地球温暖化と感染症—今後,寄生虫感染症は増加するのか?
著者:
松村隆弘
ページ範囲:P.24 - P.26
はじめに
“地球温暖化と感染症”というテーマは話題が尽きない内容であり,危機意識をもつ人も多くいるだろう.日本における地球温暖化に関する感染症を検索すると,蚊を媒介とした感染症(デング熱,ウエストナイル熱,日本脳炎など)が多くみられる.そのなかにはもちろんマラリアも話題に挙がる.しかし,マラリアに関しては1900年代初期のような国内での定着の可能性は低いことが論じられている.理由として,①国内にマラリア原虫を保有しているヒトが極めて少ないこと(輸入感染のみ),②インフラが整い公衆衛生状況が安定していること,③住宅構造・居住環境が整備されていること,などが挙げられる.また,熱帯地域だからといって自国感染のマラリア患者が存在するわけではないことはご存じだと思う.アジアではシンガポールやブルネイ,モルディブ,スリランカなどの赤道付近の国でも世界保健機関(World Health Organization:WHO)よりマラリア撲滅国として認定されている.直近では2018〜2019年,マレーシアにおいてもヒトマラリア患者の発生は報告されていない1).上記の条件が改善されてきた結果であろう.加えて,日本においても1900年代初期には沖縄から北海道まで全国にマラリア患者が存在していたが,1959年を最後に国内感染者は“0”となった背景がある.この背景も考慮すると,暑いからマラリアが流行するわけではないことはよく理解できるであろう.
それでは,地球温暖化と寄生虫感染症につながりはないのかと言われるとそうでもない.本稿ではマラリア以外の寄生虫で地球温暖化の影響を考えていこうと思う.