icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

検査と技術43巻6号

2015年06月発行

雑誌目次

病気のはなし

卵巣腫瘍

著者: 安田政実

ページ範囲:P.448 - P.457

Point

●卵巣腫瘍は“多種多様性”の代表格で,その根本は生殖器としての解剖・生理学的固有性に起因します.昨今,卵巣上皮性腫瘍はⅠ型とⅡ型に分けることが提唱されています.

●日本の卵巣癌は漿液性腺癌,明細胞腺癌,類内膜腺癌,粘液性腺癌の順に経験されます.明細胞腺癌や類内膜腺癌では子宮内膜症を背景に発生するものが少なくありません.

●浸潤は程度によって,「微小浸潤」と「明らかな浸潤」に分けられます.WHO2014分類では,微小浸潤は「長さ5mm」以下のものと定義されています.

●日本の境界悪性腫瘍は粘液性が大半で次に漿液性が続きますが,西欧ではこの順位が逆転します.特異な病態であるインプラントは漿液性境界悪性腫瘍でしばしばみられます.

●「新たな卵巣腫瘍発生説」では,従来,注目を浴びることのなかった卵管が“起源”ではないかと考えられるようになってきました.このような状況下,FIGO分類も2014年に改訂されました.

技術講座 免疫

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査

著者: 伊藤辰弥

ページ範囲:P.468 - P.475

Point

●睡眠時無呼吸症候群(SAS)は,有病率の高い臨床上重要な疾病である.適正な診断と重症度の判別,ならびに治療までを包括して,質の高い検査が望まれる.

●SAS検査の標準となる方法は終夜睡眠ポリグラフィ(PSG)検査であるが,対応できる検査施設は限られるため,携帯型装置を用いたスクリーニング検査法が有用である.

●PSG検査,携帯型装置ともに自動解析の精度は低く,目視判定による解析が必要である.そのため,機器の特性や解析ルールを熟知しておく必要がある.

生理

—step up編—加速度脈波検査—指尖容積脈波との違い

著者: 中島里枝子

ページ範囲:P.476 - P.480

Point

●指尖容積脈波は,心臓からセンサーを装着した指尖に至る心臓,血管の状態を総合的に反映する.

●加速度脈波は,血管抵抗をわかりやすく表現するために,指尖容積脈波を二次微分した波形である.

●加速度脈波の指標においてb/aの上昇は血管壁そのものの硬化を,d/aの低下は血管内圧の上昇による機能的な動脈壁の緊張の結果としての血管壁の硬化を表す.

●室温,騒音などに影響されやすいため,検査環境を整えることが重要である.

微生物

—step up編—パルスフィールドゲル電気泳動法と近年の分子疫学的手法

著者: 吉田敦

ページ範囲:P.482 - P.486

Point

●パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)法は,微生物のゲノムを制限酵素で切断した断片の多型を比較・解析するものである.

●株間の遺伝的同一性をみる方法として多くの微生物に応用され,最も普及したが,施設間で結果を比較することが容易でないなど,短所もあった.

●近年,その他の分子疫学的手法が進歩し,POT法やMLST法などが普及しつつある.各法の長所・短所・適応を考慮したうえで,利用していくことが望ましい.進展が著しい領域でもあるので,最新の情報を確認いただきたい.

トピックス

FFPE検体を利用した次世代シークエンサーによるクリニカルシークエンス

著者: 西原広史 ,   赤羽俊章 ,   毛利普美

ページ範囲:P.458 - P.463

はじめに

 DNAアレイあるいは次世代シークエンサー(next generation sequencer:NGS)の開発・導入によってcancer genomicsが飛躍的に発展したことで,診断・治療のパラダイムシフトが起こり,特に癌の分子標的治療薬の開発・適応には個々の症例における分子発現・遺伝子変異プロファイリングが必須となっている1).こうした新規の検査方法は,これまでの研究的側面から臨床応用へとシフトしつつあり,それに伴って使用される検体も,あらかじめ研究用に採取された検体から,通常の病理・細胞診検体を利用することが求められる.しかし,実際に癌の個別化診断・治療を目指した臨床の最前線における網羅的な遺伝子診断は,検査方法のプラットフォームがいまだ確立していないのが現状である.本稿では,病理残余組織であるホルマリン固定パラフィン包埋(formarin fixed paraffin embedded:FFPE)検体を用いた,NGSによる「日常検査としての網羅的遺伝子解析」(クリニカルシークエンス)の可能性について述べる.

知っておこう『検体測定室』!!

著者: 佐守友博

ページ範囲:P.464 - P.467

はじめに

 皆さん,この写真(図1)をご存じだろうか.これは臨床検査振興協議会が作成した「臨床検査にはこんなに多くの人がさまざまな形でかかわり,医療に役立つ正しい検査結果を産み出すためにさまざまな努力を行って働いているんですよ」ということを,逆説的に「ありがとう臨床検査のみなさん」とすることで,広く国民に知ってもらう(広報の)ためのポスターである.

 “臨床検査”はこの半世紀あまりで長足の進歩を遂げ,日常診療にもなくてはならないものになっている.機器も試薬も改良が進み,生化学・免疫学・血液学・微生物学の発達とそれぞれの分野における遺伝子の応用科学の発達に伴い,これからも多くの臨床検査が生まれてくるであろう.

 しかし,臨床検査のこのような発達に“臨床検査を取り巻く法環境*1”の整備が追いついておらず,この部分でも行政に積極的な働きかけを行おうと,臨床検査振興協議会は活動している.

 臨床検査技師の皆さんは,いつも自分の出したデータが正しいものか,診療の役に立つものかを気にかけていると思う.そのために,われわれは3つの精度管理を行っている.これは,検体・分析・成績の3つである.この3つの全てが適正に管理されていることが,臨床検査には必要である*2.このように,われわれは日常で当たり前に厳密な精度管理を行っているわけであるが,多くの医療人を含め一般の国民は,「検査機器に試薬をそろえれば,検査結果は正確に出てくるもの」と考えている.現在の政府(安倍内閣)もそう考え,今回の“検体測定室”が誕生したのである.

 それでは,われわれはこの検体測定室にどう対応すればよいのだろう.

 この問題についても現在,臨床検査振興協議会で参加5団体*3からメンバーを出し,ワーキンググループで勉強会を行っているところである.

 ここでは“検体測定室のできた経緯”“ガイドラインの概略”“検体測定室の現況と問題点”の3項目についてその概要を述べる.

過去問deセルフチェック!

問題 超音波検査

ページ範囲:P.481 - P.481

過去の臨床検査技師国家試験にチャレンジして,知識をブラッシュアップしましょう.以下の問題にチャレンジしていただいたあと,別ページの解説と解答をお読みください.

解答と解説

ページ範囲:P.512 - P.512

問題1:心臓の超音波検査(心エコー)では,探触子を置く位置によって5つのアプローチ法がある(図1).通常①と⑤は仰臥位,②は右側臥位,③は左側臥位,④は左側臥位〜仰臥位の姿勢で行う.
①大動脈弓部の観察に適した位置である.動脈の太さや解離腔の有無を観察できるため,大動脈瘤や大動脈解離の診断に有用である.

教科書には書いていない採血のコツ・3

バトンリレースタイル法

著者: 杤尾人司

ページ範囲:P.487 - P.487

 静脈血採血は一般的に肘窩の皮静脈1)から行われるが,100人に1〜2人(約1.8%2))はこの部位の血管が触れない.前腕部の内側を走行する皮静脈も細い.さて,手背の細い血管を選択するか1),あるいは神経接触のリスクを冒して手首の橈側静脈から採血するか,悩みどころとなる.

 このとき,前腕部の背面を探ると,隆々と弾性に富んだ血管が触れる.約7割以上の患者がそうである2).特に年配男性は多い.実は,前腕の背面を走行する尺側皮静脈の分枝が,静脈還流路のメジャー経路になっているのである.採血に適した血管であるが,背面という位置的な問題によって,正対したままの姿勢では患者に精いっぱい腕をねじってもらっても的確に穿刺することは困難だ.

連載 忘れられない症例から学ぶ超音波検査・1【新連載】

biliary cast syndrome

著者: 沖野久美子

ページ範囲:P.488 - P.492

 肝門部胆管狭窄によって胆管炎を発症し,胆管内にcastの充満を認め,BCS(biliary cast syndrome)と診断された希少な症例です.

やなさん。・6

雨天決行ぉ!? くじ運勝負のリレーマラソン

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.513 - P.513

 柳田の呼び掛け(命令?)により病理部から6人,知人2人の計8人でリレーマラソンに出場することとなった.42.195キロを数人で走り切るイベント.コースは1周2キロ.チーム名はもちろん「やなさん。」.

 大会当日,まさかの大雨! 最初に全員1周ずつ走るというチームルールのもと,運命のくじ引き.先端に数字が書いてある割り箸を皆で引く! 柳田はまさかの2走目! うわぁ,2走目かぁ.心と体の準備ができてねぇ.1走者が戻ってきた! 柳田はスタートラインに.「柳田さん,頑張ってください」よっれよれで1走者無事帰還.柳田は元陸上部…….

疾患と検査値の推移

鉄欠乏性貧血

著者: 突田真紀子 ,   張替秀郎

ページ範囲:P.494 - P.501

Point

●鉄欠乏性貧血は小球性低色素性貧血の像を呈し,原因の検索と適切な治療介入によって治癒する貧血である.

●出血が主な原因となることが多いため,出血源の同定が重要である.

●治療の基本は鉄剤の経口投与である.

●鉄剤不応性の鉄欠乏性貧血を認めた場合には,原因となる基礎疾患の鑑別診断を行う.

ワンポイントアドバイス

大学病院における耐性菌対策

著者: 和田恭直

ページ範囲:P.502 - P.505

はじめに

 近年,医療施設において従来,耐性菌の代名詞であったメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)のみならず,基質拡張型βラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase:ESBLs)産生菌,メタロ-β-ラクタマーゼ(metallo β-lactamase:MBL)産生菌,抗菌薬2系統以上耐性緑膿菌,多剤耐性緑膿菌(multiple drug-resistant Pseudomonas aeruginosa:MDRP),ペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae:PRSP),β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(β-lactamase-negative, ampicillin-resistant Haemophilus influenzae:BLNAR),バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant Enterococcus:VRE),多剤耐性結核菌(multidrug-resistant Mycobacterium tuberculosis:MDRMT),さらに多剤耐性アシネトバクター属(multiple drug-resistant Acinetobacter:MDRA),カルバペネム耐性腸内細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae:CRE)などの耐性菌が問題となっており,微生物検査が行う耐性菌の検出は,院内の感染制御において重要な役割を担っています.

Q&A 読者質問箱

眼科から硝子体液検体が提出され,悪性リンパ腫細胞の有無の確認を依頼されました.眼科領域の悪性リンパ腫とはどのような腫瘍ですか?また検体処理方法はどのようにすべきですか?

著者: 加戸伸明 ,   伊藤仁

ページ範囲:P.506 - P.507

Q 眼科から硝子体液検体が提出され,悪性リンパ腫細胞の有無の確認を依頼されました.眼科領域の悪性リンパ腫とはどのような腫瘍ですか?また検体処理方法はどのようにすべきですか?

A 硝子体は,眼球のなかで水晶体後方のほとんどを占める部分で,眼球の形態を保持する役割を担っています.硝子体を満たす硝子体液は通常は無色透明ですが,炎症やさまざまな病態によって混濁を生じます.この混濁の原因を究明する手法として,硝子体液の細胞診が応用されることがあります.検体として提出される硝子体液は主に硝子体手術によって採取され,診断と同時に混濁除去による視認性確保のための治療としても施行されます.

オピニオン

運動指導への臨床検査技師の関与

著者: 藤本浩

ページ範囲:P.508 - P.509

運動指導の資格について

 健康づくりのための運動指導者には健康運動実践指導者と健康運動指導士の2つの資格があり,公益財団法人健康・体力づくり事業財団によって認定されます.2つの資格の特徴と取得方法は表1のとおりです.

 2015年1月現在,健康・体力づくり事業財団には健康運動実践指導者20,424人,健康運動指導士17,146人が登録されており,そのうち臨床検査技師で健康運動実践指導者は68人,健康運動指導士は148人います.

今月の表紙

肺炎桿菌肺炎

著者: 舘田一博

ページ範囲:P.510 - P.511

◎臨床的特徴

 肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)は,高齢者,新生児,術後患者,悪性腫瘍などの消耗性基礎疾患,感染防御能の低下した患者において,肺炎や尿路感染症,腹膜炎,敗血症,髄膜炎などの原因菌となる.特に本菌による肺炎は,アルコール依存症,糖尿病,慢性閉塞性肺疾患患者などに発症することが多く,典型的な症例では胸部X線において“bulging fissure”サイン(緊満性の浸潤影で周囲組織を圧迫)を示すことがある(図1).患者は粘稠性の高い喀痰(“糸を引くような”と形容される)を排出し,肺組織の破壊が強くしばしば膿胸を合併することが特徴である(図2).本菌による尿路感染症は膀胱カテーテル装着患者にみられることが多い.最近になって,台湾からK1莢膜型で高い粘稠性を示す肺炎桿菌による肝膿瘍症例が多数報告されている.その多くは糖尿病などの基礎疾患を有する宿主に発症しているが,骨髄炎や前立腺炎などの転移性病変を作ることが多く予後不良であり,注意する必要がある.

ラボクイズ

血液検査

著者: 中川浩美

ページ範囲:P.514 - P.514

5月号の解答と解説

著者: 植松明和

ページ範囲:P.515 - P.515

第26回日本末梢神経学会学術集会

ページ範囲:P.480 - P.480

--------------------

第61回臨床検査技師国家試験問題 解答と解説

著者: 「検査と技術」編集委員会

ページ範囲:P.516 - P.552

『臨床検査』6月号のお知らせ

ページ範囲:P.505 - P.505

「ラボクイズ」解答/読者アンケート

ページ範囲:P.553 - P.553

あとがき・次号予告

著者: 舘田一博

ページ範囲:P.556 - P.556

 「検査と技術」2015年6月号,いかがだったでしょうか.本号の内容も盛りだくさんで,臨床検査に従事する方にとって大変わかりやすく勉強になる内容であったと思います.企画者の一人として,大変お忙しいなかご執筆いただいた先生方にあらためてお礼を申し上げます.

 感染症について考えると,5月になり再びデング熱の季節がやってきたと備えている施設も多いのではないかと思います.昨年は代々木公園を中心とする国内発生例が多数報告され話題となりましたが,今年はどのようになるのか,キットの確保などを相談している方も多いのではないかと思います.昨年の第一例目は,患者のお母さんが主治医にデング熱の検査をお願いして診断されたと聞いています.医療従事者は「デングは輸入感染」という教科書的な思考で考えていたわけですが,お母さんはインターネットで娘の症状がデング熱に似ていることを調べて来院されたそうです.まさに「母は強し」の一例でした.今年はどのような感染症が流行するのか,新しい感染症が見つかってくるのか,検査の立場からもしっかりと備えていかなければと考えています.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?