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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術44巻7号

2016年07月発行

雑誌目次

病気のはなし

急性肝炎(ウイルス性肝炎)

著者: 鈴木文孝

ページ範囲:P.560 - P.564

Point

●急性肝炎とは種々の原因により生じる急性の肝機能障害で,肝機能異常の持続が6カ月以内のものをいう.

●肝炎ウイルスのなかで,A型とE型肝炎ウイルスは経口感染であり,汚染された水,食物を介して感染する.B型,C型,D型肝炎ウイルスは血液,体液を介して感染し,輸血・性行為・出産・針刺し事故・昔の医療行為などによって感染が成立する.

●症状としては,発熱,咽頭痛,頭痛などの感冒様症状などの前駆症状,黄疸,褐色尿,食欲不振,嘔気・嘔吐,全身倦怠感,発熱,腹痛,関節痛,発疹などがある.

●治療は,入院,安静を原則とする.臥床安静により肝血流の増加を促し,肝障害の治癒を促す.食事は糖類を主体にカロリー補給し,1日1,800kcal前後とする.一般的に薬物治療としては,急性期では,食欲不振,全身倦怠感を訴えることが多いため,補液として輸液を行う.劇症化が疑われる場合には,早急に劇症肝炎の治療が必要となる.

技術講座 血液

血球計数検査—偽高値,偽低値を見逃さないために

著者: 盛合亮介 ,   遠藤明美 ,   髙橋聡

ページ範囲:P.570 - P.576

Point

●最終的に測定データを報告する臨床検査技師は,臨床病態を理解すると同時に,偽高値および偽低値を呈する要因とその対処法について知っていなければならない.

●偽高値,偽低値を見逃さないためのポイントとして,①測定原理の理解,②測定前の検体の状態確認,③測定後のデータチェック,④ヒストグラム・サイトグラム分布パターンを熟知し有効に活用すること,が挙げられる.

●偽高値,偽低値を回避するために,自動血球分析装置の保守点検や精度管理を実施することも重要である.

遺伝子・染色体検査

—step up編—マイクロアレイ染色体検査概論

著者: 山本俊至

ページ範囲:P.578 - P.584

Point

●マイクロアレイ染色体検査のシステムは,アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)法とSNPアレイに大別される.

●ゲノムコピー数の増減のみが明らかになり,転座などの染色体構造を調べることはできないため,FISH法をはじめとする細胞遺伝学的手法で確認しなければならない場合がある.

●良性コピー数多型(benign CNV)が多く認められるので,確認のため,データベース参照やトリオ解析などが必要となる場合がある.

生理

—step up編—造影超音波による肝腫瘍の診断

著者: 大川和良

ページ範囲:P.586 - P.594

Point

●造影超音波とは,造影剤投与後,中音圧の超音波照射で造影剤に含まれる気泡を共振させて,そのハーモニック成分を映像化することで造影画像を得る方法である.

●造影超音波は,腫瘍部の血流動態(血管相)と組織構築(Kupffer相)の2つの観点から質的診断を可能とする検査法であり,肝腫瘍の鑑別診断において有用性が非常に高い.

●造影超音波はヨードアレルギー,ペースメーカー装着者,腎機能低下などのCT,MRIが禁忌となる症例にも施行することができる.

●個々の肝腫瘍における造影超音波所見の特徴に関しては,本文参照のこと.

FOCUS

尿路結石の発症における遺伝因子と環境因子

著者: 海野怜 ,   安井孝周

ページ範囲:P.566 - P.568

はじめに

 尿路結石の生涯罹患率は,食生活の欧米化に伴い上昇し,男性では100人中15人1)に達しており,形成機序の解明と再発予防法の確立は急務である.尿路結石は多因子疾患であり,さまざまな要因が重なって発症する.しかし,その成因は完全には解明されておらず,尿路結石を生活習慣病の一疾患と捉え,病態解明から予防法を講じる必要がある.

 尿路結石の成分の90%以上をシュウ酸,カルシウムなどの無機物質が占め,これらが尿中で過飽和となることが結石の成因と考えられてきた.筆者らは,尿路結石の無機物質を対象としたこれまでの予防法に限界を感じ,結石中に数%含まれる有機物質と腎尿細管細胞の炎症に着目して研究を進めてきた.その結果,尿路結石の形成初期に酸化ストレスによる腎尿細管細胞傷害が生じ,有機物質(マトリックス)であるオステオポンチン(osteopontin:OPN)が発現したのち,結石形成に至る分子機序を解明した.本稿では,尿路結石の形成機序について,生活習慣病との関連,OPNの機能を中心に概説する.さらに,尿路結石の遺伝要因について,一塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP)の解析から将来の予防法への展開について記したい.

過去問deセルフチェック!

超音波検査

ページ範囲:P.569 - P.569

 過去の臨床検査技師国家試験にチャレンジして,知識をブラッシュアップしましょう.以下の問題にチャレンジしていただいたあと,別ページの解答と解説をお読みください.

解答と解説

ページ範囲:P.619 - P.619

 問題の超音波像は,膵臓を観察するのに適した断層像である.画像に写っている脈管は,右に示したシェーマの通りである.

 画像中央に 4.腹部大動脈,その左に 2.下大静脈,腹部大動脈の上に 5.上腸間膜動脈が写っている.矢印部分は 1.脾静脈であり,上腸間膜静脈と合流すると門脈となって肝内に流入する.3.腹腔動脈は上腸間膜動脈よりやや中枢側で腹部大動脈から分岐するため,この断面では写っていない.

疾患と検査値の推移

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)

著者: 高蓋寿朗

ページ範囲:P.596 - P.602

Point

●特発性血小板減少性紫斑病(ITP)が疑われた症例では,血小板減少をきたす原因となる他の疾患,病態を除外することによって診断を進めていく.

●ITPの病態を反映し,特異性の比較的高い検査項目を組み合わせ,積極的にITPを診断する「ITPの診断基準案」が作成されているが,実用化に至っていない.

●ITPは症例ごとの経過,治療に対する反応が多様であり,症例に応じた的確な治療法の選択と慎重な経過観察が重要である.

連載 やなさん。・19

Kimono de Kyoto!

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.603 - P.603

「そうだ京都へ行こう!」

年に数度は行きたくなる“The 古都”の一つ,京都.近畿地区には,歴史的な街がたくさん存在している.なかでも観光客に人気があるのは京都.最近,身の回りがWorld Wide化しはじめたこともあり,仲間で京都に行くこととなった.メンバーは“やなさん。17”で登場した6名だ.

人の心に寄り添う医療人になる・7

万物は渋滞する—「行動,言葉,思考,人,社会」流れを止めない・1

著者: 西成活裕 ,   山藤賢

ページ範囲:P.604 - P.611

 山藤(さんどう):西成先生とは,8年ほど前ですかね,早朝の勉強会で知り合って以来の大ファンで,それ以降親しくさせていただいております.数学・物理をご専門とし,私は日本でも最高の頭脳のもち主の一人と尊敬しておりますが,そのような理系学者であるにもかかわらず,人間の本質的な部分を追及し,多様性をもって社会に対して優しい提案をされる先生に,そこはかとない期待を感じて大好きなんです.一昨年には,私が大会長を務めた第9回日本臨床検査学教育学会学術大会(2014年8月20〜22日)で,「急がば回れの教育論」というタイトルでご講演いただき,会場は立ち見も出るほどの超満員で大好評でした.本日は「東京大学先端科学技術研究センター教授」という『日本の最高峰の理系頭脳』にあえて『情緒的なことを聞く』ことを目的に参りました(笑)

 西成:おっと,そうなんですね(笑)

忘れられない症例から学ぶ超音波検査・11

心サルコイドーシス(sarcoid cardiomyopathy)

著者: 飯伏義弘

ページ範囲:P.612 - P.619

はじめに

 サルコイドーシスは原因不明の全身性肉芽腫性疾患で,その病理像は類上皮細胞肉芽腫を特徴とします.若年(20〜30代)と中年(40〜50代)に好発し,肺,眼,皮膚の罹患が多いですが,神経,心臓,筋,腎,骨,消化管などの多くの臓器に罹患する可能性があります.診断に際しての基本は,病理学的に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を確認することですが,浸潤性疾患のなかでも局在性の高い疾患で,皮膚病変以外での病理診断の確定診断率の低い疾患です.心内膜生検の診断率は19%程度とされているため1),画像診断が診断の大きな役割を担います.

 心サルコイドーシスは,サルコイドーシスのなかでも,生命の危機となる重篤な不整脈から診断に至る場合が多く,診断に至れば厳重な管理が必要となる疾患です.全身性サルコイドーシスのなかで,心サルコイドーシスの合併率は5〜10%程度とされていますが,病理解剖からの検討では,小さなものも含めると,全身性サルコイドーシスの約70%に心病変を認めるとも報告されています2).このように,全身性の浸潤疾患の一部である心サルコイドーシスの確定診断は困難な場合があります.心臓超音波検査でのカットオフに至らなくても,心サルコイドーシスの早期所見である可能性はあり,その他の画像診断と合わせて確実に診断し,治療に生かすことが重要です.

 今回は,心サルコイドーシスの診断において,その他の画像診断が重要であった症例を経験したので,振り返ってみたいと思います.

オピニオン

保険診療におけるコンパニオン診断検査

著者: 登勉

ページ範囲:P.620 - P.621

 はじめに

 癌分野を中心に,診断名に基づく画一的な治療でなく,分子異常の有無を診断して分子標的薬による治療を行うことが日常診療の常識となりつつある.2013年7月1日に発出された厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知1)で,コンパニオン診断薬等とは医薬品の使用に不可欠な体外診断用医薬品又は医療機器(単に疾病の診断等を目的とする体外診断用医薬品又は医療機器を除く)とされ,使用目的は①特定の医薬品の効果がより期待される患者を特定するため,②特定の医薬品による特定の副作用の発現するおそれの高い患者を特定するため,③特定の医薬品の用法・用量の最適化又は投与中止の判断を適切に実施するための3つであることが示された.

臨床医からの質問に答える

自動分析機からの生化学・血算などの数値データの検査結果について,前回値との乖離はどのようなアルゴリズムで自動検出されるのですか?

著者: 酒本美由紀

ページ範囲:P.622 - P.625

はじめに

 臨床検査データは分析機の自動化・多項目化に伴い膨大なデータとなっていますが,個々の患者データは,全ての結果をリアルタイムに確認し,緊急検査・診察前検査に対応できるように迅速に報告しなければなりません.検査室では管理血清の測定を行う内部精度管理でデータを保証していますが,それだけでは個々のデータの管理には不十分ともいえます.そこで,個々のデータの管理方法として,患者データの今日のデータと直近で測定した前回のデータを比較し,その検査データが変化なければ即座に臨床へ報告し,変化があれば関連項目の確認や再検査などを行い妥当性の判断を行って臨床へ報告する,前回値チェックと呼ばれる結果の自動判定システムを多くの施設で導入しています.

 個別データの管理の手法は,前回値チェックに加えて異常値(low・high)チェック,極異常値(パニック値)チェック,項目間相互チェックなどが用いられていますが,今回は,データがなぜ変動するのかということを踏まえて,前回値チェックの設定方法を紹介します.

Q&A 読者質問箱

心房細動の心電図でのST評価や心室性期外収縮と変行伝導の区別の仕方を教えてください

著者: 和田悠子

ページ範囲:P.626 - P.629

Q 心房細動の心電図でのST評価や心室性期外収縮と変行伝導の区別の仕方を教えてください

A まず基本事項として,心房細動のf波は,心房に最も近接したV1誘導で最大になるのが一般的ですので,心房細動の心電図でf波に惑わされず基線の変化を評価したい場合は,V1以外の誘導に着目することが大切です.心房細動ではf波の振幅は0.2mV(通常の記録で波高が2mm)程度で,長期間持続した場合や個体の加齢とともに,f波の振幅は小さくなります.

臨床検査のピットフォール

自動血球計数装置で髄液・体腔液を測定する際のピットフォール

著者: 小笠原篤 ,   田中由美子 ,   宮地勇人

ページ範囲:P.630 - P.633

はじめに

 髄液や胸水など体腔液の細胞数算定および分画の測定は,従来用手法にて行われてきた.近年,自動血球計数装置の測定に,新たな測定機能として,髄液・体腔液の細胞数算定および分画の測定(体液測定モード)が搭載され,これを利用する施設が増加している1).この背景には,日当直時間帯の緊急検査の項目の拡大において,担当技師のトレーニング負担の軽減や目視法の誤判定の回避策としての利用が挙げられる.しかしながら,体腔液の検体の性状はさまざまで,しばしば測定結果に影響を及ぼす.すなわち,粘調性のある検体,細胞数が著増している検体や上皮細胞が多く含まれている検体などは,正しい結果が得られず,目視法と乖離する.このため,自動血球計数装置を用いた髄液・体腔液の細胞数算定および分画の測定(体液細胞の自動算定)における運用は,各施設で異なっている.

ワンポイントアドバイス

感染防止対策加算をとるために

著者: 奥川周

ページ範囲:P.634 - P.635

はじめに

 病院感染対策は,患者に安全な医療を提供するために重要である.病院感染を防ぐためには,医療従事者一人一人の手指衛生などの感染対策の実施とともに,感染症サーベイランスや職員教育など,病院組織としての取り組みが必要である.

ラボクイズ

ペースメーカ心電図検査

著者: 山田宣幸

ページ範囲:P.636 - P.636

6月号の解答と解説

著者: 米岡麻記

ページ範囲:P.637 - P.637

今月の表紙

旋尾線虫

著者: 赤尾信明

ページ範囲:P.638 - P.640

Point!

Q.旋尾線虫幼虫移行症とは? ⇒ 食品媒介寄生虫症の1つ

Q.症状は? ⇒ 皮膚爬行疹,麻痺性腸閉塞,前眼房内寄生の3病型

Q.感染源は? ⇒ ホタルイカ,ゲンゲ,ハタハタ,スケトウダラなど

Q.診断法は? ⇒ 食歴と組織標本中の虫体断端構造,ペア血清を用いた抗体検査

第38回第2種ME技術実力検定試験

ページ範囲:P.584 - P.584

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『臨床検査』7月号のお知らせ

ページ範囲:P.577 - P.577

あとがき・次号予告

著者: 高木康

ページ範囲:P.644 - P.644

あとがき

 7月といえばまず,七夕(タナバタ)が頭に浮かびます.天の川を挟んで織姫と牽牛が1年に一度会合する夜であり,短冊に願いごとを書き,葉竹に飾った幼い日々の記憶が蘇ります.あのときの“願い”は叶ったのでしょうか.このような風習は江戸時代から始まったもので,日本独自のものだそうです.日本人の“夢・願いを文字にして神仏に託す”心情は,起請文や書き初めなどいろいろな形で残されています.素晴らしい風習ですので,これからも大切にしていきたいものです.

 7月号をお届けします.今月号も興味深く,臨床検査の実践に役立つ論文が満載です.ウイルス肝炎に関する「病気のはなし」と「技術講座step up編」での造影超音波による肝腫瘍の診断を読むと,肝疾患の診療が把握できます.「技術講座」の血球計数検査では偽高値と偽低値例が例示され,「臨床検査のピットフォール」では日常検査に導入された自動血球計数装置での髄液・体腔液での注意点が解説されています.また,西成活裕氏と山藤賢氏の対談も興味深く読ませていただきました.目的の実現のために,あえて今マイナスをとるほうが将来的にプラスになる“科学的ゆとり”をもつことがかえって時間を短縮するという「渋滞学」は,いつの世にも職場にも必要な考え方で,参考になります.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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