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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術7巻4号

1979年04月発行

雑誌目次

病気のはなし

脂肪肝

著者: 鈴木宏

ページ範囲:P.280 - P.285

 脂肪肝は肝細胞内に中性脂肪(ほとんどの場合トリグリセライド)が蓄積した状態である,通常は肝生検(あるいは肝剖検)の組織標本で,中拡大の顕微鏡下で1視野に見られる肝細胞の半数以上に脂肪滴の見られる場合に脂肪肝と呼んでいる.それ以下の場合には脂肪化(fatty metamorphosis)あるいは脂肪浸潤(fatty infiltration)と呼んでいる.一般に脂質含有量が乾燥重量の約10%以上になると組織学的に脂肪滴として認められるようになる.

技術講座 生化学

総コレステロールの定量法

著者: 向井正彦

ページ範囲:P.304 - P.308

 コレステロール(cholest-5 en-3 β-ol)は血清中では約70%が3位の水酸基がリノール酸やオレイン酸などの脂肪酸と結合したエステル型,約30%が遊離型であり,リポ蛋白として存在する.コレステロールの反応の多くは3位の水酸基,5,6位の二重結合あるいは7位の炭素に由来すると言われる.測定方法は歴史的には重量法,滴定法,比濁法,螢光光度法,紫外部吸収法などがあり,更に分離分析としての薄層クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーによる方法があるが,日常臨床検査としてはほとんど用いられず,日常検査法はもっぱら分光光度計による比色分析が行われている.
 比色分析としてはLiebermann-Burchard1)による強酸によるコレステロールの呈色反応に基づく種々の化学反応と,Richmond2)によるコレステロールオキシダーゼを用いた方法に基づく酵素法とがある。最近では酵素作用の特異性,方法の簡便性,反応条件の緩和なこと,したがって自動分析への適用が比較的容易であること,更に作業環境や排水処理の問題点が少ないことなどの理由により,酵素法が化学反応をしのいで広く日常臨床検査に利用されている.

血清

梅毒の血清学的診断法II—脂質抗原試験(その1)

著者: 菅原孝雄 ,   山屋駿一 ,   笠松重雄

ページ範囲:P.309 - P.318

 脂質抗原試験の発達
 脂質を抗原とする梅毒血清反応は,1906年Wassermannらが,先天梅毒児の肝臓水抽出液を抗原とした補体結合反応を実施して以来,今日に及んでいる.Wassermannが抗原液として先天梅毒児の肝臓抽出液を用いたのは,このような組織抽出液には,抗原となるべきTreponema pallidum(TP)が多量に存在しているからであった.
 ところが,その後の研究で,この抗原物質は,梅毒に感染しない正常な肝臓にも含まれることが分かり,アルコールに可溶性であることも判明した.

生理

睡眠賦活法

著者: 星昭輝

ページ範囲:P.319 - P.326

 臨床脳波検査では,被検者が覚醒し心身ともに安静で閉眼した状態の脳波記録,すなわち安静閉眼時記録(resting record)が判定の基礎となっている.しかし,安静閉眼時脳波において異常所見が認められない場合にも睡眠状態やある種の刺激,負荷が被検者に加わった際の脳波記録では異常所見が出現することがある.このように安静閉眼時には認められなかった異常所見を新たに誘発する目的で行われる操作を脳波の賦活(activation)と言う.
 脳波検査室においては一般にルーチンの賦活法として開閉眼,閃光刺激,過呼吸が行われ,更に必要に応じて本稿のテーマである睡眠賦活(sleep activation)や痙攣誘発剤の投与などが行われている.睡眠賦活は総合的にみると,現在最も優れた脳波賦活法である7)とも言われているが,これには自然睡眠(natural sleep)によるものと睡眠誘発剤による誘発睡眠(induced sleep)とがある.

測定法の基礎理論 なぜこうなるの?

ラジオイムノアッセイ

著者: 鳥塚莞爾 ,   小西淳二

ページ範囲:P.287 - P.292

 ラジオイムノアッセイ(radioimmunoassay;RIAと略称される)は1959年YalowとBersonによりインスリンの測定法として初めて開発された画期的な測定法である1).以来20年この方法はインスリンのほか種々のペプチドホルモンや非ペプチドホルモンの測定にも広く用いられ,内分泌学の著しい進歩をもたらしている.更に最近ではホルモン以外の蛋白や小分子物質の測定にも応用され,血清蛋白成分や種々の薬剤,酵素,ウイルス抗原,腫瘍抗原,環状ヌクレオチドなど広範囲に及んでいる2,3).このように多くの物質の測定に応用可能である点に本法の有用性があり,今後ともますますその測定対象は拡大されるであろう.このような本法の特性は抗体の持つ免疫学的特異性に基づいており,本法では放射性同位元素で標識した物質と標識されていない物質が,その物質に対する抗体に対し競合して反応する事実を利用している.その後抗体の代わりにホルモン(またはビタミンなど)と特異的に結合する蛋白を用いた競合的蛋白結合分析法(competitive protein binding assay;CPBA)が開発され,また抗体の代わりにホルモン受容体を用いる測定法も導入され,放射受容体測定法(radioreceptor assay;RRA)と呼ばれている.これらはいずれも一定の結合部位に対する放射性標識物質と非標識物質の競合反応を利用する測定法という点で原理的には同じであるので,今日では競合的放射アッセイ(competitive radioassay)と総称されている.したがってラジオイムノアッセイの原理を十分に理解することは,これら他のアッセイの理解にもつながるわけである.そこで以下本法の原理と特徴,その成立条件などとともに測定上の注意点などについて述べることとする.

ファージ型別の原理と応用

著者: 島田俊雄 ,   坂崎利一

ページ範囲:P.293 - P.297

 バクテリオファージ(あるいは単にファージ,または細菌ウイルス)は細菌を宿主とするウィルスで,いろいろな種類があり,ある範囲内で特定の菌株のみを溶菌する性質すなわち宿主特異性を持っている.バクテリオファージを用いて細菌を細分することをファージ型別という.分類学的には同じ種(species)あるいは同じ血清型(serovar)の菌でもバクテリオファージに対する感受性によってしばしばさらにこまかく区別されることがあり,このようなファージによる区分をファージ型(phagovar)という.たとえば,チフス菌はすべて単一の血清型で,生化学的性状や抗原性は全菌株に共通しているが,チフス菌に特有のファージを用いることによってそれらはさらに97種類もの型に細分することができる.
 細菌をファージ型に分けること,すなわちファージ型は主として疫学の研究および調査の面で,その病原体の伝播経路と感染源を追求するために応用される.

肺拡散能

著者: 加藤幹夫 ,   三嶋理晃

ページ範囲:P.298 - P.303

 肺は体内へのO2の摂取,体外へのCO2の排出という,生命に欠くべからざる機能を持っている.さて,この呼吸機能は,①肺胞気と空気との間でのガス交換(換気)*1,②肺胞気と肺毛細血管血との間のガス交換,③肺内での血液の循環(肺循環),の主に三つの過程によって営まれている.
 さて,②すなわち,肺胞気から血液へのO2の摂取,また,血液から肺胞気へのCO2の排出は,もっぱら拡散という物理的現象によって行われている.以前は細胞膜におけるNa-Kポンプと同様,能動輸送によってガス交換が営まれているという説もあったが,Kroughらによって,このO2分泌説が否定されて以来,物理的拡散が定説になってきた.ところで,CO2の拡散能はO2の拡散能の約20倍もあり,拡散速度のCO2排出に及ぼす影響は,O2摂取に及ぼす影響ほどには重要に考えられてはいない.これに対して,生体外から細胞に至るO2運搬経路の中で,肺胞気から赤血球に移る間のO2分圧の差が最も大きく,拡散速度はO2摂取量を規定する重要な因子となっている.各種の呼吸器疾患の中には,この拡散能力の低下がその病像の特徴を形づくっているものもあり,拡散能力の測定は,臨床診断のうえで大きな意味を持つ.ここでは,まず拡散能力の定義,意味づけについて述べ,次に具体的な測定方法の原理,手順,問題点などについて詳しく触れたいと思う.

マスターしよう基本操作

真菌検査法

著者: 小林種一

ページ範囲:P.327 - P.334

臨床検査室で微生物検査に携わっている者は,真菌類に考慮を払わないで作業を行うわけにはいかない.細菌の培養を目的として,血液寒天やTGC培地を用いると,それに真菌が発育してくることがある.喀痰,尿,腟分泌物などは,真菌類の混入の多い材料である.例え細菌検索の目的で提出された材料であっても,思わぬ病原真菌を検出することもある.したがって真菌検査の要領を会得しておくことは大切である.
ここでは,趾間白癬や爪白癬の原因となる皮膚糸状菌を中心にして,直菌検査の大要について解説する.

私の学校

国立大阪南病院附属臨床検査技師学校—全校あげての"臨検祭"

著者: 増田一吉

ページ範囲:P.337 - P.337

 私たちの学校,国立大阪南病院附属臨床検査技師学校は,大阪の南部,河内長野市にあり遠く金剛の峰々を望める学習環境に適した所にあります.
 さて本校は全学生数90名,各学年30名という非常に小さい学校ですが,校舎は4階建てのりっぱな建物です,今回は特に我が校での学生生活について紹介したいと思います.授業は9時〜4時までみっちり詰まっており,午前中1教科,午後1教科に分かれています.

最近の検査技術

Immunofixation電気泳動法

著者: 大竹皓子

ページ範囲:P.339 - P.346

 Immunofixation電気泳動法(IFE)とは,支持体に塗布した試料を電気泳動して分離した後,支持体上に直接抗血清を作用させて抗原抗体反応による免疫固定を行い,支持体に固着された不溶性の免疫複合物を染色して検出する方法である.この方法は抗原抗体反応を基本にして,微量の抗原を鋭敏かつ特異性をもって迅速に検出するために考案された方法と言える.電気泳動法と免疫反応を組み合わせた検査法としては,Grabar-Williams免疫電気泳動法(IEP)をはじめ,Crossed-Immunoelectrophoresisのような定量的免疫電気泳動法の類があるが,従来のこれらの方法に比べて,IFEの特徴としては,抗原は電気泳動された位置に拡散せずに固着されるため,電気泳動の分離条件が良ければ非常にシャープな線として泳動位置に検出される,検出感度が極あて鋭敏である,支持体としてはアガロースゲル,セルロースアセテート膜(セ・ア膜),デンプンゲル,薄層ポリアクリルアミドゲルなども適用できる点などがあげられる.
 にAlperら1)がアガロースゲルを支持体とするIFEの原理と応用について報告して以来,血清,尿,髄液中のM蛋白の同定や遺伝的多型を有する蛋白の検索などに非常に有効な手段として注目されてきた2〜11).日常検査では特に血清蛋白異常症の迅速な分析方法として実用的であると考えられる.

知っておきたい検査機器

遠心高速分析機

著者: 川出真坂 ,   安部彰

ページ範囲:P.347 - P.350

 Centrifugal Fast Analyzer(遠心高速分析機)は1969年Andersonの指導の下に米国のUnited States Atomic Energy Commisionにより開発された化学分析装置で,既に10年の歴史を経たことになる.現在米国で後述する4機種が発売されている.それぞれ特徴があるが,その測定原理は同一である.図1は最新型のRotochem IIa 36型の全景を示した.

読んでみませんか英文雑誌

検査室でのサラセミアの検出(前号より続き)

著者: 野本昭三 ,   P.F.Milner

ページ範囲:P.351 - P.353

 サラセミアの型(各種)—サラセミアの型については,Weatherallらによって適切に要約されており,α鎖あるいはβ鎖のどちらが不十分に合成されているかによって,α-サラセミアとβ-サラセミアの二つの主グループに分かれる.

おかしな検査データ

胆汁の培養検査でのまれな菌の検出例

著者: 村瀬光春

ページ範囲:P.354 - P.355

 臨床材料から分離される菌種のうちで分離頻度の多いものは大腸菌,クレブシエラなどの腸内細菌である.しかし,日常検査では余り遭遇しない腸内細菌もある.もしこのような菌に遭遇したならば成書を参照しながら検索を進めていく必要がある.
 今回は,おかしなデータということではないが臨床材料から分離されることが比較的まれであると思われる腸内細菌の一種を胆汁から分離したのでここに紹介する.

広がる技師の職場

財団法人 岩手県予防医学協会

著者: 栗原耿

ページ範囲:P.356 - P.357

 1.その設立
 48の各都道府県には,その地方の実情に応じた様々な検査検診機関があります.対がん協会,結核予防会,成人病予防協会等々.
 各地にあります予防医学協会または予防衛生協会という組織も,そのような広く県民全体を対象とした検査検診機関の一つで,がんとか結核というように検診内容を限定せず,主に臨床検査全般を,日常健康と思って生活している種々の集団に対して実施し普及させている機関です.

トピックス

生体組織の水—その診断と治療への可能性

著者: 松原実樹雄

ページ範囲:P.338 - P.338

 水は生物にとって欠くことのできない重要な物質である.その主たる役割は生物が生命を維持し,発展させてゆくために必要な生体内の化学反応や物質移動の媒質となっていることであるが,単にそれだけでなくもっと積極的な役割をしていると考えられている.例えば,蛋白質の活性発現に重要な三次構造は側鎖間の疎水結合によるが,この疎水結合は水が三次元の網目構造を有することに起因している.このことは生体中の水の役割をその構造の観点から研究することの必要性を示している.一般に生体中の水は細胞壁や生体高分子との相互作用により熱運動が遅い.すなわち,純水よりも構造化している(このような水を結合水と呼ぶ).これに対して熱運動が束縛されていない水を自由水と呼ぶ.
 近年になって生体系の水の機能をその構造と関連づけて研究しようとする気運が生まれてきた.その背景には物理化学の一つの研究領域である溶液論の進歩があったことは否めない.これまでに食品(これは生命活動を失った生体系である)中の水に関しては多少の研究があるが,医学・生物学に直結した生体組織の水の研究はまだほとんどない.

コーヒーブレイク

"患者を診る"とは

著者:

ページ範囲:P.285 - P.285

 ある日,某医から一人の患者の精密検査を依頼された.おおよその症状は,紹介医から聞いていたので,いきなり検尿を始め,諸検査のための採血,出血時間,凝固時間,毛細管抵抗,心電図,胸部X線などの検査をした.予定した検査を終了してから,後日主治医に,本日の検査結果を報告するから,もう帰ってよろしいと告げると,患者は不審そうな顔をして"先生,私はまだ先生に診てもらっていない"と言った.
 "聴診器などで診るより,より多くの検査をしたのだからもう診る必要はない"と言って反撃しようと思ったが,それでは平素言っていることに矛盾するので,とっさに反省し,型どおりに,アナムネーゼを聞き,視診,聴診,打診,触診をし,血圧を測定した.驚いたことには,腹部が著しく膨満し,腹水が証明された.筆者の驚きの顔とは反対に,患者はようやく安堵の顔をして帰って行った.

一流の職人

著者:

ページ範囲:P.346 - P.346

 我が家は大食漢が多いせいか,子供をはじめよく口内炎を起こす.その治療薬としてピオクタニン(紫色の色素)を,いつでも100ml入りのびんに入れて準備している.ある日,びんが倒れ,家内の晴れ着にかなり大量のピオクタニンが付いた.もう着物としては役立たないと思っていたところ,知人の紹介で,ある染み抜き家さんを訪ねてみることになった.
 とても小さな古ぼけた典型的な京都の古い家で,外からは何をしているか分からないような家であった,"こんにちは"と数回となえて,ようやく出て来られたのは,人の良さそうなおじいさんであった,ピオクタニンと言っても分からないので,紫色のインクのような物が付いたと言って差し出すと,とにかくやってみるから1か月間預からしてくれということであった.

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略語シリーズ

著者:

ページ範囲:P.292 - P.292

T3 triiodothyronine;トリヨードサイロニン.甲状腺ホルモンの一種で,サイロキシンより強力である.(→TIT)
T4tetraiodothyronine, thyroxine;サイロキシン.甲状腺ホルモンの主なものである.

医学用語集

著者: 山中學

ページ範囲:P.335 - P.336

 941)ビルガー病;Buerger's disease
 青壮年男子の下肢に好発し,再発を繰り返す亜急性,非特異性,非化膿性炎症性の四肢慢性動脈閉塞疾患で,阻血の程度によって,しびれ感や,安静時疼痛,間歇性跛行などで初発し,更に血行障害が進めば難治性の自発性脱疽の状態となる.原因は感染,中毒,アレルギーが疑われているがなお明らかでない.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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