最近の検査技術
酵素法による血清脂質定量
著者:
松宮和人
ページ範囲:P.243 - P.254
十年前の検査室では,血清の脂質測定は必ず有機溶媒で抽出精製後,ケン化,酸化,発色の行程を踏んでなされていたので,測定には数時間を要した.また,血清脂質の中でもコレステロールの測定が大半を占め,LiebermannまたはKiliani反応を用いて測定していたので,検査室へ入ると強い酢酸臭がしたものである.今日,酵素を用いた血清脂質の定量法が普及し,鉱酸や有機溶媒にさらされることなく,温和な反応条件で,簡易迅速に測定できるようになったことは大きな進歩と言えよう.
酵素を用いて血清脂質を測定する試みは,1954年Stadtman, T. C.1)らによるコレステロールの定量,1962年Kreutz, F. H.2)らのグリセロールの定量に端を発している.その後,1972年Bucolo, G.3)らによる血清トリグリセライドの定量,1973年Richmond, W.4)による血清コレステロールの定量,更に1973年Horney, D. L.5)のレシチンの定量法の報告は,酵素を用いた脂質定量の臨床検査室での実用化に大きく貢献した.これらの進歩の背景には,酵素化学の発達による,従来の動物臓器由来の酵素から,更にバクテリア由来の酵素の利用へと大きな展開があった.例えば,1968年,杉浦6)らによるPseudomonas fluorescensからのLipoprotein Lipaseの抽出,1973年Richmond, W.によるNocardia cellよりcholesterol oxidase(EC 1.1.3.6)の抽出,Flegg,H. M.7)のバクテリアよりのcholesterol dehydrogenaseの抽出,Uwajima, T. 8)のBrevibacterium sterolicumより3-β-Hydroxy steroidoxidase抽出,結晶化,1975年,Pseudomonasfluorescensよりcholesterol ester hydrolase(EC 3.1.1.13)の抽出,精製などである.