグロブリンは増加なく,Bence-Jones蛋白陰性.胃十二指腸生検でもアミロイド沈着がみられ,全身性ALアミロイドーシスと診断した.化学療法を施行するも,心不全の悪化を主体に,約9か月の経過で死亡.

3 僧帽弁逸脱症―60歳代男性

著者: 田中道雄 ,   常深あきさ ,   井下尚子 ,   川口悟 ,   中原秀樹 ,   手島保

ページ範囲:P.1062 - P.1064

 60歳代,男性.高血圧の既往.6年前の胸部X線で心拡大あり,心エコーで僧帽弁逸脱症と診断.2年前より呼吸困難感が増悪.1年前の心エコーで,左室拡張期径/収縮期径(LVDd/Ds)66.2mm/39.6mm,駆出率(EF)70%,僧帽弁閉鎖不全(MR)中等度.今回労作時息切れが増悪し(NYHAIII度),手術のため入院.心エコーでは,僧帽弁後尖の中央に逸脱を認め,中等度以上の逆流を認めた.僧帽弁後尖のmiddle scallop(中央の弁葉:後尖は三つの弁葉に分かれている)を菱形切除し,さらに僧帽弁形成術(弁輪縫縮術)を施行.切除弁は浮腫性線維性に肥厚(2.8mm)し,軟らかく,粘液腫様変性(myxomatous degeneration)の所見を呈していた.

4 閉塞性肥大型心筋症(HOCM)―20歳代男性

著者: 田中道雄 ,   原光彦 ,   常深あきさ ,   高野誠 ,   田辺康宏 ,   手島保

ページ範囲:P.1065 - P.1067

症例の概要

 20歳代,男性.父が突然死.中学1年の学校検診で心雑音と心電図異常(左軸偏位,Ⅰ,Ⅱ,Ⅴ5,Ⅴ6のST低下)を指摘され,心エコーで著明な非対称性中隔肥厚(asymmetric septal hypertrophy,ASH)と僧帽弁収縮期前方運動(systolic anterior motion,SAM)が認められ肥大型心筋症と診断された.βブロッカー(インデラル®30mg/日)内服と運動制限を指示され,無症状で経過していたが,入院当日に姉が帰宅時に心肺停止状態の患者を発見.救急車到着時には心室細動で,直流除細動とエピネフリン投与を行ったが心室細動は持続.入院後に経皮的心肺補助装置,大動脈バルーンパンピング,抗不整脈剤静注,星状神経節ブロック,一時ペーシング,頻回の除細動を行って心室細動は停止.循環動態は改善せず,播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation,DIC)を併発して第3病日に死亡した.剖検にて,ASH・中隔線維帯・心筋線維の錯綜配列(disarray)がみられた.

5 巨大Chiari network―70歳代女性

著者: 田中道雄 ,   常深あきさ ,   八丸剛 ,   中原秀樹 ,   手島保

ページ範囲:P.1068 - P.1070

症例の概要

 70歳代,女性.15~20年前に息苦しさ,2年前に不整脈があった.今回,大腸癌術後小腸狭窄の術前検査で,心電図上右脚ブロック,心エコーで右房内腫瘍を指摘された.腫瘍は可動性に富み,大きさは3cm前後,低エコーで,一部が高輝度の線状に描出され,中隔に付着していた.下大静脈に腫瘍は認められず,EF(ejection fraction)74%と壁運動障害なし.胸部CTで冠動脈に異常はなかった.術中所見では,冠状静脈洞周囲の右房壁に付着する網状膜状物(広げると4~5cm大)を認め,これを付着部から切除した.疣贅や血栓なし.切除物は,32×30×9mm大で,組織所見では,弾性線維を主体として,心筋細胞の小集簇・小血管が混在しており,Chiari networkと診断した.

6 いわゆる“虚血性心筋症”―70歳代男性

著者: 田中道雄 ,   常深あきさ ,   梅田茂明 ,   北條林太郎 ,   石川妙 ,   手島保

ページ範囲:P.1071 - P.1073

症例の概要

 70歳代,男性.高脂血症,糖尿病性腎症の既往.2年前に心不全あり,他院で拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy,DCM)として治療.当院でカテーテル検査を施行し,3枝狭窄(100%狭窄)が認められ,いわゆる“虚血性心筋症”と診断.慢性心房細動・心室頻拍あり,ペースメーカーを植え込む.死亡2カ月前に心胸比65%.心エコーで心内腔拡大,駆出率(ejection fraction,EF)30%.MRSA肺炎・敗血症を合併し,心不全悪化・急性腎不全をきたし,三尖弁の感染性心内膜炎を併発し死亡.剖検で左室主体の房室拡張と冠動脈硬化症(3枝とも95%以上狭窄)を確認.左室全周性に心内膜下小型瘢痕が多発し,後壁中部や前壁下部にほぼ貫壁性の小型陳旧性梗塞を認めた.

7 大動脈弁輪拡張症に伴う大動脈解離―40歳代男性

著者: 田中道雄 ,   常深あきさ ,   倉田盛人 ,   伊藤聡彦 ,   渡邉正純 ,   中原秀樹 ,   石川妙 ,   手島保

ページ範囲:P.1074 - P.1076

症例の概要

 40歳代,男性.2年前の健診で,心電図異常・心雑音.事務仕事中,突然胸痛と呼吸苦が出現し,急性左心不全で救急入院.拡張期雑音,心電図でV4~V6,Ⅱ,Ⅲ,aVFのST低下,心エコーで上行大動脈高度拡大(径60mm),高度大動脈弁閉鎖不全を認め,内部にフラップ(flap:解離した内膜および中膜の一部)様組織がみられた.準救急的大動脈基部置換術中所見では,弁輪部内膜の全周性亀裂から解離が中枢側に進行し,双方の冠動脈口に及び,交連を含めた大動脈弁が脱落していた.弁付着部を含めて切除(Bentall手術)し,術後経過は順調.組織学的に中膜弾性線維は不規則に脱落し,囊胞状中膜変性が多数存在し,大動脈弁には粘液腫様変性を認めた.

8 三尖弁の感染性心内膜炎―60歳代男性

著者: 田中道雄 ,   常深あきさ ,   遠山怜 ,   山本浩平 ,   田辺康弘 ,   手島保

ページ範囲:P.1077 - P.1079

症例の概要

 60歳代,男性.40年前より糖尿病.8カ月以上,狭心症・うっ血性心不全・閉塞性動脈硬化症・心室性頻拍あり.冠動脈造影で3枝狭窄,心エコーで駆出率35~45%.バイパス術後も心室頻拍・低心機能がみられ,ICD(implantable cardioverter defibrillator:植込み型徐細動器)を植込む.その後右母趾潰瘍を生じ,CRP陽性となり抗菌薬を内服するも,炎症反応高値,39℃の熱発あり,血液培養でメチシリン感受性黄色ブドウ球菌陽性.心エコーで,三尖弁に可動性のある2×1cm大の疣贅(vegetation)を認めた.心室頻拍・低血圧に伴う心不全と誤嚥性肺炎を生じ死亡.剖検で,三尖弁後尖に23×13×5mm(後尖の約半分を占める),腱索に13×4×3mmの黄色調疣贅を認め,組織学的にグラム陽性球菌を確認した.

9 心筋梗塞―70歳代男性

著者: 刑部弥生 ,   高橋保裕 ,   手島伸一

ページ範囲:P.1080 - P.1082

症例の概要

 70歳代,男性.40歳代に急性心筋梗塞で冠動脈バイパス術を受けた.60歳代にグラフトの閉塞が確認され,以後心不全で数回の入退院を繰り返している.死亡2カ月前から息切れの増悪と下肢浮腫が認められた.心カテーテル検査では,右冠動脈中間部完全閉塞,左下行枝中間部完全閉塞,回旋枝近位部亜完全閉塞を認めた.心エコーでは全周性に壁運動が低下し,前壁中隔と下壁~後壁の壁エコーの輝度の上昇と菲薄化がみられ,陳旧性心筋梗塞を認める.右冠動脈の血行再建を試みるも,心不全が増悪し死亡した.剖検では,左心室前壁,後壁,下壁に古い梗塞巣,心室中隔に新鮮な梗塞巣を認めた.左右の冠動脈は著明なアテロームで,内腔はほとんど閉塞していた.

6章 肝胆膵脾

1 肝細胞癌―70歳代女性

著者: 内藤善哉

ページ範囲:P.1084 - P.1086

症例の概要

 70歳代,女性.慢性C型肝炎にて内科通院中に肝右葉(S6)に肝細胞癌を指摘され,肝S6亜区域切除術が施行されたところ44×33mmの中分化型肝細胞癌であった.

2 肝内胆管癌―50歳代女性

著者: 内藤善哉 ,   許田典男 ,   山初和也

ページ範囲:P.1087 - P.1089

症例の概要

 50歳代,女性.人間ドックで,癌胎児性抗原(carcinoembryonic antigen,CEA)297.4ng/mL(基準値5ng/mL以下)や糖鎖抗原19-9(carbohydrate antigen,CA19-9)12,000U/mL(基準値37U/mL以下)などの腫瘍マーカーが異常高値を示したため,精査目的で紹介入院となった.入院後,画像検査で肝S4に腫瘤を指摘され,肝左葉切除術およびリンパ節郭清術が施行された.腫瘍は肉眼的には3.5cm大の結節型胆管細胞癌で,組織学的には粘液癌成分を含む中分化型腺癌であった.

3 肝血管肉腫―80歳代男性

著者: 内藤善哉 ,   彭為霞 ,   上田純志

ページ範囲:P.1090 - P.1092

症例の概要

 80歳代,男性.肝臓外側区に小さな腫瘍が発見され,血管腫疑いで経過観察されていた.半年後には外側区(S2,3)全体を占める腫瘍となり,腫瘍破裂による腹部症状出現のため肝外側区域切除術が施行された.腫瘍は肉眼的に著明な出血・壊死,組織学的には不規則な血管腔形成や充実性の腫瘍細胞増生を認め,腫瘍細胞に血管内皮細胞マーカーが陽性,かつ細胞増殖マーカーのKi-67も高率に陽性となり血管肉腫と診断された.

4 膵胆管合流異常症に合併した胆囊癌―60歳代男性

著者: 内藤善哉 ,   彭為霞 ,   上田純志

ページ範囲:P.1093 - P.1095

症例の概要

 60歳代,男性.肝機能障害を認め腹部精査施行.腹部造影超音波検査にて胆囊頸部に辺縁不整で不均一に造影される腫瘤を認め,胆囊癌が疑われた.腹部CT検査や内視鏡的逆行性胆道膵管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography,ERCP)により胆囊頸部の腫瘤とともに総胆管の拡張を伴う膵胆管合流異常症と診断された.術中迅速診断にて腺癌と診断され,胆囊摘出術,肝部分切除術,総胆管切除術およびリンパ節廓清が施行された.

5 直腸癌の肝転移―60歳代男性

著者: 内藤善哉 ,   彭為霞 ,   上田純志

ページ範囲:P.1096 - P.1098

症例の概要

 60歳代,男性.腹痛にて当院受診.大腸内視鏡検査などで直腸Rsに全周性2型の進行性直腸癌と診断され腹会陰式直腸切断術が施行された.術後3カ月後の腹部超音波検査→図1で肝臓S7に腫瘤を認めた.腹部CT検査や腹部血管造影検査では,S7以外のS8にも腫瘤がみられ,多発転移性肝腫瘍の診断のもと腹腔鏡下肝部分切除術が施行された.

6 限局性結節性過形成(FNH)―30歳代男性

著者: 内藤善哉 ,   片山博徳 ,   細根勝

ページ範囲:P.1099 - P.1101

症例の概要

 38歳,男性.検診の超音波検査で,肝臓S3~4に約4cm大の腫瘤様所見を認め,精査目的で紹介された.アルコール飲酒歴があり,脂肪肝を認めるが,各種肝炎ウイルス感染は陰性で,薬剤の服用歴はない.臨床的に肝細胞癌が疑われ,左葉切除術が施行された.

7 充満型胆囊癌―50歳代女性

著者: 内藤善哉 ,   彭為霞 ,   上田純志

ページ範囲:P.1102 - P.1104

症例の概要

 50歳代,女性.検診の超音波検査で胆囊内の腫瘤性病変を認め,精査目的で紹介された.造影CTにて不均一な造影効果を示し,胆囊癌が疑われた.胆囊摘出術が施行され,術中迅速細胞診,組織診断で腺癌と診断された.漿膜下層(ss)まで浸潤がみられたため,部分肝臓切除術およびリンパ節郭清術が行われた.手術材料では,乳頭腺癌および高分化型管状腺癌がみられ,脈管侵襲や神経周囲侵襲も認めた.

8 胃GISTの肝転移―50歳代女性

著者: 内藤善哉 ,   彭為霞 ,   上田純志

ページ範囲:P.1105 - P.1107

症例の概要

 50歳代,女性.10年前,胃粘膜下腫瘍で摘出術を施行され,胃腸管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor,GIST)と診断された.その後,胃局所再発,数回の肝臟転移,骨盤内転移を認め,手術,ラジオ波焼灼術やイマチニブの投与が行われていた.今回,経過観察中に再び肝臟の右葉(S8)に転移を認め,S8腫瘍核出術が施行された.

9 陶器様胆囊炎に合併した胆囊癌―70歳代男性

著者: 内藤善哉 ,   彭為霞 ,   髙田英志

ページ範囲:P.1108 - P.1110

症例の概要

 70歳代,男性.胆石症および慢性胆囊炎の経過観察中にCA19-9の上昇を認め,腹部精査施行.腹部CT,MRI検査などで,胆石症と軽度の壁不整はみられたが,明らかな腫瘤形成やリンパ節腫脹は認めなかった.しかし,腫瘍マーカー高値のため手術となり,術中迅速診断で腺癌と診断されたため,胆囊摘出術,肝部分切除術,総胆管切除術およびリンパ節郭清が施行された.

10 胆囊の早期癌―70歳代男性

著者: 渡辺光人 ,   手島伸一

ページ範囲:P.1111 - P.1113

症例の概要

 70歳代,男性.10年前から胆囊のポリープを指摘され経過観察していた.無症状であったが,最近増大してきたため腹腔鏡下胆囊摘出術を行った.超音波では胆囊底部の内腔に,20mmの内部エコー不均一で辺縁不整な腫瘤像を認める.腫瘤は体位変換で可動性がみられず,音響陰影も伴っていない.胆石は認めないが,体部の屈曲部に壁の肥厚がみられた.

 病理学的には13×55mmの胆囊で,底部に30×20mm,高さ15mmの隆起性,ポリープ状(Ⅰ型)の癌をみる.顕微鏡的には,高分化な乳頭状腺癌である.癌は粘膜内に限局し,筋層浸潤は認めない早期癌(有茎Ⅰ型)であった.体部の狭窄部には多数のRokitansky-Ashoff洞と,周囲に平滑筋の増生からなる腺筋症がみられた.

11 脂肪化が目立つ肝細胞癌―50歳代男性

著者: 手島伸一 ,   鈴木由美 ,   高平雅和 ,   前田守

ページ範囲:P.1114 - P.1116

症例の概要

 50歳代,男性.高血圧と糖尿病で通院中に右季肋部痛を自覚し,腹部超音波でS5に肝細胞癌を指摘された.S5亜区域切除を行い,組織学的には8×7×5cmの高分化肝細胞癌であった.

12 脾原発の炎症性偽腫瘍―70歳代女性

著者: 手島伸一 ,   柗本紗里 ,   西川武司

ページ範囲:P.1117 - P.1119

症例の概要

 70歳代,女性.左下腹部膨隆で受診し,腹部エコーで34×32mmの境界明瞭な脾腫瘤を指摘された.low echoic massであり,血流は確認できなかった.転移性病変の可能性を考え検索したが明らかな原発巣は認めず,脾原発腫瘍と考えられた.脾摘出術を行い,EBV関連の炎症性偽腫瘍と診断した.

13 主膵管型膵管内乳頭粘液性腫瘍―80歳代女性

著者: 畠二郎 ,   秋山隆 ,   森谷卓也

ページ範囲:P.1120 - P.1122

症例の概要

 80歳代,女性.健診でアミラーゼ高値を指摘され当院を紹介された.CA19-9は84.2U/mLと高値であった.諸検査により主膵管型膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm,IPMN)と診断され,膵全摘術が施行された.病理組織学的には拡張した主膵管内に,種々の程度の粘液産生を示す円柱状細胞が乳頭状~腺管状構造を形成し増殖しており,intraductal papillary-mucinous adenomaと診断された.

14 下部胆管癌(総胆管癌)―70歳代男性

著者: 小保方和彦 ,   鈴木由美 ,   手島伸一 ,   山下智

ページ範囲:P.1123 - P.1126

症例の概要

 70歳代,男性.尿の色が濃くなったことを自覚し来院.精査にてビリルビン尿を認め,生化学的にはT-Bil 3.72mg/dL,D-Bil 2.18mg/dL,CA19-9 162.1U/mLと高値を示した.腹部超音波で胆管が拡張しているが下部胆管は途絶して腫瘍を疑うエコー像がみられた.パワードプラでは腫瘍に血流は乏しかった.胆囊は腫大しているが壁肥厚はみられない.これらの所見より下部胆管の腫瘍による閉塞性黄疸が考えられた.ERCP時に採取された胆汁と胆管擦過細胞診では,核の腫大と大小不同,核形不整が目立つ異型細胞を認めた.細胞集塊の配列は乱れ,集塊辺縁の不整像や孤在性の細胞もみられ,腺癌を疑った.膵頭十二指腸切除標本では下部胆管に3cmの長さにわたり内腔が狭窄し壁の肥厚がみられ,上流の胆管は拡張していた.組織学的には管状や乳頭状の腺を形成し浸潤する高分化腺癌であった.癌はわずかながら膵実質まで浸潤していた.

◎病理診断

 高分化腺癌(乳頭状管状腺癌),平坦浸潤型,3×0.7cm,Panc2(膵への浸潤が明らかであるが胆管周囲にとどまる),ly1(リンパ管浸潤が軽微に認められる),v1(静脈浸潤が軽微に認められる),N0(リンパ節転移を認めない),下部胆管,膵頭十二指腸切除標本

7章 消化管

1 胃GIST(消化管間質腫瘍)―70歳代男性

著者: 鈴木由美 ,   手島伸一 ,   前田守

ページ範囲:P.1128 - P.1130

症例の概要

 70歳代,男性.以前より胆石症発作時の超音波検査で胃粘膜下腫瘍を指摘され,GISTの疑いにて経過観察していた.胃粘膜下腫瘍の内部エコーが不均一となり,26×17mmと増大してきたため,胃粘膜下腫瘍の摘出(胃部分切除)を行った.病理学的には紡錘形の腫瘍細胞が束状配列を示し,免疫組織学的にKITが陽性を示しGISTと確定診断された.核分裂数は高倍率50視野に2個,MIB-l indexは2%であった.

2 隆起型の大腸癌―80歳代女性

著者: 鈴木由美 ,   手島伸一 ,   前田守

ページ範囲:P.1131 - P.1134

症例の概要

 80歳代,女性.10年前に肺癌の手術を施行され,当院にて経過観察されていた.超音波検査で右下腹部の腫瘤を指摘され,下部内視鏡検査で癌と診断された.超音波検査では,内部エコーが不均一で血流が豊富な8.3×4.5cmの腫瘤がみられた.回盲部切除術が行われたが,病理学的には盲腸の6.5×6×4cmの隆起性の高分化管状腺癌で,粘膜内にとどまる亜有茎性の隆起型の早期癌であった.顕微鏡的に癌と管状腺腫との移行がみられた.

◎病理診断

 盲腸の隆起型の早期大腸癌,0-Ⅰsp型,高分化管状腺癌,6.5×6×4cm,M(壁深達度が粘膜内),ly0(リンパ管への腫瘍細胞の侵襲なし),v0(静脈への腫瘍細胞の侵襲なし),回盲部切除標本

3 胃癌(3型の進行癌)―80歳代男性

著者: 手島伸一 ,   鈴木由美 ,   前田守

ページ範囲:P.1135 - P.1138

症例の概要

 80歳代,男性.食思不振,嘔吐,体重減少で受診した.超音波検査では胃幽門部の34×33mmの胃壁の腫瘤を認め,幽門部狭窄による内腔の拡張と多量の食物残渣がみられた.固有筋層と等エコーで粘膜下腫瘍,特にGIST(gastrointestinal stromal tumor,胃腸管間質腫瘍)が疑われた.胃生検では腫瘍細胞が得られなかったが,その後の内視鏡下穿刺吸引細胞診で腺癌細胞がみられ,胃癌の診断のもとに幽門側胃切除が行われた.

◎病理診断

 3型胃癌,中分化管状腺癌,35×30mm,SS(壁深達度が固有筋層を越えているが漿膜下組織にとどまるpT3),int(癌の間質量が中間にあるもの),INFb(浸潤増殖状態が中間にあるもの),ly1(リンパ管侵襲が軽度),v1(静脈侵襲が軽度),N0(リンパ節転移を認めない0/4),PM0(近位断端に癌浸潤を認めない),DM0(遠位断端に癌浸潤を認めない),幽門側胃切除標本.

4 早期胃癌―60歳代女性

著者: 畠二郎 ,   秋山隆 ,   森谷卓也

ページ範囲:P.1139 - P.1141

症例の概要

 心窩部痛を訴え近医を受診,上部消化管内視鏡で胃角部にⅡc+Ⅲ病変を認めたため,精査加療目的に当院を紹介された.内視鏡では胃角後壁に陥凹性病変を認め,生検により低分化型腺癌と診断され,腹腔鏡補助下幽門側胃切除術が施行された.病理学的には充実型低分化癌と印環細胞癌が混在しており,その深達度はM,リンパ節転移や遠隔転移は認めず,StageⅠAと診断された.

5 スキルス胃癌―30歳代女性

著者: 畠二郎 ,   秋山隆 ,   森谷卓也

ページ範囲:P.1142 - P.1144

症例の概要

 30歳代,女性.心窩部不快感を自覚するも経過観察していた.健診の上部消化管X線検査で要精査と判定され,近医の上部消化管内視鏡で異常を指摘され当院を紹介受診.内視鏡下生検により低分化型腺癌と診断され幽門側胃切除術が施行された.病理組織学的にはtype 4の胃癌,深達度はSE,組織径は非充実型低分化癌と印環細胞癌が混在していた.リンパ節転移や肝転移はみられず,StageⅡBと診断された.

6 回盲部MALTリンパ腫―60歳代女性

著者: 畠二郎 ,   秋山隆 ,   森谷卓也

ページ範囲:P.1145 - P.1147

症例の概要

 60歳代,女性.数カ月前より時に腹痛を自覚,次第に頻回となり当院を受診.初診時の超音波検査で回盲部の悪性リンパ腫が疑われ,入院精査となった.下部消化管内視鏡では回盲部に粘膜下腫瘍様の隆起性病変がみられ,同部の生検では確定診断が得られなかったが,悪性リンパ腫の疑いで回盲部切除術が施行され,病理学組織学的検索の結果,MALTリンパ腫と診断された.

7 急性虫垂炎(壊疽性)―80歳代女性

著者: 畠二郎 ,   秋山隆 ,   森谷卓也

ページ範囲:P.1148 - P.1150

症例の概要

 80歳代,女性.数日前より腹痛と下痢が出現し近医を受診,WBC 15,720,CRP 30mg/dlと高値であり,CT上虫垂の腫大を認め当院紹介となった.超音波上,周囲膿瘍を伴う壊疽性虫垂炎と診断し,虫垂切除術が施行された.術中所見上も虫垂は壊疽性虫垂炎の外観を呈しており,一部に穿孔を認めた.病理学的にも虫垂に全層性の壊死を認めた.

8章 腎・泌尿器

1 腎盂腫瘍―70歳代男性

著者: 渡辺光人 ,   平野美和 ,   手島伸一

ページ範囲:P.1152 - P.1154

症例の概要

 70歳代,男性.右側腹部痛を主訴に来院.超音波検査や順行性腎盂造影で右腎盂癌が指摘され,カテーテル尿で尿路上皮癌と診断された.手術材料では,右腎盂下部から腎盂尿管移行部に展開後で6.5×3cmの乳頭状で広基性隆起性の腫瘍が認められた.組織学的には高異型度(旧規約分類ではG3)の尿路上皮癌である.乳頭状の部のみでなく,拡張した腎盂粘膜から腎実質へと癌巣が浸潤していた.術後12カ月後に浸潤性の膀胱癌が診断された.

◎病理診断

 右腎盂癌,浸潤性尿路上皮癌,高異型度(G3),乳頭状(広基性),6.5×3cm,ly1,v1(リンパ管や静脈侵襲がみられる),INFb(癌巣の発育進展状態がINFaとINFcの中間にあたる),pT3(腎実質に浸潤),N0(所属リンパ節転移なし),M0(遠隔転移なし),右腎尿管全摘標本

2 腎細胞癌―70歳代男性

著者: 手島伸一 ,   鈴木由美 ,   平野美和

ページ範囲:P.1155 - P.1157

症例の概要

 70歳代,男性.高血圧,高尿酸血症にて近医通院中,特定健診にて肝胆道系酵素の異常を指摘され,腹部超音波検査で総胆管結石と同時に左腎癌が発見された.超音波検査では,左腎の10×8.5cmの充実性腫瘤で,左腎静脈内に腫瘍塞栓を認めた→図1.根治的左腎摘除術が行われた→図2~5.

◎病理診断

 淡明細胞型腎細胞癌,G2,10.5×10×8cm,INFa(腫瘍が膨張性発育を示す),v1(血管浸潤が認められる),ly0(リンパ管浸潤が認められない),pT2b(最大径が10cmを超え,腎に限局する),pN0(所属リンパ節転移なし),左腎根治的摘除術

3 左副腎の骨髄脂肪腫―60歳代女性

著者: 手島伸一 ,   鈴木由美 ,   平野美和

ページ範囲:P.1158 - P.1160

症例の概要

 60歳代,女性.膀胱刺激症状と潜血尿で当院泌尿器科を受診.腹部超音波を施行し,左腎上極に84×79mmの内部エコーがほぼ均一な高エコー腫瘤を認めた→図1.明らかなhaloはみられない.腎の血管筋脂肪腫や副腎の骨髄脂肪腫を疑ったが悪性も否定できなかった.入院後の腹部CTでは,左腎頭側方に63×70×64mmの脂肪性腫瘤があり,左副腎の骨髄脂肪腫が最も疑われたが脂肪腫や高分化脂肪肉腫も否定できず,左腎副腎全摘が行われた.摘出標本の肉眼所見は,左副腎に接して80×80×45mmの被膜に覆われた,褐色から一部黄色の脂肪織様の充実性腫瘍が認められた→図2,3.捺印細胞や組織的検索では骨髄脂肪腫であった→図4~6.すなわち,脂肪細胞と,骨髄実質に類似した造血細胞の集簇とを認めた.脂肪細胞が80%,骨髄造血組織が20%ほどを占め,それら各構成細胞に異型はみられなかった.腫瘍と連続性に,圧排され萎縮した副腎が認められた.

4 セミノーマ―20歳代男性

著者: 手島伸一 ,   鈴木由美 ,   平野美和

ページ範囲:P.1161 - P.1163

症例の概要

 26歳,男性.発熱,腰痛で受診し,CTで傍大動脈リンパ節,腸間膜リンパ節腫大を認めた.開腹リンパ節生検を行い,病理学的に胚細胞腫瘍(胎児性癌+セミノーマ)のリンパ節転移が疑われた.精巣の触診,CT,MRIでは精巣腫瘍を特定できなかった.超音波で右精巣に径11mm程度の低エコー域を指摘された.右高位精巣摘除術を行い,右精巣を原発とするセミノーマと後腹膜リンパ節転移と診断した.

5 集合管癌―50歳代男性

著者: 星野夏那 ,   森水文 ,   熊谷二朗

ページ範囲:P.1164 - P.1166

症例の概要

 51歳,男性.検診超音波検査にて左腎下極の腫瘍を指摘され来院した.来院後の超音波検査では,腫瘍は等~低エコーを呈するが,境界が不明瞭であり,その範囲がはっきりしなかった.左腎は著しく腫大する所見が際立ち,その中心部エコーが消失していたが,腎臓の外形は比較的保たれていた.左腎摘出術を施行,術後の病理検査で著しい腎実質浸潤,および下大静脈に腫瘍塞栓を形成するほどの強い血管侵襲を伴った集合管癌と診断された.術後2年で多発肝転移および腹水貯留の形で再発した.

 再発時の腹水は血性で,細胞診標本では炎症性背景に乳頭状で不規則な配列と重積性を示す腫瘍細胞集塊が出現していた.腫瘍細胞はライトグリーン淡染性の広い細胞質を有し,核腫大や核の大小不同および大型明瞭な核小体を伴っていた.

 再発から4ヶ月後に肝,骨,多発リンパ節転移と腹水コントロール不良による全身状態の悪化により死亡した.

6 膀胱癌(低異型度尿路上皮癌)―90歳代男性

著者: 寺畑信太郎 ,   田島尚美

ページ範囲:P.1167 - P.1169

症例の概要

 90歳代,男性.高血圧症,脳梗塞の既往あり.肉眼的血尿を認め,他院より,当院泌尿器科を紹介され受診した.膀胱前壁の腫瘍が疑われ,経尿道的切除が行われた.病理検査の結果は非浸潤性,乳頭状,低異型度の尿路上皮癌であった.3年後に転倒による大腿骨頸部骨折で当院整形外科入院となり,入院時の尿細胞診で異型細胞が指摘され,腹部超音波検査を施行したところ,膀胱後壁に径3cm弱の腫瘍が認められた→図1,2.膀胱鏡でも超音波で指摘された乳頭状の腫瘤が認められ→図3,表在性の腫瘍と考えられたため,経尿道的腫瘍切除(TUR-BT)が行われた.組織学的には初発腫瘍と同様,低異型度非浸潤性の乳頭状尿路上皮癌の像で,再発と考えられた→図4,5.

7 肉腫様膀胱癌(膀胱癌肉腫)―60歳代女性

著者: 寺畑信太郎 ,   田島尚美

ページ範囲:P.1170 - P.1172

症例の概要

 60歳代後半,女性.血尿を主訴として泌尿器科受診.既往歴では,40歳代に子宮癌で摘出術と放射線治療を受けている.2年前に進行胃癌で胃切除が施行されていた.経尿道膀胱超音波検査で進行性の膀胱腫瘍が指摘され→図1,尿細胞診では悪性腫瘍が疑われた→図2.膀胱鏡による組織生検で,肉腫が示唆されたため膀胱摘出術が施行された.肉眼的には膀胱左壁に長径約4cm大の亜有茎性腫瘍が認められた→図3,4.組織学的には,腫瘤の大半は多形性に富む紡錘状の腫瘍細胞が花むしろ状配列を示しながら束状に錯綜する像からなり→図5a,巨細胞の出現や炎症細胞浸潤を伴っていた.免疫染色ではケラチン,EMAなど上皮性マーカーは陰性で,軟部腫瘍で認められるMFH(malignant fibrous histiocytoma)を思わせる像であった.浸潤は膀胱筋層内に及んでいた.腫瘍をよく観察したところ腫瘤の表層のびらんをまぬがれた部分にsquamous cell carcinomaの像が認められ→図5b,最終的に肉腫様癌(いわゆる癌肉腫)と診断された.

8 膀胱原発MALTリンパ腫―80歳代男性

著者: 寺畑信太郎 ,   田島尚美

ページ範囲:P.1173 - P.1175

症例の概要

 80歳代,男性.胃潰瘍の既往があり,その経過観察で施行されたCTで,膀胱憩室および膀胱壁の肥厚を指摘され,当院泌尿器科を紹介受診した.慢性膀胱炎の診断にて加療され,膀胱憩室に対しては電気凝固が行われ,憩室は消失し残尿の改善がみられたが,膿尿は続いていた.再度他科で施行されたCTで膀胱腫瘤が指摘されたため,泌尿器科にて再精査が行われた.経腹部膀胱超音波検査では膀胱後壁に部分的にエコーレベルの高い膀胱粘膜の不均一な肥厚が認められた→図1.ドプラ法では内部に比較的豊富な血流信号が得られ,悪性腫瘍が指摘された→図2.浸潤性膀胱癌が疑われたが,尿細胞診は疑陽性→図3で,膀胱鏡では粘膜の浮腫状変化を伴う限局性肥厚を認め,通常みられる尿路上皮癌とは異なり,粘膜下腫瘍を思わせる像であった→図4.TUR-BTによる腫瘤の組織生検では,上皮下に小型~中型異型リンパ球の密な結節状~びまん性増殖像が認められた→図5,6.免疫染色では,これらの異型リンパ球はCD3(-),CD5(-),CD10(-),CD20(+),CD79a(+),CD43(+),bcl-2(+)で,免疫グロブリンの軽鎖はkappa>lambdaを示した→図7.遺伝子検査(PCR法)にてIgκ遺伝子,Ig H遺伝子に再構成が認められ,これらの結果と併せ,膀胱原発のMALTリンパ種と診断された.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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