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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術51巻4号

2023年04月発行

雑誌目次

技術講座 微生物

感染症診療に微生物検査を生かすために—迅速同定検査法の有用性

著者: 大瀧博文

ページ範囲:P.434 - P.439

Point

●CLSIガイドラインに記載されている迅速同定検査法について,使いやすいものから導入してみましょう.

●発色酵素基質培地と性状試験を組み合わせた腸内細菌目細菌の簡易同定の仕組みを知り,活用してみましょう.

●さまざまな方法に触れて,単一の方法に依存しない検査室を構築し,どんな状況に置かれてもそのときのベストパフォーマンスができる準備をしましょう.

遺伝子・染色体

マイクロアレイ染色体検査

著者: 涌井敬子

ページ範囲:P.440 - P.449

Point

●マイクロアレイ染色体検査は,分染法では検出が困難な微細な染色体(ゲノム)の不均衡を検出することを目的に開発された,網羅的遺伝学的検査の1つである.

●CGH+SNPアレイは,CNV検出用のCGHプローブと,既知のSNP検出用のSNPプローブを搭載しており,制限酵素処理とCGH解析により,検査対象のCNVとcnLOHを同時に検出する.

●プローブは,ゲノム全域に,疾患の原因となるターゲット領域には高密度に配置されているが,繰り返し配列領域には配置されていない.

●均衡型染色体構造異常は検出できない.CNVに伴う染色体再構成や,男性における偽常染色体領域のCNVがXかYかを特定するためには,分裂像FISH法による追加解析が必要である.

●検出される各CNVと各cnLOHは,病的,非病的だけでなく現時点で臨床的意義が不確定なものも含まれるため,それぞれの臨床的影響については,さまざまなデータベースや文献などを検討し解釈する必要がある.

病理

免疫染色の過染色と染色性減弱の原因と対策

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.450 - P.456

Point

●過染色と染色性減弱の原因は染色の各工程に存在しており,原因を突き止め,その対策を講じられるようになるには“原理と各工程の意味”を理解することが必要.

●“良好な染色性”=“正確な抗原抗体反応”−“非特異反応”+“適切な発色”であり,正確な抗原抗体反応には“抗体濃度,反応時間,抗原と抗体の量”が重要.

●検体の種類や状態も染色性に影響を及ぼすため,染色性が不良な場合は,検体に問題があるのか? あるいは,染色工程に問題があるのか? を確かめるために,精度管理を確実に行う.

生理

高分解能ホルター心電図法による心室遅延電位の測定

著者: 福士広通

ページ範囲:P.458 - P.463

Point

●心室遅延電位(LP)はQRS波の終末部に出現する微小電位で,加算平均心電図法によって検出される.

●LPの測定は心室頻拍や心室細動などの致死性不整脈発生のリスク評価に用いられる.

●LPは日内変動するため,24時間記録可能な高分解能ホルター(Holter)心電図法が有用である.

トピックス

視線計測機器を用いた社会的情報への注目の測定—精神疾患の臨床への応用可能性

著者: 藤岡徹

ページ範囲:P.464 - P.466

はじめに

 “目は口ほどにものを言う”“目が泳ぐ”など,目がかかわる言葉は数多くある.それだけ,目はさまざまなことをわれわれに伝えてくれているということである.目が代表的なものになるが,それ以外にも,ヒトそのもの,ヒトのような動きをするもの(例えば,バイオロジカル・モーションと呼ばれる,点が集まって動いて生物の動きにみえるもの)などは,“社会的情報”といわれる.筆者の独自の定義になってしまうが,対人的もしくは社会的な意味合いを含み他者に影響を与えるもののことを社会的情報と言ってもよいであろう.われわれは,さまざまな社会的情報の影響を受けながら行動を規定しているのである.

抗凝固療法におけるshared decision makingの実践

著者: 矢坂正弘 ,   風川清

ページ範囲:P.468 - P.471

はじめに

 ある疾患に対する治療は,患者の同意に基づいて行われる.患者から同意を得るプロセスとして主にpaternalism,IC(informed consent),そしてSDM(shared decision making)が実践されてきた1,2).抗凝固療法の選択においてはSDMが勧められる.ここでは,おのおのの同意取得プロセスを解説し,抗凝固療法の選択においてSDMを考慮すべき理由とSDMの実践を概説する.

FOCUS

非小細胞肺がん—薬物治療の動向と遺伝子検査の意義

著者: 渡邊広祐

ページ範囲:P.472 - P.474

はじめに

 肺がんは非小細胞肺がんと小細胞肺がんに分けられるが,本稿では肺がんの約8割を占め,遺伝子異常に基づいた個別化医療が実現している非小細胞肺がんの薬物療法に焦点を当てて解説する.

新しいβラクタマーゼ阻害剤

著者: 西村翔

ページ範囲:P.476 - P.478

はじめに

 わが国で利用できる既存のβラクタマーゼ阻害剤はスルバクタム,クラブラン酸,タゾバクタムのいずれかである.これらのβラクタマーゼ阻害剤はβラクタム系抗菌薬との合剤として販売されており,この合剤としての活性は,①βラクタム系抗菌薬の活性と,②βラクタマーゼ阻害薬剤のβラクタマーゼ阻害効果によって決定される.

 βラクタマーゼの産生が問題となるのは主にはグラム陰性桿菌であり,既存のアンピシリン・スルバクタム,アモキシシリン・クラブラン酸(日本では経口製剤のみ),セフォペラゾン・スルバクタム,ピペラシリン・タゾバクタムはいずれも,カルバペネマーゼ産生菌に対する活性はなく,ESBL(extended-spectrum β-lactamase)やAmpCなどの広域βラクタマーゼを産生する腸内細菌目細菌やカルバペネマーゼ非依存性にカルバペネム耐性を示す緑膿菌に対しても安定した活性は期待できない.そこで登場したのが新規のβラクタマーゼ阻害剤の合剤であるセフトロザン・タゾバクタムおよびイミペネム・シラスタチン・レレバクタム(以下,イミペネム・レレバクタム)である.以下ではこれらの2剤の特性を既存薬と比較するかたちで解説する.

病気のはなし

間質性肺炎

著者: 齋藤彩夏 ,   中鉢正太郎

ページ範囲:P.480 - P.485

Point

●間質性肺炎は,胸部X線写真や胸部CT写真で両側肺野にびまん性の陰影が広がる疾患群のうち,肺の間質を炎症や線維化の主座とするものの総称である.

●間質性肺炎は原因が明らかなものと,原因を特定できない特発性の2つに分けられる.

●特発性間質性肺炎(IIPs)のうち最も頻度の高い特発性肺線維症(IPF)に対しては,抗線維化薬の投与により進行抑制や生存期間延長の可能性が報告されており,抗線維化薬の投与が検討されるべきである.

疾患と検査値の推移

気分障害:単極性うつ病,双極性障害(躁うつ病)

著者: 逸見竜次 ,   小曽根基裕

ページ範囲:P.486 - P.492

Point

●気分障害とは,気分や感情,または活動性の低下などの症状を認める精神疾患の総称である.単極性うつ病や双極性障害(躁うつ病)はこの気分障害に分類され,患者数は年々増加傾向にある.

●気分障害において,診断の確定や症状の推移に関連する有用な生物学的マーカーは現時点では確立されていない.

●身体疾患や薬剤を起因として発症することがあり,その鑑別診断のために必要な検査が行われ,使用されている薬剤の全てを確認することが重要である.

●治療に用いられる抗うつ薬,抗精神病薬,気分安定薬により身体的な副作用を生じることがあるため,血液生化学検査や心電図は随時実施される.

過去問deセルフチェック!

肝硬変

ページ範囲:P.457 - P.457

 過去の臨床検査技師国家試験にチャレンジして,知識をブラッシュアップしましょう.以下の問題にチャレンジしていただいたあと,別ページの解答と解説をお読みください.

解答と解説

ページ範囲:P.467 - P.467

 肝硬変は,種々の原因によって生じた肝障害が慢性的に進行した終末像といえる.肝臓本体の小葉構造が破壊され,高度の線維化と再生結節の形成がみられる.このような形態的変化によって肝の循環障害が起こり,門脈圧亢進症状が発生する.肝実質細胞の減少は,肝合成能障害や代謝障害をきたす.

 肝硬変に至る原因の多くはC型肝炎で,次いでアルコール性肝障害,B型肝炎などが挙げられる.また,近年では非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)から肝硬変に進行する例が増加しており,脂肪肝の時点での適切な治療が重要視されている.

臨床検査のピットフォール

多項目自動血球分析装置による幼若血小板比率の評価に注意

著者: 山口ちひろ ,   小池由佳子

ページ範囲:P.494 - P.496

はじめに

 血小板減少症はさまざまな病態により起こり,その病態鑑別は臨床上非常に重要である.骨髄から新生した幼若な血小板である網血小板比率〔reticulated platelets(RP)%〕の測定は,骨髄の血小板造血を間接的に知りうる指標となる.現在,自動測定の1つとして,多項目自動血球分析装置(シスメックス社)を用いて幼若血小板比率(immature platelet fraction:IPF)として測定することが可能であるが,結果の解釈が難しい症例も存在するので,留意する必要がある.

連載 帰ってきた やなさん。・38

父と娘。

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.497 - P.497

 柳田の実家は理髪店だ.私が幼い頃,両親は夜中0時まで働いていた.私には両親と寝た記憶もお風呂に入った記憶もない.父は華道と茶道の師範代というのもあり,礼儀作法,言葉遣い,立ち振る舞いや顔の表情,身なりなどにも厳しかった.例えば朝「おはよう」と言うと「親には“おはようございます”だろ」とひっぱたかれる.しかも親より先に子から挨拶しないとひっぱたかれる……とにかく厳しく躾けられた.私は家にいる時間が一番恐怖で苦痛だった.父に抱きしめられた記憶も手をつないだ記憶もない.私が自分で生計を立てられるようになり独立した日から,父は一切何も言わなくなった.厳しくしたのは,子が親の保護下にいる間の“親としての責任”だったらしい.

 8年前,父は二度脳梗塞となり回復したが,その後,末期の大腸癌(肝転移あり)が見つかった.父はどんなに痛くても,辛くても,「俺のことは心配するな.仕事を頑張りなさい.自分のやりたいことをやりなさい」と常に言っていた.私が仕事でもなんでも全力なのは,幼い頃から父に言われてきた「明日死んでも後悔しないよう,一日一日を全力で生きなさい」という言葉を守るためだ.そしてそれは,父に認められたい一心で必死に守ってきた.月1回以上は帰省し,仕事の話を父にたくさんした.厳しい父に認められたくて褒められたくて必死に生きてきた.だが父は,先日他界した.私は「父に何もできなかった.親不孝者だ」と嘆いていた.その数日後,遺書が出てきた.母宛,兄宛,私宛の手紙も入っており,私宛の手紙には「こんなに親孝行な娘とは思わなかった.君の父になれて 思い出を残せて 感謝」と書いてあった.いままでもこれからも,人生で一番うれしい言葉を父はくれた.私の中にあった大きくて重たい何かが消えて「これでよかったんだ」と思えた.この言葉がなければ,私はこの先ずっと「父に認められたのだろうか.愛されていたのだろうか」と悩み続けたと思う.きっと父は,そんな私の性格をわかっていて,この言葉を書いたのだと思う.いなくなった後までも私を支えてくれる,最高に強くて優しい父だ.「この先も父の自慢となれるよう,全力で生きよう」と次の目標が決まった.

Q&A 読者質問箱

病理検査技師として取得しておきたい資格は何かありますか?

著者: 石田克成

ページ範囲:P.498 - P.501

Q 病理検査技師として取得しておきたい資格は何かありますか?

A 資格を取得する目的はなんでしょう? 皆さんはなんのために資格を取得しますか? 皆さんは誰のために資格を取得しますか? これらの質問には正解はないかもしれません.一人一人の価値観には違いがあるからです.その答えを読者の皆さんと一緒に考えてみたいと思います.

ワンポイントアドバイス

EDTA依存性偽性血小板減少症への対処法

著者: 三島清司

ページ範囲:P.502 - P.503

はじめに

 EDTA(ethylenediaminetetraacetic acid)は血球計数検査に用いられる抗凝固剤であるが,このEDTAが原因となって採血管内で血小板凝集を引き起こすことがある.これをEDTA依存性偽性血小板減少症(EDTA-dependent pseudothrombocytopenia:EDP)という.これは試験管内で起こる現象であるが,自動血球計数装置では凝集した血小板を血小板として計測できないため,誤って血小板減少と判断される可能性もある.このような場合,不要な検査や治療が行われ患者不利益につながる恐れがある.したがって臨床検査技師は,真の血小板減少かEDPかを見極める能力を持ち,EDPの場合には正しい血小板数を算出するための対処方法を理解しておく必要がある.

臨床医からの質問に答える

Candida aurisってなんですか?

著者: 川上小夜子

ページ範囲:P.504 - P.506

公衆衛生上重大な問題となる新興の多剤耐性酵母

 Candida auris(カンジダ・アウリス)は近年世界的に急速な増加が確認された真菌で,病原性が高く多剤耐性で施設内感染(アウトブレイク)を起こしやすいことから,公衆衛生上重大な耐性菌として米国の疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)の「薬剤耐性脅威レポート」で2016年以降urgent threats(最も注意を要する病原体)として位置付けられ,警鐘が鳴らされている新興の多剤耐性酵母(真菌)です1)

ラボクイズ

一般検査

著者: 仲本賢太郎

ページ範囲:P.508 - P.508

2月号の解答と解説

著者: 大沼健一郎

ページ範囲:P.509 - P.509

書評

—超音波・細胞・組織からみた—甲状腺疾患診断アトラス

著者: 坂本穆彦

ページ範囲:P.507 - P.507

甲状腺疾患に興味を持つ全ての人へ

 隈病院(神戸市)はわが国の甲状腺疾患の診療をリードしている専門病院です.この病院で多年にわたり病理診断(細胞診,組織診)を担当されているのが,本書の執筆者である廣川満良先生です.廣川先生は自身で超音波ガイド下穿刺吸引細胞診の検体採取もルーチンで行っている稀有な専門家です.このたび,これまでの幅広い活動の集大成として完成したのが本書です.

 廣川先生が育成し,共に活動している細胞検査士の方々も共同執筆者などに名を連ねています.彼女らは英文論文の執筆や国際学会での発表もこなすスーパー細胞検査士です.活動の一端は巻末の文献リストにも垣間見ることができます.

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目次

ページ範囲:P.432 - P.433

あとがき・次号予告

著者: 横田浩充

ページ範囲:P.510 - P.510

 コロナ禍も4年目に入りましたが,先日,COVID-19の感染症法に基づく分類について,5月8日に二類相当から五類へ移行することが決まりました.「コロナ禍からの脱出,ようやく普通の日常が見えつつある」と報道されています.ここで「普通の日常」とは何を意味するのか.感染防止策とマスク生活が長く,この文言を忘れた感があります.職場では歓送迎会が消え,会議はWebやメールが定着し,対面でのコミュニケーションが減少したことは「普通の日常」ではありません.果たしてコロナ前の生活はいつ戻るのか? ウィズコロナからも脱出できなければ「普通の日常」はありません.コロナ禍の影響に加えて,ウクライナ情勢の長期化は深刻で,円安に起因する海外資源の価格高騰,食品・電気代も上がり,物価高が気になるこの頃です.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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