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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術51巻7号

2023年07月発行

雑誌目次

技術講座 血液

クロスミキシング試験

著者: 内藤澄悦

ページ範囲:P.728 - P.734

Point

●クロスミキシング試験は,凝固時間延長の原因検索に有用な検査法で,凝固因子欠損と凝固因子インヒビターやLAの鑑別が可能である.

●血漿検体の調整では,特に残存血小板数に注意する.

●測定試薬の特性を理解して用いる.特にLA症例では,その感受性の差異が影響する.

●即時反応では,凝固因子欠損やインヒビターは患者血漿比率50%が,LAでは10〜20%のサンプルが検出に有用である.

●即時反応と遅延反応(37℃,2時間)の両方を測定する.凝固因子インヒビターではインキュベーションが必要である.

●現時点では視覚判定が望ましい.視覚判定に苦慮する場合には,ICAなどの定量化指標も,判定の補助としての活用が期待されている.

微生物

薬剤耐性(AMR)ワンヘルスプラットフォームの使い方

著者: 具芳明

ページ範囲:P.736 - P.741

Point

●薬剤耐性(AMR)対策は公衆衛生上の重要課題として国内外で取り組まれており,ヒトだけでなく動物や環境に視野を広げたワンヘルス・アプローチが必要とされています.

●薬剤耐性(AMR)ワンヘルスプラットフォームは,ワンヘルス・アプローチの考え方に基づき,データを活用しやすいかたちで示したプラットフォームとなっています.

●このプラットフォームは,抗菌薬使用状況やAMRの頻度など,全国および都道府県別の知りたい情報を選択することができ,地域での取り組みを推進する際の活用が期待されます.

病理

手術材料の切り出し業務

著者: 田近洋介

ページ範囲:P.742 - P.746

Point

●病理部門の臨床検査技師がすぐに取り組むことができる業務移管(タスク・シフティング)に,手術材料の切り出し業務がある.

●切り出し業務を行う場合に,知識と技術の保障として,日本臨床検査技師会が定める認定病理検査技師制度を用いることができる.

●臨床検査技師が手術材料の切り出し業務を行うにあたり,まずは虫垂,胆囊,ESD検体が取り組みやすい.

●臨床検査技師が手術材料の切り出しを行うことで,医師や臨床検査技師自身だけでなく,患者や医療経済など医療全体によい効果を期待できる.

生理

リウマチ診療における関節超音波検査のコツと評価法

著者: 中山純里 ,   渡邉恒夫

ページ範囲:P.748 - P.755

Point

●正常像の見え方をマスターすることで異常を見つけることができます.

●異常所見に再現性があるか,また異常所見が2平面で確認できるかを常に意識することが大切です.

●関節超音波検査(MUS)は,早期診断や治療効果判定の際のわずかな異常血流を見逃さないためにも低流速検出モードが有用です.

足趾上腕血圧比(TBI)

著者: 馬場理江

ページ範囲:P.756 - P.759

Point

●LEADの非侵襲的機能検査として,ABIだけでは病態を過小評価する可能性があるため,TBIの併用が推奨されています.

●TBI測定時には測定条件を整えることにより,より正しい結果が得られることが期待されます.

●TBI測定結果をそのまま報告するのではなく,その結果が妥当であるか,しっかりと確認することが重要です.

トピックス

認知症の体液バイオマーカー—アルツハイマー病を中心に

著者: 山田正仁

ページ範囲:P.760 - P.763

はじめに

 社会の超高齢化に伴い,認知症の人は急増している.わが国では高齢者の15%以上が認知症を有するものと考えられる.認知症の原因にはアルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD),血管性認知症,レビー小体型認知症,前頭側頭型認知症など,さまざまな疾患があるが,ADが約3分の2を占める.

 ADをはじめとする認知症疾患の確定診断は,脳の病理学的所見による.最近のバイオマーカーの進歩により,生検や剖検により脳を直接見ることなく,脳病理を推定できるようになってきた.それらには画像バイオマーカーと体液バイオマーカーが含まれる.画像バイオマーカーでは脳病理をイメージングする陽電子放出断層撮影(positron emission tomography:PET)が,体液バイオマーカーでは脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)バイオマーカーが臨床応用され,さらに,血液バイオマーカーの開発が進んでいる.

 ADの脳病理は,アミロイドβタンパク質(amyloid β protein:Aβ,老人斑)および異常リン酸化タウタンパク質(phosphorylated tau:p-tau)の蓄積(神経原線維変化,他)を特徴とする(図1).ADの病変形成過程(仮説)と,それを検出する画像検査やCSF検査を図2に示す.

 これまで認知症は臨床症状を軸に理解され診断されてきたが,バイオマーカーに基づき病態・病理を診断し,それを標的とした治療〔疾患修飾療法(disease-modifying therapy:DMT)〕へと結びつけていく時代が始まった.本稿ではADに焦点を当て,CSF・血液バイオマーカーについて概説する.

直腸肛門機能検査

著者: 伊禮靖苗 ,   高野正太 ,   中島みどり

ページ範囲:P.764 - P.767

はじめに

 直腸肛門機能障害は下記の病態・原因が単独または重複して起こることによって発症する.
①便通異常(便性の異常)
②便保持力の低下(肛門括約筋,肛門挙筋,クッション組織の障害)
③直腸肛門の感覚異常(脳脊髄神経障害,末梢神経障害)
④便排出能の低下(腹圧低下,骨盤底筋協調運動障害)
⑤直腸容量の低下(直腸肛門の形態異常,コンプライアンス)

 直腸肛門機能検査は便の保持と排泄を客観的かつ定量的に評価し,直腸肛門機能障害の病因の検索および治療方針決定に寄与する.また,便失禁スコア(Wexner score1),Kirwan grade2))や便秘スコア(constipation scoring system3))などと合わせて治療効果判定に寄与する.本稿では医科診療報酬において,D233直腸肛門機能検査と定義される直腸肛門内圧測定としての直腸肛門内圧検査,直腸肛門反射検査,直腸感覚検査について解説する.

FOCUS

非痙攣性てんかんにおける脳波検査の有用性

著者: 本多満

ページ範囲:P.768 - P.771

はじめに

 てんかんは痙攣を起こすことが多いが,必ずしもてんかんと痙攣はイコールではない.痙攣を起こすてんかんは視覚的にわかりやすいが,起こさないてんかんも多く,その際には脳波(electroencephalogram:EEG)検査が非常に有用である.逆に,痙攣を起こしても必ずしもてんかんではないことがあるために,その診断にも脳波が有用となる.わが国は超高齢社会となり,てんかん患者が増加している.また,救急・集中治療領域における治療の高度化により,意識状態を評価する代わりに客観的に中枢神経機能を評価する検査としての脳波の重要性がさらに増していくと思われる.

 ここでは痙攣のない高齢者のてんかんと,救急・集中治療領域の非痙攣性てんかんに関して述べる.

経皮的左心耳閉鎖デバイス

著者: 加藤克

ページ範囲:P.772 - P.776

はじめに

 心房細動(atrial fibrillation:AF)患者の治療方針の決定に際しては,心原性脳塞栓症の発症を抑えるため基本的には抗凝固療法の適応があり,禁忌がないと判断された患者には,適切な抗凝固薬による薬物療法が第一選択の治療法として推奨される.一方で,脳卒中のリスクが高く,長期的に抗凝固療法が推奨される患者のうち出血リスクの高い患者に対しては,長期的抗凝固療法の代替として,WATCHMAN左心耳閉鎖(left atrial appendage closure:LAAC)デバイスが2019年9月に日本でも保険適用された.2021年5月頃から第二世代のLAACデバイス(WATCHMAN FLX)が登場し,国内では2022年12月時点で約115施設にて約3,300症例実施されている.

病気のはなし

サルコイドーシス

著者: 加治正憲 ,   山澤稚子

ページ範囲:P.778 - P.783

Point

●サルコイドーシスは,肺,心臓,皮膚,眼,神経など全身に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を形成する原因不明の疾患である.

●自然に軽快し治療を要さない症例から,肺および心臓の病変の進行によって致死的な転帰をとる症例まで,重症度はさまざまである.

●女性にやや多くみられる疾患で,かつては健診の胸部X線異常を契機に診断される症例が半数以上であったが,現在では有症状で病院を受診して診断される症例が半数を超えた.

●治療にはステロイドや免疫抑制薬が用いられ,進行性の肺線維化を伴う症例では抗線維化薬(ニンテダニブ)が使用される.

過去問deセルフチェック!

グラム染色

ページ範囲:P.747 - P.747

 過去の臨床検査技師国家試験にチャレンジして,知識をブラッシュアップしましょう.以下の問題にチャレンジしていただいたあと,別ページの解答と解説をお読みください.

解答と解説

ページ範囲:P.789 - P.789

 グラム(Gram)染色問題を読み解くには,①グラム染色性,②形態と配列,③検査材料,④患者情報などの培養前の情報が起因菌推定に役立ちます.①と②の情報による形態学からの菌種推定,③と④の情報による臨床的な菌種推定という2つの角度からのアプローチとなります.

 ①,②については,ブドウ状・連鎖状,柵状配列であるなどの形態,連鎖の長さ(双球状,4連以上など),莢膜の存在や集塊形成などの情報が菌種推定に役立ちます.教科書にもカラー写真で代表的な細菌のグラム染色写真が掲載されていますので,参考にするとよいでしょう.③については,感染臓器との親和性が高いものが推定起因菌候補として挙げられます.喀痰であれば肺炎球菌やインフルエンザ桿菌,Moraxella catarrhalisなど肺炎の起因菌を中心に考慮していくことが基本です.④の患者情報も,年齢・免疫状態により想定される起因菌が異なる場合があるなど重要な情報となります.特に問題1で示されている細菌性髄膜炎については推定菌が明確となるため,新生児期,乳幼児期以降,成人,高齢者,免疫不全など整理して覚えておくとよいでしょう.

臨床検査のピットフォール

質量分析装置における同定のピットフォール

著者: 服部拓哉

ページ範囲:P.784 - P.787

はじめに

 薬剤耐性菌の蔓延や抗菌薬適正使用の観点から,微生物の迅速かつ正確な同定がますます重要となっている.形態学的および生化学的性状に基づく菌名同定検査は,現在多くの病院検査室で利用されており,結果が出るまでに数時間から数日を要する.16S rRNA解析などの分子生物学的手法は,正確な同定や通常の培養では発育困難な菌の検出には優れているが,手技が煩雑であり,多量の検体を扱う病院検査室での日常運用では現実的ではない.そしてどちらの同定手法も,迅速性が大きな課題である.

 マトリックス支援レーザー脱離・イオン化−飛行時間型質量分析(matrix assisted laser desorption/ionization-time of flight mass spectrometry:MALDI-TOF MS)法は,微生物(主にリボソームタンパク質)からスペクトル取得を行い,データベースとの照合により菌名同定を行う手法である.日本国内では,2011年よりバイテックMS(ビオメリュー・ジャパン社)とMALDIバイオタイパー(ブルカージャパン社)の質量分析装置2機種が医療現場で利用されている.本法による微生物同定は生化学物質の反応を必要としないので,わずかな菌量かつ短時間での同定が可能である.これまでの同定手法で課題とされてきた迅速性の問題を解決する糸口となった.

Q&A 読者質問箱

心筋梗塞は,心筋が壊死して元に戻らない状態を言うのに,なぜ自然再灌流が起こることがあるのでしょうか?

著者: 相川博音

ページ範囲:P.790 - P.792

Q 心筋梗塞は,心筋が壊死して元に戻らない状態を言うのに,なぜ自然再灌流が起こることがあるのでしょうか?

A 閉塞冠動脈に再灌流が生じるかどうかは,心筋に可逆性があるかどうかに依存するわけではありません.閉塞血管の再灌流は,後にお話しする線溶系の作用で血栓が溶解することにより生じます.そのときに心筋が完全に壊死していなければ病変部の壁運動の改善が期待できますが,壊死していればそのまま瘢痕組織に置換されていきます.つまり後者の状態が,質問の“心筋が壊死しているのに自然再灌流が起こる”という状態かと推察します.

ワンポイントアドバイス

新型コロナウイルス(COVID-19)—リアルタイムRT-qPCRのCt値の考え方

著者: 米谷正太

ページ範囲:P.794 - P.795

はじめに

 新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の診断法として,遺伝子検査は感度が高く,感染初期の診断も可能であり広く臨床応用されている.本稿では,COVID-19の検査におけるリアルタイムRT-qPCR(reverse transcription-quantitative PCR)のCt(cycle threshold)値の考え方について整理したい.

臨床医からの質問に答える

造血器腫瘍でG分染法とFISH法で結果が違うのはなぜですか?

著者: 園山政行 ,   伊東穂高

ページ範囲:P.796 - P.799

はじめに

 G分染法は,1細胞のゲノム異常を形態異常として網羅して観察できる利点があり,1970年代に開発されました.この革新的な技術により,1973年にフィラデルフィア染色体が9番と22番染色体の相互転座であることが解明されました.それ以降,造血器腫瘍で転座切断点における腫瘍関連遺伝子がクローニングされ,1980年代に開発されたFISH(fluorescence in situ hybridization)法は間期核も対象になることから,臨床応用されるようになりました.本稿では,両法の乖離例を示し,分析結果の解釈などについて解説します.

連載 帰ってきた やなさん。・41

初めての本冒険

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.801 - P.801

 柳田は読書好きだ.どのくらい好きかというと……1ページ開くと,その日は何もできなくなる.1冊読み終わるまで,ひたすら読み続けるのだ.食事? 睡眠? そんなことより読書だ! 何時間も読んでしまい,人としての生活をおろそかにしてしまう.だから,基本的に本は読まないことにしているのだ.しかし,おもしろい本屋を知ってしまった.あらかじめブックカバーされ,中身がわからない状態の本を売っている本屋だ.タイトルはわからないが,その本がどんな内容かヒントだけ書かれた紙がついているのだ.本を購入し,封を開けるまで,タイトルもストーリーもわからないのだ.

 ここで伝えておきたい柳田の性格.①柳田は何に関しても「これだ」と思ったものだけをひたすら追求する性格であり,本だけでなく食べ物,音楽,絵画,持ち物……何においても,気に入ったものだけを求め続けてしまう.そのせいで,読む本は“好きな作家”が書いた作品だけを,片っ端から読み尽くす……というこだわりをもっている.だから,その作家の新刊が出るまで読むものがないのだ.そこで柳田は今回,この本屋で初の冒険をすることにしたのだ! 本屋に行くと……カバーされた本がズラッと並んでいた.大きさや厚さはさまざまだが,どれも同じ柄のカバーがされていた.

Laboratory Practice 〈精度管理〉

compaRison—Rを用いた方法間比較のウェブアプリケーション

著者: 石原裕也 ,   藤井亮輔

ページ範囲:P.802 - P.805

はじめに

 臨床検査分野(主に検体検査)の日常業務において,試薬や測定機器の変更に伴い,新旧測定法の比較を行う機会は多い.目的に応じて適切な定量的な統計解析が行われるが,まず相関分析(correlation analysis)や回帰分析(regression analysis)が挙げられる.また,新旧測定法の関係式を検討する場合,通常の最小二乗法(ordinary least squares method)が用いられている.しかし,Y軸のみに誤差があると仮定した最小二乗法に対して,最近では,いずれの測定法においても測定誤差があると仮定したDeming法1)やPassing-Bablok(P-B)法2)が用いられる事例も増えている.その他にも,測定法の一致度の検証を行う主な解析方法として,Bland-Altman(B-A)プロット3)が挙げられる.

 しかし,Deming法,P-B法,B-Aプロットを実際に行う場合,商用の統計ソフトウエア(有償)や日本臨床化学会(Japan Society of Clinical Chemistry:JSCC)が提供しているファイルが必要になるため,誰でも簡単に使用でき,柔軟かつわかりやすいインターフェースをもつツールは限られている.

 本誌49巻7号では,誰でも無料で使用できる統計解析ソフトウエアであるR(https://cran.r-project.org/)を用いて測定法の比較を行う方法が紹介された4).しかし,Rの環境設定やその後の操作は,初心者にとって煩雑でハードルが非常に高い.そこで,筆者らはRを用いた測定法の比較の解析をウェブで簡単に実施できるアプリケーション「compaRison」(以下,本アプリ)を開発し公開した(https://rf-epidemiol.shinyapps.io/compaRison/,ソースコードのリンクhttps://github.com/fujichaaan/compaRison).本アプリの特徴として,①さまざまなデータ形式が読み込める点,②複数の回帰分析を同時に扱える点,③シンプルかつ自由度の高いユーザーインターフェースで実施できる点,④無償で使用できる点が挙げられる.本稿では,本アプリに搭載されているExample dataを用いて,機能や使用方法について詳説する(2023年2月時点).

ラボクイズ

超音波検査

著者: 石田啓介

ページ範囲:P.806 - P.806

6月号の解答と解説

著者: 横山千恵

ページ範囲:P.807 - P.807

INFORMATION

2023年(第39回)「緒方富雄賞」候補者推薦のお願い

ページ範囲:P.746 - P.746

一級臨床検査士資格認定試験

ページ範囲:P.776 - P.776

POCT測定認定士資格認定試験

ページ範囲:P.787 - P.787

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『臨床検査』7月号のお知らせ

ページ範囲:P.725 - P.725

目次

ページ範囲:P.726 - P.727

あとがき・次号予告

著者: 平石直己

ページ範囲:P.808 - P.808

 先日,娘のバレエの発表会を見に行ってきました.コロナも落ち着いてきたことで,今回は観客を入れての発表会ということもあり,娘も発表会当日は緊張の面持ちでした.

 芸術関係に疎いため,自分にとっては娘の発表会が芸術と触れ合う唯一ともいえる機会であり,クラシック音楽の中に身をおくこともバレエを鑑賞することも,新鮮に感じました.小さく可愛いバレエダンサーたちは,発表会当日に最高のパフォーマンスを発揮できるよう一生懸命練習に励んできました.そして,この日のために用意した綺麗な衣装を身にまとい,指先からつま先まで神経を張り巡らせて,力いっぱい踊っているその姿が本当に印象的でした.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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