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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術5巻11号

1977年11月発行

雑誌目次

病気のはなし

肺アスペルギルス症

著者: 渡辺一功

ページ範囲:P.806 - P.812

 肺真菌症は一般にはまれな疾患として,従来あまり関心がもたれていなかったが,近年この肺真菌症がいろいろな点で重要な位置を占めつつあることは周知のとおりである.以前より,特に肺アスペルギローム,肺放線菌症(肺アクチノミセス症)の報告はしばしばみられていたが,近年はこの諸種の真菌はむしろいわゆるopportunistic pathogen,または感作アレルゲンとしての重要性が問題となってきている.
 昨今の広域抗生剤,細胞毒性薬剤,免疫抑制剤,副腎皮質ホルモン剤の広範囲な使用ないし連用,肺結核治療後の遺残空洞,二次性嚢胞の発生,更に外科領域での肺手術,心臓手術,腎移植の晋及などはいずれも真菌症増加の原因となっているが,その発病の臨床的背景は決して一様でなく,その発生機序を一律に論ずることはできない.

技術講座 生化学

17-OS,17-OHCS

著者: 真重文子

ページ範囲:P.829 - P.832

17-OS(17-KS)
 17-oxosteroid(17-OS,従来は17-KSと呼ばれた)は,ステロイド骨格の17位にC=Oを有するC19-ステロイドの総称である.17-OSの主なものは,アンドロステロン,エチオコラノロン,デヒドロエピアンドロステロンで,その尿中濃度を表に示す.これら17-OSは副腎皮質と性腺(主に睾丸)由来に分かれ,その量比は男性では約2:1の割合である.女性では睾丸産生分だけ少ない量が分泌される.
 尿中17-OSの測定は副腎皮質,脳下垂体の機能障害,男性においては生殖腺機能障害を知るうえで非常に重要である.

血清

α-フェトプロテイン

著者: 中山昇

ページ範囲:P.833 - P.836

 α-フェトプロテイン(AFP)は,ヒト胎児正常血清成分の一つで,出生後は速やかに減少し,極めてわずかしか存在しない胎児タンパクである.このAFPがある種の癌,特に原発性肝癌患者血清中に高頻度に,かつ多量に出現する事実が,動物レベルではAbelev(1963)1),人間レベルではTatarinov(1964)2)らによって報告され,癌の免疫学的診断法という旧来の癌反応に代わって,科学的に裏づけされた新しい分野を開いた.その後,Kithier3),Uriel4)ら,また日本では平井5),遠藤6),平山7),向島8)らによって精力的な追試がなされ,AFPの検出が原発性肝癌の診断に役立つことを実証するとともに,今日の測定法の基礎を築いた.
 特に向島らは定量性のある一元免疫拡散法(SRID)を用いて,独自のプレートを開発し陽性率を上げるとともに,AFPの定量が原発性肝癌の病状経過,化学療法の効果判定,また手術後の予後判定にも役立つことを報告した9)

細菌

Haemophilus属の分離と同定

著者: 小栗豊子

ページ範囲:P.837 - P.840

 Haemophilus属はHaemophilic(血液成分を好む)な発育をすることから,和名で血好菌属とも呼ばれる.Bergeyの書(Bergey's Manual of Determinative Bacteriology,第8版)によれば本菌属には19菌種が記載されているが,人体に関係の深い菌種は表2に示した8菌種である.Haemophilus属中病原菌として重要なのはH. influenzae,H. aegorptius,H. ducreyi H. aphrophilusがあげられる.
 H. influenzaeの和名はインフルエンザ菌であるが,インフルエンザ患者の鼻咽頭よりしばしば検出されたことから,インフルエンザの病原体と誤って命名された(インフルエンザの病原体はインフルエンザウイルスである).H. inflecenzaeは呼吸器,耳由来材料より分離されることが多く,また小児の化膿性髄膜炎患者の髄液からも分離される.

病理

組織標本の作り方・6—鍍銀染色

著者: 山本悦子

ページ範囲:P.841 - P.843

1.細網線維染色
 結合織の中の細網線維と膠原線維とを区別するために普通行われているのは渡辺,PAPやBielshowskyなどの鍍銀法である.鍍銀法では膠原線維は淡赤紫色に染まり,黒色に染色される線維は細網線維,格子線維,好銀線維などと呼ばれる.銀粒子が細網線維に親和性のある性質を利用したものである.
 細網(好銀)線維は細網性結合組織内や脂肪組織の細胞を取り囲む上皮と結合織,筋肉と結合織,毛細管内皮と結合織などの境界部にある基底膜であり,大変緻密な線維で細網状〜格子状に配列している.細網線維はまた膠原線維と重なり合うように分布しているが,その境界は必ずしもはっきりしているわけではない.膠原線維の末端はしばしば細分化して,細い細網線維に移行する.細網線維のあるものはやがて膠原線維になっていくものと考えられる.脾,リンパ節,骨髄などの構成はこの細網組織であり,細網細胞の多くの細胞性突起が細網線維となり網状に絡みあっている.腫瘍の鑑別には欠かせない染色法の一つである.

一般

胃液検査法

著者: 坂野重子

ページ範囲:P.844 - P.850

 胃液は健常者においても,胃本来の分泌物である塩酸,ペプシン,粘液などのほかに,胃壁から剥離した細胞や漏出した血液成分,それに飲み込まれた唾液,鼻汁,喀痰成分,逆流した胆汁,膵液,腸液などが多少にかかわらず混在する.そして病的な状態にあっては,これらの成分が増減するだけではなく,特に低酸に加えて胃の排泄機能が低下するような時には,食物の胃内における消化,発酵,腐敗による二次的産物が加わり,胃液の組成は複雑多様に変化する.
 胃液検査は通常,胃分泌機能検査を目的に胃酸度測定を行うことを指すが,前述の事情から,胃前後の関連臓器疾患の情報源として,例えば肺の癌細胞,結核菌,寄生虫卵の検索などにも利用される.

測定法の基礎理論 なぜこうなるの?

ジアゾ反応による血清ビリルビンの分画定量の機序・2

著者: 金井正光 ,   上島一江

ページ範囲:P.813 - P.816

ジアゾ直接反応6
 カップリング試薬(前項参照)を含まない溶液中でのジァゾ試薬と血清「ビ」との反応が直接反応で,程度の差はあれ遊離型,抱合型「ビ」ともに反応し,両型「ビ」の反応度は反応液pH,試薬濃度,反応時間などにより大きく左右される.以下これらの点について,NosslinがJendrassik-Gróf変法*)によって検討したデータ6)を中心に説明する.

電気泳動

著者: 佐野紀代子

ページ範囲:P.817 - P.820

 電気泳動法が急速に実用化され普及しているのは卓越した分離能を示すからにほかならない,しかし現在電気泳動法には多くの種類があり,その使い方も実に多様である.この中から目的に合った電気泳動法を採択することが重要であることは述べるまでもない.それにはまず電気泳動法の基本的な理論を知ることが第一であろう.

白血球増多

著者: 溝口秀昭

ページ範囲:P.821 - P.824

 白血球増加症とは,末梢白血球数が一定数以上に増えた状態であって,増えている血球の種類や幼若度は問わない.成人では普通白血球数が1万/mm3以上の場合に白血球増加症と考え,その原因を調べる.
 白血球増加症の原因をさぐるうえで一番大切なことは,白血球のうちどの血球が増えているか,どの成熟段階の血球が増えているかを調べることである.増えている血球の種類によって,表1に示すように顆粒球増加症,単球増加症,リンパ球増加症に分けられる.顆粒球増加症は更に好中球増加症,好酸球増加症,好塩基球増加症に分けられる.単球も顆粒球の一部と考え,その増加を顆粒球増加症に入れる場合もある.なお白血球数に各血球の百分率をかけ各血球の絶対数を算定して,どの血球が増えているかを判断する.個々の血球の増加を起こす疾患については成書を参照されたい.

読んでみませんか英文論文

B型肝炎抗原:知見の進歩が活発に(総説)

著者: 河合式子 ,   河合忠 ,  

ページ範囲:P.825 - P.826

 多年にわたり,ウイルス肝炎とその原因菌は研究者にとって一つのなぞであった.最近10年間において,その課題に関する情報が著しく増加しているために,その知見の進歩についていくことは極めて困難になっている.この論文の目的はB型ウイルス肝炎とその原因菌についての幾つかの最新の進歩を明らかにすることである.

知っておきたい検査機器

トロンボエラストグラフ

著者: 中嶋孝之

ページ範囲:P.827 - P.828

 Thrombelastograph(TEG)はHartertが1948年考案したもので,血液凝固内因系の第1相から第4相までの過程(生成分解)を経時的に記録する装置である.操作は簡単であり,生体内での血液凝固に近い状態で血液凝固異常を約1〜2時間で把握できる点で優れている.この機器は臨床的に広く応用されており血友病,血小板減少症,線溶亢進,凝固促進状態,種々の抗凝固剤治療の効果判定に用いられている.

救急検査の実技

血液ガス

著者: 遠藤和彦

ページ範囲:P.851 - P.854

 従来,血液ガス分析はvan Slyke装置や手動によるアストラップ装置,ILメーターなど,検査に高度の熟練と多くの時間を必要としたため,緊急時にこそ最も必要な検査でありながら,夜間・休日などの救急検査として広く行われるには至っていなかった.しかし全自動血液ガス分析装置の出現により,血液ガス分析は熟練を要することなく検査技師はもちろん,医師や看護婦でさえも,緊急時に手早く正確に行える検査となってきた.しかし,血液ガス分析値は採血から測定までのさまざまな条件によって多かれ少なかれ影響を受けるため,その間の手順については十分な注意が必要である.
 ここでは救急(緊急)検査のたて前から,主として全自動血液ガス分析装置を使用した場合について述べる.

おかしな検査データ

胆汁の細菌検査

著者: 奥住捷子

ページ範囲:P.855 - P.856

1)材料
 手術部より検査依頼のあった胆汁.病名は胆石症.既往歴で1950年腸チフスに罹患.要注意とのコメントが付いていた.

マスターしよう基本操作

試験紙法(ペーパーテスト)

著者: 富田仁

ページ範囲:P.857 - P.860

 試験紙による検査法は,ベッドサイドテストとしてあるいはスクリーニング検査として,全世界の診療の第一線にまで普及し,使用されているが,簡単であるとの認識のもとに,不用意に使用すると思わぬ失敗をする.最後に掲げた一般的注意事項は,使用する人すべてが知っていなくてはならない.

実習日誌

日常的にも幅広い知識を

著者: 岡田雄平

ページ範囲:P.863 - P.863

 学外実習は3年生の4月の中旬から12月の中旬まで,夏休みをはさんで約6か月あります.3つの病院を5人ずつローテーションを組んで,約2か月ずつ回るわけです,2年間の学内実習及び講義を終え,不安>期待の複雑な心境で実際の病院へ臨みました.今,1つの病院を終え第2の病院へ実習に行っております.
 実際の病院に入ると,多種多様の検体及び患者さんに直接接するわけですが,学内実習で使用したプール血清,コントロール血清などのようにほとんど正常範囲にあるものでもなく,また検体を取り違えたり,あるいは検体と検査伝票を取り違えたりしないようにずいぶんと緊張します.

ひとこと

医療における専門職

著者: 尾山静夫 ,   佐藤和身 ,  

ページ範囲:P.864 - P.865

 社会を構成し維持してゆくために,あらゆる分野に専門職があり,それぞれの責任を全うしている.これらの職種については国または自治体が施行する試験を受け,免許を取得した者であることは言うまでもない.医療社会は特に多くの専門職によって構成されているが,人命にかかわる重要な役割を負っているだけに,その責任は特に大である.
 臨床検査を業とする検査技師も当然専門職であり,種種の検査により患者から得られたデータを提供することが使命である.医療が医師中心で行われることは当たり前のことではあるが,近代医療の特色として,分化された各専門職によるチーム構成がある.それぞれの責任において,最高の技術と知識を発揮しながら患者中心の,いわゆる組織医療が確立されてきている.

性別による待遇差

著者: 東條愛子

ページ範囲:P.865 - P.865

 私の勤務している病院は,男女同一労働差別賃金の職場です.初任給から格差があり,長く勤務すればするほどその差は広がっていきます.今まで黙っていたわけではないのですが,待遇などというものは一挙に良くなるものでもなく,与えられた仕事を黙々とこなし,適齢期がくれば退職し結婚する.
 だが最近は少しずつ変化が現れ,まず結婚してもやめない.しかし子どもが生まれればどうするかの問題です.大竹さんのおっしゃるように,産休明けからあずけられる保育所が公立では1か所もないのです.無認可の共同保育所に運良く入れたとしても,保育料の高額負担,家事,育児の負担がのしかかってきます.

検査の苦労ばなし

信頼できるデータ

著者: 中村隆

ページ範囲:P.866 - P.867

 仙台に住んで早いもので既に50年になる,ある日の午後孫が遊びに来たので,ふとこれから蔵王に行ってみようと連れ出し,車で数時間で蔵王の頂上お釜に至り,夏だというのにスキーしてる人たちをながめ,また山の素晴らしさにしばらく浮世の塵を払い除けて何か浄(きよ)められたようなさわやかな気持となり,山形上の山温泉に降り夕食し,少しくつろいで半日を大いに楽しんで,夜のとばりのおりるころ無事帰仙した.
 かつては,汽車で大河原まで行きバスで青根に着き,歩いて峨々温泉にたどりつき1泊し,朝4時ごろ起きて頂上まで何度も何度も休み,その間汗を流し疲労困憊してようやく頂上をきわめ,途中一休みすることに下界をながめ眺望を楽しみ,登れば登るほど視界が開け美しさを増し,これが疲れをいやし,一汗ふいた後に飲む水のうまさに元気をとりもどし,四囲の景色,近くの花にみほれて来てよかったとしみじみ感じ,頂上でも苦労して登っただけに去り難く,結構に感嘆し時間気にしながら下山し,かつて沢庵和尚流浪の地として,また歌人斎藤茂吉で有名な上の山温泉のいでゆにつかって疲れを落とし,翌日バスで山形駅に出て汽車で帰仙したことを想い出して,誠に今昔の感を味わった.今の忙しい日々でも車では半日で俗世を離れて自然に親しむことができるのであって,到底3日もかかっては蔵王にもそう気安くは行けない,とは思う.が果たしてどちらがよいのか,それぞれによさのあることは分かるが,結論は簡単でないとしみじみ思うた.

文豪と死

尾崎 紅葉

著者: 長谷川泉

ページ範囲:P.868 - P.868

 尾崎紅葉(1867〜1903)の本名は徳太郎,江戸の生まれである.明治16年東大予科に入学してから文学グループを組織していたが,有名な硯友社を結成したのは明治18年である.山田美妙,石橋思案,丸岡九華らが加わった.機関誌「我楽多文庫」を出した.最初は筆写回覧本であったが,9号から活版となり明治21年から公売された.
 硯友社は,その結社名からも分かるように文章を練り磨くことを目ざしたものであって,そこには文章意識が大きい.文章の添削などを引き受けることを会則にうたっていたのも,そのためである.紅葉もそのメンバーであるから,「我楽多文庫」に連載した「紅子戯語」などにも,その点がよくあらわれている.

国内文献紹介

Bacterial Inhibition Assay

著者: 𠮷野二男

ページ範囲:P.843 - P.843

 細菌の発育に対して,代謝拮抗物質を用い血液中の微量の物質を測定する方法をGuthrieが開発して,フェニールケトンを尿中より検出する方法に比して,はるかに鋭敏で特異性が高くスクリーニング検査に役立つことが知られてきた.
 この方法はGuthrie法と呼ばれてきたが,原理的にはBacterialInhibition Assayという語が使われ,フェニールアラニンのほかにメチオニン,ヒスチジン,ロイシン,チロジンなどの測定にも応用される.

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略語シリーズ

著者:

ページ範囲:P.836 - P.836

OPCA olivo-ponto-cerebellar atrophy;オリーブ—橋—小脳変性症.脊髄小脳変性症の一型であり,徐々に進行する躯幹,四肢の小脳性運動失調症,平衡障害,歩行障害,随意運動の緩徐化,断続性言語,頭部,躯幹の振戦などである.発病は中年期が多く,散発性または家族性にみられる.
OS Ohrensansen;ドイツ語.耳鳴.

医学用語集

著者: 山中學

ページ範囲:P.861 - P.862

601)精神分裂病;schizophrenia
 特異的な思考の障害,感情,意志,衝動の異常を示し,慢性に経過し,人格変化,更に無為呆然とした人格崩壊の末期症状に陥る青年期に発病する精神病.症状を統一的に述べることは難しいが,関係妄想,被害妄想から内閉的思考となり,環境に無関心となる.思考吹入や,思考奪取や妄想的思考から幻聴を来し,更に連想障害から滅裂思考となる.衒奇性や常同症も現れ,感情鈍麻から内閉的状態になる.臨床的に緊張病,破瓜病,妄想痴呆(型)に区別することもある.

国家試験問題 解答と解説

ページ範囲:P.869 - P.878

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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