icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

検査と技術6巻10号

1978年10月発行

雑誌目次

病気のはなし

アルコールによる肝障害

著者: 藤沢洌

ページ範囲:P.776 - P.784

 常習大酒家に伴いやすい肝障害—いわゆるアルコール性肝障害は,一般に脂肪肝,アルコール性肝炎及び肝硬変の3つの病態に分類されている.寡食による低栄養ないしは食事のカロリー組成のアンバランスを伴う常習大酒家では,ほぼ確実に脂肪肝を発症するが,アルコール性肝炎,肝硬変の発症は常習大酒家の10〜20%にすぎない1〜3).かつては脂肪肝がアルコール性肝硬変の前駆病変として重視され,脂肪沈着による二次的な肝細胞の変性壊死が肝硬変への橋渡しをすると考えられたが,脂肪肝が重症の肝細胞障害を伴って肝硬変へ移行する症例は極めて少なく,また大酒家における脂肪肝の高頻度の発症に比してアルコール性肝硬変の発症頻度が著しく低いという事実から,アルコール性肝硬変の前駆病変としては脂肪肝よりもアルコール性肝炎が重視されるようになった.

技術講座 生化学

カラムクロマトグラフィーによるゲル濾過の実際

著者: 櫻林郁之介 ,   榎本博光

ページ範囲:P.801 - P.808

 化学の歴史というものは言い換えれば物質の分離・精製の歴史ということができると言われているが,それはとりもなおさず,物質の分離・精製がその時代の化学をいかに大きく作用してきたかを物語るものであり,またいかに多くの化学者がそれに心血を注いできたかということでもある.
 ゲル濾過という手法が,そうした化学の分野の中でいかに大きな貢献をなしてきたかを知るのは極めて簡単なことであり,現在でも物質の分離・精製,脱塩,溶媒の交換など多くの目的に使用されているのを見れば納得がいく.

血液

FDPの検出

著者: 高橋郁子

ページ範囲:P.809 - P.811

 何らかの原因があって血管内凝固が起こり,細網内皮系の異常などのために,活性化された凝固因子の除去が不能となったときに,血管内血液凝固障害が起こり,臓器血管などに沈着したフィブリンは,プラスミンの作用によってフィブリン分解産物となる.FDP(fibrin degradation product)とはフィブリノゲンあるいはフィブリンがタンパク分解酵素プラスミンによって分解され,生じた分解産物の総称である.現在ではFDPを測定することは血管内凝固異常,線溶異常,ひいては原因疾患の病態診断,経過観察,治療効果を知るうえで不可欠となっている.
 FDPの測定方法には免疫学的測定方法として,ラテックス凝集テスト,感作赤血球凝集阻止反応,免疫電気泳動法,抗トロンビン作用を利用する方法としてSerial Thrombin Time,パラコアグレーションテストとしてethanol gelation test,protamin sulfate test,ブドウ球菌の特異的凝集性を利用する方法としてstaphylococcal clumpingtestなどが知られている.

血清

トキソプラスマ赤血球凝集反応

著者: 郡司俊実

ページ範囲:P.812 - P.814

 トキソプラスマ原虫の分布は非常に広く,すべての哺乳動物,鳥類の大部分,爬虫類の一部に自然感染が報告されており,宿主特異性の極めて乏しい原虫で,ウイルスと同様生細胞内でのみ増殖し,人工培地で培養することができないとされている.
 トキソプラスマ症は,1908年山あらしの一種から虫体が発見され,その後約30年間は主として動物学者によって,各種の動物から虫体分離などが行われてきた.

測定法の基礎理論 なぜこうなるの?

赤血球浸透圧抵抗と溶血

著者: 川越裕也

ページ範囲:P.785 - P.789

 赤血球は両面凹状の円板を呈し,表面積を拡大させるとともに血管内流動性を高め,組織への酸素供給を便ならしめている.この赤血球が低張塩溶液ないし水に入るとき膨化し球状となり,ついに溶血に至る.赤血球の種々の状態により容易に溶血する場合と溶血し難い場合があり,この低張塩溶液に対する赤血球の浸透圧抵抗性の検査により,赤血球の状態を知ろうとするのが赤血球浸透圧抵抗試験である.ここでは赤血球の浸透圧抵抗を左右する因子について解説し,赤血球浸透圧抵抗試験の一般的な注意事項についても言及する.
 赤血球浸透圧抵抗に関与する因子には赤血球膜の生化学的変化,赤血球の形態及び赤血球内ヘモグロビンがある.これらについて正常状態と病的変化とそれを生ずる場合を考察する.

呼吸器の運動負荷試験

著者: 谷合哲

ページ範囲:P.790 - P.794

 呼吸機能検査には,口あるいは鼻を通して肺内へ出入りする空気の量,すなわち換気(ventilation)の測定をはじめとして,肺内ガス分布(distribution),肺胞膜の透過を示すと言われる拡散機能(diffusion),肺血流(perfusion),換気力学(mechanics)など,ガス交換過程でのいろいろな段階の検査が行われ,ガス交換障害のメカニズムが解明される.それらの検査は一般には安静の状態で行われているが,これに対してこれらの検査を運動している状態で行い,活動状態でのガス交換を把握することにより,より動的な,活動している自然の姿を捕らえようとするのが運動負荷試験である.したがって運動負荷試験は大変意義のある検査と考えられるが,現在までのところその意義づけや方法についてはまだ決定的な段階に達しているとは言えない.そこで本稿においては,運動負荷試験の理論的背景と,現在行われている種々の方法についての特徴について述べることにする.

細胞診染色の理論

著者: 浦部幹雄

ページ範囲:P.795 - P.800

 細胞診の染色は多岐に及ぶが,形態学的観察の代表的染色にパパニコロウ染色がある.この染色の特徴は多彩性を有することである.またギムザ染色及び組織標本の基礎的染色であるヘマトキシリン・エオジン染色もしばしば適用される.そのほかShorr染色も用いられ,これらが主なものであろう.特殊染色としてはPAS反応,Alcianblue染色,核酸の証明法としてはFeulgen反応,アクリジンオレンジを用いた螢光法など,細胞の化学的証明は数多くあるが,それらを列記するには枚挙にいとまがない.そこで今回は通常細胞診に用いられる染色の理論と実際について述べる.

マスターしよう基本操作

分離培地の観察・釣菌・純培養

著者: 小栗豊子

ページ範囲:P.815 - P.822

 集落の観察,釣菌,純培養は細菌検査の中で重要な基本操作である.集落の観察は照明の十分な場所で注意深く行われなければならない.観察するにも肉眼のみに頼らず,時にはルーペを用いるとか,顕微鏡の弱拡大を用いての観察が必要である.釣菌は原則として白金線を用いて行う.先端に用いるニクロム線は細いものがよく,集落に触れる場合には,十分冷却(新しい寒天培地に刺すなど)して用いなければならない.ここでは細菌及び真菌について述べ,マイコプラズマなど特殊な徴生物については省略する.

私の学校

香川県臨床検査専門学校—卒業生の働く職場で実習も

著者: 今井文子

ページ範囲:P.825 - P.825

 私たちの学校は,四国の玄関と言われる高松市のほぼ中心部に位置する保健衛生センターの中にあり,学校のほか成人病センター,保健所などの医療機関があります.
 臨床検査専門学校として発足したのは,1975年4月ですが,その前身には,17年の長い歴史と伝統を持つ衛生検査技師養成所があり,私たちは今多くの先輩の残した歴史を引き継いでいます.

文豪と死

与謝野晶子

著者: 長谷川泉

ページ範囲:P.826 - P.826

 大阪府堺市に生まれた与謝野晶子(1878〜1942)は歌人として詩人として,また与謝野源氏の名で伝えられるように「源氏物語」の現代語訳でも大きな足跡を残した.
 本年がちょうど生誕百年の年に当たっている.そのために,諸所で記念の行事がくりひろげられている.

最近の検査技術

PAM染色による電顕標本作製法

著者: 鈴木克哉 ,   小林恵美子

ページ範囲:P.827 - P.831

 電子顕微鏡による組織学の研究は主に形態学の分野から始められたが,近年,技術的な懸案が漸次解決されるにつれ,更に生体内構成要素の同定,あるいは酵素の局在を形態学的に検索する組織化学的な方法が導入され,成果をあげている.
 PAM染色法は組織細胞内の粘液多糖類(mucopolysaccharide)の選択的染色法であり,腎糸球体などの多糖類の証明に光顕的に用いられた.粘液多糖類の証明法はほかに次のような方法が報告されている(表1).Colloidal iron,Ruthenium red,Phosphotungstic acid,Ferric oxide,Lantheniumnitrate,Alcian blue,Silver proteinate.

知っておきたい検査機器

炎光光度計

著者: 野本昭三

ページ範囲:P.832 - P.835

 基本原理
 金属塩溶液を霧状にして炎の中に噴出してやると熱解離によって金属元素は原子状になり,そこに解離したばかりの原子の多くは最も安定な核外電子配列を持つ構造すなわち基底状態(groundstate)にある.この基底状態の原子に更に熱または光などで,ほかからエネルギーが与えられると核外電子配列はエネルギー準位の高い構造すなわち励起状態(excited state)に変化し,しかも,この励起状態は不安定であるため極めて短時間内に元の基底状態に復帰し,その際,それぞれの元素に特有の波長の光(線スペクトル)を放出する.これを原子発光現象と言い,その光の波長の特異性や,発光強度が元素の存在量に比例することなどが,元素の定性及び定量分析に利用される.

読んでみませんか英文論文

チェジアック-東症候群における血小板の微小管と巨大顆粒

著者: 角尾道夫 ,  

ページ範囲:P.837 - P.839

 臨床的にも検査所見も特徴のあるチェジアック—東症候群(CHS)の小児の血小板が,電顕で検討された,以前にほとんどすべての白血球にみられた異常な巨大顆粒は,末稍血の血小板には余り見出されなかった.円盤状のCHS血小板は,正常な細胞に存在すると同様な環状微小管束を有していた.CHS血小板の微小管は,患者の血小板がコラゲン,寒冷,あるいは冷却と再加温にさらされるとき,正常細胞と同様に反応した.得られた所見は,CHS細胞の機能不全の原因である基本的な異常は,微小管束の欠陥にあるという考えと,対立している.

おかしな検査データ

病理検査の落とし穴

著者: 高柳尹立

ページ範囲:P.840 - P.841

 今回はこの欄で余り取り上げられていない病理検査分野におけるいくつかのトラブルを拾って反省してみたい.
 図1は腟分泌物のパパニコロウ染色標本であるが,悪性と判定できる異型細胞の集団が現れている.その形態から腺癌が示唆されたものの,全視野を探しても1箇所のみで,きれいな背景に検体とやや不相応な異型細胞が現れ,細胞構造が不明瞭なくらいにヘマトキシリンに濃染し,しかもわずかながら周りの細胞と焦点にずれを認めることから疑問が持たれる.そこで同日染色の全標本を通覧すると同様の濃染細胞集塊が何枚かの標本に散見され,標本作製過程における混入と判断された.ヘマトキシリン液中に前日染色の癌性腹水標本の細胞が脱落浮遊し,他標本に付着したものと考えられ,染色液の交換により解決した.このような問題は鏡検者の熟練でチェックできることが多いが,1個1個の細胞単位で診断する細胞診においては極力防止すべきで,技師はいつも染色液を十分管理していなければならない.

検査の苦労ばなし

思い出づるままに—偶感片々

著者: 笠松重雄

ページ範囲:P.842 - P.843

 過去30年を回顧してみると細部の記憶は定かではないが思い出づるままにペンを執った.途中鮮明さを欠く点は御赦しをたまわりたい.編集担当者の御要望は検査室の苦労ばなしでテーマは一任ということであるが,私としては階級絶体主義に貫ぬかれた戦時中の軍隊生活の中で真実の追求が要求された病理試験室勤務の日々に過ぎるものはない.
 私は昭和13年,学業途中で召集を受け近衛師団要員の一人として3か月の短期教育を気球連隊と千葉の陸軍病院で受けた.昭和13年の暮れ野戦予備病院の交代要員として昭和14年の元旦を上海碼頭の倉庫で迎えた.南京の野戦予備病院到着以来約2年間は雑草のごとくあらゆる試練に耐えることを要求された.戦況の膠着化とともに現地に陸軍病院編成が施行された結果,私は鎮江陸軍病院勤務を命ぜられて鎮江に駐屯することになった.当時の病院長は清廉潔白で古武士を思わせるものがあり,業務の分掌についてもよく幹部要員の意見を入れ適切な人員配置を行われた.幹部要員もまた医学に従事中召集を受けた方々で事象の判断についても自由活達な考察を持ち意見の交換を行っていた.

コーヒーブレイク

寝て暮らせはどうなるか?

ページ範囲:P.808 - P.808

 デカンショ節の一節には,半年は寝て暮らす学生生活の喜びがうたわれているようである(多少意味が不明の点もあるが).
 ところで,地上で水平になれば体の長軸(頭から足を結ぶ線)については重力の影響はなくなるわけで,朝は背の高さも少し伸びている.更に,いつも体重を支えている足のうらは空間に浮いているので,眠っているときはよく空を飛んだり,崖から落ちる(いずれも足底に地面のない状態)夢をみることになる.更に一歩進めて無重力の世界となると背腹方向の重力の影響もなくなるわけである.宇宙飛行が100日に及ぶ今日では,その生理的影響もよく調べられているが,要するに骨からはカルシウムが失われ,筋肉からはタンパク質が失われ,血液は薄くなり(血清タンパクやヘモグロビンが減少)というように重力に拮抗して体を支える支持組織は薄弱になり,立ちくらみが起こって立っていられないようになる.宇宙飛行の直後に急に地上に立ったら,立ちくらみで失神していまい,とても,お出迎えの奥さんにキスできる状態ではない.地上でも寝かせたうえ水漬けにすると浮力が働いて,無重力の状態が再現できるのでアメリカの宇宙医学の雑誌には"水浸法"のデータがたくさん報告されている.考えてみれば胎児のときも羊水中で無重力状態だったわけで,このときから立って歩くためには1年の努力を必要としたのである.宇宙船の中でも陰圧発生装置の付いたズボンをはいて,下半身に血液を集め,立ちくらみの鍛錬をしたり,自転車を持ち込んで運動したりの対策を考えるようになってきた.

--------------------

略語シリーズ

著者:

ページ範囲:P.784 - P.784

Q fever Queensland fever;キュー熱.オーストラリアのクインスランドで発見されたRickettsia burnetiによる伝染性疾患.Weil-Felix反応ではOX19,OX2,OXKのいずれも陰性.
 熱,頭痛,白血球増多,肺野の斑状陰影を主所見とする.ダニが媒介すると言われる.
QRZ Quaddel-Resorptionszeit;ドイツ語,膨疹吸収時間.生理的食塩水0.1mlを皮内に注射し,発生した膨疹が吸収されるまでの時間を測定し,皮膚浸透性を調べる.

医学用語集

著者: 山中學

ページ範囲:P.823 - P.824

 821)尿崩症;diabetes insipidus
 抗利尿ホルモン(ADH)の分泌障害により起こる多尿を主徴候とする疾患.口渇,多飲,を伴う.尿量は1日5l以上にも達するが,血清尿素窒素正常,尿に特別な所見を認めない.原因不明の特発性,脳腫瘍や髄膜炎そのほかの器質性病変により視床下部が障害されて起こる症候性,家族的に発生する遺伝性尿崩症に分類される.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?