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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術43巻10号

2015年09月発行

雑誌目次

増刊号 血液形態アトラス

執筆者一覧

ページ範囲:P.830 - P.830

はじめに

ページ範囲:P.834 - P.834

 血液細胞(血球)の検査の中心は,血球計数と血液像です.前者は自動血球計数器の進歩により装置に任せてよい部分が多くなってきましたが,後者に関しては,今でも,そして,これからも,検査室での鏡検が中心であり続けることは間違いありません.

 我々の末梢血,さらには,骨髄液中の血球は,血球自体の疾患はもちろんのこと,感染症などを含む幅広い多くの疾患においても形態の変化が起き,その注意深い血液像の観察が重要な診断の糸口になることが少なくありません.この血液像の観察の重要性は,染色体・遺伝子検査,免疫学的検査など最新の分子生物学的手法・技術が診断に導入され,分子標的療法の目覚ましい発展がみられる造血器腫瘍においても同様です.形態学と遺伝子(ゲノム)情報が相補うものであることは,遺伝子異常を基礎にしたWHO分類の時代においても変わらず,また,これまでの血液学の流れを踏まえましても,診断・研究の入り口としての形態学の重要性は不変と考えられます.

総論

1 WHO血液腫瘍分類と血液形態学

著者: 矢冨裕

ページ範囲:P.836 - P.837

 造血器腫瘍は,造血幹細胞から派生する種々の分化段階の血液細胞の腫瘍であり,大きく白血病と悪性リンパ腫に大別される.その疾患分類は,造血器腫瘍の診療に携わるものの共通の土俵として,診断・治療の比較・標準化においてきわめて重要なものである.

 わが国を含め,急性白血病,およびMDS(myelodysplastic syndrome)の臨床は血球形態の観察が中心とされる時代が長く続いた.なかでも,FAB(French-American-British)分類1)は形態学中心の分類であり,容易に活用できることから,その臨床的有用性は広く認められてきた.しかし,20世紀後半以降の分子生物学を含む生命科学の急速な進歩は,造血器腫瘍を中心とした血液疾患の診断にも大きな変化を与えた.フローサイトメトリーによる表面マーカーの検索や染色体分析,また遺伝子検査などにより異常細胞の性状・起源を明らかにすることで,形態学では得られない精緻かつ臨床的にも有用な情報を得ることができるようになったのである.その結果,最新の造血器腫瘍研究の成果を臨床にフィードバックさせることができる,病因に基づいた新しい白血病分類法,造血器腫瘍分類法が望まれるようになった.

2 WHO分類(第4版)に基づく血液疾患分類

著者: 増田亜希子

ページ範囲:P.838 - P.841

1.FAB分類とWHO分類(第4版)の違い

 造血器腫瘍の分類では,以前は形態学に基づくFAB(French-American-British)分類が1,7,8)その中心であったが,現在は最新の分子細胞生物学的研究の成果を反映したWHO分類が重視されている.

3 正常血液細胞(末梢血液像・骨髄像)

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.842 - P.845

 日常検査において末梢血液像,骨髄像から血液疾患,異常細胞を鑑別することは,血液検査技師の責務である.そのためには異常細胞の特徴を把握することが大切なのはもちろん,正常細胞の分化・成熟過程を熟知し,そのうえで標本の観察をすることが重要となる.また,標本作製方法により,様々な形態変化が起こることも留意して,細胞を判別することが大切である10)

 以下に正常血液細胞の画像と骨髄球系,赤芽球系細胞の分化成熟過程の各細胞の鑑別ポイントを示す(→図1〜24).

4 標本作製時の注意点

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.846 - P.848

 標本作製方法により,細胞形態に様々な違いを生じることが知られている.塗抹標本作製時には乾燥方法により,骨髄標本においては,骨髄血へのEDTA(ethylenediaminetetraacetic acid)塩の使用の有無により,細胞形態に様々な違いがみられることが報告されている.

Ⅰ部 造血器悪性腫瘍 1章 急性白血病

1 急性骨髄性白血病最未分化型(AML-M0)

著者: 田邉久美子

ページ範囲:P.850 - P.851

 急性骨髄性白血病最未分化型(acute myeloid leukemia with minimal differentiation:AML-M0)は,血球の分化成熟が認められない芽球から成る白血病である.ミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase:MPO)染色が陰性であるが,細胞表面マーカー検査にて骨髄系のマーカー(細胞質内MPO)が陽性となることで証明される1〜3).AML全体の3〜5%を占め,幼児や高齢者でやや多い傾向がある.AMLの中でも寛解率が低く,予後不良である.骨髄中の芽球の増殖により正常造血が障害され,貧血,血小板減少,好中球減少などが認められる4).末梢血では白血球数の異常高値を契機に診断されることも多い.

2 急性骨髄性白血病未分化型(AML-M1)

著者: 田邉久美子

ページ範囲:P.852 - P.853

 急性骨髄性白血病未分化型(acute myeloid leukemia without maturation:AML-M1)は骨髄全有核細胞(all marrow nucleated cells:ANC)の90%以上を成熟傾向のない骨髄芽球が占め,ミエロペルオキシダーゼ染色(myeloperoxidase:MPO)またはスダンブラックB(sudan black B:SBB)染色陽性率が3%以上を示す疾患である.特異的な染色体異常やキメラ遺伝子は認めない1〜3).AML-M1はAML全体の約10%を占め,成人では40〜50歳代で発症することが多い.骨髄中の芽球の増加により正常造血が障害され貧血,血小板減少,好中球減少などが認められる.

3 急性骨髄性白血病分化型(AML-M2)

著者: 寺島道子

ページ範囲:P.854 - P.855

 急性骨髄性白血病分化型(acute myeloid leukemia with maturation:AML-M2)は,芽球を骨髄あるいは末梢血に20〜90%(WHO分類),ないし30〜90%〔FAB(French-American-British)分類〕認め,かつ前骨髄球以降の分化段階の顆粒球系細胞を10%以上認め,さらに骨髄において単球系細胞が20%未満である疾患とされている1〜3).芽球が増加して正常造血が抑制されるため,貧血,血小板減少,好中球減少などを呈する.また髄外浸潤や緑色腫などの腫瘤形成が多く認められる.

 WHO分類第4版では,t(8;21);RUNX1-RUNX1T1キメラ遺伝子などの特徴的な染色体・遺伝子異常が認められた場合は,別に分類される.t(8;21)は,AML-M2の約10%で認められる.

4 t(8;21)(q22;22);RUNX1-RUNX1T1を伴う急性骨髄性白血病

著者: 寺島道子

ページ範囲:P.856 - P.857

 WHO(World Health Organization)分類第4版では,特定の遺伝子異常を有するAML(acute myeloid leukemia)が疾患単位として分類されており,t(8;21)もそのひとつである2).t(8;21)(q22;22);RUNX1-RUNX1T1を伴うAMLのほとんどは,FAB(French-American-British)分類のM2に属する.芽球比率は骨髄あるいは末梢血に20〜90%みられ,前骨髄球以降の分化段階の顆粒球系細胞が10%以上認め,かつ骨髄において単球系細胞が20%未満であるとされている.

 染色体検査でt(8;21)(q22;22),あるいはFISH(fluorescence in situ hybridization)やRT-PCR(reverse transcription- polymerase chain reaction)でRUNX1-RUNX1T1(AML1-ETO/MTG8)融合遺伝子が検出されれば本症と診断される.骨髄の芽球比率が20%未満でも,これらの遺伝子異常が認められればAMLと診断される.t(8;21)を伴うAMLは一般に化学療法に対して高い完解率を示し,予後良好とされている.また,大量シタラビン療法による地固め療法により長期の無病生存が得られる.予後因子,治療方針の選択のうえで,t(8;21)の有無を確認することは重要である.

5 急性前骨髄球性白血病(APL,AML-M3)

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.858 - P.863

 急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)は異常な前骨髄球が増加する白血病であり,FAB(French-American-British)分類のAML-M3(acute myeloid leukemia-M3),M3v(M3 variant)に相当する.90%以上でt(15;17)(q22;q12);PML-RARA融合遺伝子が認められる1〜3).AML-M3では粗大なアズール顆粒を有する異常前骨髄球の増加を認め,Auer小体が束状になったfaggot細胞も特徴的である.M3 variantでは光学的にはほとんど観察できない微細な顆粒が増加しており,AMLの他の病型との鑑別に苦慮することがある6).M3 variantはAPLの約10%を占める.線溶亢進によるDIC(disseminated intravascular coagulation)を合併していることが多いため,早期発見が重要である.

 APLはAMLの10〜15%を占め,ATRA(all-trans retinoic acid)併用の化学療法によって90%以上の高い寛解率と80%以上の全生存率が得られる最も予後良好な病型である4).再発例には亜ヒ酸が有効であり,80%以上で再寛解が得られる.診断および治療効果のモニタリングにおいて,PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によるPML-RARA融合遺伝子の検出が非常に有用である.

6 急性骨髄単球性白血病(AML-M4)

著者: 寺島道子

ページ範囲:P.864 - P.865

 急性骨髄単球性白血病(acute myelomonocytic leukemia:AML-M4)は,白血病細胞が顆粒球系骨髄系と単球系の両方に分化傾向を示す病型である.芽球はWHO(World Health Organization)分類では20%以上,FAB(French-American-British)分類では30%以上を占め,顆粒球とその前駆細胞,単球とその前駆細胞が骨髄のそれぞれ20%以上を占めるとされている.末梢血中では単球の増加(5×109/L以上)も認められる1〜3)

 臨床症状としては,貧血,出血,発熱,全身倦怠感やリンパ節腫脹などがみられるが,単球系細胞の増殖に伴う所見として,歯肉や皮膚への浸潤,肝脾腫,中枢神経系などの髄外浸潤が多く認められる.また,血中・尿中リゾチーム活性の上昇も認められる.

7 inv(16)(p13.1q22)またはt(16;16)(p13.1;q22);CBFB-MYH11を伴う急性骨髄性白血病

著者: 寺島道子

ページ範囲:P.866 - P.867

 WHO(World Health Organization)分類第4版では,特定の遺伝子異常を有するAML(acute myeloid leukemia)が疾患単位として分類されており2),inv(16)やt(16;16)も独立した疾患単位として分類されている.inv(16)(p13.1q22) or t(16;16)(p13.1;q22);CBFB-MYH11を伴う急AMLはFAB(French-American-British)分類のM4Eoであり,顆粒球系細胞と単球系細胞の増加に加えて,異常好酸球が骨髄中に増加する病型である.

 染色体検査でinv(16)(p13.1q22)またはt(16;16)(p13.1;q22),あるいはCBFB-MYH11融合遺伝子がFISH(fluorescence in situ hybridization)やRT-PCR(reverse transcription-polymerase chain reaction)で検出されれば本症と診断される.骨髄の芽球比率が20%未満の場合でも,これらの遺伝子異常が認められればAMLと診断される.

 inv(16)を伴うAMLは一般に化学療法に対して高い完解率を示し,予後良好な病型とされている.大量シタラビン療法による地固め療法により長期の無病生存が得られている4).しかし,髄外腫瘤を形成しやすく,中枢神経浸潤で再発することが多いため,予防が重要である.

8 急性単芽性白血病と急性単球性白血病(AML-M5a,b)

著者: 田邉久美子

ページ範囲:P.868 - P.871

 AML-M5(acute myeloid leukemia-M5)は骨髄で幼若な単球系細胞(単芽球・前単球)が有核細胞の80%以上を占める白血病である.単球系細胞のうち,単芽球の割合が80%以上の場合はAML-M5a,それ以外はAML-M5bと診断される1〜3).特殊染色ではミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase:MPO)染色が陰性になることが多い.顆粒球系細胞は20%以下である.AML-M5aはAMLの約10%を占め,やや若年層に多い.AML-M5bは約5%を占め,発症年齢の中央値は50歳である.

 他のAMLと同様,易感染性,貧血,出血傾向を呈する.特に出血傾向は強く,APL(acute promyelocytic leukemia)に次いでDIC(disseminated intravascular coagulation)を合併しやすい.組織浸潤傾向が強く,歯肉や皮膚,中枢神経などへの髄外浸潤,腫瘤形成を認めることが多い.単球系細胞に含まれるリゾチームが細胞崩壊のため流出し,血中・尿中のリゾチーム値が高値となる.

9 急性赤白血病(AML-M6)

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.872 - P.875

 FAB(French-American-British)分類の急性赤白血病(acute erythroid leukemia:AML-M6)は,骨髄全有核細胞(all nucleated bone marrow cells:ANC)の50%以上が赤芽球で,かつ非造血細胞(non erythroid cells:NEC,ANCから赤芽球,リンパ球,形質細胞,肥満細胞,マクロファージを除外した細胞〕の30%以上,WHO(World Health Organization)分類では20%以上を骨髄芽球が占める場合を指す1〜3).NECの骨髄芽球が30%未満,WHO分類では20%未満の場合はMDS(myelodysplastic syndrome)となる.また,ANCの80%以上が赤芽球系幼若細胞で占められる場合は未分化型赤白血病(pure erythroid leukemia:AML-M6b)となり,前者は分化型赤白血病(AML-M6a)という.末梢血では,貧血が顕著で赤芽球がみられることが多い.新規発症(de novo)とMDSから二次性に移行する例がある.未分化型は急激な経過をとることが多く,特に複雑染色体異常を有するものは予後不良である.

10 急性巨核芽球性白血病(AML-M7)

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.876 - P.878

 急性巨核芽球性白血病(acute megakaryoblastic leukemia:AML-M7)は,骨髄全有核細胞(all nucleated bone marrow cells:ANC)のうち,FAB(French-American-British)分類では30%以上,WHO(World Health Organization)分類では20%以上を芽球が占め,芽球の50%以上が巨核球系の形質を示す白血病である1〜3)

〈WHO分類第4版における急性巨核芽球性白血病(AMKL)の分類〉2)
①Down症候群に関連したAMKL(Down syndrome-acute megakaryoblastic leukemia:DS-AMKL):Down症候群関連骨髄増殖症に分類
②t(1;22)(p13;q13)やinv(3)(q21q26.2)などの特徴的な染色体異常を示すAMKL:特定の遺伝子異常を有するAMLに分類
③その他のAMKL:特定不能のAML(acute myeloid leukemia-not otherwise specified:AML-NOS)に分類…FAB分類M7に相当

 若年成人男性では,縦隔の胚細胞腫瘍との関連も知られている.AMKLの発症頻度は成人と小児で異なり,成人AMLの約1%,小児AMLの10%以上(小児ではDS-AMKLも含む解析)と報告されている.

11 Down症候群に関連した骨髄性白血病

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.880 - P.881

 Down症候群(Down syndrome:DS)の小児は,DS以外の小児の10〜20倍の頻度で白血病を発症する.生後4年間はAML(acute myeloid leukemia)の頻度が高く,小児AML/MDS(myelodysplastic syndrome)の約10〜20%をDSが占めるとされている.特に,急性巨核芽球性白血病(acute megakaryoblastic leukemia:AMKL)の頻度が高く,非DS児の約500倍の頻度で発症する2,3)

 DS児に発症するAMKL(DS-AMKL)では,10〜50%に一過性異常骨髄増殖(transient abnormal myelopoiesis:TAM)の既往があり,赤血球・巨核球の発生・分化に関連する転写因子であるGATA1の変異をほぼ全例で認める.治療に対する反応性は良好である.

12 一過性骨髄異常増殖(TAM)

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.882 - P.883

 一過性異常骨髄造血(transient abnormal myelopoiesis:TAM)は,Down症候群(Down syndrome:DS)の新生児の末梢血や肝臓などで巨核芽球が増殖し,急性巨核芽球性白血病(acute megakaryoblastic leukemia:AMKL)に同様の血液像を呈し,その後数週間から3カ月間で自然治癒する病態をいう2,3).出生後早期より,出血傾向,肝脾腫,呼吸障害,黄疸などによって診断されることが多い.

 DS新生児の約10%に生じ,約80%の症例は自然寛解するが,約20%は早期死亡に至る.自然寛解した症例の約1/4は,4歳までに骨髄異形成症候群を経て,AMKLを発症する.赤血球・巨核球の発生・分化に関係する転写因子であるGATA1の変異をほぼ全例で認める.

13 MLLT3-MLL融合遺伝子を伴うAMLとNPM1遺伝子変異を伴うAML

著者: 小野佳一

ページ範囲:P.884 - P.887

 WHO分類第3版(2001)では,反復性遺伝子異常を伴う急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)の一病型として,11q23転座型AMLが細分類されていた9).しかし,11q23転座型白血病は,MLL遺伝子を含む転座かどうか,MLL遺伝子を含む転座であっても転座の相手遺伝子が何であるかによって病態が大きく異なる.そのため,WHO分類第4版では,t(9;11)(p22;q23);MLLT3-MLL融合遺伝子を伴うAMLが独立した病型となった2).t(9;11)(p22;q23)は,AMLで最も高頻度に認められるMLL転座である.

 WHO分類第4版では,AMLにおいて新たに2つの暫定病型が設定された.NPM1遺伝子変異を伴うAMLと,CEBPA遺伝子変異を伴うAMLである.最近,染色体正常核型AMLにおいて,FLT3-ITD(internal tandem duplication),NPM1遺伝子変異,CEBPA遺伝子変異が予後に関連することが明らかとなった.FLT3-ITDは染色体正常核型AMLの予後不良因子であり,診断時に変異解析を行うことが推奨されている.一方,FLT3-ITD陰性例においては,NPM1遺伝子変異,CEBPA遺伝子変異は予後良好因子であることが報告されている.

 本項では,当院で経験したt(9;11)(p22;q23);MLLT3-MLL融合遺伝子を伴うAMLおよび(暫定病型ではあるが)NPM1遺伝子変異を伴うAMLを提示する.

14 骨髄異形成関連変化を伴う急性骨髄性白血病(AML-MRC)

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.888 - P.891

 WHO(World Health Organization)分類第4版では,以下の1)〜4)を満たす場合にAML-MRC(acute myeloid leukemia with myelodysplasia-related changes)と診断される2,3)

 1) 末梢血または骨髄の芽球が20%以上.

 2) ①〜③のいずれかを満たす.

   ①MDS(myelodysplastic syndrome)の既往

   ②MDSに関連した染色体異常を認める(→表1参照)

   ③多血球系統に50%以上の異形成を認める

 3) 抗癌剤や放射線による治療歴がない.

   (治療関連白血病は別のカテゴリーに含まれる.)

 4) AML with recurrent cytogenetic abnormalitiesにみられる染色体異常がない.

 WHO分類では芽球20%以上でAMLとしているため,FAB(French-American-British)分類でRAEB-t(refractory anemia with excess blasts in transformation)とされていた例もここに含まれる.化学療法に対しては不応例が多く,特にMDS,MDS/MPN(myeloproliferative neoplasms)からの移行例とMDS関連染色体異常を持つ例は予後不良とされている.

15 カップ様の核形態異常を有する急性骨髄性白血病(AML-cuplike)

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.892 - P.893

 カップ様の核陥凹が核直径の25%以上を占める核異常を持つ芽球はcuplike芽球といわれ,それが芽球中の10%以上に認められたAML(acute myeloid leukemia)をcuplike AMLという.2004年にKussickらにより提唱された疾患概念である10).免疫学的にはCD34陰性,HLA-DR(human leukocyte antigen-DR)陰性,染色体は正常核型でFLT3-ITD(Fms-like tyrosine kinase 3-internal tandem duplication)やNPM1遺伝子変異を高率に認める.末梢血液は白血球の増加を示し,MPO(myeloperoxidase)強陽性の芽球が多数で骨髄ではAML-M1の像となることが多く,予後不良である.芽球の核陥凹の原因には,ミトコンドリアの集簇,巨大な迷路状粗面小胞体の存在,中間フィラメントの過剰な増量や束状形成によるもの,核の一部が分離することによるなど様々な報告がある.

16 芽球形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)

著者: 増田亜希子

ページ範囲:P.894 - P.895

 芽球形質細胞様樹状細胞腫瘍(blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm:BPDCN)は,形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid dendritic cell:pDC)の前駆細胞由来の腫瘍である.WHO分類第3版(2001年)では,芽球NK細胞リンパ腫(blastic NK-cell lymphoma)の亜型として記載されていたが9),BPDCNはpDC由来の腫瘍であることから,WHO分類第4版(2008年)では急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)の亜型として分類された2)

 BPDCNはまれな腫瘍で,男性,高齢者に多い.ほとんどの症例に皮膚病変がみられることが特徴である.また,骨髄浸潤は60〜90%にみられ,しばしば単球系AMLとの鑑別を要する.リンパ節浸潤も40〜50%でみられる2,3).確立された治療はなく,AMLやリンパ腫に準じた化学療法が行われている.

17 Bリンパ芽球性白血病/リンパ腫(B-ALL/LBL)

著者: 丸尾理恵

ページ範囲:P.896 - P.898

 Bリンパ芽球性白血病/リンパ腫(B-lymphoblastic leukemia/lymphoma:B-ALL/LBL)はB細胞系前駆細胞が腫瘍化したもので,腫瘤性病変の有無にかかわらず,骨髄中のリンパ芽球が25%以上である場合をB-ALL,腫瘤性病変が主体で骨髄中のリンパ芽球が25%未満の場合をB-LBLとする2,3).B-ALLではその他中枢神経,リンパ節,脾臓,肝臓などに髄外浸潤が認められる.FAB(French-American-British)分類でL3に相当するBurkitt typeは,WHO第4版(2008)ではBurkittリンパ腫としてリンパ腫に分類されており,“B-ALL”という用語はBurkittリンパ腫ではなく急性Bリンパ芽球性白血病を指す.B-LBLはLBL全体の約10%と少なく,LBLの大半はT-LBLである.

 B-ALLは小児に多い疾患であり,6歳以下の発症が75%を占めている.小児B-ALLは一般的に予後良好で完全寛解率は95%を超え,長期生存も約80%に期待できる.1歳未満の乳児に発症する乳児白血病でもほとんどがB-ALLであるが,約80%に染色体11q23領域での転座(MLL遺伝子再構成)が認められ予後不良である.成人B-ALLの約25%,小児B-ALLの約3%にBCR-ABL1遺伝子異常がみられる.BCR-ABL1遺伝子を伴うB-ALL,MLL遺伝子再構成を有するB-ALLは,反復性遺伝子異常を伴うB-ALLとして別項目に分類されており,本書でも別項目として記載している.

 芽球が増加して正常造血が抑制されるため,貧血,血小板減少,好中球減少などを呈する.リンパ節腫脹,肝脾腫がみられることもある.B-LBLでは,多発性の皮膚結節,骨への浸潤,リンパ節病変がよくみられ,病変部位によっては咳や胸部圧迫感などの症状を認める.

18 t(9;22)(q34;q11.2);BCR-ABL1を伴うBリンパ芽球性白血病/リンパ腫

著者: 丸尾理恵

ページ範囲:P.900 - P.901

 成人Bリンパ芽球性白血病(B-lymphoblastic leukemia:B-ALL)の約25%,小児B-ALLの約3%にフィラデルフィア染色体と呼ばれるt(9;22)転座(BCR-ABL1融合遺伝子)を伴う.BCR領域の切断点の違いによりp210kD BCR-ABL1とp190kD BCR-ABL1の2種類の融合タンパクが生じうるが,小児ではほとんどがp190kD BCR-ABL1であるのに対し,成人ではp210kD BCR-ABL1が約半数を占める.切断点の違いによる臨床病態の差異は明らかでない.

 BCR-ABL1を伴うB-ALLにおいて,成人では従来の化学療法による寛解率は他のALLと同程度であるが,ほとんどが短期間に再発し,3年生存率10%以下と極めて予後不良である.小児でも5年生存率20〜40%と成人同様予後不良である.近年チロシンキナーゼ阻害薬であるイマチニブが登場したことにより,化学療法との併用で予後改善が認められてきた.最近では第二世代のチロシンキナーゼ阻害剤であるダサチニブを用いた治療成績が報告されており,ダサチニブはイマチニブに比べて治療効果が速く出現するため,今後BCR-ABL1遺伝子異常を伴うB-ALLの標準的治療薬になる可能性があると期待されている.

19 MLL遺伝子再構成を伴うB-ALL/LBLとTEL-AML1(ETV6-RUNX1)を伴うB-ALL/LBL

著者: 丸尾理恵

ページ範囲:P.902 - P.903

 Bリンパ芽球性白血病/リンパ腫(B-lymphoblastic leukemia/lymphoma:B-ALL/LBL)の中には反復性遺伝子異常を伴うものが7種類存在し(→表1)11),WHO分類第4版(2008)では反復性遺伝子異常を伴うB-ALL/LBLとして独立した病型に定義されている2,3).最も代表的なのは前項で述べたBCR-ABL1を伴うB-ALL/LBLであるが,その他MLL遺伝子再構成B-ALL/LBL,TEL-AML1(ETV6-RUNX1)を伴うB-ALL/LBLなどがある.

1.MLL遺伝子再構成B-ALL/LBL(症例1)

 11q23領域に存在するMLL遺伝子と他の染色体上の遺伝子間の転座を有する病型である.11q23欠失のみでMLL遺伝子再構成を伴わないB-ALLは含まれない.MLL遺伝子再構成は,1歳未満の乳児ALLでは70〜80%で認められるが,1歳以上の小児・成人ALLでは5〜10%とまれである.

 t(4;11)(MLL-AF4)が最も高頻度で,1歳未満の乳児ALLの60%以上にみられ,予後不良である.成人ではまれであるがみられた場合は同じく予後不良である.t(4;11)を伴うALLでは白血球数が多くしばしば10万/μLを超え,中枢神経系浸潤がみられるのが特徴的で,芽球はFAB(French-American-British)分類のL1またはL2の形態を示す.骨髄系マーカーがしばしば陽性となる.またMLL転座をもつ白血病は比較的高頻度にFLT-3の過剰発現がみられることが分かっており,FLT-3阻害薬が治療薬として注目されている.

2.TEL-AML1(ETV6-RUNX1)を伴うB-ALL/LBL(症例2)

 12番染色体上のTEL(ETV6)遺伝子と21番染色体上のAML1(RUNX1)遺伝子の相互転座を有する病型である.小児の約25%にみられるが,乳児・成人ではまれである.治癒率が90%を超え予後良好で,染色体のhyperdiploidyと関係がある.CD10の高発現や骨髄系マーカーの共発現がみられる.

20 Tリンパ芽球性白血病/リンパ腫(T-ALL/LBL)

著者: 田邉久美子

ページ範囲:P.904 - P.907

 Tリンパ芽球性白血病/リンパ腫(T-lymphoblastic leukemia/lymphoma:T-ALL/LBL)は,T細胞系前駆細胞が腫瘍化したもので,腫瘤性病変の有無にかかわらず,骨髄中のリンパ芽球が25%以上である場合をT-ALL,腫瘤性病変が主体で骨髄中のリンパ芽球が25%未満の場合をT-LBLとする2,3).T-LBLはLBL全体の約90%を占める.小児ALLの約15%,成人ALLの約25%がT-ALLである.

 末梢血の白血球数が著明に増加し,しばしば縦隔に巨大な腫瘤を形成する.リンパ節,肝臓や脾臓などの腫瘤や胸水がみられることもある.小児T-ALLはB-ALLよりもリスクが高く治療抵抗性だが,成人ではT-ALLのほうがB-ALLに比べて予後良好である.

21 混合表現型急性白血病(MPAL)

著者: 西川真子

ページ範囲:P.908 - P.911

 混合表現型急性白血病(mixed phenotype acute leukemia:MPAL)は,2系統以上の分化傾向を示す急性白血病であり,WHO分類第4版では分化系統不明瞭な急性白血病acute leukemia of ambiguous lineageに含まれる.急性白血病の2〜5%を占めるまれな疾患である.他のカテゴリーに分類される特徴的な染色体・遺伝子異常や二次性の白血病などはMPALからは除外される.以前は,2系統の芽球が混在する場合をbilineage leukemia,芽球が2系統の表面形質を併せ持つ場合をbiphenotypic leukemiaと呼んでいたが,両者を合わせてMPALと分類される.

 MPALは5つのカテゴリーに分類される(→表1).B/myeloid,T/myeloidの形質を有する症例が多い.臨床症状は他の急性白血病と同様で,息切れや動悸などの貧血症状,発熱,倦怠感,出血症状などがみられる.疾患特異的な症状はない.5年生存率は37%と予後不良である.遺伝子変異のない症例,小児症例の予後は比較的良好である.治療に明確な指針はないが,急性白血病のサブタイプに準じた治療を行う.

2章 骨髄増殖性腫瘍(MPN)

1 慢性骨髄性白血病(CML)

著者: 増田亜希子

ページ範囲:P.914 - P.917

 慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia:CML)は,多能性造血幹細胞レベルの未分化な細胞に,染色体転座t(9;22)(q34;q11.2)が生じることで発症する.変異22番染色体はフィラデルフィア(Philadelphia:Ph)染色体と呼ばれ,Ph染色体上に形成されたBCR-ABL1融合遺伝子が,恒常的な活性型チロシンキナーゼとして作用し,細胞を過剰に増殖させる1〜3)

1.CMLの病期

 無治療のCMLは,3〜5年の慢性期(chronic phase:CP)を経て,移行期(accelerated phase:AP),急性転化期(blast phase:BP)へと移行する.CPでは骨髄球以降の顆粒球系細胞の増加が著明で,白血球や血小板の増加を来す.AP,BPと移行するにつれ,幼若細胞が増加する.末梢血または骨髄の芽球比率≧20%の場合は,BPと診断する.CMLの多くの症例で脾腫を来すが,無症状の場合が多いため,健康診断等で白血球増加を指摘されて受診するケースが多い.

2.CMLの治療とPCRによるモニタリング

 CMLの治療には,BCR-ABL1チロシンキナーゼを選択的に阻害するチロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブ,ダサチニブ,ニロチニブなど)が用いられる.チロシンキナーゼ阻害薬が導入されてから,治療成績は大きく向上した.BPは急性白血病と同様の臨床像であり,急性白血病としての治療が行われる.AP/BPに移行すると予後不良であるが,CPでは治療成績良好であるため,早期発見の意義は大きい.

 治療効果判定を行ううえで,リアルタイムPCR(polymerase chain reaction)によるBCR-ABL1 mRNA(messenger ribonucleic acid)のモニタリングは非常に重要である.治療経過中にチロシンキナーゼ阻害薬による治療効果が不良となる場合があるが,その原因のひとつとして,ABL1遺伝子変異が挙げられる.

2 真性赤血球増加症(PV)

著者: 丸尾理恵

ページ範囲:P.918 - P.919

 真性赤血球増加症(polycythemia vera:PV)は,赤血球および総血液量の著しい増加,また白血球・血小板の増加や脾腫を特徴とする骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms:MPN)のひとつである.一部は急性白血病や骨髄線維症に移行する1〜3).PVの診断基準を→表11,2)に示す.PVの95%以上にJAK2遺伝子変異(V617F)が検出され,それ以外の症例の大半にJAK2エクソン12変異が認められることから,JAK2遺伝子変異がPVの病態形成に大きく関わっている可能性が考えられる.

 臨床症状としては,頭痛,めまい,視力障害が初期にみられる最も頻度の高い症状で,ときに胃潰瘍,肝脾腫もみられることがある.また,四肢の熱感・紅潮,入浴後の搔痒感がPVの特徴的な症状である.治療としては,瀉血やハイドロキシウレア,低用量アスピリン投与が行われる.

3 本態性血小板血症(ET)

著者: 矢冨裕

ページ範囲:P.920 - P.921

 本態性血小板血症は骨髄増殖性腫瘍のひとつであり,造血幹細胞レベルの異常から主に血小板が著しく増加するものである1).原発性血小板血症とも呼ばれる.骨髄において巨核球が,末梢血中においては血小板がそれぞれ著増し,血小板数が100万/μLを超えることも多い.白血球や赤血球も増加していることが多いが,血小板の増加ほど顕著ではない.造血幹細胞レベルでの遺伝子の後天的な変異によるものと考えられており,およそ半数の患者でヤヌスキナーゼ2(janus kinase 2:JAK2)V617F変異遺伝子が検出される.急性白血病や骨髄線維症に転化することはまれであり,生命予後はむしろ血栓止血関連の合併に規定されることが多い.治療では,抗血小板薬としてアスピリンを使用する.60歳を超えている,血栓症の既往がある,血小板が著増している(150万/μL以上)高リスク群では骨髄抑制療法を行い,現時点ではヒドロキシカルバミドが最も使用されている3)

4 原発性骨髄線維症(PMF)

著者: 丸尾理恵

ページ範囲:P.922 - P.923

 原発性骨髄線維症(primary myelofibrosis:PMF)は1879年にHeuckらにより初めて報告された疾患で6),骨髄において主に巨核球と顆粒球系細胞が増加するMPN(myeloproliferative neoplasms)である.進行すると骨髄の線維化や脾腫,白赤芽球症(leukoerythroblastosis),髄外造血が認められる.AML(acute myeloid leukemia)への急性転化が5〜30%に認められる1〜3).PMFの診断基準を→表11)に示す.PMFでみられる3血球系統の増殖はモノクローナルなもので,幹細胞の異常によると考えられている.約半数の症例にJAK2遺伝子変異(V617F),約5%の症例にMPL遺伝子変異(W 515L/K)がみられ,PMFの発症や病気の進展に大きく関わっている可能性がある.

 診断時,約20〜30%の患者は無症状であり健診や他疾患で医療機関を受診した際に,貧血や脾腫,白赤芽球症,LD(lactate dehydrogenase)の上昇などを指摘され,偶然発見される.髄外造血によって脾腫が約90%にみられ,しばしば巨脾となる.肝腫大も約50%に認められる.その他,全身倦怠感,呼吸困難,体重減少,夜間盗汗,微熱,出血傾向などの全身症状を伴うことがある.

5 肥満細胞症

著者: 寺島道子

ページ範囲:P.924 - P.925

 肥満細胞症は肥満細胞が腫瘍性増殖を来す疾患であり,WHO(World Health Organization)分類では骨髄増殖性腫瘍に分類される.皮膚病変のみを示す皮膚肥満細胞症(cutaneous mastocytosis:CM)と,皮膚以外に病変が認められる全身性肥満細胞症(systemic mastocytosis:SM)に大別される1,2).CMでは色素性蕁麻疹の頻度が最も高く,生後6か月以前の乳児に多くみられ,通常は自然治癒するがまれに成人に移行する.SMはWHO分類では6つの病型に分類されている(→表1)1,2).SMのほぼ全例で骨髄浸潤がみられ,半数以上で皮膚病変が認められる.

6 慢性好酸球性白血病(CEL)

著者: 増田亜希子

ページ範囲:P.926 - P.927

 本項では,FIP1L1-PDGFRA融合遺伝子を伴う慢性好酸球性白血病(chronic eosinophilic leukemia:CEL)の自験例を提示するとともに,好酸球増多症を来す疾患について概説する.

 持続的な好酸球増多症(≧1,500/μL)を示す疾患と診断基準の概要を→表11,2)に示す.CEL-NOS(chronic eosinophilic leukemia-not otherwise specified)の診断基準はWHO分類第4版に明記されているが,好酸球のクローン性の証明は実際には困難である.そのため,CEL-NOSと診断される症例は非常に少なく,特発性好酸球増多症候群(hypereosinophilic syndrome:HES)に分類される症例が多いと考えられる1,2)

 FIP1L1-PDGFRA融合遺伝子を伴うCELは,WHO分類第4版では,「PDGFRA,PDGFRB,またはFGFR1遺伝子に異常を有し,好酸球増加を伴う骨髄系とリンパ系の腫瘍」に分類される(本書では便宜上,「骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms:MPN)」に分類している).再構成を生じる遺伝子によって臨床的な特徴は異なるが,いずれも好酸球増加を来す.PDGFRA遺伝子関連の腫瘍ではCELの病態を取ることが多く,PDGFRB遺伝子関連の疾患では慢性骨髄単球性白血病(chronic myelomonocytic leukemia:CMML)様の病態であることが多い.FGFR1異常では,リンパ系腫瘍の病態を取ることが多い.

●PDGFRA融合遺伝子を伴うMPNについて

 PDGFRA融合遺伝子を伴うMPNで最も多くみられるのは,4q12の微小欠失によるFIP1L1-PDGFRA融合遺伝子を有する例である.CELとしての発症が最も多いが,AML(acute myeloid leukemia)やT-LBL(T-cell lymphoblastic lymphoma)としての発症もありうる.PDGFRA融合遺伝子を伴うMPNはまれで,男性に極端に多い.(男女は17:1).FIP1L1-PDGFRA融合遺伝子を伴うCELでは,好酸球の浸潤などにより,多臓器に病変がみられる.皮膚搔痒,呼吸器系,消化器系の症状が多い.脾腫を高率に認める.

3章 骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(MDS/MPN)

1 慢性骨髄単球性白血病(CMML)

著者: 丸尾理恵

ページ範囲:P.930 - P.931

 慢性骨髄単球性白血病(Chronic myelomonocytic leukemia:CMML)は,WHO分類第4版(2008)では骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(myelodysplastic/myeloproliferative neoplasms:MDS/MPN)に分類される,MDSとMPNとの特徴を併せ持ったクローン性骨髄性腫瘍である1,2).CMMLの診断基準を→表11,2)に示す.単球の増加がCMML診断の指標となり,3カ月以上持続して末梢血の単球が1,000/μLを超え,単球比率が10%以上を示す.その他,1血球系統以上の異形成を認める,フィラデルフィア(Philadelphia:Ph)染色体やBCR/ABL1融合遺伝子を認めない,PDGFRA,PDGFRB遺伝子異常を認めない,芽球は20%未満であることが診断に必要な条件である.

 CMMLは骨髄および末梢血中の芽球と前単球の比率によって2つのタイプに分けられ,それぞれ予後が異なる.
①CMML-1:末梢血中の芽球(前単球を含む)が5%未満かつ骨髄で10%未満.
②CMML-2:末梢血中の芽球(前単球を含む)が5〜19%または骨髄で10〜19%,あるいは芽球と前単球の割合にかかわらずAuer小体を有する場合.

 CMMLは造血幹細胞の異常により発症すると考えられているが,病因については不明である.放射線や発癌性物質が病因のひとつになるとも考えられている.

 臨床症状として特異的なものはなく,貧血,倦怠感,体重減少,発熱や盗汗,感染や血小板減少による出血症状,肝脾腫などを認める.リンパ節腫大はまれで,もし認められれば急性転化の兆候と考えられる.

2 BCR-ABL1陰性非定型慢性骨髄性白血病(aCML)

著者: 吉川直之

ページ範囲:P.932 - P.933

 BCR-ABL1陰性非定型慢性骨髄性白血病(atypical chronic myeloid leukemia:aCML)は,骨髄異形成と骨髄増殖性の特徴を併せ持ち,CML(chronic myeloid leukemia)類似の病像を呈するが,フィラデルフィア(Philadelphia:Ph)染色体やBCR-ABL1融合遺伝子が認められない病型である1,2).診断基準を→表11,2)に示す.原則として好中球系細胞の異常があり,異形成を持つ好中球とその前駆細胞が増加することによって,白血球増加を来すのが特徴である.しばしば他の血球系の異形成も伴う.臨床症状では,貧血の頻度が高く,脾腫も認められることがある.aCMLの頻度は不明であるが,BCR-ABL1陽性CML100例に対して1〜2例程度といわれている.高齢者に好発し,BCR-ABL1陽性CMLよりも予後不良である.10〜40%の患者は急性骨髄性白血病に進展する.

4章 骨髄異形成症候群(MDS)

1 骨髄異形成症候群の概略─病型分類と診断のポイント

著者: 増田亜希子

ページ範囲:P.936 - P.939

骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)の特徴1〜3)

・造血幹細胞レベルで発症する腫瘍性疾患である.

・中高年層に好発する.MDS発症時の年齢中央値は70歳前後である.

・無効造血(血球の成熟途中での破壊)による血球減少を認める.血球減少は治療不応性である.

・約半数で染色体異常を認める.

・多くは進行性で予後不良である.

・二大死因:①骨髄不全(感染症や出血),②急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)への移行.

・治療:リスク分類〔IPSS(international prognostic scoring system)など〕に基づき,治療方針が決定される.同種造血幹細胞移植,支持療法(輸血など),新規薬剤(アザシチジン)投与などが行われる.

2 単一血球系統の異形成を伴う不応性血球減少症(RCUD)

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.940 - P.941

 単一血球系統の異形成を伴う不応性貧血(refractory cytopenia with unilineage dysplasia:RCUD)は,異形成が1系統のみ,末梢血液の血球減少は2系統以内で,芽球比率は末梢血液で1%未満,骨髄ではANC(all marrow nucleated cells)の5%未満のときに診断される.また,環状鉄芽球は赤芽球の15%未満である1,2).RCUDは,不応性貧血(refractory anemia:RA)と不応性好中球減少症(refractory neutropenia:RN),不応性血小板減少症(refractory thrombocytopenia:RT)に細分類されるが,大多数がRAである.異形成を有する血球系統に血球減少がみられることが多いが,2系統に血球減少がみられることがある.2系統に異形成が認められた場合はRCMD(refractory cytopenia with multilineage dysplasia)となる.AML(acute myeloid leukemia)に移行する症例は2%未満である.

3 環状鉄芽球を伴う不応性貧血(RARS)

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.942 - P.943

 RARS(refractory anemia with ringed sideroblasts)は,貧血を主徴とし,骨髄の赤芽球系のみに異形成を認め,環状鉄芽球の増加(赤芽球の15%以上)を特徴とする病型である.芽球の比率は末梢血液では1%未満,骨髄で全有核細胞(all marrow nucleated cells:ANC)の5%未満である.異形成は赤芽球系のみで,その他の血球系統には認めない.他の血球系統も異形成が認められた場合はRCMD(refractory cytopenia with multilineage dysplasia)に分類される1).RARSはMDS(myelodysplastic syndrome)の約2%とまれである.染色体異常を5〜20%に認める.AML(acute myeloid leukemia)へ進展する症例は1〜2%である2)

4 多血球系統の異形成を伴う不応性血球減少症(RCMD)

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.944 - P.949

 多血球系統の異形成を伴う不応性血球減少症(refractory cytopenia with multilineage dysplasia:RCMD)は,WHO(World Health Organization)分類第4版では,1血球系統以上の血球減少,2血球系統以上に異形成を有するが,芽球比率は末梢血液で1%未満,骨髄で5%未満のものと定義されている.Auer小体は認めず,単球は末梢血液で1×109/L未満である1).血球減少の基準は,好中球数1.8×109/L未満,Hb 10g/dL未満,血小板数100×109/L未満と定義されている1,7).環状鉄芽球(ring sideroblast:RS)を15%以上認める場合,WHO第3版ではRCMD-RSに分類されていたが,RCMDとRCMD-RSの間で予後に差がないことから,第4版では両者を区別せずにRCMDとして分類している.

 高齢者に多く,MDS(myelodysplastic syndrome)の30〜40%を占める.臨床経過はさまざまである.RCMDの患者は2年間で約10%がAML(acute myeloid leukemia)に進展する.全生存期間中央値は,52カ月(日本),約30カ月(ドイツ)と報告されている2)

5 芽球の増加を伴う不応性貧血(RAEB)

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.950 - P.953

 芽球の増加を伴う不応性貧血(refractory anemia with excess blasts:RAEB)は,末梢血や骨髄で芽球の増加を認め,かつ血球減少や血球の異形成も認める病型である.芽球比率は末梢血液で2〜19%,骨髄で5〜19%である.予後が異なることから,末梢血・骨髄の芽球比率などにより,RAEB-1とRAEB-2に分けられている.RAEB-1は末梢血で芽球が2〜4%または骨髄で5〜9%,RAEB-2は末梢血で芽球が5〜19%または骨髄で10〜19%のものを指す.芽球にAuer小体を認める場合は,芽球の割合にかかわらずRAEB-2とする1)

 50歳以上に多く,MDS(myelodysplastic syndrome)患者の約40%を占める.ほとんどの患者で貧血,好中球減少,血小板減少などの骨髄不全に関連した症状を示す.血球減少は進行性である.RAEB-1の約25%,RAEB-2の約33%がAML(acute myeloid leukemia)へと進展し,予後不良である2)

6 5q-症候群

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.954 - P.955

 5q-症候群(myelodysplastic syndrome with isolated del:5q)は,芽球の増加がなく,単一の染色体異常として5番染色体長腕の欠失del(5q)を有する病型である.欧米ではMDS(myelodysplastic syndrome)全体の約10%を占めると報告されているが,わが国ではMDS全体の1.3%と推測され,極めてまれな病型である1,2).MDS病型の中で唯一女性に好発し,大球性貧血,血小板数正常〜増加,巨核球の異形成(単核の巨核球が典型的)を特徴とする.予後は比較的良好である.サリドマイド誘導体であるレナリドミドは,5q-症候群および5q-を含む染色体異常を有するMDSに対して高率に奏功する.

7 特発性血球異形成(IDUS)

著者: 増田亜希子

ページ範囲:P.956 - P.957

 本項と次項では,血球減少症に関連して最近提唱されている病態,特発性血球異形成(idiopathic dysplasia of undetermined/uncertain significance:IDUS)と特発性血球減少症(idiopathic cytopenia of undetermined/uncertain significance:ICUS)について概説する.

 骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)の血球減少の診断基準を満たさないにもかかわらず,有意な血球異形成や骨髄系腫瘍を示唆する細胞遺伝学的異常を認める病態について,IDUSという概念が提唱されている14,15).IDUSの病因・病態は明らかでないが,MDSの前段階の異常クローンが存在すると考えられている.IDUSの一部の症例は骨髄系腫瘍に移行することが報告されており16),慎重な経過観察が必要と考えられる.

8 特発性血球減少症(ICUS)

著者: 増田亜希子

ページ範囲:P.958 - P.959

 6カ月以上遷延する原因不明の慢性持続性血球減少があり,末梢血・骨髄の血球異形成所見が明らかでなく,MDS(myelodysplastic syndrome)を示唆する細胞遺伝学的異常を認めない場合について,特発性血球減少症(idiopathic cytopenia of undetermined/uncertain significance:ICUS)という概念が提唱されている15,18).WHO分類第4版より掲載されるようになった.後方視的解析から,ICUSの一部の症例は骨髄系腫瘍に進展するリスクがあると考えられており,慎重な経過観察が必要と考えられる.

5章 成熟B細胞腫瘍

1 びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.964 - P.967

 びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)は,大型のBリンパ球がびまん性増殖を示すリンパ腫である.わが国ではリンパ腫の30%超を占め,最も頻度の高い病型である.やや男性に多く,60歳代に多い.濾胞性リンパ腫などの低悪性度リンパ腫から,高悪性度転化(high grade transformation)として発症することもある1〜3)

 アグレッシブリンパ腫に分類され,進行は速い.節性の場合は局所のリンパ節腫大であることが多いが,節外性の場合は発生部位により様々な症状を呈する.Burkittリンパ腫との鑑別が困難な場合がある.病期分類(Ann Arbor分類)に基づき,治療方針が決定される.初回治療としては,R-CHOP療法(±放射線療法)が一般的である.

2 血管内大細胞型B細胞リンパ腫(IVLBCL)

著者: 西川真子

ページ範囲:P.968 - P.969

 血管内大細胞型B細胞リンパ腫(intravascular large B-cell lymphoma:IVLBCL)は,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)の亜型であり,血管内選択的にリンパ腫細胞の増殖を来す節外性リンパ腫のまれな一病型である.リンパ腫細胞が中〜大動静脈を除くあらゆる血管内,特に毛細血管内や後毛細血管小静脈内で腫瘤形成を伴わずに増殖を示す1,2).非Hodgkinリンパ腫の1%未満とされる.年齢中央値は70歳(34〜90歳)で,中高齢者に多く,男女比=0.9:1と男女差はない. 腫瘤を形成しないため,診断が困難である場合が少なくない.本疾患の診断には,骨髄生検やランダム皮膚生検が有用である.

 臨床症状では,B症状,貧血,血小板減少,骨髄・脾臓・肝臓への浸潤が多くみられる.血管内で腫瘍血栓を形成し,多彩な臓器障害を来す.血球貪食像や神経学的異常,皮疹を認める場合もある.リンパ節腫大が認められることは少ない.わが国では,血球減少,肝脾腫や血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome:HPS)を主体とするアジア亜型(Asian variant)が約60%を占める2)

 治療は,aggressive lymphomaとしてリツキシマブ併用化学療法が行われる.わが国における後方視的解析では,リツキシマブ併用化学療法による2年全生存率は66%と報告されている.

〈IVLBCLの亜型〉
①Asian variant:わが国をはじめ東アジア諸国からの報告が多く,腫瘤形成を伴わないHPSや血球減少,多臓器不全などの急激な臨床経過を示す.骨髄・脾臓・肝臓への浸潤や,血小板減少が多くみられる.中枢神経症状や皮膚症状は少ない.
②cutaneous variant:欧州で報告された亜型である.皮膚に病変が限局しており,予後良好とされるが,わが国ではまれである.ほぼ全例が女性である.

3 Burkittリンパ腫

著者: 田邉久美子

ページ範囲:P.970 - P.972

 Burkittリンパ腫(Burkitt lymphoma:BL)は腫瘤形成性の高悪性度(highly aggressive)B細胞リンパ腫であり,以下の3病型に大別される.①アフリカ,パプアニューギニア地域に発症する風土病型/地域病型(endemic BL),②欧米・日本などの地域での散発型(sporadic BL),③HIV(human immunodeficiency virus)感染者に多い免疫不全関連BL(immunodeficiency associated BL)1,2).成人では悪性リンパ腫全体の1〜2%程度,小児では全小児悪性腫瘍の過半数(endemic地域),25〜40%(non-endemic地域)を占め,男女比は2〜3:1で男性に多い.回盲部腫瘤などの腹部腫瘤で発症することが多く,腹腔内リンパ節,卵巣,腎,乳房,骨髄,中枢神経などへの浸潤も少なくない3).リンパ節腫脹や白血球異常高値で発見されることもある.臨床的には極めて進行が速く,腫瘍量増大による腫瘍崩壊症候群を来しやすいが,適切な治療を行うことで高率に治癒が期待できるため,他の病型との鑑別診断が重要となる.

 特徴的な検査所見としては,LD(lactate dehydrogenase),尿酸,sIL-2R(soluble interleukin-2 receptor)高値,染色体転座t(8;14)(q24;q32)などが挙げられる.BLの症例データを→表1に示した.LDの著明な高値が特徴的である.

4 濾胞性リンパ腫(FL)

著者: 寺島道子

ページ範囲:P.973 - P.975

 濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma:FL)は代表的な低悪性度B細胞リンパ腫であり,非ホジキンリンパ腫の7〜15%を占める.WHO分類第4版では,胚中心由来成熟B細胞より構成され,少なくとも一部は濾胞構造が認められるものとされている1〜3).本病型は基本的にリンパ節原発であるが,節外性にも発症し,消化管(特に十二指腸),皮膚,甲状腺,唾液腺,乳腺,精巣などが発症部位として挙げられる.脾臓,骨髄にもしばしば進展する.骨髄浸潤は40〜70%と高率に認められ,末梢血に腫瘍細胞を認めることも多い.そのため,大半の症例は診断時にすでに進行期である.経過は緩徐だが,化学療法施行後に再燃を来すことが多い.一部の症例はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫へ組織学的進展(histologic transformation)を来し,予後不良である.

5 マントル細胞リンパ腫(MCL)

著者: 寺島道子

ページ範囲:P.976 - P.977

 マントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma:MCL)は,マントル層内側のpre-germinal center B細胞由来の中等度(アグレッシブ)B細胞リンパ腫である1,2).小型〜中型で,N/C(nucleus/cytoplasm)比が大きく,核網粗剛,一部に切れ込みを有する成熟リンパ球がみられる.リンパ節が最も多く,脾臓,骨髄,末梢血にもみられる.節外病変としては,消化管,扁桃などが多い3).ほとんどの症例で,免疫グロブリン重鎖遺伝子とサイクリンD1遺伝子の転座であるt(11;14)(q13;q32)がみられる.

6 節外性濾胞辺縁帯粘膜関連リンパ組織型リンパ腫(MALTリンパ腫)

著者: 増田亜希子

ページ範囲:P.978 - P.979

 節外性濾胞辺縁帯粘膜関連リンパ組織型リンパ腫(mucosa-associated lymphoid tissue:MALTリンパ腫)は,粘膜関連リンパ組織の辺縁帯領域のB細胞に由来する低悪性度リンパ腫である1,2).わが国の悪性リンパ腫の8.45%を占め,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)に次いで多い.発症年齢の中央値は61歳で,男女比は1:1.2とやや女性に多い.緩徐に進行する腫瘍であり,大半の症例では病変が限局しているが,DLBCLに形質転換する場合がある.

 MALTリンパ腫は,胃(50%以上),肺,甲状腺,唾液腺など生理的にリンパ組織が存在しない部位に発症し,多くは慢性炎症を基盤とする.胃MALTリンパ腫の多くはHelicobacter Pylori(H. Pylori)感染を背景に発症し,H. Pylori除菌治療が奏功することが多い.

 腫瘍細胞は小型〜中型の成熟リンパ球様であり,しばしば形質細胞への分化を示す.骨髄浸潤の頻度は約20%とあまり高くはない.t(11;18)(q21;q21)/API2-MALT1は,MALTリンパ腫に特徴的な染色体異常である.

7 慢性リンパ性白血病(CLL)

著者: 寺島道子

ページ範囲:P.980 - P.981

 慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia:CLL)は,小型で成熟した円形・類円形の核を有するBリンパ球がクローン性に増殖し,末梢血,骨髄,リンパ節,脾臓などに浸潤する疾患である.WHO分類第4版では,CLLは以下のように定義されている1,2)
①小型(球状から軽度核形不整)成熟型リンパ球の単クローン性増殖
②末梢血,骨髄,リンパ節,脾臓で増殖
③末梢血中に腫瘍性リンパ球が5×103/μL以上,3カ月以上持続
④組織内病変では増殖中心(前リンパ球・傍免疫芽球とともに)を形成
⑤腫瘍性Bリンパ球はCD5,CD23を共発現
⑥SLL(small lymphocytic lymphoma)の名称は,非白血病状

 CLLは欧米では白血病の20〜30%を占めるが,わが国では2%以下とまれである.高齢者に多く,男性でやや多い.臨床症状では,末梢血白血球増多,貧血,リンパ節腫大,肝脾腫などを認める.臨床病期分類(Rai分類,Binet分類)は予後予測に有用である3).CLLは緩徐な経過をたどる疾患であり,早期の治療を行っても予後は改善しないため,進行性でない場合は無治療経過観察を行い,進行性と考えられる場合は化学療法を検討する.CLLの2〜10%はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に進展することがあり,Richter症候群と呼ばれ,予後不良である.

8 有毛細胞白血病(HCL)

著者: 小野佳一

ページ範囲:P.982 - P.983

 有毛細胞白血病(hairy cell leukemia:HCL)は,細胞質から飛び出した毛髪状の突起を持つ細胞(ヘアリー細胞)が特徴的な,低悪性度の成熟B細胞腫瘍である1).HCLはまれな腫瘍であり,HCL,有毛細胞白血病亜型(hairy cell leukemia-variant:HCL-v),日本型有毛細胞白血病(hairy cell leukemia-japanese variant:HCL-jv)の3病型に大別される.わが国では日本型HCL(HCL-jv)が多い2).HCLの平均発生年齢は約50歳で,男性に多い(男女比4〜5:1).

 骨髄,脾臓で主に増殖し,脾腫を来す.末梢血中にヘアリー細胞が認められることもあり,肝臓,リンパ節や皮膚にも浸潤することがある.血液検査では,汎血球減少がみられ,特に単球減少が特徴的である.

 HCL-vは,WHO分類第4版では,脾B細胞リンパ腫/白血病−分類不能群(splenic B-cell lymphoma/leukaemia - unclassifiable:SpLL-U)に分類されている.HCLに類似するが,白血球増加を示す,ヘアリー細胞が目立たない,芽球様で切れ込みのある核小体を有する核がある,酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ(tartrate-resistant acid phopshatate:TRAP)活性が陰性,HCLに有効な化学療法(クラドリビン)に抵抗性があるなど,異なった特徴を有する.日本でみられるHCL-jvでは,しばしば顆粒リンパ球増多を合併する.

9 リンパ形質細胞性リンパ腫(LPL)/Waldenströmマクログロブリン血症(WM)

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.984 - P.985

 リンパ形質細胞性リンパ腫(lymphoplasmacytic lymphoma:LPL)とWaldenströmマクログロブリン血症(Waldenström macroglobulinemia:WM)は類似した病態であるため,本項でまとめて記載する.

1.LPLとWMの定義

 LPLはCD5陰性の低悪性度B細胞腫瘍であり,臨床経過は比較的緩やかである1).わが国では非Hodgkinリンパ腫の0.7%とまれである2).中高年に多く,男女比ではやや男性に多い.多くの症例で骨髄浸潤を認め,肝脾腫もしばしばみられる.一方,WMは,WHO分類第4版では「骨髄浸潤とIgM型M蛋白血症を伴うLPL」と定義されている1).大半のLPL症例で骨髄浸潤やIgM型M蛋白血症を伴うことから,LPLの多くはWMを合併していることになる.

2.LPLとWMに共通する特徴

 骨髄やリンパ節で,小型〜中型の成熟リンパ球,形質細胞様のリンパ球や形質細胞の増殖を認める.肺などの節外病変もありうる.他の低悪性度B細胞リンパ腫,特にMALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫との鑑別が問題となる.臨床症状では貧血,血小板減少,リンパ節腫脹,肝脾腫が高頻度に認められる.IgM≧3,000mg/dLでは過粘稠症候群を来しやすくなり,眼症状,神経症状などがみられる3).クリオグロブリン血症もしばしば認められる.多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)と異なり,骨病変や腎機能障害はまれである.進行は緩徐であるため,臨床症状がみられた場合に治療を検討する.一部の症例でびまん性大細胞型B細胞リンパ腫への形質転換を認め,予後不良である.

10 多発性骨髄腫(MM)

著者: 吉川直之

ページ範囲:P.986 - P.989

 形質細胞はBリンパ球がさらに分化した細胞であり,免疫グロブリン(IgG,IgA,IgD,IgE)を産生する.形質細胞が単クローン性に増殖したのが形質細胞腫瘍であり,多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM),意義不明の単クローン性γグロブリン血症(monoclonal gammopathy of undetermined significance:MGUS),原発性アミロイドーシス(ALアミロイドーシス)などが含まれる1,2)

 MMは,その産物である単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)の産生や,貧血を主とする造血障害,易感染性,腎障害,溶骨性変化などの多彩な臨床症状を呈する疾患である8).高齢者に多い.骨髄腫の診断には,IMWG(International myeloma working group)の骨髄腫診断基準が広く用いられている(→表1)3,9).M蛋白の種類別の内訳は,IgG型約55%,IgA型約20%,Bence-Jones蛋白(Bence Jones protein:BJP)型約20%,IgD型3〜4%,非分泌型約3%となっており,IgE型やIgM型はきわめてまれである.診断の際は,①骨髄の形質細胞比率,②血清や尿のM蛋白の同定(免疫電気泳動,免疫固定法など),③臨床症状の評価(→表2)が重要である.症状のある場合は治療適応となり,新規薬剤も含めた化学療法,自家末梢血幹細胞移植などが行われる.

11 意義不明の単クローン性γグロブリン血症(MGUS)

著者: 西川真子

ページ範囲:P.990 - P.991

 意義不明の単クローン性γグロブリン血症(monoclonal gammopathy of undetermined significance:MGUS)は,血清単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)を認めるが,量が少なく,臨床症状のないものを指す.WHO分類第4版では形質細胞腫瘍に分類される1).多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)の前駆病態として認識されており,年1〜2%の頻度でMMや全身性アミロイドーシスへと進展する8,12).50歳以上の約1〜3%に認められる.MGUSは化学療法の適応とはならないが,MMに進展する可能性があるため,慎重な経過観察が必要である.

12 形質細胞白血病(PCL)

著者: 髙橋千春

ページ範囲:P.992 - P.993

 形質細胞白血病(plasma cell leukemia:PCL)は形質細胞腫瘍の一病型であり,末梢血中の形質細胞>2,000/μL,かつ,形質細胞比率≧20%以上と定義される9).多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)に比べて進行が速く,予後不良である.

 PCLは発症時からPCLの病像を示す原発性PCLと,MMの経過中に白血化した二次性PCLとに分類される.原発性PCLが60〜70%を占め8),二次性PCLは,MM患者の2〜4%で合併する.原発性PCL患者の平均発症年齢は52〜65歳で,二次性PCLやMM患者よりも10歳程度若い.

 貧血,腎不全,溶骨性病変などMMと同様の症状もみられるが,PCLではリンパ節腫大や臓器腫大などの髄外浸潤が高頻度にみられる.また,染色体異常も高率に認める.予後は非常に不良であり,原発性PCLの生存期間中央値は6.8〜12.6カ月,PCLと診断された患者の約3割は診断後1カ月以内の死亡と報告されている13)

13 原発性アミロイドーシス

著者: 増田亜希子

ページ範囲:P.994 - P.995

 アミロイドーシスは,アミロイドと呼ばれる線維性の蛋白質が細胞間質に沈着することにより,臓器障害を起こす症候群である.複数の臓器にアミロイドが沈着する全身性アミロイドーシスと,ある臓器に限局してアミロイドが沈着する限局性アミロイドーシスに大別される.

 原発性アミロイドーシス(ALアミロイドーシス)は全身性アミロイドーシスの代表的な一病型であり,免疫グロブリン軽鎖由来のアミロイド線維(ALアミロイド)が全身臓器に沈着し,機能障害を来す症候群である8).基礎疾患として形質細胞異常症を有し,WHO分類第4版では形質細胞腫瘍に含まれる1).しかし,骨髄内の形質細胞は少なく,骨病変,貧血,高カルシウム血症は認めないことが多い.各臓器へのアミロイド沈着による症状が主体であり,頻度の高い症状としては,腎機能障害(ネフローゼ症候群),消化管症状(下痢など),心アミロイドーシス,末梢神経障害などが挙げられる.多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)の経過中にアミロイドーシスを合併することもある.確定診断には生検によりアミロイドの沈着を確認する必要がある.心アミロイドーシスを来した場合は,特に予後不良である.

6章 成熟T細胞腫瘍

1 成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL/ATLL)

著者: 水間知世

ページ範囲:P.998 - P.1001

 成人T細胞白血病/リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma:ATL/ATLL)は,HTLV-1(human T-cell leukemia virus type-1)の感染により引き起こされるT細胞のリンパ腫である.flower cellと呼ばれる異常リンパ球の増加を主体とした白血球増加,リンパ節腫脹,皮膚病変,ATL細胞の浸潤による臓器障害,LD(lactate dehydrogenase)高値,高カルシウム血症,日和見感染症などが出現する1〜3).日本の九州・沖縄地方,中央アフリカや中南米が好発地域である.最近わが国では,九州・沖縄地方以外の発症が増えている.ATLは,臨床的にくすぶり型,慢性型,リンパ腫型,急性型の4病型に分類される(→表1)4).くすぶり型・慢性型は低悪性度ATL,リンパ腫型・急性型は高悪性度ATLとされる.

 HTLV-1はレトロウイルス科に属するRNAウイルスである.HTLV-1キャリアが生涯においてATLを発症する確率は約5%であり,大多数のキャリアは生涯無症候のままである.ATLの発症は通常40歳以降であり,平均68.3歳である.HTLV-1キャリアは,わが国では西南日本沿岸部を中心に約110万人存在する.主な感染経路には,母乳を介した母児感染,男女間感染,輸血の3つがあり,母親がキャリアであった場合は母乳栄養児の20.5%が感染すると報告されている(人工栄養児では2.4%).

 治療としては,急性型,リンパ腫型,予後不良因子(LD,アルブミン,BUNのいずれかひとつ以上が異常値)を持つ慢性型では,多剤併用化学療法が施行される.若年者では同種造血幹細胞移植も検討される.最近では,ATL細胞の表面に発現しているケモカイン受容体のCCR4に対するモノクローナル抗体(モガムリズマブ)が臨床応用されている.

2 Sézary症候群(SS)

著者: 寺島道子

ページ範囲:P.1002 - P.1003

 初診時に皮膚以外の臓器に病変を認めない悪性リンパ腫を原発性皮膚リンパ腫と呼ぶ.わが国では,皮膚リンパ腫の約80%はT細胞リンパ腫である.Sézary症候群(Sézary syndrome :SS)は,菌状息肉症(mycosis fungoides, MF)とともに,皮膚T細胞リンパ腫の中で代表的な疾患である.

 MFは皮膚リンパ腫の約半数を占め,皮膚病変を初発症状として,紅斑や腫瘤形成をきたす.SSは皮膚リンパ腫の5%以下とまれな疾患であり,60歳以上の男性に多い.紅皮症,全身リンパ節腫脹,脳回転状に切れ込んだ核を有するSézary細胞と呼ばれる腫瘍細胞を末梢血,皮膚,リンパ節に認める1,2).予後は不良で,5年生存率は10〜20%である1,2).MFとSSは,経過中に互いに移行することがあるため,同じカテゴリーに分類される.病期分類は共通のものが使用され,治療方針も似通っている.

 SSは,WHO分類第4版では,以下をひとつ以上満たす必要があると定義されている1)

 ①末梢血でSézary細胞が1,000/μL以上

 ②CD4陽性T細胞の増加により,CD4/CD8比が10以上

 ③T細胞系マーカーの一部欠如

 予後は不良で,5年生存率は10〜20%である.

3 末梢性T細胞リンパ腫,非特定型(PTCL,NOS)

著者: 増田亜希子

ページ範囲:P.1004 - P.1005

 末梢性T細胞リンパ腫(peripheral T-cell lymphomas:PTCL)は,胸腺での分化成熟を経て末梢臓器に移動したT細胞に由来する種々のリンパ系腫瘍の総称であり,わが国ではリンパ系腫瘍の約10%を占める5).WHO分類第4版では,多くのPTCLは,血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(angioimmunoblastic T-cell lymphoma:AITL),未分化大細胞型リンパ腫(anaplastic large cell lymphoma:ALCL)などのように,明確な疾患単位として分類されている.明確に分類できないPTCLは,除外診断的に末梢性T細胞リンパ腫,非特定型(peripheral T-cell lymphoma, not otherwise specified:PTCL, NOS)として分類される.そのため,PTCL, NOSに含まれる症例は,形態学的にも生物学的にも多様である1,2).WHO分類第3版では,PTCL-U(PTCL-unspecified)と呼ばれていた6)

 PTCL, NOSは,わが国ではリンパ腫全体の約7%を占め,成熟T/NK細胞腫瘍の中では成人T細胞白血病/リンパ腫(adult T-cell leukemia-lymphoma:ATL)と並んで頻度の高い病型である5).成人に多く,男女比は2:1と男性に多い.病変部位としては,末梢のリンパ節が多いが,骨髄,肝臓,脾臓などにも浸潤を認めることがある.節外病変では,皮膚や消化管が多い.骨髄浸潤は約20%で認められる.化学療法抵抗性であり,5年生存率20〜30%と予後不良である2)

4 血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)

著者: 髙橋千春

ページ範囲:P.1006 - P.1007

 血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(angioimmunoblastic T-cell lymphoma:AITL)は,末梢性T細胞リンパ腫の一病型であり,CD4陽性濾胞ヘルパーT細胞(follicular helper T-cell:TFH)に由来する腫瘍である1,2).T細胞系マーカーのCD3,CD4に加え,TFHの特徴的なマーカーであるCD10,CXCL13,PD-1が陽性となる7).わが国におけるAITLの発生頻度は,リンパ腫全体の約2%,T/NK細胞腫瘍の約10%とされている5).中高年に好発する.

 初発時から全身のリンパ節腫脹,発熱,体重減少,肝脾腫,皮疹など,B症状を伴う全身症状を示すことが多い.高率に骨髄浸潤を来す(50〜90%).LD(lactate dehydrogenase)や可溶性IL-2レセプター(soluble interleukin-2 receptor:sIL-2R)高値など他のリンパ腫と共通した検査値異常に加えて,AITLでは多クローン性高γグロブリン血症,自己免疫性溶血性貧血などの免疫異常をしばしば伴う.急速に進行することが多く,生存期間中央値は3年未満とされている.

5 未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)

著者: 増田亜希子

ページ範囲:P.1008 - P.1009

 未分化大細胞型リンパ腫(anaplastic large cell lymphoma:ALCL)は,CD30陽性大型細胞から成る末梢性T細胞リンパ腫であり,細胞傷害性T細胞に由来する.わが国では全リンパ系腫瘍の約2%を占める5).ALK(anaplastic lymphoma kinase)蛋白発現の有無により,ALK陽性ALCL,ALK陰性ALCLに大別される.両者は形態学的には極めて類似しているが,→表1に示すように臨床像は大きく異なるため,WHO分類第4版では別個の疾患単位として分類されている1,2)

 ALK陽性ALCLはALK陰性ALCLに比べて明らかに予後が良好であるため,鑑別診断が重要である.免疫組織染色やFISH(fluorescence in situ hybridization)所見に基づいて診断を行う.

6 T細胞大顆粒リンパ球性白血病(T-LGLL)

著者: 増田亜希子

ページ範囲:P.1010 - P.1011

 T細胞性大顆粒リンパ球性白血病(T-cell large granular lymphocytic leukemia:T-LGLL)は,WHO分類第4版では,明らかな原因のない6カ月以上持続する末梢血顆粒リンパ球増殖症と定義されている.顆粒リンパ球は,細胞質にアズール好性顆粒を3個以上有する大型リンパ球で,大きさは15μm程度であることが多い.T-LGLLの診断基準にリンパ球数の規定はない1,2).リンパ腫の0.06%とまれであり5),性差はなく,成人に多く発症する.

 臨床症状では,貧血や好中球減少を認めることが多い.高率に赤芽球癆を合併する.浸潤部位は末梢血,骨髄,肝臓・脾臓が多く,リンパ節はまれとされている.治療としては,シクロスポリンなどの免疫抑制剤が用いられる.

7章 Hodgkinリンパ腫

1 Hodgkinリンパ腫(HL)

著者: 髙橋千春

ページ範囲:P.1014 - P.1017

 Hodgkinリンパ腫(Hodgkin lymphoma:HL)は,欧米では全悪性リンパ腫の約30%,わが国では8〜10%を占めるリンパ腫である.加齢とともに発生頻度が増加する非HLとは異なり,若年者層(20歳代)と中年層(50〜60歳)にピークを有している.HLの病因は不明な点が多いが,多くはB細胞リンパ腫である.近年ではEpstein-Barrウイルス(Epstein-Barr virus:EBV)感染との関連についても報告されている1〜3)

 HLは,結節性リンパ球優位型HL(nodular lymphocyte-predominant HL:NLPHL)と古典的HL(classical HL:CHL)の2つに大別される.CHLはHL全体の95%を占め,4病型に分類される(→表1)1).CHLは,組織学的にHodgkin細胞やRS(Reed-Sternberg)細胞を特徴とする.

 初発症状の多くは,無痛性表在リンパ節腫脹である.CHLの発生部位は頸部リンパ節が多く,病変は連続性に広がる.結節硬化型CHLでは縦隔病変を認めることが多い.血液検査では,血沈の亢進やCRP(C-reactive protein)高値などを認める.治療としては,化学療法単独または化学療法と放射線治療の併用療法が行われる.

Ⅱ部 造血器腫瘍以外 8章 白血球系

1 伝染性単核症(IM)

著者: 大金亜弥

ページ範囲:P.1020 - P.1021

 伝染性単核症は,EBV(Epstein-Barr virus)に感染することにより発症する急性感染症である.数日〜2週間程度持続する発熱,咽頭痛,頸部リンパ節腫脹の3つの臨床症状と,末梢血液中に異型リンパ球を認めることが特徴である.約半数に肝脾腫がみられ,約8割の患者に肝機能障害がみられる.

 思春期に感染した場合,通常1〜3カ月で治癒する.しかし,乳幼児期で症状が遷延する例や,成人では劇症肝炎に進展する例が知られており,特に血球貪食症候群を合併する場合は致死的経過をとる可能性があり,多彩な合併症には注意が必要である.

 EBVは唾液を介して感染し,既感染者からの輸血や臓器移植でも感染する可能性がある.季節性はない.一度感染すると潜伏感染状態となり,終生ウイルスキャリアとなる.2〜3歳までに感染率は7割前後に達し,ほとんどが不顕性感染である.

2 デング熱

著者: 大金亜弥

ページ範囲:P.1022 - P.1023

 デング熱は,フラビウイルス科フラビウイルス属のRNAウイルスであるデングウイルスの感染により発症する急性発熱性疾患である.ネッタイシマカやヒトスジシマカを媒介してヒトに感染する.アジア,中東,アフリカ,中南米,オセアニアで流行しており,年間1億人近くの患者が発生していると推定されている.わが国では,主に東南アジアを中心とする流行地域からの帰国者で発症する事例が多いが,2014年には海外渡航歴がない患者が都内を中心に全国的に続出し,話題となった.

 媒介蚊は,デングウイルスを保有している患者の血液を吸血することでウイルスを保有し,この蚊が非感染者を吸血する際に感染が生じる.ヒトからヒトへの直接感染はない.感染しても,無症候性感染の頻度は50〜80%とされている.

 デング熱の主症状は,発熱,全身倦怠感,頭痛,関節痛,筋肉痛,皮疹などである.血算では白血球減少や血小板減少を認めることが多い.発症すると通常は1週間前後の経過で回復する.しかし,一部の患者は経過中に血管透過性亢進を伴うデング出血熱へと進行し,このうち,デングショック症候群の病態になった患者を重症型デングと呼ぶ.重症型デングは,放置すれば致命率は10〜20%とされる.重症化する要因について,デングウイルスにはDENV-1〜5の5つの血清型があるが,血清型の異なるウイルスによる2度目の感染に起因するという説が強い.

3 敗血症

著者: 吉川直之

ページ範囲:P.1024 - P.1025

 敗血症(sepsis)は,感染によって発症した全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)である.すなわち,感染の存在に加え,SIRSの定義の4項目のうち2項目以上が該当する場合である(→表1)1)

 症状としては,発熱,頻脈,意識障害,消化器症状(悪心,嘔吐,下痢,黄疸),乏尿,発疹などが挙げられる.敗血症のなかで,臓器障害,臓器灌流低下または低血圧を呈する状態を重症敗血症(severe sepsis)という.重症敗血症のうち,十分な輸液負荷を行っても低血圧が持続するものを敗血症性ショック(septic shock)という.

 重症敗血症/敗血症性ショックでは菌血症を合併している可能性が高いため,すべての症例において,原因菌診断目的に,抗菌薬投与開始前に血液培養を行う.原因となる感染部位は,腹腔内,呼吸器,血流(カテーテル関連を含む),皮膚・軟部組織,尿路などが多い.原因菌としては,黄色ブドウ球菌〔MRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aureus),MSSA(methicillin-susceptible Staphylococcus aureus)〕,大腸菌,肺炎桿菌,緑膿菌,エンテロバクター属などが多い.

4 百日咳

著者: 大金亜弥

ページ範囲:P.1026 - P.1027

 百日咳は,百日咳菌(Bordetella pertussis)の感染により,特有の痙攣性の咳発作(痙咳発作)を来す急性気道感染症である.世界的にみられる疾患で,いずれの年代層でも罹患しうるが,小児の感染が中心である.また,1歳以下の乳児,特に生後6カ月以下では重症化しやすく,死亡率が高い.そのため,百日咳ワクチンの接種が推奨されている.現在,わが国では百日咳ワクチンを含むジフテリア・百日咳・破傷風(diphtheria,pertussis,tetanus:DPT)三種混合ワクチン接種を,生後3カ月から受けることができる.

 原因となる病原体は,グラム陰性桿菌である百日咳菌であるが,一部はパラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)の場合がある.感染経路は,鼻咽頭や気道からの分泌物による飛沫感染および接触感染である.臨床経過は3期に分けられる.まず,通常1週間程度の潜伏期を経て,感冒症状で始まり,次第に咳の回数が増加し,程度も激しくなる.これをカタル期と呼ぶ.その後,次第に特徴的な発作性痙攣性の咳(痙咳)を繰り返すようになり,2週間程度持続する.これを痙咳期と呼ぶ.発熱はない,もしくは微熱程度である.激しい発作は次第におさまり,2〜3週間で回復する.

5 無顆粒球症

著者: 大金亜弥

ページ範囲:P.1028 - P.1029

 末梢血の顆粒球(好中球)が1,500/μL以下の状態を顆粒球減少症,500/μL以下の状態を無顆粒球症と呼ぶ.赤血球数と血小板数は基準範囲内であることが多いとされる.臨床的には発熱や咽頭痛などの感染症状で発見されることが多い.無顆粒球症の原因としては薬剤性が多く,原因薬剤として抗甲状腺薬や抗生剤,胃潰瘍治療薬,向精神薬などが知られている.原因薬剤の投与中止で好中球数は回復する.感染症を合併している場合は,抗生剤投与やG-CSF(granulocyte-colony stimulating factor)の投与が行われる.薬剤性無顆粒球症の本邦における発症頻度は2人/100万人/年と報告されており,まれではあるが,適切に治療されなければ致命率の高い疾患である.

6 神経芽腫

著者: 水間知世

ページ範囲:P.1030 - P.1031

 神経芽腫は,胎生期の神経堤細胞を起源とする細胞が癌化したものである.腫瘍は副腎髄質および後腹膜部,後縦隔部など交感神経の存在する部位に発生し,カテコラミンを産生する5).神経芽腫は小児期の悪性腫瘍の約10〜15%を占め,白血病に次いで多く,固形腫瘍としては最も頻度が高い.

 症状は発症年齢と病期で異なる.悪性度の高いものから自然退縮するものまで,臨床経過は様々である.新生児期では病期4Sを示すことが多く,分娩時に巨大な胎盤,浮腫,貧血,黄疸などの胎児赤芽球症に類似した症状と,多発性肝転移による著明な腹部膨満を認める.乳児期では,新生児期と同様の病期4S,または限局腫瘍例が多い.限局腫瘍例は無症状で,乳児健診などにより偶然発見されることが多い.幼児期では,大きな原発腫瘍と多彩な転移症状が出現する.転移症状としては,脊髄圧迫,腰痛,膀胱直腸障害,下肢麻痺などを起こす.

 神経芽腫患者の約70%は診断時に転移がみられる.予後は発症年齢,臨床病期,染色体・遺伝子異常の有無と強く関連する.18カ月未満の発症例は予後良好であり,18カ月以上の発症例は予後不良である.腫瘍組織中のMYCN遺伝子増幅は予後不良因子である.

7 骨髄癌腫症

著者: 吉川直之

ページ範囲:P.1032 - P.1034

 骨髄癌腫症は,腫瘍細胞が骨髄内に多発性かつ広範囲に転移し,骨髄組織が腫瘍細胞に置換された状態をいう.骨髄には血行性に腫瘍細胞の転移が起こりやすいが,一般的に未分化なものほど骨髄への転移が多く,組織型では腺癌が多い.骨髄癌腫症を来しやすい腫瘍として,上皮性腫瘍では,胃癌,肺癌,乳癌,前立腺癌,甲状腺癌,腎癌など6),非上皮性腫瘍では小児に多い神経芽細胞腫,横紋筋肉腫,ユーイング肉腫(Ewing's sarcoma),骨肉腫などが挙げられる.溶骨性転移と造骨性転移があり,乳癌では溶骨性転移が多く,前立腺癌では造骨性転移が多い.

 貧血,腰背部痛,出血傾向が三主徴とされるが,最も多いのは全身倦怠感と腰背部痛である.末梢血のleukoerythroblastosis(白赤芽球症)を契機に骨髄検査が施行され,診断されるケースが少なくない.赤色髄を有する部位への転移が多く,脊椎骨,骨盤骨,肋骨,胸骨,頭蓋,大腿骨などへの転移が知られている.画像検査としては,単純X線,CT,MRI,骨シンチグラフィ,PET-CT(positron emission tomography- computed tomography)などが行われる.骨髄を中心とする広範なリンパ行性,血行性転移によるびまん性臓器浸潤により,しばしばDIC(disseminated intravascular coagulation)やmicroangiopathic hemolytic anemiaを合併する.

8 血球貪食症候群(HPS)

著者: 大金亜弥

ページ範囲:P.1035 - P.1037

 血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome:HPS)は,感染症,自己免疫異常,悪性疾患などが契機となり,骨髄内で貪食細胞が増加した結果,血球減少を来す病態である.一次性と二次性があり,ほとんどが二次性である.HPSの分類を→表1に示す7).一次性では,常染色体性劣性遺伝の家族性血球貪食性リンパ組織球症(familial hemophagocytic lymphohistiocytosis:FHL)など,先天性の免疫異常に伴うものが含まれる.二次性の基礎疾患では,感染症,リンパ腫,自己免疫疾患が多い.感染症関連では,EBV(Epstein-Barr virus)関連〔EBV-AHS(Epstein-Barr virus-associated hemophagocytic lymphohistiocytosis)〕が大半を占める.HPSの発症機序には,①サイトカインを介する機序,②自己抗体を介する機序,③免疫複合体を介する機序の3つが考えられている.

 EBV-AHSでは,EBVの初回感染や再活性化に伴い発症する.リンパ腫関連血球貪食症候群(lymphoma-associated hemophagocytic syndrome:LAHS)は,B細胞性とT/NK細胞性が半々ずつみられる.B細胞性は高齢者に多く,EBV非関連の場合が多いが,T/NK細胞性は若年層に多く,EBV遺伝子が高率に陽性である.B細胞性の半数はIVL(intravascular lymphoma),T/NK細胞性の半数は鼻および鼻型リンパ腫であり,どちらも肝脾腫と骨髄浸潤を特徴とする.その他に,同種造血幹細胞移植後にHPSを発症する場合がある.

 HPSの治療としては,高サイトカイン病態のコントロールとして,ステロイドや化学療法,同種造血幹細胞移植などが行われている.病型により予後は異なり,特にリンパ腫由来のHPSの予後は極めて不良である.

9 Hematogones(HGs)

著者: 増田亜希子

ページ範囲:P.1038 - P.1039

 急性白血病,リンパ腫の化学療法後や同種造血幹細胞移植後に,骨髄塗抹標本にて小型,核網繊細でN/C(nucleus/cytoplasm)比の大きいリンパ球様細胞の増加がみられることがある.これらは,HGs(hematogones)と呼ばれるB前駆細胞である.HGsは,フローサイトメトリー(flow cytometry:FCM)にて,CD10,CD19,CD34の幼若な細胞(stage 1)から,CD20の比較的成熟した細胞(stage 3)まで,様々な分化段階のものが存在する(→表1)8).stage 1の幼若なHGsが増加している場合,特にB細胞性急性リンパ性白血病(B-cell acute lymphoblastic leukemia:B-ALL)との鑑別が問題となる.

9章 赤血球系

1 再生不良性貧血(AA)

著者: 吉川直之

ページ範囲:P.1042 - P.1043

 再生不良性貧血(aplastic anemia:AA)は,末梢血の汎血球減少症と骨髄の低形成を特徴とする症候群である.末梢血や骨髄に芽球の増加を認めない(血球減少の基準は→表1参照)1).血球減少の原因となる他の疾患がないことが条件となるため,→表2に挙げられた疾患を鑑別する必要がある.臨床症状としては,貧血に伴う症状(体動時の息切れ,易疲労感など),出血傾向(紫斑,歯肉出血,鼻出血など),好中球減少に伴う易感染性が挙げられる.先天性と後天性がある(→表3)1)

 重症度分類(最重症〜軽症まで5段階)に基づき,治療方針を決定する.治療としては,免疫抑制療法(シクロスポリン),蛋白同化ステロイド療法,同種造血幹細胞移植,支持療法〔輸血,G-CSF(granulocyte-colony stimulating factor)投与,鉄キレート療法など〕などがある.

2 発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)

著者: 吉川直之

ページ範囲:P.1044 - P.1045

 発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)は,PIG-A遺伝子に後天的変異を持った造血幹細胞がクローン性に拡大した結果,補体による血管内溶血(Coombs陰性)を来す造血幹細胞疾患である.再生不良性貧血(aplastic anemia:AA)を代表とする後天性骨髄不全疾患としばしば合併・相互移行する3)

 臨床所見として,貧血,黄疸のほか,肉眼的ヘモグロビン尿(淡赤色尿〜暗褐色尿)を認めることが多い.時に静脈血栓,出血傾向,易感染性を認める.先天発症はないが,青壮年を中心に広い年齢層で発症する.またまれではあるが,急性白血病への移行もある.

 PIG-A遺伝子は,GPI(glycosyl phosphatidylinositol)アンカーの生合成に必須な遺伝子であり,GPIアンカー結合型膜蛋白質の細胞膜表面への局在に必要不可欠である.常に補体の攻撃に曝されている赤血球は,健常者の場合,赤血球膜上のGPIアンカー型補体制御因子であるCD59やCD55により保護されている.しかし,GPIアンカーの生合成に異常のあるPNH赤血球では,CD59やCD55の全部あるいは一部が欠損しているため,感染症などを契機とした補体の活性化により溶血を起こす.

3 鉄欠乏性貧血(IDA)

著者: 野々部亮子

ページ範囲:P.1046 - P.1047

 鉄欠乏性貧血(iron deficiency anemia:IDA)は日常診療で最も頻繁に遭遇する血液疾患であり,ヘモグロビン(Hb)の材料となる鉄の需要量または喪失量が供給量を超えた時に生じる疾患である.日本人女性では,8〜10%の罹患率があるといわれている.

 IDAの発症には性別,年齢,環境など種々の要素が関与しており,①鉄の供給不足,②喪失亢進,③需要の亢進などが主な原因として挙げられる.女性では月経過多,子宮筋腫などの婦人科的疾患によるIDAが多い.一方で,男性や閉経後の女性では体外に喪失する鉄は少ないため,上・下部消化管出血や悪性腫瘍の有無について精査を行う必要がある.

 IDAは比較的長期間にわたり徐々に進行していることが多く,全く症状がみられずたまたま健診でみつかるものから,動悸や息切れ,易疲労感を呈するものまで,その程度は様々である.

 治療については,ほとんどの場合鉄剤投与で改善がみられるため,基本的に赤血球輸血の必要はない.治療の第一選択は鉄の補充であり,経口投与が原則である.貯蔵鉄の指標であるフェリチンが正常化するまで投与を行う.

4 サラセミア

著者: 野々部亮子

ページ範囲:P.1048 - P.1049

 サラセミアは先天的なヘモグロビンの遺伝子異常症であり,特定のグロビン鎖の合成障害に起因する.本症は,常染色体優性遺伝形式をとり,地中海沿岸,アフリカ,中東,インド,東南アジアなどにベルト状に多発している.これらの地域はマラリアの多発地域と重なっていることから,サラセミアの血球がマラリア抵抗性を示すものと考えられている.

 サラセミアでは,α,βグロビンのうちどちらか一方の産生が遺伝的に減少しているため,ヘモグロビン(Hb)四量体の生成が低下し,血球内のHb量が減少する.相対的に余剰となったグロビンは血球内の蛋白分解酵素によって処理され,変性してハインツ小体を形成する.これが赤血球膜に酸化的障害を与えて溶血性貧血を来す.この溶血性貧血は一般に重症サラセミア,あるいは中間型サラセミアでみられ,日本で最も多い軽症型では通常みられない.軽症αグロビンの産生低下をαサラセミア,βグロビンの産生低下をβサラセミアと称している.

 軽症例では治療不要だが,感染症などを契機に貧血が悪化することがある.重症型では骨髄の異常造血を抑制するため,定期的な赤血球輸血を行う.輸血によるヘモクロマトーシスを防ぐため,鉄キレート剤の投与も行う.その他の治療として,摘脾や免疫抑制剤投与なども行われる.

5 遺伝性球状赤血球症(HS)

著者: 野々部亮子

ページ範囲:P.1050 - P.1051

 遺伝性球状赤血球症(hereditary elliptocytosis:HS)は黄疸,貧血,脾腫を主徴とし,末梢血における小型球状赤血球の存在や浸透圧抵抗の減弱を特徴とする先天性溶血性貧血である5).本症は,わが国の先天性溶血性貧血において,その約70%を占める最も頻度の高い疾患である.

 原因となる遺伝子としてはSPTA1(spectrinα鎖),SPTB1(spectrinβ鎖),ANK1(ankyrin 1),SLC4A1(protein AE,またはband 3),ELB42(protein 4.2)などが報告されており,細胞骨格の異常により,円板状の赤血球形態を保てなくなる5).通常,遺伝形式は常染色体優性遺伝であるが,常染色体劣性遺伝を示す例や遺伝性を証明できない弧発例と考えられる症例も全体の約1/3程度存在する.

 HSの症状に関しては,骨髄の赤芽球系過形成のため,貧血は代償されていることが多い.重症例では中等度の黄疸と貧血症状が認められる.また,高頻度に脾腫がみられ,胆石の合併も多く認める.さらに,他の溶血性貧血を呈する疾患と同様,急激な貧血の増悪をみることがある.溶血発作と無形成発作の2種類が知られており,本症の診断の契機となる場合も多い.

 本症のもっとも有効な治療法は摘脾である.軽症のHSでは必ずしも積極的に摘脾を行う必要はないが,注意深い経過観察が必要である.

6 寒冷凝集素症(CAD)

著者: 水間知世

ページ範囲:P.1052 - P.1053

 寒冷凝集素症(cold agglutinin disease:CAD)は,寒冷凝集素の存在により,寒冷に曝露した際に赤血球凝集や血管内溶血を来し,貧血などを呈する疾患である.広義の自己免疫性溶血貧血(autoimmune hemolytic anemia:AIHA)のうち,産生される自己抗体がIgM型冷式抗体(寒冷凝集素)であるものを指す6).CADでの溶血は寒冷凝集素価と比例するとは限らず,低力価でも溶血症状を示すことがある.臨床症状としては,慢性溶血による貧血と,末梢循環障害による四肢末端などのチアノーゼ,Raynaud現象などがある.

 CADには慢性経過を取る特発性と,感染やリンパ腫などに伴う続発性とがある.感染に続発するCADは比較的急激に発症し,貧血も高度となることが多い.続発性CADを起こしやすい感染症として,マイコプラズマ,EB(Epstein-Barr)ウイルスが挙げられる.リンパ腫では,リンパ形質細胞性リンパ腫(lymphoplasmacytic lymphoma:LPL)に合併することが多い.

 CADの根本治療法はなく,寒冷を避け,十分に保温を行うことが重要である.感染に続発するCADは2〜3週間で消退し,再燃もなく,予後良好である.慢性特発性CADに対しては,リツキシマブの有効性も報告されている.リンパ腫に続発するものについては,基礎疾患によって予後は異なる.

7 鎌状赤血球貧血(SCA)

著者: 大金亜弥

ページ範囲:P.1054 - P.1055

 鎌状赤血球貧血は,鎌状(三日月形)の赤血球と,赤血球の過剰破壊による溶血性貧血を特徴とする常染色体劣性遺伝の疾患である.異常Hb(hemoglobin)であるHbSによって溶血性貧血を来す.ホモ接合体では,慢性溶血性貧血,末梢血流閉塞による疼痛発作と,その後遺症としての多臓器機能障害があり,予後不良である.ヘテロ接合体では,低酸素状態でのみ鎌状赤血球が出現するため,日常生活は可能である.鎌状赤血球はマラリアに対する防御のための変化であり,本疾患はマラリアの好発地域であるアフリカなどに多い.

 HbSは,β6(A3)のGlu(glucose)がVal(valine)に置き換わることにより,Hbの分子間結合が強化され,この結合力により線維束状の結晶様構造を形成する.この硬い線維束が赤血球膜を突き上げるように伸びることで,HbS症特有の鎌状変形を起こす.HbSホモ接合体の赤血球は,酸素分圧約45mmHg以下でHbSの析出により鎌状に変形し,赤血球膜の柔軟性を失う.静脈血酸素分圧は平均40mmHgであるため,患者の赤血球は常に鎌状に変形する危険がある.静脈血は血流速度が遅く,より血栓が形成されやすい環境にある.

 診断には,赤血球鎌状化試験(sickling test)が有用である.

8 自己免疫性溶血性貧血(AIHA)

著者: 水間知世

ページ範囲:P.1056 - P.1057

 自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia:AIHA)は,赤血球膜抗原に対する自己抗体が産生され,抗原抗体反応の結果,赤血球が傷害を受けて溶血し,貧血を来す病態である.原因不明で起こる特発性のものと,基礎疾患による免疫異常の結果起こる続発性のものがある.基礎疾患としては全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患,悪性リンパ腫や慢性リンパ性白血病などのリンパ系腫瘍,感染症などが挙げられる6)

 産生される自己抗体は,4℃を抗原抗体反応の至適温度とする冷式抗体と体温37℃を至適温度とする温式抗体に大別される.一般に温式抗体によるものをAIHAと呼ぶことが多いが,広義のAIHAには冷式も含まれる.冷式抗体による病型には,寒冷凝集素症(cold agglutinin disease:CAD)と発作性寒冷ヘモグロビン尿症(paroxysmal cold hemoglobinuria:PCH)がある.温式抗体はほとんどがIgGに属し,まれにIgM,IgAも存在する.また,温式・冷式の両者が検出される混合型も存在する.

 AIHAは臨床経過から急性と慢性に分類され,急性は6カ月以内に治癒するが,慢性は年単位または無期限の経過を取る.小児の急激発症例では急性が多いが,成人では慢性が多い.臨床症状としては,溶血により貧血,黄疸を認め,肝脾腫もしばしばみられる.治療の第一選択は副腎皮質ステロイドである.

9 Evans症候群

著者: 水間知世

ページ範囲:P.1058 - P.1059

 Evans症候群は,自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia:AIHA)と特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura:ITP)が合併したものである.AIHA,ITPに関しては,各項目を参照されたい.AIHAとITPの発症は必ずしも同時期とはいえず,またそれぞれの経過も同じとは限らない.Evans症候群は特発性AIHAの10〜20%を占め,紫斑や粘膜出血などの出血症状が前景に立つことがある.

10 マラリア

著者: 大金亜弥

ページ範囲:P.1060 - P.1061

 マラリアとは,ハマダラカが媒介する急性もしくは慢性の再燃性熱性疾患である.人類の寄生虫感染症の中で最も重要な感染症といわれ,2010年では年間65万人が死亡している.蚊を媒介してヒトに感染したマラリア原虫は,赤血球内で分裂・増殖を繰り返し,36〜72時間の周期で悪寒,戦慄を伴う40℃近い高熱,頭痛,嘔吐などの再燃性発作がみられる.三日熱マラリアが最も一般的だが,次に罹患率の高い熱帯熱マラリアは大脳マラリアの合併など重症化しやすく,死亡率が高いため,早期診断,早期治療が必須である.マラリア流行地への渡航歴があり,一定間隔で発熱発作を繰り返す場合や不明な高熱がみられる患者の場合は,マラリアを疑う必要がある.4種類のマラリアに共通した症状は発熱,脾腫,貧血である.貧血は,造血能を超えて赤血球の破壊が進むと生じる.

●マラリア原虫の種類
①熱帯熱マラリア(Plasmodium falciparum) ②三日熱マラリア(Plasmodium vivax) ③四日熱マラリア(Plasmodium malariae) ④卵形マラリア(Plasmodium ovale)

11 赤芽球癆(PRCA)

著者: 丸尾理恵

ページ範囲:P.1062 - P.1063

 赤芽球癆(pure red cell aplasia:PRCA)は正球性正色素性貧血と網赤血球の著減および骨髄赤芽球の著減を特徴とする造血器疾患で,赤芽球やその前駆細胞が傷害されることにより貧血を起こす.先天性と後天性があり,前者はDiamond-Blackfan貧血と呼ばれ,赤芽球前駆細胞の欠損あるいは低形成を示す造血障害による貧血である8).約25%にリボソームタンパク質に関連するRPS19遺伝子変異が認められる.後天性は臨床経過により急性と慢性に分けられ,さらに慢性では特発性と続発性に分類される.急性のPRCAとしてよく知られているのはヒトパルボウイルスB19によるもので,ウイルスが赤芽球系前駆細胞の細胞膜に発現するP抗原に結合して感染し,細胞を直接傷害することで発症すると考えられている.その他に,急性では薬剤性のPRCAがある.薬剤性PRCAの原因薬剤としては,フェニトイン,アザチオプリン,イソニアジドなどが知られている.後天性慢性PRCAの病因と発症機序は多様であり,治療方針は病因によって異なるため正確な病因診断が必要となる.続発性では基礎疾患として胸腺腫,大顆粒リンパ球白血病,自己免疫疾患を有するものが多い.

 臨床症状は貧血に伴う全身倦怠感,動悸,めまいなどである.その他続発性の場合は基礎疾患に応じた身体所見がみられ,輸血依存の患者では鉄過剰症による症状を伴う.胸腺腫や自己免疫性疾患など基礎疾患があればそれに対する治療も行う.後天性PRCAの診断と治療のためのフローチャートを→図1に示す.

12 巨赤芽球性貧血

著者: 水間知世

ページ範囲:P.1064 - P.1067

 巨赤芽球性貧血(megaloblastic anemia:MA)は,骨髄に巨赤芽球が認められる貧血の総称である.巨赤芽球はDNAの合成障害によって出現する.DNA合成障害の主な原因として,ビタミンB12欠乏と葉酸欠乏が挙げられる.胃切除後のビタミンB12欠乏は,主な原因のひとつである.

 大球性正色素性貧血を来す代表的な疾患であり,しばしば汎血球減少もみられる.無効造血に伴って,LD高値,総ビリルビン高値(間接ビリルビン優位)を認める(→表1).骨髄像では,赤芽球系の過形成,巨赤芽球を認める.ビタミンB12欠乏の場合,ビタミンB12の補充(筋肉注射や経口投与)により,速やかに造血は回復する.

10章 血小板系

1 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)

著者: 矢冨裕

ページ範囲:P.1070 - P.1071

 特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura:ITP)は,抗血小板抗体が血小板に結合した結果,脾臓を中心とする網内系細胞により捕捉,破壊され,血小板が減少する自己免疫性疾患である.近年では,末梢での血小板破壊亢進に加え,抗血小板自己抗体が骨髄巨核球にも結合し,血小板の産生障害を引き起こすこともITPの病態形成に重要とされている.ITPにおける自己抗体としては,血小板膜糖蛋白質(glycoprotein:GP)に対するものが主であり,とくにGPⅡb/Ⅲaが最も重要な認識抗原である.

 急性型と慢性型が区別され,前者は小児に多く,しばしば感染症が先行するが,大部分の例は自然に治癒し予後良好である.一方,後者は各年齢層にみられる.増悪・寛解を繰り返し,自然治癒はあまり期待できない.一般にITPという場合は慢性型をさし,難病法における指定難病のひとつである.

 臨床症状の主体は血小板減少による出血症状である.紫斑,特に点状出血が典型的であるが(→図1),粘膜出血,下血,血尿,頭蓋内出血なども発生しうる.また,血小板数5万/μL以下で出血傾向が出現しうる.血小板数が2万/μL以下になると,重篤な出血症状が出現する可能性が高まり,通常,入院のうえ,副腎皮質ステロイドを中心とした免疫抑制療法を行う.一方,出血症状が目立たない場合は,無治療で経過観察することも多い.

2 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)

著者: 久米幸夫

ページ範囲:P.1072 - P.1073

 血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)は,1924年にMoschcowizによって報告された疾患であり1),1966年にAmorosiらによって①破壊性血小板減少,②細小血管障害性溶血性貧血(microangiopathic hemolytic anemia:MAHA),③動揺性精神神経障害,④血小板血栓による腎障害,⑤発熱,の古典的5徴候が報告された2).全身性重篤疾患で主として成人に発症する.TTPの類縁疾患として,溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)があり,両者を鑑別することが困難な場合には,両者を合わせて血栓性微小血管障害症(thrombotic microangiopathy:TMA)と診断される.

 TTPは,止血因子であるvon Willebrand因子(von Willebrand factor:VWF)の特異的切断酵素ADAMTS13(a disintegrin-like-and metalloproteinase with thrombospondin type-1 motifs 13)の活性の低下により発症する.VWFは血管内皮細胞で超高分子量VWF多重体(unusually-large VWF multimers:UL-VWFM)として産生され,ADAMTS13による切断,小分子化の後に内皮細胞から放出される.ADAMTS13活性が著減すると,UL-VWFMが血中に蓄積し,高ずり応力下で血小板凝集を引き起こし,病的動脈血栓を生じる.

 TTPには先天性と後天性があるが,大半は後天性である.先天性TTPはUSS(Upshaw-Schulman syndrome)と呼ばれ,遺伝子変異(染色体9q34の変異)により,ADAMTS13の欠損を生じる.後天性TTPは,ADAMTS13に対するインヒビターの出現などにより発症する.大半は後天性である.後天性TTPの致死率は15〜20%であり,治療としては血漿交換などが行われる.

3 溶血性尿毒症症候群(HUS)

著者: 久米幸夫

ページ範囲:P.1074 - P.1075

 溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)は1955年にGasserによって報告された疾患であり,①微小血管症性溶血性貧血,②血小板減少,③急性腎障害(acute kidney injury:AKI)を3主徴とする症候群である3).重症例では発熱と中枢神経症を合併する場合もあり,TTP(thrombotic thrombocytopenic purpura)との鑑別が困難である.

 HUSは臨床経過から,志賀毒素(shigatoxin:Stx)産生菌による下痢症を伴う典型的HUSと,Stxによる下痢症を伴わない非典型HUS(atypical hemolytic uremic syndrome:aHUS)に分けられる.典型的HUSは腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC)の感染(O157,O111,O26など)が原因となり,小児HUSの約90%を占め,予後は良好である4).一方,aHUSは小児HUSの5〜10%を占め,典型的HUSと比べて予後は不良である.

4 May-Hegglin異常

著者: 金子誠

ページ範囲:P.1076 - P.1077

 May-Hegglin異常は,巨大血小板,血小板減少症,顆粒球封入体(デーレ様小体)(→図1)を特徴とする常染色体優性遺伝性疾患である.非骨格筋ミオシン重鎖ⅡAをコードするMYH9遺伝子異常が原因である場合に,本疾患群と診断される.May-Hegglin異常は,いわゆるMYH9異常症に包含される1病型であり,Alport症状を合併する類縁疾患(Sebastian症候群,Fechtner症候群,Epstein症候群)もMYH9遺伝子異常に起因することが明らかとなっている.

 血小板異常は,巨核球からの胞体突起形成がMYH9異常により損なわれ,十分に分化成熟する前に血小板が放出されてしまうために生じる.また,顆粒球封入体に関しては,正常では細胞質全体にびまん性に存在する非骨格筋ミオシン重鎖ⅡA蛋白(→図2)が異常凝集する(→図3)ことが知られている.

 出血傾向は血小板数に関連して発症し,軽度の粘膜出血や点状出血など表層性の出血を認めることもあるが,無症状のことが多い.完全な臨床像を有する場合には診断が容易であるが,症状が不完全である場合には診断は困難である.

 治療は対症療法であり,出血には治療を必要としないことが多いが,出血症状や観血的処置に応じて血小板輸血を考慮する.

5 Bernard-Soulier症候群

著者: 金子誠

ページ範囲:P.1078 - P.1079

 BSS(Bernard Soulier syndrome)は,血小板および巨核球上に発現している受容体のひとつである血小板膜糖蛋白質(glycoprotein:GP)Ⅰb-Ⅸ-Ⅴ複合体の遺伝子変異が原因で,GPⅠb-Ⅸ-Ⅴ複合体欠損や機能異常により発症する常染色体劣性形式の先天性血小板機能異常症である.本疾患の有病率は,1,000,000分の1未満と推定されている.

 臨床症状には,血小板機能異常症による点状出血や粘膜出血などのいわゆる表在性の出血症状があり,幼児期の出血傾向によって気付かれることが多い.

 特徴的な検査所見としては,巨大血小板性の血小板減少症を呈する(→図1).診断には,GPⅠb-Ⅸ-Ⅴ複合体欠損を証明することが必要で,血中VWF(von Willebrand Factor)は正常にもかかわらず,血小板凝集能検査(透過光法)にてリストセチン凝集が欠如すること(→図2),また血小板のフローサイトメトリー分析により,GPⅠb-Ⅸ-Ⅴ複合体の発現低下していることなどで確認する.

 皮膚粘膜の小出血に対しては局所圧迫が基本であるが,重篤な出血や止血困難時,外科的処置の場合には血小板輸血を行うことが唯一の治療法である.

6 EDTA依存性偽性血小板減少症

著者: 矢冨裕

ページ範囲:P.1080 - P.1081

 EDTA(ethylenediaminetetraacetic acid)依存性偽性血小板減少症は,血球数算定用の採血管に含まれている抗凝固剤EDTA塩の存在下で抗体依存性に血小板凝集が起きる現象であり,血小板数偽低値を呈する代表である.出現頻度は約0.1%程度と考えられており,種々の基礎疾患を有する患者のみならず,健康人にも起きうる.純粋に試験管の中における反応である.EDTAが存在しない生体内では,他に疾患がなければ,本症では血小板数は正常であり,出血傾向もない.本症を疑うことができれば,顕微鏡による血液像の観察などですぐに判別が可能である.診療医は,症状に合わない(つまり,出血傾向がないのに)血小板減少を認めた場合に,まず,本症を疑うことが重要である.本症は治療不要であり,不必要な治療を避けるうえでも,これを見逃すことは許されない.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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