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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術6巻1号

1978年01月発行

雑誌目次

病気のはなし

DIC

著者: 松田保

ページ範囲:P.6 - P.11

 DICの概念
 DIC(血管内凝固症候群)は,全身の血管内(Intravascular)に,汎発性(Diffuse)に,血栓(血液凝固;Coagulation)を生ずる病的状態であり,Disseminated(またはdiffuse)intravascular coagulationのそれぞれの頭文字をとってDICと略称される.
 血液には,血管が破れて出血した場合,血管外では比較的速やかに凝固して,出血を最少限に止めるという性質がある反面,正常血管内では凝固せず,このため血液の循環が正常に保たれているという,矛盾した二つの性質がある.いずれの性質が障害されても,生命に危険を及ぼす重大な障害を生ずることは明らかであるが,これまでは血管が破綻した場合の血液の凝固に障害があり,出血がいつまでも続く,いわゆる出血性素因が広く注目を集めてきた.このことは,これまでの血液凝固検査のほとんどが,血液の凝固性の低下の有無をチェックする性質のものであること,また,血液の凝固に関連する薬剤としては,血栓の予防の目的で,血液の凝固性や血小板の機能を抑える,いわゆる抗凝血薬や抗血栓剤よりも,止血剤のほうがむしろ重視されてきたことからも明らかであろう.

技術講座 病理

中枢神経系の染色—I.標本作製

著者: 鬼頭つやこ

ページ範囲:P.28 - P.31

 神経系,殊に中枢神経系の病理組織検査には他の身体臓器の組織検査と異なるいくつかの特徴がある.その一つは神経系では細胞の分化が著明で個々の細胞成分の組織化学的特異性が著しいことである.実質細胞である神経細胞胞体のほかに髄鞘と軸索,マクログリヤ,ミクログリヤ,オリゴデンドログリヤの細胞及び線維などがあり(図1),それぞれの成分に応じて,それに適したいくつかの特殊な染色法がある.それらの染色結果を総合してはじめて神経系の病理所見を把握することができる.第二の特徴は中枢神経系の構造の複雑さである.他の身体臓器,例えば肝臓などはどこをとっても同じ構造であるのとは著しく異なる.このため中枢神経系の病理では病変の局在あるいは広がりが極めて重要であり,同じ病変でもその局在または広がりが異なればその病変の臨床病理学的な意味は全く違ってくる.これらの神経系における特徴を考慮して標本作製に携わることが必要である.特に脳の構造の特徴から標本の切り出しは多種多様となり,時には脳の半球や両半球の一つの断面を標本にすることさえある.脳に肉眼的な変化がないときでも,前頭葉,側頭葉,頭頂葉,後頭葉,基底核,脳幹,小脳を含む切片を作ることが最低限要求される(図2).また最近,CATまたはCT(Computerized axial tomography)などの関係で診断面ではこれらのスキャンと同じ角度で脳を切り出して検索する場合もある.
 冷回は自らの経験を基に中枢神経系における諸種染色法,固定法などについて,二,三の注意すべき事柄や要領などを紹介したい.なお包埋剤としてはセロイジンとパラフィンが用いられているが,私どもは最近はもっぱらパラフィンのみを使用している.

測定法の基礎理論 なぜこうなるの?

出血時間

著者: 寺田秀夫 ,   新倉春男

ページ範囲:P.12 - P.18

 出血時間の測定は,最も簡便な止血機能検査として広く行われてきた検査法であるが,各種の新しい出血,凝固機能検査の出現により,とかく軽視される傾向もみられる.出血時間は主として一次止血における血小板の機能を反映するとされ,スクリーニング検査として,また,血小板輸血などの治療効果の判定など,臨床上重要な検査である.測定法として,従来より,Duke法とIvy法が代表的であり,我が国では前者が,欧米では後者が主流となっている,いずれの測定法も,感度,信頼性,再現性などに問題があり,最近では,欧米の主な施設では,Ivy法を標準化したMielkeらの方法が用いられている.一方,in vitroの方法による出血時間測定も考案されている.以下出血時間の意義,測定法につき簡単に述べる.

細胞診における固定の理論

著者: 池田栄雄 ,   田中昇

ページ範囲:P.19 - P.22

 固定の意義と目的
 生体から解離した細胞は,血液や組織液による栄養,酸素補給などが断絶して,細胞内分解酵素や細菌などの働きにより,速やかに変性,崩壊に陥る.固定することにより,細胞内分解酵素を無力にして自己融解を阻止し,死後変化を防ぎ,なるべく生前と同じ状態に細胞構造を保持しようとするとともに,細胞の主成分を不溶性にして,細胞が生の状態では,細胞構造が不明瞭で染色性が弱いので,人為的に細胞の目的とする成分を凝固せしめ,染色性を増強させて観察しやすくする.このような細胞像は人工的な状態であるが,同じように固定され,同じように処理された細胞像であれば,その違いは,生前の状態においても何らかの違いがあったと言いうる.組織,細胞診断学は,このような状態の細胞像を利用して,生理的,病理的状態の知見を経験的に積み重ねて,現在の診断基準を作り上げている.したがって常に良好な固定状態,良好な処理を施した標本によってのみ,初めて正しい組織細胞診断基準が応用され得る.

常在菌叢

著者: 高橋昭三

ページ範囲:P.23 - P.27

 ヒトの皮膚と粘膜の表面には,常に種々の微生物が認められる.これらは2群に大別できる.策一の菌群は,その部位でほぼ常に多数認められ,そこで増殖,生存しており,定住菌と言われる,第二の菌群は,病原菌,非病原菌など種々で,数時間から数週間,その部位にごく少数認められ,通過菌と呼ばれている.定住菌と通過菌は,その動態を調べたときに区別できるが,その部位由来の検体を調べるときは区別できないので,両菌群を合わせて常在菌叢と言っている.このメンバーと宿主とは,その部位で生物学的平衡が維持され,むしろ常在菌叢があることで,宿主は生理的にも正常の状態が維持されている.

最近の検査技術

レーザーネフェロメーターによる免疫グロブリンの定量

著者: 大竹皓子

ページ範囲:P.32 - P.40

 血清タンパクの免疫学的定量法としては,ゲル内沈降反応を応用した方法1〜3)があるが,なかでも一元放射免疫拡散法(single radial immunodiffusion,SRID法)が日常検査には最も多く利用されている.特異性が高く,手技も簡単で日常検査に適した簡便な方法である.しかし,実際に多くの検体を測定した場合に,検体種によっては必ずしも理論に一致した値が得られるとは限らない.また迅速性に欠け,マススクリーニングを考えた場合には自動化が困難な方法である.
 近年,レーザーを光源とする光散乱法(lasernephelometory,LN法)による血中特異タンパクの定量法が普及してきた.LN法の原理は緩衝液中で抗原抗体反応を行い,生成した抗原抗体複合物にレーザーを照射し,その散乱光の強度を測定して試料中の抗原濃度を求めるものである.原理的には光散乱法の応用であり,特徴としては光源にレーザーを用いている点である.光散乱法によって血中の特異タンパクを定量する方法は,既に1967年Ritchie4)により試みられ,螢光比ろう法(fluoro nephelometory)を原理とするAIP法(automated immuno precipitation analysis)が確立されている5).AIP法もLN法もともに溶液内沈降反応による免疫複合物を光散乱法で測定する方法であるが,両者の大きな違いは測定機器の光学系にある.前者は水銀ランプを光源とし,355nmの波長を取り出し,90度方向の波長変化を伴わない散乱光を測定するのに対し,後老はHe-Neレーザーから得られる632.8nmの光を直接試料に照射し,散乱強度のいちばん強い角度での波長変化を伴わない散乱光を測定する.

マスターしよう基本操作

標準液の作り方と取り扱い方

著者: 松村義寛

ページ範囲:P.41 - P.48

 検査結果が正しいことを主張するためには標準物質との比較やプール血清による再現性のあることが前提条件となる.それら実際的な場面を写真に表してみた.

私の学校

京都大学医療技術短期大学部衛生技術学科

著者: 岩城孝次

ページ範囲:P.51 - P.51

 一期生としての抱負
 さて,私たちの京都大学医療技術短期大学部衛生技術学科を,今回紹介させていただくのですが,本校をご存じない方も多数おいでのことと思います.それは当然のことかもしれません.なぜならば,医短大としては昭和50年に,衛生技術学科としては同51年に,開設されたので,その歴史というものは皆無と言ってもよいからです.しかし,本学科は全く基盤のない所に発足したのではなく,そのルーツは昭和34年開設の衛検技師学校にさかのぼり,医短大の本学科としては,それ以来の医療従事者育成の歴史を引き継ぐことになるのです.そのため,本学科のスタッフは臨検技師学校以来のベテランが,学生教育の核をなし,それを補うべく,新しい人材も登用され,全体の教授陣容は,他校にも必ずや優るものと確信しております.あとは,私たち学生が,いかにしてうまく,このスタッフを利用させていただくかという問題です.
 ところで,学生生活について少し述べてみます.今,それに関して最も不満というか,不便を感じていることは,施設の問題です.現在使用中の建物は,臨検技師学校のものであって,驚くなかれ,明治38年に建てられたのでした.当初は,結核患者の病棟であったのが,技師学校に充てられ,現在は私たちが使用しています.京大のなかでも,建物の古さでは屈指で,その老朽化は目も当てられないほどです.実習時も,部屋が狭くて大変な不便さを味わっております.しかし,新校舎の建築は,私たちが入学すると同時に始まっていて,本来ならば,新しい教室で学んでいるはずだったのですが,工事の遅れのために,私たちが新校舎の恩恵にあずかることは絶望的となりました.工事の遅れの原因には,内日さす都らしさが漂う,というのは,工事現場から遺跡が出たので,その発掘調査が済むまでは工事を停止しなくてはならないからなのです.掲載されている写真は,新校舎の一部なのですが,ここにも遺跡があったのです.近い将来,建物に関する不満は解消され,後輩たちは快く勉学できるでしよう.

文豪と死

石川啄木

著者: 長谷川泉

ページ範囲:P.52 - P.52

 石川啄木(1886〜1912)は27歳の若さで世を去ったが,死後その文学(短歌・詩・小説・日記)を愛する読者層は,ますます大きく拡がっている.最近,岩波文庫の発刊50年記念出版として「ローマ字日記」が文庫の1冊に収められた.
 そこには,啄木の青春が赤裸々に描かれており,海外でも評価が高かった.日記は1909(明治42)年から1911(明治44)年までである.啄木の残されている日記の全体は1902(明治35)年から死の直前までの10年間にわたっている,なぜ上記の部分がローマ字で書かれたかについては妻節子に読ませたくないことが主原因である.日記のなかに「なぜ,この日記をローマ字で書くことにしたか? なぜだ? 予は妻を愛している;愛しているからこそ,この日記を読ませたくないのだ.—しかし,これはウソだ!愛しているのも事実,読ませたくないのも事実だが,この二つは必ずしも関係していない」としるされている.もう一つの原因は漢字によらない日本語の音表現の純化への意欲がからんでいよう.歌人であった啄木は言葉についての感覚は鋭敏であった.

知っておきたい検査機器

アグリゴメーター

著者: 三品頼甫

ページ範囲:P.54 - P.58

 血小板はその凝集,粘着という作用によって止血・血栓形成という生体反応の引き金のような役割を演じていると言われる.この血小板同志がくっつき合う(凝集)強さを測定し,疾患の診断や治療の目安にしようとして開発された方法の一つが,このアグリゴメーター(以下血小板凝集計とする)を用いる血小板凝集能測定法である.
 血小板凝集能の測定法にはこのほかに顕微鏡法やscreen filtration pressure法などがあるが,現在世界中で最も広く利用されている方法がこのBorn1,2)やO'Brien3)らによって開発された血小板凝集計を用いる吸光度法である.現在各社の血小板凝集計が市販されており,そのなかにはEEL製の血小板凝集計のように血小板浮遊液の攪拌をキュベット内に上から挿入した鉄棒で行う型式のものと,その他の血小板凝集計のすべてに採用されているマグネチックスターラーで行う型式とがあったが,EEL製は既に製造が中止されているので,今回は後者の型式の血小板凝集計について述べる.

読んでみませんか英文論文

ラボテストを科学的に検討することを学生に教える方法

著者: 角尾道夫 ,  

ページ範囲:P.59 - P.61

 ラボテストの評価は,常に行わねばならない."このテストは我々の持っている種々の技術が必要である"と問いかけて学生を励ますべきである.実際に,この問題に解答を与えることのできる,二つの特別の例を示そう.
 学生に,弱いK抗体を与え,抗ヒトグロブリンは与えない.学生は直ちにクームステストは,生死の問題にかかわることを知る.

おかしな検査データ

ランダムエラー—真値30mg/dlと250mg/dlの検体ブドウ糖値がそれぞれ41mg/dl,226mg/dlと測定された

著者: 水田亘

ページ範囲:P.62 - P.63

 この成績は血糖測定のコントロールサーベイで得たある施設の報告値である.100mg/dl糖液と同時に未知検体A,Bとして30mg/dl,250mg/dlの糖液が配布された.報告書には次のように記載されていた.
 標準液(100mg/dl)の吸光度:0.235

10月号出題の答

著者: 久城英人 ,   扇谷茂樹

ページ範囲:P.63 - P.63

 デキストラン炭末を用いるB・F分離は炭末の吸着性とデキストラン粒子の分子篩としての性質から小分子の物質を吸着沈殿させる方法である.本法は時間的ならびに経済的な面で二抗体法より優れるが,あくまで非特異的な吸着性を利用するためにB・Fの分離が完全には行われ難い.したがって,次にあげる原因により正誤差を生ずる.①温度(遠心分離後,上清とチャコールを分離する際にスタンダードに比べサンプルの室温放置時間が長くなると,温度の上昇によりチャコールが抗原抗体複合物をも吸着する),②タンパク量(尿や人工透析後の患者血清のようにスタンダードに比べタンパク量の著しく少ない場合,抗原抗体複合物までも吸着される),③血清タンパクによる非特異的抗原抗体結合反応抑制(遊離抗原の増加に伴うチャコール吸着RI量の増大),④RI標識物質の変性(標識物質からの非特異的なRIの遊離に伴うチャコール吸着RI量の増大).

検査の苦労ばなし

ABOテスト

著者: 東田一男

ページ範囲:P.64 - P.65

 現在行われている血液型検査は,どこの検査室でも,厳密な国家検定を受けた抗血清を使用し,ABO式血液型の場合には,おもて検査と,うら検査とを実施して誤った判定をしないように努めていることは,周知のとおりである.
 さて,過去の検査はどうしていたのであろうか,昔ばなしを少ししてみたい.

COFFEE BRAKE

白血球自動分類装置ブームの裏話

ページ範囲:P.18 - P.18

 1977年9月の臨床検査目動化研究会で"血液形態検査自動化の趨勢"と題して教育講演があり,演者は,"現在市販機種は,それぞれ特色があり,スクリーニング検査に用いることは可能である.しかし最近新しい機種も発表されようとしており,演者としては,今後の2,3年に期待したい"と結んだ.要はまだ待て,もっと良いものが出る可能性があるということらしい.この夏,米国で熱心に開発を行っていた2社が,開発商品化を中止したといううわさが流れた,新しい機種が出る一方で開発中止とは,一体どういうことなんだろう.
 さて米国では,確かに一社は商品化を中止した.それは事実そんなに売れるとは思われないが,もし売れたとして,機械の維持や修理に多数の技術者を各地に常駐させる費用を考えると,今までの莫大な開発費を無駄にしても得策と考えたということである.ほかは従来販売を引き受けた会社が,思ったように売上げが伸びないので,販売契約を解除したたあで,製造会社は担当部局の責任者を交代させて,直接販売に切り換えたというのが真相であった.この交代劇のごたごたが誤報の種となったらしい.製造会社ではそのうわさを流したと思われる競争会社へ,裁判も辞さない強硬な態度で申し入れをやったとかの話も付いている.NASA計画の大幅な縮小で,多数の技術者がなだれ込んだ会社では,医療産業に目を付け,新しい開発商品として取り上げたのが白血球自動分類装置であって,会社の株主対策だという人もいた.どこまで本当か分からないが,真に医療の向上を目して開発されたと信じていた我々には,いささかショッキングな話でもある.事実,我々はこの種の良い機械を現実に欲している.しかし新しい物好きで,ハイジャッカーに16億円も簡単に出せるぐらいの日本国の病院のことだと,米本国の次に最大の市場と,その懐をねらっていることも確かなようだ.

分画線上の血球の扱い方

著者:

ページ範囲:P.66 - P.66

 本誌姉妹誌「臨床検査」19巻12号(1975)の質疑応答欄の"分画線上の血球の算定"に答えられた新谷和夫氏の内容に対し,臨床病理(日本臨床病理学会の機関紙)の編集後記に,日野志郎氏が3回にわたり論説し,その総まとめというべきものが,同誌25巻8号(1977年)の編集者への手紙として掲載された.本誌読者のなかで読まれた方もあると思うが,臨床検査のうち血球計数という最も基本的な手技で計数の原則について,従来の教科書にはほとんど触れられていないたいへん重要な内容なので,その結論は影響するところが小さくない.
 この論争は,質問者の"赤血球を計算板で数えるとき,線に接した血球を数えるかどうかについて教えてください"に対する解答者の出題で,図の枠の四隅にまたがった血球の取り扱いで,解答者の言う"正解が得られれば完全に理解したといえるでしょう"という点から始まっている.

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略語シリーズ

著者:

ページ範囲:P.11 - P.11

Pas stain periodic acid Schiff hematoxylinstain;パス染色.過ヨウ素酸フクシン染色で,組織標本の多糖類の染色法で,糖原,粘液,基底膜,格子維維,コンドロイチン硫酸などが染まる.
PAS pituitary adrenal system;下垂体,副腎皮質系.

医学用語集

著者: 山中學

ページ範囲:P.49 - P.50

 641)潜伏期;incubation
 病原体が人あるいは動物の体内に侵入感染を起こしてから発病に至るまでの期間を言う.潜伏期は疾患の種類により異なるが,それぞれの疾患によりほぼ一定している.多くは潜伏期の間は個体は病的徴候を示さないが,なかには定型的な症状出現の前に一般的な軽い症状(前駆症状)を呈するものもある.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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