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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術47巻10号

2019年10月発行

雑誌目次

病気のはなし

慢性膵炎

著者: 渡邉智裕 ,   三長孝輔 ,   工藤正俊

ページ範囲:P.1160 - P.1165

Point

●慢性膵炎は膵臓に慢性の炎症性変化と線維化をきたす不可逆性の病態であり,過剰なアルコール摂取が主な成因です.

●病態の進行に応じて,膵臓の外分泌機能と内分泌機能が障害されます.

●慢性膵炎の存在は膵癌発症の重要な危険因子であり,慢性膵炎患者では膵癌の合併の有無について注意深い経過観察が必要です.

●病態生理の理解に基づく治療法は存在しないため,禁酒を含めた生活習慣の改善が必須です.

技術講座 病理

液状化検体細胞診(LBC)

著者: 香川昭博

ページ範囲:P.1182 - P.1186

Point

●液状化検体細胞診(LBC)法は人為的塗抹不良による検体不適正(乾燥,厚塗り,塗抹ムラ)を防止できます.

●フィルター法と重力自然沈降法で原理の違いによる弱点があります.

●従来の直接塗抹法に比較して,LBC法では細胞の見え方が異なります.

●LBC法では標本作製後,保存液に残った細胞を2次利用することができます.

生化学 シリーズ 生化学検査の基本・2

肝機能検査

著者: 山田俊幸

ページ範囲:P.1188 - P.1193

Point

●肝臓の病態ごとに検査項目を理解しましょう.

●細胞傷害はアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST),アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT),乳酸脱水素酵素(LD)が指標になります.

●合成能低下の指標はアルブミン(Alb),コリンエステラーゼ(ChE),総コレステロール(TC)で,重症化するとプロトロンビン時間(PT)の延長が予後に関係します.

●胆汁うっ滞の指標は,抱合ビリルビン(Bil),アルカリホスファターゼ(ALP),γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GT)で,ALPとγ-GTは異常となる頻度が高いです.

●肝不全になると,アンモニアが上昇し,非抱合Bil優位の黄疸となります.

●線維化(肝硬変)では,血小板減少がみられ,γ-グロブリンがポリクローナルに増加します.

生理 シリーズ 超音波による血管病変の標準的評価法・1

—step up編—頸動脈

著者: 小谷敦志

ページ範囲:P.1194 - P.1199

Point

●「超音波による頸動脈病変の標準的評価法2017」の従来からの主な改訂点を理解しておこう.

●スクーリング検査手順が記載された.脳血管イベントに関するエビデンスを有している評価項目を必須とし,スクリーニング検査における検査のフローを考案した.

●プラーク・狭窄評価におけるフローチャートが記載された.ここには,注意すべき(要注意)プラークなどを含めた,速やかな対応を必要とする評価項目が採用された.

●プラーク内部の性状評価では,音響陰影を伴うプラークを石灰化プラーク,音響陰影の伴わない高輝度のものは,等輝度不均質型プラークに分類される.

●プラーク内部の輝度分類では,プラーク全体における低輝度病変の領域に関係なく,少しでも低輝度病変が存在すれば低輝度不均質型プラークとして分類する.

トピックス

抗菌薬適正使用支援加算

著者: 髙橋孝

ページ範囲:P.1166 - P.1169

AS加算が設定されるまでの経緯

 2018年度診療報酬改定1)では,薬剤耐性(antimicrobial resistance:AMR)対策を推進することを目的として,抗菌薬適正使用支援(antimicrobial stewardship:AS)という観点に基づき,感染防止対策加算が見直された.すなわち,“AS加算”(100点,入院初日)が導入され,院内にASチーム(AS team:AST)を設置することが求められている.ASとは,主治医が抗菌薬を使用する際,①個々の患者に対して最大限の治療効果を導くとともに,②有害事象をできるだけ最小限にとどめ,③いち早く感染症治療が完了するために,医師・薬剤師・臨床検査技師・看護師といった4職種の連携を介して主治医の支援を行うことである2).ASTは専任の4職種で構成され,内1名は専従と規定されている.臨床微生物検査を担当する臨床検査技師は3年以上の病院勤務経験が必要となる.

 AS加算が設定されるまでの経緯を表1に示す.耐性菌による感染症患者の増加に伴い,2050年に脅威的に同死亡者数が増加すると想定(オニールレポート)され3),世界保健機関がグローバルなAMR対策アクションプランを提唱した4).日本5)や他国もナショナルAMR対策アクションプランを公表し,その後日本では「抗菌薬適正使用支援プログラム実践のためのガイダンス」2)や「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告2017」6)が報告された.ワンヘルス(図1)という考え方は人,動物(伴侶動物・食用動物・野生動物など),それを取り巻く環境(植物・土壌・河川など)を地球規模で包括し,維持していく健康管理を意味している7).注意すべきことは,人,動物,環境といった分野に対して薬剤や物質(抗菌薬・動物用抗菌性物質・植物用抗菌性物質など)が投与され,耐性菌が循環しているという点である.そして,AS加算や小児科診療でのかぜ症候群に対する抗菌薬不使用への加算である“小児AS加算”設定1)へと至った.

CAR-T細胞療法

著者: 影山愼一

ページ範囲:P.1170 - P.1172

TCR-T細胞とCAR-T細胞

 遺伝子改変T細胞療法には,T細胞受容体(T-cell receptor:TCR)遺伝子導入T(TCR-T)細胞とキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)遺伝子導入T(CAR-T)細胞とがある.ともに患者自己リンパ球を拡大培養しながら,ウイルスベクターなどを用いる遺伝子導入技術により受容体遺伝子をT細胞に導入し,再び患者に輸注する細胞療法である1)

 TCR-T細胞は通常ヒト白血球抗原(human leukocyte antigen:HLA)に提示された細胞内抗原に由来するペプチドを認識し,CAR-T細胞は細胞表面抗原を抗体可変部の単鎖部が認識するものである.したがって,TCR-T細胞とCAR-T細胞は認識抗原が異なること,HLA拘束性がCAR-T細胞にはないこと,抗原認識の親和性が異なること,など特性の相違がある(図1).

FOCUS

家族性高コレステロール血症—超音波によるアキレス腱厚計測の有用性

著者: 小倉正恒 ,   道倉雅仁 ,   斯波真理子

ページ範囲:P.1174 - P.1177

はじめに

 家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH)は著明な高LDLコレステロール(low-density lipoprotein cholesterol:LDL-C)血症,アキレス腱肥厚をはじめとする黄色腫,若年性冠動脈疾患を特徴とする遺伝性代謝疾患である.FHは冠動脈疾患の罹患頻度が極端に高く,その発症年齢が通常より15〜20歳若いことから1),早期診断と適切な治療による動脈硬化症の発症および進展の予防が重要である.FHヘテロ接合体は200〜500人に1人の高頻度で認められ,わが国だけでも30万人以上存在する.急性冠症候群患者の5〜10%がFHであるという報告も散見されることから2),公衆衛生上,わが国の循環器疾患において最も重要な基礎疾患の1つといえる.

 FHの早期診断率が低いために心筋梗塞を発症して初めて診断される症例が多いこと,またFHと診断されないために適切な脂質低下治療を受けていない患者も多いこと,さらに家族スクリーニングが不十分なために本来であれば予防できるFH患者の家族の心血管イベントを阻止できていないことは極めて重要な課題であり,具体的な改善策を講じる必要性に迫られている.本稿では,FHの診断やリスク評価に有用なアキレス腱エコーについて解説する.

バイオバンクを介した臨床検体の研究利用

著者: 森田瑞樹

ページ範囲:P.1178 - P.1180

はじめに

 医療施設では日々多くの検体検査が実施され,その残余は一定期間の保管の後に廃棄されている.世界中で毎日廃棄されている検体の量は膨大である.一方で,こうした臨床検体の研究での利用ニーズは高まっており,新しい治療や検査の創出に役立てられることが期待されている.臨床検体の研究利用を支援するための枠組みとして,世界中でバイオバンクが設立・運営されている.本稿では,バイオバンクの機能と課題について述べ,課題の解決策の1つとしてのオンデマンド型バイオバンクを紹介する.

過去問deセルフチェック!

微生物学

ページ範囲:P.1193 - P.1193

 過去の臨床検査技師国家試験にチャレンジして,知識をブラッシュアップしましょう.以下の問題にチャレンジしていただいたあと,別ページの解答と解説をお読みください.

解答と解説

ページ範囲:P.1201 - P.1201

 国内における感染症の法律として,感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法),予防接種法,検疫法,食品衛生法などが挙げられる.その他,学校保健に関連するものとして学校保健安全法があるが,これには感染症法や予防接種法が関連する.感染症法のなかで対象疾患として定められている感染症は,感染力や罹患した場合の重篤性,公衆衛生上の重要性などから一〜五類感染症に分けられており,さらに必要に応じて期間を限定して指定する“指定感染症”や新たな感染症が発生した場合の“新感染症”などが定められている.一〜四類感染症は全て直ちに届け出が必要である.

 一類感染症とは総合的な観点からみて危険性が極めて高い感染症で,患者,疑似症患者および無症状病原体保有者について入院などの措置を講ずる必要がある.現在,次の7疾患が定められている.エボラ出血熱,クリミア・コンゴ出血熱,痘瘡,南米出血熱,ペスト,マールブルグ病,ラッサ熱の7つである.

疾患と検査値の推移

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症,後天性免疫不全症候群(AIDS)

著者: 戸田祐太

ページ範囲:P.1202 - P.1210

Point

●HIV感染はヒト免疫不全ウイルス(HIV)というウイルスへの持続感染を表す用語で,HIV感染者のうち免疫低下のために,後天性免疫不全症候群(AIDS)指標疾患(23種類の日和見感染症)を合併した患者をAIDS発症患者と呼ぶ.

●日本では,HIV感染者およびAIDS患者の新規報告数は,2007年頃をピークに横ばい〜やや減少傾向となっている.感染経路は,当初は血液製剤による感染が主体であったが,1990年以降は性感染症,特に同性間の性的接触による感染が拡大し,いまでは約70%以上を占めている.

●HIV感染症の臨床病期は,急性感染期・無症候期・AIDS発症期に大別される.急性感染期または無症候期に診断され,早期に治療開始されれば,高い免疫力を維持できるため,無症状のままの生活を継続し,非感染者と同等の余命が期待できる.

●HIV診療に重要な検査数値として,CD4陽性リンパ球(CD4)数とHIV RNA量(ウイルス量)があり,CD4数が免疫機能の指標として重要である一方,ウイルス量は治療薬の効果判定に重要である.

臨床検査のピットフォール

大動脈弁狭窄症におけるドブタミン負荷心エコーでの評価の注意点

著者: 山下英治

ページ範囲:P.1212 - P.1217

はじめに

 大動脈弁狭窄症(aortic stenosis:AS)の重症度診断は通常は経胸壁心エコー検査でなされるが,低流量低圧較差重症大動脈弁狭窄(low-flow low-gradient severe AS:LFLG-SAS)の診断は実臨床において難渋することが多く,ドブタミン負荷心エコー(dobutamine stress echocardiography:DSE)やCT・MRI,その他のマルチモダリティを併用する必要がある.

 本稿ではAS症例の重症度診断における基本的事項と,LFLG-SASに対するDSEの有用性,およびDSEによる評価の際の注意点,特に左室流出路狭窄について症例を挙げて解説する.

臨床医からの質問に答える

亜急性甲状腺炎とバセドウ病の超音波画像での違いはなんですか?

著者: 白石周一

ページ範囲:P.1218 - P.1221

病態の違い

 亜急性甲状腺炎は,炎症による甲状腺濾胞の破壊が起こり,甲状腺ホルモンが急激に血液中に流出することで,一過性に甲状腺機能亢進状態を呈する疾患です.亜急性甲状腺炎の病因としてはウイルスの関与が疑われており,感冒様症状に引き続いて発症することが多く,2〜3週間後に高熱や頸部痛が出現します.甲状腺は片側性の腫大を認めることが多く,腫大部に一致して圧痛がみられます.炎症は一方の側葉から対側の側葉へと波及することがあり,これをクリーピング現象と呼びます.すなわち甲状腺病態の発症初期は片側性変化を呈します.

 一方,バセドウ(Basedow)病では,複数の遺伝要因と環境要因により,甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone:TSH)と結合する受容体(TSH受容体)に対する自己抗体である抗TSH受容体抗体(TSH receptor antibody:TRAb)が産生され,この抗体がTSHの代わりにTSH受容体を過剰に刺激することで,甲状腺ホルモンが多量に分泌されます.バセドウ病の典型症状として,甲状腺機能亢進症に伴ったMerseburgの三徴(甲状腺腫大,眼球突出,頻脈)の他に,多汗や体重減少などがみられます.すなわちバセドウ病の典型像は甲状腺のびまん性腫大を呈します.

ワンポイントアドバイス

石綿小体計測検査法

著者: 田中真理

ページ範囲:P.1222 - P.1223

はじめに

 石綿(アスベスト)関連疾患としては中皮腫が代表的であるが,肺癌は喫煙をはじめとする多くの原因で発症するため石綿による肺癌の認定には,石綿曝露量を客観的に推定する必要がある.本稿ではその背景や検査法などについて紹介する.

Q&A 読者質問箱

HBs抗原弱陽性時にHBs抗原を再測定すると値が変わってしまうことがありますが,どうしてでしょうか.

著者: 古村菜穂子

ページ範囲:P.1224 - P.1225

Q HBs抗原弱陽性時にHBs抗原を再測定すると値が変わってしまうことがありますが,どうしてでしょうか.

A ご質問のようなケースの大部分は,偽陽性反応が疑われる弱陽性例と考えられます.したがって本稿では,HBs抗原が弱陽性の場合を中心としてその対処法や注意点について述べていきます.HBs(hepatitis B surface)抗原はB型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)粒子の表面に存在する蛋白質です.血液中に小型球形粒子や管状粒子として単独の形でも存在し,感染の有無を調べるためのスクリーニング検査として広く用いられています.検査方法としてはイムノクロマト法,凝集法,酵素抗体法などがあり,昨今ではCLEIA(chemiluminescent enzyme immunoassay)法やCLIA(chemiluminescent immunoassay)法などの精密測定が広く普及しています.

連載 帰ってきた やなさん。・3

筒の中は戦場なんだ!

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.1227 - P.1227

 「あ…ちょ…息がっ…ぐっぶをぉ!」.最大時速360kmの風を生身で受けるとは,こういうことなのかぁ! そう,今回はインドア・スカイダイビング! まず受付時にお決まりの「何が起きても補償しかねる!」的な誓約書にOKサインするのだが……何も起きないだろうけど,急に不安になるよね.こういう誓約書って……ね.

 その後,姿勢レッスンが始まる.「腕は前で三角形を作り,足はつま先までピンと伸ばして,背は反らせる……」と唱えながら,台の上でインストラクターにやってみせる.「はい♪ パーフェクトです!」とテンションMAXのインストラクター.本当に大丈夫なのだろうかと不安になる.次にスーツとヘルメットを選ぶのだが,「フルフェイスのヘルメットでなくても,大丈夫ですよ〜」とインストラクター.「だったら,顔が見えるほうが,画像的にはいいよね」とフルフェイスではないヘルメットを選択した.これが全ての誤りだった.

生理検査のアーチファクト・28

—呼吸機能検査③—設定方法による影響

著者: 佐野成雄

ページ範囲:P.1228 - P.1231

こんなアーチファクトを知っていますか?

 図1(左図)は肺活量測定波形である.図1a(症例1)は気速型スパイロメータで測定した結果で,前回(1年前)比し,%VC(vital capacity)が1.5倍に増加している.患者によると,前回検査時より今回まで,症状および治療は特に変化はなかったとのことであった.図1b(症例2)は気量型スパイロメータで測定した結果で,オーダ医師のコメントに「間質性肺炎で3週間前より治療を開始しており,血液所見,画像所見ともに好転している.呼吸機能検査を精査願いたい.なお,治療開始前の前医での%VCは81.4%でした」と入力されていた.検査時の患者への質問でも,「だいぶん楽になった」との回答であった.しかし,今回の%VCの結果は前回よりも低値であった.では,なぜこのような結果が現れるのだろうか?

Laboratory Practice 〈生理〉

脳波検査における開閉眼賦活法

著者: 小野澤裕也

ページ範囲:P.1232 - P.1237

はじめに

 脳波検査の基本は安静・覚醒・閉眼状態での記録であるが,その状態では全く異常を認めないか,ごく軽度の異常しかみられないことも多い.そこで,賦活法を行うことにより,安静状態では明らかでない異常脳波の検出や生理的変化の観察を行う.日本臨床神経生理学会の検査指針では,開閉眼,閃光刺激,過呼吸,睡眠の4種類の賦活を行うことが望ましいとされている1)

ラボクイズ

輸血検査

著者: 石原沙紀

ページ範囲:P.1240 - P.1240

8月号の解答と解説

著者: 河井貴行 ,   村野武義

ページ範囲:P.1241 - P.1241

書評

検査値を読むトレーニング—ルーチン検査でここまでわかる

著者: 米川修

ページ範囲:P.1173 - P.1173

簡便に実施できる基本13項目で完結したRCPC

 現在,購入者が極めて限られているはずの医学書が数多く出版されている.検査関係の書籍もしかり.同年卒業の本田孝行先生と私の頃とは隔世の感がある.

 数多の書籍から読むに値する検査の本を探し出す検査法が必要なほどである.多くは似たような内容,構成であり実際の選択に迷う.一冊手に取ってみよう.その書籍を読了した後に見える景色はいかがなものであろうか? 果たしてもう検査で悩むことはない自分を具体的にイメージできるだろうか?

今すぐ知りたい! 不妊治療Q&A—基礎理論からDecision Makingに必要なエビデンスまで

著者: 吉村泰典

ページ範囲:P.1181 - P.1181

不妊治療の現在を捉え,実践するための必読書

 生殖とは,生命体がこの世に現れて以来,連綿と繰り返してきた生命の保持を目的とした極めて重要な行為である.ヒトは生殖により次世代を産生し,個体の死を超えて存在することを可能にしている.近年の生殖医学の進歩には目覚ましいものがあり,生殖現象の解明のみならず,ヒトの生殖現象を操作する新しい技術も開発されている.とりわけiPS細胞や核移植胚由来のES細胞による配偶子再生は,今後の生殖医学や医療の展開にブレークスルーをもたらしてくれるかもしれない.少子化とも相まって,今後生殖補助医療によって誕生する子どもは増えるであろう.新しい医療技術を社会はどのように受け止め,家族としてどのように子どもを受け入れ,育てていくのか,あらためて問題となってくるであろう.

 このたび東医大教授の久慈直昭先生,レディースクリニック京野理事長の京野廣一先生の編集により,『今すぐ知りたい! 不妊治療Q&A—基礎理論からDecision Makingに必要なエビデンスまで』が医学書院より上梓された.本書においては,各専門家の長年の臨床経験に基づいた創意工夫や注意点がQuestion & Answer形式で記載されており,日常臨床における疑問を解決する趣意で草されている.多岐にわたる生殖補助医療技術について,いずれも臨床現場の最前線でご活躍の先生方が執筆されており,適応と限界,方法,治療成績,そして副作用や合併症対策に至るまで,極めて明快に論述されている.生殖医療の現場に携わっておられる先生方によって,日常臨床で遭遇する問題ばかりが選ばれており,明日からの治療に役立つプラクティカルな書であり,類書をみない.さらに,生殖医療を実践しようとしている医師へのメッセージが随所に込められており,まさに衣鉢を伝えるための書ともいえる.臨床の現場で本書を携えることで,実践を通して得た知識を整斉するためにも役立てていただきたい.また,生殖医療専門医,一般不妊治療に携わる医師,看護師から胚培養士をめざしている若い諸君に至るまで,clinical expertiseを高める意味でぜひとも活用を祈ってやまない.

プロメテウス解剖学 コア アトラス 第3版—坂井建雄(監訳),市村浩一郎,澤井 直(訳)

著者: 野田泰子

ページ範囲:P.1200 - P.1200

理想形に到達したといえる改訂

 『プロメテウス解剖学 コア アトラス』は,21世紀に入り新たに作成された解剖学アトラス「プロメテウス解剖学アトラス」3分冊より,特に学生教育を意識して創られた.本シリーズは,当初より図版の美しさが話題となり,欧州で数々の賞を受賞し,今や独語から英語や日本語などにも翻訳され全世界に広まっている.

 まず第1の特徴である図版の完成度については,最新のコンピュータグラフィックスを駆使して作成される図版は,本書でも健在である.部位によるばらつきの少ない統一された仕上がりは,実物に近い質感を備えながら,かつ強調されるべき構造をきちんと伝え,より「リアル」が実現されている.従来の描き手の思いが伝わるデフォルメを最小限としたことで,かえって初学者は自然な形で人体の理解が進められる.

内科救急で使える!—Point-of-Care超音波ベーシックス[Web動画付]

著者: 谷口信行

ページ範囲:P.1238 - P.1238

動画が豊富に付いた読んでいてわくわくする超音波検査の本

 本書は,カラーな上に,図や写真が多くてわかりやすく読んでいてわくわくする超音波検査の本である.その疾患の超音波検査を試みたことのある方であれば,臨床の状況と必要な検査を想定できる記述となっている.動画が豊富に付いているのもいい.超音波検査を扱った書籍は静止画のみで構成されたものが多いが,本書はQRコードにより手元のスマートフォン,タブレットですぐに動画を見ることができる.

 タイトルになっているPoint-of-Care超音波(POCUS)は,研修医だけでなく,内科・外科をはじめとする多くの臨床医にとって,診療に役立つものである.研修医であれば,現場でPOCUSを行うことで,後に自分で行わなければならない検査のハードルをだいぶ下げることができるだろう.研修医が修得すべき手技は数多くあるが,中でもPOCUSはその場で検査を行うことができ,安心して次の診療ステップに進むことができる.ちなみに,POCUSにおいて最近注目を集めているのは肺エコーであり,これは救急や在宅の場面で,肺炎などの肺疾患に加え,左心不全の診断に役立つものである.

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目次

ページ範囲:P.1158 - P.1159

医学書院ウェブサイトをご利用ください

ページ範囲:P.1217 - P.1217

「ラボクイズ」解答/読者アンケートFAX

ページ範囲:P.1239 - P.1239

あとがき・次号予告

著者: 矢冨裕

ページ範囲:P.1244 - P.1244

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックまであと1年を切った7月末にこのあとがきを書いています.本号がお手元に届くころは,ラグビーワールドカップ2019日本大会で,きっと,日本中が盛り上がっているのではと思います.もともと,日本に在住する外国人,さらには,旅行やビジネスで来日する外国人は着実に増加し,外国人患者の医療ニーズは増していましたが,今後,適切な国際診療の必要性は高まる一方と思います.検査現場においても,生理検査,採血室などで,文化・習慣が異なる外国人患者への適切な対応が求められますし,さらには,検査の内容においても,感染症関連をはじめとして特化したものが求められると思います.検査に携わる者にとっても,国際診療という観点はますます重要となり,今後の本誌の紙面構成を考えるうえで,考慮していきたいと思います.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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