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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術5巻4号

1977年04月発行

雑誌目次

病気のはなし

進行性筋ジストロフィー症

著者: 松永宗雄

ページ範囲:P.246 - P.252

進行性筋ジストロフィー症とは
 進行性筋ジストロフィー症とは全身の筋肉(骨格筋)がしだいに変性・萎縮し,そのために運動障害を来す遺伝性の疾患の総称である.本症の歴史は古く19世紀半ばには既に記載されていたといわれ,Erbによって疾患の概念が確立されたのは1891年であった.全身の筋肉を系統的に侵す疾患の中では最も頻度が高い.にもかかわらず,まだ真の原因は究明されたとは言えず,また治療が困難なこともあって社会的にも大きな問題を投げかけている難病の一つである.
 本症には幾つかの病型があり,それぞれの型によって遺伝様式,発病年齢,萎縮する筋肉の分布などがほぼ一定しているので,まず分類から述べるのが本症を理解するうえで分かりやすいかと思われる.

技術講座 生化学

コリンエステラーゼ

著者: 高橋芳郎 ,   久城英人

ページ範囲:P.269 - P.275

 コリンエステラーゼはコリンエステルをコリンと有機酸に加水分解する酵素で,動物組織のみにその存在が知られている.
 人体に存在するコリンエステラーゼはTrue Cholinesterase(Specific Cholinesterase,E-type Cholinesterase)とPseudo Cholinesterase(non Specific Cholinesterase,Butyro-Cholinesterase,S-type Cholinesterase)の2種類が存在し,両者は基質特異性,生理作用,物理化学的性質などを異にする.表1に示したように両者の最も異なる点は臓器分布と基質特異性である.

血清

HBs抗原の測定法

著者: 吉原なみ子

ページ範囲:P.276 - P.280

 HBs抗原の検査法についての報告は多数あるが,それぞれの検査法に特徴があるので,長短を生かし,予算,所要時間,検査に携われる人数,検体数などから考えて最も適している方法を取り入れてほしい.血清中のHBs抗原の検査法は術式を中心にまとめると,以下の8種がほぼ代表的なものである.

細菌

Hafnia,Erwiniaの鑑別同定

著者: 田村和満 ,   坂崎利一

ページ範囲:P.281 - P.283

Hafnia alveiの同定
 Hafnia alveiはVoges-Proskauer(VP)陽性群の腸内細菌の中では,かなりはっきりとした生化学的性状パターンをもっている菌で,その同定は比較的簡単である.しかし,本菌のVP反応は培養条件によって著しく影響をうけるので,もし同定の第1段階でVPテストが陰性と誤認されると,その後の同定は完全にまちがって,おそらくEscherichia coliと判定されてしまうかもしれない.

病理

組織標本の作り方.1—固定

著者: 油井慎曄

ページ範囲:P.284 - P.286

 病理組織標本を作製するにはまず組織を固め,それを薄く切り適当な染色を施しそれを封ずることで目的が達せられるが,この行程が適切にいかないと失敗をまねき,顕微鏡観察に際して所見を誤らせる原因となる.また特にこの行程のうちでいわゆる固める部分(固定,包埋)が一番大切なところであり,これはやり直しができない.
 固定の原理面についてはどこの成書にも記載されているので詳しくは述べないが,煮沸,乾燥,凍らせるなどの方法を除いては,一定の薬剤を使用して細胞内構成成分の特にタンパク,脂質,含水炭素などを速やかに不溶解性にすることである.組織内に浸み込む力が大きく速やかであっても,凝固が乏しいもの(アルコール,ピクリン酸),凝固力が大であっても組織に浸み込む力が遅いもの(ツェンカー,昇汞),つまり固定液のよしあしはタンパク凝固の機序が問題である.単独で使用すればタンパク凝固力は極めて弱くとも,例えば酢酸を加えることにより組織内浸透作用が加わり,すばらしい効果を上げるようになるものもある.これらはまず,酢酸が組織内に浸み込み,一定の漸進作川を与えながら復合試薬(重クロム酸系)が乗じて固定の素地を作るわけである.

一般

尿妊娠反応

著者: 井川喜美子

ページ範囲:P.287 - P.289

 ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin;HCG)は,絨毛組織より分泌され,しかも妊卵着床の早期より分泌される.HCGは血中を循環して尿中に排泄されるので,これを証明すれば妊娠の早期診断に役立たせうる.現在種々の方法が開発されている.大別して生物学的測定法と免疫学的測定法があるが,免疫化学の進歩とともに後者による測定が注目されている.そこで生物学的測定法については簡記にとどめ,後者について述べる.

測定法の基礎理論 なぜこうなるの?

タンパク凝固,沈殿の原理

著者: 松村義寛

ページ範囲:P.253 - P.256

 タンパク質には水に溶けうるもの,塩溶液に溶けるもの,全く水には溶けないものがある.生体は多量の水からできているから,水溶性であるかどうかは常に関心の的となるもので,毛髪,爪,皮膚などの構成成分であるケラチン,エラスチンのようなタンパク質は水に溶けないが,細胞内外の種々のタンパク質,殊に酵素タンパクはすべて水に溶けた状態にある.水に溶解しているタンパク質は条件が変化すると沈殿となり,あるいは凝固することがある.
 タマゴをゆでると固形となり,タンパク尿にスルホサリチル酸を添加すると白濁するなど,日常作業にタンパクの凝固沈殿現象が出現する.ゆでタマゴは冷却しても生タマゴにはもどらないが,スルホサリチル酸による沈殿はアリカル性にすれば消失する.アルブミンの熱変性は不可逆であるが,常温での試薬による沈殿は可逆的である.
 ゆでタマゴを作る場合に沸騰している湯を使わないで,60℃くらいのお湯に1時間以上浸しておくと,白味は凝固せずに黄味だけが固まってくる.オボビテリンの凝固温度はアルブミンのそれよりも低温であるからである.核タンパク質のヒストン,プロタミンなどは100℃に加温しても熱凝固は起こさない.酵素の失活する温度もいろいろで,熱に極めて不安定なものから,煮沸しても活性の低下しないものなどが知られている.毛髪のケラチンははじめから水にも不溶性であるから熱凝固性の有無は分からない.

造血と貧血

著者: 溝口秀昭

ページ範囲:P.257 - P.260

 貧血は単位容積中の赤血球あるいはまたヘモグロビンが減少し,体の組織に十分な酸素を供給できない状態である.ヘモグロビン濃度の正常値は成人男性で16±2g/dl,女性14±2g/dlと言われる.普通,男性ではおよそ14g/dl以下,女性では12g/dl以下となると貧血があると考え,その原因を調べるのが常である.
 貧血の原因を造血能から分けると表のようになる.このような分類は見慣れないものかもしれないが,貧血の診断を進めていくうえで役に立つ分類法である.本項ではこの分類の理解を助ける目的で,赤血球産生の機序,赤血球産生の指標となる検査法について述べることにする.個々の貧血については他の成書を参照されたい.

ガス分析・1

著者: 井川幸雄

ページ範囲:P.261 - P.264

 比色法が臨床化学分析の最も好まれる方法となった現在では,ガス分析と言えば,血液のCO2とO2を測定する例外的な方法で,極めて限られた分析方法と感ずる人が大部分であろうと思う.
 しかし,気体という取り扱いにくい,多くの場合目に見えない物質の状態についての研究が,実は歴史的には科学的化学の誕生のきっかけを作ったのである.化学の教科書の最初のほうに,定比例の法則とか,倍数比例の法則とかが述べられ,また,アボガドロの法則もまた一定量の気体の中に含まれる分子の数が,同圧・同温ならば,気体の種類を問わず"同数の分子"を含むという法則で,1モルの分子(6.02×1023個の分子)は標準状態(0℃,1気圧)では22.4lの気体となることを言っている.

読んでみませんか英文論文

網状赤血球算定のための回転器による塗抹標本

著者: 河合式子 ,   河合忠 ,   ,  

ページ範囲:P.265 - P.266

 網状赤血球算定を行うために広く使用されている方法は,比較的少数の網状赤血球を探しながら1,000個の正常赤血球を数える.報告する方法は回転器を用いて網状赤血球塗抹標本を用い,正常赤血球算定の必要性を避けているために,検査の単調さをほとんど除くことができる.現在使われている方法に比較し,この新しい方法の正確度及び再現性を,実際に比較して得た成績とともに報告する.

知っておきたい検査機器

嫌気性培養用チェンバー

著者: 上野一恵

ページ範囲:P.267 - P.268

 嫌気性培養用チェンバーは嫌気性グローブボックス(Anaerobic glove box)とか嫌気性チェンバー(Anaerobic chamber)とも言われる.通常,嫌気性菌の培養は嫌気ジャーを使用しているが,培地は好気的環境で作られるため,嫌気性菌に有害な酸素や過酸化物を含んでいる.また材料の希釈や接種操作も好気環境で行うため,ある種の嫌気性菌は培養操作の間に死滅する,従って嫌気ジャーでは生育しない嫌気性菌がある.
 このような嫌気ジャーの短所を補う方法として考案された厳密な嫌気培養法がRoll tube法であるが,操作が複雑であるため,簡単な嫌気ジャー法と厳密な嫌気培養法であるRoll tube法の両者の長所を併せ持たせた方法が嫌気性チェンバー法である.

最近の検査技術

固定化酵素による臨床化学定量

著者: 中根清司 ,   高阪彰

ページ範囲:P.290 - P.297

 最近,臨床化学検査は酵素を分析試薬として測定する定量法が非常に多くなってきた.例えば尿素窒素,尿酸,グルコース,コレステロール,中性脂肪,リン脂質などである.更に今後も酵素を分析試薬とした測定法はますます多くなるであろう.
 酵素を分析試薬とした測定法は,今ここで記すまでもなく多くの利点を持っている.しかし,酵素は一般分析試薬より高価である.また熱,酸,アルカリなどに対し不安定であり,酵素によっては保存中でも失活する恐れもある.そこで,高価な酵素の再利用と不安定な酵素の安定性を増す目的で固定化酵素(immobilized enzyme)が臨床化学検査に導入されてきた.

救急検査の実技

総論,尿一般検査

著者: 富田仁

ページ範囲:P.298 - P.300

総論
 救急医療とは,直ちに治療を行わないと生命が危ないような,突発的に発生した外傷や疾患(急性腹症など)の診療を言っていたが,最近ではこのような疾患のほかに,日曜祭日などの休日や夜間の診療,つまり時間外診療をも含めて救急医療と言って,言葉の混乱を来している.
 一方,臨床検査においても,本邦では漠然と緊急検査という言葉がよく使われているが,ここではいわゆる救急医療に必要な,つまり生命に関係するような救急検査を中心に,その実技を紹介するものとする.従って理想的には,本邦においても24時間稼働の救急検査室(3交代制)の設置が望まれるわけであるが,現実はほど遠い.そこで検査技師はもちろんのこと,医師,時には看護婦も行わざるを得ないような簡易検査,つまりベッドサイドテストはもちろんのこと,高価でも数分で分析できるような救急用検査機器の紹介もつけ加えたいと思う.

二級試験合格のコツ

脳波

著者: 村崎義紀

ページ範囲:P.301 - P.304

 脳波における実技試験の大きなポイントは,与えられた条件のもとでいかに正確な記録を行うかということで,全般にわたっての基本的な知識はもちろん,豊富な経験を通しての熟達した技術が要求される.また,試験に用いられる機種は従来の真空管型から全トランジスタ型に変わり,操作手順もかなり簡略化されているため,機械の調整については昔ほどの煩雑さはなく,むしろ試験の対象は,記録途中に生じる種々のトラブルをいかに手際よく処理するかといったような点に向けられ,日常検査の中で会得した基本操作力応用性が大きく問われることが多い.
 以下,細かい点については,一連の操作過程に従って図説を通して説明を加えていくが,これはあくまでも要点をピックアップしただけに過ぎず,毎年変わる試験会場,機種の変更及び,試験委員の判断などにより試験内容も変わることがあるので,この点も十分考慮のうえ,受験に臨まれることを希望する.

実習日誌

病院実習を体験して

著者: 角沢静子

ページ範囲:P.307 - P.307

 不安におののきながら通い始めた病院実習も,あと残すところ2〜3日となってしまった.8月から5か月間実習に出たわけだが,最初いざ病院の検査室に入ると多種多様の検査機器があり,これら全部を理解し使用するにはどうしたらよいのか,考えただけで気が重くなってしまった.しかし,病院実習の本来の目的である医療における検査技師としての役割やあり方といったようなものが,おぼろ気ながらも把握できた現在,大きな成果であったと感ずる.
 生理に始まり,一般,細菌,血液,血清,化学,そして病理と7つのパートをそれぞれ3週間ずつローテイションした.各パートの検査内容を知るということもさることながら,その場の雰囲気に慣れることにも非常に神経をすり減らされた.物覚えの悪さに緊張も手伝って,技師の方たちの熱心な説明にもかかわらず,同じことを繰り返し聞くという恥ずかしい思いをしたこともしばしばであった,内容的にも人間的関係においても,どうにか慣れ精神的に余裕を取りもどせたころにはそのパートでの実習期間は終わってしまい,何か物足りない気がした.

ひとこと

病院実習

著者: 西嶋正純 ,   今田裕 ,   川畑久 ,  

ページ範囲:P.308 - P.309

 病院実習に対する考え方は様々だろうが,その必要性については改めて論ずるまでもなく,大方の認識するところでありながら,実習受け入れを拒否する病院があるのはどういうことか.確かに中検における日常業務は多忙であり,しかも機械器具試薬消耗品類は学生が自由に使えるほど豊かでは決してない.現在学生は3年の初めから実習に出る.一通りの講義は済んでいるはずだが,何か実技をやらそうとしても先輩技師が手とり足とりコーチしてやらねばまず無理だろう.ここに現場でのかなりの負担が要求されることになる.
 そこで3年間は学校でみっちり講義実習を受け,ほぼ実技も一人立ちできると思われる卒業直後から病院実習に出るのはいかがなものか.さすれば現場での負担も軽減され実習受け入れ拒否現象も変わるだろう.しかしこの場合学生の身分が問題となる,すでに学校は卒業しているので学生ではない,しかしまだ就職していないから経済的に不安定だろう.こういう形ではどうも問題が残りそうである.とすればこれは現在の3年制教育のカリキュラムなどの限界ということになりそうで,4年制大学構想が前提となってこよう.

検査の苦労ばなし

焼土の雑草

著者: 平井秀松

ページ範囲:P.310 - P.311

 TiseliusがTiseliusの電気泳動法を発表したのは1936年のことであった.翌年ドイツ軍がポーランドに侵入して世界はあげて戦争に突入,平常の科学研究はほとんど停止し,Tiseliusの方法は一編の小論文として10年近く研究者の視野を離れる.太平洋での作戦を終えて僕が大学に復帰したのは昭和21年の正月であり,ふとしたきっかけで児玉桂三先生の生化学教室に入門した.東京はなお硝煙がくすぶっているような一面の焼土であり,この中に東京大学がぽつんと取り残されていた.
 僕が先生から与えられたテーマはウマ血清タンパクをタカジアスターゼで分解してみよというのであった.この分解によりタンパクの糖部分を消化し去れば,異種タンパクとしての抗原性が除去できるのではないか?そうすれば代用輸血品,ないしはタンパク補給源に使えるのではないか,といったお考えであったようだ,戦陣医学の名残りと栄養失調症が背景にあった時代である.消化過程の変化は当時唯一の血清タンパク分画法であったHoweの硫酸ナトリウム塩析法で追跡した.プソイドグロブリン,オイグロブリンといった分画名であった.

文豪と死

島崎 藤村

著者: 長谷川泉

ページ範囲:P.312 - P.312

 島崎藤村(1872〜1943)は「若菜集」の詩人としてだけでなく,田山花袋と並んで日本の自然主義の確立者として文学史に位置づけられている.瀬川丑松に托して出身の秘密を告白するまでの苦悩を,信州の自然を背景に描き出した「破戒」(明治39)が,そのきっかけを作った.花袋の「蒲団」が出たのはその翌年であった.「破戒」と「蒲団」の2作によって,日本の自然主義はフランスのゾラなどの模倣の域を脱してほんものになった.
 「破戒」には社会的なスケールと広がりがあり,解決が個人の狭いわくの内では処理できないような幅を持っていた.これに対して「蒲団」は花袋自身とその周辺をモデルにしたこともあって,私小説的な傾斜を示すものであった,小市民生活の中に押し込められた薄汚れた官能が,当時としては露骨な描写として注目された.日本の自然主義は「破戒」の線上に発展することなく「蒲団」の線上に発展することになってしまったところに,私小説的なのめり込みと限界を持つことになった.

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略語シリーズ

著者:

ページ範囲:P.260 - P.260

MIT macrophage migration inhibition test;マクロファージ遊走阻止試験.細胞性免疫に関係するT細胞の機能を検査する方法の一つ.感作リンパ球と対応した抗源が反応すると,リンパ球は幼若化するとともに,マクロファージ遊走阻止因子(MIF:macrophage migration inhibitory factor)や細胞毒などの因子を分泌する.このMIFを指標として,試験管内でリンパ球の機能を検査するのがMITである.T細胞が正常の時は,抗原刺激によってリンパ球からMIFが分泌されるのでマクロファージの遊走が阻止されるが,T細胞の機能不企がある時には遊走が阻止されない.
ML malignant lymphoma;悪性リンパ腫,ポジキンの悪性リンパ肉腫,リンパ肉腫,細網肉腫などの総称.

医学用語集

著者: 山中學

ページ範囲:P.305 - P.306

461)シデロブラスト(担鉄赤芽球);sideroblast
 骨髄穿刺液の塗抹標本に鉄染色を行うと,細胞内にベルリン青染色陽性顆粒が認あられる赤芽球のこと.ヘモグロビン合成直前にある一種の貯蔵鉄が染められているとされている.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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