Laboratory Practice 〈精度管理〉
フリーソフトRを用いた統計解析—測定値の互換性に関する検討
著者:
岡本康幸
ページ範囲:P.781 - P.785
はじめに
臨床検査部門の業務において,同一項目の異なる試薬または異なる機器での測定値間の統計解析(相関・回帰,一致度)を行う機会は多い.特に,試薬や機器の変更・更新に際して新旧測定値の互換性・継続性を評価するうえで必須となる.ここで,測定値間の関係式を検討する場合,独立変数と従属変数を区別する通常の最小二乗法による回帰分析を使用するのは,回帰式に変数交換性がなく,適切ではない.したがって,いずれも誤差を伴う測定値間の関係式を求める場合,両変数が交換可能な回帰分析法を用いるべきである.その方法としては,parametric法とnon-parametric法があり,それぞれ,Deming法1,2)とPassing-Bablok(P-B)法2,3)が代表的な方法である.さらに,相関・回帰だけでなく,測定値の一致が望まれるような場合には一致度の検討も必要となり,この場合は主にBland-Altman(B-A)法4,5)が用いられる.
Deming法は,対応する測定値それぞれに正規分布する一定の誤差項を仮定する方法で,さらに重み付きDeming法では誤差項が一定でなく比例的であると仮定する方法である.P-B法は,分布を仮定せず散布図上の全ての2点間の傾きの平均を求める方法である.P-B法は,例数が比較的少ない場合への適用や外れ値の影響を受けにくいなどの特長がある.B-A法は,対応する測定値間の平均と差の関係をプロットする方法である.
これらの方法を実行する場合,専用のプログラムを用いる必要があるが,一般的な統計ソフトには含まれていないので,実施できていない施設も多いと思われる.そこで,統計分析フリーソフトR(https://cran.r-project.org/)を利用することを提案する.Rにはここで紹介した方法を実行するためのパッケージが全てそろっている.R環境の設定やパッケージのインストール方法はよく知られているので説明を省略する(文末の補足を参照)が,現在Windows版の最新バージョンとして,R 4.0が入手できる.データファイルは,全て1行目が項目名となるCSVファイルを用いることを前提とする.