Laboratory Practice 〈遺伝子〉
適切な遺伝子関連検査実施のための留意点(前編)
著者:
林邦彦
ページ範囲:P.156 - P.161
はじめに
近年,分子生物学的解析技術の進歩により,ますます膨大な遺伝情報が蓄積されてきた.そしてゲノムや遺伝子情報の活用が進み,それらの情報を利用した製品開発は,医薬品,診断薬・診断情報サービス,食品などさまざまな分野で行われ,われわれはさまざまな恩恵を受けている.それに伴い,遺伝子関連検査における標準化や精度保証についても求められる時代を迎えている.また,2018年12月1日の法改正の施行により,検体検査の分類において「遺伝子関連・染色体検査」と明確に位置付けられ,さらに遺伝子関連検査は“病原体核酸検査”,“体細胞遺伝子検査”,“生殖細胞系列遺伝子検査”と分類・定義されている(表1)1).
遺伝子関連検査における測定結果の精度保証としては“測定前プロセス”,“測定プロセス”,“測定後プロセス”の各工程の品質が重要視されている.特に,測定前プロセスにおける作業要因は測定精度に最も大きく影響を与えるとされている.それは検査室の環境・設備や消耗品・備品,手技なども含まれるが,検体の採取・保存・搬送・前処理・核酸抽出などが関与する(図1)2).現在では前処理や核酸抽出の工程はキット化や自動化が進み,いわゆる“ブラックボックス化”しつつある.しかしながら,検体を扱う場合はまだまだ用手法であることが多く,手技として基本操作の習得が重要である.それは実際の遺伝子操作の工程においてエアロゾルの発生が伴うため(表2)3),それらをいかに意識し最小限度に抑えるかやコンタミネーションを防止するための操作をいかに行うかが重要である.それによって,偽陽性・偽陰性の発生防止やバイオセーフティの観点からの感染防止などにつながる.
そこで今回,遺伝子関連検査の適切な実施のための留意点について,前編・後編に分け,具体的な器具や検体処理の例を挙げて説明する4).