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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術51巻1号

2023年01月発行

雑誌目次

技術講座 輸血

輸血関連急性肺障害/輸血関連循環過負荷の検査

著者: 岡崎仁

ページ範囲:P.4 - P.11

Point

●2004年に提唱された輸血関連急性肺障害(TRALI)の診断基準が約15年ぶりに改訂され,新たな診断基準が制定された.このなかで,これまでのTRALIはTRALI typeⅠ,これまでpossible TRALIと呼んでいたものの定義を少し改変してTRALI typeⅡと呼ぶこととした.

●輸血関連循環過負荷(TACO)の報告基準が新たに制定され,国際輸血学会,国際ヘモビジランスネットワーク,およびAABBによって,世界的に統一された基準(ISBT-IHN-AABB case surveillance definition of TACO)となった.

微生物

糸状菌の薬剤感受性試験

著者: 仁木誠

ページ範囲:P.12 - P.18

Point

●薬剤感受性試験結果に基づいた抗真菌薬の選択を行うためにも,真菌症患者から病原真菌が分離された場合には薬剤感受性試験の実施が重要となる.

●被験菌株によって前培養時間や接種菌液調整時の吸光度,最小有効濃度(MEC)や最小発育阻止濃度(MIC)を判定するまでの時間が異なる.

●糸状菌の薬剤感受性試験においては微量液体希釈法がゴールドスタンダードであるが,ブレイクポイントがほとんど設定されていないなど,まだ課題は多い.

微生物検査の基本技術:用手法による同定

著者: 谷道由美子

ページ範囲:P.20 - P.29

Point

●質量分析や自動機器による同定が主流となっても,用手法がなくなることはない.

●腸内細菌目細菌の確認培地はTSI・SIM・VP・Cit・Lysineの性状を覚えることが基本だが,菌種によってはポイントとなる性状のみで同定可能である.

●偽陽性や偽陰性,非特異反応を起こさせないための条件や知識を習得することが,用手法においては重要となる.

生理

緊急報告すべき心電図所見

著者: 石崎一穂

ページ範囲:P.30 - P.36

Point

●最初に検査結果を知る検査技師は,正しい判断と的確な対応が求められます.

●いわゆる“パニック所見”は,緊急性が高い所見なので,直ちに医師へ報告して指示を仰ぐ必要があります.

●“パニック所見”以外にも,依頼医師が予期していない所見も報告が必要な場合があります.

●心電図所見を正確に伝えるためには,被検者の状態把握と追加誘導記録や記録時間から得られる情報も必要です.

超音波検査による頸動脈狭窄外科的治療後の評価

著者: 友藤達陽 ,   濱口浩敏

ページ範囲:P.38 - P.43

Point

●頸動脈狭窄の外科的治療としては,頸動脈内膜剝離術(CEA)と頸動脈ステント留置術(CAS)が有効である.

●術前評価では,頸動脈(特に内頸動脈)狭窄を評価する際には,狭窄部の収縮期最大血流速度(PSV)と狭窄部位のプラーク性状を基準とし,可能な範囲で狭窄率,狭窄長を計測する.

●術後に再狭窄をきたすこともあるので,定期的なフォローが必要である.

トピックス

iPS細胞由来血小板製剤の開発

著者: 中村壮 ,   江藤浩之

ページ範囲:P.44 - P.47

はじめに

 止血機能をもつ血小板は,重度の血小板減少患者の治療として輸血による補給が行われてきた.しかし需要の増大,献血者の減少,パンデミックなどが問題となり,安定した供給の確保は容易ではない.この課題解決のため,筆者らはiPS細胞(induced pluripotent stem cell)から不死化巨核球細胞株を誘導する技術を開発し,生体内の血小板造血の環境を培養内で模倣することで,臨床応用レベルの血小板造血に成功した.本稿では血小板造血における最近の知見と,iPS細胞由来血小板製剤の開発について解説したい.

微生物検査領域における人工知能導入の可能性

著者: 平田耕一

ページ範囲:P.48 - P.50

はじめに

 最近の人工知能(artificial intelligence:AI)ブームは,深層学習(deep learning)に牽引されているといってよい.この深層学習は,脳の神経回路網を模したニューラルネットワークを利用した機械学習の方式である.ニューラルネットワークそのものは1930〜1940年代に提唱され,1970年代には文字認識などに利用されはじめた.その後,2006年に深層学習の嚆矢としての多層ニューラルネットワークが実現され,さらに畳み込みニューラルネットワーク(convolution neural network:CNN)により,2012年に画像認識のエラー率を17%とこれまでの手法よりも10%以上も向上させ,2014年には5%程度まで改善した.

 そのような深層学習が流行した理由に,プログラム言語Pythonの開発とPythonに直結するオープンソースとしてのCNNの実現が挙げられる.オープンソースであることから,Pythonにより深層学習のさまざまなCNNを簡単に扱うことができる.さらに,Googleが提供しているGoogle Colaboratoryでは,ブラウザ上でPythonを記述・実行でき,深層学習で必要なGPU(graphics processing unit)にも無料でアクセスできるため,簡単に深層学習を実行することができる.このように,深層学習には,機械学習の研究者に限らず,誰でも比較的容易に利用できる環境が整っている.

 そのような深層学習の微生物検査への導入として,本稿では,グラム(Gram)染色を取り上げる.そして,深層学習に必要不可欠となるアノテーションや学習結果の評価方法について説明した後,深層学習のグラム染色画像への適用例について述べる.なお,深層学習の詳細については,例えば文献1を参照していただきたい.

FOCUS

後天性von Willebrand症候群の臨床検査

著者: 日笠聡

ページ範囲:P.52 - P.55

はじめに

 後天性von Willebrand症候群(acquired von Willebrand syndrome:aVWS)は,さまざまな基礎疾患や薬剤により,二次的にvon Willebrand因子(von Willebrand factor:VWF)の活性が低下し,出血症状を呈する症候群である.出血症状は皮下出血や粘膜出血が多いが,検査異常のみで症状を認めない場合もある1,2)

 本疾患の頻度は正確には不明だが,Buddeら3)は,1施設で収集された5,014検体中187検体(3.7%)が,Tiedeら4)は1,500検体中35検体(2.3%)がaVWSであったと報告している.これらの報告から,種々の基礎疾患をもつ患者にaVWSが合併する頻度は比較的高いと考えられるが,症状が軽微な症例が多いために,未診断例が多いと推測される.

凝固検査用検体取り扱い標準化

著者: 由木洋一 ,   松田将門

ページ範囲:P.56 - P.59

はじめに

 凝固時間検査では検査前のプロセス,すなわち検体の取り扱いが検査結果に大きく影響する.凝固時間検査とは,プロトロンビン時間(prothrombin time:PT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)に代表される,検体と試薬を混合してフィブリン析出時間を測定する検査をいう1).検体の取り扱いとは,例えば採血手技や検体の遠心条件・保存条件などの工程を指し,これは正確で精度の高い検査結果報告に重要であると教科書にも書いてある.しかし,本邦では,その標準化はこれまで行われてこなかった.そこで,日本検査血液学会では標準化委員会内に「凝固検査用サンプル取扱い標準化ワーキンググループ」(以下,WG)を組織し,まず現状を把握すべく2013年に同学会評議員を対象にアンケート調査を実施した.その結果,抗凝固剤(クエン酸ナトリウム)の濃度,遠心条件やその後の保存条件などの統一性が不徹底であるとわかった.この結果を踏まえ,WGでは米国の臨床・検査標準協会および英国の血液標準化委員会のガイドラインを参考に議論を重ね,2016年に日本検査血液学会誌に「凝固検査検体取扱いに関するコンセンサス」(以下,コンセンサス)を発表した1).その概要を表1,2に示す.

 本稿では,コンセンサス発表後の検体取り扱いの現状,および今後の課題について概説する.

病気のはなし

多発性骨髄腫

著者: 川瀬咲 ,   菊池拓

ページ範囲:P.60 - P.67

Point

●多発性骨髄腫は形質細胞が腫瘍化した造血器腫瘍である.

●骨破壊による骨折や高カルシウム血症,腎機能障害,造血障害,免疫低下による易感染性などの特徴的な臨床症状を呈する.

●治癒は困難であるが,プロテアソーム阻害薬や免疫調整薬,抗体製剤をはじめとした新規薬剤を用いた化学療法により治療成績は改善している.

●65歳以下の若年者では,新規薬剤を含む寛解導入療法と,それに引き続く自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法(HDC/ASCT)が推奨される.高齢者では新規薬剤を組み合わせた治療が推奨される.

●治療効果判定の微小残存病変(MRD)の検出法も進歩し,治療効果判定基準も変化しており,多発性骨髄腫患者における特徴的な検査所見については臨床検査技師も十分把握しておく必要がある.

臨床検査のピットフォール

見落としやすい尿沈渣成分—ヘマトイジン結晶

著者: 宿谷賢一 ,   脇田満

ページ範囲:P.68 - P.70

はじめに

 尿沈渣検査で鑑別できる“黄褐色調の針状の結晶”を問われると,多くの人が第一に考えるのは“ビリルビン結晶”である.しかしながら,ビリルビン結晶と同様な形態を呈する結晶として,“ヘマトイジン結晶”がある.このヘマトイジン結晶は,「尿沈渣検査法2010」に記載されていない結晶のため,日常検査において認知度が低い.わが国においては,2005年の日本医学検査学会にて報告1)され,その後,関連学会にて少なからず報告がある.

 本稿ではヘマトイジン結晶の臨床的意義とビリルビン結晶との鑑別について解説する.

Q&A 読者質問箱

神経伝導検査時に神経を捕捉しようと,つい強い出力になってしまいます.適切な刺激の方法,注意点を教えてください.

著者: 関口輝彦

ページ範囲:P.72 - P.75

Q 神経伝導検査時に神経を捕捉しようと,つい強い出力になってしまいます.適切な刺激の方法,注意点を教えてください.

A まず,ご存じの通り,神経伝導検査の刺激は“最大上刺激”,すなわち最大振幅を得られる刺激強度(“最大刺激”と呼びます)からさらに20〜30%強い刺激を行うのが原則です.最大刺激より小さい刺激強度(“最大下刺激”)では,本来の振幅よりも小さな振幅しか得られず,誤った情報を臨床側にフィードバックすることになり,せっかく検査を受けてくれた患者にとってはデメリットしかありません.したがって,仮に患者が痛がることがあっても最大上刺激,つまり強い刺激で検査を行うほうがはるかに患者のためになることは頭に入れておいていただき,必要に応じて患者にもそのようにご説明ください.

ワンポイントアドバイス

甲状腺検体における細胞診検体採取・標本作製のポイント

著者: 佐々木栄司

ページ範囲:P.76 - P.77

はじめに

 甲状腺細胞診においての“よい標本”とはどのようなものでしょうか? それは乾燥などの固定条件のアーチファクトが少なく細胞像が明瞭に観察でき,かつ細胞量も多い標本と考えます.しかし,実際には,穿刺時の血液や囊胞液の混入により細胞をスライドガラスに上手に塗抹できないことが甲状腺の検体不適正標本の原因であると聞きます.筆者は“よい標本”を作製するには2つの大きな要素が必要と考えます.1つは医師の業務になりますが,細胞採取部位として針先を結節・腫瘤のどの部分に進めるのが望ましいのかを技師も理解することです.もう1つは,“検体性状を予測すること”になります.

臨床医からの質問に答える

ヘマトゴーンって何ですか?

著者: 坂本大典 ,   大西宏明

ページ範囲:P.78 - P.80

はじめに

 骨髄は血液細胞が産生される場所であり,さまざまな細胞が存在します.その1つに,ヘマトゴーン(hematogones:HGs)があります.HGsは正常前駆Bリンパ球で,免疫が構築される際に骨髄中に出現するとされ,加齢とともに減少します1).乳幼児や小児,化学療法後や移植後の骨髄塗抹標本でしばしばみられます.

連載 帰ってきた やなさん。・36

感動が“わんこそば状態”

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.82 - P.82

 やってきました,岩手県盛岡市! 久々の現地入りでの講演ですっ♪ はやぶさに乗りトンネルを抜けると田園風景が広がっている.その雰囲気が柳田の故郷(播磨の國)に酷似している.初めて来た土地なのに,心の奥からこみ上げる懐かしい気持ち.それまで読んでいた本はそっちのけで窓の外の風景から目が離せなかった.

 今回お邪魔したのは岩手県立病院臨床検査学会! SNSを通じて仕事の依頼をいただいたっ(やっててよかったSNS!).特別講演ということで,内容は「ゲノム,免疫染色」そして「柳田の活動」についてリクエストをいただいた.柳田の活動に興味がある人はいるのかい?と思いつつ,全てのリクエストに応えるべく,90分の講演なのに180枚ものスライドを作ってしまった……(←欲張りさん♥).柳田の講演は学会のオオトリ.前半は,一般演題発表……と,その前に「新人紹介」タイム.壇上で県立病院に今年入職したルーキーを,それぞれの先輩技師が紹介するという超素敵イベントが.新人のときは誰もが「受け入れてもらえるかな? 可愛がってもらえるかな?」と不安になるもの.こんなふうに皆の前で自己紹介する機会があって,皆で新しい仲間を受け入れる空気が素敵♪ ルーキー皆,めっちゃ真面目で努力家ばかりっ! しかも,一般演題は12演題もあり,どの発表もレベルが高くてビックリ!

ラボクイズ

心エコー検査

著者: 山村展央

ページ範囲:P.84 - P.84

2022年12月号の解答と解説

著者: 青木朋

ページ範囲:P.85 - P.85

書評

臨床整形超音波学

著者: 山田宏

ページ範囲:P.81 - P.81

運動器超音波のバイブルとなる書

 いつの時代も,世の中を変えるのは若者である.

 運動器超音波を用いて新しい時代の幕を開こうとする若手医師たちの気概が,まさに衝撃波のように伝わってくるのが本書である.

検査値と画像データから読み解く 薬効・副作用評価マニュアル

著者: 石澤啓介

ページ範囲:P.83 - P.83

病棟で輝く薬剤師になるための必携マニュアル本

 薬剤師が患者の薬物療法にかかわるには,客観的指標に基づいた薬の治療効果や副作用を評価する必要がある.特に,病棟においてチーム医療の一員として薬剤業務に従事する際は,臨床検査値や画像データを読み解くスキルが求められる.本書を白衣のポケットに忍ばせておけば,臨床検査・画像検査を活用した薬効・副作用の評価の心強い味方になるはず.現在あるいはこれから病棟で活躍する薬剤師にとって,頼りがいのある一冊となるに違いない.

 本書は,前半は薬効別に分類した代表的な薬の治療効果と副作用の評価について,必要な臨床所見や客観的データを含む種々の確認項目が簡潔にまとめられている.また,薬剤選択のチェックポイントを図表化し,治療開始から評価・介入に至る一連の流れがフローチャートで示されていることで,実践的かつわかりやすい内容となっている.さらに薬剤管理指導記録の記載のポイントに関しても解説しており,病棟で薬剤管理指導を行う際の記録作成の参考となるマニュアルである.

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目次

ページ範囲:P.2 - P.3

『臨床検査』1月号のお知らせ

ページ範囲:P.1 - P.1

あとがき・次号予告

著者: 平石直己

ページ範囲:P.88 - P.88

 明けましておめでとうございます.お手元に届くのは年末とは思いますが,本号が2023年1月号であるため新年のごあいさつをさせていただきました.皆さまにとって2023年がより実りある一年になることを心よりお祈りいたします.

 これまでは編集協力委員として微力ながら活動しておりましたが,この度,編集委員として着任することになりました.若輩者の自分にこのような機会を与えていただきました関係者の皆さまに深く感謝申し上げます.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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