研究のすゝめ・4
臨床現場から教育現場へ—教育機関でなすべき臨床検査技師の育成
著者:
大川龍之介
ページ範囲:P.138 - P.143
入職後からの経歴,研究に対する壁について
初めにせんえつながら私の経歴を紹介させていただきたい(図1).私は,2002年3月に東邦大学理学部生物分子科学科を卒業後,同年4月,東京大学医学部附属病院(以下,東大病院)検査部に入職した.同じ東邦大学を卒業され,東大病院検査部に入職した諸先輩方が,病院で働きながら研究し,学位を取得していることを知っていたため,私も入職直後から日常業務に加えて研究をするという意識を常にもって働いていた.ところが当時,東大病院検査部は予想に反して,それほど研究が活発に行われておらず,学位取得のための研究テーマを見つけることがなかなか困難であった.テーマ探しに悪戦苦闘していた頃,山梨大学より矢冨裕先生(現・東大病院検査部長)が検査部副部長として東大病院に移られた.矢冨先生は,研究する技師を探しておられたため,研究テーマを必死に探していた私にとってはまさに渡りに船であった.おかげで,矢冨先生から研究テーマ,さらには研究指導もいただき,入職2年目(2003年10月)より,東邦大学大学院理学研究科の博士前期(修士)課程に社会人大学院生として入学,2008年3月に博士号(理学)を取得することができた.
ほかの多くの病院検査部でもそうであるように,東大病院検査部でも日常業務終了後,自己研さんのために研究を行う臨床検査技師は少数派であった.したがって,周りの先輩技師からの逆風がなかったわけではない.しかしながら,当時,矢冨先生や戸塚実技師長,直属の上司であった大久保滋夫副技師長(現・文京学院大学教授)の理解が得られていたこと,また,夜22時頃まで研究した後は,決まっていつもの定食屋に一緒に行く研究仲間もいたことから,幸いにも研究を苦痛に感じたことは全くなかった.また,当たり前のことだが,臨床検査技師は日常業務がメインである.したがって,研究も人一倍行ったが,日常業務に関連する仕事(業務改善,ISO,システム更新,実習生の教育など)も人一倍行った.次第に,日常検査に関して先輩方に頼まれることも増え,日常検査において貢献できるようになってくると,より多くの方から研究に対する理解が得られるように変わっていったと記憶している.