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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術43巻3号

2015年03月発行

雑誌目次

病気のはなし

人工関節感染症

著者: 松下和彦 ,   小山亮太

ページ範囲:P.192 - P.196

Point

●早期診断,早期治療が重要である.感染が疑われ関節液が貯留している場合は,早期に関節液を採取することが重要である.

●穿刺液のグラム(Gram)染色の結果より感染と判断されれば,直ちに病巣搔爬術を施行する.

●手術でインプラントを温存できるか否かはワン・チャンスである.グラム染色でグラム陽性球菌が認められれば,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やメチシリン耐性表皮ブドウ球菌(MRSE)の可能性が高く,躊躇せずに抗MRSA薬を選択する.

●これらの治療によって感染が鎮静化しない場合は,インプラントを抜去して病巣搔爬する.感染が完全に鎮静したのち,2期的に再置換術を行う.

技術講座 採血

標準採血法ガイドラインに基づいた採血

著者: 池田勝義 ,   眞部正弘 ,   上村弘子 ,   大林光念 ,   安東由喜雄

ページ範囲:P.198 - P.206

Point

●採血とは血液を採取する医療行為であり,静脈血採血,毛細管血採血,動脈血採血の3種類がある.

●採血に必要な物品には,採血針や採血管など規格が決まっているものから,使用者が任意に選択するものまである.より適切な物品を選択することが必要である.

●標準的な採血法として,国内では日本臨床検査標準協議会(JCCLS)が公表しているガイドラインがあり,現在「標準採血法ガイドライン第2版(GP4-A2)」が出ている.

●採血に伴う障害を採血合併症という.それぞれの対応法をマスターしておくことが必要である.

生化学

LDLコレステロール直接法

著者: 杉内博幸

ページ範囲:P.207 - P.215

Point

●低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)は,冠動脈疾患などの動脈硬化性疾患発症の危険因子であり,その測定は動脈硬化の予防,診断や治療に不可欠である.

●遠心操作などの前処理が不要で,汎用自動分析装置を用いて血清と試薬を混合するだけで簡単に測定できる方法を,直接法またはホモジニアス(同質性)法と呼んでいる.

●直接法は,原理的には糖化合物や界面活性剤などの低比重リポ蛋白(LDL)選択性を利用したもので,選択的可溶化法と選択的消去法がある.

●直接法は,多数検体の測定,検体量の微量化,測定時間の短縮(10分以内),測定精度の向上などに期待度は大きい.

血液

—step up編—新規経口抗凝固薬(NOAC)のモニタリング検査

著者: 松野一彦 ,   宇佐美貴之 ,   畑瀬正尚

ページ範囲:P.216 - P.221

Point

●非弁膜症性心房細動患者の脳梗塞発症の予防に,ワルファリンに替わってトロンビン阻害薬や活性化第X因子(Xa)阻害薬などの新規経口抗凝固薬(NOAC)が登場してきた.

●NOACは診察時ごとのモニタリング検査は必要ないとされているが,出血時や外科的処置の前などには何らかのモニタリング検査が必要である.

●トロンビン阻害薬のモニタリングにはヘモクロットトロンビンインヒビター(HTI)法,Xa阻害薬のモニタリングには発色性合成基質法によるXa阻害活性の測定が最も優れているとされる.

●しかし,両方法ともわが国では保険収載されていないため,現状ではプロトロンビン時間(PT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)などのスクリーニング検査を用いたモニタリングが必要である.

●NOACのモニタリングでは,服薬から採血までの時間およびPT,APTTの試薬間差に十分注意する必要がある.

トピックス

CD36の発現多様性—欠損症および健常者の発現分子数のバラつき

著者: 田村彰吾 ,   増田裕弥 ,   松野一彦 ,   尾崎由基男

ページ範囲:P.186 - P.188

CD36とは

 CD36は,type B scavenger receptor familyに属する88kDaの糖蛋白質である.ヒトでは血小板,単球/マクロファージ,赤芽球,血管内皮細胞,脂肪細胞や横紋筋細胞などに発現し,多様な機能をもつ.一方,CD36は血小板と単球で欠損するCD36欠損症が知られており,CD36欠損症では血小板製剤輸血などで注意を要する.

エピネット日本版—職業感染防止のために

著者: 森澤雄司

ページ範囲:P.189 - P.191

エピネット日本版とは

 医療従事者は日常業務において,患者の血液や体液で汚染された注射針,メスなどの鋭利器具によって皮膚を損傷するリスクがあり,血液媒介病原体であるB型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV),C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV),ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)などは血液・体液が直接体内に侵入することによって感染伝播するリスクが存在する.このような針刺し切創は,医療従事者の労働災害であって,未然に防止することが極めて重要である.医療現場では誤刺防止機構付きの鋭利器材,いわゆる安全器材を導入したり,鋭利器材の使用中および使用後にも最大限に注意を払うとともに,使用後はリキャップせず,耐貫通性廃棄ボックスに捨てるなど,基本的な対策を徹底すべきである1)が,より具体的に現場レベルの対策を進めるためには,針刺し切創などの血液・体液曝露の事例を収集して発生状況を体系的に解析することが必要である.

 エピネット日本版は,医療従事者の針刺し切創,血液体液曝露の発生時にその状況を報告するために使用する標準的書式であり,職業感染制御研究会が開発してホームページ2)上に無償で公開している.エピネット日本版の書式は,米合衆国バージニア大学国際医療従事者安全センターのJanine Jagger教授(Becton Dickenson Professor of Health Care Worker Safety)が1991年に開発したEPINetTM(Exposure Prevention Information Network)2)に基づいて,わが国の状況を考慮して開発された.日本国内では日本ベクトン・ディッキンソン社の厚意によって版権が放棄されており,現場の状況によって適応させた内容となるように,職業感染制御研究会による改訂が繰り返されている.なお,オリジナルのEPINetTMも,針刺し切創,血液体液曝露の防止に有用な情報を収集する有用な報告書式として米合衆国の1,500以上の施設で導入されており,さらにはイタリア,スペイン,カナダ,イギリス,台湾,韓国,オーストラリア,ニュージーランド,ブラジルなど,世界各国でも活用されている.

疾患と検査値の推移

髄膜炎(細菌性,ウイルス性)

著者: 彦根麻由 ,   大西健児

ページ範囲:P.222 - P.227

Point

●細菌性髄膜炎は神経救急疾患であり,見逃してはならない疾患の一つである.

●髄液検査は非典型的な所見を呈することもあり,病歴や身体所見と合わせて総合的な判断を要する.

●治療を開始したら,バイタルサインや意識レベルを注意深く経過観察していく.

連載 小児の臨床検査・12【最終回】

小児の生理機能検査—脳神経疾患編

著者: 須貝研司

ページ範囲:P.228 - P.236

はじめに

 小児,乳幼児,新生児に特徴的な疾患の診断に不可欠な神経生理検査のうち,よく行われる検査の目的と評価するパラメータを表11〜4)に示す.電極の位置など一般的なことは省略し,評価すべきパラメータの導出とその判定に注意すべき点を述べる.

やなさん。・3

バングラデシュで激辛の技術支援

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.251 - P.251

 米国出張のとき,お菓子を購入しようとレジに並んだら,「日本から来たのか? そのお菓子,やるよ.金はいらねぇ!」と子どもに間違われた柳田です.スーツ着てたのに.

 柳田はバングラデシュで技術支援をする仕事もしております.バングラデシュ……ピンときてないですね? インドの東に位置し,大きさと人口密度を例えると「北海道内に日本中の人間が住む」感じです.3回行きましたが,1回目はゼネラルストライキに遭遇.出歩くと襲われる危険があるとのことで,救急車で空港から移動.身の危険を感じる.2回目は現地で病気になり,数日寝込む.自己治癒力に感動.自分で自分を褒めたい.3回目はイスラム教徒の断食期間と重なり,日没まで飲食禁止.低血糖で死ぬかと思った.

臨床医からの質問に答える

尿試験紙のpHがアルカリ性なのに,尿蛋白試験紙法が偽陽性になる検体と,ならない検体があるのはなぜですか?

著者: 鈴木優治

ページ範囲:P.238 - P.240

はじめに

 尿には疾病につながる成分の出現や増減が現れるため,簡便に実施できる試験紙法によるスクリーニング検査が行われている.尿pHの生理的変動範囲はpH5〜8と大きいため,試験紙法による検査において,しばしば問題となることの一つに,尿pHによる妨害がある.尿蛋白質測定においては,pH8付近のアルカリ尿が示す偽陽性反応が知られている.

 アルカリ尿の全てで偽陽性反応が生じるわけではないが,偽陽性反応を呈する確率が高い.アルカリ尿の一部でのみ,偽陽性反応が引き起こされる理由について考察してみる.

オピニオン

細胞検査士の目指すもの

著者: 伊藤仁

ページ範囲:P.242 - P.243

細胞検査士の現状

 1969年に第1回細胞検査士試験が実施されて半世紀余り,細胞検査士は約7,000名になり,全国の医療機関や検査所などで活躍している.細胞検査士は,日本臨床細胞学会および日本臨床検査医学会が認定する資格で,この認定試験の合格率は平均30%程度の難関である.

今月の表紙

慢性肺アスペルギルス症

著者: 渡辺哲

ページ範囲:P.244 - P.245

Point!

Q.主要な原因菌は?⇒ Aspergillus fumigatusが最多,A. niger,A. flavusがそれに次ぐ

Q.推奨される培地は?⇒ ポテトデキストロース寒天(PDA)培地

Q.有効な抗菌薬は?⇒ フルコナゾールを除くアゾール,ポリエン,キャンディン系薬

Q.年間の患者数は?⇒ 年間2,000〜3,000例程度と推定される

Q.有用な診断法は?⇒ 抗アスペルギルス沈降抗体が最も感度が高いが…

臨床検査のピットフォール

移植後生着評価法であるキメリズム検査のピットフォール

著者: 松田和之

ページ範囲:P.246 - P.250

はじめに

 移植後のドナー細胞の生着確認や腫瘍の再発〔腫瘍細胞(レシピエント細胞)再現〕を評価する場合,形態学的検査のみでは,早期に正確な評価を得ることは難しい.早期に正確な評価を行うために,遺伝子・染色体レベルでのマーカーを用いたキメリズム検査が用いられている.キメリズム検査は,レシピエント由来細胞(DNA)とドナー由来細胞(DNA)を識別し,その比率を評価する検査である.本稿では,当施設での経験を踏まえ,キメリズム検査法における結果解釈時の注意点について述べる.

ラボクイズ

呼吸機能検査

著者: 植松明和

ページ範囲:P.252 - P.252

2月号の解答と解説

著者: 前島基志

ページ範囲:P.253 - P.253

Q&A 読者質問箱

肺炎球菌・レジオネラ尿中抗原の偽陰性について教えてください.

著者: 佐藤智明

ページ範囲:P.254 - P.255

Q 肺炎球菌・レジオネラ尿中抗原の偽陰性について教えてください.

A 肺炎球菌・レジオネラ尿中抗原検査は日本呼吸器学会の「成人院内肺炎診療ガイドライン」1)で,院内肺炎疑い症例における原因病原体の検索において,呼吸器検体(喀痰,気管吸引液など)のグラム(Gram)染色,培養検査や血液培養と並んで“まず実施されるべき検査”に位置付けられる重要な検査で,イムノクロマトグラフィー法(以下,イムノクロマト法)を原理とする抗原検出検査です.近年では,インフルエンザウイルス,ノロウイルス,マイコプラズマなど多くの項目がイムノクロマト法で検査可能となっています.

ワンポイントアドバイス 血管径の計測法・2

大動脈径

著者: 杉本邦彦

ページ範囲:P.256 - P.257

はじめに

 大動脈弁疾患において,上行大動脈拡張の有無は,治療方針から術式の決定など大きな意味をもっている.大動脈径の計測は,どの施設でもroutineで行われている.しかし,その計測法にはM-mode法を用いた方法,断層法を用いた方法など,いくつかの方法論が存在している.本稿では,大動脈の描出および大動脈径の計測法などを中心に述べる.

Laboratory Practice 〈輸血〉

ミミッキング抗体への対応

著者: 国分寺晃

ページ範囲:P.258 - P.263

はじめに

 輸血療法の主な目的は,血液中の赤血球などの細胞成分や凝固因子などの蛋白質成分が量的に減少,または機能的に低下したときに,その成分を補充することによって臨床症状の改善を図ることにある.患者(受血者)については,不適合輸血を防ぐため,ABO血液型の検査,Rh(D)抗原の検査,不規則抗体スクリーニング,交差適合試験などを適切に実施する必要がある1)

 臨床的に意義のある不規則抗体については,日本輸血・細胞治療学会の「赤血球型検査(赤血球系検査)ガイドラインについて」2)に不規則抗体の血液型特異性と輸血用血液の選択基準などが示されているものの,不規則抗体の判断には時として苦慮するところである.さらに,これまでの一般的な解釈とは異なったミミッキング抗体(mimicking antibodies)というものが検出・報告されており3〜7),その判断を複雑なものにしている.

 本稿では,そのミミッキング抗体の特性と,対応の方法について述べる.しかし,ミミッキング抗体そのものの成因が完全に解明されているものではないため,あくまで現行の知見の範疇であることをご承知おきいただきたい.

書評

トラブルに巻き込まれないための医事法の知識

著者: 宝金清博

ページ範囲:P.264 - P.264

医師の視点から,実例に沿って法律を解説した稀有な一冊

 メディアを見ると,医療と法の絡んだ問題が目に入らない日はないと言っても過言ではない.当然である.私たちの行う医療は,「法」によって規定されている.本来,私たち医師は必須学習事項として「法」を学ぶべきである.しかし,医学部での系統的な教育を全く受けないまま,real worldに放り出されるのが現実である.多くの医師が,実際に医療現場に出て,突然,深刻な問題に遭遇し,ぼうぜんとするのが現状である.その意味で,全ての医師の方に,本書を推薦したい.このような本は,日本にはこの一冊しかないと確信する.

 先日,若い裁判官の勉強会で講演と情報交換をさせてもらった.その際,医療と裁判の世界の違いをあらためて痛感させられた.教育課程における履修科目も全く異なる.生物学,数学は言うまでもなく,統計学や文学も若い法律家には必須科目ではないのである.統計学の知識は,今日の裁判で必須ではないかという確信があった私には少々ショックであった.その席で,いわゆるエビデンスとかビッグデータを用いた,コンピューターによる診断精度が医師の診断を上回る時代になりつつあることが話題になった.同様に,スーパーコンピューターなどの力を借りて,数理学的,統計学的手法を導入し,自然科学的な判断論理を,法の裁きの場に持ち込むことはできないかと若い法律家に聞いたが,ほぼ全員が無理だと答えた.法律は「文言主義」ではあるが,一例一例が複雑系のようなもので,判例を数理的に処理されたデータベースはおそらく何の役にも立たないというのが彼らの一致した意見であった.法律の世界での論理性と医療の世界での論理性は,どちらが正しいという以前に,出自の異なる論理体系を持っているのではないかと思うときがある.医師と法律家の間には,細部の違いではなく,乗り越えられない深い次元の違う溝が存在するのではというある種の絶望感が残った.

INFORMATION

千里ライフサイエンスセミナーJ1「粘膜免疫システムの解明と免疫疾患」

ページ範囲:P.191 - P.191

日 時:2015年5月11日(月) 10:00〜16:40

場 所:千里ライフサイエンスセンタービル 5階 山村雄一記念ライフホール(大阪府豊中市新千里東町1-4-2,地下鉄御堂筋線/北大阪急行千里中央下車)

第26回日本末梢神経学会学術集会メディカルスタッフ・レジデント実技セミナー

ページ範囲:P.196 - P.196

日 時:

 2015年9月19日(土) 10:05〜12:15

会 場:

 ホテルブエナビスタ(JR松本駅より徒歩7分)

 〒390-0814 長野県松本市本庄1-2-1

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『臨床検査』3月号のお知らせ

ページ範囲:P.215 - P.215

「ラボクイズ」解答/読者アンケート

ページ範囲:P.265 - P.265

投稿規定

ページ範囲:P.266 - P.266

あとがき・次号予告

著者: 曽根伸治

ページ範囲:P.268 - P.268

あとがき

 最近は異常気象で,夏は猛暑や局地的な雷雨と突風,冬は猛烈な寒波の影響で大雪になることがあります.また,インフルエンザ,ウイルス性の胃腸炎なども例年になく流行しています.海外ではエボラ出血熱による死者が増え続け,日本でもデング熱のような輸入感染症の発症がありました.輸入感染症とは,「国内ではほとんどみられなくなった感染症で,全てあるいは主に海外で感染して国内にもち込まれる感染症」で,海外旅行者の増加や海外との交流によって増えています.

 読者質問箱の肺炎球菌・レジオネラ尿中抗原やインフルエンザの偽陰性例と同様に感染や発症初期では目的物質を検出できないことやメジャーなタイプでないと検出できないことも少なくないです.また,高齢化社会になり,医療も少しずつ変化して病気は早期発見,早期治療の時代で,臨床検査もより簡単に短い時間で結果が報告できるようになっています.しかし,高感度な検査法でも,限界があり全てを検出できないことは認識しておきましょう.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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