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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術43巻11号

2015年10月発行

雑誌目次

病気のはなし

膵臓癌

著者: 中井陽介 ,   伊佐山浩通 ,   小池和彦

ページ範囲:P.1088 - P.1093

Point

●膵臓癌は膵管上皮由来の悪性腫瘍で,近年罹患率が増加しており,わが国における癌死の4位となっている.

●非特異的な症状を呈することが多く,高危険群の設定が確立されておらず早期診断が困難なため,切除率も20%程度にとどまっている.

●早期診断に有用な腫瘍マーカーはなく,CT,MRI,超音波内視鏡(EUS)などの画像診断では腫瘤の描出だけでなく,膵管の拡張などの間接所見を拾い上げることが重要である.

●切除不能例の予後は極めて不良であったが,近年の新規抗癌剤の開発によって徐々に治療成績は向上している.

技術講座 病理

—step up編—免疫染色におけるメラニン色素脱色法の改良

著者: 百瀬正信 ,   太田浩良 ,   羽山正義

ページ範囲:P.1128 - P.1133

Point

●メラニン色素が沈着する悪性黒色腫の免疫染色を行う場合,アルカリフォスファターゼ-ニューフクシン発色法やギムザ(Giemsa)染色で後染色を行い,抗原陽性部位とメラニンを区別する方法がある.

●多量のメラニン色素が沈着する組織に対する免疫染色では,過酸化水素法が有効とされてきたが,漂白に24時間程度要することがある.

●加温過酸化水素法は,55℃で2時間以内に漂白を完了させることが可能であり,悪性黒色腫の診断で用いられるHMB45,MART-1,S-100の免疫染色に対応可能である.

シリーズ 検査技師に求められる感染防御対策・1

感染症例の病理解剖:基礎と実践

著者: 山下和也 ,   三枝信 ,   村雲芳樹

ページ範囲:P.1098 - P.1104

Point

●剖検開始前に「感染症はありますか?」と尋ねることを習慣にしましょう.

●剖出箇所を最小限にする防備をしましょう.

●適正な換気と消毒液の選択をしましょう.

採血 シリーズ 最新の採血方法・3

真空採血・注射器採血,採血管の選択と順番

著者: 土屋直道 ,   松尾収二

ページ範囲:P.1106 - P.1113

Point

●採血は真空採血を原則とする.真空採血は,採血管を差し替えるだけで,分注操作の手間がなく必要量の血液を採取できる.また,無菌状態で採血でき,かつ針刺し事故の危険性が低い.ただし,細い血管での採血には適さない.

●注射器採血は細い血管や触知困難な血管での採血に適するが,検体分注時に針刺し事故,感染,検体汚染のリスクが高い.

●患者と採血者の安全確保と正しい検査結果の保証を第一として作成された「標準採血法ガイドライン」を順守し,安全で適切な採血業務を遂行する.

輸血

吸着解離法—ABO亜型検出のために

著者: 矢部隆一

ページ範囲:P.1114 - P.1119

Point

●オモテ検査とウラ検査の不一致原因であるABO亜型を証明する1つの方法として,吸着解離試験がある.Landsteinerらが考案した熱解離法は,人由来の抗Aあるいは抗B血清を用いた代表的な方法である.

●人由来抗体(抗Aと抗B)試薬に代わって登場した市販モノクローナル抗体(マウス由来)試薬では,熱解離法で解離できない現象や偽陽性反応が生じている.

●今回は,熱解離法の手順を紹介したのちに,市販モノクローナル抗体による吸着解離試験の問題点を解説する.続いて,当施設で熱解離法を実施するために用意する人由来抗Aと抗B試薬の性状を紹介する.

一般

尿路感染症疑い患者における尿試験紙法の見方と考え方—細菌反応が陽性のとき

著者: 大沼健一郎

ページ範囲:P.1120 - P.1127

Point

●尿路感染症は急性感染症の中でも発症頻度の高い感染症であり,重症化により敗血症にも進展するケースがあるため,早期診断と早期治療が重要である.

●尿試験紙による白血球や亜硝酸塩の検出は尿路感染症のスクリーニング検査として位置付けられているが,偽陽性や偽陰性が生じやすい検査である点に留意しなければならない.

●尿路感染症における薬剤耐性菌の分離頻度は増加傾向にあり,早期に適切な抗菌薬の選択を行うため,尿試験紙や尿沈渣検査による細菌尿の証明および検体の品質評価は有用である.

トピックス

世界初のケーブルレスプローブを用いた超音波診断装置

著者: 斎藤雅博

ページ範囲:P.1094 - P.1097

はじめに

 現在,携帯電話をはじめ身近にあるさまざまな電子機器がワイヤレスに移行しつつある.これによってユーザーは,使用時の操作性の向上を獲得し,さらに収納時の煩雑さからも解放される.医療現場においても,作業環境の効率化・清潔の確保・安全性の観点から,ワイヤレスの使用が多大な恩恵をもたらすことが明らかである.しかし,医療用超音波画像診断装置のプローブは対応が遅れていた.そこで2014年4月,シーメンス社は世界初(2015年6月,自社調べ)のケーブルレス超音波装置の日本での販売を開始した.

過去問deセルフチェック!

問題 骨代謝・ホルモン

ページ範囲:P.1097 - P.1097

過去の臨床検査技師国家試験にチャレンジして,知識をブラッシュアップしましょう.以下の問題にチャレンジしていただいたあと,別ページの解説と解答をお読みください.

解答と解説

ページ範囲:P.1161 - P.1161

 本年度第61回国家試験から新しく国家試験出題基準(新ガイドライン)が適用となりました.そこで今回は,臨床化学分野で新しく追加になった3項目のうち骨代謝・ホルモンからの出題を取り上げてみました.

 まず,一つ目は骨代謝です.骨代謝の動態を生化学的に評価し,骨疾患の診断や治療経過の指標として用いているのが骨形成マーカーと骨吸収マーカーです.骨形成マーカー(問題1)には,1.オステオカルシン,3.骨型アルカリホスファターゼ(bone specific alkaline phosphatase:BAP),ほかにプロコラーゲン・ペプチドがあります.また骨吸収マーカーには,コラーゲン架橋物質〔2.デオキシピリジノリン(deoxypyridinoline:DPD),ピリジノリン〕,5.Ⅰ型コラーゲン架橋N末端テロペプチド(尿中)およびⅠ型コラーゲンC末端テロペプチド(血中),4.酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(tartrate-resistant acid phosphatase:TRACP),ヒドロキシプロリンがあります.問題1の1.オステオカルシンは骨芽細胞で合成される骨形成マーカーであり,骨代謝の低下を反映します.一部血中に放出され,男性14歳,女性12歳でピークとなり,また日内変動が認められます.3.BAPは,小児から思春期にかけて生理的に上昇します.また,骨折の治癒期やPaget病,悪性腫瘍の骨転移,副甲状腺機能亢進症などで高値となります.

連載 忘れられない症例から学ぶ超音波検査・3

高安動脈炎(Takayasu's arteritis)

著者: 長瀬雅彦

ページ範囲:P.1134 - P.1141

はじめに

 高安動脈炎は大動脈炎症候群や脈なし病ともいわれ,全身に炎症が起こる自己免疫疾患です.構造的異常を有するSHD(structural heart disease)とは違い,心エコーで診るよりはCTやMRI,免疫学的検査法などで診断されるのが一般的だと思われます.今回,心膜炎を疑いフォローされていた患者が,心エコー検査を機に初期の高安動脈炎に合併した心筋炎とわかり,診断されるまでに苦慮した症例を提示したいと思います.

やなさん。・10

修行三昧

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.1157 - P.1157

 強靱な精神は強靱な肉体に宿る”なら,両方鍛えりゃいいじゃん!……で,修行に出ることにした柳田と今川.“尼僧”“修行道”修行に参加.尼僧修行は百八礼(ヒンズースクワット108回),写経や阿息観(瞑想),作務を行う.

 百八礼は4秒間に1礼という猛スピード.無心でなければ膝の痛みで気が散る.無心だ! 百八礼後は阿息観……睡魔との大戦.隣を見ると前後に揺れる……今川,寝ているな.修行が足りない! ということで次は修行道へ.

臨床医からの質問に答える

貯血式自己血輸血を行う場合の注意点について教えてください

著者: 鷹野寿代

ページ範囲:P.1142 - P.1145

貯血式自己血輸血とは?

■貯血式自己血輸血の歴史注1)

 貯血式自己血輸血とは,あらかじめ患者自身の血液を採取して保管しておき,手術中の出血に対応する方法であり,わが国では1980年代から普及しはじめた.当時,輸血後肝炎(主に現在のC型肝炎)の発症率は同種血輸血患者の10%弱1,2)であり,貯血式自己血輸血は,まさにこの輸血後肝炎の予防目的であった3,4).手術中の出血が輸血を要するほど多いが,患者自ら貯血ができ,完治すればおおむね生命予後の良好な疾患(先天性心臓病,弁膜症,側彎症,変形性関節症など)では,貯血式自己血輸血は輸血後肝炎を回避できる夢の治療であった.しかしその後,輸血感染症検査の進歩で,輸血後肝炎の発症率は急激に減少し5,6),2014年,個別核酸増幅検査(nucleic acid amplification test:NAT)導入後はほぼゼロになる(ゼロにはなりません)と予測されている.貯血式自己血輸血はその目的を失ったかにみえたが,これまでの過程で感染症予防以外にも多くの効用が見いだされ,現在も広く実施されている.

Q&A 読者質問箱

大腸癌のコンパニオン診断の現状を教えてください

著者: 谷口浩也

ページ範囲:P.1146 - P.1148

Q 大腸癌のコンパニオン診断の現状を教えてください

A 治癒切除不能な進行・再発の大腸癌(結腸・直腸癌)に対する治療は,延命を目的とした抗癌剤治療となります.フルオロピリミジン,イリノテカン,オキサリプラチンなど古典的な殺細胞性抗癌剤に加えて,抗血管新生阻害剤や抗上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor:EGFR)抗体などの分子標的治療薬が使用されます.大腸癌で使用できる抗EGFR抗体にはセツキシマブ(アービタックス®),パニツムマブ(ベクティビックス®)という2つの薬剤があり,治療効果はほぼ同じです.特徴的な副作用に,ざ瘡様皮疹,爪囲炎,皮膚乾燥などの皮膚障害があり,時に患者の生活の質(qualtiy of life:QOL)を低下させます.

教科書には書いていない採血のコツ・7

手背採血のための効果的トレーニング法:“伸展輪ゴム刺し訓練”

著者: 杤尾人司

ページ範囲:P.1149 - P.1149

 皮下埋没型中心静脈ポートを留置中の場合や刺青を見せたくないなどの特別な理由がある場合を除くと,肘窩の血管が細く同部に採血可能な血管がない患者では,手背(手の甲)の血管も細いことが多い.わずか1〜2mmの場合もある.

 静脈採血を行うためのトレーニングファントムはあるが,これは血管径3〜4mmの健康な人を想定したものであり,初心者を対象としている.肘の皮静脈からは採血できるが手背からの採血ではおじけづいてベテランと交代する採血者も,いずれは手背採血を行わなければならないときがくる.

ワンポイントアドバイス

ポータブル脳波をきれいにとるためには

著者: 田中理

ページ範囲:P.1150 - P.1151

はじめに

 ポータブル脳波検査は通常の脳波室で行う脳波検査とは異なり,ICU(intensive care unit)や手術室,救急外来など記録に電気的影響を与えるような環境で行うことが多い.このような場合には電極の装着はもちろん,脳波計の設置場所,電極ボックスおよび電極の取り回しなどが重要となる.本稿ではこのような場合のコツなどを紹介する.

オピニオン

感染症危機管理に関する地域ネットワークの必要性

著者: 谷川太一朗 ,   西藤岳彦

ページ範囲:P.1152 - P.1153

はじめに

 農研機構動物衛生研究所は,家畜の疾病を中心に,基礎研究から診断・治療および予防に至る研究・開発までの幅広い研究を実施している研究機関です.また,業務の一つとして,国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の規定に基づく病性鑑定を実施しています.これは,国,他の独立行政法人,地方公共団体などからの依頼を受けて実施するもので,家畜伝染病予防法に規定される高病原性鳥インフルエンザ(highly pathogenic avian influenza:HPAI)や口蹄疫などの法定伝染病を含む家畜(一部野生動物も含む)の疾病が対象となります.

臨床検査のピットフォール

尿検査のピットフォール—強度着色尿における対応

著者: 沖英彦

ページ範囲:P.1154 - P.1156

はじめに

 尿検査は代表的な無侵襲検査であり,患者の病態を推測するために用いられている.特に尿定性・半定量試験紙法(以下,尿試験紙法)は,検体の採取が容易であること,誰にでも簡単に測定できること,さらに特殊な器具・機器が必要でなく,安価に多項目を同時測定できることから,最も一般的なスクリーニング検査として広く実施され,今では必要不可欠な検査となっている1).尿試験紙法は,濾紙に試薬を染み込ませただけの単純な構造であり,化学反応の原理が多いため,共存物資の影響を受けやすく,偽反応(偽陽性,偽陰性,異常発色)が非常に多い検査でもある2,3).尿試験紙の反応原理や構造を十分理解したうえで使用し,偽反応を見極めて正しい結果を報告することが大事である.

今月の表紙

クロストリジウム・ディフィシル感染症

著者: 佐々木雅一 ,   舘田一博

ページ範囲:P.1158 - P.1159

Point!

Q.感染症の特徴は?⇒ 抗菌薬関連下痢症,偽膜性腸炎

Q.病原性,偽膜形成の理由は?⇒ 毒素による細胞障害と好中球浸潤

Q.使用される特殊培地は?⇒ CCMA培地,CCFA培地など

Q.有効な抗菌薬は?⇒ バンコマイシン,メトロニダゾール

Q.診断法としての注意点は?⇒ 毒素検出法による偽陰性

ラボクイズ

輸血検査

著者: 米岡麻記

ページ範囲:P.1162 - P.1162

9月号の解答と解説

著者: 鈴木芳武

ページ範囲:P.1163 - P.1163

書評

—実践! 皮膚病理道場—バーチャルスライドでみる皮膚腫瘍—[Web付録付]

著者: 田中勝

ページ範囲:P.1164 - P.1164

今までになかった画期的な皮膚病理入門書!

 日本皮膚科学会の編集による,まったく新しいタイプの皮膚病理入門のための貴重な1冊がついに出た!

 各章の執筆者が,現在,皮膚病理診断の中心で活躍している経験豊富な6名,最も頼れる皮膚病理指導医たちである.したがって,全ての章が必要最小限の簡潔で明快な記述で構成されており,病理診断のポイントがとてもわかりやすい.なんと贅沢な本であろうか.

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医学書院ウェブサイトをご利用ください

ページ範囲:P.1093 - P.1093

『臨床検査』10月号のお知らせ

ページ範囲:P.1119 - P.1119

「ラボクイズ」解答/読者アンケート

ページ範囲:P.1165 - P.1165

あとがき・次号予告

著者: 谷口智也

ページ範囲:P.1168 - P.1168

あとがき

 数カ月ごとに編集委員の会議が東京・本郷にある医学書院で行われています.少し早く駅に着いたときは,遠回りして本郷散策をします.なぜか会議の日には雨が多く,ある日突然のどしゃ降りに,会社のすぐ近くにあった大きな木の下で雨宿りをしていました.後日なぜか気になり,行ってみると文京区の保護樹木にもなっている“楠木(クスノキ)”でした.何度か見かけているうちに,さらに気になり調べてみると,“本郷弓町のクス”と呼ばれているらしく,樹齢600年以上の名木でした.江戸時代には“本郷のクスノキ”と呼ばれて有名だったそうです.小説家の司馬遼太郎もこの地を訪れ,そのときのことを「街道をゆく本郷界隈」に書いているようです.東京の真ん中での不思議な出会いでした.

 いよいよ9月,今年もあと4カ月となりました.一部の教育機関では,秋入学の大学・学部がありますが,日本ではまだまだ4月始まりですので,9・10月は後期スタートの月になります.それに伴い受験勉強も本格的になってきます.受験生のみなさん,合格を目指して頑張ってください.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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