icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

検査と技術6巻9号

1978年09月発行

雑誌目次

病気のはなし

ⅩⅢ因子欠乏症

著者: 浮田實

ページ範囲:P.702 - P.705

 Duckertら1)は重篤な出血症状と創傷治癒の遅延を示す2人の兄弟について記載し,本疾患がフィブリン安定化因子(Fibrin stabilizing Factor,FSF)の先天性欠乏に基づくものであることを示した.その後Loewyら2)によって本因子の性質が明らかにされ,1963年に国際凝固因子命名委員会においてⅩⅢ因子として認められた.本邦では鈴木ら3)によって最初の症例が報告されている.Duckertら4)はⅩⅢ因子欠乏症患者の中に凝固活性は示されないが免疫活性を有する,いわゆる異常ⅩⅢ因子血症を報告している.
 後天的にもⅩⅢ因子の減少する症例が報告されている.すなわちLorandら5)は血液疾患患者に,またNussbaumら6)は肝,腎疾患患者の中にⅩⅢ因子濃度の低下している症例を認めている.

技術講座 生化学

初速度分析法の組み立てと実際・II

著者: 溝口香代子

ページ範囲:P.720 - P.724

 酵素を用いた基質の定量
 今回は酵素を用いた基質の定量に初速度分析を適用する場合の条件設定の仕方を,具体例を示しながら解説する.

血液

異常血色素のスクリーニング

著者: 山本きよみ ,   宮地隆興

ページ範囲:P.725 - P.729

 異常血色素が新しい血液疾患として確立されたのは,鎌状赤血球性貧血の原因をPauling1)やIngram2)らにより解明されたことにある.すなわち鎌状赤血球性貧血患者の溶血液を電気泳動して正常者の泳動縞と比較してみると,全く泳動度の異なる縞が観察され,その差異はヘモグロビン(Hb)分子のタンパク部分のグロビンを構成しているアミノ酸1個が正常者のそれと異なって配列されているためであることが明らかにされた.したがって異常血色素はHb分子のグロビンの異常であると定義される.
 正常人のHb分子構造は,ヘム部分とタンパク部分の(グロビン)から構成され,グロビンはアミノ酸のペプチド結合による4種類の鎖の組み合わせで形成される.グロビンの鎖はα鎖と非α鎖に大別され,非α鎖にはβ鎖,δ鎖とγ鎖があり,α鎖と非α鎖の組み合わせ方によりHbの大部分を占めるHbA(α2β2)と微量成分のHbA2(α2δ2)とHbF(α2γ2)の3種がある.

細菌

表皮ブドウ球菌の同定と生物型

著者: 潮田弘

ページ範囲:P.730 - P.736

 表皮ブドウ球菌(以下S. epidermidisと記する)は空気中,水,ごみなどあらゆる生体外の場所に,またヒトや動物の皮膚,鼻・咽腔粘膜,腸管内にも生息し,自然界に広く分布している.S. epidermidisは一般に菌力が低く,起病性が黄色ブドウ球菌(以下S. aureusと記する)に比して弱いと考えられ,それだけに軽視されがちである.しかしながら,近年,各種臨床材料からの本菌の検出率が上昇傾向にあり,Opportunisticinfection(日和見感染と訳されている)とのかかわりも考えられ,注目されてきている.
 清水1)の報告では昭和30年台にはS. aureusが主体で,S. epidermidisはその10%ぐらいであったのが,昭和40年台後半からS. aureusとほぼ同程度に検出されており,この傾向は多くの施設で認められている.これは単に感染症の原因菌の変遷といったものではなく,様々な要因がおりなすための結果と考えられる.

測定法の基礎理論 なぜこうなるの?

不規則性抗体の測定

著者: 小島健一

ページ範囲:P.706 - P.712

 血液型抗原に対応する抗体のうち,例えばA型の人にみられる抗Bのように,免疫刺激なしに正常の人にみられる抗体は正常抗体または規則性抗体と呼ばれる.これに対し,ABO式以外の血液型抗原に対する抗体はすべて通常はみられないため,不規則性抗体(irregular or unexpected antibodies)と呼ばれる.
 不規則性抗体の存在は免疫刺激とは必ずしも関係なく,自然抗体と免疫抗体とがある.例えば,大半のP2の人にみられる抗P1は4℃を至適とする抗体で,ほとんど正常抗体に近い.他方,抗Rh抗体は免疫刺激によって産生される抗体である.

脳波の賦活試験

著者: 本間伊佐子

ページ範囲:P.713 - P.719

 脳波は脳の活動電位を増幅し記録したものであるから,脳の機能をよく現す検査として広く応用されている.脳波の波形は単純でなく,絶えず変動しており,脳の疾患によっては特異的な波形を現すことが知られている.正常成人の脳波はα波とβ波からなり,割合に規則正しい律動性のある波形を示しているが,個人差も大きく,外界の刺激に応じて敏感に反応して変化する.
 脳波検査は通常,覚醒,安静,閉眼状態で記録するが,その状態においても絶えず外界から種々の刺激が加わっているから,それらに反応して絶えず変化しているわけである.

マスターしよう基本操作

光電光度計の点検

著者: 水野映二

ページ範囲:P.737 - P.744

 臨床化学検査の80%以上が光電光度計で測定している.高頻度に使用することから無意識に取り扱っていることが多い.精密な装置は手入れを怠れば不調や故障はまぬがれない.いったん故障が起これば業務に大きな支障を与え,それを理由に検査をストップできない厳しさがある.したがって日常検査を実施するに当たって,このような機器は常に最高の状態に整備点検されている必要がある.例として,精密型光電分光光度計に日立124型をあげ,普及型光電分光光度計に日立100型(デジタル式)をあげて,構成順を追って説明する.

私の学校

愛媛県立臨床検査専門学校—小所帯で家庭的

著者: 坂本佳子

ページ範囲:P.747 - P.747

 国鉄松山駅にほど近い愛媛県生活保健ビルの一角に,私たちの学校はある.教室が3室,実習室が3室,ほかに事務室,図書室,ロッカー室がそれぞれ1室など.これで分かるように非常に小規模な学校である.生徒数も少なく各学年に15名ずつ.3学年合わせてもたった45名,小学校の一クラスほどである.そこで,人数が少ないからと言って,困ることがあるかと言うとそれはない.かえって気持ちも通いやすくまとまりやすい,といった具合で,いつも家庭的なムードでいっぱいである.とは言うものの,3学年がそろって行動する機会はめったになく,その中でも夏休み前の"夏期鍛練"は非常に重要なものになっている.全員でテントを張ったり,食事を作ったり,一緒に寝起きすることによって親睦を深めようというものである.少し堅苦しいように想像されたかもしれないが,実のところそうではなく,私たちにとってはほんとうに楽しい集いなのです.
 さて次に各学年の説明へと移っていこう.まずは一学年.一般教養的な講義中心の時間割りで,座っていることが多い.それに高校時代とは違い1時限が100分ということもあって,毎日が退屈で退屈でしようのないころである.でもこの時期が一番楽しめる時期であることを知っているのは,上級生ばかり.当の本人たちは,そういう実感もなくいつの間にか1年を送っていくのである.

文豪と死

チェホフ

著者: 長谷川泉

ページ範囲:P.748 - P.748

 チェホフ(1860〜1904)は南ロシアの港町のタガンログ生まれの戯曲家・小説家である.短編小説に珠玉のような作品を残し,日本の文壇にも大きな影響力を持った.
 雑貨商の三男,家の破産,モスクワ大学医学部に入学したが,今でいうアルバイト学生で,雑誌や新聞にコント類を書きまくるという波瀾に富んだ半生であった,チェホフの生命を奪った結核は,そのためか,大学卒業の年から発病を見ている.

最近の検査技術

プラスミン活性測定法

著者: 山本順一郎 ,   岡本歌子

ページ範囲:P.749 - P.758

 様々な生理的,病理的状態で線溶活性が変動することはよく知られている.ここでは多岐にわたる線溶活性測定法のうち,主として最近改良の著しい測定法及び新たに開発された測定法について述べたい.
 線溶系の測定法は全因子を含む系を用いて,総合的な線溶の亢進あるいは抑制状態の把握を企図するものから,単一の因子の測定法に至るまで多岐にわたっている.全血あるいは血漿塊溶解時間測定法1),フィブリン及びフィブリノゲン分解物測定法2)などは前者に属し,プラスミン活性及びアンチプラスミン定量法などは後者に属する.希釈血,希釈血漿あるいはユーグロブリン分画を用いる測定法は前記二者の中間に属するものと言えよう.総和としての線溶活性の測定は,線溶系の亢進あるいは抑制状態を知るうえに重要である.加うるに生理的,病理的過程への線溶系の関与を更に詳細に理解するためには個々の因子の動態の把握が望まれる.ここでは線溶系の総合的な状態を把握するための測定法は割愛し,プラスミン及びプラスミノゲンの定量法に限り述べることにしたい.

知っておきたい検査機器

浸透圧計

著者: 鈴木明 ,   斎藤正行

ページ範囲:P.759 - P.762

 体液の浸透圧測定は,体内の水・電解質バランスを知るうえで欠くことができない検査として,我々の病院では日中の電解質測定の25%に,日中至急とか当直検査の15%に,つまり1日約100件の依頼がある.したがって最近は完全自動の機器まで誕生してきている.以前はこの主導権を握るナトリウム(Na)を測定すれば,ほぼ推定されるとされていたが,今日の高度の医療では,Na,クロール(C1)のほかに,浸透圧を左右する因子も多い.例えば体内で高血糖や高窒素血症が展開するときに起こるDelusional hyponatremiaや高脂血症,高タンパク血の水分の含量に関係して発生するDisplacement hyponatremiaといったPseudohyponatremiaの場合,浸透圧を測定しないと,間違ってNaを補液し,医原性の脱水症を惹起させてしまう.また,尿の浸透圧データなしでは,腎の正しい濃縮力を知ることはできないとも言われている.したがって,手術,点滴,輸血,多尿,乏尿,下痢,嘔吐時には,緊急検査としても頻々と依頼される.
 幸い電子技術の進歩により,現在では体液浸透圧測定は,そう難しい検査ではなくなったが,電解質検査(特にNa,K,Cl)と同様に,そのデータには高い精度が要求されるから,測定も十分な注意のもとに行われなければならない.

読んでみませんか英文論文

DNA組み替え研究と諸君

著者: 角尾道夫 ,   ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.763 - P.765

 DNA組み替え:Crickにより提案された中心ドグマ学説は,遺伝情報は実在のDNA分子から結果としての表現形タンパクへの流れだと,記述している.この学説のあるメカニズムは最近変更されたが,DNAとタンパクとの関係は一般に次のように総括される.DNA-(転写)→RNA-(ほん訳)→タンパク.実験室におけるDNA組み替え技術は,多くの自然に発生する生物過程を変化させる.一つあるいはそれ以上の異なったDNA鎖の導入(遺伝子復合体の中に組み込まれた)は,細胞,器管,器管系のある性質を変えるかもしれない.細菌は本質的には同じだとしても,病原性,代謝,代謝交換のような特徴は変わるかもしれない.自然界において,DNA鎖は染色体の部分にあり,染色体でのこの物質の交換は交差の際に起こる.第一前期の減数分裂では染色体は二倍体の状態でキアズマあるいは交差が認められる.結果として染色体上での遺伝子の交換から,組み替えられた減数分裂産物が生じる.

おかしな検査データ

血清無機リン値変動の追跡—副腎ステロイド剤による血中IP値の変動

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.766 - P.767

 1.発 端
 私たちの生化学検査室で時々臨床全科に各項目の精度に関する意見をアンケートしているが,その中にある内科から最近無機リン(IP)の値が変動するというクレームがあった.
 IPの担当技師はびっくり仰天,x-R管理図を提示してきちんとした管理ぶりを強調して,時期的にいつごろのことかを尋ねた.その結果,最近始まったことでなく,数年前から時折不明の変動があり,臨床的意味づけに困ることがあるということを確かめた.そこで原因を追究すべく,臨床側の協力を得てカルテ調査を開始,たしかにコンスタントな値を示しているIPが,突然低値を来している例を何例か発見した.

検査の苦労ばなし

検査技師になって20年

著者: 金城幸永

ページ範囲:P.768 - P.769

 私は1957年(昭和32年)7月"三級細菌技術職,コザ病院勤務を命ず,技手補に補する,4等級1号給を給する"ということで3,100B円の琉球政府立コザ病院試験室勤務の公務員になりました.コザ病院とは今の沖縄県立中部病院の前身で,当時は沖縄が米国の統治下にあり,一つの国の系体をとり琉球政府と呼ばれておりました.日本語を共通語とし,日本本土で使用している文部省選定教科書により教育がなされながら,通貨は異なり,本土と自由に交流することができず,そうかといってアメリカ合衆国と自由に交流することもできない変則的な状態でした.医療,公衆衛生に関する行政指導はすべてUSCAR(United States Civil Adrministration of the Ryukyu Islands琉球列島米国民政府)によってなされておりました.琉球政府は民政府の配下にありながらも本土法に倣い独自の医療関係立法がなされ完璧とは言えないが,一応法大系が整備されておりました.
 コザ病院は,一般病床180床,結核病床76床の開放性病院として運営されており,24時間救急と不採算部門を担当することで,結核に重点がおかれ,肺結核の外科手術が中心的業務でした.診療科のほとんどは病院周辺の契約医により診療がなされ,また,入院管理がなされておりました.病院試験室(検査室)とは,病院を利用する患者の一切の臨床検査をサービスするシステムであります.当時開発されている臨床検査については,すべて実施に移すよう努力するのが技師の役目とされ,個人の能力あるいは試験室自体の能力を最大限に発揮するよう先輩たちに指導されたものです.新しい技師は先輩たちに追い付くための努力を重ねたものです.

コーヒーブレイク

同姓同名の間違い

著者:

ページ範囲:P.719 - P.719

 検査室では同姓同名の患者の検体が出て,しばしば間違って報告される.婦人科,小児科にこのことが多い.特に,小児科の一卵性双生児では,同名でなくても,一郎,二郎となると,年齢も主治医も同じであるので,その間違いははなにだしい.

アメリカ産のさくらんぼ

著者:

ページ範囲:P.762 - P.762

 アメリカ産のさくらんぼが輸入されると聞いて喜んだ.一度,皆んなに食べさせてやりたいと思っていたからである.
 アメリカ西海岸,特にオレゴン州は,その特産地で,あの濃紫色のみずみずしい拇指頭大の大きなさくらんぼは,小生のアメリカ留学中の好物であり,日本で味うことのできないほどの何とも言えない甘さがあった.1ドル(当時は1ドルは360円)も買えば,袋にいっぱいあるし,冷蔵庫に冷やしておいて食べた味は忘れられない.カラー写真にとって帰って,これがアメリカで最もおいしい果物でしかも安いと言って説明していた.

--------------------

略語シリーズ

著者:

ページ範囲:P.712 - P.712

PSS progressive systemic sclerosis:全身性進行性硬化症.全身性強皮症(汎発性強皮症)sclerodermaと同じ.四肢末端に始まり皮膚の腫脹,硬化,萎縮が全身に及ぶ膠原病の一つ.
PSW psychiatric social worker,精神科医学ソーシャルワーカー.特に精神医療体系のなかでソーシャルワークに当たる人.

医学用語集

著者: 山中學

ページ範囲:P.745 - P.746

 801)難聴;hardness of hearing, deafness
 聴覚の低下した状態を言う.蝸牛神経の障害による神経性難聴と,内耳,外耳道,耳管閉塞などによる伝音系難聴がある.この鑑別は音叉試験が用いられ,気導と骨導の両方の検査から,その障害部位の推定が可能である.最近先天性または進行性の神経性難聴を特徴とし遺伝関係の明らかな一連の症候群が見出されている.器質性難聴のほかにヒステリー性難聴がある.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?