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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術52巻9号

2024年09月発行

雑誌目次

増大号 臨床医に伝わりやすい 検査報告書とパニック値報告の心得

はじめに

著者: 増田亜希子

ページ範囲:P.819 - P.819

 検体検査のうち,報告書を作成する検査は一部であり,臨床医には検査値のみが返却されることが多くあります.しかし,実際にはパニック値の対応として電話連絡や,重大な所見についてはアドバイスサービスが実施されています.生理機能検査では報告書の作成方法に関する解説書が多く存在しますが,検体検査では少なく,特に「臨床医への伝え方」という視点の解説書はあまりありません.

 本増大号は「パニック値やパニック値に準ずる重大な所見への対応+報告書の作成」に着目して,読者に,パニック値や重大な異常値を認めた場合の対応として,偽高値や偽低値の可能性がないか検査値の妥当性を評価する手順や,適切な連絡手順について解説することを目的として企画しました.各項目において,骨髄検査やタンパク分画など報告書を作成する検査については各検査項目の報告書の見本を,尿沈渣検査や抗核抗体検査などアドバイスサービスの対象になりうる検査についてはアドバイスサービスの見本をそれぞれ示していただいています.

1章 総論

パニック値報告の現状と今後の課題

著者: 諏訪部章

ページ範囲:P.822 - P.828

Point

●パニック値は患者の生命予後を左右する重要な検査異常値であるが,その連絡遅延が患者治療の遅れにつながった事例が紹介され,パニック値報告が重要視されるようになった.

●パニック値の項目や閾値,報告体制や対応内容の確認などが統一されていない現状を受け,2021年に日本臨床検査医学会からパニック値運用に関する提言書が公表された.

●今後は提言書を参考に,パニック値の項目の選定・閾値の設定・迅速報告体制など,施設の事情に応じたパニック値報告体制の構築が望まれる.

アドバイスサービスを用いた検査室からの情報発信

著者: 小野佳一

ページ範囲:P.829 - P.832

Point

●臨床検査を有効に活用するためのアドバイスサービスはチーム医療への参画,院内で検査を行う検査室の存在価値を高める.

●ISO 15189の要求事項にはアドバイスサービスがある.

●アドバイスサービスの記録を残すことで新人教育として利用できる.

2章 一般検査

尿沈渣検査

著者: 宿谷賢一

ページ範囲:P.833 - P.838

Point

●尿沈渣検査は成分の算定のみではなく,病態を推定し必要な成分を探し出す鏡検法が肝要である.

●アドバイスサービスを実施した症例は,報告した内容と成分写真を記録に残す.また,写真撮影はスマートフォンによる撮影でも可能である.

●アドバイスサービスの運用に際しては,検査部と診療科との協議の下に実施すること.

髄液検査

著者: 田中雅美

ページ範囲:P.839 - P.843

Point

●髄液検査は,髄膜炎など中枢神経系疾患の鑑別に用いられる検査である.細胞算定検査,髄液生化学検査は迅速に結果を報告することが重要である.

●検査の報告書は,細胞写真を添付することで詳細な情報を診療に提供できる.また,報告書は,細胞成分の写真と成分の特徴に加え,検査総合所見のコメントが記載されているため,貴重な教材になる.

●パニック値,緊急異常値は,施設によって運用が異なるので診療側と協議をするとよい.

胸水・腹水検査

著者: 森田賢史

ページ範囲:P.844 - P.849

Point

●診断や病態把握には滲出性胸腹水と漏出性胸腹水の鑑別が重要である.

●膿胸や特発性細菌性腹膜炎(SBP)などの死亡率の高い疾患,悪性腫瘍を疑う異型細胞の出現時には迅速な結果報告が重要である.

●胸水・腹水検査は一般検査,血液検査,生化学検査,微生物検査など他分野の検査室が連携することでより伝わる検査レポートができる.

3章 血液検査

血算のパニック値への対応と伝え方

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.850 - P.855

Point

●自施設に適したパニック値基準を作成し,施設内で承認を得ることが必要である.また,定期的に見直す必要がある.

●自施設で使用している自動血球計数装置の原理を理解して,パニック値が出た場合には検査結果の妥当性を評価する適切な対応が必要である.

●パニック値とその他の検査結果を解析し,診断に導くための適切なアドバイスサービスを実施することが重要である.

—末梢血液像—芽球の出現

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.856 - P.860

Point

●末梢血液に芽球が出現した場合,それが通常の範囲内か疾患によるものかを調べ,緊急性がある場合はすぐに報告する.

●血液像を鏡検する際には,必ずスキャッタグラムを確認し,異常がみられた場合は芽球などの異常細胞を見逃さないように注意深く観察する.

●芽球が出現する原因を調べ,緊急性がある場合は診断につながるようなアドバイスサービスを提供する.

—末梢血液像—異型リンパ球と異常リンパ球

著者: 後藤文彦

ページ範囲:P.861 - P.866

Point

●異型リンパ球(atypical lymphocyte)は,何らかの抗原刺激に反応し,活性化されたリンパ球の形態変化である.近年,“反応性リンパ球(reactive lymphocyte)”の呼称が推奨されている.

●異常リンパ球は,造血器腫瘍(主にリンパ腫)で出現する不可逆性の変化を伴う“腫瘍性リンパ球”のことである.

●形態学的特徴は,異型リンパ球は一見して多彩な細胞なのに対して,異常リンパ球は均質な腫瘍細胞が主体である.いずれも細胞形態のみでは限界があり,臨床情報,細胞表面マーカー検査などで補完する必要がある.

—末梢血液像—赤血球形態異常

著者: 新保敬

ページ範囲:P.867 - P.872

Point

●赤血球形態の観察は,標準的な分類基準に沿った鑑別方法や,標準的な用語や表現方法を理解して行うことが望ましい.

●貧血においては,全ての症例で塗抹標本を作製し,赤血球形態を観察することが必要である.

●赤血球形態異常を認めた場合は,種々のガイドラインなどを参考に各検査所見を確認し,必要があれば依頼医師にパニック値報告や追加検査をアドバイスする必要がある.

骨髄検査

著者: 常名政弘 ,   西川真子

ページ範囲:P.873 - P.880

Point

●骨髄検査報告書は診断と治療方針に直接影響を与えるため,詳細かつ適切な情報が臨床医に伝わるように作成する.

●血液疾患を見逃さないために,細胞形態の観察方法を習得し,各疾患の細胞形態の特徴をしっかり把握することが重要である.

フローサイトメトリー検査

著者: 増田亜希子

ページ範囲:P.881 - P.888

Point

●フローサイトメトリー(FCM)は,細胞表面や細胞質内の抗原の発現パターンを解析することで腫瘍細胞の系統や分化段階を推測できる検査である.

●FCMは急性白血病の診断や経過観察に必須の検査であり,リンパ腫の診断にも有用である.形態所見や染色体・遺伝子検査所見と組み合わせて活用される.

●正常細胞では通常発現しない抗原の組み合わせ・パターンはaberrant expressionと呼ばれ,腫瘍性を強く示唆する所見である.

血栓止血検査のパニック値への対応と伝え方

著者: 下村大樹

ページ範囲:P.889 - P.894

Point

●PT-INR(プロトロンビン時間国際標準化比)は,4.00を超えると頭蓋内出血のリスクが大幅に増加する可能性がある.

●フィブリノゲンは,100mg/dL以下,特に50〜70mg/dLを下回ると出血傾向が現れやすくなる.

●FDPは,臨床との同意のもとで設定するのが望ましい.

血小板凝集能検査

著者: 野々部亮子

ページ範囲:P.895 - P.900

Point

●血小板凝集能検査は,出血性疾患の診断や抗血小板薬の薬効評価に用いられる.

●血小板は外部から刺激を受けると容易に活性化してしまうため,検体採取前から採取後の検体調整に至るまで,検体の取り扱いには注意を要する.

●服薬など,患者情報を事前に確認し,依頼に沿った検査を実施して,結果を報告する必要がある.

クロスミキシングテスト

著者: 安本篤史

ページ範囲:P.901 - P.905

Point

●クロスミキシングテストは,プロトロンビン時間(PT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が延長した症例に対して,簡便で安価に評価できる点が優れているため広く実施されるべきである.

●血漿サンプルの調製,測定試薬の選択,患者血漿の混合比率,加温時間を正しく設定しないと誤った結果を報告する可能性があるため,事前に各施設で設定を行う必要がある.

●クロスミキシングテストの判定により治療が大きく変わる可能性があるため,正確な評価を心掛ける.

他の検査室と連携したアドバイスサービスの運用

著者: 常名政弘

ページ範囲:P.906 - P.910

Point

●血液検査を担当する上で悪性リンパ腫などの異常細胞の早期発見や見逃さないようにすることは重要である.

●検査室の質を向上させつつ効率的に運営する工夫が必要である.

●自施設に合わせた臨床支援向上のための工夫が大切である.

4章 臨床化学・免疫検査

生化学検査のパニック値への対応と伝え方

著者: 中渡一貴

ページ範囲:P.912 - P.922

Point

●パニック値の運用は,それぞれの医療機関の実情に沿った方法を構築することが重要である.

●生化学検査の結果報告は“数値”であることがほとんどであり,その“数値”の妥当性を十分に検討する必要がある.また,“数値”の口頭での報告は,言い間違いや聞き間違いのリスクがあるため,慎重かつ確実に行う必要がある.

●各検査項目に影響を与えうる事例(検体の性状,不適切な採血方法,薬剤など)を把握しておくことで,妥当性の判断に役立てることができる.

血液ガス分析のパニック値への対応と伝え方

著者: 木戸口周平 ,   木村秀樹

ページ範囲:P.923 - P.926

Point

●内部・外部精度管理で問題ないことを確認する.採血後,気泡除去を行い,直ちに混和し,速やかに測定する.測定直前にも十分に混和する.

●パニック値報告時は,検査値の妥当性が確実に担保されていること,施設内で報告様式のコンセンサスを形成することが重要である.

●血液ガス分析から換気,酸素化の状態,酸塩基平衡を評価する.一次性変化と代償性変化を確認し,合併した他の平衡異常を迅速に検討し,報告する.

腫瘍マーカー

著者: 竹林史織 ,   前川真人

ページ範囲:P.927 - P.930

Point

●“腫瘍マーカー高値=必ずしも癌”とは限らないことを知る.

●測定方法の違い,検体不備,薬物,患者検体由来物質の測定系への干渉の影響を知る.

●前回値との比較,治療履歴,他の臨床検査データ,画像所見,臨床所見の確認を行う.

LD,ALPアイソザイム

著者: 新関紀康 ,   前川真人

ページ範囲:P.931 - P.936

Point

●アイソザイムパターンを理解し,他の検査項目結果と組み合わせて,由来臓器や傷害臓器とその程度を推定する.

●アイソザイムの半減期の違いにより,酵素活性や分画パターンが病期によって異なる.

●検査レポートを作成する際は,明確に適切な検査情報を提供し,読みやすさを意識して作成する.

タンパク分画

著者: 永井有理

ページ範囲:P.937 - P.941

Point

●タンパク分画は支持体を用いた電気泳動法によって行われ,得られたデンシトグラムから血清タンパクの量的なバランスの変動と質的な変動を捉えることのできる検査である.

●タンパク分画のパターンを知ることにより,疾患や病態を予測することが可能である.例として急性炎症型・慢性炎症型・ネフローゼ型・慢性肝疾患(肝硬変)型・Mタンパク血症型が挙げられる.

●タンパク分画によるMタンパク血症の検出は,骨髄腫や原発性マクログロブリン血症の発見の契機となるため,とりわけ臨床的意義が高く重要である.

Mタンパクの検査—免疫電気泳動法,免疫固定法

著者: 永井有理

ページ範囲:P.942 - P.946

Point

●MタンパクはB細胞・形質細胞の腫瘍性増殖を示唆する所見であり,Mタンパクの同定検査として,免疫電気泳動法と免疫固定法が代表的であるが,現在わが国では免疫固定法が行われることが多い.

●免疫電気泳動法は,弧状の沈降線により,それぞれのタンパクの質的・量的異常を検出することができる点で有用であるが,検査の実施とその判定には習熟を要する.

●免疫固定法は,特異抗血清を用いることによりMタンパクの同定と検出を,簡易で高感度に実施できるが,定量性を持たず,定性的な検査であることに注意が必要である.

抗核抗体検査

著者: 保田奈緒美

ページ範囲:P.947 - P.952

Point

●抗核抗体(ANA)検査の国際的標準法は間接蛍光抗体法(IFA)である.

●IFAおよびIFA以外の検査法それぞれにメリットとデメリットがある.

●国際ガイドラインによるICAP分類を運用に取り入れることで,品質の高い検査結果を提供できる可能性がある.

内分泌負荷試験

著者: 下澤達雄

ページ範囲:P.953 - P.959

Point

●フィードバック機構を正しく理解する.

●ホルモン値は測定条件により大きく変動するので,総合的判断が必要である.

●負荷試験には危険を伴うものや患者負担が大きいものもあるのでむやみにやらない.

●最新のガイドラインは常にフォローする.

5章 輸血検査

血液型・不規則抗体検査:詳細報告書の作成

著者: 曽根伸治 ,   道本真帆

ページ範囲:P.960 - P.964

Point

●ABO血液型やRho(D)血液型の亜型は,医師や看護師あるいは輸血検査に不慣れな検査技師にも理解できる説明をする.

●医師向けの詳細報告書は,異常の概要,適合血の選択,適合血が選択できない場合の対応も記載する.

●出現頻度が1%以下のまれな血液型抗原があり,輸血時に適合血の確保に時間を要することがある.

不規則抗体保有,血液型異型移植者への対応:輸血関連情報カードの作成

著者: 曽根伸治 ,   道本真帆

ページ範囲:P.966 - P.969

Point

●輸血検査で異常反応を示す患者には,医師や看護師のみだけではなく,患者にも十分な説明が必要となる.

●不規則抗体が陽性,骨髄や造血幹細胞移植の患者,および検査に影響を与える薬剤を投与した患者には輸血関連情報カードの作成をすることが望まれる.

●医師向けの詳細な報告書には,異常の概要,適合血の選択,適合血が選択できない場合の対応を記載する.

6章 遺伝子・染色体検査

がん遺伝子パネル検査

著者: 砂金秀章

ページ範囲:P.970 - P.980

Point

●本邦では2019年より固形腫瘍に生じたがん遺伝子の体細胞変異を,次世代シークエンサーで網羅的に解析するがん遺伝子パネル検査が保険診療下で行われている.

●がん遺伝子パネル検査は検体採取からエキスパートパネル開催まで多職種が連携して行う検査であり,検査全体の流れをよく把握することが大事である.

●がん遺伝子パネル検査の報告およびアドバイスサービスにおいては,よくみられるトラブルを理解した上で,各パネルの特性と最新の情報を踏まえ対応すべきである.

造血器腫瘍遺伝子検査

著者: 佐藤優実子

ページ範囲:P.982 - P.987

Point

●白血病や骨髄異形成腫瘍(MDS),悪性リンパ種などの造血器腫瘍では,病型に特徴的な染色体異常や遺伝子異常が認められる.

●造血器腫瘍の病型分類にはWHO分類が用いられ,2017年発行のWHO分類改訂第4版以降は,従来の形態学的特徴よりも染色体・遺伝子異常が重視されている.

●結果報告の際は,検査の各工程が結果に与える影響を理解した上で結果を解釈し,臨床医が理解しやすい報告書を作成する.

染色体検査—造血器腫瘍におけるG分染法

著者: 中曽根亮 ,   今村淳子

ページ範囲:P.988 - P.995

Point

●既知の融合遺伝子,染色体異常が認められる場合は,関連するFISH検査などで確認可能であることも含め,報告書内の検査コメントとして記載する.

●染色体核型表記は国際規約(ISCN)に則り記載され,その一部について解説を加える.

●正常核型,正常変異など,注意を必要とする核型についてまとめた.

FISH法

著者: 増田亜希子

ページ範囲:P.996 - P.999

Point

●造血器腫瘍のWHO分類では分子遺伝学的所見が重視されており,診断や予後予測,治療効果判定において,染色体・遺伝子検査の果たす役割は大きい.

●FISH法は,標本上の細胞に目的遺伝子に対する蛍光標識プローブを結合させて,蛍光顕微鏡で観察する検査である.間期核の細胞を対象に,特定の染色体異常を高感度に検出できる.

●FISH法の代表的な異常所見は融合シグナル,スプリットシグナル,シグナル数の異常である.

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目次

ページ範囲:P.820 - P.821

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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