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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術52巻11号

2024年11月発行

雑誌目次

技術講座 一般

—step up編—検査室における寄生虫の同定—寄生虫の形態学的検査と遺伝子検査

著者: 鈴木淳

ページ範囲:P.1084 - P.1090

Point

●現在,国内の寄生虫症は限定的で,アニサキス,赤痢アメーバ,腟トリコモナス,蟯虫,日本海裂頭条虫などが主な原因寄生虫である.

●アニサキス,赤痢アメーバなどの寄生虫は,形態学的な検査による種レベルの同定が困難な場合がある.

●遺伝子検査に供する線虫,条虫など蠕虫類の化学固定は,ホルマリンを避けエタノールの使用が推奨される.

●寄生虫の形態学的検査と遺伝子検査の併用により,寄生虫検査の技術向上につながる.

血液

奇形赤血球の判定方法と臨床的意義

著者: 菅原新吾

ページ範囲:P.1092 - P.1098

Point

●奇形赤血球は溶血性貧血,遺伝性疾患,鉄欠乏,異常ヘモグロビン症,骨髄線維症,癌の骨髄転移など,さまざまな病態で出現します.

●奇形赤血球は球状赤血球,破砕赤血球,涙滴赤血球などと形状表現されますが,形態は多様であり同義語としても多数の名称があります.

●奇形赤血球を判定・報告するためには,事前学習,判定に必要な特徴の認識,判定のルール,報告基準,1,000個以上のカウントによる比率の算出が大切です.

生化学

液体クロマトグラフィー・質量分析(LC-MS/MS)システムを用いた血中ビタミンD濃度測定の有用性

著者: 古谷裕 ,   越智小枝

ページ範囲:P.1100 - P.1105

Point

●ビタミンDは骨だけでなくさまざまな疾患に関与する多機能因子であり,ビタミンD充足度の測定の重要性が増している.

●自動前処理システムと液体クロマトグラフィー・質量分析器を用いて25(OH)Dの代謝産物や光学異性体を簡便かつ迅速に自動測定できるようになった.

●上記機器を用いた健常者の血清25(OH)Dマススクリーニングでは98%が「ビタミンD欠乏・欠損」に該当し,より精密なビタミンD充足度マーカーの必要性が示唆された.

●質量分析器を用いることにより代謝産物や光学異性体や関連因子などを同時に測定するマルチプレックス検査が可能となる.

生理

—step up編—超音波検査による骨格筋評価—サルコペニア予防への応用

著者: 渡邉恒夫

ページ範囲:P.1106 - P.1110

Point

●超音波検査は加齢に伴うさまざまな骨格筋変化を捉えることができます.

●筋厚や筋輝度は簡単に検査できる評価法であり,得られる情報はとても有用です.

●骨格筋の超音波検査には高度な技術が必要というわけではありませんが,得られる値の信頼性を担保することと,多くの研究によるデータの蓄積が重要です.

シリーズ 病態生理から読み解く腹部エコー検査・7 各論

腎臓疾患を読み解く腹部エコー検査のポイント

著者: 関根智紀 ,   林涼子 ,   木内清恵 ,   志村謙次

ページ範囲:P.1112 - P.1118

Point

●腎疾患を読み解く腹部エコー検査は,尿検査と結び付けて進めます.

●腹部エコー検査で分かることは,形態の変化と血流の情報です.尿沈渣で分かる白血球の分画,異常な細胞レベルの出現などは分かりません.

●腎疾患を読み解く判読は,ファースト・セカンドコンタクト,さらに経験知を加えて進めます.

トピックス

「循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン」改訂のポイント

著者: 葛西隆敏

ページ範囲:P.1120 - P.1122

はじめに

 睡眠呼吸障害(sleep disordered breathing:SDB)は頻度が高い睡眠障害で,日中の眠気に関連した交通事故の原因となり,循環器疾患を含む生活習慣病のリスクとなる.わが国では2005年に睡眠呼吸障害研究会から「成人の睡眠時無呼吸症候群 診断と治療のためのガイドライン」が,2010年に日本循環器学会から「循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン」が発出された.その後,2020年に日本呼吸器学会が中心となり2017年末までのエビデンスをとりまとめた「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」が発刊され1),診療ガイドとして用いられてきた.さらに,2018年以降のエビデンスも包含する形で2023年3月「2023年改訂版 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン」が発刊された2).今回,この「2023年改訂版 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン」の改訂のポイントについてまとめる.

うつ病の客観的血液指標を求めて—メタボローム解析

著者: 康東天 ,   瀬戸山大樹 ,   加藤隆弘

ページ範囲:P.1124 - P.1126

はじめに

 うつ病は気分障害の1つで,抑うつ気分と興味・喜びの喪失を主症状とし,自殺関連行動と最も関連のある疾患の1つでもある1).日本の生涯有病率は約10%で,現代社会のストレスの増加に伴い,うつ病の発症率も増加傾向にある.うつ病は職場離脱の主要な原因になることが多く,社会経済的な問題としてもますます注目を集めている.社会的ストレスの増加とうつ病の関連は,十分に対策が取られていない世界的な社会問題(unmet needs)として世界保健機関(WHO)も取り上げている2)

 このように,うつ病の早期発見と正確な重症度判断の重要性が増しているが,その診断は依然として精神科医の問診などによる主観的判断に依存しており,精神科医の経験と専門的技量に強く依存している.また,その診断にはかなりの時間がかかり,専門医の数が不足している現状では世界的な問題となっている.臨床検査の役割は客観的指標を提供することであり,現状では臨床検査がうつ病の診断にほとんど寄与していないといえる.

 そこで九州大学病院(以下,当院)の検査部は,精神科との共同研究のもと,うつ病に対する客観的パラメーターの提供と効率的な診断への寄与を目指し,2014年からメタボローム解析を開始した.

FOCUS

医療DX:臨床検査のイノベーション—臨床検査がより社会と密接になる時代へ

著者: 川崎健治

ページ範囲:P.1128 - P.1131

はじめに

 2025年4月から電子カルテ情報共有サービス*1が始まり,医療DXがいよいよ本格的に幕開けとなる.日本政府は遅くとも2030年にはおおむね全ての医療機関において,必要な患者の医療情報を共有するための標準型電子カルテの導入を目指すとしている.この改革は,これまで病院内に格納されていた3文書6情報(診療情報提供書・退院時サマリー,傷病名・検査結果*2・アレルギー・感染症・薬剤禁忌・処方)が地域の医療機関や患者自身で閲覧できるようになり,診療情報が施設外または個人の元に開放されることを意味する.診療情報管理のパラダイムシフトである.臨床検査がより社会と密接になる時代へと進む*3

 本稿では,これからの臨床検査を発展させていく原動力となる若手臨床検査技師(以下,若手技師)や学生に向けて,2030年の医療DXのあるべき姿をイメージしながら,“いま”取り組むべき課題について私見を述べたい.

持続皮下グルコース検査は臨床でどのように用いられているか

著者: 三家登喜夫

ページ範囲:P.1132 - P.1135

持続皮下グルコース検査とは

 糖尿病患者に存在する高血糖を治療せずに放置すると慢性合併症が発症/進展することから,生活習慣の是正や薬物などにより血糖変動をなるべく健常者に近づける治療が行われている.その際,血糖値を医療機関にて測定し治療に生かしてきたが,インスリン治療患者などでは患者自身が自分で血糖値を測定(血糖自己測定,self-monitoring of blood glucose:SMBG)することが保険適用されている.

 このSMBGの目的はさまざまであるが,主なものは低血糖の確認/予知である.従って,1回の測定ではその後の変動が不明であり,持続的な血糖測定がより有用となる.そのために開発されたのが,持続皮下グルコース測定(continuous glucose monitoring:CGM)である.すなわちCGMとは,皮下に挿入したセンサーにて皮下組織の間質液中のグルコース濃度(血糖値より数分遅れる)を持続的に測定することによって血中のグルコース濃度(血糖値)をモニタリングする方法であり,“持続血糖モニタリング”とも呼ばれている.

病気のはなし

メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)

著者: 谷村瞬

ページ範囲:P.1138 - P.1143

Point

●リンパ増殖性疾患(LPD)とは,リンパ球が過剰に増殖する状態を指し,リンパ節腫大,節外臓器病変,末梢血リンパ球増加症などを引き起こす.

●近年はメトトレキサート(MTX)以外の薬剤でもLPDを発症した症例があり,現在は“その他の医原性免疫不全関連LPD(OIIA-LPD)”と呼ばれる.

●MTXなどの免疫抑制薬の休薬により約半数〜2/3のケースでLPDが自然消退する.

●LPDの特徴的な臨床症状と検査所見を熟知し,LPDを疑った場合は速やかにMTXなどの免疫抑制薬を中止することが重要である.

過去問deセルフチェック!

糖尿病検査

ページ範囲:P.1127 - P.1127

 過去の臨床検査技師国家試験にチャレンジして,知識をブラッシュアップしましょう.以下の問題にチャレンジしていただいたあと,別ページの解答と解説をお読みください.

解答と解説

ページ範囲:P.1161 - P.1161

 日本の糖尿病患者数は,生活習慣と社会の高齢化に伴い,年々増加している.厚生労働省「平成28年 国民健康・栄養調査報告」1)によれば,糖尿病有病者(糖尿病が強く疑われる者)と糖尿病予備軍(糖尿病の可能性を否定できない者)を含めると,約2,000万人と推計されている.

 糖尿病の病型は,1型糖尿病,2型糖尿病,妊娠糖尿病,その他に分類されるが,糖尿病の大部分を占めるものが2型糖尿病であることは周知の通りである.糖尿病は放置すると三大合併症(網膜症,腎症,神経障害)を引き起こす.また,脳卒中,虚血性心疾患,がんなどさまざまな疾患の原因になりうる.これらの疾患の増加は,社会に大きな医療経済的負担を強いるため,糖尿病の発症予防・早期発見・合併症予防は重要である.

臨床検査のピットフォール

尿路上皮癌細胞とウイルス感染細胞の鑑別方法

著者: 井上真由

ページ範囲:P.1144 - P.1147

はじめに

 尿沈渣検査におけるウイルス感染細胞の検出報告は,早期診断の重要な情報となる.尿路上皮癌細胞と鑑別を要するアデノウイルス(adenovirus:AdV)感染細胞や,ヒトポリオーマウイルス(human polyomavirus:HPoV)感染細胞の形態的特徴,鑑別における注意点について述べる.

Q&A 読者質問箱

臨床検査技師が実施している認知機能検査について教えてください.

著者: 星野眞理

ページ範囲:P.1148 - P.1151

Q 臨床検査技師が実施している認知機能検査について教えてください.

A “認知症”とは,いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったり,働きが悪くなったりしたためにさまざまな障害が起こり,生活する上で支障が出ている状態のことを指し,疾患名ではないこと,2020年より少し表現が変わっていることをまずお伝えしておきます.

ワンポイントアドバイス

細菌検査の中間報告のタイミングとコツ

著者: 中村真大

ページ範囲:P.1152 - P.1153

はじめに

 血液検査は検査室に到着後,数分から遅くても60分程度で結果報告が可能です.また,医師が検査の所要時間を把握しており,常に最新の結果を電子カルテ(hospital information systems:HIS,病院情報システム)で確認することができます.一方,細菌検査は到着後,培養検査→純培養→同定・薬剤感受性検査の順に,検査工程ごとに菌の発育待機時間を必要とします.そのため,何度も中間報告を行い,最新の結果をHISに送信しますが,時に中間報告と最終報告が異なるケースがあります.また,検体ごとで中間報告のタイミングが異なり,医師が検査の進捗状況を把握するのは困難です.従って,臨床検査技師(以下,検査技師)側でHISの確認タイミングを把握し,検査結果が臨床で最大限に活用されるための工夫が必要となります.

 本稿では,細菌検査の中間報告のタイミングとコツについて紹介します.

臨床医からの質問に答える

保存検体を用いた追加検査の可否について教えてください.

著者: 戸枝義博

ページ範囲:P.1154 - P.1157

はじめに

 臨床医は,患者との医療面接の結果から最適な検査オーダーを作成し,検査を実施しています.その結果からさらに検査が必要と判断された場合には,検査室に保存されている残余検体を用いて追加検査が実施されます.そのため,われわれ臨床検査技師は,事前に残余検体で検査を実施する上でのリスクを十分に把握し,臨床医に情報提供できるようにしておく必要があります.今回は,一般的な検査室で測定されることが多い項目に関して,残余検体で追加検査を実施する場合の注意点をまとめます.

オピニオン

臨床検査領域におけるシミュレーション教育の重要性

著者: 多田達史

ページ範囲:P.1158 - P.1159

はじめに

 社会で生きていくことは常に学びと隣り合わせであると思う.何かしらの行動を起こし,結果が生じる.その度に結果から何かを学ぶ.そのような中で,シミュレーション教育は,先に結果を想定し対策を考え,必要な学びを得ることが可能であり,医療分野のみならず災害対策1)などでも利用されている.

 さて,医療における臨床検査領域の教育で,卒前・卒後教育において,シミュレーション教育は非常に重要である.なぜならば,臨床検査技師養成校は国家試験合格を目指し,基本的に基礎科目・専門基礎科目,専門科目の知識の修得を主な目標にしているが,卒後の臨床現場で,少しでも即戦力になるように,実習などを充実させているからである.実習や演習は学生自身の技術向上や座学で得た知識を確認するために重要なことはいうまでもないが,これらにはシミュレーション教育が必要不可欠である.また,「臨床検査技師学校養成所指定規則の一部を改正する省令(令和3年文部科学省・厚生労働省令第2号)」2)では臨地実習の実施項目や取得単位数の大幅な変更があり,学内・学外での実習の重要性が増しており,タスク・シフト/シェアに関する教育を含め,シミュレーション教育の重要性は増している.

連載 やなさん。NY留学記・12

いろんな山場を迎えた話.

著者: 柳田絵美衣

ページ範囲:P.1163 - P.1163

 「この染色が何に使えるか考えて.」 米国に来てすぐボスに言われた言葉.ある染色の判定法が確立されておらず,「何に使えるのか考えて.」というザックリした内容.誰も思いつかないことを思いつかなくてはならない! 高すぎるハードルに動悸が……だが,ラボの中で病理検査に精通しているのが柳田.やるしかない.とにかく数十枚の染色標本を見て,症例の組織型,悪性度ごとに違いがないかを調べた.すると発見!! 形,大きさ,分布場所などに違いが! 柳田は陽性所見から,正常細胞,低・中・高悪性度を分類する方法を考案した! ボスに報告すると「へぇ〜.」……それだけ!? ボスよ,もうこの染色に興味無くしてるやん! 柳田撃沈.

 その約1年後,他部署から「あの染色と別の2種類の染色を比較して,この染色の有用性を証明して.」という依頼が来た.ボスの熱量,一気に爆上がり↑↑.以前考えた陽性所見の形態から分類する方法では他の染色と比較ができない.そこで画像解析ソフトの英語説明書を読みながら,「ここ押すんか?」と言いながら,陽性シグナルの定量化に挑戦.計測していると,見えた! 定量化した数値を法則に従って区切ると,悪性度レベルで分けることができた! これをボスに報告した数日後,ボスに呼ばれ,医師達の前でプレゼンすることを告げられた(もちろん柳田は英語ができないため,ボスが代役♡).プレゼンまで2週間.それから毎日,早朝から深夜までラボで資料作成.ボスに見せるたび「3Dグラフ欲しい」「あの画像入れて」「あ,やっぱりこれ要らない」と言われ,何十回と作り直し,なんとかプレゼン日を迎えた.

ラボクイズ

生化学検査

著者: 道林智之

ページ範囲:P.1164 - P.1164

10月号の解答と解説

著者: 引田芳恵

ページ範囲:P.1165 - P.1165

書評

造血細胞移植ポケットマニュアル 第2版

著者: 藥師神公和

ページ範囲:P.1099 - P.1099

エビデンスと実践が融合した珠玉のマニュアル

 本書は,国立がん研究センター中央病院造血幹細胞移植科の福田隆浩先生が執筆された珠玉のマニュアルです.臨床研究によって得られたエビデンスはいうまでもなく,実地診療のよりどころになりますが,造血幹細胞移植領域では特に豊富な経験から導き出されたエキスパートオピニオンもまた重要なエビデンスです.本書はあらゆるエビデンスが非常にわかりやすくまとめられており,初版よりもさらに洗練され,ますます充実したものとなっています.

 このマニュアルは「チーム医療」に欠かせない幅広い情報を網羅しており,医師のみならず,看護師,薬剤師,管理栄養士,検査技師,理学療法士,移植コーディネーターなど,一枚岩の移植チームを構成する多くの職種の方にとって役立つ情報が満載です.また本書は移植初心者であるレジデントにもわかりやすい内容をめざしているとのことですが,学生や研修医のような駆け出しの初学者から実力派のベテランまで,知識の整理に大いに役立つ内容となっています.移植の準備から長期フォローアップに至るまで,順序よく記載されており,実際の処方例が具体的に提示されているため非常に実践的で,さらに白衣のポケットに入るサイズというのも非常にありがたいです.

血液病レジデントマニュアル 第4版

著者: 國松淳和

ページ範囲:P.1119 - P.1119

なぜこのような専門外の本を私が必要とするのか

 素晴らしい書籍がまた改訂された.私は総合内科,あるいは地域医療としてのリウマチ・膠原病診療をしているのであって,血液内科の専門治療をしているわけではない.が,じつは初版から今回まで毎版購入している.いってしまえば熱心な本書の読者である.

 さて,専修医でも専門医でもない私がなぜこのような専門外の本を必要とするのか.当たり前だが,知識をアップデートするためである.そこで,本書を読むなどして最近の血液学の臨床について気付いたことが2つあってそれについて述べる.

細胞診のベーシックサイエンスと臨床の実際

著者: 佐藤之俊

ページ範囲:P.1137 - P.1137

基礎医学的知識と臨床的意義をわかりやすく解説した逸書

 本書の上梓に先立つこと約30年前に出版された『細胞診のベーシックサイエンスと臨床病理』は,今日の細胞診における基礎的な部分の発展を予想するかのようなインパクトある内容であった.そして満を持して誕生したのが,そのリニューアル版である本書『細胞診のベーシックサイエンスと臨床の実際』である.実際,この約30年間では,医学において多くの分野で細胞生物学,分子生物学,分子遺伝学が目覚ましく,かつ,急速に進歩し,がんゲノム診療の実装化,新たな疾患概念の確立,分類の改訂,あるいは,各種がん取扱い規約の改訂,WHO分類の制定など,枚挙にいとまのない進歩が続いている.そして,これらの変化と並行して,細胞診に求められる内容も刻一刻と変わっているといえる.

 本書は,こうした医療の変化と細胞診に対するニーズを的確にとらえ,基礎医学的知識と臨床的意義をわかりやすく解説した逸書であるといえる.しかも,執筆陣は細胞診や病理関連の各分野のエキスパートというとても贅沢な顔ぶれである.内容は4つの章から構成されており,中でも圧巻なのは,第1章の「腫瘍の細胞生物学・分子生物学・分子遺伝学の基礎」と第2章の「押さえておきたいがんゲノム医療」だ.第1章では,腫瘍の理解に必要な遺伝子やゲノムについて,コンパクトでありながら,とてもわかりやすく解説され,さらに腫瘍化のメカニズムや腫瘍免疫といったがんゲノム医療に不可欠な基礎知識をわずか50ページ程で得ることができる.そして,その知識が第2章の理解に大いに役立ち,コンパニオン診断,免疫チェックポイント阻害薬,がんゲノムプロファイリング,エキスパートパネルなど,がんゲノム医療の理解と実践に必要な内容が網羅され,しかも細胞検体の取り扱いについての解説は,ゲノム診療を念頭に置いた方法の標準化,精度管理に深く関連する内容である.

《ジェネラリストBOOKS》糖尿病・内分泌疾患の常識&非常識

著者: 三澤美和

ページ範囲:P.1160 - P.1160

初心者には最良の基礎学習となり,上級者には最高の復習の時間となる本

 前半の糖尿病の食事療法を読み始めると,岩岡秀明先生が普段患者さんと笑顔で話している診察室の会話が見えてくるような気分になる.「果物は1日に握りこぶし1個分」「(コーヒーは)無糖にしないとだめだよ」「時々は記念日を作ろう」.患者さんの気持ちをおもんぱかりながら,丁寧にアドバイスする様子が目に浮かぶ.そこに中山久仁子先生が誰でも抱くような素朴な疑問を投げかけ,また丁寧な解説が続く.対話形式の内容を読み進めると,いつしか自分の診療を一番底のほうからいったんすくいあげて見直しているような気持ちになった.

 「あ〜そうそう,そうだった」と思わせられる重要なエビデンスしかり,「最近はそうなってたんだ」という新しい発見しかり.糖尿病の薬物療法には多くのページが割かれ,丁寧に疑問に答えてくれる.意外とあいまいにしてしまいがちな高尿酸血症についても言及されている.しかもこの本は糖尿病だけにとどまらず,日常でよく出合う内分泌疾患の素朴な疑問にも答えてくれている.甲状腺や副腎,日常的に出合う頻度が非常に高い骨粗鬆症.内分泌だけを特集した分厚い教科書と格闘するよりずっと,知識としてすんなり入ってくる.また会話から中山先生が普段どのような診療をされているかも垣間見え,プライマリ・ケア医としてどこまでが必要とされているのかを確認できる.プライマリ・ケアの良き理解者である岩岡先生と,現場の家庭医である中山先生が繰り広げる言葉のキャッチボールは,まるで自分が小さなカンファレンスにお邪魔したような気持ちにさせられた.

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目次

ページ範囲:P.1082 - P.1083

『臨床検査』11月号のお知らせ

ページ範囲:P.1081 - P.1081

あとがき・次号予告

著者: 大楠清文

ページ範囲:P.1166 - P.1166

 この「あとがき」を担当するのも今回で最後となりました.2016年に本誌の編集委員を拝命して9年が経ちましたが,まさに「光陰矢の如し」でした.この間,新型コロナウイルス感染症の蔓延もあり,対面で行われていた編集委員会もこの4年間はWeb会議に移行されました.編集委員としての私の主な役割は,専門分野である「微生物検査」において,編集協力委員の先生方の企画案へのコメントやアドバイス,「過去問deセルフチェック」の問題選択と解説の執筆,臨床検査技師国家試験「微生物学」問題の解答・解説執筆,増大号の企画・執筆など,そしてこの「あとがき」の原稿執筆でした.

 これまでの「あとがき」17回のトピックスを振り返ると,世相を反映した新語・流行語大賞を鑑みながらのその年話題となった感染症,AI(人工知能)の技術の発展,新たな元号「令和」,ノーベル医学・生理学賞,その年の干支「戌年」からのペットとOne health(ワンヘルス),マスギャザリングと感染症,世界的な新型コロナウイルスの感染拡大などから,世界陸上,冬季五輪,サッカーワールドカップ,ラグビーワールドカップ,東京オリンピック,米大リーグエンゼルスの大谷翔平選手の活躍,ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)など,まさしく社会の様相を振り返ることができました.我ながらスポーツネタが多かったと反省しましたが,最近もパリオリンピック,ドジャースの大谷翔平選手の大活躍と,やはりスポーツは私たちに感動を与えるのだと改めて実感しております.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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