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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術52巻1号

2024年01月発行

雑誌目次

技術講座 一般

Bence Jones protein(BJP)の検査—温故知新

著者: 井本真由美

ページ範囲:P.4 - P.10

Point

●BJPは,モノクローナルな免疫グロブリンのL鎖であり,多発性骨髄腫や原発性マクログロブリン血症の約60%に出現する.

●BJPの分子量は22000〜45000(単量体もしくは二量体)と小さいため,血液中に存在しても容易に腎糸球体で濾過されて尿中に排出され,尿タンパクとして検出される.

●BJPの検出は,タンパク分画泳動法(血清,尿),免疫電気泳動法(免疫固定法)(血清,尿),血清遊離軽鎖(FLC)定量およびκ/λ比で行う.スクリーニング法として,尿タンパク試験紙の反応や,尿BJPの熱凝固反応性を利用したPutnam法がある.

●尿BJPはかつて,尿タンパク試験紙には反応しない(反応し難い)とされていたが,筆者らの検証により,特殊な場合以外は反応することが確認された.

●尿BJPの熱凝固反応性を利用したPutnam法の検出感度は10〜20mg/dLである.

微生物

上手なグラム染色標本の作り方と標本から病態を読み解く鏡検のコツ

著者: 永田邦昭

ページ範囲:P.12 - P.17

Point

●塗抹検査はまず病巣より得られた検体を肉眼的に評価することから始まります.ここで選択を誤ると診療に役立つ情報は得られません.

●検体の質に応じた塗り広げ方の工夫が大切.検体に潜む病原菌を染め出す適度の塗抹の厚みが重要になってきます.

●染色ミスの原因は標本に残る水分による媒染・脱色液の希釈.水洗後はよく水を切り十分量の液を一気に注いでスライド全面を覆います.

●患者標本やアトラスなどで検体ごとの代表的な病原菌を理解し,経験者との“目合わせ”もしながら例外的な症例への対処を心掛けます.

病理

病理学的検査におけるISO15189の要求事項への対応

著者: 浅見英一 ,   赤松達哉 ,   黒川彩子

ページ範囲:P.18 - P.24

Point

●ISO15189は,国際標準化機構(ISO)から出された,臨床検査室のための品質と能力に関する要求事項です.

●検査室の精確な結果を提供する能力や,検査結果の管理が審査されます.

●ISO15189の認定取得を目指すには,自分たちに合った分かりやすいルールを,要求事項に沿って作成,実施することが重要です.

●審査では,作成した手順書の記載通りに検査が行われているか確認されます.

生理

パルスオキシメータの原理と解釈

著者: 原口実紗

ページ範囲:P.26 - P.31

Point

●パルスオキシメータは,酸素飽和度を非侵襲かつ連続的に測定できる機器であり,脈拍数とPaO2の推測が可能である.

●SpO2は,赤色光と赤外光が組織を透過する量の変化を測定することで算出されている.そのため,プローブのサイズや装着方法にも注意が必要である.

●SpO2に異常が疑われる場合は,測定値に影響を及ぼす因子を考慮し,血液ガスの確認も念頭に置いて検査することが重要である.

その他

抗好中球細胞質抗体検査

著者: 川嶋聡子

ページ範囲:P.32 - P.36

Point

●抗好中球細胞質抗体(ANCA)は,ANCA関連血管炎における診断,および疾患活動性を反映する有用な自己抗体である.

●ANCA測定の優先順位は,EIA法を第一選択とし,ANCA陰性例や低力価の場合にEIA法での再検査を行い,IIF法で確認する.

●ANCA陰性や偽陽性,疾患活動性と一致しない症例,持続陽性症例も一定の割合で存在するため,臨床症状やその他の検査所見などから総合的に判断する必要がある.

トピックス

造影超音波検査における臨床検査技師の役割—タスクシフト/シェアで変化した技師の業務

著者: 山本幸治

ページ範囲:P.38 - P.41

済生会松阪総合病院におけるタスクシフト/シェア業務の推進

 済生会松阪総合病院(以下,当院)では2021年9月にタスクシフト/シェア業務を推進するため,看護師の特定医行為,臨床検査技師・診療放射線技師・臨床工学技士の業務拡大に関して病院長ら幹部3役が参加する委員会が開催された.委員会では,臨床検査技師に新たに法改正で認められた10行為と現行制度下で実施可能な業務が推進された.その中でも,造影超音波検査の業務については業務体制を整えた上で実施可能と考えられるため,臨床検査課(以下,当課)内で実現に向けてプロジェクトチームが結成された.

 タスクシフト/シェアについては,当課スタッフには早期から国の示す方向性や動向の進捗状況を全体カンファレンスで随時周知することで,理解を深めることやモチベーションを高めることを行ってきた.当課では,これまでに患者への検査説明や病棟採血,検体採取などの業務を積極的に実施してきており,今回の新たな業務を推進するにあたっては,スタッフから侵襲を伴う業務についての不安が多少聞かれたが大きな問題はなくおおむね理解が得られている.また,新たな業務を推進するための準備として,課内で活動するスタッフが中心となって業務の効率化に取り組んでいる.現在,皆が積極的に厚生労働大臣指定講習会を受講し,2023年10月現在33名が研修を修了している.

FFPE検体を対象としたRNAscope解析

著者: 松﨑生笛

ページ範囲:P.42 - P.44

はじめに

 RNAscopeTMとは,RNA in situ hybridization(RNA-ISH)法の1つで,従来のRNA-ISH法と比較して,mRNAを高感度に検出・視覚化できる.RNAscopeは,ホルマリン固定パラフィン包埋(formalin-fixed paraffin-embedded:FFPE)組織検体にも適用でき,臨床応用への期待が高まっている.本稿では,RNAscopeの概要について解説する.

FOCUS

COVID-19ワクチン接種後の血小板減少

著者: 安本篤史

ページ範囲:P.46 - P.48

はじめに

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを収束させるために複数のワクチンが開発された.ワクチンの優れた効果の一方で副反応が問題視され,血小板減少症や血栓症は致死的であり注目された.COVID-19ワクチン接種後に引き起こされる血小板減少症として,ワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症(vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia:VITT),免疫性血小板減少症(immune thrombocytopenia:ITP),血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)が報告されており,本稿ではこれらの疾患について概説する.

右心機能評価のポイント

著者: 竹村盛二朗 ,   小谷敦志

ページ範囲:P.50 - P.53

はじめに

 近年,さまざまな疾患で,右心機能の重要性が注目を集めている.右室は胸骨後面近くに位置し,その形態の複雑さから,従来心エコー図法では定量評価に限界があったが,有用な新手法が開発されてきた.本稿では,ルーチン検査における心エコー図法を用いた右心機能評価方法と計測時留意点について解説する.

病気のはなし

特発性血小板減少性紫斑病—一次性免疫性血小板減少症

著者: 柏木浩和

ページ範囲:P.54 - P.60

Point

●特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は主に抗血小板自己抗体による血小板破壊と血小板産生障害により血小板減少が生じる自己免疫疾患である.

●ITPの診断は除外診断が中心であるが,最近,幼若血小板比率(IPF%)・網状血小板比率(RP%)と血中トロンボポエチン(TPO)濃度を組み入れた診断基準が提唱されている.

●成人ITPの治療は,ピロリ菌関連ITPを除外した後,血小板数および臨床症状に応じて治療適応を判断する.

●副腎皮質ステロイド無効・不耐例では,TPO受容体作動薬,リツキシマブ,脾臓摘出術から治療を選択する.最近,新たにSyk阻害薬(ホスタマチニブ)が使用可能となっている.

過去問deセルフチェック!

骨代謝マーカー

ページ範囲:P.45 - P.45

 過去の臨床検査技師国家試験にチャレンジして,知識をブラッシュアップしましょう.以下の問題にチャレンジしていただいたあと,別ページの解答と解説をお読みください.

解答と解説

ページ範囲:P.61 - P.61

 超高齢社会の日本において,骨粗鬆症の患者は年々増加している.「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」によると,患者数は1,280万人(男性300万人,女性980万人)と推計されている.今後も後期高齢者の増加が顕著であることから,骨粗鬆症患者は増加すると推定されている.

 骨粗鬆症は女性の更年期以降に発症しやすく,骨量・骨密度の減少,骨質の劣化により骨折しやすくなる疾患である.高齢者の骨折はQOLを低下させ,要介護状態に陥る原因となりうるため,骨粗鬆症の予防が重要となる.このような背景において,骨代謝マーカーの測定が,骨粗鬆症の診療に利用されている.骨代謝マーカーは骨代謝の結果生成される物質で,骨代謝の状態を知る指標となる.骨代謝マーカーには骨形成マーカーと骨吸収マーカーがある.

臨床検査のピットフォール

HbA1c測定とデータ解釈のピットフォール

著者: 佐藤麻子

ページ範囲:P.62 - P.64

はじめに

 糖尿病は慢性疾患であり,長期にわたり血糖値を良好に保つ必要がある.しかし,血糖値は食事の種類や量,そして活動量の影響下で,刻々と変化している.このため,血糖値のみではなく,ある程度長期間の平均血糖値を反映する指標が必要である.その1つであるHbA1c(hemoglobin A1c)は,赤血球中のヘモグロビンが,血中を循環しているあいだにグルコースと非酵素的に結合した糖化タンパクである.HbA1c値は,過去約2カ月の血糖コントロールの指標として,臨床上汎用されている.

 本稿では,HbA1c測定とその値の解釈において,落とし穴に落ちないための注意点について述べる.

ワンポイントアドバイス

経頭蓋内エコー(TC-CFI)のコツ

著者: 住ノ江功夫

ページ範囲:P.66 - P.67

はじめに

 今回は,頸動脈エコーを検査する方が,一度は興味をもつ経頭蓋エコー(transcranial color flow image:TC-CFI)について述べます.

 多くの方が,直接頭蓋内の病変を確認したい! とチャレンジするものの,きれいに血流がとれずに挫折した経験があるのではないでしょうか.姫路赤十字病院では,頸動脈エコー後にTC-CFIを一連の検査として行い,症例を重ねてきました.その中で得たコツについて述べます.

臨床医からの質問に答える

下肢静脈エコー,この血栓は飛びそうですか?

著者: 船水康陽

ページ範囲:P.68 - P.71

深部静脈血栓症(DVT)は肺血栓塞栓症(PTE)の大きなリスクファクター

 肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PTE)と深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)は一連の病態であることから,静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)と総称されます.肺動脈が血栓塞栓子により閉塞する疾患がPTEであり,その塞栓源の約90%は下肢あるいは骨盤内の静脈で形成された血栓です1).つまり,DVTはPTEの大きなリスクファクターです.

 下肢の深部静脈で大きな血栓が形成され,遊離して塞栓化した場合,肺血管床の閉塞具合によりショック状態や突然死に至る可能性があります.また,下肢に血栓が残存している場合,引き続いての血栓遊離によりさらなるPTEが生じる可能性があります.診療ではこれらに注意が必要なため検査室に依頼医師より問い合わせがくることがあります.

オピニオン

臨床検査技師の学校教育と現場教育のギャップ

著者: 阿部直也

ページ範囲:P.72 - P.73

はじめに

 ジェネレーションギャップが現在のトピックスかというと,そうではない.価値観の移り変わりとともに,それぞれの世代の間にジェネレーションギャップは常に存在し「近頃の若者は……」とか「新人類」といわれてきた.本稿と同様のテーマで2022年に第30回首都圏支部・関甲信支部病理細胞検査研修会で講演した際には,非常にたくさんの共感や意見を寄せていただいた.この場を借りて御礼申し上げたい.こうして皆さんの関心事となっているのは,そのギャップが過去にないほど大きく感じられるからであろうと推察する.約10年の病院勤務を経た後,教員となった筆者の経験から見えてきた実情と,業務を回すためベテランと若手がお互いに歩み寄るためにはどうするのがよいのか,その一部をお話ししたい.

連載 やなさん。NY留学記・4

AI Pathologyラボに所属する!

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.75 - P.75

 現在,柳田は“Oncology(腫瘍領域)専門病院 世界ランキング2023”で世界第2位に選出された医療施設のAI pathologyラボで働いている! AI pathologyとは,Artificial Intelligence(人工知能)と病理検査・病理診断の融合である.日本でも数年前から厚生労働省が保健医療分野におけるAI活用推進に着手しており,医療分野にAIを応用した研究・開発が進み始めている.これからドンドン進歩していく分野だ.分かりやすい例だと,“レントゲンやCTの画像から,どこに異常所見があるか? その所見から何の病気が疑われるか? をAIが判断して答えを出す”といったものだ.これに似たことが病理検査・病理診断にも応用できるが,実際は病理標本画像では症例や臓器などが多彩すぎることや,染色により“色”があることなどで,結構難しい.病理標本画像から細胞の核の大きさを計測したり,細胞数を数えたりする市販の画像解析ソフトウエアもあるが,それらもAI Pathologyの1つといえよう.

ラボクイズ

病理検査

著者: 三宅真司

ページ範囲:P.76 - P.76

2023年12月号の解答と解説

著者: 三好雅士

ページ範囲:P.77 - P.77

書評

—入職1年目から現場で活かせる!—こころが動く医療コミュニケーション読本

著者: 竹林崇

ページ範囲:P.74 - P.74

コミュニケーションに迷うならば手に取ってほしい1冊

 医療において,コミュニケーションは基盤となる知識および技術である.どれだけ確実性の高い医療技術があったとしても,それを施術してその後のサポートを行う医療従事者に対する納得と信頼を得られなければ,対象者はそれらの技術は選ばないかもしれない.また仮に選んだとしても,医療従事者に対する不信は,対象者の心身の予後を悪化させる可能性もある.これらの観点から,医療者がコミュニケーションを学ぶことは,エビデンスや知識・技術を学ぶことと同様,非常に重要なものであると考えている.

 しかしながら,医療者におけるコミュニケーションについては,養成校などでも特化した授業が少なく,また経験的に実施してきた先人も多いため,エビデンスを基盤としたコミュニケーション技術に対する教育はいまだに確立されていない.一方,情報化の時代がさらに加速する昨今,医療事故やミスに関する報道が一気に加熱することで医療に対する対象者の不信感が過去に比べて膨らんだという社会的背景もあり,コミュニケーションや接遇に対する必要性がより一層重視されている.

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目次

ページ範囲:P.2 - P.3

『臨床検査』1月号のお知らせ

ページ範囲:P.1 - P.1

あとがき・次号予告

著者: 八鍬恒芳

ページ範囲:P.78 - P.78

 秋の学会シーズン真ただ中の時期にこのあとがきを記しています.最近の超音波検査の学会では,AIに関するセッションが必ずといっていいほど組み込まれているようになりました.参加した学会では,超音波を走査しながらリアルタイムでAIが上肢の神経の像を認識し追従する動画を見ましたが,個人的にかなり衝撃を受けました.神経自体のエコーがまだそれほど広まっていないなかで,その分野に長けている方はさらにその先を見据えている印象でした.その他,AIを使った自動計測やプローブ走査法の修正(AIによるアドバイス)などが話題に挙がっていました.また,リンパ管エコーや本号でも掲載されている経頭蓋内エコーなど,今まであまり取り上げていない領域を集めたセッションもあり,内容の新鮮さに感銘を受けました.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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