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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術46巻3号

2018年03月発行

雑誌目次

増刊号 感染症クイックリファレンス

感染症を学ぶ人のために

ページ範囲:P.187 - P.187

 感染症の取り扱う領域は幅広く,原因微生物から疾患,適応となる薬剤に至る広範な知識を身に付けることは,一朝一夕ではできません.臨床検査技師,薬剤師,看護師,医師……それぞれの職域に合った専門知識を深めることに必死で,広い視点で学習を進める余裕がないと感じている読者は多いと思います.それほど,感染症を基本から順序立てて学ぶことは難しいのです.

 しかし,感染症全体を俯瞰するためには一つのコツがあります.それは,「①臨床状況から問題の臓器を考え,②そこで問題を起こしている微生物を予測,同定し,③予測,同定された臓器,原因微生物に基づいて感染症治療薬を決定する」という,感染症診療の原則を学び,実践することです.自身の専門知識がどう他の領域とリンクするのか,それを考える力を養うとも言い換えることができるでしょう.

本書の使い方と学びのポイント

ページ範囲:P.188 - P.189

本書は,誰でも「感染症診療の原則」を理解し,実践できるようになるクイックリファレンスです.

今ある臨床情報から,原因微生物↔臓器↔薬剤が「つながる!わかる!」1冊となっています.

原因微生物 グラム陽性球菌

Staphylococcus aureus

著者: 山本剛

ページ範囲:P.194 - P.196

学名 Staphylococcus aureus(スタフィロコッカス・アウレウス)

和名 黄色ブドウ球菌

◎性状と特徴
①溶血性:5%ヒツジ血液寒天培地では18〜20時間培養するとβ溶血をしたコロニーが確認できる.
②コロニーの形:正円形で平坦なコロニーを形成する.

Coagulase negative Staphylococcus

著者: 山本剛

ページ範囲:P.198 - P.200

学名 Coagulase negative Staphylococcus(コアグラーゼ・ネガティブ・スタフィロコッカス:CNS)

和名 コアグラーゼ陰性ブドウ球菌

◎性状と特徴
①溶血性:S. lugdunensisやS. haemolyticusなどの一部の菌が淡いβ溶血性を示すが,ほとんどの菌は溶血性をもたない2)
②コロニーの形:通常,白色でS型のコロニー形成をするが,光沢のあるコロニーからR型コロニーまでみられる.コロニーの色は菌種によってさまざまで,例えばS. saprophyticusは黄色,S. lugdunensis(図1)やS. intermediusはアイボリー色になる.

Streptococcus pyogenes

著者: 山本剛

ページ範囲:P.202 - P.203

学名 Streptococcus pyogenes(ストレプトコッカス・パイオゲネス)

和名 化膿レンサ球菌

◎性状と特徴
①溶血性

 5%ヒツジ血液寒天培地では,18〜20時間培養をすると,大きめのβ溶血をした白色で光沢のあるドーム型のコロニーの形成をする1)
②ランスフィールド(Lancefield)分類

 多くがgroup Aに属するので,A群溶血性レンサ球菌,A群溶連菌,GAS(group A Streptococcus)などと呼ばれることが多い.血液寒天培地上でβ溶血をするS. pyogenes以外のStreptococcus spp.のうち,S. dysgalactiae subsp. equilimilisやS. anginosus groupでもLacefield Aをもつ.

Streptococcus agalactiae

著者: 山本剛

ページ範囲:P.204 - P.205

学名 Streptococcus agalactiae(ストレプトコッカス・アガラクチエ)

和名 B群溶連菌

◎性状と特徴
①溶血性:5%ヒツジ血液寒天培地では18〜20時間培養をするとS. pyogenesに比べると弱い溶血環のあるコロニーを形成する.約3%が非溶血性1)
②コロニーの形:正円形でS型,光沢のある平たんなコロニーを形成する.

Streptococcus pneumoniae

著者: 山本剛

ページ範囲:P.206 - P.207

学名 Streptococcus pneumoniae(ストレプトコッカス・ニューモニエ)

和名 肺炎球菌

◎性状と特徴1〜3)
①溶血性:5%ヒツジ血液寒天培地では18〜20時間培養をするとS型のα溶血性となる.
②コロニーの形:正円形でS型,光沢のあるコロニーを形成する.自己融解によりクレーター状コロニーを形成する.ムコイド型の場合はクレーター状にならない湿潤な光沢のある大きなコロニーになる.

Enterococcus spp.

著者: 山本剛

ページ範囲:P.208 - P.209

学名 Enterococcus spp.(エンテロコッカス属菌)

和名 腸球菌

◎性状と特徴
①溶血性:血液寒天培地では18〜20時間培養をするとコロニーの周囲が淡いα溶血をする.
②コロニーの形:S型平たんなコロニーを形成する.

グラム陽性桿菌

Listeria monocytogenes

著者: 中山麻美

ページ範囲:P.210 - P.211

学名 Listeria monocytogenes(リステリア・モノサイトゲネス)

和名 リステリア菌

◎性状と特徴
①通性嫌気性菌.ヒツジ血液寒天培地に良好に発育し,弱いβ溶血を示す.Streptococcus agalactiaeと似た集落を形成するが,本菌はBTB(bromothymol blue)乳糖寒天培地に発育する.
②至適発育温度は35〜37℃であるが,4℃でも発育・増殖可能であることが重要な特徴である.

Nocardia spp.

著者: 中山麻美

ページ範囲:P.212 - P.213

学名 Nocardia spp.(ノカルジア属菌)

和名 ノカルジア

◎性状と特徴
①偏性好気性のグラム陽性桿菌で,現在は約100菌種が登録されている.わが国では,N. asteroides,N. farcinica,N. brasiliensis,N. novaの4菌種の分離頻度が高い.
②細胞壁に脂肪酸であるミコール酸を含むため,弱抗酸性を示し,Kinyoun染色で赤色に染まる(図1).

グラム陰性球菌

Neisseria gonorrhoeae

著者: 中山麻美

ページ範囲:P.214 - P.215

学名 Neisseria gonorrhoeae(ナイセリア・ゴノレエ)

和名 リン菌

◎性状と特徴
①好気性・通性嫌気性.栄養要求が厳しく,普通寒天培地には発育しない.チョコレート寒天培地に発育を認めるが,選択培地としてGC(gonococcus)寒天培地やサイヤー・マーチン(Thayer-Martin)培地が使用される.
②至適温度は35〜37℃と狭く,30℃以下の低温や40℃以上の高温では発育しない.したがって,検体の保管温度にも注意を要する.

Moraxella catarrhalis

著者: 中山麻美

ページ範囲:P.216 - P.217

学名 Moraxella catarrhalis(モラクセラ・カタラーリス)

和名 なし

◎性状と特徴
①偏性好気性菌.普通寒天培地に発育するが,ヒツジ血液寒天培地やチョコレート寒天培地のほうが発育は良好である.
②灰色から白色のスムースなコロニー.白金耳で押すとコロニーの形状を保ったまま培地上を動く“hockey puck test”陽性が特徴である.

グラム陰性桿菌

Haemophilus influenzae

著者: 中山麻美

ページ範囲:P.218 - P.219

学名 Haemophilus influenzae(ヘモフィルス・インフルエンザ)

和名 インフルエンザ菌

◎性状と特徴
①通性嫌気性菌で,発育にはⅩ因子(ヘミン)とⅤ因子(nicotinamide adenine dinucleotide:NAD)の両方を必要とする.したがって,ヒツジ血液寒天培地には発育をせず,チョコレート寒天培地に発育を認める.
②集落は非溶血性で,露滴状の光沢のある集落を形成する.至適発育温度は37℃で,5〜10%CO2環境で発育が促進される.

Legionella pneumophila

著者: 中山麻美

ページ範囲:P.220 - P.221

学名 Legionella pneumophila(レジオネラ・ニューモフィラ)

和名 レジオネラ菌

◎性状と特徴
①偏性好気性菌で,極毛の鞭毛をもつため運動性を示す.ただし,一部の菌種は鞭毛をもたず,非運動性である.
②至適発育温度は36℃,至適発育pHは6.9±0.05である.

Escherichia coli

著者: 中村竜也

ページ範囲:P.222 - P.223

学名 Escherichia coli(エシェリキア・コリ)

和名 大腸菌

◎性状と特徴

 大きさ0.4〜0.7×1.0〜4.0μmのグラム陰性桿菌.多くは周毛性O鞭毛をもち,活発に運動する.発育温度は10〜45℃,至適温度は37℃.BTB(bromothymol blue)乳糖加寒天培地では黄色の集落を形成する.SS(Salmonella-Shigella)寒天培地,マッコンキー(MacConkey)寒天培地,DHL(deoxycholate-hydrogen sulfide-lactose)寒天培地では赤色の集落を作り,培地は混濁赤変する.

 乳糖・白糖を分解,ブドウ糖を分解し,ガス産生陽性.インドールテストとリジン脱炭酸テストが陽性,硫化水素非産生.VP(Voges-Proskauer)テストとクエン酸塩利用テストは陰性.組織侵入性大腸菌などの一部の病原性大腸菌は,ガスを産生せず,非運動性,乳糖・白糖非分解,リジン脱炭酸テスト陰性であり,赤痢菌に類似している.

Proteus mirabilis & P. vulgaris

著者: 中村竜也

ページ範囲:P.224 - P.225

学名 Proteus mirabilis & P. vulgaris(プロテウス・ミラビリス&プロテウス・ヴルガリス)

和名 変形菌

◎性状と特徴

 大きさ0.4〜0.8×1.0〜1.3μmのグラム陰性桿菌.多形性で運動性を有する.血液寒天培地上で遊走(swarming:スウォーミング)し,限局した集落を作らず培地面に薄く広げたような発育を示す場合がある.胆汁や胆汁酸塩,窒化ナトリウムなどを含む培地では遊走が阻止される.

 P. mirabilisは,インドールテスト陰性,麦芽糖非分解,オルニチン脱炭酸反応陽性である点がP. vulgarisとの鑑別指標になる.

Klebsiella pneumoniae & K. oxytoca

著者: 中村竜也

ページ範囲:P.226 - P.227

学名 Klebsiella pneumoniae & K. oxytoca(クレブシエラ・ニューモニエ&クレブシエラ・オキシトカ)

和名 肺炎桿菌(K. pneumoniae)

◎性状と特徴

 大きさ0.3〜1.0×0.6〜6.0μmのグラム陰性桿菌で,非運動性である.感染病巣から分離した菌では,莢膜が観察されることがある.寒天培地では24時間培養で,灰白色・半球状・粘調性のある大きなムコイド集落を作る.ムコイド株の場合,菌体の周囲の莢膜が赤染される,または抜けて見える.集落を白金耳で注意深く釣菌すると,数mmに及ぶ粘性のある薄い膜が伸びる(K1産生株).ブドウ糖を発酵的に分解し,ガス産生陽性で,乳糖・白糖を分解する.VP(Voges-Proskauer)テスト陽性でクエン酸塩を利用する.オルニチン脱炭酸反応は陰性,リジン脱炭酸テストは陽性である.K. oxytocaはインドール陽性であることから,ほかのKlebsiella spp.と鑑別可能である.

Enterobacter spp.

著者: 中村竜也

ページ範囲:P.228 - P.229

学名 Enterobacter spp.(エンテロバクター属菌)

和名 なし

◎性状と特徴

 大きさ0.6〜1.0×1.2〜3.0μmのグラム陰性桿菌.多くは乳糖分解,VP(Voges-Proskauer)テスト,クエン酸塩利用能陽性でKlebsiella spp.に類似した性状を示すが,運動性があり,オルニチンを脱炭酸する点で鑑別可能である.E. aerogenesはリジン脱炭酸反応陽性でアルギニンを分解しない点がE. cloacaeとの鑑別指標である.

Citrobacter spp.

著者: 中村竜也

ページ範囲:P.230 - P.231

学名 Citrobacter spp.(シトロバクター属菌)

和名 なし

◎性状と特徴

 大きさ0.6〜1.0×2.0〜6.0μmのグラム陰性桿菌.運動性を有する.多くは乳糖を分解し,クエン酸利用能陽性.C. freundiiはONPG(o-Nitrophenyl β galactoside)テスト陽性,リジン脱炭酸反応とオルニチン脱炭酸反応陰性であり,硫化水素産生株ではこれらの点でSalmonella spp.との鑑別が可能である.C. koseriは,オルニチン脱炭酸反応陽性でアドニトールを分解する点がC. freundiiとの鑑別指標である.

Serratia spp.

著者: 中村竜也

ページ範囲:P.232 - P.233

学名 Serratia spp.(セラチア属菌)

和名 霊菌

◎性状と特徴

 大きさ0.5〜0.8×0.9〜2.0μmの小さなグラム陰性桿菌.運動性を有する.一般に乳糖非分解であるがONPG(o-Nitrophenyl β galactoside)テスト陽性.多くの菌種が白糖分解,VP(Voges-Proskauer)テスト,クエン酸塩利用テスト,DNaseテスト陽性である.非拡散性の赤色色素prodigiosin(プロジギオシン)とpyrimine(ピリミン)を産生する菌種がある.

Salmonella spp.

著者: 大城健哉

ページ範囲:P.234 - P.235

学名 Salmonella spp.(サルモネラ属菌)

 Salmonella spp.にはS. entericaとS. bongoriの2菌種があり,さらにS. entericaは6つの亜種に分類されている.ヒトに病原性を示すものは亜種IのS. enterica subsp. entericaがほとんどであり,血清型は2,500種類以上に分類されている.正式な表記法は例えばS. enterica subsp. enterica serovar Typhiであるが,S. enterica serovar TyphiやS. Typhiと略記される(以下,文中は略記で表記する).

和名

 S. Typhi(チフス菌),S. Paratyphi A(パラチフスA菌)は3類感染症である.3類感染症ではない非チフス性Salmonella spp.にはS. Enteritidis(サルモネラ・エンテリティディス菌)やS. Typhimurium(ネズミチフス菌)などがある.

Acinetobacter spp.

著者: 大城健哉

ページ範囲:P.236 - P.237

学名 Acinetobacter spp.(アシネトバクター属菌)

 Acinetobacter spp.には,2016年に大幅に菌種が追加され,2017年11月現在のところ52菌種が含まれている1).臨床的にはA. baumannii(アシネトバクター・バウマニ)が重要とされているが,A. calcoaceticus(アシネトバクター・カルコアセティカス),A. nosocomialis(アシネトバクター・ノソコミアリス),A. pittii(アシネトバクター・ピッティ)との同定鑑別は困難であることから,これらをA. calcoaceticus-baumannii complexまたはA. baumannii complexと総称している2)

和名 なし

Pseudomonas aeruginosa

著者: 大楠清文

ページ範囲:P.238 - P.239

学名 Pseudomonas aeruginosa(シュードモナス・エルギノーサ)

和名 緑膿菌

◎性状と特徴
①ブドウ糖非発酵の偏性好気性菌.
②菌体の一端に1本の鞭毛を有し(極単毛),活発な運動性を有する.

Stenotrophomonas maltophilia

著者: 大城健哉

ページ範囲:P.240 - P.241

学名 Stenotrophomonas maltophilia(ステノトロホモナス・マルトフィリア)

 1961年にPseudomonas maltophilia(シュードモナス・マルトフィリア)と命名され,1983年にXanthomonas(キサントモナス) spp.に分類され,1993年に現在のStenotrophomonas spp.に再分類された.2017年11月現在,Stenotrophomonas spp.には12菌種が含まれる1)

和名 マルトフィリア菌

Vibrio spp.

著者: 大城健哉

ページ範囲:P.242 - P.243

学名 Vibrio spp.(ビブリオ属菌)

 Vibrio spp.は2017年11月現在114菌種あり1),代表的な菌種にはV. cholerae(ビブリオ・コレラ)やV. parahaemolyticus(ビブリオ・パラヘモリティカス),V. vulnificus(ビブリオ・バルニフィカス)がある.

和名 コレラ菌(V. cholerae),腸炎ビブリオ(V. parahaemolyticus)

Campylobacter spp.

著者: 大城健哉

ページ範囲:P.244 - P.245

学名 Campylobacter spp.(カンピロバクター属菌)

 Campylobacter spp.は2017年11月現在,亜種も含めて33菌種あり1),代表的な菌種にはC. jejuni subsp. jejuni(カンピロバクター・ジェジュニ・サブスピーシーズ・ジェジュニ:C. jejuni)やC. coli(カンピロバクター・コリ),C. fetus subsp. fetus(カンピロバクター・フィタス・サブスピーシーズ・フィタス:C.fetus)がある.

和名 なし

Helicobacter spp.

著者: 大城健哉

ページ範囲:P.246 - P.247

学名 Helicobacter spp.(ヘリコバクター属菌)

 Helicobacter spp.は2017年11月現在38菌種あり1),代表的な菌種にはH. pylori(ヘリコバクター・ピロリ)やH. cinaedi(ヘリコバクター・シナジー,またはシネディ)がある.

和名 ピロリ菌(H. pylori)

クラミジア/マイコプラズマ

Chlamydia trachomatis

著者: 大楠清文

ページ範囲:P.248 - P.249

学名 Chlamydia trachomatis(クラミジア・トラコマティス)

和名 トラコーマ・クラミジア

◎染色像

 グラム染色では染まらない.

 基本小体(elementary body:EB)はギムザ(Giemsa)染色で赤紫色,マキャベロ(Macchiavello)染色で赤色に染まる.一方,網様体(reticulate body:RB)はギムザ染色,マキャベロ染色ともに青色に染まる.また,封入体はグリコーゲンを蓄積しているため,ヨード染色を用いると褐色に染まる.

Mycoplasma pneumoniae

著者: 大楠清文

ページ範囲:P.250 - P.251

学名 Mycoplasma pneumoniae(マイコプラズマ・ニューモニエ)

和名 肺炎マイコプラズマ

◎染色像

 細胞壁がないので,グラム(Gram)染色には染まりにくいが,ギムザ(Giemsa)染色でよく染まる.発育集落はDienes染色をすると青紫色に染まる.

抗酸菌

Mycobacterium tuberculosis

著者: 品川雅明

ページ範囲:P.252 - P.253

学名 Mycobacterium tuberculosis(マイコバクテリウム・ツベルクローシス)

和名 結核菌

◎性状と特徴
①細胞壁の構造と染色性

 M. tuberculosisの細胞壁は,ペプチドグリカンと多糖体からなる内層表面に,ミコール酸やcord factorなどの脂質が覆った疎水性の構造を有しているため,グラム(Gram)染色では難染性を示す.一方,抗酸菌染色法の1つであるチール・ネールゼン(Ziehl-Neelsen)染色は加温によって石炭酸フクシンで染色される.いったん染色された色素は塩酸アルコールで脱色してもミコール酸がエステル結合し脱色されない性質を利用しているため,染色が容易である.
②培養検査

 M. tuberculosisの分裂速度は遅く,通常,Escherichia coliでは1回の分裂が20分程度に対し,本菌では18〜24時間とされている1).そのため,培養陽性までの日数は,固形の小川培地で平均21.5日(13〜34)を要する.コロニー性状は,淡黄色,R型集落である.一方,液体培地の1つであるMGIT(mycobacteria growth indicator tube)培地では,平均16.3日(5〜40)で陽性を示す2).固形培地と比較し液体培地のほうが,感度および迅速性に優れている.

Non-tuberculosis mycobacteria(NTM)

著者: 品川雅明

ページ範囲:P.254 - P.255

学名 Non-tuberculosis mycobacteria(ノンツベルクローシス・マイコバクテリア)

和名 非結核性抗酸菌

◎性状と特徴

 NTMは,抗酸菌群のうち結核菌群を除く全ての菌種の総称であり,約186菌種が登録されている(2017年11月現在)1)
①細胞壁の構造と染色性

 NTMは,M. tuberculosisと同様に内層表面に脂質が覆った疎水性の構造を有しているため,グラム(Gram)染色では難染性を示し,チール・ネールゼン(Ziehl-Neelsen)染色や蛍光染色を用いて染色する.

嫌気性菌

Clostridium difficile

著者: 品川雅明

ページ範囲:P.256 - P.257

学名 Clostridium difficile(クロストリジウム・ディフィシル)

和名 なし

◎性状と特徴
①培養が難しい(difficult)ことからその名がついた.
②CCFA(cycloserine cefoxitin fructose agar)培地上のコロニーは円形で辺縁が不整,平たんで不透明な光沢のないコロニーを形成し,2〜3mmの黄色帯に囲まれ,馬小屋臭が特徴である.また,UVランプを照射すると,明るい黄色の蛍光を発する2)

Actinomyces spp.

著者: 品川雅明

ページ範囲:P.258 - P.259

学名 Actinomyces spp.(アクチノマイセス属菌)

和名 放線菌,分枝菌

◎性状と特徴

 Actinomyces spp.は,非芽胞形成の偏性嫌気性グラム陽性桿菌であり,47の種,4の亜種が登録されている(2017年11月現在)1)
①分岐した細長い菌糸を形成するため,細菌と真菌の中間型の性状を有する.非抗酸性で鞭毛,芽胞,莢膜は形成しない2)

Bacteroides spp.

著者: 品川雅明

ページ範囲:P.260 - P.261

学名 Bacteroides spp.(バクテロイデス属菌)

和名 なし

◎性状と特徴

 Bacteroides spp.は,非芽胞形成の偏性嫌気性グラム陰性桿菌であり,96の種,5の亜種が登録されている(2017年12月現在)2)
①B. fragilis groupが最も分離頻度が高く,B. fragilis,B. caccae,B. distasonis,B. eggerhii,B. merdae,B. ovatus,B. thetaiotaomicron,B. uniformis,B. stercoris,B. vulgatusが含まれる3)

Fusobacterium spp.

著者: 品川雅明

ページ範囲:P.262 - P.263

学名 Fusobacterium spp.(フソバクテリウム属菌)

和名 なし

◎性状と特徴

 Fusobacterium spp.は,非芽胞形成のグラム陰性偏性嫌気性菌であり,21の種,7の亜種が登録されている(2017年12月現在)1).属名の語源は,ラテン語のfusus(紡錘状)の小桿菌である.
①培養

 Fusobacterium spp.は,Bacteroides spp.やPrevotella spp.と同様に“厳密な意味での偏性嫌気性菌”に属し,酸素濃度0.05%以下の環境でのみ,固形培地表面に発育できる細菌である2).そのため,検体採取から培養開始までに厳密な対応を取らなければ検出率に影響する.ブルセラHK寒天培地上で,35〜37℃,2〜4日間で集落が確認できる.

真菌

Candida spp.

著者: 竹川啓史

ページ範囲:P.264 - P.265

学名 Candida spp.(カンジダ属菌)

和名 なし

◎性状と特徴
①色・臭い:ポテトデキストロース寒天(potato dextrose agar:PDA)培地や,サブロー・デキストロース寒天(Sabouraud dextrose agar:SDA)培地上では,白〜クリーム色の発酵臭のあるコロニーを形成する.発色合成基質を用いた培地(クロモアガーカンジダなど)を用いると,主要なCandida spp.については,大まかな菌種推定が可能である1)
②コロニーの形:S〜R型で,表面は湿潤〜乾燥,皺状など菌種によりコロニー形状は異なる.

Cryptococcus spp.

著者: 竹川啓史

ページ範囲:P.266 - P.267

学名 Cryptococcus spp.(クリプトコックス属菌)

和名 なし

◎性状と特徴
①抗原検査:莢膜の成分である可溶性莢膜多糖類(glucuronoxylomannan)を検出する血清学的検査が診断に利用されている.
②β-D-グルカン検査:低値となるので有用ではない.

Aspergillus spp.

著者: 竹川啓史

ページ範囲:P.268 - P.269

学名 Aspergillus spp.(アスペルギルス属菌)

和名 なし

◎性状と特徴
①Aspergillus spp.の多くは,ポテトデキストロース寒天(potato dextrose agar:PDA)培地や,サブローデキストロース寒天(Sabouraud dextrose agar:SDA)培地上で3日以内に成熟する.
②発育初期は白色の綿毛状のコロニーを形成するが,その後緑色,黄褐色,黒色など,菌種により色調が変化していく.

原虫

赤痢アメーバ

著者: 奈須聖子

ページ範囲:P.270 - P.271

学名 Entamoeba histolytica(エンタモエバ・ヒストリティカ)

和名 赤痢アメーバ

◎性状と特徴1〜3)

 赤痢アメーバは腸管寄生性原虫で,赤痢様の腸管感染を引き起こす微生物である.赤痢アメーバ原虫の感染は,赤痢アメーバ囊子(シスト)に汚染された水や食物などを経口摂取することにより成立する.囊子は胃を経て小腸に達し,そこで脱囊子して栄養型となり,分裂を繰り返して大腸に到達する.栄養型原虫は大腸粘膜面に潰瘍性病変を形成する.栄養型原虫の経口摂取によるヒトへの感染はない.

 潜伏期は2〜3週間とされるが,数カ月〜数年間に及ぶこともある.

ウイルス

Human herpesvirus/Varicella zoster virus

著者: 大楠清文

ページ範囲:P.272 - P.273

学名 Human herpesvirus(HHV)/Varicella zoster virus(VZV)

和名 ヒトヘルペスウイルス/水痘・帯状疱疹ウイルス

◎分類

 ヒトを宿主とするHHVは8種が知られている.正式な名称はHHV-1〜HHV-8であるが,HHV-1〜HHV-5までは従来の慣用名が使用されている.すなわち,単純ヘルペスウイルス1型(herpes simplex virus:HSV-1)は正式にはHHV-1,単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)はHHV-2,VZVはHHV-3である(表1).

Influenzavirus

著者: 大楠清文

ページ範囲:P.274 - P.275

学名 Influenzavirus

和名 インフルエンザウイルス

◎分類

 Influenzavirusは,オルトミクソウイルス科に属し,抗原性の違いによってA,B,C型に分類される.A型ウイルスは,赤血球凝集素(hemagglutinin:HA)とノイラミニダーゼ(neuraminidase:NA)の抗原性により,亜型に分けられる.現在,HA抗原型には16種(H1〜H16),NA抗原型には9種(N1〜N9)が知られている.ウイルスの抗原性はHAとNAの組み合わせで決まり,さまざまな動物種に感染して病気を起こす.これまでにヒトから分離されたウイルス株では,H1N1,H2N2,H3N2の3種類が主体である.B型とC型に亜型は存在しない.

臓器 中枢神経

細菌性髄膜炎

著者: 羽田野義郎

ページ範囲:P.276 - P.277

◎定義

 髄膜炎とは細菌による脳および脊髄を取り囲む髄膜の炎症であり,細菌性髄膜炎とは細菌感染の髄膜炎の総称(症候群)である.通常,結核性腹膜炎はこの範疇に含めない.

脳膿瘍

著者: 羽田野義郎

ページ範囲:P.278 - P.279

◎定義

 脳膿瘍とは,脳実質内に細菌が感染して局所の脳炎から始まり,隔壁形成され膿瘍が形成された頭蓋内の局所感染症である.

呼吸器・頭頸部

風邪症候群

著者: 岩浪悟 ,   綿貫聡

ページ範囲:P.280 - P.281

◎定義

 鼻汁,咳,咽頭痛といった上気道症状に,発熱,頭痛,倦怠感などが加わり多症状を呈する“軽度のウイルス性上気道感染症”と定義され,咽頭炎,副鼻腔炎,急性気管支炎などとは明確に区別される.

インフルエンザ

著者: 生田奈央

ページ範囲:P.282 - P.283

◎定義

 A型もしくはB型Influenzavirus▲39を病原微生物とする急性呼吸器感染症である.特別な治療をしなくとも数日間で軽快することが多い疾患だが,ハイリスク患者では命を脅かす場合もある.

急性咽頭炎・扁桃周囲膿瘍

著者: 水澤桂 ,   原田侑典

ページ範囲:P.284 - P.286

◎定義1)

 咽頭領域は鼻腔後部の上咽頭,口蓋垂の下縁から喉頭蓋上縁までの中咽頭,喉頭蓋から食道入り口までの下咽頭から成る.急性咽頭炎とはウイルスまたは細菌の感染,あるいは非感染性・毒素産生に関連して生じる咽頭粘膜と咽頭リンパ組織の炎症の総称である.細菌が咽頭扁桃に感染し口蓋扁桃に炎症をきたし,扁桃被膜と咽頭収縮筋との間に膿瘍を形成すると扁桃周囲膿瘍となる.

急性中耳炎・副鼻腔炎

著者: 和足孝之

ページ範囲:P.288 - P.289

◎定義

 急性中耳炎とは鼓膜より深部の中耳腔の急性炎症であり,急性副鼻腔炎は副鼻腔(上顎洞・篩骨洞・蝶形骨洞・前頭洞)に生じた急性炎症の総称である.その病態から急性と慢性(急性増悪症を含む)に大別する.

市中肺炎

著者: 森永康平

ページ範囲:P.290 - P.292

◎定義

 実臨床では急性経過での呼吸器症状を伴い,単純X線やCTにて画像上に肺のすりガラス影や浸潤影などを認める際に,暫定的に“肺炎”として扱う場合が多い.臨床上頻度が高く,また問題となるのは感染性,特に細菌性肺炎である.罹患場所により市中肺炎と院内肺炎に大別され,市中肺炎は病院外で日常生活をしていた人に発症した肺炎と定義される.一方,院内肺炎はなんらかの病気,例えば癌や脳卒中の治療などで入院中の患者に発症したものであるが,介護施設に入所中であったり,自宅には居るものの寝たきりで介護が必要な方,定期的な人工透析が必要な方などに発症したものを医療介護関連肺炎という.ここでは市中肺炎について概説する.

院内肺炎・人工呼吸器関連肺炎・医療介護関連肺炎

著者: 園田唯

ページ範囲:P.294 - P.297

◎定義
①院内肺炎:入院して48時間以上経過してから発症した肺炎.
②人工呼吸器関連肺炎:気管挿管して人工呼吸器管理を開始して48時間以上経過してから発症した肺炎.

肺膿瘍・膿胸

著者: 園田唯

ページ範囲:P.298 - P.299

◎定義
①肺膿瘍:肺に起こった細菌感染によって肺組織の構造が破壊されてできた空洞に膿がたまった状態.
②膿胸:肺を覆っている膜(臓側胸膜)と肋骨の内側にある膜(壁側胸膜)の間にあるスペース(胸腔)に膿がたまった状態.

循環器

感染性心内膜炎

著者: 森岡慎一郎

ページ範囲:P.300 - P.301

◎定義

 感染性心内膜炎(infective endocarditis:IE)とは,弁を含む心内膜の感染症である.臨床的に急性と亜急性に分類される.

カテ−テル関連血流感染症

著者: 森岡慎一郎

ページ範囲:P.302 - P.303

◎定義

 中心静脈カテーテルや末梢静脈カテーテルなどを介しての血流感染症である.カテーテルの接続部もしくは輸液に菌が混入するか,刺入部の皮膚から菌が入り込むことが原因として多い.

消化器

感染性下痢症(院内,市中)

著者: 山口裕崇

ページ範囲:P.304 - P.306

◎定義

 WHO(World Health Organization)によると“連続した24時間に3回以上の軟便または水様便が排泄される状態”とされ,2週間以内を急性,それ以上を遷延性・慢性と考える目安とする.感染性下痢症のほとんどが急性下痢症で,その9割以上は特別な検査や治療を必要としない.

胆道系感染症(胆囊炎・胆管炎・肝膿瘍)

著者: 倉井華子

ページ範囲:P.308 - P.311

1.胆囊炎

◎定義

 胆囊に炎症を生じた病態で,右季肋部痛,発熱,嘔気嘔吐,白血球増加などの臨床所見を伴う.重症度の定義は以下の通り.

腹膜炎(特発性細菌性,二次性)

著者: 細川貴弘 ,   鈴木純

ページ範囲:P.312 - P.314

1.特発性細菌性腹膜炎

◎定義

 特発性細菌性腹膜炎(spontaneous bacterial peritonitis:SBP)とは,①腹水中の好中球数(polymorphonuclear leukocytes:PMN)が250/mm3以上,②腹水培養陽性,③明らかな一次感染巣がない,の3点で定義される.SBPの亜型として,PMNが250/mm3以上であるが腹水培養陰性のケース(culture-negative neutrocytic ascites:CNNA)やPMNが250/mm3未満であるが腹水培養陽性であるケース(monomicrobial non-neutrocytic bacterascites:MNB)も存在する.CNNAやMNBも原則SBPと同様に扱う.

虫垂炎・憩室炎

著者: 西信俊宏

ページ範囲:P.316 - P.317

◎定義

 虫垂と憩室に急性化膿性炎症を起こしたものを虫垂炎,憩室炎という.

軟部組織

丹毒・蜂窩織炎

著者: 藤田崇宏

ページ範囲:P.318 - P.319

◎定義

 軟部組織とは,骨を除く結合組織で,線維組織,脂肪組織,血管,横紋筋,平滑筋などの総称である.ここに生じた感染症を軟部組織感染症と呼び,丹毒,蜂窩織炎はその一種である.軟部組織感染症は深達度によって分類され,丹毒は主に真皮における炎症を,蜂窩織炎は主に真皮から皮下組織にかけての炎症を指す.厳密に定義付けされているものではなく,臨床所見はオーバーラップしている部分が多いため時に鑑別は困難であるが,原因微生物や治療に用いる抗菌薬はおおむね共通している.

壊死性筋膜炎

著者: 藤田崇宏

ページ範囲:P.320 - P.321

◎定義

 壊死性筋膜炎は以前から原因微生物によってTypeⅠ(混合感染),TypeⅡ(A群溶血性レンサ球菌▲3),と分類されていた.しかしこれ以外にも複数の分類や病名が存在し混乱していることから,近年では筋肉,筋膜に病変が及ぶ,進行が急激で致命率の高い重症の軟部組織感染症を総称した“壊死性軟部組織感染症(necrotizing soft tissue infection:NSTI)”という病名が提唱されている1).これらは緊急の外科的介入を要するという点がマネジメントのうえで共通しており,ここではNSTIを中心に解説する.

乳腺炎

著者: 廣澤孝信 ,   林光弘 ,   志水太郎

ページ範囲:P.322 - P.323

◎定義

 乳腺炎とは,疼痛,腫脹,熱感といった乳腺の炎症のことである.乳汁うっ滞によるうっ滞性乳腺炎と,細菌感染症を伴う化膿性乳腺炎に大別される.

泌尿・生殖器

単純性腎盂腎炎・膀胱炎

著者: 山本泰正 ,   伊東直哉

ページ範囲:P.324 - P.325

◎定義

 既往歴がなく妊娠していない閉経前女性の尿路感染症は単純性(uncomplicated)と定義され,それ以外は複雑性(complicated)とされている.また,尿路感染症は下部(膀胱炎)と上部(腎盂腎炎・腎膿瘍)にも分けられる1,2)

複雑性尿路感染症

著者: 山本泰正 ,   伊東直哉

ページ範囲:P.326 - P.327

◎定義

 単純性(既往歴がなく妊娠していない閉経前女性の尿路感染症)以外の尿路感染症は複雑性と定義され,男性や免疫不全者,妊婦の尿路感染症,カテーテル関連尿路感染症(catheter-associated urinary tract infections:CAUTI),尿路に解剖学的および機能的な異常を有する尿路感染症などが含まれる1)

前立腺炎

著者: 山本泰正 ,   伊東直哉

ページ範囲:P.328 - P.329

◎定義

 急性前立腺炎と慢性前立腺炎は異なる疾患概念である.前立腺炎は米国の国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の分類1)が用いられている(表1).症状の持続期間により急性と慢性に分けられるが,後者は最低3カ月以上の症状の持続と定義される.

骨盤内炎症性疾患

著者: 天野雅之

ページ範囲:P.330 - P.331

◎定義

 骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory disease:PID)とは,上部女性生殖器に生じる感染症の総称である.具体的には子宮頸管炎・子宮内膜炎・卵管炎・腹膜炎・卵管卵巣膿瘍などの疾患が含まれる.

骨・関節

骨髄炎

著者: 石井隆弘

ページ範囲:P.332 - P.333

◎定義・疫学

 骨髄炎は骨の感染症であり,進行性の骨破壊と腐骨形成を特徴とする難治性感染症のうちの1つである.

 骨髄炎は,経過から“急性(腐骨形成前の骨髄炎)”と“慢性(腐骨形成後の骨髄炎)”に分類され,感染経路から“血行性”と“直接波及性”に分類される.血行性骨髄炎は成人よりも小児に多く,好発部位は小児では長管骨(脛骨,大腿骨,上腕骨など),成人では椎体である.直接波及性の骨髄炎は,外傷(開放骨折など),手術,褥瘡感染,糖尿病性足感染症に続発する骨髄炎であり,成人でみられることが多い.

化膿性関節炎

著者: 石井隆弘

ページ範囲:P.334 - P.335

◎定義1)

 化膿性関節炎は一般細菌による関節炎を指し,Newmanのmodified criteriaでは以下の①〜④のうち1つが一致するものと定義される(除外基準は整形外科的感染,淋菌感染,結核感染,小児感染).

その他

敗血症

著者: 本田優希

ページ範囲:P.336 - P.339

◎定義・診断基準(Sepsis-3)1)
①敗血症(Sepsis)

定義:感染症に対する制御不能な宿主反応に起因した生命を脅かす臓器障害.

発熱性好中球減少症

著者: 冲中敬二

ページ範囲:P.340 - P.341

◎定義

 以下の①および②を満たす状態.①好中球数500/μL未満,または1,000/μL未満で48時間以内に500/μL未満に減少すると予測される状態.②腋窩温37.5℃以上の発熱を生じた場合.

 ただし,血液悪性腫瘍など正常な好中球機能が期待できない場合(機能的好中球減少)には,①の好中球数より多くても発熱性好中球減少症(febrile neutropenia:FN)に準じた対応が必要となる.同様に,ステロイド投与中や高齢者など熱が出づらい状況の場合,②の基準を満たさなくてもFNに準じた対応が必要となることもある.

遷延する発熱性好中球減少症

著者: 冲中敬二

ページ範囲:P.342 - P.343

◎定義

 発熱性好中球減少症(febrile neutropenia:FN)の定義は臓器■26発熱性好中球減少症(p.340)参照.一般的な遷延する発熱性好中球減少症(persistent febrile neutropenia:pFN)とは,FNに対する広域抗菌薬投与開始4日以降も発熱が続き,かつ好中球数500/μL未満が持続している場合を指す.発熱が続くものの好中球数がすでに回復している場合には当てはまらない.

結核症・非結核性抗酸菌症

著者: 大藤貴

ページ範囲:P.344 - P.347

◎定義
①結核症

 肺結核は肺に病変があり,気道検体(喀痰,胃液,気管支肺胞洗浄液など)より,Mycobacterium tuberculosis▲28を検出する場合をいう1).肺外結核を疑う場合(例えば胸膜炎,髄膜炎,心膜炎)は,それらの局所検体よりM. tuberculosis▲28が検出される場合をいう.
②非結核性抗酸菌症

 非結核性抗酸菌症とは,結核菌群とらい菌群以外の抗酸菌〔非結核性抗酸菌(Non-tuberculosis mycobacteria:NTM)▲29〕によって起こる感染症である.M. tuberculosis▲28と異なり,NTM▲29の多くは環境生息菌である.そのため,肺非結核性抗酸菌症の診断には喀痰や胃液など,身体の外と交通のある部位から得られた検体の場合には混入(contamination)や腐生(colonization)との鑑別が必要となる.1回の検出では混入や腐生の可能性があるため,日本結核病学会の診断基準では喀痰からは2回以上の検出を必要とする.気管支鏡での気管支洗浄液であれば1回でよいとされる(表1)2)

免疫不全に対する抗微生物薬の予防投与

著者: 冲中敬二

ページ範囲:P.348 - P.349

◎病態・原因微生物

 ここでは免疫不全を以下の4つのカテゴリーに分けて考える.これらに分類することが目の前の症例の原因微生物の鑑別に役立つ.
①好中球減少

 抗癌剤治療や血液腫瘍などで好中球の減少や機能不全をきたした状態.Pseudomonas aeruginosa▲21などの細菌に加え,高度の好中球減少(>100/μL)が7〜10日を超えて持続するとCandida spp.▲34やAspergillus spp.▲36などの真菌が問題となる.Human herpesvirus▲38などの再活性化にも注意が必要である.

薬剤

注射用ペニシリン

著者: 前田真之

ページ範囲:P.350 - P.351

ペニシリンG(penicillin G:PCG)

◎作用機序

 細胞壁(ペプチドグリカン)の合成酵素であるペニシリン結合蛋白(penicillin-binding protein:PBP)のトランスペプチダーゼ活性部位に結合し,酵素活性を阻害することにより細菌細胞壁の生合成を阻害する.

βラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン

著者: 前田真之

ページ範囲:P.352 - P.353

スルバクタム・アンピシリン(sulbactam・ampicillin:SBT/ABPC)

◎作用機序
①ABPCは,細胞壁(ペプチドグリカン)の合成酵素であるペニシリン結合蛋白(penicillin-binding protein:PBP)のトランスペプチダーゼ活性部位に結合し,酵素活性を阻害することにより細菌細胞壁の生合成を阻害する.
②SBTは,細菌が産生するβラクタマーゼに結合し,不可逆的な阻害作用を示す.また,細菌のPBPへの結合能も有している.

抗緑膿菌用ペニシリン

著者: 前田真之

ページ範囲:P.354 - P.355

ピペラシリン(piperacillin:PIPC)

◎作用機序

 細胞壁(ペプチドグリカン)の合成酵素であるペニシリン結合蛋白(penicillin-binding protein:PBP)のトランスペプチダーゼ活性部位に結合し,酵素活性を阻害することにより細菌細胞壁の生合成を阻害する.

経口ペニシリン

著者: 前田真之

ページ範囲:P.356 - P.357

アモキシシリン(amoxicillin:AMPC)

◎作用機序

 細胞壁(ペプチドグリカン)の合成酵素であるペニシリン結合蛋白(penicillin-binding protein:PBP)のトランスペプチダーゼ活性部位に結合し,酵素活性を阻害することにより細菌細胞壁の生合成を阻害する.

第1世代セファロスポリン

著者: 前田真之

ページ範囲:P.358 - P.359

セファゾリン(cefazolin:CEZ)

◎作用機序

 細胞壁(ペプチドグリカン)の合成酵素であるペニシリン結合蛋白(penicillin-binding protein:PBP)のトランスペプチダーゼ活性部位に結合し,酵素活性を阻害することにより細菌細胞壁の生合成を阻害する.

第2世代セファロスポリン,セファマイシン

著者: 前田真之

ページ範囲:P.360 - P.361

セフォチアム(cefotiam:CTM)

◎作用機序

 細胞壁(ペプチドグリカン)の合成酵素であるペニシリン結合蛋白(penicillin-binding protein:PBP)のトランスペプチダーゼ活性部位に結合し,酵素活性を阻害することにより細菌細胞壁の生合成を阻害する.

第3世代セファロスポリン

著者: 前田真之

ページ範囲:P.362 - P.363

セフトリアキソン(ceftriaxone:CTRX)

◎作用機序

 細胞壁(ペプチドグリカン)の合成酵素であるペニシリン結合蛋白(penicillin-binding protein:PBP)のトランスペプチダーゼ活性部位に結合し,酵素活性を阻害することにより細菌細胞壁の生合成を阻害する.

第4世代セファロスポリン

著者: 前田真之

ページ範囲:P.364 - P.365

セフェピム(cefepime:CFPM)

◎作用機序

 細胞壁(ペプチドグリカン)の合成酵素であるペニシリン結合蛋白(penicillin-binding protein:PBP)のトランスペプチダーゼ活性部位に結合し,酵素活性を阻害することにより細菌細胞壁の生合成を阻害する.

カルバペネム

著者: 前田真之

ページ範囲:P.366 - P.368

メロペネム(meropenem:MEPM)

◎作用機序

 細胞壁(ペプチドグリカン)の合成酵素であるペニシリン結合蛋白(penicillin-binding protein:PBP)のトランスペプチダーゼ活性部位に結合し,酵素活性を阻害することにより細菌細胞壁の生合成を阻害する.

アミノグリコシド

著者: 西圭史

ページ範囲:P.370 - P.373

ゲンタマイシン(gentamicin:GM)

◎作用機序

 細菌のリボソーム30Sサブユニットに不可逆的に結合し,蛋白合成を阻害する.

マクロライド

著者: 西圭史

ページ範囲:P.374 - P.376

クラリスロマイシン(clarithromycin:CAM)

◎作用機序

 細菌の70Sリボソームの50Sサブユニットと結合し,蛋白合成を阻害する.静菌的であるが,菌株によっては殺菌的作用を示す.

テトラサイクリン,グリシルサイクリン

著者: 小阪直史

ページ範囲:P.378 - P.381

ミノサイクリン(minocycline:MINO)

◎作用機序

 単純拡散と能動輸送の2つの経路で細菌の細胞壁を透過し,aminoacyl t-RNAがm-RNA・リボソーム複合物と結合するのを妨げることで蛋白合成を阻害し,抗菌作用を示す.

ポリペプチド系

著者: 小阪直史

ページ範囲:P.382 - P.383

コリスチン(colistin:CL)

◎作用機序

 CLがグラム陰性菌の外膜に結合することで,外膜に存在するアニオン性のリポポリサッカライド(lipopolysaccharide:LPS)分子とCLとの間の静電的相互作用により細菌外膜の安定性が低下する.さらに,負の電荷をもつLPSにおいてCL自体がCa2+およびMg2+に置き換わることで,細菌外膜に局所的な障害を起こす.このような作用により細菌細胞表層の透過性が上昇し,細胞内物質が流出することで抗菌作用を示す.

クリンダマイシン

著者: 西圭史

ページ範囲:P.384 - P.385

クリンダマイシン(clindamycin:CLDM)

◎作用機序

 細菌のリボソーム50Sサブユニットに作用し,ペプチド転移酵素反応を阻止して蛋白合成を阻害する.

ホスホマイシン

著者: 小阪直史

ページ範囲:P.386 - P.387

ホスホマイシン(fosfomycin:FOM)

◎作用機序

 細胞質膜の能動輪送系から菌体内に取り込まれたFOMは,ピルビルトランスフェラーゼを阻害して,細胞壁のペプチドグリカン生合成の初期段階を阻害することで抗菌作用を示す.

グリコペプチド

著者: 浜田幸宏

ページ範囲:P.388 - P.390

バンコマイシン(vancomycin:VCM)

◎作用機序

 細胞壁合成酵素の基質であるD-アラニル-D-アラニン末端部分に結合することで細胞壁合成を阻害し,菌の増殖を抑制する.

オキサゾリジノン

著者: 浜田幸宏

ページ範囲:P.391 - P.391

リネゾリド(linezolid:LZD)

◎作用機序

 リボソーム50Sサブユニットに結合し,ペプチド合成の開始複合体の形成を阻害する蛋白合成を阻害し,菌の増殖を抑制する.

環状リポペプチド系

著者: 浜田幸宏

ページ範囲:P.393 - P.393

ダプトマイシン(daptomycin:DAP)

◎作用機序

 Ca2+存在下で細菌の細胞膜のKを流出させるとともに,脱分極させて殺菌的に作用する.

ST合剤

著者: 小阪直史

ページ範囲:P.394 - P.395

スルファメトキサゾール・トリメトプリム(sulfamethoxazole・trimethoprim:SMX・TMP)

◎作用機序

 SMXは細菌の葉酸合成過程でp-アミノ安息香酸と競合して,ジヒドロ葉酸の合成を阻害する.TMPはジヒドロ葉酸から活性葉酸への還元を酵素的に阻害して抗菌作用を示す.両剤の併用により,葉酸代謝の連続した2カ所を阻害するため相乗的な殺菌効果を示す.

メトロニダゾール

著者: 西圭史

ページ範囲:P.396 - P.397

メトロニダゾール(metronidazole:MNZ)

◎作用機序

 菌体または原虫内に取り込まれ,酸化還元反応によって還元されてニトロソ化合物(R-NO)に変化することで嫌気性菌に対する殺菌作用および抗原虫作用を示す.R-NOは菌体または原虫のRNA,DNAもしくは細胞内蛋白質を標的し,DNAらせん構造の不安定化を招く.

キノロン

著者: 小阪直史

ページ範囲:P.398 - P.400

シプロフロキサシン(ciprofloxacin:CPFX)

◎作用機序

 細菌のDNAジャイレース(トポイソメラーゼⅡ複合体,Ⅳ複合体)に作用してDNA合成を阻害することで殺菌的に作用する.

抗結核薬

著者: 森玄

ページ範囲:P.402 - P.405

リファンピシン(rifampicin:RFP)

◎作用機序

 細菌のDNA依存性RNAポリメラーゼに作用し,RNA合成を阻害することにより抗菌作用を示すが,動物細胞のRNAポリメラーゼは阻害しない.

ポリエン系

著者: 浜田幸宏

ページ範囲:P.406 - P.407

リポソーマルアムホテリシンB(liposomal-amphotericin B:L-AMB)

◎作用機序

 細胞膜の構成成分であるエルゴステロールに結合し,膜電位や流動性を変化させて細胞膜機能を障害する.

アゾール系

著者: 浜田幸宏

ページ範囲:P.408 - P.410

ホスフルコナゾール(fosfluconazole:F-FLCZ)

◎作用機序

 真菌の細胞膜成分のエルゴステロール生合成を抑制することにより抗真菌作用を示す.

ピリミジン系

著者: 小阪直史

ページ範囲:P.412 - P.413

フルシトシン(flucytosine:5-FC)

◎作用機序

 5-FCは,真菌細胞膜のシトシン透過酵素を介して細胞内に選択的に取り込まれた後,脱アミノ化されて5-フルオロウラシル(5-fluorouracil)となり,アミノ酸プールを妨げ蛋白合成を阻害,またチミジル酸合成酵素を阻害してDNA合成を阻害することで,抗真菌作用を示す.

キャンディン系

著者: 浜田幸宏

ページ範囲:P.415 - P.415

ミカファンギン(micafungin:MCFG)

◎作用機序

 真菌細胞壁の主要構成成分である1,3-β-D-glucanの生合成を非競合的に阻害する.

抗ヘルペスウイルス薬

著者: 森玄

ページ範囲:P.416 - P.417

アシクロビル(aciclovir:ACV)

◎作用機序

 Herpes simplex virus(HSV)▲38やVaricella zoster virus(VZV)▲38が感染した細胞内でリン酸化され,アシクロビル三リン酸(aciclovir triphosphate:ACV-TP)となり,ウイルスDNAの3’末端に取り込まれてウイルスDNAの複製を阻害する.

抗インフルエンザウイルス薬

著者: 森玄

ページ範囲:P.418 - P.421

オセルタミビル(oseltamivir)

◎作用機序

 ヒトA型およびB型Influenzavirus▲39のノイラミニダーゼを選択的に阻害し,新しく形成されたウイルスの感染細胞からの遊離を阻害することにより,ウイルスの増殖を抑制する.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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