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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術49巻5号

2021年05月発行

雑誌目次

病気のはなし

感染性心内膜炎

著者: 仲松正司

ページ範囲:P.544 - P.548

Point

●感染性心内膜炎は,心臓の内腔を覆う内膜表面に生じる感染症で,通常は弁の表面に生じることが多い.

●代表的な原因微生物は黄色ブドウ球菌,緑色レンサ球菌,腸球菌である.

●診断では修正Duke基準(modified Duke Criteria)が用いられる.

●患者背景(自然弁か人工弁か),原因微生物により標準的な治療薬や治療期間が定められている.原因微生物を同定することが非常に重要である.

●外科的治療の必要性を検討する.

技術講座 微生物

グラム染色

著者: 木村由美子 ,   栁原克紀

ページ範囲:P.570 - P.575

Point

●脱色操作前に余分な水分が残っていると,脱色液が薄められ脱色が増強されます.その結果,グラム陽性菌を陰性菌と見誤ることにつながります.

●染色された塗抹標本は,まずは弱拡大(100倍)で全視野を観察し,検体の質(感染症診断に適しているか否か)を観察することが必要です.

●所見を解釈していくうえで重要なことは,それぞれの検体からよく検出される原因菌ならびにその菌の特徴を念頭に置きながら観察することです.

●白血球の出現(多核か単核か)や繊毛上皮細胞など,菌だけでなくグラム(Gram)染色像の背景からも有益な情報を得ることが可能です.

—step up編—接合菌の特徴と鑑別方法

著者: 仁木誠

ページ範囲:P.593 - P.597

Point

●接合菌症の起因菌はRhizopus spp.が約半数を占め,次いでMucor spp.およびLichtheimia spp.の頻度が高い.

●接合菌症は多くの場合,血液悪性疾患,移植後など免疫能が低下した患者に発症し,免疫不全症例に発症した場合には予後は極めて不良となる.

●有効な治療薬が限られており,抗真菌薬投与中に発症するブレイクスルー感染症にも注意を要する.

●同定の際には胞子囊の形状やアポフィシスの有無,胞子囊柄の分岐の有無,仮根の有無と位置などについて注意深く観察する.

血液 シリーズ 悪性リンパ腫におけるフローサイトメトリー・2

成熟NK/T細胞悪性リンパ腫解析

著者: 林田雅彦

ページ範囲:P.576 - P.584

Point

●成熟T/NK細胞リンパ腫のフローサイトメトリー(FCM)解析には,臨床所見,検査所見,細胞所見から大まかに病型を推測してスクリーニング抗体パネルを選択します.

●FCM解析は,まずT/NK細胞マーカーの発現動態などでunusual cell populationを検出し,T細胞系のクロナリティーの判定にはTCR-Vβレパトア解析を利用します.

●FCM解析にてT/NK細胞,CD4/CD8細胞,CD45RA/CD45RO,TCRαβ/TCRγδの鑑別をします.

●病型特異的とされるマーカーには絶対的なものは存在せず,腫瘍性の判断も含めて解釈は十分な注意を払います.

生理

導出18誘導心電図—小児先天性心疾患領域への応用

著者: 垣本信幸

ページ範囲:P.586 - P.591

Point

●導出18誘導心電図検査は,標準12誘導心電図検査の電極で右側胸部誘導,背部誘導を演算処理して導出する検査法である.

●小児では導出右側胸部誘導心電図が,実際の右側胸部誘導心電図検査の代わりに右室肥大の診断に使用することができる可能性がある.

●導出18誘導心電図検査は,小児領域では現時点では報告が少なく,確立された検査法ではないが今後の発展が期待される.

トピックス

5-アミノレブリン酸蛍光染色による癌細胞の検出,細胞診への応用

著者: 三村明弘

ページ範囲:P.550 - P.553

はじめに

 5-アミノレブリン酸(5-aminolevulinic acid:5-ALA)は1987年にMalikら1)によって報告された内因性ポルフィリン物質で,ヘムの前駆物質である.5-ALAは腫瘍細胞内に能動的に取り込まれ,ミトコンドリア内で蛍光物質であるPpⅨ(protoporphyrin Ⅸ)に返還される.腫瘍細胞内ではferrochelatase活性の低下によりPpⅨが大量に蓄積するため,腫瘍細胞は赤色の蛍光を発光する.現在,多くの癌症例を対象に5-ALA蛍光染色が診断・治療に試行されるようになってきている.

 自然尿検体における5-ALA染色法については藤本ら2)の報告があるが,筆者ら3)は,藤本らが用いた蛍光細胞診の方法を改変し,5-ALA染色変法(以下,本方法)を考案した.まず膀胱癌について自然尿細胞診を対象に検討し,細胞診診断上の有用性を確認した.次いで本方法を腎盂・尿管カテーテル尿に応用し,その細胞診診断上の有用性を検討し一定の成果を得た3).また,本方法を胆管擦過細胞診材料に応用し,細胞診の診断能を一定程度向上させ得た4)

 本稿では,筆者らの報告3,4)を通して,本方法の有用性について紹介する.

流体力学から見る心筋梗塞

著者: 山本匡

ページ範囲:P.554 - P.557

はじめに

 “人生とは,川の流れのごとく”という文言をどこかで聞いたことがあるだろう.人生とまでは語れないが,動脈の加齢は川の流れのごとくという話をここでさせてもらいたい.筆者は循環器科を専門としている医師であるが,その視点は血管内皮に向けており,さまざまな物質と血流が織りなす物理的かつ化学的な反応を加齢として捉えている.物理的なことは,血圧や血液粘性などがそれにあたり,化学的なことは炎症反応などを指している.この物理的な糸と化学的な糸が織りなす世界が生物を形成しているのではないかと考えている.動脈硬化疾患とは,まさにこの典型例であり,本稿では物理的視点に立ち心筋梗塞を紐解いてみたいと思う.

FOCUS

在宅医療における臨床検査技師のかかわり

著者: 小針幸子

ページ範囲:P.558 - P.560

はじめに

 日本は超高齢社会を迎え,在宅医療のニーズは高まっている.さらに,新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)の感染拡大により,病院が外来診療や入院の制限をする事態に陥り,また患者自身も医療機関の受診を避けるケースが見受けられることから,在宅医療の重要性はますます増加することが予想される.

 在宅医療は,家族・介助者などの助けを借りないと通院ができない患者を対象に,定期訪問診療と往診,さらに電話対応を行い,疾病の増悪予防から急性期対応,そして看取りまで,在宅療養のサポートを行っている.在宅医療といえば,癌患者を中心とした看取り医療というイメージもあるが,一方で生活の場で急性増悪と緩解を繰り返す心不全患者にとっても,症状の増悪や再入院を予防することのできる,新たな形の医療であると考える.そして,在宅における臨床検査もまた,病態把握や治療方針を決めるうえで重要な役割を担っており,在宅医療において必要不可欠なツールとなっている.

真菌に魅せられて

著者: 槇村浩一

ページ範囲:P.562 - P.568

はじめに

 わが国の日常臨床で遭遇する微生物のなかで,真菌はとりわけ多様であり,またおのおのユニークな美しい形態(通常“顔”と表現する)を楽しめる病原体である.そのうえ,真菌は病原体としても,有用,または環境微生物としてもわれわれに最も身近な存在に違いない.

 けれども不思議なことに,真菌(カビ,酵母,およびキノコ)については,初等中等教育のみならず,専門的にも十分な教育がなされることもなく,わかったようでありながらほぼ理解されていない生物群であるのも事実である.わが国のみならず国際的にも,多くの病原微生物学の教科書をひもとくと,真菌の記載のみが微生物学的な分類学に基づいたものではなく,“深在性真菌症原因菌”,“表在性真菌症原因菌”,および“深部表在性真菌症原因菌”などといった,疾病からの視点に基づいていることにお気づきだろうか? なぜか医真菌学だけが,微生物学ではなく感染症学・皮膚科学の視点で議論されている.

 この状況は基礎医真菌学研究者としては甚だ残念なことであるので,遅まきながら本稿では,手始めに,いままでスポットライトが当てられてこなかった微生物としての“真菌”を博物的に楽しみ,親しみ,理解するための方法をいくつか提示したい.

過去問deセルフチェック!

ウイルスと疾患

ページ範囲:P.561 - P.561

 過去の臨床検査技師国家試験にチャレンジして,知識をブラッシュアップしましょう.以下の問題にチャレンジしていただいたあと,別ページの解答と解説をお読みください.

解答と解説

ページ範囲:P.605 - P.605

 ウイルスとその疾患名は頻出問題である.主なウイルス性疾患を表1にまとめるので整理しておきたい.

疾患と検査値の推移

ネフローゼ症候群

著者: 小島智亜里 ,   下澤達雄

ページ範囲:P.598 - P.604

Point

●ネフローゼ症候群は,腎糸球体障害による蛋白透過性亢進に基づく大量の尿蛋白と,これに伴う低蛋白血症を特徴とする症候群である.

●蛋白尿3.5g/日(または尿蛋白/尿クレアチニン比3.5g/gCr)以上が持続し,血清アルブミン3.0g/dL以下の低アルブミン血症を伴う.

●明らかな原因疾患がないものを一次性,原因疾患をもつものを二次性に分類する.

●ネフローゼ症候群では,低蛋白血症から浮腫,脂質異常症,血液凝固異常,免疫不全,易感染性などを生じる.

●一次性ネフローゼ症候群の主な治療法はステロイド治療である.

臨床検査のピットフォール

血清Caの役割とその変動

著者: 加藤美咲

ページ範囲:P.606 - P.608

はじめに

 カルシウム(calcium:Ca)は生体内で最も多量に含まれる無機物であり,生命活動において重要な役割を果たしている.血清中のCa濃度は厳密にコントロールされているため,臨床検査においても高い精度が求められるが,変動要因も存在するため,その評価には注意が必要である.本稿では血清Caの役割や生体内での変動などについて概説する.

臨床医からの質問に答える

FASTにおけるfree echo spaceの見分け方について教えてください.

著者: 脇英彦

ページ範囲:P.610 - P.613

“FAST”って何?

 外傷の初期診療で用いられる簡易超音波検査をFAST(focused assessment with sonography for trauma)と呼びます.外傷に焦点を絞った超音波画像という意味です.

 目的は循環不全の原因となる心膜腔,右胸腔,左胸腔,脾臓周囲,ダグラス(Douglas)窩/直腸膀胱窩に出血などによる液体貯留がないかを迅速に確認することです.近年は超音波診断機器の画像の向上に伴い,腹腔内出血の診断も正確になってきました1)

ワンポイントアドバイス

心不全患者におけるL波の発現様式とその意義

著者: 正井久美子

ページ範囲:P.614 - P.615

はじめに

 心エコー図検査でパルスドプラ法を用いた左室流入血流速波形は,心不全診療において重要な評価項目である.通常は拡張早期のE波と心房収縮期のA波の二相性であるが,拡張中期,E波とA波の間に順行性のL波を認める症例がある(図1).正常例でも徐脈の際にL波を認めることがあるが,心不全患者におけるL波の意義と発現様式について述べる.

Q&A 読者質問箱

小児のスパイロメトリーを適切に行う方法について教えてください.

著者: 高瀬真人

ページ範囲:P.616 - P.617

Q 小児のスパイロメトリーを適切に行う方法について教えてください.

A 呼吸機能検査として最も一般的なものがスパイロメーターを用いたスパイロメトリー(またはスパイログラフィー検査)であり,その検査結果として得られるグラフがスパイログラムです.「吸って」,「吐いて」などの声掛けが理解できて従うことができるようであれば,検査は可能です.しかし,肺活量を測るだけでなく,最大吸気位から最大呼気位まで一気に呼出する強制呼出曲線およびフローボリューム曲線を計測するには,対象者が手技を理解して精一杯の努力で協力してくれる必要があります.

オピニオン

地域に寄り添う検査室のあり方

著者: 三島清司

ページ範囲:P.618 - P.619

はじめに

 私が2020年3月まで39年間勤務していた島根大学医学部附属病院は,県内唯一の特定機能病院として高度医療の提供,地域医療の最後の砦としての機能の維持・推進,救急医療の充実,災害医療への対応を通じて,地域に愛され,貢献できる病院を目指してきた.こうしたなかで検査部として取り組んできた事例を紹介する.

連載 帰ってきた やなさん。・19

がんゲノム研究会始めました.

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.621 - P.621

 「がんゲノムの研究会立ち上げない?」と,私に遺伝子検査の基礎を叩き込んでくれた技師から連絡がきた.がんゲノム医療が始まって約2年が経過したが,“がんゲノム医療が認知されていない!”という想いからのお誘いだった.確かに,いまでもがんゲノム医療に携わっている技師の人口は相当少ない…….しかし,セミナーを開催すると参加者数はかなり多い.“業務専門外だが,知識は持っておきたい”という,技師の真面目な性格を感じたのを覚えている.セミナーも再開したいし「やりましょう!」と即答した.そうなると最初にやることは“仲間を集めること”だ.2人でそれぞれ“がんゲノム仲間”に声をかけることにした.

 立ち上げの誘いをしてくれた技師は,学会の役員をしていることもあり,“組織”を支える経験を持つ人材に声をかけていた.“類は友を呼ぶ”とはよく言ったもので,それは……私側にも言えた.私が懇意にしているがんゲノム技師は,激しくキャラが濃い.超シャイだけど超辛口キャラ,がっつり親分タイプ,真面目学者タイプ.でも,全員に共通するのは超が付くほどストイック.学者タイプの技師は「健全な精神は健全なる肉体に宿る」と言って,常にバッキバキに肉体を鍛えている(←女性だよ♥).どう考えても3人とも“集団で何かをする”ことに興味がなさそうだった.そして3人はわかっている……私から連絡がくるときは必ず“何かのお願い”であることを.「セミナーやる!講師やって」,「本出す!原稿書いて」といった無茶ぶりばかり.そろそろ「連絡してくるな」と怒られそうである.今回も「お願いがある」と連絡をした.すると,詳細を説明する前に「やなさんとなら,何でもやる」,「OK!」,「断る理由が見当たらん」と返信がきた……泣けた.

ラボクイズ

T-NHL

著者: 林田雅彦

ページ範囲:P.624 - P.624

4月号の解答と解説

著者: 林田雅彦

ページ範囲:P.625 - P.625

書評

医療者のための 成功するメンタリングガイド

著者: 青島周一

ページ範囲:P.620 - P.620

関係性の内で垣間見る学びの姿

 僕は書店が好きだ.書棚にずらりと並ぶ本の背表紙を眺めているだけで,新しい世界との出会いの予感に胸が躍る.装丁に惹かれた書籍を実際に手に取って,ゆっくりとページをめくってみると,紙面に並ぶ言葉たちを通じて自分の知らない景色を垣間見ることができる.手に伝わってくる本の重量は,それが大きなものであれ,小さなものであれ,重さを超えた概念の質量を宿している.

 一冊の本との出会いは,物の見方や考え方を大きく変えることがある.その変化の過程に能動性,あるいは主体性というような意識や感覚はなく,ただ自分と本との関係性だけが世界を編み変えていく.このような経験こそが質の高い学びを駆動する一つのきっかけなのかもしれない.

INFORMATION

第46回日本医用マススペクトル学会年会開催概要

ページ範囲:P.568 - P.568

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目次

ページ範囲:P.542 - P.543

『臨床検査』5月号のお知らせ

ページ範囲:P.541 - P.541

第67回臨床検査技師国家試験—解答速報

著者: 本誌編集委員会

ページ範囲:P.622 - P.622

あとがき・次号予告

著者: 横田浩充

ページ範囲:P.628 - P.628

 早いもので今年も3月に入りました.この1年,病院ならびに検査室では新型コロナウイルス対策,PCR検査体制の構築に奔走してきました.現在も全く収束する気配はありませんが,医療従事者に対するワクチンの先行接種が始まりました.ようやく一陽来復の兆しとなるのでしょうか.NEJM誌やLancet誌にはその有効性を示唆する結果が発表されていますが,私は未知数の部分大と感じています.皆さまはどのように感じていますでしょうか.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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