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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術50巻3号

2022年03月発行

雑誌目次

増大号 見て学ぶ 一般検査学アトラス—外観検査から顕微鏡検査まで

序文

著者: 宿谷賢一

ページ範囲:P.175 - P.175

 一般検査は,わが国の独特の検査分野であり,クリニックから大学病院まで,あらゆる臨床検査の場で実施されています.取り扱う検査材料には尿,糞便,喀痰,髄液,胃・十二指腸液,穿刺液,精液などがあり,幅広く“血液以外の体液”が該当します.

 そして一般検査は,いわゆるスクリーニング検査としてだけでなく,疾病原因を確定付ける検査としての一面も有しています.糞便検査の寄生虫検査,髄液検査の細胞算定検査,関節液検査の結晶鑑別などは確定診断に直接結びつく,重要な検査です.また,尿検査や糞便検査は多くの生体情報を得ることができるにもかかわらず患者の負担が少なく,理想的な非侵襲的検査であるといえるでしょう.

尿検査

尿の外観検査

著者: 山本紀子

ページ範囲:P.178 - P.181

概要

 尿の外観(色調・混濁)の観察は尿検査の最初のステップであり,詳細な観察は患者の病態を推定することに役立つ.加えて,著しい着色がある尿は,尿試験紙検査判定の妨げになり,誤判定につながる恐れがあるため,外観の観察は検査前の必須の項目に位置付けられている.

 正常尿は一般的に淡黄色から黄褐色を呈するが,さまざまな原因によって変化する.尿の外観について表1に示す.尿色調変化の原因は,生理的要因・環境的要因の変化,病的状態の変化だけではなく,服用薬剤の影響によっても変化するため考慮が必要である.

尿沈渣検査

著者: 宿谷賢一

ページ範囲:P.182 - P.260

 本稿において,特に記載のない画像の倍率は×400である.

尿沈渣検査に必要な組織像

著者: 富安聡

ページ範囲:P.262 - P.271

概要

 腎臓は,中胚葉由来で後腹膜に存在する長さ約11cm,幅約6cm,厚さ約3cm,重さ約130gのソラマメ様の形をした器官である.表面は線維被膜で覆われ,さらに副腎とともに脂肪被膜,Gerota筋膜で覆われる.縦断面では,皮質と髄質に区別することができる.尿細管が集合する錐体形の髄質部分を腎錐体といい,その先端部分を腎乳頭という.尿細管は近位尿細管,ヘンレ係蹄,遠位尿細管,集合管,乳頭管に分類され,それぞれ機能と形態が異なる.

 皮質には,主に腎小体(ボウマン囊と糸球体),近位尿細管,遠位尿細管が分布する.髄質には,主に尿細管,ヘンレ係蹄,集合管,乳頭管,直細血管が分布する.糸球体の軸部にはメサンギウム細胞が存在し,糸球体毛細血管の構造と腎機能を維持する役割を果たす.また,糸球体毛細血管を構成する血管内皮細胞,糸球体基底膜,糸球体上皮細胞は糸球体係蹄壁を形成し,血液を濾過して原尿を生成する.生成された尿は尿細管を経由して腎乳頭より腎杯に排出され,腎盂へと集められる.

髄液検査

髄液の外観検査

著者: 石山雅大

ページ範囲:P.272 - P.275

はじめに

 脳脊髄液(以下,髄液)採取は腰椎穿刺,後頭下穿刺(大槽穿刺),脳室穿刺(脳室ドレナージ)の3つがあり,採取管は無色透明な滅菌ポリスピッツを用い数本に分けて採取する1).正常な髄液は細胞成分などはほとんど含まず,無色透明な水様性の液体であるため,肉眼的所見による混濁の有無や特徴的な色調の確認は,検査を進めるうえで優先すべき項目を判断できるだけではなく,病態を推し量るうえでも重要な検査項目の1つと考える.

髄液の顕微鏡検査

著者: 田中雅美

ページ範囲:P.277 - P.292

概要

 髄液細胞数検査の分画を計算盤上で行う場合は,細胞の大きさ,細胞質の染色性,核・細胞質の形状などから鑑別をする.特に,細胞質の形状や染色性を重視し,細胞の大きさは計算盤の目盛りをメジャー代わりにするとよい(図1,表1).通常,鏡検の倍率は200倍(対物レンズ20倍×接眼レンズ10倍)で実施するが,詳細に観察するときは400倍を使用する.また,計算盤上で鑑別が困難な場合は,MG(May-Grünwald-Giemsa)染色をした標本で確認するのが望ましい.

穿刺液検査 胸水・腹水

胸水・腹水の外観検査

著者: 森藤哲史 ,   安井寛

ページ範囲:P.293 - P.295

概要

 生理的な状態では,胸腔に10〜15mLの胸水,腹腔に20〜100mLの腹水が認められ,臓側漿膜と壁側漿膜の間の潤滑液としての役割を担っている.胸水・腹水は種々の疾患に伴って貯留し,その性状によって漏出液と滲出液に分けられる.漏出液は循環障害によるうっ血や浮腫に起因し,低蛋白血症,肝硬変,心不全などによって貯留する.また,滲出液は細胞成分,蛋白成分を多く含み,炎症の滲出機転によって貯留し,結核や肺梗塞,癌性胸・腹膜炎などの疾患で出現する.

 胸水・腹水の検査はさまざまな目的で実施されるが,それによって得られる情報は患者の病態を正確に把握し,診療方針を決定するうえで非常に重要である.胸水・腹水の詳細な検索は,細胞分類などの各種検査によって行われるが,いずれの検査でも最初の外観観察は不可欠である.検査を適切に行うためには,検体の性状を把握し,それに合わせた適切な処理によって検査を進める必要がある.

胸水・腹水の顕微鏡検査

著者: 大﨑博之

ページ範囲:P.296 - P.318

体腔液中の正常・良性細胞

 体腔液中に出現する正常細胞として,血球(赤血球,好中球,好酸球,リンパ球,組織球)と中皮細胞がある.体腔液の細胞分類の迅速報告として,サムソン(Samson)染色法(サムソン3分類法)やチュルク(Turk)染色法が提唱されている.しかし,これらの方法では大まかな細胞分類しかできないことに加え,永久標本とならないため,悪性腫瘍細胞が出現した場合に後日確認できないなどの問題もある.そのため,やむを得ない場合を除いてギムザ(Giemsa)染色を用いた細胞分類を行うべきと考える.現在,30秒程度でギムザ染色と同等の結果が得られる迅速染色キット(ディフ・クイック®,ヘマカラー®など)が各社から販売されており,染色時間に関する問題は解消されている.

 体腔液中に出現するリンパ球と組織球は,しばしば異型や腫大を呈するため腫瘍細胞との鑑別が必要となる.また,反応性中皮細胞と腺癌細胞の鑑別は,細胞形態では困難なこともあり,その場合には複数の抗体を用いた免疫細胞化学の結果で鑑別する必要がある.しかし,多くの場合,一般検査室で実施可能なギムザ染色と過ヨウ素酸シッフ(periodic acid schiff:PAS)反応を用いることで,これら良性異型細胞と腫瘍細胞の鑑別は可能と考える.

CAPD排液

CAPD排液の外観検査

著者: 新田孝作 ,   塚田三佐緒 ,   横山貴

ページ範囲:P.320 - P.323

はじめに

 腹膜透析(peritoneal dialysis:PD)には,連続携帯式腹膜透析(continuous ambulatory peritoneal dialysis:CAPD)と自動腹膜透析(automated peritoneal dialysis:APD)がある.PDは腹腔内にカテーテルを挿入して透析液を注入し,腹膜を介して血液中の溶質と腹腔内の透析液の溶質との間に濃度差を生じさせ,拡散によって溶質を移動させ,血液中の尿毒症物質や余分な水分を除去する透析方法である.透析効率,腹膜機能の確認や合併症の診断をするために排液の検査を行う.

CAPD排液の顕微鏡検査

著者: 新田孝作 ,   塚田三佐緒 ,   横山貴

ページ範囲:P.324 - P.335

関節液

関節液の外観検査

著者: 山下美香

ページ範囲:P.336 - P.339

概要

 関節は外側から軟骨下骨組織,関節軟骨,靱帯を含む軟部組織,関節包とその内面を覆う滑膜よりなる.滑膜は2層からなり,内膜の滑膜細胞と外膜の線維膜で形成され,生理機能としては,①関節液(滑液)の産生,②関節液との物質交換を行う.関節包を満たす関節液は滑膜内脈絡叢から濾過された血漿成分とB型滑膜細胞が産出したヒアルロン酸−蛋白質複合体が合わさった液体で,正常な関節液は無色〜淡い黄色で粘稠性のある弱アルカリの液体である(表1,図1)1)

 関節液の主な機能は,①関節表面にpH変動のない少ない水分環境の供給,②関節内の栄養供給と排泄,③潤滑油としての機能である.その量は0.13〜3.5mL,平均1.1mLとされているが2),炎症などの病的状態では100mLを超えることもあり,色調も黄色〜黄褐色と濃くなり濁度が増してくる.粘稠性は炎症が起こるとリソゾーム酵素によるヒアルロン酸の分解や,関節液の増加によるヒアルロン酸の希釈で低下すると考えられている.関節液検査では白血球数により正常,非炎症性,炎症性,化膿性に分類されるが(表1,図2)1),あくまでも“目安”であり絶対的なものではない.

関節液の顕微鏡検査

著者: 山下美香

ページ範囲:P.340 - P.344

糞便検査

糞便の外観検査

著者: 髙橋敏宏 ,   脇田満

ページ範囲:P.345 - P.347

概要

 糞便検査には,一般的性状検査(形状・色調),便潜血検査,腸管感染症検査がある.本稿では,糞便検査の一般的性状検査から推定される状態や病態を中心に解説する.

寄生虫検査

著者: 熊谷貴 ,   川上保子

ページ範囲:P.348 - P.376

覚えておきたい寄生虫卵

精液検査

精液の外観検査

著者: 横山千恵 ,   松岡実紀子 ,   古城公佑

ページ範囲:P.378 - P.381

概要

 精液は,液体成分の精漿に精子が浮遊した液体である.精囊腺と前立腺の分泌液が精漿の90%を占め,残りは精巣上体や尿道球腺に由来する.射精の際にこれらの分泌液は尿道に分泌された後,少量ずつ律動的に体外に射出される.初めのほうの射出精液は精子に富むが,後半になるにつれゲル状の塊を多く含み精子が少なくなる.

 性交や人工授精後,女性の体内で卵管に到達する精子の総数が少ないと,受精に至らず不妊の原因となる.精液検査は,精液中に含まれる精子の数,運動性,形態などを総合的に評価することで不妊の原因を探り,治療計画を立てるうえで不可欠である1,2)

精液の顕微鏡検査

著者: 横山千恵 ,   松岡実紀子 ,   古城公佑

ページ範囲:P.382 - P.387

精子形態の評価(図1〜4)

 精液に含まれる精子は,活発な運動性を有する前進運動精子,運動性が弱く小さな円を描くように動く非前進精子,動きが全くみられない不動精子や死滅精子,正常形態を喪失した奇形精子に分類される.精液の顕微鏡検査では,1回射精当たりの総精子数や,単位体積当たりの精子の数(精子濃度)だけでなく,運動精子の割合(運動率)や正常精子の割合(正常形態率)も定量的に評価する.これらは自然妊娠するまでの期間や不妊治療の成功率と相関するため,古くから用いられている指標である.

 精子の頭部には凝縮した核の前半部分を先体が覆う.受精の際に最初に融合する部位である.頭部と尾部との間をミトコンドリアがらせん状に取り囲み,精子の運動に必要なエネルギーを産生する(図1).

結石検査

結石の外観検査

著者: 川満紀子

ページ範囲:P.388 - P.391

概要

 結石は,臓器により尿路結石,胆石,膵石,唾石などがさまざまな要因で形成される.本稿では,尿路結石について取り上げる.

 日本における尿路結石の罹患率は年々増加しており,2005年の尿路結石症全国疫学調査では生涯罹患率は男性では7人に1人,女性では15人に1人に達しており1),非常にありふれた疾患となっている.尿路結石は結石の位置により上部尿路結石(腎結石,尿管結石)と下部尿路結石(膀胱結石,尿道結石)に分けられ,上部尿路結石が全体の約96%を占めている.尿路結石はさまざまな要因がかかわって形成される多因子疾患であり,尿停滞,尿濃縮,代謝,尿路感染,遺伝因子,環境因子,薬剤,高分子物質などが成因となる.

その他の検体の検査

その他の検体の外観検査

著者: 米山正芳 ,   本間慎太郎

ページ範囲:P.392 - P.395

概要

 一般検査領域において主に扱う検体は尿や便,髄液,穿刺液が挙げられるが,その他にも提出される検体は多岐にわたり,胃液,胆汁,肺胞洗浄液,ドレーン廃液,喀痰などがある.検査目的は細胞数の算定や細胞分画,生化学的定量検査,寄生虫の検出などさまざまであり,検査目的に即した検査方法を実施する必要がある.主な検体の色調を表1に示す.

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目次

ページ範囲:P.177 - P.177

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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